白川道  作品別 内容・感想

流星たちの宴

1994年09月 新潮社 単行本
1997年08月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 時はバブル期。三十七歳の梨田雅之は、投資顧問会社社長の見崎に見込まれて「兜研」に彷徨い込むが、仕手戦に出た恩師-見崎を土壇場で裏切る。手にした大金を浪費した後、自ら仕手集団「群青」を率いて再び相場の世界に戻った梨田は、知人からの極秘情報を元に、一か八かの大勝負に乗り出した。


海は涸いていた

1996年01月 新潮社 単行本
1998年04月 新潮社 新潮文庫

<内容>
 都内に高級クラブ等を所有する伊勢商事社長、36歳の伊勢孝昭は暴力団に会社の経営を任されていた。彼には殺人の過去があったが、事件は迷宮入りしていた。しかし、孤児院時代の親友が犯した新たな殺人が、その過去を呼び起こし、警視庁・佐古警部が捜査に当たる。そんな折、伊勢はヤクザ同士の抗争に巻き込まれて・・・・・・。天才音楽家の妹と友人を同時に守るため、男は最後の賭けにでた。


カットグラス

1998年07月 文藝春秋 単行本
2001年07月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 株相場の世界から小説家へと転身した男のもとへ、昔別れた女から賭け麻雀の話が持ちかけられる「アメリカン・ルーレット」、高校時代の同級生三人の友情と、一人の女性への愛を描いた表題作など全5編。

 「アメリカン・ルーレット」 (オール讀物 1997年9月号)
 「イヴの贈り物」 (オール讀物 1997年12月号)
 「カットグラス」 (オール讀物 1998年4月号)
 「浜のリリー」 (オール讀物 1997年4月号)
 「星が降る」 (オール讀物 1998年7月号)


病葉流れて   

1998年09月 小学館 単行本
2004年08月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 梨田雅之は大学に入学し、親元を離れ寮生活を送ることになった。そこで梨田は“麻雀”と運命的な出会いをする。梨田はいろいろな人に会い、そして“麻雀”にのめり込み、いつしか博打の世界で生きていくことを決心する。

<感想>
 本書はミステリーではなく、いわゆるギャンブル小説である。主題は“麻雀”で他にも“競輪”についても書かれているのだが、それらがとても興味深い。これは読む人によってはその道にはまり込んでしまう第一歩となり得るのではないだろうか。もっともそんなことをこの著者に言えば、“甘い!”と一括されそうでもあるのだが。

 この物語では主人公の梨田がいろいろな人から“博打”に生きる者の考え方を聞き、自分はどうするのかと自問自答しつつ、博打の道へと少しずつ入り込んでいく様子が描かれている。少々、その周りで手助けしてくれる人物達が都合が良すぎるきらいもあるのだが、とにかく内容に引き込まれ、ぐいぐいと読まされてしまう。“麻雀”についてほとんど知識のない私でも、興味深く読むことができた。本書はある意味、“ギャンブル小説”というよりは“青春小説”としての側面のほうが強く感じられるようにも思えるので、そういう意味でも誰が読んでも面白く感じられるのではないだろうか。

 ただ、本書を最後まで読むと、逆に食い足りなさを感じてしまう。もっと続きを読ませてくれと感じてしまうのだ。実は本書には続編が出ている。この本自体は1998年に出たのだが、昨年の2004年にようやく続編の2作目と完結編となる3作目が立て続けに出版された。文庫になるまで待つかどうか悩みどころである。

 さらには本書の主人公は著者の処女作「流星たちの宴」の主人公と同一人物らしいのだ。私自身「流星たちの宴」を読んだときも食い足りなさを感じたのだが、全て合わせて4冊読めばこれは十分に満足させられる内容となるのではないだろうか。さて、全部そろえて読みきってしまうべきか考え処である。


天国への階段   7点

2001年03月 幻冬舎 単行本(上下)
2003年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫(上中下)

<内容>
 何も持たない無一文の状態から、政財界までもが注目する青年実業家に成り上がった男・柏木圭一。彼の成功の裏には、とある復讐の情念が隠されていた。そして政界までも脅かすほどの財力を手に入れた今、柏木はその復讐へのシナリオを突き進めようとする。しかし、柏木の過去の秘密に関わる、とある犯罪により彼の足元は少しずつ崩れ落ちようと・・・・・・

<感想>
 本書を読み終わった後、さてどのような感想を書こうかな、などと思いながら“あとがき”(文庫版)を読んでみると、そこに書かれていた北方謙三氏の一言にやられてしまった。この大作を北方氏は一言で表わしていた。「愚直」と。

 やられた、本当にこの一言でやられてしまった。確かにこの本の内容はそのとおりなのである。登場人物の多くがまっとうであり、予想外というような行動は決してとらない。良い行いもまっすぐであり、悪い行いでさえも、それがまっすぐに見えてしまうのである。決して犯罪行為を美化するような気はないのだが、それでも登場人物らの人生は「まっすぐなものであった」といってあげたい気持ちにさせられる。

 小説としては王道といってもいいような内容であるにも関わらず、二世代(あるいは三世代といってもいいかもしれない)にわたる登場人物と、核となるべき事件とその周りに配されるいくつかの事件も用意されて、興味の尽きぬ物語となっている。事件を追う刑事と二つの復讐の物語という構成も見事である。そして、それを取り巻く女性達や脇役たちが十二分に物語りに華を添えている。ドラマ化されたと聞いたときは、1つの本をドラマ化など量的に可能なのかと思っていたが、この内容ならば十分であったのだろう。ミステリーという言葉だけでは表すことのできない濃厚な人間の物語が描かれた小説である。


朽ちた花びら  病葉流れてⅡ   

2004年07月 小学館 単行本
2005年08月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 ギャンブルを糧とする裏社会にはまりつつある梨田は大学を休学し、麻雀に明け暮れる日々を過ごす。何人かの女たちと付き合いつつ、博打に明け暮れる日々の中、ある日、彼に麻雀を教えてくれた永田から連絡があり・・・・・

<感想>
 第2巻になって、ギャンブル小説というよりも青春小説という味が深まってきたかのように思える。ギャンブルに明け暮れつつあるなかで、恋人ができ、将来に不安を抱き、それでもギャンブルをする以外に道が開けないという葛藤がうまく表されている。主人公はそんな自分自身をどこか欠陥がある人間だと思い込み、それがサブタイトルにもある“病葉”という言葉を見事にあらわしている。

 また、ギャンブル小説とはいえ主人公が麻雀で勝つ場面がほとんどないというのも興味深いところである。ギャンブルなんていうものは、うまく行くものではなく、甘いものでもないという事を作品全体で表しているともいえよう。そして、本書のラストで主人公は人生の転換を迫られる事になるのだが、その選んだ道もまた興味深いものであった。最終巻も早く読みたいものである。


崩れる日 なにおもう  病葉流れてⅢ   

2004年09月 小学館 単行本
2005年12月 幻冬舎 幻冬舎文庫(上下)

<内容>
 大学を卒業した梨田は大阪で電機会社に就職した。しかし、社会人としての生活になじむ事ができず、会社の同僚とも打ち解けず、一人夜な夜な賭け麻雀に没頭してゆくことになる。その麻雀生活の果てに、やがて梨田は相場という世界へと足を踏み入れてゆく事に・・・・・・

<感想>
「病葉流れて」の最終巻。今まで麻雀三昧であった梨田が就職をするものの、結局その生活になじむ事ができずにまた麻雀三昧の生活に逆戻りする事となる。というよりは、よくこの主人公が偶然とはいえ就職する気になったなぁと思わずにはいられない。その後の転落人生とまでは言わないものの、社会のレールからドロップアウトしていく様はもうこのシリーズを読み続けているものにとっては予想通りの展開であろう。

 そして本書では麻雀に変わって主人公を惹きつけてゆくことになるものが登場してくる。それが“相場”の世界である。というものの、その相場に対しては書き足りなく感じられたのが残念なところである。本書の半分が過ぎてようやく主人公が相場の世界に踏み込んでいくものの、できれば一冊まるまる使って書ききってもらいたかったところである。それゆえに、後半は急ぎ足の展開となり、またご都合主義的なところも多かったように感じられた。

 まぁ、何はともあれ夢中になって読めたシリーズであったことは間違いない。できれば、この物語が終わったときにデビュー作の「流星たちの宴」へと自然に流れ込むような形になっていれば最高だと思えたのだが。


12月のひまわり   6点

2004年12月 講談社 単行本
2005年12月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「十二月のひまわり」
 「切り札」
 「淡水魚」
 「車券師」
 「達 也」

<感想>
 さまざまな人間模様が描かれた短編集となっているのだが、なぜかハードボイルド作品と思わせるような雰囲気をもっている。ハードボイルドのようだといっても、決して探偵が出てくるような小説が含まれているわけではない。それぞれの短編に出てくる主人公達は、さまざまな過去を背負い込んでいるとはいえ、どちらかといえば会社勤めをしている一般人よりの人物が多い。にもかかわらず、ハードボイルドの香りがただようのは、その主人公達の生き様があまりにも潔く見えるからであろう。はっきり言って、そこまで愚直なのは潔すぎるのではないかと苦言すら述べたくなってしまうのだが、それでも彼らの生き様に見入ってしまうのである。

 この短編集の中で一番面白く読めたのは「車券師」という一編。この作品は“競輪”というギャンブルによって生計を立てている者を描いたもの。これはなかなか奥深そうで、もっと書き込んでもらいたいと思った作品。ぜひともこのネタで長編をお願いしたいところである。


最も遠い銀河   6点

2009年07月 幻冬舎 単行本(上下)
2010年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫(4分冊)

<内容>
 小樽署の元刑事・渡誠一郎は長きにわたる刑事生活において一つ悔いを残していた。それは、小樽の海で発見された女性の水死体の件についてである。漁船によって発見されたものの、既に白骨化しており、結局身元不明のまま事態は進展せず捜査は終結してしまったのだ。渡は自分の娘が亡くなった場所で発見された死体のことを忘れられず、なんとか調査を継続できないかと考えていたとき、思いもよらずテレビから一つの情報を得ることとなり・・・・・・
 建築家である桐生晴之は、大手建築会社から独立して、自分で事務所を立ち上げたものの、大きな仕事をとることができず焦っていた。大学時代の同期の友人たちは、それぞれうまくやっており、それも彼を焦らす理由のひとつであった。昔、桐生は最愛の人との約束をしており、なんとかそれを実現しようとしていたのであった。そんなとき、かつての不良仲間が出所してきて、桐生は彼と会うこととなった。それをきっかけに桐生の人生は大きな転換を迎えることとなり・・・・・・

<感想>
 読んでいてなんともやるせない気持ちになった。特に物語に感情移入すればするほど、なんともいえない気持ちになってしまう。この作品では主として、新進の建築家・桐生と元刑事の渡という二人のパートにより、交互に進められていく。これを読んでいるとき、この二人のどちらに感情移入することになるかで、物語の印象はだいぶ異なるのではなかろうか。いや、むしろこの二人というよりは桐生派か反桐生派に分かれてしまうのではなかろうか。

 私は桐生よりで読んでいたのだが、そういう立場で読むと、なんともこの渡の行為に対して腹が立ってしょうがないのである。思わず「余計なことばかりするな!」と言わずにはいられなくなるのだ。桐生という人物は、若いころは不良グループの一員としてそれなりのことをやってはいたものの、現在では厚生して普通に働いている。やや、女癖が悪というところはあるにしても、ひとつの夢を実現しようと仕事に邁進しているのである。ただ、その夢を妨害せんがごとく渡という元刑事がしゃしゃりでてくるのである(渡本人は決して悪意などはないのだが)。

 桐生の行為というものは、実はそれほど悪くはないものの、詳しい事情を知らなければ“極悪人”の一言で済まされかねない背景を持っている。ゆえに、必要以上に彼の過去を暴けば暴くほど、桐生は追い詰められてゆくこととなるのである。そうして、最後に彼らはどこへ到達するのかが物語の大きな山場となる。

 まぁ、最後は白川道作品らしい終わり方であったという印象。「天国の階段」という作品では“愚直”という言葉が使われたが、それに似かよったかのような潔さ。ただ、ひとつ問いたいのは、人間というのはそこまで潔癖ではないと成功してはいけないのだろうかと。また、物語の後半の渡のセリフに対しては白々しさしか感じられなかった。どうも必要以上に過剰に反応してしまうのは、登場人物に感情移入し過ぎたせいなのであろうか。個人的には、もっと違う終わり方はなかったのかと考えずにはいられない。


祈る時はいつもひとり   5.5点

2010年07月 幻冬舎 単行本(上下)
2012年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫(上中下)

<内容>
 企業の調査を行うリサーチ会社を個人経営で行いつつも、開店休業状態である茂木彬に仕事が依頼がきた。しかもその依頼は暴力団の組長からで、瀬口良則という男を捜してもらいたいというのである。その瀬口は茂木の親友であり、5年前に10億の資金とともに行方をくらましていたのだ。当時、彼らは投資の仕掛けを行っていたのだが、今になり当時と同じような株の動きを始めたために瀬口が帰ってきたのではないかという噂が立ち始めたようなのである。瀬口失踪後、無気力な状態になっていた茂木であったが、この話を聞きつけ、再び瀬口と会いたいという強い思いにかられはじめる。そんなとき、瀬口の妹と名乗るものが彼のもとを訪れ・・・・・・

<感想>
 なかなか長い作品であり、読むのに少々時間がかかってしまった。ただし、内容が難解だとかそういうことではなく、全体的に単調だったという感触であった。

 内容は、数年前に失踪した親友の行方を、とあるきっかけにより探し始めるというもの。その調査を進めていくうえで、企業の闇を暴き出したり、果ては香港マフィアにかかわる対立にまで巻き込まれてゆくこととなる。

 主人公が調査のうえで、さまざまな出来事に巻き込まれてゆくわりには、肝心の事件の中心に主人公がいるわけではない。あくまでも、調査をしていくことによって起きた事件や現在進行形の事件などの様相がどのようなものなのかを理解していくというのみ。その過程で、誰かに聞き込みをし、何者かに襲われ、また聞き込みをし、という展開がただただ続けられてゆく。

 なんとなく面白い展開のようでいながら、肝心の事件がどこかよそで起きているものというような感覚が、作品にのめり込めない要因であろうか。主人公は基本的には、調査をしているだけという感じであるためか、読んでいる側も深く内容に潜り込めずというような感じであった。

 あと、最後の展開はどうなのかなぁと。この著者らしいといえば、それはそうなのだが、どうも物語の展開上、不必要に場の盛り上げを狙っているというようにしか・・・・・・


竜の道   6点

2009年09月 講談社 単行本(「竜の道 飛翔篇」)
2011年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫(上下)

<内容>
 双子の兄弟の竜一と竜二は、養父母のもとを離れ、貧しい生活から成り上がろうと決意する。竜一は自分が裏の顔となるので、竜二には表の顔となるようにと指示する。竜一は、自分の身代わりを用意し、養父母とともに家を焼き、自身を死んだこととする。竜二は養父母の保険金を利用し、東京で官僚を目指し、日々勉学に励み始める。竜一は、別の身元を用意し、株の業界紙を発行する新聞会社に潜り込む。そこの社長が重体となった時、これを機に会社の乗っ取りを図ろうとする。さらに竜一は、大物ヤクザである曽根村の信頼を勝ち取り、自分の背後を固めようと奔走し・・・・・・

<感想>
 いつもながらの白川氏らしい作品であるが、今作はかなりアウトローより。双子の兄弟竜一と竜二の物語であるが、話のほとんどが竜一視点として語られている。

 今までの白川氏の作品だと、株や賭け事などに手を染めても、極力一般人としての道から外れないという者を描いていたような気がするが、この作品の主人公は必要とあれば犯罪にも手を染めつつ成り上がろうとする。また、金を設ける手段として株や金融などを利用するというところは、今までの白川作品でよく描かれている内容。

 この作品の時代設定はバブルが崩壊する前の羽振りの良い時代を描いており、その時代の中、株や証券取引などありとあらゆるものを利用して竜一は金を稼いでいこうとする。しかし、大きな案件になると無名の若者が信用されるはずもなく、強力な後ろ盾を得るために、ヤクザの大物と取引をする。

 そうして、徐々に力を手に入れていくのであるが、あるときから竜一は、いずれ今の地位を捨てて、外国で新たな人間として成り代わるということを計画する。それが後半の物語になると思いきや、この作品の最後まで、その計画を引っ張ることとなる。要するに、本書が前編でいずれ後編にあたる作品が出るという事なのか? ただ、気になるのが単行本で発売されたときは“飛翔篇”という副題がついていたのだが、文庫化されたときには、これがついていなかった。まさか、この作品単体で終わってしまうという事なのであろうか?? なかなか面白い作品であるので、是非とも以降の話の続きを読みたいところであるのだが。


冬の童話   

2010年11月 ポプラ社 単行本
2011年12月 ポプラ社 ポプラ文庫

<内容>
 青桜社の代表取締役である石田の元にひとりの客が訪れた。その客である彼女は知り合いであり、現在歌手を目指してニューヨークでレッスンに励んでいるところ。そんな彼女が本を出したいと石田に相談しに来たのである。その本の内容は、彼女が一人の男性と知り合い、互いに恋に落ちていく様子を描いたもの。本を出すにあたって、石田はいくつかの条件を出すこととなったのだが・・・・・・

<感想>
 ほぼミステリという要素はなく、普通の恋愛小説となっている。白川道氏の作品を読んだ事のある人ならば、白川氏らしい恋愛小説であると認めることであろう。

 恋愛小説以外の要素としては、主人公のひとりが出版業界に身を置くものとなっており、そこでの生き方や考え方を垣間見えることができる。いかに良い本を出版するかという理念と、どうしてもそれに対抗してしまう経営理念との狭間にゆれる主人公の様相がなんとも言えない。個人的には、ひとの生き死にや恋愛よりも、この出版社としての先行きという物語のみを白川氏に是非とも描いたもらいたかったところ。

 恋愛小説としては、物語自体が単純で、話の先行きは読めてしまうものの、主人公たちの愚直な生き方に感涙してしまうのは、白川氏の小説を読めばいつものことである。と言いつつも、どの作品もだいたい同じような終わり方だなと思ってしまうのもまた事実。


身を捨ててこそ  新・病葉流れて   

2012年05月 幻冬舎 単行本
2013年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 梨田雅之は破滅と紙一重の博打を打ち、その代償として極道に刺されたものの、かろうじて命を取り留める。結局その博打に打ち勝ち、大金を得て、身の回りを清算し、梨田は大阪を後にする準備をしていた。そんな折、雀荘で砂押という男に出会い、意気投合し、いつのまにか梨田は砂押のことを師匠と呼び始める。二人そろって東京に帰ってきた後、梨田は砂押の紹介で広告代理店に勤めることに。そうして普通の勤め人として生きるはずであったのだが・・・・・・

<感想>
 白川氏による「病葉流れて」という、主人公・梨田雅之が学生時代に麻雀にのめり込み、やがては相場の世界へと入り込み・・・・・・という作品があった。てっきりそのラストで命を落としたものと思っていたが、その事件後からの梨田雅之の人生を描いた作品が書かれていた。それがこの「新・病葉流れて」。

 物語は昭和44年を舞台に、梨田雅之が偶然出会った砂押という男に導かれて、東京で広告代理店で勤め始めるという流れで展開していく。一見平凡なようなサラリーマン人生を送る中で、麻雀・女・厄介ごとは相変わらずついてまわり、徐々に会社の退屈な仕事にも嫌気がさし、というような感じで話が進められる。そして、今後どのような人生をたどってゆくのかが、このシリーズのなかで描かれてゆくのであろう。

 戦後の混乱のなかを生きてきた作家だからこそ描けるストーリー。昔は、こういった作品が多く書かれていたのではないかと思われるのだが、今の世では珍しい作風ではなかろうか。若い人よりも、ある程度の年配の層のほうが共感できる作品ではなかろうか。ただ、若い人にこの作品を読ませて、梨田雅之の人生についてどう思うか聞いてみたいところはある。個人的には、かっこいい生き方だとは思うのだが、あまりうらやましいとは感じられなかったのである。私が、もっと若い時に読んでいれば、もう少し違う捉え方をしたのだろうかとなんとなく考えてしまう。

 ちなみに、この「新・病葉流れて」のシリーズは、全4冊出版されている。白川氏が既に亡くなってしまっているので、きちんと完結しているのかどうかはわからないのだが(興味を損ねないように、あらすじとかを見ないで読むようにしている)、残りの作品を読んで梨田雅之がどのような人生をたどるのかをゆっくりと眺めてゆきたい。


浮かぶ瀬もあれ  新・病葉流れて   

2013年01月 幻冬舎 単行本
2014年04月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 師匠と慕う押砂の死を受けた梨田雅之。砂押の紹介で勤めることとなった広告代理店であったが、あまりその仕事に気は乗らなかった。しかし、砂押からあえてこの会社に勤めるように勧められた意図を組み、自分なりに仕事を覚え、世の中の流れを分析していこうと邁進する。そうしたなか、麻雀打ちの桜子との対戦に身を焦がし、水穂とベティという二人の女との情事に流され・・・・・・

<感想>
 新・病葉流れての2冊目。広告代理店で働く梨田が自分自身のこれからについて悩みながら考えてゆくこととなる巻。

 仕事をしつつ、麻雀をしたり、女の子と付き合ったりして、さぞかし充実した生活を送っているように思いきや、梨田自身は己が抱えているもやもやを晴らすことができない。というのは、自分自身が何をしたいか、何をすべきなのかが一向に見えてこないから。周囲の者たちを見下しつつも、その周囲の者たちは自分とは違い、目的をもって行動している。そうした何も持たない自身の状態にいらだちを感じつつ、麻雀や女にのめり込んでいくこととなる。

 今回は師匠と慕う押砂が亡くなり、宙ぶらりんの状態となった梨田の飛翔への序章へという感じ。ただ、飛翔と言ってもサブタイトルにある、あくまでも“病葉”の生き方であるので、普通の性成功を意味するわけではないであろうが、今後何かをやってくれるという前段階であるという事は予想される。また、この巻でのいくつかの出来事が未来への伏線となっているのではないかとも感じさせられ、残りの巻を読むのが楽しみである。


漂えど沈まず  新・病葉流れて   

2013年12月 幻冬舎 単行本
2015年10月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 梨田雅之は広告代理店で働き続けるも、徐々にその内幕を知ることになり、社内の人間関係に嫌気をさす。そうしたなか、大金をかけた麻雀をうつものの、気心は晴れず。また、株の道に誘われたり、作家が向いているのではといわれたりするうちに、他の方面への仕事に気持ちが傾き始める。そうしたなか、恋人付き合いを続けてきたベティに異変が・・・・・・

<感想>
 この一連のシリーズを読み続けていると、時代に対するそぐわなさというものをいつしか感じるようになってきた。当然のことながら、バブル期前からその後の時代を描いたものであるから、今の世に読めば社会事情も感じ方も全く異なるというのは当たり前のこと。ただ、それでも昔懐かしむならともかく、今の時代に読むような内容のものではないと思わずにいられなくなってきた。

 昔を懐かしむといっても、バブル期にこの主人公の周辺の人々と同じような生き方をしていれば感じるところもあるかもしれないが、そうでなければあまり感じ入るところはないように思える。また、いくら小説とはいえ、あまりにもご都合主義的なところ(主人公の人生がうまく行きすぎているように感じられるところ)には違和感を覚えてしまう。昔の小説ってこんな感じのものが多かったかもしれないが、それでもこの作品が描かれたのは4年前のことと考えると、どうなのかなと。

 もしかしたら、私自身がもう少し年をとれば、もっと肯定的にとれる内容なのであろうか。それとも、それぞれの生き方や感じ方によって、人を選ぶ小説なのであろうか?


そして奔流へ  新・病葉流れて   

2014年07月 幻冬舎 単行本
2015年12月 幻冬舎 幻冬舎文庫

<内容>
 梨田雅之は広告会社内で起きた汚職に巻き込まれたかたちとなり、辞職を決意する。さらには、ベティと水穂との付き合い方にも変化を強いられることとなる。そして無職となった梨田は、一見うさん臭く見える“了”と名乗る男との出会いをきっかけに、株の世界へと入っていくことを決意する。

<感想>
 一見、気楽そうに見える主人公の人生であるが、実際本人はそんなことはなく、まともな会社務めはできないとしながらも、ひとつの仕事に定着できない自身の姿に焦りを感じ始めることとなる。学生時代の無職と、いったん務めた後の無職では、その重みも異なり、単に麻雀を打ってあぶく銭を稼ぐという生活ではやりきれないと感じるようになりつつある。

 やがて株の世界へと飛び込んでいくこととなる主人公であるが、残念ながらその途中でこの作品は終わり、そして著者の死によって続きは読むことができないままとなってしまった。この後、著者の処女作である「流星の宴」へと続くこととなるはずであるが、そこへ至るまでの道のりはまだまだ先であったはず。

 このシリーズに関しては、そんなに長いものだとは思っていなかったが、最初の「病葉流れて」が3冊で、「新・病葉流れて」は未完ながら4冊。たぶん続くのであれば、まだ3、4冊はシリーズとして書き上げられたのではないかと予想できる。それがすべて書き上げられていたら、バブル期を書き表した小説として、文旦に残る大作となっていたことであろう。

 このシリーズ、決して今の時代に生きる若者に受け入れられるものだとは思えないが、この作品の時代と時を共に過ごした者にとっては懐かしさと共に存分に受け入れられるものではなかろうか。この小説を通して、団塊の世代の終焉を感じつつ、昔から今にかけて時代がずっと動き続けているということを改めて意識させられる。




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