<内容>
Ⅰ.名探偵の過去、現在、未来
Ⅱ.御手洗潔
Ⅲ.21世紀の本格
Ⅳ.未来の作家たちに
Ⅴ.探偵小説の映す近代
Ⅵ.本格と冤罪
Ⅶ.探偵小説あれこれ
Ⅷ.高木彬光と鮎川哲也
<感想>
いや、これはなかなかためになる本である。自分の全く知らない難しい分野ものが分かりやすく書いてあるので実にとっつきやすいものとなっている。今更ながら、この島田氏の文章力には頭が下がる思いである。
それで役に立った部分はどういうとこかというと、Ⅰ章にて「儒教社会と探偵小説」に関して書かれている部分。自分で儒教について調べることがあるかといわれれば、絶対にそのようなことはあるまいと答えるであろう(そもそも儒教なんていうものを考えたこともない)。その儒教というものが、いかに現代社会に通じてきたのかという事が実に分かりやすく書かれている。これにはなるほどと唸ってしまうものである。また、Ⅵ章にて一時期話題になった“コナン・ドイルの殺人事件”というものについても詳しく書かれている。これについても詳細までは知らなかったので、その内容について詳しく知ることができた。
こういったように、本書は知識の宝庫となっている。ただし、そのそれぞれの事にについては広く浅くしか載っていないので、詳しく調べるにはまた別の本が必要となるだろう。とはいえ、本書がそれら興味のきっかけになるうる本であるということは十分言えると思う。
ただ、そこには島田氏自身の意見も当然書かれているのだが、それらは鵜呑みにはせず、あくまでも一意見として聞いておくのが良いのであろう。書かれていることそれぞれについては、やはり自身で詳しく調べてこそ本質が理解できるのではないかと思えるので、とりあえずは自身でよく考えてみるというスタンスは必要であると思う。
そして本書では、ある種のボーナストラックといったものとして、御手洗潔の近況にふれている部分もある。一度雑誌等に載ったものが掲載されているとはいえ、ファンであれば必見であろう。しかしこれだけ読んでみると、もはや御手洗潔が日本に帰ってくることはないようにも思えるのだが・・・・・・。とはいえ、なんとなく御手洗という人格にしろ、島田氏にしても“あまのじゃく”のように思える部分もあるので、帰ってこなくてもいいと思っていれば、ひょっこりと御手洗が帰ってきてもおかしくはないと思う。
また、本書ではカッパ・ノベルスから出版された「21世紀本格」に掲載されていた島田氏の文章の全てが掲載されている。島田氏自身が“21世紀本格”という考え方にのっとって現在本を書き上げているのはよくわかる。それは去年出版された「ネジ式ザゼツキー」にも表れている。しかし「21世紀本格」にて執筆を募った作家達のその後の反応はどうかというと、さほどかんばしいものではないという感じがする。それを考えると、結局のところ“21世紀本格”という考え方はあくまでも島田氏自身のものであり、ムーブメントとして受け入れられるものではないということなのであろうかと思ってしまう。とはいえ、まだ21世紀を判断するのは時期的に早すぎるであろう。島田氏自身が新本格の先駆けとなったように、ひょっとしたら“21世紀本格”というものの先駆けにならないとは言い切れないのである。よって、ミステリーの読者としてはここから“21世紀本格”の行く末というものを見ていかなければならないということなのであろう。