柄刀一  作品別 内容・感想2

UFOの捕まえ方   7点

2007年11月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
 「サイト門のひらき方」
 「身代金の奪い方」
 「UFOの捕まえ方」
 「見えない共犯者の作り方」

<感想>
 毎年の恒例ながらも、今回もまた内容の濃い本格ミステリ短編集となっている。今作で4編と短編の数が少ないのは「UFOの捕まえ方」が長くなりすぎてしまったとのこと。ただ、内容の濃さからすれば、この作品を長編化してしまってもよかったのではないかと感じられた。

「サイト門のひらき方」
 柄刀氏の作品では珍しく時事ネタを取り扱っているという気がした。自殺サイトと失踪事件をからめた内容。本作品のメインは“暗号”。サイトに公開されている文章の中から暗号を解き、失踪者の行動を龍之介が読み取ろうとする。
 本作品は暗号もののみというような内容なので、特にどうこうといったところはないのだが、それでも暗号の作り方については見事であると思える。人によってはこれは解くことができるのかな? 私では一生かかっても解けなさそうな・・・・・・

「身代金の奪い方」
 柄刀氏による誘拐モノ。当然のことながら身代金の受け渡しがキモとなる。どんな新しいやり方を見せてくれるのかと思ったのだが、いたって普通。これは読んでいて分かりやすすぎるネタといえよう。ただ、理系ミステリである龍之介シリーズらしく、龍之介の余計な行動が真相をあらわにするという展開は心憎い。

「UFOの捕まえ方」
 これは一番読み応えのある作品であった。短編だというのがもったいないくらい。秋田県に出没した謎のUFO騒ぎと、同時期に起きたシャンデリアの上で発見された死体をめぐる殺人事件の謎を龍之介が読み解くといったもの。
 これこそ柄刀氏らしい本格ミステリ作品と言えよう。これ一編のみ読んだだけでも大満足である。島田荘司ばりの奇想が展開される作品。

「見えない共犯者の作り方」
 こちらの作品はやや普通目。アリバイトリックものと言えなくもない作品。一応、“見えない共犯者”という存在がポイントとなっているものの、あまり感銘は受けなかった。とはいえ、事細かに伏線を張り、それらを全て回収しているという点は相変わらず見事である。


奇蹟審問官アーサー 死蝶天国   7点

2009年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「バグズ・ヘブン」
 「魔界への十七歩」
 「聖なるアンデッド」
 「生まれゆく者のメッセージ」

<感想>
 奇蹟審問官アーサーの活躍を描く短編集。ネタとしては龍之介シリーズと同じようなものを扱っているように思えるが、背景に宗教色を用いることにより、シリーズとしての独特な雰囲気を出している。個人的には「聖なるアンデッド」一本だけでも大満足。柄刀氏らしい本格ミステリの世界が繰り広げられている。

「バグズ・ヘブン」
 幻視という不思議な能力を持つと噂される女性が閉ざされた建物のなかで殺害されているという事件が起こる。それなりの伏線は張られているものの、密室トリックについては普通。それよりも異様であるのは、犯行現場の様と犯人の動機について。どちらかといえば、宗教的な内容というよりも、病理学的な内容を扱っていると感じ取れる作品。

「魔界への十七歩」
 雪山の山荘に住む男が銃殺されるのだが、犯人とおぼしき者の足跡が途中で消えているという奇怪な状況。これもトリック云々よりも、事件を犯した者の心理的な面が強調されるかのような作品。確かにこれは奇蹟審問官アーサーが扱うにふさわしい事件と言えよう。

「聖なるアンデッド」
 聖なる永久死体、うごめくゾンビによる殺人事件、謎の呪術師、村で起こる奇怪な事件の数々とその奇妙な状況から見出される真実とは!?
 本作品のなかで本格ミステリとしては一番濃い内容の作品と言えよう。まるで教会とブードゥー教の争いを描いているような内容なのだが、解き明かされれば、全てが収まるべき現実にピタリと当てはまってゆく。長編にしても良いくらいのできであるが、変に冗長にせず、これくらいの分量でまとめたほうが密度として調度良いのかもしれない。良作の中編と言えよう。

「生まれゆく者へのメッセージ」
 最後は書下ろしでボーナストラック的な短めの作品。ミステリ的な要素もあるものの、仏教の審問にアーサーが立ち会うということがメインのような内容。


モノクロームの13手   5点

2010年02月 祥伝社 単行本

<内容>
 彼らが気がつくと、見たこともない不思議な世界にいた。彼らはそのマス目が書かれた場所から出ることができなかった。そのマス目は白い丸と黒い丸で表されており、白い丸のマス目にいるものは生きており、黒い丸のマス目にいるものは死んでいるかのように動かない。しかし、外から他の者が入ってきたときに、その世界は変化し・・・・・・

<感想>
 ゲームとミステリを融合させた小説を目指したようであるが・・・・・・決してうまくいっているとは言えないであろう。というよりも、はっきり言ってしまえば失敗作。

 まずは設定があいまいである。オセロを用いているというのはわかるのだが、外からどのような法則で黒か白が打たれるのかというのがいまいちピンとこなかった。盤の中にいるものが主導権を握っているように書かれているものの、そこに無理があったように思われる。あいまいな要素があればあるほど、ゲーム小説としては完成度が低く感じられてしまう。

 また、登場人物が多すぎるというのも欠点であろう。コマの数だけの人物が登場し、それら一人一人の人生を描くとなると小説としての内容が薄まってしまう。できれば最初の4人だけにスポットを当ててもらいたかったところ。

 等々、欠点と思えるところを挙げていくときりないのだが、反対に長所を挙げるとなるとこれといったところが見当たらない。オセロをゲーム小説として用いたという部分は悪くないと思うのだが、設定の練り具合が足りなかったか。なんとなくメフィスト賞の新人の小説を読んだという感じ。


人質ゲーム、オセロ式   6.5点

2010年11月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
 龍之介が館長を務める“体験ソフィア・アイランド”にて、オセロ連盟による催しが行われることになっていた。それはネットを通してオセロをし、その様子がテレビでも中継されるという大がかりなもの。しかし、その公開対局の最中、スクリーンが何者かに乗っ取られた。それはオセロ連盟の元会長である久能警視を告発するのものであった。犯人と名乗る者はこちらの要求をのまなければ人質の命はないという。7年前に起きた銃撃事件の真相とはいったい!? そして犯人が人質としているのは誰なのか? 警察達が犯人の正体を暴こうと捜査している最中も事態は動き続け、さらなる事件が!!

<感想>
 なかなか凝った趣向の作品となっている。単純に犯人を捜すというだけではなく、進行しつつある事件の中で被害者が誰なのかも伏せられており、それらの謎も含めてリアルタイムで事件の謎を解くこととなる。さらには、7年前に起きた銃撃事件の真相にも迫るという難しい事件に龍之介が挑戦している。

 なんとなくムリクリに話をややこしくしているようにも思えなくはないのだが、そこは臨機応変に活動した犯人の手柄ということにしたい。犯人の計画が犯行前から崩れてしまったものの、それでも計画を実行し、自分なりに事件のつじつまを立てていこうとする。そういった理由もあってか、事件はより複雑となりつつあるものの、事件現場からの情報を得ながら龍之介が起きた事態を細かく分析し、ひとつひとつ謎を解いて行く。

 今回は龍之介に動きが全くないせいもあってか、事件の解答は見事ながらもかなり推測に近い領域で謎を解いているという気がした。特に過去の事件に関しては、現場の検証をできるわけでもなく、明らかとなっていた事実のみで、起きた真相を推測してゆくこととなる。その推測を語って行く中で、なんとなくつじつまの合いそうな状況を語ったら、それがうまく当たってくれたという感じ。

 今作ではノン・シリーズの前作「モノクロームの13手」と同様“オセロ”が舞台背景に用いられている。この作品でも“オセロ”自体はなんら有効活用されていないなと思って読んでいたのだが、よくよく考えてみると、タイトルにある“オセロ”という言葉はゲームのオセロを表しているのではなく、シェークスピアの劇の“オセロ”を表している模様。そう考えると納得できなくもない。

 例年、年の始めに出ている龍之介のシリーズが今年は遅れていたので、どうしたものかと心配していたのだが、これだけ濃密なミステリ作品に仕上げてくれれば文句は言うまい。今後の作品にも期待。あと、シリーズの登場人物がだいぶ増えてきたようなので、そろそろ人物表が欲しいところである。


システィーナ・スカル    絵画修復士 御倉瞬介の推理 6点

2010年11月 実業之日本社

<内容>
 「ボッティチェリの裏窓」
 「システィーナ・スカル」
 「時の運送屋」
 「闇の揺りかご」

<感想>
 絵画修復士・御倉瞬介のシリーズ3作目。ただし内容は、フィレンツェを舞台に瞬介の若かりし頃、妻となるシモーナとの出会いが描かれている。
 このシリーズはミステリとしても読ませてくれるのだが、今作ではやや美術的な分野のほうに傾いていたと感じられた。その内容が美術的な方向に傾き過ぎたせいか、ミステリ的には中途半端に感じられたり、謎自体がそれほどのものでなかったりとやや食い足りなかった。

「ボッティチェリの裏窓」は瞬介が絵画の修復を頼まれた家で奇妙な出来事を目撃する。また、彼が修復する絵画に関する謎にも言及する。
 こちらは屋敷で起こる出来事よりも、絵画の内容にまつわる秘密のほうが気になったのだが、こちらについては食い足りなかった。屋敷の謎自体はたいしたことがなかったので、絵画にまるわる秘密でひっぱっていってもらいたかった。

「システィーナ・スカル」は壁画を見て、ショック死をした老夫人の謎にせまる内容。老夫人が生きてきた人生についての物語はすさまじいの一言。ただ、物語を追うだけになってしまったのが残念なところ。

「時の運送屋」はひとりの画家が最後に残した決死の思いを御倉瞬介が読み取るというもの。こん身の思いで残した遺言ということはわかるのだが、あまりにもわかりにくすぎやしないだろうか。尋常では読み解けない謎を残した意味がわかりにくい。

「闇の揺りかご」は地震により閉じ込められたまま、子供を産み、命を落とした女性の想いについて、真相を読み解くという内容。今回掲載されたなかでは一番短い作品ながらも、一番ミステリとしての内容がよいと感じられた。他の作品と異なり、美術的なものからやや離れたがために、ミステリに没頭できていたようにも感じられる。とはいえ、それではこのシリーズのスタンス自体が意味のないものになりかねない。

 なかなか美術とミステリを両立させるというのも難しいことであると考えさせられた。特に最近ではこうした作風のものが多く出ているので、そういったなかで傑出した作品を出すというのは、並大抵のことではできないであろう。


バミューダ海域の摩天楼   6点

2011年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「バミューダ海域のドラゴン」
 機密装置を載せた空軍輸送機が消息を絶った。場所はあの有名な“バミューダ・トライアングル”。アメリカ情報保安局の要請を受け、ウェルズリー工科大学のDrショーインこと13歳の松陰博士が怪事件の謎を解く。

「熱波の摩天楼」
 ペルーにて遺跡の発掘作業を行うDrショーインの元に情報保安局の者がやってきた。アメリカの打ち上げに失敗した人工衛星の破片がこの地方に落ちてくる可能性があるためのとこと。そうしたなか、Drショーインはウイルスと薬剤にまつわる争いに巻き込まれ・・・・・・

<感想>
 おぉっ、新シリーズはなんと13歳の天才児! でも、“天才・龍之介が行く!”シリーズの龍之介とイメージはほとんど変わらない。違うところと言えば、龍之介よりも13歳のDrショーインのほうがしっかりしているところくらいか。

 キャラクターに関しては置いといて、やっていることは悪くないと思われる。現代科学の新たな流れを取り入れ、さまざまな不可解な事象の謎を解くという試みは面白い。久々に理系ミステリを堪能できた気がする。

 ただ、不可解だったのは2作目の「熱波の摩天楼」。1作目の「バミューダ海域のドラゴン」が良作だったゆえに、2作目でやたらとトーンダウンしてしまった気がしてならない。

 落下する人工衛星、古代遺跡の謎、感染する謎のウイルスといったさまざまな要素が挙げられているにもかかわらず、そのどれもがリンクしないという不思議な内容。特に人工衛星が添え物にすぎなかったのには納得がいかなかった。ミステリとしても、謎の提示がほとんどなされないまま話が進められていくし。
 まさか、シリーズ2作目にして早くも行き詰ってしまったのか??


翼のある依頼人  慶子さんとお仲間探偵団  6点

2011年07月 光文社 単行本

<内容>
 「女性恐怖症になった男」
 「翼のある依頼人」
 「見えない射手の、立つところ」
 「黄色い夢の部屋」

<感想>
「マスグレイヴ館の島」に登場した、シャーロキアン達が集うミステリ作品集となっている。どうやらシリーズ化?

 個人的にはシリーズ作品として微妙に思うことがある。今作の事件を見てみると、このシリーズの特徴(著者はコージー・ミステリを意識しているらしいが)を生かした事件という感じがしないのである。最初の2編は、まぁまぁとしても「見えない射手の、立つところ」なんかは、作風にあっていないのではないだろうか。
 せっかくシャーロキアン達が集うというのであれば、それらしい事件を扱った方がよいと思われる。また、名探偵が多すぎて、中心となる人物が分かりづらいというのも難点。

 マンションでの火災の後、死体が発見される「女性恐怖症になった男」と、迷いこんで来たしゃべるインコを保護したことにより明らかになる事件を描いた「翼のある依頼人」。この2編は事件の規模も大きすぎず、シリーズ作品としてもよかったのではないだろうか。ただ、ほんわかしたシリーズのようでありながら、意外と陰惨でどろどろとした内容の事件ばかりというのはいかなるものか。
 それと「女性恐怖症になった男」のほうのトリックについては、真昼間におおっぴらにできるものではなさそうな気がしたのだが・・・・・・

「見えない射手の、立つところ」は空中に浮いたピストルが発砲し、殺人事件が起こるという不可能殺人を描いたもの。とはいえ、事件の解決を聞いてもいまいち拳銃が空中に停止したままという絵図を思い浮かべることができなかった。

 最後の「黄色い夢の部屋」は分量からしてボーナストラック的な作品なのだが、意外と悪くない内容。これら一連の物語の締めくくりとしてはマッチしていると言えよう。


密室の神話  6.5点

2014年10月 文藝春秋 単行本

<内容>
 警察に遺体があるとの通報があり、美術アカデミーの別棟を確認することとなった戸賀刑事。管理人立ち合いの元、中を調べようとすると、外鍵だけではなく、内鍵も閉められていた。中に人がいないのを確認しつつ、ドアを蹴破って内部へはいる戸賀刑事。別棟の中にも内側から閉められた扉があり、それらを蹴破って入っていくと、とうとう死体を発見することに。建物の外側は雪で埋もれており、人の足跡はついていない状況。ただ、その中にひとつだけ靴の跡が残されていた。内部から鍵が閉められていたこともあり、世間から四重密室と騒がれることとなる事件。被害者は品行方正な学生で、決して人から恨まれるような者ではなかった。いったい、誰が、何故、そしてどのようにしてこのような犯罪を成しえたのか??

<感想>
 柄刀氏、3年ぶりの新作。以前は、これでもかというばかりに新刊が書かれていた柄刀氏であったが、2011年の半ばから沈黙してしまい、なかなか新刊が出されなかった。心配していたところにようやく3年ぶりの新刊が! しかもタイトルに“密室”と付いていれば、これは期待しないわけにはいかないであろう。

 今作ではなんと4重密室に挑むという作品。雪の上に足跡が付けられていないという状況。さらには建物の外から死体が置かれていた部屋までは、内側から施錠された扉を3か所通らなければたどり着けない。このような密室に挑む作品というものは近年書かれなくなりつつあるので、この状況だけでも十分に楽しむことができてしまう。

 今作の大きな特徴としては群像小説のようになっていること。主となる人物が誰なのかがわかりにくく、さらには、誰が事件と直接関係ないのかさえわかりにくい。結局最終的には、あまり事件に関係ないというか、描かれなくてもよいのでは感じられる人物も多々いるのだが、あえてこのような書き方に挑戦したようである。

 この作品では“密室”というものが強調されているようであるが、真相まで辿りつくと、実はミステリの主題としては“いかに”よりも“何故”という動機の方に力が入れられていると気づかされる。群像小説のように描かれているのも、この“何故”というところにポイントが置かれた故に、ということなのであろう。

 最終的には思いもよらぬ角度から攻め込まれ、なるほどと感心させられてしまう内容。ただ、未消化に終わってしまっているところもあり、ちょっと不満に残ってしまうところもある。さらに言えば、本格ミステリ故に、きちんとした探偵役が欲しかったかなと思わずにはいられない。あえて、中心となる探偵役を存在させないことがこの作品のポイントだとわかっていつつも、そう考えてしまう。


奇蹟審問官アーサー 月食館の朝と夜   5.5点

2017年12月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 陶芸家が遺した月食を観測するための不思議な館で一晩に二人の人物が殺害されるという事件が起きる。弟の甲斐の誘いにより、現場を訪れていた奇蹟審問官アーサー・クレメンスが事件の謎に挑む。

<感想>
 久々の柄刀氏の作品。昔、柄刀氏の作品を読んだとき、トリックについては秀逸なのだが、書き方や構成などは微妙だなと感じられた。しかし、作品を書くにしたがって、そういったところも改善され、昔の作品と比べて、内容全体がレベルアップしていった。それが久々に書いた作品という事もあってか、本書については昔の作品に逆戻りしてしまったというように感じられた

 前半、長々と物語の背景について語られて、中盤くらいでようやく事件が起こるのだが、その前半に語られた要素が後半に活かされていたようには思えなかった。特に“月食”とか“美術品”とか、そういった重要と思える要素がほとんど事件に生かされていないということが、どうしたものかと。

 中途半端な論理系フーダニットものの作品を読まされたという感じ。なんやかんやで“奇蹟審問官”が挑む事件ではなかったような。


ミダスの河   名探偵・浅見光彦 vs. 天才・天地龍之介   6点

2018年07月 祥伝社 単行本

<内容>
 ルポライターの浅見光彦は、かつて移植手術を待つ少女と出会い、その少女と適合するドナーが見つかったため移植手術を受けようという日、その病院を訪れた。するとそのドナーの女性が病院からさらわれたとの報を聞くことに。事の発端は、ドナーの女性が資産家の隠し子ではないかという疑いによるものだと・・・・・・
 天地光章は従兄弟の天地龍之介と恋人(?)の長代一美の3人で山梨県で行われている砂金採りのイベントに参加していた。そのイベントの最中、土手の上を走っていた車から人が転げ落ちてくるのを目撃する。助けに駆け寄るも、その男性は死亡してしまう。光章ら3人は、目撃者として不可解な殺人事件と関わり合うこととなる。
 やがて二つの事件は“甲斐のミダス王”と呼ばれる資産家を中心として結びつき、彼のもとに浅見光彦と天地龍之介らが集うこととなり・・・・・・

<感想>
 柄刀氏の新作は、単なる天地龍之介シリーズというわけではなく、なんとミステリ作家・内田康夫氏のキャラクターである浅見光彦を登場させての豪華共演作。豪華といっても、柄刀氏の作品を読み続けている人を別とすれば、圧倒的に浅見光彦のほうが有名であろうが。

 舞台は信玄埋蔵金が噂される山梨。浅見光彦は手術を待つ少女のドナーが誘拐されたという事件を追い、天地龍之介は砂金採りイベント中に遭遇した殺人事件の目撃者となる。そうした二つの事件が交錯してゆき、やがて探偵コンビが顔をそろえて、協力して事件の解明を行ってゆくというもの。

 序盤の展開はかなり魅力的と思えた。浅見光彦、天地龍之介、それぞれのパートで事件が発生し、その裏には“隠された金鉱”の存在があり、やがて二つの事件が重なってゆくということを予感させ、その後の展開が気になってしょうがなかった。ただ、中盤は中ダレ気味。序盤は、それなりに事件が立て続けに起こるものの、中盤は特に事件も起こらず、無意味に時間を過ごしているような気がしてならなかった。後半にはいると、素早い展開が戻って来て読む側を惹きつけるものの、それだけに作品全体をもっと短くしても良かったのではないかと考えずにはいられない。

 あと気になったのは、事件を起こす犯人があまりにも小物というか、事件自体の存在意義が希薄にも感じられるところ。特にドナーの誘拐犯については結局何がやりたかったのかわからず、さらにはそんな人物に右往左往させられる主人公や警察側の対応も微妙。事件全体と犯罪者側のスケールが合わなかったように思えたのは難点であったかなと。

 とはいえ、基本的にはミステリ作品として、それなりの出来栄えであったと感じられた。アリバイトリックや一見、密室殺人と思われる不可能犯罪についてもしっかりとした解決がなされていた。まぁ、全体的には浅見光彦ファンも天地龍之介ファンも納得させられる作品であったのではないかと思われる。




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