は行 は  作品別 内容・感想

誰もわたしを倒せない   6点

2004年05月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 後楽園のそばで刺殺死体が見つかった。所持品は無く、身元不明。しかし現場にいたプロレスファンの刑事が、プロレスラーでマスクマンのカタナという選手ではないかと指摘する。さっそく新東京革命プロレスに問い合わせてみるものの、そのカタナというレスラーにはある秘密が隠されていた・・・・・・
 プロレスを真っ向から取り上げた本格格闘連作短編ミステリ。

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<感想>
 今までプロレスを取り扱ったミステリーというものは数少ないながらも存在した。そんな中で本書は、まさに“今”のプロレス界に真っ向から取り組んだ快心作であるといってよいであろう。著者が感じているプロレスに対する思い、そして矛盾、そういったものをミステリーを介することによって読者に伝えんとしている作品となっている。この心意気は是が非でも評価したくなってしまうところである。

 しかし本書をミステリーのみとして見ると、本書に対する評価は弱くなってしまう。全体的な構図もわかりやすいし、各短編でのミステリー・トリックもごく平凡といったものである(ただし、とある一編における仕掛けには、うまく引っかかってしまったのだが)。

 よって、本書は万人向けのミステリーという感じはしない。あくまでもプロレスファンに向けるミステリーという気がしてしまうのだ。しかし、逆にプロレスファン以外で本書を読んだ人の感想というものを是非とも聞いてみたいものである。


死闘館  我が血を嗣ぐもの   6点

2010年06月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 仕事に行き詰まりを感じていた刑事の城島は、かつて事件で知り合ったニュージーランドの格闘家ガトロに誘われたのをきっかけに、思いきって有給をとりニュージーランドへと旅立った。城島はレジャーを楽しむつもりであったが、ガトロに連れられて到着した場所は山奥に建てられていた日本家屋。そこで格闘技一族の創始者が自分の権力と財産を集められた者のうちのひとりに譲るというのである。奇怪な状況に巻き込まれた城島であったが、やがて一族の財産をめぐる殺人事件へと発展してゆくこととなり・・・・・・

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<感想>
 著者にとってはデビュー作「誰もわたしを倒せない」以来、6年ぶりとなる2作品目。とはいえ、いくつかのアンソロジーで短編作品は目にしてきた。伯方氏の印象としては粗削りながら豪快なミステリを書くという印象。よって、今作も楽しみにしていたのだが・・・・・・

 結論としては微妙な作品というところ。クローズド・サークルの状況を作り、本格ミステリっぽい展開には持ち込んではいるものの、読んでいてミステリという感じがしなかった。提示される謎や状況があいまいで、ミステリとしてのきちんとした構成がとれていなかったように思える。

 そうすると伝奇風というか、格闘技小説っぽい部分だけが残るのだが、そちらに関してもきちんとは書かれてはおらず惹き込まれるような部分はほとんどなかった。伝奇風小説にしては筆力が足りず、ミステリ作品としては構成力が足りなかったという印象。とりあえず、ミステリ部分は置いておくとして、まずは読者を引きつける設定と文章力が欲しいところである。


ガチ!  少女と椿とベアナックル   6点

2013年02月 原書房 単行本

<内容>
 宝来尽子(つくし)は、あと数か月で高校を卒業するところであったが、父の死に見舞われる。尽子の父はプロレスラーであり、試合後に急性心不全により死亡した。しかし、宝来の付き人であった吉野は先輩レスラーの死に不審を抱き、尽子と共に真相を調べ始める。すると、その背後に少女連続殺人事件が浮き彫りとなり・・・・・・

<感想>
 最初に税関の職員が出てくる場面があるのだが、これは余計じゃないかと思っていたのだが、この職員が後から思いもかけぬ形で物語に入り込んできたことには驚かされた。部分部分で無駄なように感じられるところがあるように思えたのだが、全てが終わってみれば、きっちっとそれぞれのところに収まっており、きっちりと作り込まれていることに気付かされる。

 プロレスラーの死を巡る真相、プロレスラーという職業に迷いを感じながらも己の道を突き進もうとする青年、父親の生き様を見定めようとする少女、そして少女連続殺人事件。この他にも話が進むにつれて、さまざまな方向へと物語が広がって行くこととなる。しかし、最後には闘いで全てに決着をつけようと、青年と少女の無謀と思われる賭けがなされることとなる。

 このように内容を書いていくと、荒削りの作品のようにも思えるのだが、実際にはきちんと一つの物語として収まっていたように感じられた。ミステリとしても、思いもよらぬ展開を挿入したりと、きちんとつくり込まれていた。やや、ライト系ながらもそれなりに読ませてくれる物語。


しゃばけ   

第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作
2001年12月 新潮社 単行本
2004年04月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 薬種問屋のたった一人の跡継ぎである一太郎はめっぽう体が弱かった。そんな様子をはかなんでか一太郎が幼い頃、祖父は一太郎の面倒を見るようにと二匹の妖怪(犬神と白沢)を奉公人として付ける。その一太郎には何故か他の人たちには見えない妖怪を見る力が生まれながらに備わっていたのだった。
 そしてある日、一太郎はとある殺人事件に巻き込まれることに。その事件はやがて薬屋を狙う事件へと発展して行き、一太郎自身までもが狙われる羽目に・・・・・・

<感想>
“なさけない病弱の主人を妖怪たちが助ける”というあらすじを見て、これは面白そうと思い購入してみた小説。その予想を裏切ることなく、主人公と妖怪たちとの交流が微笑ましい小説となっている。ただ、主人に付き従う主となる妖怪の“犬神”と“白沢”という2匹の妖怪がいるのだが、肝心のこの2匹の設定がわかりづらい。もう少し、この2匹の設定をきちんとしていれば、キャラクター小説としても栄えたのではないかなと感じられた。

 本書ではミステリー的な要素として、連続薬屋殺傷事件というものが取り上げられている。これに主人公らが巻き込まれてゆくのであるが、設定としてどうであろうかと感じるところがある。どういうことかといえば、せっかく人間界に妖怪たちが舞い降りているという設定であるのに、それを妖怪の世界による事件としてしまうのはどうかなと思うのだ。ここはやはり、人間界という設定を主において、ほどほどに妖怪というものを絡めたほうがいいと思うのであるがどうであろう。

 とはいうものの、元々この本はミステリー分野というわけでなく、ファンタジーノベルとして扱われているのだから、そんな小難しいような注文をつけるのは間違っているのかもしれない。少なくとも楽しい小説としてでき上がっているのだから、細かい分野などにこだわらず、広く多くの人に読んでもらうのが良いのだろう。


百万の手   6点

2004年04月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 中学生の音村夏貴は友人の家が炎に包まれているのを目撃し、友人を助けようと炎の中に飛び込むも、救うことができなかった。目の前での友人の死に嘆き悲しむも、夏貴の携帯電話に突然、死んだはずの友人から電話が! 友人はどういうわけか、死に切れずに夏貴の携帯の中で生を留める事ができたようなのである。その友人から、事件の真相を調べてくれないかと夏貴は頼まれ・・・・・・

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<感想>
 これは青春ミステリといってもよいのだろうか。読んだ感想としては、爽快なすっきりした印象の内容で面白く読むことができたといえる。しかし、よくよく内容を考えてみると、青春ミステリというよりは青春スリラー・ミステリとでもいいたくなるようなテーマの重さをはらんでいる内容であったことに気づかされる。

 親友が放火によって殺害されたことにより、犯人を独力で見つけようとする主人公。事件を調べていくうちに、その背景に実は主人公自身も深いかかわりあいがあることに気づかされる。しかし、最初は足かせとなるかのように思えた家族との関係が深まってゆき、しだいに協力し合い事件に迫っていくというところが本書の見所であろうか。

 まぁ、さらっと流せば良い話としてまとまっているような気もするのだが、“ちょっとそのテーマは重すぎるのでは?”という疑問を抱いてしまう。さらには、そんなにあっさりと解決していいのというふうに思えるところもある。何かいろいろと不満な点が残りつつも、著者にうまくかわされてしまったかなという気がしないでもない。

 都合の良すぎる終わり方に不満が残りつつも、まぁ、それで良いではないかというふうにも感じられる。あまり、細かいところに突っ込まず“青春ミステリ”ととらえて軽く読むのが一番良いスタンスであるような気がする。なかなか良い作品だったのでは、ということで。


The unseen 見えない精霊   7点

2002年04月 光文社 カッパ・ノベルス(KAPPA-ONE 登竜門 第1弾)

<内容>
 インドの森の奥深く、僕の目の前の老婆は突然語り始めた。その声と言葉は、自らの不可能な死を語るカメラマン「ウィザード」のものだった。飛行船の闇の中、彼に死を与えるために来た美しい少女と、見えることしか信じない彼の戦いが始まる。彼の武器は鋭利な頭脳、巧妙な論理の罠。だが、彼の罠を次々に突き破る少女の論理と見えない精霊の力。大胆に読者に突きつけられる質問状、あなたは解けるか?

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<感想>
 実におもしろくできていると思う。ただの推理小説ではなく、そこに対決という舞台を用いているのが非常に面白く思えた。

 そして用いられるギリギリのトリック。提示されたときには驚きと共に、なるほどとうなずける部分もある。微妙にこれは無理があるのではと思うところもある。場合によっては露見してしまう可能性も多々あるような気がするからだ。しかし、このトリックになるほどとうなずいてしまうのは作中で堂々と十分な伏線を張っていることだろう。この物語を引き締めているのはそのフェアな部分であると思う。


分かったで済むなら、名探偵はいらない   6点

2017年12月 光文社 単行本

<内容>
 プロローグ
 「106は頑張ってる」
 「バカにすんな!」
 「Bプランでいこう」
 「マリコさん、只今後悔中」
 「ロザラインなんているもんか」
 「陰謀ジジイの質問タイム」
 「106は頑張っていた」
 エピローグ

<感想>
 光文社の「Kappa One 登竜門」でデビューしたものの、その後新作を書くことがなく15年の月日が経った。今後新作が書かれることなどないだろうと思いきや、ついにその沈黙をやぶり刊行された第2作品。

 新作はちょっと変わった趣向の短編集。ここでの作品はどれも、最初にちょっとした事件が起こり、次にその背景が説明され、そして「ロミオとジュリエット」の新解釈が披露され、そして事件に対しての別の解釈が明らかにされる。というような構成で進められている。

 舞台は居酒屋「ロミオとジュリエット」であり、色々な酒の席で、自然な流れ(?)で、「ロミオとジュリエット」の薀蓄のようなものが語られることとなる。それを聞きつけた、居酒屋常連の刑事(名探偵らしい)が、事件と結びつける。

 まぁ、趣向としては面白いがミステリとしては微妙。というのも、最初に起きる事件があまりにも平凡すぎるような。事件に対する新解釈が面白いものもいくつかはあるのだが、大概はたいしたものではない。むしろ事件が先というより、「ロミオとジュリエット」の新解釈ありきの事件というように感じられたものもある。

 この作品の一番の収穫は、これを読むと「ロミオとジュリエット」に興味がわく。本書の内容自体は微妙な感じもするのだが、趣向は面白いので、それなりに楽しんで読むことはできた。できれば、林氏の第三作品は、もっと短めのスパンで披露してくれたらと願っている。


サトシ・マイナス   6点

2008年03月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 卒業を間近に控えた大学生の稲村サトシは以前から付き合っていた吉沢カレンとの結婚を母親に報告する事にした。しかしそんな折、サトシのなかから別の人格が登場して、結婚する前に行わなければならないことがあるとカレンは告げられることとなる。サトシは昔、ある出来事がきっかけで自分の人格をサトシ・プラスとサトシ・マイナスとに分けていたのだった。果たして人格は無事に統合することができるのか・・・・・・

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<感想>
 最初は物語の到達点がつかみにくく、どのような話なのかわかりづらかったこともあり、少々とっつきづらく感じた。しかし、読み進むにつれて次第に物語の内容に惹かれて行き、後半はほぼ一気に読み終えることができた。

 本書はミステリというよりは、とある青年のここまでに至る生き方を描いた青春小説のような内容となっている。その青年に関わり、慕うこととなった人たちが協力して彼の人格をとりもどすために奔走していくこととなる。彼がどのようにして人格を分裂させる事になり、どのような手段で人格をとりもどすのかということが、バラバラの時系列のなかで語られてゆく。

 よって、その流れ行く物語をただ楽しんでゆくという趣向の内容。別々の人格にプラスとマイナスと名づけたり、表を作り“○×”をつける事によって別々の人格を形成するというアイディアはなかなか面白かった。

 結局のところは謎が云々というものではなく、周囲の人たちの協力によって自我を取り戻す青年の話ということで、肩肘をはらず気楽に読んでゆけばよい内容の物語であると思われる。細かく言えば、色々とつつきたくなるところはあるものの、そういったことを抜きにして本書は読み終えて面白いと思える小説であるということでよいのであろう。


本格ミステリ館焼失   5点

2007年12月 講談社 単行本

<内容>
 内村奈々緒は大量殺人事件の容疑者の汚名をかけられた伯父の潔白と事件の真実を解き明かすために、あるモノを持ってくれば事件の全貌を見渡すことができるという男の所へと出向くことに。奈々緒の伯父は本格ミステリ作家や編集者達が集められた館で奇怪な事件に巻き込まれたというのだが・・・・・・

<感想>
 著者は早見江堂とう聞きなれない人物であるが、今までは谷口敦子、矢口敦子名義で何作かの作品を出版しているようである。

 この作品のタイトルは“本格ミステリ館焼失”であるが、このタイトルの付け方は少々あざといのではないかと思われる。中身を読んでみれば、確かにそれらしい事件は書かれているが、あくまでも“らしい”であって、結局はサイコサスペンスのようなオチが付けられた内容になっている。

 起こる事件は、閉ざされた館の中での殺人事件・・・・・・といいたいところだが、あくまでも殺人ではなく消失という形で、登場人物が次々と消えていくというもの。ゆえに、きちんとした推理や論証がなされないまま、次から次へと人が消え続けるというもの。さらに、事件が全て終わった後の論証についても、きちんと本格ミステリがなされているとは決していえない内容となっている。

 今まで本格ミステリばかりを書いてきた作家がこういう作品を書いたというのであれば、批判は受けるかもしれないけれど、なんとなく納得できなくもないだろう。ただ、新たなペンネームで、新たな作品としてこういうものを出版されたとしても何も感じ取ることができないのだが・・・・・・


僕と未来屋の夏   6点

2003年10月 講談社 ミステリーランド

<内容>
 夏休みの前日、小学生の風太は商店街で「未来を知りたくないかい?」と声をかけられる。これが未来屋と名乗る、猫柳さんとの出会いであった。作家である風太の父親に気に入られ、猫柳さんはその日から風太の家に住むことになる。その日から、神隠しの森、首無し幽霊、人喰い小学校、人魚の宝などを巡る、猫柳さんとの冒険が始まった!

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<感想>
 すでに数々の小学生向きのジュブナイル小説を書いている、はやみね氏の作品だけあって子どもが読むには文句なしの本となっている。ちょっと変わった大人の猫柳さんとの推理や冒険に満ちた夏休みと言うのは、現実であればなんとも心躍る出来事だろうと想像させられる。大人が読むにも、あの懐かしい日々を思い浮かべながら・・・・・・という感じで楽しんで読めることまちがいなしの作品。

 ただ一つ付け加えるとするならば、比重としては子供向けなのかなと感じられる。謎の多くがきちんと解明されるものの、あやふやな感じで終わってしまった部分も見受けられた。がちがちな推理小説などとは考えずに、冒険小説として気楽に読んでもらいたい本である。

 あと一つ面白く感じられたのは、同時期に出た有栖川氏の作品も推理作家を夢見る少年であり、この本の主人公も同様の設定である。それを考えるとこれらの本というのは著者自身らが夢に描いた少年時代の理想の冒険というところなのだろうか。


赤い夢の迷宮   5点

2007年05月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 小学生だった頃、僕らは仲のよかった七人組でよく遊んでいた。そんな僕らとよく遊んでくれたのは、皆がO・Gと呼んでいた不思議な大人。そして、大切な宝物を埋めようとした、お化け屋敷での忘れられない思い出・・・・・・
 25年後、教師となった僕はO・Gから同窓会の誘いを受ける。O・Gが再現し直したというお化け屋敷にあのときのメンバーが再び集まることとなったのだが・・・・・・

<感想>
 子供向けのミステリを書いていた“はやみねかおる”氏が大人向けのミステリを書くということで、名前を漢字にして出版した本がこの作品。はやみね氏が描く大人のミステリということで期待が高まったのだが・・・・・・

 うーん、ちょっとこれは期待はずれだったかなと。大人のためのミステリというわりには、主人公らが小学生の場面の多く描かれているせいか、普通に子供向けミステリというようにもとらえることができる作品であったと思う。内容に陰惨な描写が多々あるためか、それだけで大人向けのミステリと銘打っているだけのような気がしなくもない。

 まぁ、一応は子供時代を経て、大人になった人たちのためにというようなテーマがありそうな気はするが、ここまで救いようのない話であると、子供向けとか大人向けとかいったテーマも見失ってしまうように思えてしまう。

 また、内容に関しても、どうして今更このような作品が? と思ってしまうような古臭さが感じられる舞台と展開。講談社ノベルスから出るミステリを手に取る読者であれば、ある程度レベルの高いものを期待する人という人が多いのではないだろうか。この作品はそうした期待にこたえられているとは言いがたかったと思われる。

 それでもまた、はやみね氏が大人向けの作品を書くというのであれば、たぶん読むであろうから、そのときの作品にまた期待したいところである。


アムステルダムの詭計   5点

第8回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作
2016年04月 原書房 単行本

<内容>
 昭和40年にオランダ、アムステルダムで発見された日本人のバラバラ死体。被害者の身元は明らかとなるも、犯人は見つからないまま事件は迷宮入りとなっていた。事件から20年後、かつて被害者と知り合いであった“私”は商社の職員としてアムステルダムに駐在することとなった。発見された被害者がそのかつての知り合いだとは信じきれない“私”は、事件について単独で調べていくのであったが・・・・・・

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<感想>
 今年の“ばらのまち福山ミステリー文学新人賞”受賞作。物語の背景になっている“アムステルダム運河殺人事件”については実は知らなかった。本書を読んで、こういった事件が起きていて、さらにはこれらを題材に色々なミステリ作品が描かれていたという事実を知ることができたのは収穫といえよう。

 ただ、この設定については魅力的と思いつつも、作品の内容については大いに不満。というか、本書に対してミステリー関連の賞を受賞するようなものとは感じられなかった。基本的には商社の駐在員としてオランダに来た男の一生が描かれた物語でしかない。この駐在員が“アムステルダム運河殺人事件”の被害者と知り合いであるというだけで、彼がこの事件について現在進行形で何か関与するという事がいっさいない。

“アムステルダム運河殺人事件”とか、その被害者の過去、駐在員の現在の仕事ぶり、かつての美術業界と日本の状況、こういったものがそれぞれ描かれているものの、それらがひとつに結び付かれるというものでもない。よってただ単に駐在員である“私”という男の経験談というだけで終わってしまう。起きた事件と、松本清張が描いたミステリ作品との関連について、とある主張を行いたかったということはわからないでもないものの、それだけかとも思えてしまう。

“ばらのまち福山ミステリー文学新人賞”についてであるが、別にこれといった作品がなければ、無理に受賞作を出さなくてもよいのではと思えるのだが。


楽園のカンヴァス   

2012年01月 新潮社 単行本

<内容>
 ニューヨーク近代美術館にて働く、ルソーの研究家でもある若きアシスタント・キュレーター、ティム・ブラウン。ある日、ボスのトム・ブラウンと間違って自分にきたと思われる手紙に、ルソーの幻の名作の鑑定を願うという依頼が。ルソーの名作と聞き、ティムは、ボスの名を語ることに後ろめたさを感じつつも、現地へと向かう。そこで、出会うのは同じく若きルソーの研究家で日本人である早川織絵。二人は、ルソーの幻の作品の取り扱い権利をかけて、鑑定対決を行うこととなるのだが・・・・・・

<感想>
 昨年、話題となった作品。その話題性に負けず劣らず、良い作品であった。

 出だしは、母子家庭を描いた感じの悪そうな作品かと思ってしまったのだが、それはエピローグだけ。エピローグが終わると、若きルソーの研究家二人による、幻のルソー作品に対する鑑定対決が行われることとなる。

 鑑定対決と言いつつも、中盤はルソーという画家の紹介というようにも感じられる。物語風にルソーがたどってきた画家人生が語られてゆく。不遇ともいえるルソーの画家人生と、ヤドヴィガという女性の視点から見たルソーという人間について。そうした物語が語られつつ、ルソー研究家のティム・ブラウンと早川織絵に対して、幻の作品を巡るさまざまな軋轢がかけられてゆくこととなる。

 実は、中盤においても大きな事件などが起こるわけでもなく、やや淡々とした印象によりに、さほど良い作品とは感じていなかった。しかし、後半にて語られるそれぞれの登場人物たちの選択や、思いがけない真相を目の当たりにした時は、うまく作られている作品であると感嘆してしまった。

 ルソーという作家に対する思いや情熱を存分に感じ取ることができる作品。しかも、美術という世界の様相をわかりやすく描いている。取っ付きやすく、どの年齢層の人にもジャンルを超えて薦めることができる作品。これはなかなかの逸品である。


猫間地獄のわらべ歌   6.5点

2012年07月 講談社 講談社文庫(文庫書き下ろし)

<内容>
 七万石を抱える猫間藩の江戸中屋敷にて御使番を担う藤島内侍之佑(ふじしま ないしのすけ)は、深川にある下屋敷にて起きた事件の捜査を命じられる。鍵のかかった書物蔵のなかで、屋敷内で働く藩士が切腹をしていたのである。明らかに藩士が切腹をしたということなのだが、屋敷の主人からすれば、切腹者を出したというのは失態につながることとなる。そこで、藤島内侍之佑に無理やり犯人と思しきものをでっちあげよと言うのである。密室状態の蔵になんとか都合を付け、藤島内侍之佑は犯行の手口を考えようとするのであったが・・・・・・。一方、猫間藩の国元では、飢饉により農民があえぐなか、奇怪な首なし連続殺人事件が勃発していたのであった。しかも、その事件は猫間に伝わるわらべ歌に合わせるように犯行が行われており・・・・・・

<感想>
 昨年、バカミスということで話題となった時代劇ミステリ。文庫書き下ろしなので手軽に読めると思い購入した作品。実際、これはなかなか面白かった。

 時代小説としながらも、本格ミステリらしい描写をところどころに出しているためか、ややメタ系の内容になっている。特にそれほどまでにこだわらなくてもいいのでは、と思ったのだが、そこは普段時代小説を書いている著者ならではのこだわりなのであろう。

 猫間藩江戸屋敷で起こった切腹事件にて犯人をでっちあげようとする事件と、猫間藩領内で起こった連続わらべ歌殺人事件の二つを取り扱っている。実は、もうひとつ別の事件も扱われていて、なんとなく連作短編集に近い内容となっている。この構成に関しては、長編にするか、完全なる短編にするか、もっと割り切ってもよかったのではないだろうか。

 個人的な話なのだが、読んでいるときに猫間藩江戸屋敷でおこる事件と、猫間藩で起こる事件の二つが全く異なる場所であるということが中盤までわからなかった。猫間藩は地方都市として存在し、猫間藩の“江戸屋敷”というのがその名の通り江戸にあるということがわからなかったのである。これは、叙述トリックでも何でもなく、歴史小説に不慣れな私自身の読み落としである。

 連続わらべ歌殺人事件を見事に解決(?)したり、二つの離れた場所のアリバイトリックを見破ったり、見事に密室殺人事件をでっちあげたりと、趣向としてはなかなか面白かった。しかもそれだけではなく、最後にもうひとつサプライズがあったりと、かなりやってくれる小説である。こんな面白い小説を読んでしまうと、この著者の普段書いている時代小説までも読んでしまいたくなるから困ってしまう。また、このようなミステリ小説をいつか書いてもらえることを願いたい。


股旅探偵 上州呪い村   6点

2014年02月 講談社 講談社文庫(文庫書き下ろし)

<内容>
 渡世人・三次郎は旅の途中、無実の罪でとらえられそうになった男を助けることに。それが縁で、男の主人で瀕死の状態であった善七郎の頼みを聞くことになる。彼が言うには「村へ戻らないと三人の姉妹が殺される」と。そう言い残しで死んだ善七郎の遺髪を持って、三次郎は善七郎の生国である火嘗(かなめ)村を訪ねる。そこで三次郎が遭遇すのは、仮面をかぶった女、滝壺につるされた死体、死体が甦るという“モウリョウ”の存在。そして巻き起こる連続殺人に対し、三次郎が解き明かす推理とは!?

<感想>
 時代小説では有名らしい幡大介氏によるメタ系脱力系時代ミステリ第2弾。前作「猫間地獄のわらべ歌」を読んで、面白いと思った人は迷わず手に取ったことであろう。今作は「猫間地獄」と話がつながっているわけではないので、こちらから読んでも問題なし。

 最初読んでいくと、時代設定に忠実な時代小説が始まったと思いきや、突如メタ的な発言が繰り出され、時代考証が崩される。そこからは、時代小説として語られつつも、度々探偵小説のお約束的出来事が繰り返されながら物語が進んでいく。このへんの設定を許容できれば、問題なく読み通せるであろう。時代小説と真面目にとらえるひとには我慢できない可能性も・・・・・・

 内容は、旅の途中の主人公が瀕死の男から伝言を頼まれ、火嘗村へと向かい、そこで怪異と遭遇する。いきなり滝壺に吊るされた女の死体に遭遇し、村人たちは死人が甦るという“モウリョウ”の仕業だと騒ぎ出す。さらには、名主屋敷の三姉妹の命が何者かに狙われるという展開。それを主人公の渡世人・三次郎がバッタバッタと解き明かすと思いきや、物語は思わぬ方向へ・・・・・・

 個人的には最後の最後はもっと普通に全ての謎を解き明かしてくれてもよかったかなと。別にそこまでお約束から外れることにこだわらなくてもと思ったのだが。ミステリ的な内容については決して悪くなく、普通に満足できる内容。ただ、その謎を解き明かすページ数が少なく、あまりにもあっさり気味なのが、かえってもったいないと感じられた。著者なりのミステリに対するこだわりなのか、時代小説としてのこだわりなのかはわからないが、普通にミステリ作品を描いてもらっても十分に楽しむことができるのだがなぁ、と思うのだが、この作風はこれからも変わらないのだろうか。といいつつも、次の作品も是非とも希望したいところ。




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