<内容>
「藤の香」
連続殺人犯として代書屋が逮捕された。人畜無害に見える代書屋が本当に殺人を犯したのか?
「桔梗の宿」
娼家の近くで発見された桔梗をにぎる死体。刑事は真相を探るべく娼家へと潜入するのだが・・・・・・
「桐の柩」
兄貴分に頼まれて人を殺す事になった男。柩に隠された事の真相とは?
「白蓮の寺」
かつて母親が人を殺した記憶を持つ男。母親の死後、事の真相を探ろうとするのだが・・・・・・
「戻り川心中」
心中に失敗した三日後に、自殺を遂げた天才歌人。その天才歌人の胸のうちに秘められた真実とは!?
<感想>
以前、講談社文庫で出ていたものを読んだ事があるのだが、軽く読み流していたのか、不思議とおぼえていなかった。そこで、光文社文庫で出たのをきっかけに改めて読んでみたのだが、これがあまりにもよく出来ている小説であり、今更ながら驚かされてしまった。
この小説で何を驚かされるかといえば、文学的な作品としての出来栄え。では、本書はミステリではないのかと言えば、全くそんなことはなく、どの作品も濃厚なミステリとして完成されている。しかし、それにも関わらず、ここに掲載されている作品全てがただ単にミステリだけとは形容しきれない作品に昇華しているのである。作品ひとつひとつが草花を中心に情景豊かに彩られ、さらに人間の愛憎が深くきめ細かに描かれている。
今まで、別のジャンルの作品を「これはミステリとしても形容できる」と思ったことは多々あるのだが、これだけミステリ作品としても完成されている作品をミステリのみに止まる事ができないと思わされた作品はこれ唯一であろう。本書を改めてじっくりと読んだおかげで、この作品が私の中のベスト級の短編集として印象付けられる事となった。
<内容>
「変調二人羽織」
「ある東京の扉」
「六花の印」
「メビウスの環」
「依子の日記」
<感想>
濃い。ページ数は薄いのに、これでもかというほど濃厚な本格ミステリがつまった作品集。ちなみに、この作品は連城氏にとっては三作目の本なのだが、書かれている短編の年代順からすると、最初期に書かれたものである。ある意味、これこそが連城氏最初の作品といっても良いのかもしれない。「戻り川心中」とは、また、違った趣の短編集。かなり本格ミステリよりの内容と言える。
最初の「変調二人羽織」は、バークリーの「毒入りチョコレート事件」とでも言わんばかりの数々の推理が飛び交う内容。5人の人物が見ている中で、二人羽織の演技をしている落語家が死亡するという事件に迫る内容。都会の空を飛ぶ鶴の奇跡と共に語られる物語が深い余韻を残すものとなっている。
「ある東京の扉」は、連城氏ならば、この内容で普通に長編が一冊書けるのではないかと思えるようなネタの数々が披露される。編集者に作家がトリックを持ち込むという内容。さらには、最後まで決して油断できない物語になっている。
「六花の印」は二つの出来事が並行して語られてゆく。方や人力車に乗りこむ女性、方や迎えの車に乗り込む男性。そして事件が起こり、解決が付けられることによって、二つの事件の共通点が見えてくるという展開。話が進んでいるときには、単なる物語としか思われなかったのだが、実は意外なトリックが秘められていたということに気づかされる。
「メビウスの環」は夫の視点から、女優の妻が夫に殺害されるのではないかとおびえる様子をサスペンスチックに描いた作品。三流の俳優である夫と、有名女優である二人により、どのような舞台が描かれるのか。「あなた、わたしを殺そうとしなかった?」の一言から幕が上がる。
「依子の日記」は夫婦が共謀して、ひとりの女の殺害を企てるという内容。その様子が日記によって描かれてゆく。そして、計画がうまくいったと思えたのちに、物語は意外な展開を迎えることとなる。
どの作品をみても、それぞれ予想だにしない結末が待っている。しかもこれが30年も前に書かれているのだから、感嘆するより他はない。決して読みやすい作品とは言えないのだが、それを踏まえて、あえて読んでもらいた作品である。また、昔に読んで内容を忘れてしまったという人にとっても十分再読に耐えうる内容であるということも間違いないであろう。
<内容>
「二つの顔」
「過去からの声」
「化石の鍵」
「奇妙な依頼」
「夜よ鼠たちのために」
「二重生活」
「代 役」
「ベイ・シティに死す」
「ひらかれた闇」
<感想>
過去の名作というにふさわしい作品集。いや、これだけ優れた作品がそろっていると、参りましたという他ない。近年、どんでん返しを主としたミステリ作品集というものをよく見ることがあるが、連城氏こそ、そのはしりと言っても過言ではないのかもしれない。
「二つの顔」は、妻を殺害したはずの男が、警察から別の場所のホテルにて妻が死体として発見されたと告げられる事件。
「過去からの声」は、ひとつの誘拐事件の真実と、その事件をもとに警察を辞めた若手警官の秘密が明かされる。
「化石の鍵」は、アパートに住む父娘家庭における娘の殺人未遂事件を描く。誰がどのようにして犯行を行ったというのか?
「奇妙な依頼」は、奇妙な浮気調査を行うこととなった探偵の話。それは三角関係から、四角関係までもに入り乱れる。
「夜よ鼠たちのために」は、一人の男の復讐劇の話。病院に恨みを抱く男の犯行であったはずの話が・・・・・・
「二重生活」、愛人を囲う男と女の三角関係。その関係にはとある秘密が!
「代 役」は、映画スターが自分に似た男を使って、アリバイトリックを用いた殺人を起こそうとするのであるが・・・・・・
「ベイ・シティに死す」は、出所したヤクザの男が自分を裏切った弟分と女を探し出し・・・・・・
「ひらかれた闇」は、殺人事件の容疑を受けた男女4人の生徒を救おうと、女教師が奮闘する。
「二つの顔」は、連城氏らしいミステリ作品。他の連城氏の長編にも影響を及ぼしているような特有の内容。また「過去からの声」は、誘拐者であり、これまた誘拐者を何作か書いている連城氏らしい作品と言えよう。
他には、タイトルとなっている「夜よ鼠たちのために」の暗い作調が印象的。また、反対にそれまでの作品とは一変した雰囲気の最後の「ひらかれた闇」は、別の意味で印象に残る。
とにかく、どれもが予想だにしない展開が待ち受けているこれでもかと言わんばかりのどんでん返しのミステリ集。未だ読んでいない人は、また絶版となるまえに必ず入手してもらいたい作品である。
<内容>
「能師の妻 <第一話・篠>」
「野辺の露 <第二話・杉乃>」
「宵待草夜情 <第三話・鈴子>」
「花虐の賦 <第四話・鴇子>」
「未完の盛装 <第五話・葉子>」
<感想>
読む前は、この作品の位置づけについては知らなかったのだが、本書は1984年に吉川英治文学新人賞を受賞した作品。それでは純然たる文学作品なのかというと、それだけではなくきちんとミステリとしても完成された作品集となっている。というか、むしろここまでミステリとして完成度が高い作品集であることに驚かされるほどのできであった。
どの作品も女性がカギを握る内容のものばかり。世間に対して捉えられている様相が、実は裏で秘められた想いによって、世界が一変してしまうという内容。そこには女性の情念がまざまざと描き出されている。
「能師の妻」と「花虐の賦」は女性の深い情念によって真相が一変するというもの。ただし、「花虐の賦」のほうでは男の情念が勝っているようにも感じられた。
「野辺の露」に関しては女性の情念による復讐劇と言えるであろう。「宵待草夜情」は、ひとつの隠された真相によって物語が逆転するように描かれている。
そうしたなかで、「未完の盛装」はちょっと異色。十五年にもわたる脅迫劇と犯罪の時効について描かれた作品であるのだが、女の深い想いによって、より複雑な真相が待ち受けることとなる。その長い年月をかけたなかでの情念に心震わされてしまう。
「能師の妻」 夫が死亡し、息子に能を伝えるはずの後妻がとった行動の謎。
「野辺の露」 父親を殺した息子は妻の不貞により生まれたことにより虐げられたことが理由で犯行に至ったのかと思いきや・・・・・・
「宵待草夜情」 かつて芸術家をみなしつつも今は逃亡生活にある男は、東京でひとりの女給と出会う。その女給は、ある日ひとりの女を殺害し・・・・・・
「花虐の賦」 劇作家の後を追って心中した女優の死の謎。
「未完の盛装」 復員兵である夫を毒殺した女と浮気相手の男のもとに脅迫状が届き・・・・・・
<内容>
終戦後間もないクリスマスイヴ。繁華街の安宿で事件が起こった。片腕の男が情夫である中国人の女に銃で撃ち殺されたのである。その中国人女性は男の愛人であった女も殺害し、崖から身を投げた。
事件から20年以上後、作家である柚木桂作は戦中に亡くなった寺田武史という男についての小説を書こうと思い立つ。ピアニストとしての将来が、軍人として戦争の矢面に立たざるを得なくなり、戦争に散っていったという人生であったはずなのだが、柚木が調べていくうちに彼には隠された大きな秘密があることがわかり・・・・・・
<感想>
この作品は最後まで読みとおすことにより、圧倒されるほどの壮大なスケールで描かれた作品だということがわかる。
最初に読み始めたときには、すでに解決されてしまっているような事件が描かれおり、ここからどのようにして話が続いていくのかが全くわからなかった。それが舞台が変わり、20年後という戦後の時代になり、昔起きた事件が徐々に掘り下げられていくこととなる。
この作品のすごいところは最初に提示された事件の真相そのものではなく、その事件の起きるまでにどのようなことが起きたのかということ。さらには、その動機があまりにも果てなく大きすぎて、読んでいるほうはただただ圧倒されるばかりである。
正直なところ、今の時代に生きている中で、ここで描かれている動機や心情というものについては、あまり理解することはできないものの、こうした作品が過去に描かれていたということを素直に賛美したい。いや、これはまさに復刊セレクションにふさわしい作品である。
<内容>
「恋 文」
美術教師の夫が、恋仲の女の命が残り少ないことを知り、教師をやめて家を出た。残された妻は・・・・・・
「紅き唇」
妻が死に、残された義母との奇妙な生活が始まった。
「十三年目の子守唄」
母親と腹違いの弟と暮らしていた30過ぎの男。そんなとき、母親が自分よりも若い男を家に連れ込んできたことにより巻き起こる騒動。
「ピエロ」
お人好しの夫を支える美容室で働く妻。まさに絵にかいたような髪結いの亭主であったが、そんな夫に物足りなくなった妻が浮気を考え始め・・・・・・
「私の叔父さん」
姪が突然妊娠し、しかも叔父の私が父親だといい始めた。私は昔、姪の母にあたる女に恋をしていたことを思い返す。
<感想>
今更ながら、連城氏の代表作を。ひょっとすると一番の有名作品なのかも。
この作品はミステリ作品ではないのだが、見どころ満載の小説となっている。どれもが、男と女、もしくは家族を描いた内容となっているのだが、その様がそれぞれ凝ったものとなっている。
「恋文」は単なる別れ話ようのでもあるのだが、夫婦と命が残り少ない女との三角関係の中で、煮え切れない複雑な関係が描かれてゆく。“恋文”というタイトルにも関わらず、直接的な手紙のやり取りがあるわけではない。あえて直接的なものではないもので“恋文”を表現するところが絶妙。
「紅き唇」は妻が死んだことで、血のつながらない義母と二人で生活することとなった男との奇妙な生活がおかしく、心温まる。昔の人間で馬車馬のように働く年老いた義母でさえも、結局は女であったという流れには何とも言えないものがある。
「十三年目の子守唄」は意外な結末が待ち構えており、驚かされる内容。
「ピエロ」はドロドロとしない内容でありながら、一人の男の“ピエロ”と表現される哀愁漂わせる作品であった。
「私の叔父さん」は母と娘を通した、ひとりの男の年代記といってもよいものであるが、ちょっとドロドロし過ぎか。主人公と相手の夫であり親である男とのやり取りが何とも言えない。
<内容>
世界的なファッションモデルとして名をはせている美織レイ子。実は彼女は、交通事故に巻き込まれ、美容整形によって得られた美貌により成功をなしたという秘密があった。そして、大きな成功を成し遂げた彼女であったが、それもむなしく感じ始め、レイ子が憎く思っている7人に復讐を遂げ、自らの命も落とすことを決意する。そうして、計画が練られ、とある者が彼女の前に呼ばれるのであったが・・・・・・
<感想>
なんとも不思議な物語。私が連城氏の作品で最初に読んだのは「どこまでも殺されて」という作品なのだが(本書よりも後に書かれた作品)、内容的には似たようなものを感じ取ることができる。
この作品では、美織レイ子が自分を憎く思っているものを呼び出し、毒物を見せつけながら、わざと隙を与えて自らを殺害させようとするのである。そうして呼び出された者は、レイ子の殺害に成功する。では、7人のうち誰がレイ子を殺したのか? ということが焦点になると思いきや、レイ子が憎く思っていた7人全ての者が彼女を殺害したと思っているのである。
なんとも実際にありえなさそうな話であるが、それが話が進むにつれて、奇妙な事件の構図が徐々に明らかになってゆくというもの。さらには、思いもよらぬ“真犯人”の姿さえ、明るみに出始めるというなんともいえない展開。
人間の愛憎をこれでもかというほど描き切った作品。それをさらにミステリとの融合までもはかるというとんでもない内容。そういえば、一時期話題になった沢尻エリカが出演した「ヘルタースケルター」っていう映画って、こんな内容・感情なのかなと(映画は見ていないので、あくまでも想像です)ふと考えてみたりした。
<内容>
「花緋文字」
妹の死と友人の自殺の裏に潜む事実とは・・・・・・
「夕萩心中」
世間を騒がせた政府高官の妻と書生の心中事件の影に隠された謀略とは・・・・・・
「菊の塵」
病床に伏せる軍人の自害とそれを見届けた妻との間に秘められた思いとは・・・・・・
<陽だまり課事件簿>
「第一話 白い密告」
「第二話 四葉のクローバー」
「第三話 鳥は足音もなく」
<感想>
「戻り川心中」に続く、<花葬>シリーズと呼ばれる作品が3編収められている作品集。その作品のどれもが前作と相変わらず、深い味わいを残す作品となっている。どの作品もそれぞれ表向きの事象と反する裏の事実というものが隠されているものとなっているが、今作では特にミステリ的というよりは物語のほうに重心が傾いているようにとらえられた。と、いってもどれも優れた作品といえることは間違いないので、ぜひとも「戻り川心中」を読んだ人には読みもらしてほしくない作品である。
そして本書は<花葬>シリーズだけではなく、<陽だまり課事件簿>というシリーズ作品も収められている。こちらは<花葬>に対して、がらりと趣向を変えたユーモア・ミステリ作品となっている。
ただ、この作品集は少なくとも<花葬>シリーズと一緒に収録しなくてもよかったのではないかと思われる。別に連城氏がユーモア作品を書いてはいけないということはなく、これはこれで楽しめるということは間違いない。しかし、せっかく<花葬>シリーズの余韻が残っているところに、親父ギャグ満載の作品が続いてしまうというのはいかなるものかと思ってしまう。
というわけで、本書を読むときは前半と後半は時を隔てて読んだほうがよいだろうということをお勧めしておくこととする。
<内容>
彫刻家・杉原完三が突如失踪するという事件が起きた。生前、杉原完三と会っていた出版社の男により、完三は息子の鉄男に殺害され、どこかに埋められたのではないかという疑いがもたらされる。警察は杉原鉄男に事情聴取をすると、彼は自分が父親を殺害し、森に埋めたと供述するのであったが・・・・・・
<感想>
連城氏の復刊作品。ギリシャ悲劇のオイディプス王をなぞらえたかのような、父・母・息子の悲劇を描いた物語。
反抗期を迎えた少年による父親への反発と、母親との関係との葛藤。そして、そこから生まれた殺人事件。と、それだけであれば、普通の構図となってしまうゆえに、そこから物語はもうひと波乱迎えることとなる。
登場人物が少ないというか、基本的には家族三人の物語ゆえに、意外性を感じるというほどではない(何しろ連城氏の作品ゆえに一捻りはしてくるだろうとの予想は付く)。とはいえ、歪んだ家族の感情というものをうまく表現したサスペンス小説として、きっちりと作り込まれていることは間違いない。
人間関係、男女関係がドロドロとしたものになっているゆえに、好みは分かれる小説であろう。連城氏の小説としては、スケールがやや小さめという感じもするが、そこは短めの作品ゆえに。
<内容>
画家の青木優二は、ドイツからの留学生と称するエルザという女性からとてつもない話を持ちかけられる。エルザが言うには、青木は第二次世界大戦中、ナチスの強制収容所でドイツ人の父親と日本人の母親の間に生まれた子供だと・・・・・・。確かに青木は外国人の風貌を持っており、しかも自身の詳しい過去については知らされていなかった。エルザの薦めにより、青木はヨーロッパへと旅立つのだが、そこで青木を巡る大きな陰謀が繰り広げられようとしていた。
<感想>
1988年の「週刊文春」ミステリランキングの1位を飾った作品とのこと。2007年に文春文庫から復刊されたので、これを機に読んでみる事にしたのだが、これがまた読んでみてランキングの1位を飾るに遜色のない作品だと思い知らされることに。本書はとにかく濃厚としか言いようのない、歴史系ミステリ作品である。
序盤から多くの人々が動き始める。何らかの目的を持って日本人画家・青木に近づこうとするドイツ人エルザ。そのエルザを巡る、アメリカ人とドイツ人の2人の青年。かつてのナチ時代に暗躍した“鉄釘のマルト”と恐れられた女。そして、何らかのターゲットとされる人物、青木。
これら多くの登場人物が互いに行動し始め、少しずつ彼らの道筋が重なり、とあるひとつの目的に向けて収束してゆこうとする。そして、その目的たるものが、まさにトンデモ歴史系ミステリというか、途方もないものであるにもかかわらず、そこへたどり着くまでの深く重い道のりのなかで、思いもかけない説得力を持って読者の前に表されることとなる。
本書は決して読みやすい作品とはいえない。段落をあけずに、次々の登場人物の回想が入れ替わったりと、気をつけて読まなければ混乱しそうになるところも多々ある。しかし、そういった部分をクリアして読みぬくことにより、濃厚で稀有なミステリ作品を味わうことができるのである。とにかく“深くて濃厚”の一言につきる本、是非とも入手しやすいうちに手に入れて、読んでおいてもらいたい作品。
<内容>
「けがされた目」
「美しい針」
「路上の闇」
「ぼくを見つけて」
「夜のもうひとつの顔」
「孤独な関係」
「顔のない肖像画」
<感想>
連城氏の作品集。書かれた年代から言えば、中期の作品集と言ったところか。読んでびっくりしたのは、非常に読みやすかったという事。連城氏の作品というと、ページ数はさほど厚くないものの、内容が濃いせいか、結構読みづらい(ただし、内容は面白い)という印象が強い。しかし、本書に限っては随分と読みやすかったので驚かされた。
読みやすいからと言って、中身が薄いというような事は決してなく、濃厚なミステリ具合に変わりはない。特に最初の「けがされた目」を読めば、いきなりやられてしまうという感覚に陥る。入院している女性患者が医師から暴行を受けたというもの。しかし、その患者自体が素行がよくなく、周囲からはその女が医師を誘ったのでは、という疑いがかかる。そして医師ともうひとりのキーパーソンの行動を調べていくうちに思いもよらない真相が浮かび上がるというもの。
他にも誘拐を扱った「ぼくを見つけて」や、愛人と妻が対峙する「夜のもうひとつの顔」などは、いかにも連城氏らしい作品。さらには、どの作品もそれぞれ読み応えのある内容に仕上げられている。なおかつ、本書は読みやすいので、これは連城作品の入門書としてはもってこいの作品と言えよう。もしも、今まで読んだ連城氏の作品に読みづらさを感じたという人には、是非とも本書を手に取ってもらいたい。
「けがされた目」 病院患者が訴えた、医師による暴行事件の真相とは?
「美しい針」 患者に手を出そうとする精神科の医師であったが・・・・・・
「路上の闇」 タクシーに乗った男は、自分がタクシー強盗と間違われているのではないかと脅え・・・・・・
「ぼくを見つけて」 9年前に誘拐され死亡した息子から、誘拐されたから助けてという電話が・・・・・・
「夜のもうひとつの顔」 不倫相手の男を殺害した女は、その相手の妻から呼び出され思いもよらぬ告白を聞くこととなり・・・・・・
「孤独な関係」 会社の上司の妻から、夫の不倫相手を特定してもらいたいと請われた女は・・・・・・
「顔のない肖像画」 美大生の男は、既に亡くなっている有名画家のオークションに参加することを請われ・・・・・・
<内容>
「夏の最後の薔薇」
「薔薇色の嘘」
「嘘は罪」
「罪な夫婦」
「夫婦未満」
「満点の星」
「星くず」
「くずれた鍵」
「鍵孔の光」
「仮橋」
「走り雨」
「雨だれを弾く夏」
<感想>
連城氏の短編作品集。作品集として共通のテーマがあるようで、それは“不倫”。単なる恋愛が描かれた作品ではなく、禁断の愛を通しての男女の関係が描かれ、そして最後にはその構図がひっくり返される真相が明かされることとなる。
一応、連城氏のミステリ作品として、どんでん返しが描かれたものとなっている。ただ、中にはそのどんでん返しが弱いものもあり(というか、ほぼ普通に終わっている作品もあったような・・・・・・)、全編通してミステリとして濃いというほどではなかったかなと。
一番印象に残ったのは、最初の「夏の最後の薔薇」。見ず知らずの薔薇を持った男から、突然その薔薇を渡された中年女性の物語。二人は、互いの事情を話し始める。そして真相が明かされたときには、薔薇を持った男に対して抱いていた印象が覆されることとなる。
この最初の作品のように、他の作品も“どんでん返し”というほど強くはないものの、普通に見えていたものとは異なる角度からの風景が表されることとなる。ミステリというよりも恋愛的な部分が強く感じられるので、人によって好き嫌いはあるかもしれない。あと余談ではあるが、各短編作品のタイトルがしりとりとなっている趣向がなされている。
<内容>
妹から預けられた幼児を祖父にまかせ、姉は自分の娘を歯医者へと連れて行った。そしてその間に預けられた娘は何者かによって殺害されていた! 一つの殺人を通して浮き彫りになる隠されていた家族の情景。そして真犯人はいったい・・・・・・
<感想>
起こる事件は幼児殺害事件ただひとつ。しかしそこからその事件を通して、家族たちの隠されていた人間模様が暴かれてゆく。ミステリーとして、こんな物語の発展のさせかたもあるのかと感心させられる作りになっている。
事件が起こった当初は、現場の様子から犯人が明らかな単純な事件であると思わせられる。しかし、話が進むにつれ、端役でしかなかったもの達を含め隅から隅までスポットが当てられていき、その事件に隠された複雑な背景があらわにされる。そして事件を通して一つの家族が崩壊していく様がまざまざと描かれていくことになる。
これは外から見たら磐石のように見える家庭が実は非常にもろい土台の上に建っていて、きっかけさえ与えればその絆はもろくも根底から崩れ落ちてしまうという様を表したかのようである。そしてそのきっかけとなる引き金を引くチャンスは、登場したものすべてに与えられていたかのように捉えられるのも印象深い。
<内容>
数十年ぶりの大雪であらゆる都市機能が麻痺する中、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅のいたる所に仕掛けられた盗聴器に一歩も身動きのとれない警察。隔絶された状況に追い詰められていく母親。そして前日から流される動物たちの血・・・・・・。二転、三転の誘拐劇の果てにあるものは!?
<感想>
子供が誘拐され警察に通報する、というところまでは通常の誘拐劇である。しかしそれを通報してきたのは隣の家のもの。当事者宅には盗聴器が仕掛けられていて内部の状況が筒つけであるという。そして警察は隣人宅に待機し、犯人との交渉が始まる。
という幕開けで始まるのだが、その最中も何かが奥歯に挟まったかのような違和感がまとわりついている。子供がさらわれたという母親のみならず、その別れた夫、はたまた周囲の刑事までもがどこか怪しい。誘拐劇を描いた作品は多々あるのだが、交渉時におけるこの奇妙なバランスの上にたたされた状況というものは珍しい。
そして緊迫と不自然さの中で話は進んでいくのだが、これを仕掛けた犯人の目的と周到さには恐れ入る。また、犯人の目的と本書のタイトルの意味についても考えさせられるものとなっている。
結局のところ、本書は間違いなく“誘拐劇”を描いた作品であるといえよう。何か他の背景に誘拐を組み込んだのではなく、“誘拐”にてすべてを包み込んでしまった作品といえるのではないだろうか。しかし結局犯人自身もひとつの動物であったのか、それともその動物たちを外側からながめたかったのだろうか? はたまた犯人自身でさえも・・・・・・
<内容>
北上梁一。職業、芸能マネージャー。ベテラン俳優のマネージャーを勤めている北上はそのお守りにほとほといやけがさしていたある夜、一人の男と運命の出会いを果たした! 「この男をスターにしてみせる」北上が考えた計画とはいったい!?
<感想>
マネージャーと新人俳優との夢を描いた異色作。
大物タレントのマネージャーが一人の男に目を付け、俳優への道へと登りつめていこうとする話。と、書いてしまうと美談のようなサクセスストーリーを想像してしまうかもしれないが、本書はそういう物語とはまた異なるものとなっている。
その見出された俳優自身は本当に俳優に成りたいのかという葛藤とせめぎあいながら道へと踏み出したために、話は決して順調には進んでいかない。その葛藤の中、物語は戻っては進み、進むかと思えば過去の話に戻りと決してストレートに進むことなく遅々として話が語られてゆく。しかし、その危うさを二人がどう乗り越えるのかというのも物語の一つの魅力であり、もしくは結局は失敗することで話が終わってしまうかもしれないという先の見えなさが読み手を惹きつけるものとなっている。そして物語は中盤の山場とラストにおいて、“だまされた”と言いたくなる様な急展開が繰り広げられてゆく。
上記では二人の男の夢の話ということで書いていったのだが、本書ではもう一人の主要人物として一人の女性が登場する。はっきり言ってこの女性の存在は物語の中で不必要ではないかと考えながら読んでいた。しかし、ところどころの分岐点ではこの女性の行動により、進むべき道が決められているということに気づかされる。そしてその役割は物語りの最後まで変わらないものであった。
あくまでも物語の主役は二人の男であるのだが、その人生は“運命の女神”に翻弄されるものでしかなかったというようにもとらえることができる。二人の男があがき苦しんだ人生というのは本当に二人が選んだ道であったのだろうかとも考えさせられてしまう。
一応、本書はミステリーといって良いものだと思うのだが、素直にミステリーであるともいえないような感触もつきまとう。では、どんなジャンルかと問われると困るのだが、結局は“異色”という言葉が似合っているように思える。
一筋縄ではいかない異色ミステリー、ぜひともご一読あれ。
<内容>
香奈子の息子で幼稚園に通う圭太が誘拐されるという事件が起こる。香奈子は離婚しており、工場を営む両親の実家で兄夫婦らと共に暮らしていた。決して資産家ではない香奈子の息子が狙われたのは何故か? 別れた夫が歯科医をしているということを知ってのうえでの犯行なのか? しかし、圭太を誘拐した者からの要求は普通の誘拐とは異なる奇怪なものであった・・・・・・
<感想>
今更、連城氏について評価しても仕方のないことなのだが、それにしてもすごい作品を書くなと。さらに言えば、よくもまぁ、このような作品を長きに渡って書き続けてきたなと感心するほかない。本書は誘拐モノのミステリ作品であるが、予想だにしない展開で進められてゆく、新機軸の作品と言ってよいであろう。
本書の構成を大まかに区切ると3つのパートに分けられる。ひとつは誘拐事件と身代金の引渡しの場面、次がその誘拐に関わる背景について、そして最後にまた一波乱、という具合に進められて行く。とにかく、読んでいかなければ実際に何が起きていて、次に何が起こるのか全く想像すらする事の出来ない作品なのである。
正直言って、序盤は読み進めるのに苦労した。というのも、物語り全体が不安に覆われており、誰も彼もが正確なことを告げず、何か隠したまま話が進められてゆくので、どうにも居心地の悪い読書となってしまうのである。それが読み進めてゆくにしたがって、数多くの波乱が待ち受けている身代金の引渡しや、その事件の背景に隠されていたものが浮き彫りになって行き、徐々にページをめくる手がとまらなくなってゆく。
そして最後に一息つけたところで、もう一波乱と、ここまでやるかと言わんばかりに連城流“誘拐モノ”ミステリが展開されてゆくのである。
これはもうまいったというしかない作品。連城氏の作品を読み続けている人にとっては当たり前ながら、物語上の描写も流麗に語られており、単なるミステリにとどまらず大人の文学系ミステリという香りが漂ってくるような作品に仕上げられているのである。
ミステリファンのみならず、ジャンルを問わず多くの本読みをうならせる作品。昨年出版されたとはいえ、本書こそが2009年を揺るがす作品であるということは間違いなかろう。
<内容>
「指飾り」
「無人駅」
「蘭が枯れるまで」
「冬薔薇」
「風の誤算」
「白 雨」
「さい涯てまで」
「小さな異邦人」
<感想>
2000年から2009年にかけて「オール讀物」に掲載された作品を集めた短編集。相変わらず、連城氏ならではの大人のミステリを展開させている。他では読めないような独特の雰囲気に惹き込まれる。これが最後の短編集となってしまったことが、実に惜しまれる。
「指飾り」は、離婚した男による妻への未練の心情と、そこに付け込むような同僚の女との駆け引きのような物語。一見、オフィス小説のようにも感じられるのだが、それだけでは終わらない余韻を残している。
「無人駅」は、時効間近のとある犯人に迫る小説。ただ、物語の展開は意外な様相を見せ、実に人間臭い終わり方へと収束する。語り手の男が事件を追っているはずであったのに、最終的には終始翻弄されたという様相に陥ることとなる。
「蘭が枯れるまで」は、ひとりの主婦が中心に語られる話から、やがて交換殺人を犯したかのような展開へ移行していく。そうして、いきさつが詳細に語られるかと思いきや、最後の最後で眩暈を起こすかのような展開が待ち受けている。
「冬薔薇」は、不倫を重ねた主婦の行く末が描かれた作品。なんとなく話が「蘭が枯れるまで」と同様な語り口なのかと思いきや、ラストは異なる展開が待ち受けている。2編を比較してみると、内容は違えど感じ入るものがある。
「風の誤算」は、オフィス小説という感じなのだが、単なる恋愛小説のようなものではなく、欲望渦巻く陰謀劇が隠されているところがポイント。予想外の帰結に驚かされる。
「白雨」は、女子高生のいじめを描いた作品なのかと思いきや、それが突然家族にまつわる事件へと発展してゆく。その方向へと仕向けるたくらみがなんとも言えない作品。また、過去の事件を掘り起こし、真相に迫るという点でも見事に構成されている。
「さい涯てまで」は、会社員の不倫の行く末を描いている。主人公は切符売りのJR職員であるのだが、その窓口に奇妙な買い物をする女性の存在により物語が動き出す。そして最終的に主人公の行動が不倫の行く末を決めることとなる。
「小さな異邦人」は、誘拐事件を描いたもの。子供8人の大家族の家に誘拐犯からの電話がかかってくる。しかし、家には全員そろっており、誘拐されたものは誰もいないはず。犯人の狙いはいったい? というものなのだが、意外な人間関係により、意外な展開へと発展してく。さらには、予想だにしなかった者が探偵役となり事件の真相を明かすこととなる。しかし、一番驚かされるのはタイトルにまつわる謎が最後の最後で明らかになるときである。
<内容>
西村純子の夫・靖彦が突如、失踪する。いつも通り、普通に家を出たはずなのに、会社へ行っていなかったのだ。純子は靖彦の弟である直行と共に、夫の行方を捜し始める。夫が失踪した当日、土佐清水で起きた放火事件が、何かかかわりがあるのではないかと考える。そこには、“午前五時七十一分”という不思議な数字が予告され、これと同じ数字を靖彦が口にしていたのだった。行方不明となった夫を捜しつつも、その痕跡をたどることができず、何もできなくなったとき、バラバラ死体が発見され・・・・・・
<感想>
タイトルの付け方がうまいなぁと。それが内容に適しているかと言えば、微妙な気もするが、それでも気を惹かれるうまいタイトルだと感心させられる。また、作中で語られる“午前五時七十一分”という謎も魅力的。途中からは、これもあまり意味がないのかなと思いきや、きちんとした理由がつけられていて秀逸。
内容は失踪した夫の行方を捜すというもの。そこに、いくつかの不可解な点と別の事件が絡んできて、やや複雑な様相を示してくる。ただ、中盤の遅々とした展開が長すぎるかなと。男女の馴れ初め(というほどではないが)を描くというか、微妙な男女のすれ違う思い、心の中での互いの策略というものを描写したという点では優れているのかもしれないが、個人的には煮え切らないという印象が強かった。
正直なところ、そういっただらだらとした男女の感情のみの関係が続いてそのまま終わってしまうのかと思っていたのだが、終章では怒涛の展開が待ち受けていた。最終的には思いもよらぬ構図が浮き上がってくることとなり、事件は意外な決着を見せることとなる。この辺は予想外のものであったので、かなり驚かされた。
本書は連城氏の遺作という位置づけであり、雑誌連載で描かれたもの。そのためかどうか、主人公のひとりであったはずの純子の視点が途中から語られなくなったりと、微妙に流れが変わったように思えたところもあった。本当はこれを単行本化するにあたって、修正などが行われるはずのところをそのまま作品化したということなのではなかろうか。内容がきちんと整理され、冗長なところが整理されたら、さらに優れた作品になったのではないかと考えられる。
<内容>
荻葉史郎の祖父・祇介が旅先で遺体となって発見された。祇介は邪馬台国の研究に生涯をささげていて、今回の旅も邪馬台国について新たなことがわかったという電話に呼ばれて出かけていったのであった。荻葉史郎は妻と精神科医の瓜木と共に真相を探る旅に出る。瓜木は史郎の主治医であり、以前から史郎の相談のっていた。史郎は戦後生まれにも関わらず、戦前の記憶を持っているとずっと悩んでおり・・・・・・
<感想>
本書は元々は雑誌に連載されていた作品で、著者が亡くなった後に単行本化されたもの。出版されてからもう2年以上経っているのだが、その分厚さからなかなか着手しきれず、今回のゴールデンウィークを機に読んでみた次第。
この作品の面白いところは、エピローグがひとつの短編作品として成立しているところ。それはとある男の不思議な記憶に関わる話なのであるが、それが実は超自然的なものではなく、刷り込みによるものという結論に至る。そこから、男の不思議な半生とそれにまつわる邪馬台国を絡めた大きな物語に発展していくこととなる。
物語が進むにつれて、邪馬台国についての話や邪馬台国の記憶についてなどが徐々に語られていくこととなる。“邪馬台国の記憶”というと眉唾なものを感じてしまうかもしれないが、エピローグで語られた記憶の刷り込みというものがあるゆえに、それが突飛なものとは捉えられず、その裏に潜むものの陰を感じながら読み進めていくこととなる。
結局のところ、記憶の刷り込みというものこそが主で、“邪馬台国”自体がどこまで意味をなすものであるのかは微妙なところ。ただ、“邪馬台国”に対する妄執というもの自体は十分に感じ取れた。全体的に面白いと感じられたものの、同じようなことが繰り返し語られる部分もあり、やや冗長であったかなと感じられてしまう。著者が生きていたら、連載された物語を単行本として、もっと綺麗にうまくまとめることができていたかもしれない。
<内容>
石室敬三のもとに家を出ていった妻から電話がかかってきた。温泉から電話をかけているという妻は10時からのテレビのニュースを見ろと。ニュースでは白骨化した左足が発見され、その左足の薬指には指環がはめられていたという。石室の妻は結婚指輪を足の指にはめていたのであるが、それではさっきの電話は誰からなのか? その後、温泉旅館で女性が惨殺されているのが発見され・・・・・・
<感想>
1995年5月12日号〜1996年11月8日号の「週刊小説」に掲載された作品。まさに埋もれていた作品が初めて単行本化されたものである。
20年もの間、よく単行本化しなかったな、と思いつつも、バラバラ死体を扱った陰惨な内容であったり、性的な描写がまざまざと描かれていたりとか、その時代になにかそぐわないものがあったのかなと感じられないこともない。もしくは、著者の意向であったのかもしれないが。
最初は途方もない犯罪劇が繰り広げられる作品なのかと思っていたのだが、最終的には数人の男女の感情のもつれから始まったものだということが明らかになる。最重要容疑者である男の目的はいったい何なのかが物語上の一番の焦点となる。
実は何気に戦中・戦後をひきずった内容であったりとか、若干登場人物の心情にピンとこないものなどが存在した。また、他の関係者たちの行動が微妙に思えたりと、完成度の高い作品かという感じではなかった。ただタイトルと、物語上のキーワードとなっている“しずく”という言葉からくるグロテスクさは非常に強く表されているなと感じられた。思想や心情的なものは理解できるようなものではなく、ただただ色々な意味でのグロテスクさが印象に残る作品であった。
<内容>
男はふと思い立ち、仕事中にもかかわらず、韓国へと旅立つ。男は、そこで40年前に姿を消した母親と、そして母と共に駆け落ちしたと思われる知人の行方を捜そうとするのであったが・・・・・・
<感想>
雑誌「すばる」に連載された作品で、書籍化されていなかったものを単行本化した作品。
突如、韓国へと旅立った男の目的は? そして、その結末は? というような作品であったが、内容は微妙。途中、エッセイが挿入されていて、それを書いたものが、主人公の家族設定と異なることから、実は主人公が2重の記憶を有しているのかな? とか思わせる描写があったと思ったら・・・・・・エッセイは連城氏自身のものであると、あとがきに記載されていた。
そうすると、そのエッセイを除けば、単に主人公が過去を取り戻すために外国へ来たというだけの話で終わってしまっている。文学小説風と言えないこともないが、個人的には微妙な作品であったかなと。まぁ、それゆえになかなか出版にいたらず、かつ本の帯に実験長篇と書かれていたのだなと。それを踏まえて、実験的メタ小説と理解したうえで読めば、異なる感想を抱けるのかな?