島田荘司  作品別 内容・感想1

斜め屋敷の犯罪   8点

1982年11月 講談社 講談社ノベルス
1988年06月 講談社 単行本愛蔵版
1989年01月 光文社 光文社文庫
1992年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 北海道の最北端、宗谷岬の高台に斜めに傾いて建つ西洋館、その名も「流氷館」。この館で主人の浜本幸三郎がクリスマスパーティを開く。その場で浜本はパーティの出席者の青年達に、娘の英子をめとりたいならばこの問題を解いてみてくれと、花壇の模様の意味の性質を当てるという問題を提示する。そんな中、奇怪な密室殺人が起こる。パーティ出席者の菊岡の運転手・木田がナイフで刺され、鍵の閉められた部屋の中で奇妙な姿勢のまま殺されていた。部屋の外には足跡がなく雪が積もったままで、バラバラにされた人形が転がっていた。そして警察が到着し、捜査を進めるなか、今度は菊岡が違う部屋で、また密室の中で殺されていた。アリバイや動機を考えても犯人に該当するものがいなく、殺害方法もわからない。捜査が行き詰まる中、御手洗潔が流氷館に到着する。しかしその御手洗はゴーレム人形が犯人だといいだし、服を着せたりと、奇行をはじめる始末。そんな中また次の殺人が!!


死者が飲む水   6点

1983年06月 講談社 講談社ノベルス(死者が飲んだ水)
1987年05月 光文社 光文社文庫
1992年03月 講談社 講談社文庫

<内容>
 昭和58年1月。札幌の実業家・赤渡雄造のバラバラ死体が、二つのトランクに詰められて、家族の許に送られてきた。鑑識の結果、死因は溺死。殺害場所は、千葉県の銚子付近と特定。しかし、札幌署の牛越佐武郎刑事が追いつめた容疑者には、鉄壁のアリバイがあった。

<感想>
 丁度、これと同時期に鮎川哲也氏の「黒いトランク」を読んだのでその内容とかぶるような感触を受けた。だぶるのは“トランク”と“時刻表によるアリバイトリック”というもののみで内容がかぶるということはない。それでも私見でいえば、“島田荘司調「黒いトランク」”と銘を打ちたくなる。

 内容はなかなかのできに仕上がっている。といっても、自分はアリバイトリックというのはあまり好きではないのだが・・・・・・しかし、それを差し引いても十分楽しめる内容となっていた。重要な謎のポイントは「なぜ、トランクの中に死体を詰めたのか?」という理由にあると思う。これは推理によるものではなく、あくまでも犯人の背景によるものであるのだが、特にこの点が読物として面白く感じられた。どうも犯人は技巧を練りながらも、捕まることを前程にこの犯罪を犯したのではないか(無意識的であったのかもしれないが)感じられる。そのへんの犯人造形が本書では一番面白いポイントではなかろうか。


寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁   6点

1984年02月 光文社 カッパ・ノベルス
1988年01月 光文社 光文社文庫

 双眼鏡で覗きをしていた男が向かいのマンションの浴室にて、女が死んでいるのを発見した。警察は匿名によってかかってきた電話により、マンションを調べ死体を発見する。その女の死体は何故か顔が全面削られているという凄惨な状態となっていた。事件を担当することとなった捜査一課の吉敷であったが、調べていくうちに奇妙な事態に遭遇する。それは、被害者が東京の自宅で死んでいたはずの時間に、九州行のブルートレインにて、複数の者から目撃されていたのである。全く同じ顔をした女が二人いなければ、このような状況は成立しないはず。吉敷は日本全国を飛び回り、被害者の女の過去を洗い出そうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 吉敷シリーズの最初の作品をようやく読むことができた。ちょうど30年前に出た作品である。この作品を読んで損していると思えるのは、そのタイトル。これは時刻表ミステリのような作品かと思い、なかなか読まずにいたのだが、実際読んでみるとそんなことはなく、本格ミステリ色の濃い作品である。では、なんでこのようなタイトルにしてしまったのかといえば、実はこの作品が出た当時は、むしろこのようなタイトルでなければ、本が売れなかったようである。ゆえに、「占星術殺人事件」や「斜め屋敷の犯罪」が売れなかったので、このようになったとのこと。

 内容を大雑把にいうと、死んでいたはずの女が、どのようにしてブルートレインに乗って旅をすることができたのかというもの。このような不可解な謎が実にうまく解決がなされている。犯人らしきものが浮かび上がらない中で、吉敷は被害者の過去を洗い出しつつ、不可解な謎を全て洗い出し、徐々に真相へと肉薄していく。そうして、解決へと近づいたと思いきや、話はさらに二転三転としていく。

 最後の最後まで予断を許さぬ内容となっており、その意外性に度々驚かされる。ラストで警察がある人物に仕掛ける罠に関しては少々やり過ぎではないかと思いつつも、30年前の小説ということであれば、こういうのもありかなと。また、ちょっと二転三転し過ぎなきらいもあるものの、それでもよく考えてみれば一貫性のとれたミステリ小説としてきちんと仕上げられていることがわかる。読むのが今更ながらとなってしまったが、読み逃さずに済んだということで良しとしておきたい。


嘘でもいいから殺人事件   5.5点

1984年04月 集英社 単行本
1987年03月 集英社 集英社文庫

 アシスタントディレクター隈能美堂巧(くまのみど たくみ)とターボこと鈴木貴子は、ディレクターの軽石三太郎らと共に、やらせ番組の収録のため無人島へと渡った。収録後、台風のために船が来なくなり、島に足止めされることとなったスタッフ一同。そんなときにとてつもない事件が起こることに。台風のため外側から板を打ち付けて、外部からは侵入できなくなった家のなかで、殺人事件が起き、しかも死体が消えてしまったのだ! これは島に伝わる不気味な伝説が関係しているのか? 台風の合間をぬって、警察官が到着するものの・・・・・・

<感想>
 だいぶ前に読んだ作品の再読。ユーモアミステリという印象が残っていたので読みやすいかと思っていたのだが、久々に手に取ってみると、意外と読みづらかったような。これであれば、島田氏の普通の作品のほうが格段に読みやすいような。どうもユーモアといいつつも、そのユーモア加減が微妙であったように感じられた。島田氏がユーモア作品に合っていないのか、それとも時代性を感じるものであるので、今の時代に(2016年)に読むことが微妙であるのか。

 ミステリ的な部分のみを抽出すると、そこはなかなかのもの。密室での殺人という不可能犯罪もの。しかも死体の消失までを描いたものとなっている。さらにその後にもうひとつの驚愕の事件が待ち受けることとなる。

 ミステリ的なところは問題ないのだが、それ以外の部分があまりにも多すぎて、ミステリ濃度が薄いと感じられた作品。前述したのだが、その軽いノリというか、ユーモア部分があまりにも合わなかったので、全体的に微妙と感じられた。それでも、過去に読んだときには、もっと面白いと感じられたような気がするので、時代性と自分の年齢によって合わなくなったというだけなのか。


出雲伝説7/8の殺人   6点

1984年06月 光文社 カッパ・ノベルス
1988年04月 光文社 光文社文庫

<内容>
 山陰地方を走るローカル線の網棚に残された紙袋。不審に思った駅員が調べてみると、中から人の右足が発見される。さらにほかのローカル線でも次々と体の一部が発見される。死体の主は女と見られるが、頭だけ発見されなかった。休暇をとって、たまたま山陰地方を訪れていた吉敷は、この事件と関わることとなる。死体の身元がわからないなか、捜査は難航しそうと思われたとき、匿名の投書により死体の主は歴史民族学の助手であるとの知らせがもたらされた。吉敷は、犯人が死体をどのようにして各列車にばらまいたのか、そして八岐大蛇伝説に挑むこととなる。

<感想>
 なんと初読、島田氏の作品の中でも吉敷シリーズは読んでいないものが結構な数ある。初っ端はショッキングな幕開け。バラバラ死体のパーツが、別々の列車の網棚から発見されるというもの。出だしだけを見るとまるで「占星術殺人事件」を思い起こしてしまう。

 その後の展開は、時刻表と犯人の行動との突合せ。トリックというよりも、“如何にして”というものの検証という感じがした。また、事件というよりも犯人による捜査陣への挑戦という感触のものであり、どのようにやったのか、わかるものなら当ててみろというような印象。作風は社会派ミステリー調であるので強くは感じないものの、どこかゲーム性を思わせるような内容でもある。

 また、今作では吉敷が古事記を紐解き、出雲伝説について調べていくというところも見もののひとつ。特に歴史の謎を解くというようなものではないのだが、死体をばらまいたときの状況がある種の見立てのようになっている。さらに、今回の事件を解決する鍵となるのがこの出雲伝説であり、思いもよらぬ人物の活躍により幕が引かれることとなる。

 犯人当てとか、トリックについてとか、そういった部分では、やや読みどころが足りないと思えた反面、地道な歴史学者のスタンスや強さというものを感じ取ることができた作品。


漱石と倫敦ミイラ殺人事件   6点

1984年09月 集英社 単行本
1987年10月 集英社 集英社文庫
1994年02月 光文社 光文社文庫
2009年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 イギリスに留学した夏目漱石は、下宿先で夜ごと聞こえる不審なうめき声に悩まされる。紹介を受けて、夏目はシャーロック・ホームズのもとへと訪ね、事件の相談にのってもらう。これがきっかけで夏目はホームズとワトソンと知り合いになり、密室でミイラ化した死体が発見されるという難事件に関わることとなり・・・・・・

<感想>
 夏目漱石が留学中、シャーロック・ホームズと出会い、その捜査に協力することになるという話。夏目漱石からの視点と、ワトソンからの視点が交互に繰り返される展開で物語が語られてゆく。

 事件は、密室でミイラとなった死体が発見されるというもの。どのようにして短時間で人間をミイラ化することができたのか? などの謎にホームズが挑戦する。この事件自体に関してはまずまずといったところ。“赤毛連盟”のネタなどを駆使して、ホームズが真犯人を捕らえようとするところは、なかなかの見物と言えよう。

 本書で一番気になるのは、ワトソンの視点と漱石の視点の差異。差異どころか漱石の視点からはホームズについてボロクソに描きすぎているような・・・・・・ホームズ・ファンから苦情が来ないのかと心配してしまうほど。ただ、よく考えてみるとホームズに関しては、あくまでもワトソンが描いているだけで、その他の視点からはどのように見えるのかは読者は知りえない。ゆえに、ワトソンが実際の様子を編纂して描いていたとしてもわからないのである。それと同様に、この作品において漱石から見たホームズの様子についても必ずしも正しいものとは限らない。漱石があえて誇張してホームズを描いたと捉えることもできるのである。ゆえに、真のホームズ像というものがあり、それをワトソンによる描写と漱石による描写によってそれぞれが誇張して描いたものが小説というものであると考えることが正しいのかもしれない。


北の夕鶴2/3の殺人   7点

1985年01月 光文社 カッパ・ノベルス
1988年07月 光文社 光文社文庫

<内容>
 警視庁捜査一課の吉敷竹史のもとに別れた妻・通子から電話がかかってきた。ただならぬ気配を感じた吉敷は通子が乗り込むと思われた列車“ゆうづる”が発車する上野駅へと向かう。しかしタッチの差で列車は出発し、窓ガラスごしに通子を見送るのみとなった。
 その後、通子の乗った“ゆうづる”で身元不明の女性の死体が発見されたという通報が捜査一課にもたらされる。年末年始の休みを利用して、単独で事件に取り組む吉敷。そして、たどり着いた釧路の町で、マンションで起きたという夜鳴石と鎧武者の亡霊にまつわる殺人事件の存在を知ることとなり・・・・・・

<感想>
 島田氏初期の作品で、知られざる名作と噂される逸品。吉敷シリーズであることと、島田氏が当時トラベルミステリーを手掛けていたせいか、本書もタイトルだけを見ると、これもトラベルミステリーなのかと勘違いしてしまいそうになる。最初に出てくるのは、寝台車で起こる殺人事件であるのだが、メインとなる事件は全く別のもの。

 この作品の目玉は5階建ての、上から見るとテトラポットの形をしたような、中心から3つの足が伸びたような(スター形)変わった形のマンション。同じ形のものが3つ建っているのだが、そのうちの1つの建物の5階の1室で二人の女性が殺害されていたという事件。しかも1階には管理人が住んでいて、被害者達が部屋に入った様子を見ていないということから、不可能殺人となってしまっている。さらには、降雪により足跡が残っていなかったり、伝説とされる夜鳴石が鳴いたり、鎧武者が現れたりと事態は混迷を極めている。

 このような事件ならば、御手洗潔が手掛けてもおかしくないのだが、今作は吉敷と通子の人生をなぞる事件ともなっており、吉敷自身が己の過去と現在に思いをはせながら、さまざまな葛藤を乗り越え、満身創痍で事件に挑むこととなる。

 本庁の刑事が他の現場を荒らすというのはリアリティ欠ける感があるものの、そこはまさに、一人の人間の情熱により乗り切るといった感じになっている。吉敷自身の矜持を表す熱い内容の小説といったところか。

 タイトルが「北の夕鶴2/3の殺人」では内容が伝わりにくく、「夜鳴石に浮かぶ亡霊」とか「北の鎧武者殺人事件」などのほうが読者を引き付けそうであるが、刊行された時代が時代だけにしょうがないことなのであろう。


高山殺人行1/2の女   5.5点

1985年03月 光文社 カッパ・ノベルス
1989年07月 光文社 光文社文庫

<内容>
 斉藤マリは、不倫の相手である川北留次から突然の電話を受ける。彼が言うには、高山の別荘で誤って妻を殺してしまったというのだ。二人は相談を重ね、罪から逃れることができるように工作を練る。マリが川北の妻のふりをして、派手なスポーツカーに乗り、人の目につくように現地へと向かい、偽のアリバイをつくるという計画を立てるのであったが・・・・・・

<感想>
 アリバイ工作をするために、一人の女が車で疾走・・・・・・と行きたいところだが、ところどころでトラブル発生。よくこれで、重大な計画を成し遂げようとするなと感じるほど杜撰というか、なんというか。

 本書が出版された1985年であれば、まだ目新しいミステリとして受け入れられたかもしれないが、今(2014年)ミステリ好きの読者が読めば裏で何かが起きているのだろうなと、なんとなく気付くであろう。

 ギリギリの綱渡りのようなノンストップ・スピード・サスペンス。トラベルミステリというか、旅の最中に気軽に読むには最適の内容と分量。


殺人ダイヤルを捜せ   5.5点

1985年05月 講談社 講談社ノベルス
1988年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 商社に勤める岡江綾子は、夜な夜な知らない相手に電話をかけてテレフォン・セックスをするという行為にのめり込んでいた。そんなある夜、電話をかけた相手から「助けて! 殺される!」と突然告げられる。その後、電話は切れてしまい再度かけなおしてもつながらない。電話の向こうで何が起きていたというのか? 気になって調べようとする綾子であったが、知らないうちに彼女自身が事件に巻き込まれてゆき・・・・・・

<感想>
 島田作品で、なんとなく積読にしてしまっていた本。ページ数の短い作品なので、読んでしまえばあっという間に読み終えることができる。

 感想はといえば、まぁ、普通のサスペンス小説かなと。やけに女性の描写が生々しく、そこで好き嫌いが分かれそうな気がする。なんとなく島田氏の作品らしくないような気もするのだが、初期のころには色々な作品が書かれており、そういった作品群の中の一つであると言えよう。

 サスペンス小説以外の見方としては、島田氏が評論などでも書いている“都市論”に直結する作品とも見て取れる。と言いつつも、基本的には俗なサスペンス小説というくらいの印象しか残らない。


消える『水晶特急』   6点

1985年06月 角川書店 カドカワノベルズ
1987年02月 角川書店 角川文庫
1991年05月 光文社 光文社文庫
1998年08月 角川書店 角川文庫<新装版>

<内容>
 1985年、天井から床まで全面ガラス張りの“水晶特急”が上野から山形県・酒田まで処女旅行に出発することとなった。雑誌記者の蓬田夜片子(よもぎだ やえこ)もその特急に乗り込み、出発を待ちわびていた。すると、突如そこに散弾銃を持った男が乗り込んできた。大物代議士に恨みを持つという男は、乗客を人質に、その代議士に謝罪を迫る。ただ、その代議士は病床にあり、特急の終着点である酒田にいるという。そこで水晶特急は、人質たちを乗せたまま、酒田へと向かうこととなる。しかし、列車は酒田へ向かう途中、突如消え失せてしまったのである! いったいどこに? どうやって?? 蓬田夜片子の同僚で友人である島丘弓芙子(ゆうこ)は、必死に夜片子の行方を捜そうとするのであったが・・・・・・

<感想>
 今更ながら初読。吉敷氏シリーズは、まだ読んでいない本が数冊あるので、どんどんと読んでいきたいところ。ちなみに、そのほとんどは家にあり積読となっている。

 物語は大雑把胃に言えば3つのパートに分かれている。最初は、散弾銃を持って水晶特急に乗り込んできた男による警察との交渉。警察側の交渉役が吉敷となる。交渉が進み、水晶特急が酒田を目指して進むこととなるが、その列車の行方を追っていたマスコミたちは、突如列車が消え失せたことを知ることとなる。

 そこまでが最初のパートで、次は列車と共に消えた蓬田夜片子の行方を探す島丘弓芙子のパート。そして、最後にすべての謎が解き明かされることとなる。全体的に見て、なかなかうまくできていると感じられるのだが、途中の島丘弓芙子のパートがやや退屈。この島丘弓芙子の捜査があてどないもので、本人も何を追えばよいのか漠然とした中での捜索となってしまう。話の展開からするとしょうがないのであるが、列車消失後のさまざまな対応がどこか中途半端に感じられてしまい、なんかぽっかりと穴が開いたような感じであった。

 そうして、あてどない話のように思われた事件が、最後になってようやく全貌を表すこととなる。しっかりと伏線を抑えつつ、きちんと描いているところはさすがと言えよう。全部を読み終えてから全貌を見渡してみても、この話をどの視点で語れば一番効果的なのだろうかというのは悩ましいところかもしれない。ただ、あえて主人公に女性記者を据え、二人の女性記者の友情として描いたところこそが、本書の物語としての一番の工夫であったのかもしれない。


確率2/2の死   6点

1985年09月 光文社 光文社文庫
1995年02月 南雲堂 南雲堂ハード
1996年08月 光文社 光文社文庫
2010年12月 南雲堂 「島田荘司全集Ⅳ」収録

<内容>
 プロ野球選手の息子を誘拐した誘拐犯の要求は現金1千万円。その引き渡しのため、捜査一課の吉敷竹史は、誘拐犯の要求に従い、赤電話(公衆電話)と赤電話の間を走り回っていた。赤電話からの幾度も続く犯人の要求に従い走る吉敷の体力が尽きようとしたとき・・・・・・
 主婦の甲斐佳子は、ヴェランダから奇妙な光景を目にする。それは、白い車が同じところを何度も何度も回り続けているものであった。そのことを夫に話しても、夫は全く聞く耳を持たない。数日後、佳子は真面目に会社勤めをしていた夫が勝手に会社を辞めて、借金を負っていることを知らされることとなり・・・・・・

<感想>
 感想を書いていない作品を色々と再読しているのだが、この「確率2/2の死」については、再読後、本を手放してしまっていたため再読ができなかった。しかも絶版でなかなか手に入らなく、どうしようかと思っていたら「島田荘司全集Ⅳ」に収録されていることを知る。同じく収録されている「サテンのマーメイド」は未読であったので、「島田荘司全集Ⅳ」を購入。そして念願の再読。

 物語は、いきなり吉敷刑事が誘拐事件の身代金引き渡しの為に、犯人の要求に従って公衆電話間を走り回らされているところから始まる。そして身代金の受け渡しは意外な形で終結することに・・・・・・

 一方、場面が変わって、普通に生活する主婦が自宅のベランダから、同じ場所を何度も周回し続けている白い車を目撃する。さらにこの主婦は、夫が仕事を辞め、しかも借金を抱えていることを知らされる。

 と、全く関わりのなさそうな、誘拐事件に翻弄される刑事たちの様子と、普通の主婦が遭遇する妙な出来事が交互に語られてゆくこととなる。そして、当然のごとく二つの事件がやがて結びついてゆく。

 この出来事が片田舎ではなく、都会で起きてしまうということに驚かされてしまう。ひょっとすると、過去にこういった事件が明るにみに出たことがあるのだろうか? ありそうで、なさそうな、そんな綺譚を描いた作品という感じ。いや、実際にあっても、全くおかしくなさそうな気もするが。


サテンのマーメイド   5点

1985年09月 集英社 単行本
1990年03月 集英社 集英社文庫
2010年12月 南雲堂 「島田荘司全集Ⅳ」収録

<内容>
 アメリカ西海岸にて私立探偵を営む私の元にサラ・マーメイドと名乗る女が訪ねてくる。なんでも、彼女の車を運転して2時間以内にサウスポイントまで彼女を運んでくれれば1万ドルを出すという。その申しでを拒否した私であったが、そこにたまたま訪れてきた友人のカイルがそれを引き受けてしまう。その後、行方不明となったサラ・マーメイドの捜索願と、カイルが人を轢いて逮捕されたという知らせがもたらされ・・・・・・

<感想>
「サテンのマーメイド」の“サテン”って、てっきり喫茶店のことかと思っていたのだが、生地のサテンであった。

 実は、これが初読。今まで読んでいなくて、しかも最近は入手しずらい本であったので「2/2の確率」と同様、「島田荘司全集Ⅳ」によりようやく読むことができた。この作品は、島田氏にしては珍しいアメリカを舞台としたハードボイルド小説。ただ、作品としては失敗作の部類かなと。

 なにしろ、扱う事件が微妙。女の依頼人が「指定の時間までに車を運転して、とある場所まで連れて行って」というところから、その女依頼人自身が行方不明になったり、探偵の友人が交通事故を起こしたりと、何がなんだかさっぱり。結局は謎の交通事故の真相に迫る、という内容になってしまっているのだが、どこまでが私立探偵が扱うべき仕事なのか理解しにくかった。

 また、タイトルのマーメイドが示す、謎の女の依頼人が出てくるものの、これがまた魅力に乏しい。魅力どころか、作品を通してただの厄介者で終わってしまっているような感じ。何気に島田氏って、女性を描くのがあまりうまくないのかなと、他の作品を思い返してふと考えてしまった。

 結局、ポルシェとかフェラーリとかの車の紹介小説のような感じ。ただ、これが後の「ハリウッド・サーティフィケイト」のような作品へと発展していったんだなという痕跡が感じ取れないこともない。


夏、19歳の肖像   6点

1985年10月 文藝春秋 単行本
1988年06月 文藝春秋 文春文庫
2005年05月 文藝春秋 文春文庫(新装版)

<内容>
 バイク事故で入院していた私は暇をもてあまし、窓から外の風景を眺めて時間をつぶしていた。ある日、その窓から見える一軒の家に住む女性を目にして一目ぼれをしてしまう。それ以来、窓からその女性の姿が見えないか毎日のように捜し続けていた。すると、ある日その女性が犯したと思われるとんでもない犯罪を目にしてしまい・・・・・・

<内容>
 改訂版にて初読。ストレートに青春小説していて面白かった。なんとなくだが、「異邦の騎士」の違ったバージョンというようにも感じられた。

 序盤では主人公が病院の窓から見た場面だけを元に仮説を打ち立ててゆく。中盤では、窓から見ていた女性に会おうと四苦八苦し、やがて馴初めてゆく様はまさに青春小説そのもの。

 そして本書においての強烈なところは、なんといってもラストに明かされる真相の現実性。そこで突きつけられる強烈な事実によって、主人公は夢から覚めたかのようにまた現実へと戻ることになる。うーーん、やはりこう書いていくと構成は「異邦の騎士」に似ているといってもよいのかもしれない。

 本書はミステリー的な部分も兼ね備えてはいるものの、あくまでも現実から逸脱するような話ではない。ゆえに、読み終わった後には、ミステリーを読んだというよりは青春小説を読んだという感じにさせられる。島田氏の描いてきた作品の中の一つの軌跡として一読することをぜひとも薦めたい一冊。新装文庫版が並んでいるこの機会にぜひ。


火刑都市   6点

1986年04月 講談社 単行本
1988年06月 講談社 講談社ノベルス
1989年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 東京の雑居ビルにて放火が起こり、そこに勤めていた警備員が焼死した。検視によりその警備員は睡眠薬を飲んでいたことが判明する。死亡した警備員は無口ではあるが、まじめな人物であり、自殺する動機も見当たらない。一課殺人班の中村は、事件に不審なものを感じ、単独で事件捜査に乗り出す。その警備員には恋人らしきものがいたらしいのだが、事件が起きたと同時に痕跡を消し、姿を消していた。当てもないまま、中村はなんとかその女性の身元を突き止めようとするのだが・・・・・・そうしたなか、ビルへの放火はさらに続くこととなり・・・・・・

<感想>
 ベレー帽をかぶる芸術肌の中村刑事が主人公の作品。島田氏による社会派小説かと思いきや、よく読むと島田氏提唱する都市論を描いた作品であり、通常の本格ミステリとはまた別に著者らしさが出ている小説と言えよう。

 内容は、前半の謎の女性の行方を捜査するものと、後半の連続放火犯の行方と方法について捜査するという2パートに分かれている。ただ、全体通して読んだ感想としては、やや冗長だったかなと。文庫本で400ページの作品であるが、300ページくらいでちょうどよかったかなと。ちょっと全体的に地味すぎた。

 特に女性の行方を追うパートについては、本当に地道な捜査であり、警察小説らしいといえばらしいのだが、ややメリハリにかけている。放火犯の逮捕についても、犯人の正体がわかっているうえでの捜査という事もあり、もうちょっとスピーディーに展開してくれてもよかったかなと。

 東京という都市についての薀蓄などについては面白く読めた。ミステリとして物足りたいというよりは、もうすこしコンパクトにまとめてもらいたかったというところ。


消える上海レディ   6点

1986年04月 角川書店 カドカワノベルズ
1987年12月 角川書店 角川文庫
1992年04月 光文社 光文社文庫
1999年04月 角川書店 角川文庫<新装版>

<内容>
 L・A誌記者の島丘弓芙子は、S社キャンペンガールの上海レディこと林翠玲に顔がとても似ていると同僚の蓬田夜片子から指摘される。弓芙子は、その上海レディと思われる女性と町で出会ったときに頭上から煉瓦を落とされ、もう少しで大けがをしそうになるという経験をしていたのだった。その後、弓芙子はカメラマンの国田と共に上海へ取材行く最中、ところどころで上海レディとおぼしき人物を見かけることに。しかも上海レディは弓芙子に危害を加えようとしているとしか思えない行動をとり始める。そして、神戸から上海へと向かう船の上で事件が起こり・・・・・・

<感想>
「消える水晶特急」に続き、L・A雑誌社の女性記者が事件に関わるシリーズ。シリーズといっても、2作のみなのかな。

 今作は、島田荘司版「幻の女」とでもいったところか。雑誌記者・島丘弓芙子の前に現れる、弓芙子と顔が瓜二つのキャンペンガール・上海レディ。何故か、弓芙子はその上海レディから付け回され、命まで狙われる始末。さらには、その上海レディによる殺人事件までを押し付けられる。しかも、弓芙子以外の人は誰もその上海レディを見ていないと言い出し始めるのである。

 上海レディとは何者なのか? 弓芙子を付け狙う理由は? さらには、弓芙子と顔が瓜二つなのは単なる偶然なのか? そういった謎に島丘弓芙子自身が挑戦せざるをえない羽目になる。前作の水晶特急では吉敷が登場し、謎解きをしてくれたのだが、今作では登場せず。ゆえに、単身事件にあたらないといけないわけであるが、最後に意外なところから救いの手が伸びることとなる。

 短めの作品であるが、なかなかうまく出来ていたと思われる。やや狭い範囲のみに収まってしまったような気がしなくもないが、元々の事件の発端が個人レベル故にしょうがなかろう。意外性はさほど強くはないものの、事件全体の整合性はきちんととれている作品。手軽に読めるサスペンス・ミステリ。


Yの構図   5.5点

1986年12月 光文社 カッパ・ノベルス
1990年07月 光文社 光文社文庫

<内容>
 昭和61年8月18日、上の駅に到着した上越新幹線<とき418号>のグリーン車にて死体が発見される。さらに同じホームの反対側に到着した東北・上越新幹線<やまびこ194号>の車両からも死体が発見されることに。二人はなんらかの意図があって無理心中を図ったのではないかと考えられた。しかし、警視庁捜査一課の吉敷竹史は、その状況にどこか不審なものを感じていた。死亡した二人の背景を調べてゆくと、盛岡の中学で起こったいじめ事件の存在が浮き彫りとなり・・・・・・

<感想>
 感想を書いていなかった作品の再読。最後まで読み通してみると、なかなかインパクトのある作品なのであるが、そのわりには内容を全く覚えていなかったなと。後半に入ると、ミステリ的な整合性が徐々に薄れ始めていくように思えて、その辺の違和感がこの作品に対する印象を薄めてしまったのかなと。

 同じ駅のホームにほぼ同時に到着した2つの新幹線のそれぞれで発見された死体。背景を調べてゆくと、盛岡の中学校で起きたいじめによる自殺事件が浮き彫りになる。新幹線のなかで発見された二人の死体は、ひとりは自殺をした生徒の担任、もうひとりはいじめっ子の母親。しかもその二人の間には男女の関係があったという疑いがもたれていた。

 捜査一課の吉敷は、いじめを発端とした怨恨による殺人事件と疑うものの、最重要容疑者とみなしたものには強固なアリバイがあった。なんとかそのアリバイを崩そうとするものの、なかなか糸口がつかめないまま吉敷は焦燥にかられる。

 そんなような感じで話が進み、あぁ、これは単なるアリバイ崩しものかと思いきや、物語の後半、事件は思いもよらぬ展開を見せていくことになる。ただ、その思いもよらぬ展開が話としてうまくできているかどうかは疑問に思える。最終的には、思っていたよりもずっと“いじめ”に対して根深かい内容の作品であったと印象付けられた。

 あとがきで、この作品がエラリー・クイーンの「Yの悲劇」を意識したものではと書いてあったのだが、どう考えても違うだろうと思ったものの・・・・・・よくよく考えてみると、意外と共通項があったりして、その意見も決して無視できないものではないかと考えを改めさせられた。考えようによっては、なかなか根深い作品であったのかもしれないと・・・・・・


展望塔の殺人   6点

1987年08月 光文社 カッパ・ノベルス
1991年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「緑色の死」
 「都市の声」
 「発狂する重役」
 「展望塔の殺人」
 「死聴率」
 「D坂の密室殺人」

<感想>
 初読となるこの作品。実は島田氏の作品を集めて一通り全部読んでしまおうと思った中で、なかなか見つからなかったのがこの本。最終的にネットでの古書販売により入手した。何故、復刊もしくは新装版として出ないのかなと思っていたのだが、読んでみるとなんとなく復刊されなかった理由がわかったような。

 社会派小説として描かれた短編集であるのだが、どれもが社会の色濃い闇を深く切り込んだようなものとなっている。内容についても、救いようのない暗いものが多いと感じられた。さらには、表現についても今の時代(2016年に読了)では、そぐわないと思えるものもいくつか見られた(特に「D坂の密室殺人」あたり)。

「緑色の死」は、緑に恐怖を抱く男の過去について掘り下げた作品。戦後感じさせる内容であるところも1980年代という時代を感じさせる。
「都市の声」は、いたるところで公衆電話からの鳴り響くベルに悩まされる女の話。携帯電話がない時代のストーカーの様相が描かれる。
「発狂する重役」は、幽霊に怯えて発狂してしまった男の物語。
「展望塔の殺人」は、展望塔で女店員に突然殺害された老女の事件を描く。
「死聴率」は、視聴率重視のテレビ業界での騒動が描かれる。
「D坂の密室殺人」は、とある屋敷で起きた不可解な密室殺人事件を掘り下げる。

 ちなみに吉敷竹史が「発狂する重役」と「展望塔の殺人」に登場している。ただし、活躍というよりは単なる傍観者のように見えなくもない。吉敷が活躍する機会がないというように、どの事件も不条理な展開、結末というように感じられるものが多かった。「展望塔の殺人」のメインともいえる動機についてもいまいちパッとしなかったし、他の作品についても終わり方がとにかく後味が悪い。ミステリとしてというよりも、その社会情勢を描きたかったというものが多かったように感じられた。


御手洗潔の挨拶   7点

1987年10月 講談社 単行本
1989年12月 講談社 講談社ノベルス
1991年07月 講談社 講談社文庫

<内容>
 「数字錠」
 「疾走する死者」
 「紫電改研究保存会」
 「ギリシャの犬」

詳 細

<感想>
 3〜4回くらい読んでいる気がするのだが、未だに感想を書いていなかったので、さらなる再読を実行。探偵・御手洗潔が活躍する作品集。

「数字錠」は、よくよく読んでみると社会派ミステリというより、社会派小説という赴きが強いような。探偵・御手洗潔と宮田少年との友情が印象的。そのままのちょっとした良い話的なもので終わるのかと思いきや、実はアリバイトリックものであったことに気づかされる。御手洗と石岡が紅茶派である理由を知ることができる作品でもある。

「疾走する死者」は、実は似たようなトリックのものを吉敷シリーズで既にやっていたことを、島田氏の作品を時系列順に読んでいくと発見することができる。単純に大がかりなトリックひとつのみならず、そこへ至るディテールが緻密によくできている。この作品集のなかで一番ミステリ色が濃い内容。さらには、島田氏の他の作品で登場する人物らが幾人か出てくるというのも特徴。

「紫電改研究保存会」は、島田氏による「赤毛連盟」系の作品。その内容もよくできていると思えるのだが、物語の中に組み込まれた壮大な夢こそが見どころではないかと感じられた。志が大きな小説といったところか。

「ギリシャの犬」は、誘拐もののミステリ。誘拐トリックも良く出来ているのだが、一番印象に残るのはギリシア文字を思わせるような暗号にある。その暗号が意味するものがわかったときには、思わずなるほどとうならされる。

 繰り返しの再読故に、当然ながら新鮮な驚きは感じられないのだが(結構、忘れていたものもあったのだが)、初めて読んだときには非常に楽しめたことを覚えている。ミステリ小説初心者にも安心してお薦めできる作品であり、島田氏の小説の入り口的な役割のものといってもよいであろう。


開け!勝鬨橋   6点

1987年11月 角川書店 角川ノベルズ
1993年01月 光文社 光文社文庫
1999年10月 角川書店 角川文庫(新装版)

<内容>
 O老人ホームの中でも落ちこぼれの「青い稲妻」6人組み。ゲートボールに挑戦するもルールさえ覚えきれない始末。
 そんな中、老人ホームの館長が詐欺に会いホームの権利をやくざに引き渡すはめに・・・・・・。やくざの熾烈ないやがらせが続く中、老人ホームに一つの殺人事件が! そして「青い稲妻」の一人山波陣兵衛が行方不明に。
 陣兵衛の行方がわからないまま捜査は降着していく中、やくざからゲートボールの試合によるホーム引き渡しの条件を持ちかけられる。
 試合の行方は? 陣兵衛はどこに? ホームの将来は? そしてラストのカーチェイス、勝鬨橋は開くのか?

<感想>
 前半のほうの老人に対する模写は少々大袈裟すぎるような気がしたのだが・・・・・・。しかし落ちこぼれから脱しようとする老人たちには自然と応援をしたくなってくる(最初はそれほど必死ではなかったけど)。ゲートボールの試合からラストのカーチェイスにいたる、息もつかせぬ展開はこちらを魅了する。推理小説という内容ではないがスカットさせてくれる一冊。


灰の迷宮   5.5点

1987年12月 光文社 カッパ・ノベルス
1991年08月 光文社 光文社文庫

<内容>
 新宿駅西口でバスが放火され、逃げ出した乗客のひとりが通りがかったタクシーにはねられ死亡するという事件が起きた。捜査一課の吉敷竹史は事件を調べていくこととなるのだが、その事件を起こした犯人を捕らえたところ、人から頼まれてやったというのだ。吉敷は、タクシーにはねられ死亡した男性のことが気になり、彼に関して調べ始める。その男は受験生の息子と共に鹿児島から上京してきたというのだ。しかも彼が自宅に置いていた新聞の切れ端が、以前吉敷が捜査した未解決の殺人事件に関わるものであり・・・・・・

<感想>
 タイトルの“灰の迷宮”とは、鹿児島に降りしきる灰を表してる。今作では吉敷竹史が鹿児島まで出張し、事件の謎に挑んでいる。

 事件の構造はなかなか複雑なもの。バスの放火事件から始まり、未解決の転落死事件、競馬に関する汚職事件の記事、大降灰による屋根の崩落、暴力団の抗争、等々。鹿児島で起きた事件と東京で起きた事件がどのように結ばれるのか? さらには、事件とは無縁のサラリーマン男性が、何故このような事件と関わってゆくこととなったのか? 真相を探るべく吉敷刑事が鹿児島署の留井刑事と協力し、捜査をしてゆく。

 あてどないような事件をよくぞ、一つの道筋に結び付けたなと感嘆させられる。とはいえ、今作ではその力技も少々強引であったかなと。何点か気になる部分があり、ちょっと納得しづらいなと思うところが見受けられた。とはいえ、大筋でうまく作られているかなと思えないことはない。

 本書で一番の印象を残したのは、吉敷が鹿児島で参考人として話を聴くこととなった茂野恵美という女性。この女性は、読者のみならず、吉敷竹史自身にも大きな爪痕を残していったようである。


毒を売る女   6点

1988年03月 光文社 カッパ・ノベルス
1991年11月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「毒を売る女」
 「渇いた都市」
 「糸ノコとジグザグ」
 「ガラスケース」
 「バイクの舞姫」
 「ダイエット・コーラ」
 「土の殺意」  「数字のある風景」

詳 細

<感想>
 感想を書いていなかったので再読。ノン・シリーズ作品集となっているのだが(お馴染みのキャラクターが登場する作品あり)全体的にその当時の時代というものを描いた社会派ミステリという風に捉えられることができるものとなっている。最初の3編で全体の2/3以上を占めており、残りの5編は短めの作品となっている。

「毒を売る女」は、梅毒にかかったママ友をめぐる話。ホラーサスペンスのようで恐ろしげな部分もあるのだが、主人公が過剰に騒ぎ過ぎという気もしなくはない。一捻りあるのかと思いきや、すんなりと終わってしまった。

「渇いた都市」は、飲食店でのトイレにまつわるトラブルから始まり、その後、一人の男の転落人生が描かれている。身の丈にあった生き方をしなさいという教訓のような作品でもあり、バブル期には、こういった話も結構合ったのではないかと想像できる。最後に、最初の飲食店のトラブルに回帰し、物語に何とも言えない色を添えている。

「糸ノコとジグザグ」は、ラジオに投稿された自殺を予告する文章から、ラジオを通してリスナーに呼びかけ、自殺を阻止しようとする試みがなされる話。暗号解きのような内容。名前は明かされないが、しっかりと御手洗潔が登場している。

「ガラスケース」「ダイエット・コーラ」「数字のある風景」は、SFショートショートのような内容。生物の一生、年をとらない男、すべてが数字でもたらされる、というアイディアをそれぞれ面白く読むことができる。

「バイクの舞姫」は、ドライブ小説、もしくはドライヴィング小説というようなもの。

「土の殺意」は、吉敷竹史が登場し、地上げにまつわる事件の捜査を行っている。これまた、時代性がうかがえる作品である。




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