<内容>
大島不動産に勤めることになった若宮美恵子。彼女は、前社長の息子で難病に苦しむ大島雅弘の世話係を命じられた。さらに、派閥争いのあおりを受け、クレーム対応を行う新設部署で働くことまでも命じられる羽目に。そんな仕事などしたこともなく途方にくれる美恵子であったが、彼女の前に“犬頭”と名乗る謎の男が現れ、事件を快刀乱麻のごとく次から次へと解決していく。
「居座られた部屋」
「借りると必ず死ぬ部屋」
「ゴミだらけの部屋」
「騒がしい部屋」
「誰もいない部屋」
<感想>
「居座られた部屋」 部屋から出ていかない男へのクレーム対応。
「借りると必ず死ぬ部屋」 そこに住むと死ぬと言われる部屋に住んだ者からのクレーム対応。
「ゴミだらけの部屋」 近隣のごみ屋敷へのクレーム対応。
「騒がしい部屋」 ポルターガイスト騒動が起こる部屋へのクレーム対応。
「誰もいない部屋」 住むと失踪してしまうという部屋へのクレーム対応。
不動産会社でクレーム対応を命じられた美恵子が挑むクレームについては、“問題”というよりも、もはや“事件”。失踪したり、人が死んだり警察沙汰となってもおかしくないくらい。そういった難事件を謎の探偵“犬頭”の力を借りて解決する。
この“犬頭”は、もはやできないことは何もないというか、ほとんど超自然的な人物(犬物?)。キャラクター設定や、細かいことを決めるのがまるでめんどくさくなったのでは!? と問いかけたくなる人物(犬物)設定。まぁ、ここまで行けば、行き過ぎていていいのかなと思えなくもない。
事件も単なるクレーム処理にとどまらず、背後にさまざまな利権の絡みや秘められた思いなどがあり、思わず引き込まれてしまう。特に「ゴミだらけの部屋」などは内容が凝っていて読み応えがある。とはいえ、シリーズ化すると考えると、不動産のクレーム対応ということで、パターンがある程度決まってしまうのでは? 今回の作品群のなかでさえ、似たようなものがあったし。ただ、最後まで読むとシリーズ化してもおかしくないような展開になっているのだが!?
<内容>
出版会社に就職したものの、各部署にて都合よく雑用を押しつけられる日々を送る白戸修。今回は、大学の防災工学の博士による実録ルポを掲載するために、当の聖田博士と共に、彼の職場から帰宅路を一緒に歩くという羽目に陥っていた。道中休憩をとった際、白戸は何者かに襲われ、服を交換させられてしまう。すると、白戸のことを松崎という人物と勘違いした者達が次々と現れ、襲われ続ける羽目に。そんなとき、かつて白戸と共に事件にかかわった者たちが彼を助けようと、次から次へと現れる。そんなこんなで、いつの間にか白戸修は爆弾予告事件に巻き込まれていることとなり・・・・・・
<感想>
何故、白戸修シリーズ3作品目にしてオールキャスト登場? 内容は、ネットで賞金がかけられた爆弾予告魔と間違われた白戸修が、ひたすら逃げ回る話。しかし、内容よりも気になったのは、前作と前々作に登場していた人々のほとんどがこの作品に登場してきたのは何故? ということ。
一応、真の爆弾予告魔の目的は? とか、物語の中心になっている人々のそれぞれの思惑は? とか、謎となっている部分はあるものの、過去の登場人物のオンパレードがひたすら続くので、物語としては焦点がぼやけるばかり。とはいっても、さほど複雑な内容ではないため、話がややこしくなるということはないのだが。
しかし3作目にして、このような集大成的な中身になってしまうということは、シリーズ最終作ということなのだろうか。まぁ、終わっても続いてもおかしくないくらいのシリーズなので、今後の動向を見守りたい。ただ、主人公の白戸修は自身のシリーズが終わっても、他のシリーズ作品に登場してきそうな気がするが。
<内容>
新興宗教団体にかかわる事件の捜査が大詰めを迎えようとする中、事件を指揮していた鬼頭管理官が襲撃を受け、重症を負った。警察全体が緊迫する中、都内近郊で人々がスズメバチが人を襲う事故が次々と起こる。たいした問題ではないと思われたのか、手の空いている警視庁総務部総務課の須藤に回ってくる。須藤は主に容疑者や被害者の飼っているペットの世話をするという仕事をしていた。須藤は相棒で動物に詳しい薄圭子巡査とともに捜査に乗り出すが、徐々に新興宗教団体による襲撃事件の渦中へと入り込むこととなり・・・・・・
<感想>
「小鳥を愛した容疑者」に続く、シリーズ作品。4年ぶりの新作で、今回は長編。刑事の一線を離れて総務課で容疑者や被害者の飼っているペットの世話をする係に配属された須藤と、変人で外見は子供にしか見えないが動物に対する知識は高い薄圭子の凸凹コンビが活躍する。
蜂にかんする事件を捜査するというもの。しかし、どれも事件というほど大きなものはなく、“実験”というイメージが近い。蜂を使った何かを起こそうと考えている者がいるらしく、その真相をつきとめるのが今回の物語のポイント。
終幕へ至るまでの個々の捜査は、この凸凹コンビならではコミカルなものが展開されてゆく。そうして緊迫の終盤であるのだが、これが思いのほか意外な展開を見せてくれることに。宗教団体が何らかのテロを行うのだろうなという予想されるのだが、実際はその斜め上を行く予想外の行動が! それを凸凹コンビが看破できるのかが本書の見どころ。
軽く楽しむ作品と思いきや、結構重い内容で、きちんとしたミステリが描かれていた。今年の意外な収穫の一冊といえよう。
<内容>
「未完の頂上」
「幸福の代償」
<感想>
福家警部補シリーズ第4弾! であるのだが・・・・・・短編2つと、やけに薄め。ドラマ化されているゆえの、早めに作品を出さなければならないとかいう制約があるのかなと。
一話目の「未完の頂上」は、山を知り尽くした男による殺人計画。二話目の「幸福の代償」は、動物を護ろうとする女性による殺人計画が描かれている。
「未完の頂上」のほうは、念には念を、というほど考え尽された殺人計画。しかし、計画を練り過ぎて、かえってボロが出てしまうのではと心配したくなってしまうほどの念の入れよう。この作品で不満だったのが、福家警部補による犯人の指摘方法。倒叙作品ゆえに、どのような決定的な証拠を提示して犯行をあらわにするのかということがポイントとなるはず。ただ、ここではひたすら容疑者を揺さぶり、追い詰めていくだけという手法。結局、最後の最後まで決定的な証拠はなかったのか? と疑ってしまう。
「幸福の代償」については、「未完の頂上」に比べれば、しっかりと容疑者を追い込んでいたかなと。一応、ポイントを絞って容疑者に対し罠を仕掛けている。とはいえ、犯罪者側のほうが、あまりにも計画にお粗末な点が多かったかなと。それゆえに、緊迫感が薄れてしまっていたように思われる。
まぁ、いつもながらのシリーズの出来ではあるものの、短編2作のみというのはあまりにも物足りない。せめて3作は掲載してもらいたかったところ。また、ミステリ的というよりは、徐々にドラマチックな方向へとシフトしていってるように感じられるかなと。その辺は、ミステリ作品ゆえに、作品数が多くなって来ればネタやトリックが薄まってしまうのは仕方のないところか。
<内容>
コンビニとガソリンスタンドを掛け持ちでバイトをしている沓沢は、ある日異様な事件に巻き込まれることに。町では最近、山の頂上に異様な施設が建設され、さらには原因不明の地震が頻発していた。沓沢はガソリンスタンドの店長から山に住む人にタイヤを届けるように頼まれ、車で出かけてゆく。すると、山で何か異様な生物に襲われる。慌てて山から下りて帰ろうとするも橋が壊され、身動きが取れない羽目に。そして、姿を現す化け物、さらに沓沢に助けの手が・・・・・・
<感想>
短いページ数のなかに怪獣やらロボットやらといった特撮要素をふんだんに詰め込んだ一冊。この一冊だけでは語り足りなすぎる、この一冊だけではもったいないと感じてしまう作品。
山間にできた謎の施設、不穏な街の雰囲気、そうしたなかで一人の少年が怪異に遭遇する。迫りくる触手、彼を助ける謎の美女、秘密結社、正体があらわになる怪物、その怪物に対向するための秘密の武器、そして主人公にまつわる・・・・・・とにもかくにもてんこ盛り。
これは、映画にしたほうがよいのか、それともアニメにしたほうがよいのか。そんな感じで楽しむことができる一冊。こういったもののマニアであれば楽しめること請け合い、そうでもなければ引くだけかも。それは冗談としてもエンターテイメント小説として楽しめる作品。
文庫版では、短編「怪獣チェイサー」が収録。「BLOOD ARM」とは全然関係のない怪獣に関する話が語られている。これも短いページに怪獣要素が凝縮された作品となっている。
<内容>
秋葉原警察署に赴任してきた九重祐子は念願の刑事課に着任するも、ひとり現場から外され、署を訪れるオタクたちの苦情応対をさせられるはめに。そうしたなか、彼女に相談に来たオタクのひとりが殺害されるという事件が起きる。祐子は独自に捜査を進めていくと、秋葉原にて悪事を働く者に鉄槌を下す“ギークスター”と名乗る男と出会い・・・・・・
<感想>
以前、大倉氏が描いた作品「無法地帯」に近いテイストで読める作品。要はオタクらが蒐集する食玩などにスポットを当てた作品となっている。ただ、「無法地帯」ほどコレクションに重きをおいた作品ではなく、こちらはアクションとかバトルの色合いが濃いものとなっている。本来警察小説といってもよい設定のはずであるが、何故か格闘小説のようなテイストで読める。
面白い作品ではあったが、ページ数が薄いせいか、全体的にあっさり目でちょっと物足りなさを感じてしまった。ただ、短めの作品ゆえに手軽に手に取ることができ、スピーディーに一気読みできる作品である。
<内容>
キャリアとして将来を嘱望されるはずの柿崎努が初認地として向かった先は、山梨県警吉田署のはずが・・・・・・彼の所属先はその署の樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室であったのだ! とんでもない僻地にて、癖のある部下と仕事することとなった柿崎努の運命は!?
「栗柄慶太の暴走」
「桃園春奈の焦躁」
「明日野裕一郎の執念」
<感想>
キャリア警察官の若手・柿崎は、とんでもない僻地、それも樹海の遺体専門部署に配置されてしまう。しかも部下は、やり手ではあるが癖のある栗柄、定時帰宅を心がける美人警官・桃園、事務方で情報通ながら何を考えているかわからない明日野。最初は、ただ翻弄されるだけのキャリア警官としか見なされなかった柿崎が、徐々に現場に適応していくところは見物。部下3人のみならず、実は主人公である柿崎も一癖ある人物であったよう。
コミカルな刑事もののサスペンスということで面白い。それぞれの事件を通しながら、地域課特別室の面々がそれぞれ抱える問題が紹介されてゆき、各々の人物像に迫るように展開されてゆく。ゆえに、キャラクターもそれぞれしっかりと栄えていて、非常にわかりやすい小説となっている。
読み通して思ったのは、やけにヤクザがらみの事件が多いというか、ほとんどがヤクザがらみの事件に終始してしまっていること。樹海と暴力団と何気に密接な関係があるのだろうか? また、少々不満に思えたのは、“樹海”の薀蓄等が少なかったこと。せっかく舞台としたのだから、もう少し詳しく樹海情報が欲しかったところ。
<内容>
「是枝哲の敗北」
「上品な魔女」
「安息の場所」
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」
<感想>
シリーズもののライトなミステリとしては楽しめる作品。ただ、ライトな感触ゆえに、ちょっと不満に思える部分もちらほら。
このシリーズは、言わずと知れた倒叙ミステリ作品集である。その倒叙ミステリの見どころと言えば、何故に犯人だと目星をつけたのか? そして逮捕のきっかけとなる証拠は? といったところ。
完全犯罪を目論むことを考えると、まずなるべく容疑者として警察からマークされないようにするということが重要であると思われる。ただし、殺害相手が家族とか、親しい相手であれば、おのずと関係者ということになってしまう。そうでなければ、犯罪者側はなるべく事件とは関わりのないというスタンスを貫くはず。そこから真犯人が如何にして容疑者として挙げられるのかは重要であると思われる。本書の作品のなかでいえば、「東京発〜」がそこのところの描き方が微妙であったかなと。
そして、犯人逮捕のきっかけになるポイントというものは一番重要な点であることは間違いなかろう。ここはなるべく、つまらない罠に引っかかったとか、そういう展開はなしに進めてもらいたいところ。これについては「是枝哲の敗北」での犯人の捕まり方が非常にお粗末だったような・・・・・・自信満々の犯人の挙動がもはやパロディに思われるほど。
と、いくつか作品に不満な点があったことは事実。ただ、この辺はもう少し作品を書き込めば十分にクリアできたと思える部分もあったゆえに、作品のそれぞれが短めであったのがネックになっているような気がしてならない。と言いつつも、短いスパンでシリーズものとしてある程度の水準の作品を書き上げてくれているのだから、不満な点ばかり上げるのも野暮といたところか。
「是枝哲の敗北」 不倫相手を殺害しようと完全犯罪を試みる医師。
「上品な魔女」 保険金目当てに妻を殺害しようとした夫であったが・・・・・・
「安息の場所」 バーテンダーが試みる完全犯罪の顛末。
「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」 証券マンが計画殺人を実行した後に乗った新幹線の隣の席に福家警部補が・・・・・・