<内容>
「耳すます部屋」
「五重像」
「のぞいた顔」
「真夏の誘拐者」
「肝だめし」
「眠れない夜のために」
「Mの犯罪」
「誤解」
「鬼」
「目撃者」
<内容>
「首吊り島」
作家である山本は、いつの間にか“首吊り島”と呼ばれる島へと行くはめになっていた。その“首吊り島”の新見家の邸に浮身堂と呼ばれる海上にある離れの部屋があり、かつてその部屋ではいくつかの謎の死亡事故が起きたという伝説があるのだ。そしてその伝説が現代に蘇り、山本は高名な推理作家としてその事件を解き明かすことになっているのであるが・・・・・。
“首吊り島”の当主である新見家とその分家。しかし、本家の頭首が死んだ時に、互いが互いに抱いていた物事が徐々に明るみに出つつ・・・・・・。しかし、頭首の死に悲しむ間もなく、新見家の娘、雪代、月代、花代たちの命が次々と、浮身堂の衆人監視の密室の中で奪われることに・・・・・・。わらべ歌のしらべに載せるかのように次々に起きる怪事件。この謎を山本は解くことができるのか・・・・・・
「監禁者」
メゾン・サンライズの201に住む作家の山本はマスクをした女によって、同じアパートの102号室に監禁され、強制的に推理小説を書かされるはめに・・・・・。また同アパート201号室に住む清水真弓は、アパート内でなんらかの異変が起きていることに気づき行動を開始するのであるが・・・・・・。
<感想>
結局は落ち着くところに落ち着いてしまったな、という結末。横溝正史ばりの「首吊り島」を読んでいるときは、最終的な結末に期待したのだが、「監禁者」のほうからの流れで結末が落ち着いていしまったのは残念。まぁ、題名が「倒錯の帰結」であるわけだから、全二作を踏襲してしまうのもしょうがないのであろうが・・・・・・
それでも、作中作家の山本が感じている苦しみを折原氏本人が感じているのはよくわかる。これでもか、これでもかという具合まで、凝りに凝った本書を見れば一目瞭然なのであるのだが。叙述作家もなかなか大変だ。
<内容>
“不幸の手紙”が連鎖するうちに間違えて書かれるようになった“棒の手紙”。その手紙には2日以内に同じ文面の手紙を5人に出さないと不幸が訪れるという内容が書かれていた。そして棒の手紙を受け取ったものが別の5人に手紙を送ると、その受け取ったものたちが死んだというニュースが流れてきた! しかも“棒”による撲殺死体であったと・・・・・・
<感想>
本書は折原氏が青沼静也名義にて出版した本である。しかし、その売れ行きが芳しくなく文庫化するに当たっては本来のペンネームに戻して出版したといういわくつきの本である。
私は文庫になる前はこの本の存在を知らず、前述の事実については本書のあとがきを読んで初めて知ることとなった。ゆえに、本書を折原氏が書いたものだという前提で読んだのだが、できればそういった事実を知らないまま青沼静也名義のときに読んでみたかったものである。
さて、本書の内容であるが、これがまたどこに名義を変更する必要があるんだって言いたくなるくらい、まっとうな折原氏の作品である。よって上記に折原氏が書いたことを知らないまま読みたかったと述べたのは、いくらなんでもこの作風であれば気づいたのではないかと思ったからである。といいつつも、結構私は騙され易いので、そんなことに気づかず最後まで読み通してしまったという可能性もある。
と、そんなわけで、ここであえて内容について言及する必要はないと思う。ようするにそう感じられるほど本書は折原氏の作品以外の何ものでもないのである。多少ホラーよりになっているとはいえ、今までそういった作品を書いてないわけではないし、犯人の正体も別に超常的なわけでもなく、ミステリーとして帰結しているといえるのだからなおさら名義を変える必要はなかったのではないかと感じられた。結局のところ、折原氏が心機一転して違った感覚で本を書いてみたかったのかななどと想像する。
ということで、折原氏ファンの人はいつもながらの期待を裏切られることはないので安心して読むことができる内容である。ただし、ある意味マンネリ化しているという事情は避けられないものがあることも事実である。
<内容>
埼玉県の3世帯が同居する家にて、4人が惨殺されるという事件が起こった。現場での生存者は娘一人。そして生き残った娘の弟にあたる、一家の息子が事件直後から行方不明になっていた。その息子がこの事件を起こして逃げたのかと思われたのだが・・・・・・
また、池袋では一人の青年が万引き事件を起こして逮捕されるという騒動が起こった。万引きだけならば、ありふれた事件なのであるが、その青年は事件を起こした事については認めたものの、名前など自分の身の上については一切語らなかった。それにより、青年の罪はどんどんと大きなものへとなってゆき・・・・・・
<感想>
普通、うん普通に折原氏らしい作品でそれなりに面白かった。
・・・・・・で、終わらせるのもなんなので、もう少し続けてみる。本書では一家皆殺し事件の捜査と共に、軽犯罪を犯した青年の裁判の様子を追いかけている。軽犯罪を犯した青年と書いたが、ここでのポイントはこの青年が自分の名前については一切口にしないという事。それゆえに、大目に見てもらえそうな万引き事件が大げさな自体へと発展していくものとなっている。この様相を見ていると従来ならばありえないのでは? とか、実際にそういう事があったらどうなるのだろうと思っていたのだが、実はこれは実際にあった事件を元に小説を描いたものであると解説に書いてあった。それがどのような結末をむかえたのかという事は読んでみてのお楽しみ。
あと最後にひとつ付け加えると、解説にて佐野洋氏が叙述トリックではなく、叙述テクニックと発言しているのには、なるほどと感心させられた。
<内容>
湖畔の樹海に、新たな伝説が生まれようとしていた。奥深いその森に棲む一家の主が、家族を斧で惨殺し失踪。数年後、事件を究明するため、若者が一人で森に分け入り遭難。そして今、若者が遺した克明な手記「遭難記−魔の森の調査報告書」を片手に、男女二人の大学生が樹海に足を踏み入れ、さらに・・・・・・。過去と現在が恐怖に共鳴し錯綜する、驚愕のミステリー。
<感想>
うまく折原氏らしい中編作品としてまとまっている。「暗闇の教室」のようなホラー色が濃い作風になっており、また内容がごちゃごちゃしておらず、すっきりしていて読みやすい。人々が誘われるように森へとひきたてられ、現在と過去が錯綜するように事件が起きて行く様子は恐怖感をあおられる。ミステリーというよりもある種のホラー作品といっても良いであろう。そして皮肉がきいているかのようなラスト。ミステリーを読んでいる人をあおるかのような終わり方がなかなか良い。
<内容>
「うちの天井裏には天井男が棲みついているんじゃ」それは孤独な老婆の妄想なのか? そしてその上の二階は“いわくつき”の貸し部屋。その部屋に住んだものは・・・・・・という噂が耐えないという。そしてそこに何者かから逃げ回っているような女性がその部屋を借りることになり・・・・・・
<感想>
一言で語ってしまえば話が長すぎである。いままでもいくつかの“倒錯”シリーズを書いているのだが、もう少しすっきりとした印象があったはず。それが今回は“本格ミステリマスターズ”の規定なのか他の本とページ数を合わせるようにしているのかはわからないが、400ページというのは長いと感じた。
話は“老婆”と“天井男”と“逃げてきた女性”の三人のパートが交互に語られるものなのだが、“老婆”と“天井男”のパートというのが遅々として進まない。というよりは繰り返しになっているようにも感じられる。もう少し物語の展開を早く進めてもらえればと感じた。また、それなりに“本格ミステリマスターズ”という趣旨を考えて、本格の色をも出そうとしていたようだがそれが成功したかといえるかどうかが疑問である。
このような趣旨の本は折原氏にしてみれば、もうすでに到達してしまった段階のネタのはず。それをさらに自分自身で超えようとするのは難しいことであろう。いくら一般的な水準に達しているとしても、少なくとも自らの既刊のものを越えなければ良い評価はされないのではないだろうか。
<内容>
「北斗星の密室」 (ジャーロ 2001年冬号)
家事の中死体で発見されたのは、町じゅうから嫌われている悪徳地主であった。しかも死体はバラバラ死体であり、さらには発見された部屋は密室であった!
「つなわたりの密室」 (ジャーロ 2001年秋号)
人がほとんど住んでいない幽霊マンションと呼ばれるマンションにて死体が発見された。部屋は鍵がかかっており、さらには1人分の死体のほかに生首がもうひとつ・・・・・・
「本陣殺人計画」 (密室殺人大百科−上 2000年7月 原書房)
叔父に恨みをもつ男が横溝正史の『本陣殺人事件』を読んで、それになぞらえた殺人計画を行おうとするのだが・・・・・・
「交換密室」 (ジャーロ 2002年冬号)
妻に死んでもらいたいと願う男が酒場にて交換殺人を提案される。男がその提案を決めかねている前に自分の妻が殺されることに!!
「トロイの密室」 (密室レシピ 2002年4月 角川スニーカー文庫)
送られてきた棺桶と泊まると必ず人が死ぬという呪われた部屋。閉ざされていたはずの呪われた部屋からは死体が見つかり、空だった棺の中からは・・・・・・
「邪な館1/3の密室」 (ジャーロ 2003年冬号)
遺産相続の候補となり集められた三人。しかし、遺産を狙うかのごとく三人は次々と・・・・・・
「模倣密室」 (ジャーロ 2003年春号)
密室の中で二人の男女が倒れているのが発見された。女性は意識不明の重体。息を吹き返した男は、なぜこんな状況になっているのか全くわからないというのだが。
<感想>
“密室”という、すでにある程度は出尽くしたと思われる題材を用いて、これだけの数の短編を書き上げるのはすごいと思う。著者の“密室”へのこだわりというものが十二分に感じられる。いや、著者のというよりは“黒星警部”による密室への怨念ともいいたくなる。黒星はまだまだ死せず、といったところか。
全体的に感じられるのはどれも大胆でダイナミックな密室の作り方であるということ。心理的だとか、機械的だとかいうよりは、ドドーンという感じの力技による密室である。なんとなく、“バカミス”密室トリック集といいたくなるような作品群。
その中でも極めつけは「北斗星の密室」か。職人芸のようでいて、おおざっぱであるかのような大胆な密室がここで作られている。本当かよ! といいたくなるようなトリックがまた魅力ともいえる。
また、「本陣殺人計画」や「模倣密室」のようにアンソロジー的(もしくはアンチ的といえるかもしれない)な作品も加えられている。折原式“本陣殺人事件”や“モルグ街”というのもなかなか乙なものである。
また、連作短編ではないにしても登場するお馴染みのキャラクターたちのこれからの動向にも気になるところだ。黒星警部、竹内刑事、虹子の三角関係の行方はいかに。そして「邪な館」で出てきたのは黒星警部のライバルかそれとも単なるパロディか・・・・・・
<内容>
事件現場にトランプを置くことから“ジョーカー連続殺人事件”と呼ばれた事件の容疑者が逮捕された。犯行を否定する容疑者に、執拗に自白をせまる刑事たち。そのころ、母子家庭の息子が誘拐され、母親が身代金を誘拐犯に引き渡すという事件が密かに進行していた。ジョーカーによる事件はまだ続いていたのか!? そしてそれらの事件はいつしか法廷へと・・・・・・
<感想>
本書を読みながら思ったことは、「そんな馬鹿な!」とか「ありえない!」とかこういった感想である。
事件の容疑者が取り調べにて、拷問に近い扱いを受ける。いまどき、ありえない!
大きな事件の犯人として捕まえてきたわりには証拠がほとんどない。ありえない!
誘拐されてから時間が経過しすぎている。ありえない!
身代金を渡すほうは早とちりしすぎ。ありえない!
その他もろもろ。
一応、最後の解決によってこれらの否定的な部分のいくつかには理由がつけられることになる。とはいうもののあまりにも・・・・・・という感じが最後まで付きまとうのは確かである。そしてこれら一連の事件の根本的な理由に対しても心情的に納得のいくものではなかった。驚愕の結末であることは確かなのだが。
<内容>
小説を書くことに行き詰まった作家は心機一転して樹海に面した家を購入し、そこに移り住むことを決めた。彼は画家である妻と娘の双子の姉妹をつれてそこで暮らし始める。しかし、相変わらず小説の執筆は進まず、しだいに家族に当り散らすようになり・・・・・・
<感想>
二転三転するプロット、といいたいところだが空転しているように感じられる。やはり、話の最後だけで効果的に物語のどんでんがえしを繰り返すというのは難しいのだろう。その辺は著者も四苦八苦しているのではないだろうか。
結局のところ通して読んだ感想はというと、普通のサイコ・ミステリー、もしくはサイコ・ホラーといったところである。まぁ、お手軽に読める400円文庫シリーズというわけで、内容もお手軽にといったところで。
<内容>
ぼくの叔父がネットで知り合った仲間たちと集団自殺を図り死んでしまった。叔父を含めた四人はワゴン車の中で七輪を炊き、自殺をしたのである。ただ、その四人のうちの首謀者と思われる女性のひとりだけは死んでおらず、意識不明の重態となっていた。叔父の死に疑問を持った叔母からの命令により、ぼくは叔父の事件の捜査を始めたのだが・・・・・・
<感想>
この前に読んだ折原氏の本が「沈黙者」であり、その本の内容は実際に起きた事件を参考に考えたものとの事であった。よって、この「グッドバイ」も実際に起きた事件を元に考えられたミステリーなのであろう。本書にて取り上げられている事件とは“集団自殺”である。ワゴン車の中で七輪によって集団自殺を図るというものである。
という事で、その“集団自殺”というものをひとつのテーマにしてミステリーを構築するという案は良かったのではないかと思う。しかしながらミステリーの出来としては成功しているとはいいがたかった。
読んでいる最中も、中盤くらいまではそれなりの展開がなされていると思えたが、後半では冗長と感じられた。どうも長編のネタとしては足りなかったのではないかと思える。
そして、ラストに明かされる“叔父殺人事件”に秘められた謎や、折原氏得意の叙述トリックも明かされるのだが、それも決まっているようには思えなかった。もう少し、主人公のひとりである“甥”の感情の描写などを書き込んだ方がラストでの効果が上がったのではないだろうか。
そんなわけで、折原氏の作品の中では失敗作の部類かなと。
<内容>
埼玉県の黒沼のほとりに建つ家で起きた行方不明事件。その家に住んでいた主人、妻、娘、年おいた母親の4人の行方がわからなくなったのである。家は荒された形跡はなく、まるで失踪直前まで普通に過ごしていたかのよう。一家四人は突如神隠しにでもあったかのように消えてしまったのである。数年前に、近隣で起きた一家四人惨殺事件と何らかのかかわりがあるのだろうか!? ライターの五十嵐みどりは、単独でこの事件を調べていく。
一方、売れない推理作家の“僕”は、電車に乗っていると痴漢扱いされてしまう。腹が立ち、その相手をそっと付け回してゆくと、そいつが巷で噂になっている連続通り魔であることが判明する。“僕”は憑かれたかのように、通り魔の後を付け回してゆくのであるが、いつしか“僕”が通り魔と間違われる羽目となり・・・・・・
<感想>
一見、何にも関係なさそうな連続通り魔事件と、一家行方不明事件が並列に進行し、やがて物語が交錯していくという折原氏らしい作品である。今作では、整合性もきちんととれており、パーツがぴったりとうまくはまる内容になっている。最近読んだ折原氏の作品のなかでは秀作の部類に入ると言ってもよいくらいの出来栄え。
この作品ではなんといっても一家四人の失踪事件が目玉となる。突如、消えうせた四人の行方と、失踪(もしくは事件?)の動機は何なのか。それらの謎が興味をひき、最後まで物語にのめり込まされることとなった。他にも一家四人惨殺事件や、通り魔事件などもあり、さまざまな要素によりミステリとしての謎と興味を引き立ている。
気になるところは、読み終わってみれば、そういった結末であれば今まで事件が謎となっているのはおかしいように思えたところ。むしろ、ここまで大々的にとりあげられている事件であれば、簡単に真相が発覚しそうな気がしなくもない。まぁ、読んでいる最中には全然気になることではないのだけれども。
それと不可解なのは、折原氏の作品でよくあることなのだが、主要登場人物に“嫌なやつ”が多いというところ。そのせいもあってか、なんとなく話に共感しづらいと感じることが多々ある。
とはいえ、初期の折原氏の作品に並ぶくらい、良くできていたと感じられた。今から氏の作品を読むという人には、格好の入門書となり得る作品である。
<内容>
中学校の8人の生徒と担任がタイムカプセルを埋め、10年後にあけることを約束し、それぞれが別の道へと進んだ。そして10年後、タイムカプセルをあける日にちがせまってきたとき、何者かの手によって、かつてタイムカプセルを埋めた者達のもとに不気味な案内状が届く! 秘められた10年前の秘密とはいったい!?
<感想>
うーん、これは折原氏のファンの方にも、これから折原氏の作品に触れ始めようとする人にも、あまりお薦めできない作品である。
過去を思い起こしながら、現在の状況をホラー・タッチで描いていく、というのはいかにも折原氏らしい作風である。そうしたなかで、タイムカプセル、10年前の謎の不登校児、“ホール”という謎の言葉、謎の案内状と、さまざまなミステリーを構成する要素が出てきているにもかかわらず、最終的にそれらを結びつける力がずいぶんと弱かったように思える。折原氏の作品としてはやけに完成度が低いと感じられた。正直言って、こんな結末でクライマックスを袋とじにする必要があったのかと疑問に思うくらいである。
“ミステリーYA!”という叢書の創刊作品としてはちょっと残念な内容ではないだろうか。
<内容>
「偶 然」
「放火魔」(「疑惑」を改題)
「危険な乗客」
「交換殺人計画」
「津村泰造の優雅な生活」
「黙の家」 <ボーナストラック>
<感想>
ふと思い、調べてみると意外と折原氏の著書には短編作品が少ない。未だ折原氏の作品を手に取ったことがなく、どれかちょっと読んでみたいという人には本書は格好の入門書と言えるだろう。気軽に折原一の世界を楽しむことができる作品集である。
「偶然」と「津村泰造の〜」はオレオレ詐欺を題材にしたもの。前者はシンプルながら良くできていて折原氏らしい作品。騙す側と騙される側の駆け引きに引き込まれる。後者は老人に対するリフォーム詐欺も絡めた内容。これもどんでん返しが決まっているものの、最後のオチはやや蛇足か。
「放火魔」は母親の視点で物語が進められてゆくも、この母親の推測は誤っているのだろうなと、当然ながら予測をしてしまう。そうするとなんとなく真相に思い当たるものの、展開としては予想外のところまで到達していて楽しむことができる内容に仕上げられている。
「危険な乗客」は、なんとなくいまいち。旅情ミステリなのか、なんなのか。予想外の展開は見せるものの、ただそれだけで、やられた感が皆無。
「交換殺人計画」は内容よりもキャラクタ性に尽きるといったところか。ブラックユーモア的な内容がなんともいえない作品。
「黙の家」はボーナストラックと書かれている通りのもので、折原氏の趣味である、画家・石田黙の作品を紹介するという内容。いちおうミステリ調にはなっているが、むしろオチはいらないくらい。
<内容>
友竹智恵子は、とある理由から面識のない男を殺害してしまう。殺人の容疑で警察に逮捕されるものの、警察の隙をついて逃げることに成功する。それから、智恵子の逃亡生活が始まる。15年の時効の成立を目指して、逃げ続ける智恵子であったが・・・・・・
<感想>
実際にあった事件を元に、折原氏流にアレンジしたサスペンス・ミステリ。元の事件があるとはいっても、それをなぞるだけというものではなく、単なるドキュメント小説として終わるような内容ではない。きっちりといつもの折原氏らしい結末が待ち受けている。
しかし、長い話だったなぁ、というのが正直なところ。文庫で読んだのだが、570ページとなかなかの分厚さ。そのほとんどが旅情風(そんなにのどかなものではないが)の逃亡劇。15年という歳月を印象付けるための長さなのだろうとは感じ取れるものの、それでも冗長と思わずにはいられなかった。
ラスト間近になると話が急展開し、一気に終幕まで駆け上がっていく。終わり方といい、意外性といい、なかなかのものを感じられるのだが、物語の大半を占める冗長さに比べると、こちらはやけに淡白であるなと。ほとんど“何故”に言及しないまま、あっという間の終幕。残念ながら意外性のみで終わってしまったかなと。
むしろ、この作品を読み通すことによって、実際にあった“松山ホステス殺人事件”のほうに興味が惹かれてしまった。そちらのノン・フィクション小説あたりと比べてみると、この「逃亡者」もまた、別の味わいが出てくるかもしれない。
<内容>
浅草の古びたアパートで絞殺死体が発見された。殺害されたのはOLであったが、夜は町はずれに立ち、売春をしていたとの情報が。すぐに容疑者らしき男が逮捕され、事件は解決されたかと思いきや、その容疑者はシロと判明。その後、捜査は膠着状態となる。ルポライターの笹尾時彦は、この事件をものにしようと取材を始める。すると被害者のOLの周囲では過去にさまざまな事件が起きていたことに気づき始め・・・・・・
<感想>
もはや折原氏も妄想ノンフィクション作家(それではフィクションじゃないかと・・・・・・)という感じ。過去に起きた実際の事件を題材として、折原氏が大幅に脚色して描くこのシリーズ。今回の題材は“東電OL事件”。
今作はルポ風の作品としても、ミステリとしてもかなりの完成度を誇るものとなっている。ちょっと長めではあるのだが、さまざまな取材やルポの内容から交錯する事実や真相を浮き彫りにしていくという手法はなかなかのもの。ちょっとした情報操作により、事件の全体的な印象が一変してしまう仕掛けは見事であり、実社会にも当てはめることができるものとなっている。
さまざまなレッドへリングが仕掛けられており、多くの読者も誤った地点へと誘導されることとなるであろう。この「○○者」シリーズの中では、ミステリとしての完成度が一番高い作品といえるのではないだろうか。
<内容>
野原実はおとなしい息子・輝久の動向が気になり、こっそりと日記を盗み読む。“てるくはのる”日記と題されたものには、輝久が学校で受けるいじめについての告白がなされていた。いじめの中心には、つねに“帝王”と呼ばれる謎の生徒の存在が!? 野原実は息子の様子が気になり、極秘に担任と相談しつつ、いじめの存在を明らかにしようとするのだが・・・・・・
<感想>
これはなかなか面白かった。内容は全く異なるのだが、かつて折原氏が書いた「沈黙の教室」のような学園ものを想起させる。学園ミステリとして、なかなかの出来ではなかろうか。
ただ、折原氏の作品を読み続けているものにとっては、ある程度の真相は容易に予想できる。とはいえ、物語の流れを楽しむことはできるし、さまざまな展開により読んでいるものを飽きさせない。さらに付け加えれば、現実に起きた“てるくはのる事件”(実は、個人的には全く知らなかった)というものをアナグラムを主軸にして、うまく扱っている。
大人向けのミステリというよりは、学生や子供向けのミステリとして楽しめそうな内容である。また、折原作品にあまり触れたことのない人であれば、より楽しめるのではなかろうか。今から折原氏の作品に触れたいという人には、ちょうどよさそうな作品。
<内容>
若手ルポライター・笹尾時彦は推理小説新人賞の下読みのバイトを引き受けることに。するとそのなかに気を惹かれる原稿が混じっていた。それは、かつて少女失踪事件が起き、犯人として逮捕された堀田守男について書かれたものであり、まるで本人が書いているかのような・・・・・・。結局その事件は失踪した少女たちは発見されず、さらに別件で逮捕されていた堀田守男がもうすぐ出所してくるとの情報を聞きつける。笹尾はこの事件について調べ、ルポをものにしようとするのだが・・・・・・
<感想>
折原氏による〇〇者シリーズ。今回も実際に起きた事件をモチーフとし、その事件にルポライターが迫るというもの。小説新人賞に応募してきた作品のなかからルポライター笹尾が気になる作品を見つける。話は完結していないものの、それはまるで少女失踪事件の犯人として逮捕された男の手記であるかのように描かれていた。この作品を機に笹尾は事件の過去と現在について調べてゆく。
事件のとっかかりはなかなかのもので非常に興味をそそられる。ただ、中盤以降はちょっと微妙な展開であったかなと。最初の方は主となる視点がある程度絞られていたのだが、話が進むにつれて、どんどんと登場人物が増え、しかもそれぞれの登場人物が主観となって話が進められてゆくこととなる。ちょっとこのへんは、混乱する群像小説のような感じになってしまって、物語自体に締まりがなくなってしまったという印象であった。なんとなく、著者の思惑とは別に、登場人物らが勝手にそれぞれ主張を始めだしたというような感じ。
そんなこともあってか、ちょっと中盤から後半にかけては読みすすめずらかった。また、肝心の結末に関しても、結構予想しやすいような展開であったので、全体的に普通の作品という感じで終わってしまったかなと。〇〇者シリーズのなかでは平凡なほう。
<内容>
賃貸形式グランドマンション1番館の前に、分譲マンションとなる2番館が建設されることとなった。1番館の2回に住む住人の一人は日照権を訴え、行動しようとするものの誰も賛同者はいない。そうしたなか、彼は騒音トラブルに見舞われることとなり・・・・・・
<感想>
1棟のマンションを舞台に、いつもながらの折原氏流ミステリが連作短編形式で披露される。そして今回テーマとして付け加えられているものが“高齢化社会”。マンションに住む独居老人という存在をテーマに含めつつ、色々なミステリ模様を展開させてくれている。
中身は大まかに言えば、こんな感じ。
202号室に住む男は、上の階に住む者による騒音トラブルに悩まされ、その住人を調べてみると、どうやら子供を虐待しているようであり・・・・・・
304号室に住むマンション販売員の女は自分がストーカーされていることに気づき始め・・・・・・
206号室に住む民生委員の男は、マンションに住む老人の状況を調べようとするのであるが・・・・・・
203号室に住む男は金がないために、とある犯罪を企てるのであったが・・・・・・
グランドマンションにてオレオレ詐欺が頻発し始め・・・・・・
103号室に住む女は、ちょっとした事件に会い、“母を訪ねて三百里”という手記を手に入れ・・・・・・
105号室に住む女は、目の前に建ち始めていたマンションが突如消え失せたのを目の当たりにし・・・・・・
ひとつのマンションでこれだけ多くの犯罪が起こるというのもなかなかのもの。犯人として捕まってフェードアウトしてゆく人物もいれば、そのままマンションに居残り、複数の話にまたがって出てくる人もいる。そして最後にはクイーンの「神の灯」ばりに、マンションをひとつ消してしまうという荒業も!?
折原氏の作品は多数読んでいるので、個人的にはマンネリ化しつつあるものの、今作は結構楽しんで読むことができた。マンネリ化しつつあるところに、うまく世情を取り入れ、きちんと現代風のミステリに仕立て上げているところはさすがと言えよう。マンションにまつわる、とある秘密(というほどでもない?)が最後に語られて、話がまとめ上げられているところも秀逸。
<内容>
クリスマスの夜に発見された一家惨殺死体。警察が捜査をするも事件は迷宮入りとなる。そんなとき、その家族の親類が自称小説家・塚田慎也に事件調査の依頼をしてくる。塚田は以前、資産家夫婦が殺害された事件についてのルポを自費出版しており、それを読んだことにより親族は事件調査の依頼をしてきたとのこと。塚田は、殺人事件の真相を探るべく調査を始めてゆくのだが・・・・・・
<感想>
この○○者シリーズ、毎回同じような自称小説家(ときにはルポライター)のような人たちが主人公として描かれているが、よくぞこれだけバリエーションがあるものだと感心する。今までは、単なる似たような設定と片づけていたものの、これだけ同じような設定が続けば、むしろよく描き分けられるなと感心してしまう。今作でも、一見どこかの作品で見たような主人公であるが、新たなキャラクターを創造してしっかりと描き切っている。
中身については普通という感じではあるのだが、それをうまく題材を生かし、一風変わった形式で描いていると事はさすがかなと。一家惨殺事件が起きた家の隣に住む被害者の祖母らの家族らを絡めながら事件を再構築し、さらには別の資産家夫婦殺害事件も扱い、事件全体を幅広く見立てている。そこに殺人ピエロの投入や、謎の電動車いすの男などを登場させつつ、最後には殺人劇を上演することにより真犯人をあぶりだそうとしている。
色々な伏線を張りつつも、微妙な粗が個々に見受けられるのだが、それらもさほど気にならないような力技で乗り切っているという感じ。〝構成の妙”という形でとらえられるような作品。