<内容>
情報工学の若き天才、島津圭助は工事現場で見つかった謎の“古代文字”の解読を依頼される。その現場へと行くものの、がけ崩れにより闇の中に閉じ込められる事に・・・・・・。そして、島津はどこらかともなく現われた謎の男から“古代文字”から手を引くようにと警告を受ける。そのときから島津は神を巡る壮絶な闘いへと巻き込まれて行くことに!!
<感想>
ようやく30年前に書かれた山田氏の処女作を読むことができた。というのも、30年ぶりのこの作品の続編が書かれたようで、それによってこの処女作「神狩り」も店頭に並んでいたので購入してみたしだいである。
それで読んでみたのだが、これはなかなか面白いと感じられた。“神”対“人間”というような似たような構図の作品は多々描かれているのではないかと思われる。ただ本書は、それを“古代文字”というものに着目して描いているところが面白いのである。“古代文字”というものから論理的に“神”という存在をあぶり出し、やがて“神”という存在と対決していくことになる。
ただ、“神”という存在が明らかになってからは“古代文字”に対する重要性がやや失われてしまったように思えて残念に感じられたところである。なおかつ、この作品を読み通したところでは、決してこの物語は完結しているとはいえないのである。それこそが30年ぶりに続編が描かれた理由でもあるのだろう。
本書を現代の視点で見ると、今とはコンピュータの発展仕方とか、物語の背景のひとつとなっている学生運動とか、当然のことながら変わってしまった点が多々ある。そうしたなかで、この作品の続編をどのように書き上げたのかということは大変興味深い。機会があったらぜひとも続編も手にとってみたいものである。
<内容>
両親を失った少年が復讐のため、日本最大の暴力団組長・菊池を狙撃するが失敗する。暴力団組織から追われることになった少年は恋人共に北海道から沖縄までの逃亡の旅に出ることを決意する。このような事が起きているとき、日本では国を揺るがすような事件が起きていた。それは、最先端の科学を結集した対潜哨戒機が航空試験中姿を消したのである。飛行機はどこに消えたのか? そして誰がこのような大がかりな事件を起こしたのか!? 調査を命じられた新戦略専門家・宗像一佐はその行方を探すこととなり・・・・・・
<感想>
ハルキ文庫で出ていたものを購入し、積読となっていたのだがこの度読了。いや、山田氏は色々な作品を書いているなと感心。というよりも、元々はこういうジャンルの作品を書く人であったのか。
内容はタイトルの通り謀略もの。最新鋭の飛行機を巡って、奪った者と奪還しようとする者の知略をつくした対決が繰り広げられる。ただし、頭脳戦のみではなく、体を張ってその戦略を守ろうとする者と、阻止しようとする者との対決も描かれアクション巨編といっても過言ではない内容となっている。さらに、この作品に色を付けているのは、組長狙撃に失敗した少年少女の逃亡劇が、その謀略のなかに分け入ってくるというところ。この要素が含まれることによって、どのような展開になるのか、どのような結末となるのか、最後まで予断を許さない状況となる。
読んでみると、埋もれてしまうには惜しい作品だなと思いつつも、この作品が書かれた時代には、似たような内容のものが多く書かれていたのではないかと予想される。そうしたなかで、他のものと差別化するにはシリーズとして描くなどといったことをしなければならないであろう。本書はたぶんノン・シリーズの単発作品ということでそんなに有名にはならなかったのではないかと危惧される。とはいえ、これだけ文庫化を重ねているところを見ると、それなりに評価されているようにも思える。
読みやすい作品であるがゆえに、これは若いころに読んでいたら夢中になっていたのではないかと想像される。もし、学生のころにこれを読んでいたら、我さきにと山田氏の本を読みあさっていたかもしれない。
<内容>
甲虫の守護神を持つ戦士ジロー。その甲虫の守護を持つものは“宝石泥棒”という伝説の元に、“月”の存在を求めて旅に出る宿命を持つといわれていた。ジローは、“狂人”チャクラと“女呪術師”ザルアーと共に未知の地を求めて旅立つ。
<感想>
SF作品と勝手に思い込んでいたのだが、読んでみると純然たるファンタジー小説であった(ただしSFの要素も有り)。タイトルの“宝石泥棒”というのは、そのままの意味ではなく、重要なものを手にする伝説人というような比喩的な意味のよう。
主人公の戦士ジローと彼を助ける旅慣れなたチャクラと女呪術師ザルアー。三人が力を合わせて未開の地の未知の敵と戦い、宿命の地を求め旅を続ける。展開としてはよくある物語といえるのだが、主人公らが旅する未開の地が、想像力豊かに描かれている。魅力的というよりは、不気味さに彩られた僻地と生物、これらが非常に物語にマッチしていると言えよう。
徐々に物語の背景にも慣れていき、だんだんと読むペースも早くなっていった。特に終幕近くになってからは、物語の世界の真実が垣間見えるようになり、さらに内容に惹き込まれていった。ただこの作品、この一冊で完全な終わりではないよう。調べてみれば、とっくの昔にちゃんとこの話の続編が出ていた。この作品のみでもある程度は完結していると言えないこともないのだが、未消化で終わった部分があることも確か。機会があれば続編も手に取ってみることとしよう。
<内容>
昭和初期、O市で起こる数々事件を、素人探偵・呪師(しゅし)霊太郎と椹(さわら)秀助が迎え撃つ。
「人喰い船」
「人喰いバス」
「人喰い谷」
「人喰い倉」
「人喰い雪まつり」
「人喰い博覧会」
<感想>
今年(2016年)、「屍人の時代」という新作が出たのであるが、これが「人喰いの時代」という作品のシリーズ続編ということで、この作品を買って読んでみた。読む前はタイトルからゾンビでも出る小説なのかと思っていたのだが、実はミステリ小説集。
本書は戦前の小樽市(本文中ではO市)を舞台として、東京から逃れてきた椹秀助と、旅の途中で出会った素人探偵・呪師霊太郎が色々な事件に遭遇し、その謎を解くという物語。特色としては、繁栄を遂げた小樽市において街がにぎわいながらも、やがて戦争により凋落するという暗い未来を予感した情景を描いているところ。
「人喰い船」は、小樽へ向かう途中、船で起こる殺人事件を描く。
「人喰いバス」は、ひとりの酔っ払いを残し、他の乗客が消えてしまったという事件の顛末。
「人喰い谷」は、スキーコースで失踪した者の三角関係について描かれる。
「人喰い倉」は、遊女から聞いた過去に起きた密室殺人事件について。
「人喰い雪まつり」は、娘が回想する、スパイ騒動により死亡した父親の死についての真実。
「人喰い博覧会」は、北海道大博覧会で起きた事件と、主人公二人の事件の集成。
背景を抜かせば、全体的に普通のミステリのような。とはいえ、書かれた年代を考えると、当時は先鋭的なミステリとして迎えられていたかもしれない。印象に残るのは、事件を起こした動機について。「人喰い船」や「人喰い谷」などは、その動機が語られることにより、奇妙な余韻が残る。
また、最後の「人喰い博覧会」により、本書が単なる通常のミステリではないところへと昇華させていると言ってよいであろう。メタ・ミステリ的な感触を植え付け、なおかつ、一人の人間の人生の苦悩と開放を見事に表現している。ひとつの作品として凝りに凝った作品だということは間違いないであろう。
<内容>
栗谷村にて村おこしのためのマラソン大会が行われた。しかしそのマラソンの最中に13人のランナーが消えてしまうという事件が起きる。そして後日、ランナーのうちの一人が木に磔になった状態で死体となって発見された。さらにはその死体が消えてしまうという事件までが起こることに。どうやらこの一連の事件は150年も昔に書かれた一揆の様子を書き写した古文書の内容ににそったものとなっているらしいのである。そしてさらに古文書の内容をなぞるかのような事件がまた・・・・・・
<感想>
文庫本で買った後、長い間積読になっていた本であったのだが、読んでみて驚いた。こんなに面白い本であったのかと。
なんといっても、その謎となるそれぞれの事件が魅力的である。マラソン大会中に13人が突然消えてしまうとか、木に磔になっている死体などと、どれも興味を引きつけられるものとなっている。そしてそれらが昔起こった一揆の様子が書かれた古文書通りに事件が起こっているというように、これは一種の見立て殺人となっているわけである。これらにどんな解決がつけられるのかとさらに興味をかきたれられてしまう。
そして解決はどうかというと一連の事件の流れやそこに関わる大きな理由といったものなどがうまく練られた作品であったということに感心してしまう。個々のトリックに関しては、それはちょっと無理なんじゃないだろうかなどと思うところもあるのだが、全体像としては綺麗にまとまっているのではないかと思う。
読んだ側の評価としては良い作品であるという感じられたのだが、著者である山田氏自身にしてみるとそうとは感じていないことが解説に書かれている。どうやら著者自身はその事件を解く探偵をそれなりのものとして創造しておきたかったらしいのであるが、この作品に出てくる探偵らしき人物・風水林太郎の造形に納得ができなかったようである。事実、この作品中の登場人物としては風水林太郎はかなり薄い存在のままで終わってしまっている。そして現在の作品においては探偵としての役割は風水林太郎から風水火那子へとバトンタッチされたようである。そういった背景などを理解していると山田氏が書く探偵小説を読むときにさらに楽しむことができそうだ。これからも山田氏には風水火那子が活躍する著者自身が納得する探偵小説をどんどん描いてもらいたい。
<内容>
新しく設置された“おとり捜査官”に志願して、その捜査員となった北見志穂。彼女は自ら囮となり、山手線駅で痴漢と殺人を繰り返す謎の犯人を追いかけていた。北見と他の捜査官達は、犯人らしき者の手掛かりを得るものの、なかなか真犯人に結びつかず・・・・・・
<感想>
10年前に幻冬舎文庫で出ていたときに、購入しようかどうしようかと迷ったのだが、結局そのときは読まずに終わってしまった。それが今年になり朝日文庫で再刊行されることとなったので、この機会に読んでみることにした。このシリーズは非常に評判がよく、一度は読んでみたいと思っていた作品。その第一巻を読んでみたのだが、これが本当に面白かった。
内容だけ言ってしまえば単純な作品ととられてしまうかもしれない。女おとり捜査官が痴漢と殺人を繰り返す者の正体を追っていくというもの。これだけ聞けば話は単純だと思われるだろうが、その追跡ぶりと話の流れが実にうまくできているのである。
捜査員達がまず第一の容疑者をあぶりだす。それに対して読んでいる側は、「あぁ、こいつは犯人ではなく、たぶんこいつが怪しいんじゃなかろうか」などと推測する。そして捜査員が追っていた犯人が無実だとわかると、さらにはこちらが予想していた者までもが実は無実であったりするのだ。読んでいるほうにしてみれば、著者が仕掛けた罠にはまるがごとく次々と予想が覆されて行くことになる。そうして最後にようやく思いもよらない真犯人へとたどり着くのである。この展開は実に見事といえよう。
タイトルや内容だけ見るとそれほどたいした作品のようには見えないかもしれないが、実際に読んでみると面白いことこのうえない作品である。これは続きを読んでいくのがますます楽しみである。もし、まだこのシリーズを読んでいない人は、入手しやすいうちに是非とも読んでおいてもらいたいと、最後の巻まで読んでいない身の上ながら薦めておきたい。
<内容>
首都高速サービスエリアの中へ居眠り運転のトラックが追突し、周辺は大惨事となった。救急車が出動し負傷者を救出するなか、男が倒れているのを発見し、さらにその男の側に女の右足が落ちているのを見つける。救急隊は男を搬送したのだが、その救急車と乗務員が行方不明となってしまう。その後、首都高周辺から女のバラバラ死体が発見されることに。バラバラ死体の被害者の正体が突き止められたとき、おとり捜査官・北見志穂の知人が容疑者として挙げられることとなり・・・・・・
<感想>
1作目とは雰囲気の異なる内容となっているのだが、今作もまた違った意味で面白い。この作品はバラバラ死体を扱ったものとなっており、雰囲気的にはなんとなくテレビ版の江戸川乱歩作品を見ているかのよう。猟奇殺人事件を扱った事件ながら、首都高を現場とした近代的な背景がうまくマッチしているような内容であったと感じられた。
また、全編にわたって猟奇色が濃いながらも、事件捜査の部分がきちんとしており、警察小説としても満足いく内容。おとり捜査としては若干薄いような気もするのだが、それでも主人公の北見志穂が十分活躍する展開が描かれている。
一作目と比べれば、どんでん返しという部分は少なかったが、本作はこのくらいでちょうどよかったのかもしれない。ただ、それを上回る猟奇色がうまく表された作品と言えよう。シリーズ2作品目としては十分な内容ではないだろうか。
<内容>
おとり捜査官である北見志穂は凶悪犯を自らの手で銃殺したことにより、軽度の神経症におちいっていた。しかし、そんな状況はよそに、新たな事件に狩り出されることとなる志穂。事件は身代金目的の新生児の誘拐事件。何故か、犯人は身代金の運び人に北見志穂を名指ししてきた。何ゆえに志穂が名指しされなければならないのか。事件と同時に、カウンセリングを受けている志穂のなかに芽生えてくる双子の妹の存在。事件の影に見え隠れするもうひとりの北見志穂の存在とは!?
<感想>
今作はのっけから誘拐事件から始まっている。取り扱う事件が“誘拐”というのは、おとり捜査官の仕事らしくないように思えるのだが、なんと犯人側から身代金の運び人として北見志穂を要求してきたという展開。
今作に至って感じたのは、この一連の作品がおとり捜査官という機構そのものではなく、北見志穂という人物に関わる作品というスタンスのほうが強いのかなということ。今回は特におとり捜査官という立場で関わるような事件とは思えず、そうしたテーマからは乖離しているようにも感じられる。ただし、連作としては、うまく前回の事件を継いでおり、北見志穂という主人公にまつわるシリーズ作品としては十分に機能していると思われる。
今作は事件自体が単純であったかなと。一応、この作品は13年前の作品であるので、その月日を考えれば、ありきたりといってしまうのは申し訳のないことであるが、事件の構造としては非常に予想のしやすい内容。とはいえ、山田氏の作品らしく、誘拐の動機などについても捻りの効いたものとなっており、うまくできたミステリ作品であることは確か。
ただ、北見志穂という個人のみに収束しすぎる感じがするのはどうかとも思える。もう少し、おとり捜査官という立場や、他のメンバー達を生かしてもらえたらとも思っているのだが、あとの残り2冊ではどうなっていることやら。
<内容>
外車ばかりを狙った連続放火事件。警察は次に狙われる現場を予測し、張り込みを開始する。しかし、警察をあざ笑うかのように火の手があがり、現場は混乱状態に。しかも、現場近くからは全裸女性死体までが見つかることに。その全裸死体のそばには、被害者を模したユカちゃん人形が置いてあった。これがやがて人形連続殺人事件へと発展していくこととなり、おとり捜査官の北見志穂は単独で事件の真相へと肉薄していき・・・・・・
<感想>
今作は、今までの作品とは少々異なり、犯人像というか、犯人の影というものがなかなか見えないような内容と思われた。あとからプロローグを見返せば、確かにそれらしき描写がなされているのだが、当然ながら最初に読んだ時点ではそこまで深くは読み取る事はできない。
また、今作は猟奇事件というよりも、社会派的な事件という印象が強かった。さまざまな社会的な問題を背景とした事件が色々と起きている。そうしたなかで、実は事件が単独のものではなく、いくつかの事件が複雑に絡み合うというようなものとなっている。ゆえに、単独の犯人というイメージが弱く、犯人像というものが読み取りにくかったのかもしれない。また、別の見方としては今作では犯人の悪意というもの自体が弱かったようにも思える。なんとなく弱者の犯罪というようなイメージもあり、それによって犯人像がさらに希薄となったのであろう。
今回は北見志穂のパートナーである袴田の背景が明らかになるというのも特徴。そういったものも踏まえて、いよいよシリーズも最終巻へと突入していく。
<内容>
新宿西口通路で女性の切断死体が発見された。さらには次の殺人を予告させる電話までもが。おとり捜査官を含めた捜査陣は新宿西口に張り込み、ターゲットとなるワインを持った女を発見する。そして、その女の後を尾行していくのだが思いもよらない展開のなかで張り込み捜査は失敗を迎えることに。
謎の連続殺人事件、車内での不可能犯罪、そして魔の手はおとり捜査官のメンバーにまで伸びることとなり・・・・・・
<感想>
おとり捜査官シリーズの完結編。最終巻らしい事件と、最終巻らしい幕引きが読者を待ち受けることとなる。
今作は特におとり捜査官の面々にスポットがあてられ、事件が進行していく。ただ、こうした内容にするのであれば、今までの1〜4巻までのなかで、もっとおとり捜査官のメンバーを活躍させておいたほうがより効果があげられたのではないだろうか。今までの巻のなかで名前くらいは出てきた人はいるものの、基本的には主人公の北見志穂と袴田刑事の二人だけしか紹介がなされていない。もう少し、他の面々についても知っていたかったところである。
いちおう最終的には、予想通りの到達点にたどりついたかなという気がしないでもない。ただし、作者もそれを考えてさまざまなどんでん返しを用意しているので、最後の最後まで真相が定まらないのは確かである。
とはいえ、今作では終わり方のすさまじさにはびっくりさせられた。ここまで過激な終わり方をするとは思ってもいなかった。
そんなわけで、注文したい点も色々とあるのだが基本的には楽しむ事ができたシリーズ作品であった。たぶん今の山田氏の活躍ぶりを見ていると、こうした連続のシリーズ作品を書くということはもうないのだろうと思われる。本当は、これを踏まえてもうひとシリーズと言いたいところなのだが、そんな贅沢は言わずに、この「おとり捜査官」シリーズで満足しておくべきなのだろう。
<内容>
わたしは混濁する意識の中で覚醒した。ここはどこ? 暗闇を凝視して記憶を辿るが、どうしても思い出せない。ここはどこかの部屋。もしかしたら、金庫? なぜこんなところに? 昨夜は何を? わからない。頭が痛む。意識は朦朧。息苦しい。頭をよぎる見覚えのない男たち。わたしは誰? 再び闇。誰か助けて・・・・・・
異様な殺人、愛憎と狂気、驚天動地の密室大トリック!
<内容>
この死体は硬い。が、それはたんに乾燥しきっているからにほかならない。死後硬直とは何の関係もないことだ。この死体に死後硬直があったのはすでに十年も昔のことなのである。そう、そこはカラカラに乾燥していた。つまり死体がミイラ化される条件がすべてそろっていた。神宿る房総半島を舞台に史上最長の密室トリックに挑む空前絶後の一大叙事詩。人間は善なのか悪なのか?
<内容>
「ねぇ、こんなことってありますか。人間ひとり、どこかに消えてしまったんですよ」今村茂は呆然とした表情で警備員の檜山に言った。今村の同僚で交際相手の中井芳子が勤める保険会社はビルの最上階にある。残業を終えたふたりがエレベーターで一階に降りた直後、芳子は「わたし忘れ物してきちゃった」とオフィスに戻ったはずが行方不明に・・・・・・。人間消失をテーマにビル全体を覆う密室大トリックを繙く謎と論理の大逆転ミステリ!
<内容>
一片の金属すら持ち込むことができない密室状態の中で弁護士が刺殺された。法曹関係者が連続して殺されていく事件の謎を「神の烙印」を押された検事、佐伯神一郎が追う。すべての真相は異端の建築家が造った「神宮ドーム」にかくされているのか?
<内容>
「最初の殺人事件が起こったときに、すぐに警察に連絡していたら、第二、第三の事件は防ぐことができたかもしれない、そうおっしゃるのですか?(中略)私が犯人なのです、刑事さん」・・・・・・
その晩経営難に陥ったクラブのお別れの仮装パーティーに、男四人、女三人が集まり、完全密室の店内で惨劇は起こった。冒頭で早くも犯人が確定? 本書全体に仕掛けられたどんでん返し! 読者を欺く名(?)探偵・風水加那子シリーズ第二弾。
<内容>
「犬男が『女を襲え』といったんだ」−婦女暴行殺人で起訴された男は、法廷で主張した。責任能力の有無が争点になるとの大方の予想を裏切り、弁護士が主張したのは、男の無罪だった。裏付けがごとく、全く同じ手口の第二の犯罪が起きる。「長靴」と「奇妙な犬神伝説」。異質な二つの要素が事件の鍵なのか!?
<内容>
「自転車泥棒」 (問題小説:98年7月号)
「ブルセラ刑事」 (問題小説:98年11月号)
「デリバリー・サービス」 (問題小説:99年3月号)
「夜も眠れない」 (問題小説:99年6月号)
「人形の身代金」 (問題小説:99年9月号)
以上の五つの短編に加筆修正をし、さらに大幅な書き下ろしを加えて、長編作品としたもの。
警視庁六方面管区−綾瀬署にある失踪課の面々は、どうしようもないクズばかり。そんな彼らについたあだ名は失踪課ならぬ「喪失課」。そんな彼らが偶然に出会った小さな事件の数々は、じつは大きな陰謀につながっていた。ある夜、突然町が消滅!?裏で暗躍する謎の男SAKURAの目的は、いったい何か?
「自転車泥棒」
12台の自転車を乗せたトラックが行方不明になった。捜査を押し付けられオタク刑事渡辺。くさりながらもトラックに乗っていた運転手を探していくと、絞殺殺人事件の手がかりが・・・・・・
「ブルセラ刑事」
セクハラでとばされた刑事鹿頭。ソープでただ乗りしようとしたら、逆にやくざに脅され、ブルセラショップの盗難事件を捜査することに。するとやくざがヒットマンに襲われた事件に巻き込まれ・・・・・・
「デリバリー・サービス」
頑固でへそ曲がりの刑事年代。30分たっても届かないピザ屋に文句をいいに行くと、そこでピザ屋のバイク失踪事件に巻き込まれる。暇つぶしにバイクの行方を追ってみると、とある誘拐事件に・・・・・・
「夜も眠れない」
なにもしない刑事岩動。とある事件のホシのアリバイを証明することになってしまった岩動。なぜか巨大な男に脅されホシのアリバイを洗い直すはめに・・・・・・
「人形の身代金」
ギャンブルで身を崩す男、喪失課のボス、磯貝刑事。彼は昔の同僚の妻に相談に乗ってほしいと持ちかけられる。そのとき一緒にいた同僚の妻の娘が誘拐される。元の同僚はいったい・・・・・・。消えた子供の行方は?
「消えた町」
優秀であったが周りとうまくいかなく、干された刑事遠藤。
ここでもう一人の刑事伊勢原の死体が見つかる。そして集まる失踪課の面々たち。すべての事件がひとつに繋がるとき、大事件が勃発する。
<内容>
平成元年、編集者の萩原祐介はビルの屋上から身を投げ、自殺した。死んだ祐介の妻・桐子は多くを語らなかった生前の夫の事を何も知らなかったことに気づき、夫の死の真相を調べ始める。夫が残した資料の中に作家・善知鳥良一によって昭和13年の満州での出来事が書かれた手記があった。それは奉納オペラ“魔笛”を撮影すべく“宿命城”へと向かう一団の様子が描かれたものであった。それを読み始めた桐子は、桐子自身までもが時空を超えて50年前の世界と現代とを行き来することに・・・・・・
<感想>
これはいかにも“SF作家が書いたミステリ”という作品である。なぜ、いちいち“SF作家が書いた”などと付け加えるのかというと、著者が書きたかったのはミステリが主というよりも、“パラレルワールド”を書きたかったというように感じられたからである。私にはこの「ミステリ・オペラ」という作品は、まずパラレルワールドという存在があり、その中にミステリやら南京大虐殺やらというエッセンスが放り込まれた本であるというように読み取れた。
とはいえ、本書は副題に“宿命城殺人事件”などというタイトルを付けたくらいであるから、本格ミステリの要素が十分に入っていることは確かである。“現代のパート”と“過去のパート”が入り乱れ、徐々に一つの事件の様相をあらわにしていくという構成はなかなか面白く読むことができた。特に過去のパートにおいては、本格ミステリたる不可能犯罪が次々と起き、その事件が後半に次々と解き明かされてゆく快感を味わうことができる。
しかし、本書でどうしても違和感を覚えてしまうのが現代のパートである。この現代のパートが過去のパートに比べてやけにチープに感じられてしまうのだ。なにしろ現代のパートで問われるのは夫が何故自殺したかということだけ。そこにさまざまな要素があるとはいっても、基本方針は“夫の自殺の言及”だけなのである。これには、何か本格ミステリと平行して松本清張の本を読んでいるように感じさせられた。しかもその現代のパートにかなりページ数をとられていたりする。
とはいうものの、このようにストレートにいかないミステリであることこそが著者である山田正紀氏の本懐といえるのかもしれない。これぞ、SF作家・山田正紀の描くミステリなのであろうと、山田氏の事をよく知っているわけでもないにもかかわらず、このように言っておくことにする。
でも、「宿命城殺人事件」だけのミステリが読みたかったというのも事実。
<内容>
僧正殺人事件は終わっていなかった。反日感情が日ごとに高まるニューヨークで、スケープゴートに供されんとする日本人を救うためにファイロ・ヴァンスに変わって立ち上がったのは若き日の金田一耕介であった!
<感想>
正直いって序盤読んでいるときには嫌気がさした。どうやら著者はヴァン・ダイン著の「僧正殺人事件」に思うところがあったらしく、それに対して別の解釈を本書にて提示している。それを提示する行為は別によいのだが、その手段としてはどうだろうかと思う。読んだ印象としては、必要以上ににヴァン・ダインの著書と登場人物を貶めているような気がしてならない。
最初はそのような悪い印象をもちながら読んでいたために、なんでわざわざ「僧正殺人事件2」というよな章題をうつ必要があるのかと感じられた。金田一耕介が登場するのは良いと思う。特に背景が戦時中のアメリカにおける排日運動をテーマの一つとして描かれているために日本人探偵を配するのは実に納得がいく。ただ、それならば金田一耕介のみのパティーシュということでよいのではないかと感じられた。よって、当初私には「僧正殺人事件」を引き合いにださなければならない必要性というものが感じられなかったので、これは商業的にこのような銘を打ったほうが売れるからだろうなどという邪推までしてしまった。
しかしながら、ラストまで読んだときに“「僧正殺人事件」は不必要である”という考えは一気に吹き飛んでしまった。ラストにて語られる事件の真相によって、「僧正殺人事件」から本書の著者が読み取った別の解釈と戦時中という背景が見事に融合し、別々の細かい道筋が見事一つに収束されていく様を見せ付けられた。読了し終えたときにようやく、確かにこれは本格推理小説であると納得させられた。
全体を通して見るとかなり完成された推理小説であるといえると思う。ただ、上記にも書いたような心情的に反対意見を述べたくなるような点が多々感じられたのも事実。しかしパティーシュ小説であれば、そこに出てくる他の著者の登場人物に対する思い入れというものは人それぞれによって感じ方は異なると思うので、さまざまな感情をこうして抱くのも当然のことなのかもしれない。とはいうものの、そうした悪感情によって本書が正当に評価されない可能性というものを考えると残念なような気もする。
<内容>
「サマータイム」 (GIALLO 2001年冬号)
「麺とスープと殺人と」 (GIALLO 2001年秋号)
「ハブ」 (GIALLO 2002年春号)
「極東メリー」 (GIALLO 2003年冬号)
<感想>
「サマータイム」
あれ、主人公の出番は・・・・・・という感じでサラっと通り過ぎてしまう。ラストでは主人公によるドンデン返しを期待していたために、かわされたという印象である。話自体もミステリーというよりは物語というところか。
「麺とスープと殺人と」
「本格ミステリ02」にて既読。ラーメン屋での殺人事件。展開としては面白く、なかなか凝ったものになっていると思う。特に、ラーメンを食べる、食べないの謎は印象的。しかし結末では、唐突というか伏線などが提示されないまま連想的な推理によって解決がなされているという印象。
「ハブ」
殺人事件と三人の容疑者、そして爆弾魔とバスに仕掛けられた爆薬と盛りだくさんの内容になっている。まさしく、冒険の名にふさわしい事件である。あれよという間に一気に事件を解決してしまう様は爽快である。本作中ではベスト。
「極東メリー」
マリーセレスト号をモチーフとした事件。推理小説としてよりも物語としての要素のほうが強くなってしまったように感じられる。ただ事件の解決が、マリーセレスト号の謎を解く、一つの解釈ともとれるところが興味深い。
著者自身も述べているのだが、中編という物を書くということおいて試行錯誤がなされ、丁寧に書き上げられた作品集であるということがよくわかる。フォーマットとしては統一しているとはいいがたくも、逆にいえば、だからこそ“冒険”という名にふさわしい作品集となっている。
<内容>
信長の甥、小田信耀は外国人の劇作家シャグスペア、楽士の猿阿弥らとともに、琵琶湖横断の最中に嵐によよって小島に漂着する。その島で信耀は軍師と呼ばれる五兵衛という男や、死んだはずの叔父などと不可解な人々と遭遇する。さらに信耀らは魔法ともいうべき、人が空を飛び、誰もいないはずのところで人が殺されるという怪奇事件に遭遇する。この先彼らを待ち受けるものとはいったい・・・・・・
<感想>
本書の設定は、かのシェイクスピアらしき者が日本を訪れていて、織田信長の甥の信耀とともに事件に出くわすという設定である。私自身はシェイクスピアの「マクベス」を読んだことはなかったのだが、それでも本書を十分に楽しむことができた。しかし知っていれば、またそれなりに読み方はできたのではないかと思う。「マクベス」を読んでいない人は、「マクベス」を読む前に一読、読んだ後にもう一読すると、また変わった楽しみ方ができるかもしれない。もし「マクベス」を読むことがあったら、ぜひとももう一度読んでみたいものだ。
「颱風(テンペスト)」
マクベスの内容にそって始まるのかと思いきや、舞台は日本国内であった。そして主人公の織田信耀を中心に物語が進んでいく。殺人事件が起きて、不可能犯罪が示唆されるものの、ミステリーとしては普通のものと感じられた。
ミステリーの一編ではあるものの、物語り全体からすれば前段的なものであるというようにとらえられるパート。
「夏の夜の夢」
こちらは牢から抜け出た人物が何者かによって殺されるというもの。これはなかなかの秀作である。トリックもさることながら、その背景たる舞台設定がよく練られている一作。
そして最終的には“本能寺の変”の著者なりの解決がなされる。といっても鯨統一郎氏の「邪馬台国はどこですか?」なみのバカミス歴史推理という感じ。しかし、本編にてなされていた舞台劇のような構成からの閉幕としては、それなりに似合っているような結末であるとも言える。
読みどころ、考えどころは多々あるような気がするが残念ながら私自身知識が覚束ないところが多かったような気もする。ただし、ひょっとしたらそういった知識がないほうが物語として楽しめるような気がしないでもない。ただひとつ寂しく感じたのは、短編がもう一編ぐらいあったほうがバランスが良かったのではと感じられる。
<内容>
特高警察の志村警部補は“検閲図書館”黙忌一郎から事件調査を依頼されることに。それは“乃木坂芸者殺人事件”と言われるもので、ある一軒家にて芸者が何者かに殺害されるという事件であった。芸者は殺害されるときに悲鳴をあげたらしく、周囲にいた者達がそれを聞きつけ集まってきたものの、既に芸者は息絶えていたという。しかし、その時不審なものの出入りはなかったというのだ。
志村はこの事件に関わっていくうちに数々の不審な人物や出来事に遭遇し、奇怪な陰謀の真っ只中に自分が置かれている事に気づき始める。そして、その事件の裏側では“ニ・ニ六事件”勃発しようとしていたのだった!!
<感想>
一応「ミステリ・オペラ」の続編のような位置付けなのだが、特に物語として関連するようなところはない。関係しているのは登場人物として黙忌一郎が出ているという事くらいであろうか。よって、この作品のみを読んでも全く問題はない。
本書を読んで感じた事は、この作品は「二・ニ六事件」に別の解釈をつけた歴史ミステリだな、という事。つまり高木彬光の「成吉思汗の秘密」に代表されるような種類の本になっているという事。ただし、どちらかといえばトンデモ系のように感じられ、SF作品とか伝奇作品というようなものの中に収めたくなる内容である。
よって本書はミステリーという観点から見ると前作「ミステリ・オペラ」と比べて非常に密度が薄いといえる。今作では“乃木坂芸者殺人事件”というものだけがミステリー・パートであると言ってもよいかもしれない。そして、この“乃木坂”についても、あくまでも“ニ・ニ六事件”を語るうえでも一つのパーツにすぎないというように感じ取れた。
という事でミステリーとしてはもの足りなかったのだが、他に見るべきところは多々ある作品となっている。まず、当然の事ながら“ニ・ニ六事件”の背景については詳しく語られている。そして、その事件に対して著者なりの解釈がなされているのだが、そこに“江戸川乱歩”というものを用いたところは面白いといえよう。さらには、その事件を通していく中で“怪人二十面相”という存在までもを浮き彫りにさせたのはお見事としかいいようがない(ただし、それを用いる事により“トンデモ系”という印象が強くなってしまうのだが)。
また他にも、昭和の時代に生きた実在の人物らが多数登場しているので、この時代について詳しい人はなおさらこの作品を楽しめることであろう。山田正紀氏が描く歴史ミステリものという位置付けで、興味のある人は読んでみてはいかがか。
<内容>
1970年代、学生運動が行われ続けているさなか、女子大生の瀬下綾香は少人数で結成されている右翼の青年グループに加わることに。そのグループで、各国が所有権を主張している小島へ上陸するという計画を実行することになった。そして、島へ上陸した早々に事件は起こる。綾香は崖から仲間のひとりが突き落とされるのを目撃することに! しかも、その突き落とした人物は“わたし”であった!!
<感想>
山田氏が描くミステリというものは、たいがいが印象の薄いままで終わってしまう。本書も他の山田氏描くミステリと同様に、それなりに良くできてはいると思う。ただ、どうしても佳作という程度で終わってしまうのである。見せ方に問題があるのか、いっそのこともっと大風呂敷を広げるべきなのか、どこに問題があるということはよくわからないのであるが、ただただ印象が薄いとしか・・・・・・
本書は孤島に集まった革命グループを名乗る6人がいつしか次から次へと何者かによって殺されていくというもの。一見、犯人は歴然としているようでいて、読んでいる途中では単なる幻想譚かもしれないとも思えるのだが、実は結末にはきちんとした解決が用意されている。
よって、本作はミステリとしてはそれなりに濃い作品であると言えるであろう。ただ、それ以上に“革命”を打ち出した物語の背景が濃いように感じられ、それによってミステリ色が薄れてしまったのは残念なことといえるかもしれない。
また、ミステリとしてきちんとした解決がなされているなかで、ただ一点、最初に起きた崖の上から突き落とされる様子が目撃されていたとうい事件があるのだが、その解だけがどうも納得がいかなかった。ある意味、その事件こそがメインであったと思えるので、そこでつまずいてしまっては、全体が色あせてしまうのもしょうがないのかもしれない。
まぁ、それでも久々に長編の孤島ミステリを読んだという気がしたので、それなりに満足はさせてもらうことはできた。
<内容>
恐竜発掘の町として知られる田舎町で事件が起こる。中学校の教師がつり橋から転落するという事件がおこるのだが、一見事故のようでありながらも、巷では恐竜がやったのではないかという噂が流れ始める。個人的にこの事件に気になるところのある斉藤ヒトミは単独で事件について調べ始める。すると、疎遠になっていたかつての友人、恐竜に詳しいサヤカと陸上部のエースであるアユミらといつしか行動を共にすることに・・・・・・
<感想>
さまざまなサイトで好意的に取り上げられていたので、購入して読んでみたのだが個人的には微妙という感想。
話をまとめてしまえば、一見、恐竜が起こしたとも思われる現在と過去の事件を女子中学生3人組が解き明かすというもの。と、このように書いてしまえばライトな小説であると思われるであろうが、本書の内容はもっとドロドロとしたものになっている。
主人公であるヒトミという少女からの視点を中心に物語りは語られていくものの、このヒトミ自身がわけありで事件の真相を究明しなければならないというスタンスのためか、鬱屈した雰囲気のまま終始話が進められていく。そして事件の究明が進められるも、鬱屈感はなおも強まり、大人の社会の現実を垣間見ながら少女達が成長していく様が描かれている。
個人的にはもう少し、すっきりとした感覚で書いてもらいたかったところなのだが、今の中学生の雰囲気と言うのはこんなものなのかなと考え込んでしまう。また、ミステリとしての展開も、余計な大人の世界の現実が多々描かれているのに惑わされたせいか、最後の最後まで普通のミステリとして読めばいいのか、ファンタジー的なミステリとして読めばいいのか、その雰囲気をつかむことができなかった。
個人的にはもう少し“のほほん”とした内容でもいいのではないかと思えたのだが、そう感じるのは私自身が今現在の子供たちより、精神的に子供である証拠なのかもしれない。
<内容>
戦争の先行きが噂されつつある昭和20年8月の東京。八王子の神社にて神主を務める明比家に伝わる秘能“長柄橋”。この長柄橋が戦時中のさなか、行われようとしていた。この能には、いくつかの言われがあり、過去に行われたとき、死者と行方不明者が出たという。そして今回も、その能が行われようとした矢先・・・・・・
検閲図書館・黙忌一郎は、この秘能に対し、いったいどのような真相を見出すというのか!?
<感想>
一応、“オペラ”三部作の終焉をかざる作品ということではあるが、ほとんどシリーズという感じはせず、単体としてもよいような内容。むしろ検閲図書館という存在を出さずに話を進めていた方がすっきりとしたのではないだろうか。
本書に対する評価は微妙。普通に物語を描いたらこうなったのか、簡単な事象をあえて複雑怪奇に描いたのか、話の展開がなんともわかりづらい。そんなわけもあり、読み進めるのは大変で、簡単には読みとおせなかった。
しかし、核心部分だけを抜け出せば、過去に能の舞台で起きた事件と現在進行中の事件の謎を解くというもの。ただ、この謎がなかなか具体化されなかったり、それを語るものの判断や視点があいまいで信じ難く、全貌を整理するのが困難な状況。
そうしたなか、後半に入り、徐々に真相というものが明らかにされてゆく。ただ、この真相について言及する部分も長かった。後半の展開では印象的な部分もあり、もっとスパッと断ち切ってしまった方がすっきりとしたのではないだろうか。最初から最後まで何とも煮え切らないまま物語が進み、微妙なラストシーンで終わってしまったという感じ。とはいえ、意図的にこういう小説を描いたのであろうから、読む側としてはそういった混沌とした状況の中から自らの真相にたどり着かなければならないということなのであろう。
<内容>
「神獣の時代」
「零戦の時代」
「啄木の時代」
「少年の時代」
<感想>
「人喰いの時代」が出版されてから30年以上の時を経て、新たに書かれることとなった探偵・呪師霊太郎が活躍する作品集。前作「人喰いの時代」は連作短編という形式をとっていたが、こちらの作品集ではそれぞれの話に関連のない、独立した内容となっている。また、「人喰いの時代」を読まずに、こちらから読んでも特に問題はなさそう。
読んでみると、意外といっては失礼であろうが、きちんとしたミステリ作品集になっていて驚かされた。「神獣の時代」では思いもよらぬ犯人が最後の最後で炸裂し、「零戦の時代」は零戦飛行士の謎の行動が時代を経て解き明かされるものとなっている。特にこの「零戦の時代」は史実を絡めた内容となっており、読み応えのあるミステリ小説であった。
「啄木の時代」と「少年の時代」については、それぞれ実在の人物を主題として、ミステリを構築しているところが面白い。特に「啄木の時代」では、石川啄木の詩から著者が何かを感じ取ったのか、それを一人の男の人生を変える物語に仕立て上げているところがすごい。「少年の時代」については、とあるミステリトリックのネタをばらしすぎているような・・・・・・特に小栗虫太郎の「完全犯罪」の小説があり、そこにオルガンとくれば、思い出す人も多かろう。さらに、もうひとつの有名トリックまでも取り上げてしまっている。
全体的にまとまりがない作品集のようにも思えるのだが、“戦前・戦後から現代へ”という橋渡し的なミステリを描くのには、呪師霊太郎というキャラクターを用いるのが都合がよかったのであろう。著者が戦前・戦後の時代設定を用いたミステリとしてためてきたネタを、このシリーズ作品に詰め込んで出版したという感じ。
「神獣の時代」 オホーツク海にて、ひとりの美女をめぐって大アザラシの討伐に名乗りをあげた3人の男。そこに呪師霊太郎も参戦。すると殺人事件が起き・・・・・・
「零戦の時代」 精神を病んでいたとされる零戦操縦士の奇行の謎と、一人の看護婦の死に隠された背景とは?
「啄木の時代」 啄木の詩のなかに、とある殺人事件を告発する内容が隠されていると考えた男は・・・・・・
「少年の時代」 怪盗・少年二十文銭が狙うとされる宝石を守ることとなった呪師霊太郎であったが・・・・・・