<内容>
百人一首カルタのコレクターである会社社長・真榊大陸(まさかき だいろく)が自宅で殺害された。そのとき大陸は、大陸の息子二人、娘二人、秘書二人、そして通いの家政婦とで過ごしていた。頭痛をうったえた大陸が自分の部屋に引き上げた後、その大陸が自室で他殺体として発見されたのである。その手にはダイイング・メッセージなのか、百人一首のカルタの一枚が握られていた。警察の捜査が進められるものの、誰が犯行を成しえたのかわからないまま、捜査は暗礁に乗り上げる。そうしたなか、ジャーナリストであり、叔父が捜査一課に勤めているという小松崎が、事件のことを大学時代の同級生である博覧強記の薬剤師・桑原崇に相談する。桑原は、事件の謎と、百人一首に隠された秘密を解き明かそうと殺人事件に挑むことに!
<感想>
メフィスト賞受賞作で、発売当初に読んでいたのだが感想を書いていなかったので、文庫版を購入し再読。最近、高田氏の作品自体読んでいなかったので、久々にこのQEDシリーズを堪能できた。
今回再読して感じたのは、実は殺人事件の謎と、百人一首の謎はあまりリンクしていないということ。起こる事件については、それだけでもきちんとミステリとして成立している。ただ、それだけではややミステリとしては薄めともとれるので、華々しく百人一首というものを取り入れ、ひとつの物語に仕立て上げたという感じである。
百人一首に興味がある人にとっては楽しめるのではないだろうか。あまり興味がない人は、私のように飛ばし読み気味に読むこととなるであろう。ただ、未だにこの作品が文庫版で入手できるというのは、意外とマニアックに読み継がれているということではないだろうか。実は歴史ミステリとして、価値ある一冊といってもよいのかもしれない。
ミステリ作品としては薄味のようであっても、実はきっちりと描かれている。ミステリネタとしては、微妙にも感じられるのだが、伏線をきっちりと張っているところは見事。また、主人公の薬剤師という設定も作中にきちんと生かしていたりする。百人一首はもとより、歴史にもアルコールにもさまざまな分野に対して造形が深い、博覧強記のミステリ。
<内容>
背スラリ、髪サラリの天才高校生・千波くんが、千波の親戚で浪人生の“八丁掘”もしくは“ぴいくん”と“八丁掘”の同級生で剣道をたしなむ大男・饗庭慎之介らと共に、鮮やかに難問を解き明かす。
<四月>「9番ボールをコーナーへ」 (メフィスト 2001年5月号)
麻薬の取引の前に必ずその男が現れる喫茶店。男はそこで取引場所の情報を得ているらしいのだが・・・・・・
<五月>「My Fair Rainy Day」 (メフィスト 2001年9月号)
バイキングレストランで紛失した黒真珠の行方は?
<六月>「クリスマスは特別な日」 (メフィスト 2000年5月号)
不定期に犯行を続ける連続爆弾魔。爆弾魔の狙う場所と法則を見破ることができるのか??
<七月>「誰かがカレーを焦がした」 (書下ろし)
千波君の家で開かれたパーティ。交代でカレーに火をかけ見張りをすることになったはずだったのだが、カレーの出来具合ときたら・・・・・・
<八月>「夏休み、または避暑地の怪」 (メフィスト 2000年9月号)
千波君一行がスイカ泥棒を追いかけたことによってたどりついたとある寺。そこには双子の住職と三つ子坊主が!しかもその坊主は一人は本当のことを言い、一人は嘘を言い、一人は本当と嘘を交互に言うのだと!?
<追伸簿>(解答集)
<感想>
内容がどうのこうのというよりは、アイディアを買いたい一冊。クイズファンを喜ばせてくれるだけでなく、ストーリーを追って行くだけでも楽しくできている。シリーズものとしての構成も成功していると思う。毎回パターンを貫いているようにも見えて、ラストで読者の足をすくったりと工夫がなされているのも楽しい。これからも書きつづけてもらいたいシリーズだ。
<内容>
前作で大好評を博した論理パズル小説“千葉千波の事件日記”シリーズ、特別書き下ろし中編。今回も、天才高校生・千波くんと、浪人生の“八丁掘”、慎之介の3人組が、土砂崩れで“脱出不能の十三塚村”、“神裁きの土牢”など、続々現れる密室の謎に挑む。
<感想>
ちょっとした少年たちの夏休みの冒険譚めいた話になっていて、なかなか楽しめる。土牢の開閉の謎や、旅館での二つの密室劇と著者のこりかたもなかなかのものである。ただし、話の内容やトリックがそれぞれどこか聞いたことがあるようなものばかりでオリジナリティはあまり感じられなかったのが欠点か。
ただ、ひとつ少々苦手に感じたのは解決をわざとぼかしたかのような言い回しをされること。これもこのシリーズの作風なのだろうが、なんとなく引っ掛かったものを感じてしまう。明確に語っているようでもわからない人もいるわけだから(私のことです)もうすこしはっきりと解決してもらいたいものである。
<内容>
おなじみ天才高校生・千波くんと“ぴいくん”と慎之介の三人が繰り広げる“論理パズル小説”傑作短編集
<九月>「山羊・海苔・私」 (メフィスト 2002年9月号)
おなじみ三人組がひったくりを追いかけることに。ひったくりは川をわたって逃げたのだが、彼らが川を渡るには・・・・・・
<十月>「八丁掘図書館の秘密」 (書下ろし)
三人で図書館に来たところ、その図書館でなんと麻薬の受け渡しが行われているということを聞いて・・・・・・
<十一月>「亜麻色の鍵の乙女」 (メフィスト 2002年5月号)
千波君の高校の学園祭にてゲームを楽しんでいたところ、そこに犯罪の影が!
<十二月>「粉雪はドルチェのように」 (メフィスト 2001年1月号)
千波君に誘われて教会のミサに参加することに。しかし、そこでは次々と奇妙な出来事が・・・・・・
<一月>「もういくつねると神頼み」 (メフィスト 2002年1月号)
初詣に来た三人組。そこで出くわしたのは3組の老夫婦。彼らのそれぞれの名前を千波君が論理的に解き明かす!
<追伸簿>(解答集)
<感想>
私はパズル好きというほどのものでもないのだが、この作品はかなり気になるシリーズのうちの一つである。出だしはいつもワンパターンながらも中身に関してはさまざまな方式をとっている。ミステリ色が強く、事件がおきて解決するパターンやさほど事件というほどのものではなく、あっさりと解決されてパズルだけが残されるもなどと、いろいろな様相を見せてくれる。読者を惹きつけるパズルだけではなく、物語の展開としてもけっしてあきさせない。それも本書の魅力のひとつではなかろうか。
さて、内容というよりはパズルのほうであるが、
「山羊・海苔・私」ボートのパズル。解いてみようと思ったものの、それ以前に条件が全て頭に入ってこなくて断念。
「八丁掘図書館の秘密」なるほど、うーーんなるほど、あぁなるほど、なるほどなぁ。
「亜麻色の鍵の乙女」 ヒントはふんだんに出されてはいるものの・・・・・・わかりませんでした。あれ? このゲームの解答ないの??
「粉雪はドルチェのように」話の大筋はわかりました。信号のパズルについては・・・・・・聞かないで下さい。
「もういくつねると神頼み」すみません、最初から脳みそが考えることを放棄しています。
ちなみに私がわかったのはカバーの見開きのところについていたおまけのクイズのみでした。こんな私でもこの本が好きだといっていいのでしょうか? Pくんの名前はあいかわらずわかりません。
<内容>
勧修寺家の跡取り息子、文麿、31歳、独身。母親と執事の大原との3人暮らし。
文麿は母親から結婚をせかされるものの、勧修寺家の家訓によりお見合いなどはせずに自分自身で家に見合った女性を見つけねばならない。そんな困難のなか女性との出会いはあるものの、いつも最後のところで失敗してしまう。その原因とは文麿は酒に酔うと・・・・・・
漫画『麿の酩酊事件簿』をノベライズ化した作品。
<感想>
本書に似たような感覚の推理小説で山口雅也氏の「垂里冴子のお見合いと推理」がある。本書ではお見合いをすることはないのだが、出会う女性、出会う女性に次々と振られてしまう(しかも嫌われるというわけではなく、まことに不本意な形で)。ただし、本書はとても爽やかに描かれており、いやな気分を引きずるようなことはない(いやなもやもやした気分はすべて主人公が引き受けてくれる)のでライト系の読み物としては最適ではないだろうか。
推理小説としては毒殺方法を特定する「待宵草は揺れて」あたりが面白いだろうか。ただ基本的には推理小説というよりは物語という印象のほうが強い作品集である。
しかしこの主人公は果たして幸せになれるのだろうか? と思いながらも話が続いてもらうためには振られ続けてもらうしかないとも思う。でもなんとなく主人公のパートナーとなるべき存在が本書にて見え隠れしているようにも・・・・・・
<内容>
前作に引き続き、主人公・文麿は母親と執事の大原にせかされ、婚約者探しに奔走する。いつもこれはという女性を見つけはするものの、酒に酔ったせいか女性に見放されてばかり。なぜか見放された女性達は文麿に感謝しているようなのだが当人は何のことだかまったく覚えのない始末。
新キャラも加わり、書き下ろし2編を含めた、すます快調な酩酊シリーズ。
<感想>
漫画(全2巻)で出版されているものをノベライズ化した作品ゆえに、このシリーズは本書で終わってしまうのかと思っていた。ところが書き下ろし作品まで加えたところを見るとまだまだ続けていくような気配である。
ただ、これがシリーズ化して続けば続くほどミステリーとしては薄味なものになっていくのではないだろうか。とりあえず、パターン化はしているので一つの事件の謎と一人の女性の悩みを当てはめることにより物語は成立する。女性の悩みに関しては推理小説として問われる部分ではないだろう。よってミステリーとしてでき映えは事件の謎解きのみにかかってくる。ただし、短編の一発ネタだけで読者を感嘆させるようなミステリーを作るのはなかなか難しいことであろう。
とはいうものの、とても読みやすい気軽に手に取ることのできるミステリーであることは確か。パターン化され、なおかつコメディ調といってもいい作風により、楽しく読めることは請け合いである。
<内容>
中学生の天童純はいじめっ子から逃げている途中、古い寺に迷い込んだ。純はその寺に住む僧侶・源雲の手によってタイムスリップさせられてしまう。なんでも純こそが尊き血を受け継ぐ鬼を退治する者だというのである。平安時代にたどり着いた純は周囲の協力により徐々に力に目覚め、鬼と対決することになるのだが・・・・・・
<感想>
少年を主人公にした伝奇小説なのであるが、その内容の深さに驚かされる。最初は主人公がタイムスリップし、人々に成り代わって鬼達をバッタバッタと退治するという話かと思った。しかし、少年が「鬼とは何か?」と考え始め、そこから少年の固定概念を覆すようなことに次々と出会うことになる。“伝えられなかった歴史の中にこそ真実が隠されている”という言葉には考えさせられるものがある。
いやはや、これは本当に良い小説なのではないだろうか。内容が面白いだけではなく、色々なことを考えさせられる本になっている。今回出たミステリーランドの三作の中では、本書に軍配をあげたい。
あと、それとなく“足跡のない殺人事件”がミステリーとして加えられているのはご愛嬌というところか。この作品に関しては続編も出されるようなので楽しみである。
<内容>
平安時代に連れて行かれ、鬼と貴族との戦いに巻き込まれた天童純。しかしその戦いのさなか突然現代に戻され、あの出来事は夢だったのではないかと思い始めたとき、純は再び平安時代に呼び出される。戦いが膠着するなか貴族達は最後の手段として鬼達を封じ込める作戦に出ようとするのだが・・・・・・
<感想>
前作“鬼の巻”の続きである。ゆえに前作を読んでいた人にとっては必読の書。とはいうものの、今回は戦いがメインのように感じられ、前作のような“問いかけ”が少ない分、普通の伝奇小説になってしまったという印象である。今回の目玉は“桃太郎の解釈”くらいかなと思える。
本書も面白いことは面白いのだが、少々否定的に感じられるところもある。それはこの本を2冊に分けたことである。前作のラストで主人公は現代に戻り、本書でまた過去の世界へと旅たつことになるのだが、現代に戻っていた意味というものが全く感じられなかった。あくまでも“鬼の巻”と“神の巻”をつなぐというだけの意味しかないというのであれば、もったいない設定ではないだろうか。
また今作がいくら“神の巻”だからといって、名前だけしか出てこない“神様”を登場させすぎとも思えた。この辺はもう少し抑えたほうがよかったのではないだろうか。このことによって前作で出てきた貴族側の登場人物たちがあまり触れられることなく終わってしまったのは残念である。
と、否定的な意見も述べはしたが、普通に読めばそれほどは気にならない事項であろう。リーダビリティがあることは確かな本なので安心して読んでもらってよい本であることをここに付け加えておきたい。
<内容>
またまた“ピィくん”が同級生で浪人仲間の饗庭慎之介、親戚の眉目秀麗な千葉千波君、そして千波君のことが大好きなピィくんの妹らと共に、日常に起きた不可解な出来事をパズルのように解決してゆく。
千葉千波の事件日記シリーズ第4弾。
<感想>
ミステリーというよりは、お馴染みのシリーズものの読み物として楽しみめる一冊である。今作は読んでいてあまりミステリーという気はしなかったものの、パズル本としての密度は今までの中で一番濃かったのではないかと思える。昔、評判になった「頭の体操」というクイズ本があったが、あれが好きだった人は本書をより楽しく読むことができるのではないだろうか。
私なんぞは、作中に出てくるパズルはほとんど解いていないが(というより、解けそうもないので挑戦もしなかったというのが正しい)それでも楽しく読むことができるので、気楽に手にとってもらいたい一冊である。
それと本書で気になったのは、“ピィくん”の名前に関するヒントがそこここに書かれていたこと。しかし、それにも関わらず、未だに私には、その答えがわからない。あぁ、かなり重要なヒントが出ているのになぁ・・・・・・いったい何なんだろう・・・・・・
<内容>
無事に大学生となった“ピィくん”が大学の同級生や、親戚で眉目秀麗な千葉千波君らと共に怪奇事件に挑む!
「油絵が笑う」
「首が転がる」
「靴が鳴る」
「箸が転ぶ」
「立って飲む」
<感想>
6年ぶりに千葉千波シリーズが出たということで、高田氏の作品を久々に購入し読んでみた。久々に昔懐かしのシリーズを楽しめたという感じ。内容としては、酒を飲んでいる場面が多いせいか、“麿の酩酊事件簿”のシリーズも包括したようにも感じられる。
今作では怪奇色の強い怪談めいた事件の謎を解くというものになっている。探偵役は当然ながら千葉千波君。そして真相を解いた後に、“怪奇日記”と銘打つだけのひと波乱が待っているという内容。
また、一番最後の作品「立って飲む」は写真入りの作品となっており、これは事件関係するというわけではなく、「立ち呑みの日」というイベントを紹介するという要素が強いだけのよう。
今作で感じたことをひとつ。大学生が飲み屋に集まり、事件について語りだすというスタンスは西澤保彦氏の作品を思わせるものがある。ただ、本書に関してはその酒を飲み交わしながら語っている場面があまりにもつまらないのである。というのも、決して仲の好さそうではない4人組が集まって、いがみ合いこそしないものの、延々とかみ合わない話がなされている。ピィくんをはじめとして、ここに集まっている4人はこの状況を楽しんでいるのだろうか? 読んでいても不快感のほうが強く、ミステリ部分以外はあまり楽しめなかったのだが。