<内容>
某市立高校の離れに建つ芸術棟、その芸術棟に最近幽霊が出るという噂が広がっている。なんでも失踪した先輩が幽霊となり、夜な夜なフルートを吹くというのである。さらには別の幽霊話もあり、壁男といわれる幽霊までが出るのだとか。
幽霊騒動により部活が成り立たなくなっている吹奏学部員に頼まれ、美術部の葉山は夜に芸術棟に残って真偽を確認することとなったのだが・・・・・・
<感想>
鮎川賞佳作ということで読んでみたのだが、学園ライト・ミステリといった感じで楽しむことができた。
ミステリとしてのみならず、文科系部活の雰囲気を存分に出しているところが本書の特色といえよう。そういった部活動の中で、どの学校にでもありそうな怪談話を真剣にとりあげ、ミステリ風の事件としてしまうところが面白い。本書の中でのミステリとして部分に関しては普通ともいえるが、そのトリックを実際に行おうとしたらどうなるのだろうと、現実的にとらえられるところが、また楽しむことができる要因ともいえるだろう。もし学生であれば、迷惑をかけない程度のやってみたいなと思えるようなネタではある。
できれば、こうしたライト系のミステリであれば、同じ主人公や登場人物で何作か書き上げてもらいたいところである。それで、キャラクタとかに幅が広がれば、さらに楽しめる作風になるのではないかと思われる。ただ、本書の終わり方からすれば、続編というのは期待するのは無理なのかもしれない。それに探偵役の人も学校を卒業してしまうであろうし。ということで、次回作がどうなるかはわからないが、早いうちに披露してもらえればと思っている。
<内容>
幽霊部員を除くと唯一の美術部の部員である葉山が先輩である文芸部部長の伊神や演劇部の柳瀬らの力を借りて謎に挑む、学園ミステリ。
「あの日の蜘蛛男」
「中村コンプレックス」
「猫に与えるべからず」
「卒業したらもういない」
「ハムスターの騎士」
「ミッションS」
「春の日の不審な彼女」
「And I'd give the world」
「『よろしく』」
<感想>
本書はそれぞれ独立した短編で成り立っており、一見、単なる短編集に見えるかもしれないが実は連作短編集という形式になっている。<卒業式編>と<新学期編>という分け方がされているが、実際には上下巻という構成。よって、これは続けて読むべき作品なので必ず片方だけではなく、続けて両方一気に読んでいただきたい。
いや、これは期待していたよりもかなり楽しむことができた作品であった。最初は、コミカルな学園ミステリというくらいにしか思っていなく、実際に読んでいる最中もそう思っていたのだが、最後の最後には事件全体がひとつの形をとり始め、思いもよらない結末が待ち受けることとなる。最後まで読み終えた後に、もういちど最初の方のページをめくると、あぁそういうことだったのかとふに落ちるものとなっている。しかも途中でどんでん返しも挟んであったりと、かなりうまくできている。これは、軽く読み逃してしまうにはもったいない、あなどれない学園ミステリの一冊といえよう。
学園ものと言えば、同じ創元推理文庫から米澤穂信氏が描く“小市民”シリーズもあるのだが、個人的にはこちらの似鳥氏の作品のほうが毒が少なく、好みである。ただし、良い話だけではもの足りない毒味の強い作品のほうが好きだという人であれば“小市民”シリーズと比べて、この作品は物足りないと感じるかもしれない。
どうせのことなら、いっそう読み比べてみてはいかがか? どの作品も読んでいないという人は文庫作品ゆえに全て一気に読んでみる事をお薦めしたい。
<内容>
「まもなく電車が出現します」
「シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?」
「頭上の惨劇にご注意ください」
「嫁と竜のどちらをとるか?」
「今日から彼氏」
<感想>
ライト系の学園ミステリ作品集という一言に尽きる。学園内での事件を描いているため、そうそう物騒ことが起こるわけがない。ゆえに、スケール的にもこれでまずまずというべきか。それなりに楽しむことはできるのだが、強い印象は残らなかった。
「まもなく電車が出現します」
タイトルのスケールは大きいのだが、実際に現れるのはジオラマサイズ。部室内に突如ジオラマが現れるというもの。トリックはともかく、動機は今風の時事ネタを扱っており、悪くはない。
「シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?」
調理実習の際にじゃがいもが嫌いな奴の皿の中にじゃがいもがない、というどうでもよさそうな事件。とはいえ、今作のなかでは一番微笑ましい内容とも言えよう。ひょっとして単なるおのろけ話だったのか?
「頭上の惨劇にご注意ください」
主人公の葉月が校内で命を狙われるという物騒な事件。でも、動機は実に高校生的なもの。密室モノというほどではないのだが、難易度がまずまずでミステリ的にも楽しむことができた。まさに学園ミステリらしい作品。
「嫁と竜のどちらをとるか?」
ジェスチャーで何円を示しているのか当ててみよ! という話。本当にただそれだけ。
「今日から彼氏」
なんか、最近の学園ミステリってこういう内容のものが多い。主人公やその他の人物があからさまに彼女ができたりすると、絶対良い話にならない。ミステリだから当然の展開だとはいえ、どうも腑に落ちない。主人公の残念な行く末が想像できてしまい、なんとも悲しくなってしまった作品。まぁ、悲しいだけというわけでもないのだが。
<内容>
文化祭を数日後に控えたある日、学校中に“天使”が出現した。実際“天使”というよりはピンク色のペンギンのようなもので、そのイラストが学校中のいたるところに張られていたのだ。美術部の葉山は化学実験室にて、その事件を発端とするさらなる事件に巻き込まれることに。ことによると文化祭の中止も危ぶまれる状況になってしまったため、葉山は犯人を捜し出すことを決意する。
また、吹奏楽部員の蜷川奏も部室で天使のイラストを見ることとなり、興味本位で事件を調べようとする。すると奏は犯人らしき人物から夜に携帯で学校に呼び出されることとなる。そこで奏は葉山と出会い、二人は互いが知っている情報を交換するのであったが・・・・・・
<感想>
昨年末に出た作品で、年を越してからさらっと読めばいいくらいに思っていたのだが、読んでみると思いもよらず良い作品に仕上げられているのでびっくりしてしまった。これは似鳥氏にとっては、今までのなかでベストに入る作品なのではなかろうか。
一見、愉快犯が単純に事件を起こしているかのような内容。実際、それほど深刻な内容のものではないのだが、その意表を付いて著者は読者に大がかりなトリックを仕掛けている。実際のところそのトリックがどこまで効果を上げているかということに関しては微妙なのかもしれないが、きちんと考え抜かれたトリックになっていることは事実である。個人的には、こういった趣向のものは大変好みである。
たぶんシリーズを通して読んでいない人は、手に取らない人も多いのではないかと思うのだが、是非とも読んでもらいたい作品。似鳥氏は今までこのシリーズでしか作品を書いていないようだが、今年は他の出版社からも本が出るようである。そうすると、これを機に一気にブレイクするということも考えられるがどうであろうか? とりあえず、個人的に強くお薦めしておきたい一冊である。
<内容>
楓ヶ丘動物園で飼育員として働く桃本。個性豊かな人々に囲まれつつも、動物たちと共に忙しい日々を過ごしていた。しかし、ある日動物園のワニが怪盗ソロモンを名乗る人物に盗まれるという事件が起きる。いったいワニを誰が何のために!? 事件はこれだけにとどまらず、他の動物も盗難の被害に会うことに。犯人は動物園内の人物ではないかと桃本は疑うのであるが・・・・・・
<感想>
今まで創元推理文庫での学園ミステリ・シリーズのみを書き続けてきた似鳥氏であったが、別の出版社からの初作品がこの「午後からはワニ日和」。動物園を舞台にした作品であるが、今後シリーズ化されるのであろうか。
事件としては動物の盗難を扱ったものであるのだが、その背景は思いの他ドロドロとしていたような気がする。ただ、そうした陰鬱な事件を吹き飛ばすかのように登場するキャラクターの性格は明るい・・・・・・と、言いたかったのだが・・・・・・。一見陰気で何を考えているかわからない園長と、空気を読まずに捜査活動をして場をかき回す服部の存在は、微妙だったかなと。後半の重要な局面で、やたら重苦しく、やたら鬱陶しくと、あんまりいい雰囲気にはならなかったような。
事件についても、最初はHOWを基調とした、“どのようにしてワニを盗んだのか?”という部分に着目されるミステリかと思ったのだが、そういうわけではなかった。むしろ動物園における問題や、飼育員が抱える悩みなどを取り上げた、動物園物語といったところ。動物好き、もしくは動物園好きの方には間違いなくお薦め。
<内容>
捜査一課の第二係は西東京で起きた連続放火事件の捜査に加わることとなり、設楽刑事も西東京署へと向かう。しかし、その設楽刑事と共に行動することになったのがキャリアとして捜査一課に配属されたものの、どうみても中学生の女の子にしか見えない海月警部。方向音痴でドジで、しかも会議の場で空気を読まない発言をし、設楽は海月と共に捜査現場から外されてしまう。ただ、海月のほうはその状況を自由に捜査できると喜び、設楽をひきつれて勝手に現場へと向かう。そうこうしているうちに、連続放火事件から、過去の冤罪事件が浮かび上がることとなり・・・・・・
<感想>
読みやすい作品で、一気に読み終えることができた。内容もカラフルな表紙のとおり、妙なキャラクターが出てきてライトノベルズ風に楽しむことができる。しかも、それだけではなく、意外としっかりした内容となっており、きっちりとした警察小説でもあったりする。ただ、ちょっと真面目に書き過ぎたかなと・・・・・・
刑事に見えない中学生のようなドジっ娘が、若く有望な刑事を振り回すというところは、ありがちな設定。周囲にも微妙な性格のキャラクターたちを配置し、そのおかげで非常にリーダビリティがある小説となっている。ただ、そこで描かれている事件と、その取り組みについてはまじめそのもの。まじめに連続放火事件に取り組み、まじめに“冤罪”というものに取り組み、真っ向から警察組織に向かっている。それゆえに、ややキャラクター設定があだになっているような気も・・・・・・とはいえ、これでキャラクターもまじめだったら読みにくい小説になっていそうな気はするのだが。
設定がまじめゆえに、とびぬけた印象がなく、地道でライトな警察小説というイメージのみで終わってしまっている。このようなキャラクターが登場する作品は、近年決して珍しくないと思われるので、それゆえに数多くある類似作品のうちの一冊で終わってしまいそうで残念な気がする。
<内容>
超自然現象研究会が配布した“エリア51”という冊子には、葉山が通う学校の七不思議が掲載されていた。その冊子が発端となったかのように、学校で次々と怪事件が起こる。誰もいない放送室から“カシマレイコ”を呼び出す奇怪な放送。“口裂け女”をモチーフとしたような様々な人形に対するいたずら、そして“トイレの花子さん”による謎の記述。葉山はいつものように卒業生の伊神に相談するのだが、伊神の口から思いもよらない考えが飛び出してくることとなり・・・・・・
<感想>
今回は怪奇色が強い内容となっている。序盤はいつもの雰囲気と異なり、まるでホラー作品かのよう。徐々にいつもの学園モノの雰囲気を取り戻してくることにはなるものの、何かにとりつかれたかのような“もや”は最後まで残り続ける。
中盤で、事件の謎ときが唐突に始まり、「あれ、この後どうするんだ?」と思ってしまったのだが、思いもよらず凝った構成を見せられることとなる。謎めいた怪談話から、普通の高校生たちの(学生のみとは限らないのだが)悩みや苦難が描かれた青春小説へと変化していくのは面白かった。
結局のところたわいもないちょっとしたいたずらのような感じで終わるのかと思いきや、最後に驚くべき展開が待ち受けることとなる。そうして、最終的な真実が明らかになった時、ようやくこの作品全体を覆っていた“もや”が晴れることとなるのである。シリーズ作品としても、よくぞ5作品目までこの内容をひそかにひっぱり続けてきたなと感心させられた。
<内容>
県民マラソン大会のコースにて、ダチョウが疾走しているが発見される。その場に居合わせた楓が丘動物園の職員は、協力してなんとかダチョウを取り押さえる。その事件の後から、猛禽類担当で獣医でもある鴇先生がストーカーらしきものから狙われ始める。やがて、騒動は拉致事件へと発展していくことに! いったい何が起きているのか!? ダチョウが巻き起こした騒動とはいったい!?
<感想>
楓が丘動物園シリーズ第2弾。主要登場人物は、キリン飼育員の主人公・桃本、ふれあい広場担当のアイドル飼育員・七森、猛禽担当でややツンデレな鴇先生、そして爬虫類担当の変態・服部君の4人に絞られてきたようだ。今後もこの4人を主軸として物語が進められてゆくのであろう。
序盤はストーカーから拉致事件へと、動物園になんら関係のなさそうな微妙な事件が続くことに。しかし、やがては動物に密接に関係する事件の全貌が見えてくることとなる。これは、動物をテーマとしたミステリとしては、なかなかの内容と言えよう。あっさりと事件が語られてはいるものの、意外と現実味があり、恐ろしい事件が描かれている。
1冊目を読んだときには、さほど感銘は受けられなかったが、2冊目は動物ミステリ作品としてよくできていると思われた。さらには、動物のみならず、色々な事象についてよく調べていると感じさせられた。創元推理文庫から出ている学園ミステリからはうかがい知れない、社会派ミステリ作家としての力量を感じ取ることができる。といっても、決して堅苦しい内容ではないので、気軽に読むことのできる作品。
<内容>
喫茶店“Priere”を経営する惣司季(そうじ みのる)。その弟でパティシエとして働く、元警察官の智(さとし)。彼らの店に県警本部秘書室の直井楓巡査が立ち寄り、未解決事件の相談を持ち掛ける。惣司兄弟は嫌々ながらも結局、難事件の解決に手助けする羽目に!
「喪服の女王陛下のために」
「スフレの時間が教えてくれる」
「星空と死者と桃のタルト」
「最後は、甘い解決を」
<感想>
昨年出た作品の読み残し。“パティシエの秘密推理”なんていう副題からして、軽めのミステリかと思いきや、なかなか硬派な本格ミステリであった。最後まで読み通すと、色々な意味で意外性を感じさせられることになる作品。
始まりでは、ややファンタジーめいた設定と感じられた。現在、パティシエをしているかつての名刑事。そこに難事件をかかえてやってくる県警秘書課の巡査。その存在を疎ましく思いつつも、元刑事の弟を心配し、自ら積極的に事件に関わることとなる喫茶店の経営者である兄。さらには途中から加わる弁護士の女性も引き連れ、非公式捜査を繰り返してゆく。
最初の方は、その設定が微妙と思えたり、秘書課巡査の口調「・・・っス」(女性です)が気になったりというのがあったが、そのへんは読み進めているうちに段々と気にならなくなっていった。むしろ、ファンタジーめいた設定が、だんだんと重みを帯びてきて、似鳥氏描く別の意味の“戦力外捜査官”のようにさせ思えてきた。また、この著者の持ち味なのかどうなのか、一見ライトな作風に見えつつも、意外とドロドロとした人間関係を描くことが多い。この作品もデザートで後味をさっぱりとさせようとする意図があるようだが、結構胃に重苦しいものが残る内容となっている。
それで、肝心なミステリ部分なのだが、これらについては良く出来ていると感じられた。どの作品もアリバイ崩しを基本としており、そこに不可能犯罪的なものを添えているという感じ。最初の作品では無抵抗で斜面を滑り落ちていった死体の謎に取り組んでいる。こちらについては、トリックよりも、感情面がうまく表されているミステリ作品として仕上げられている。2話目では殺人の罪に問われた男の容疑を晴らし、3話目では地元住民と新入住民との争いから生じた事件を描きつつも放射能問題にまで取り組むという内容。
そして極めつけは、4話めの事件。こちらは、20年前と7年前に起きた、13年間をつなぐ銃殺事件の謎が問われている。13年も経ちながら、同じ凶器が使われた事件を、主人公たちがどのように解き明かすのかが、注目される。
最後の4作目の短編まで読めば、最初にこの作品い抱いていた印象が、がらりと変わること間違いなし。なかなか濃いミステリを堪能できたと満足させられた。ただ、内容が段々と濃くなっていった分、パティシエという設定自体が弱まってしまったかなと。むしろもっとハードな、兄弟で探偵事務所を経営しているというような設定でもよかったように思われた。
<内容>
捜査一課の設楽と海月らは連続放火事件を捜査していた。しかし、捜査は膠着状態に陥り、捜査陣は事態が長引くことを考え始めた。そんなとき、設楽と海月は聞き込み調査中の失態が原因でか、捜査から外され、戦力外を通告される・・・・・・かと、思いきや実は、彼らは某教団への潜入捜査を命じられることとなる。しかも、設楽は、自分の妹がその教団に密かに入団していた事実を知らされることとなり・・・・・・
<感想>
戦力外捜査官がなんと連続テレビドラマ化! 海月の役が武井咲と、全くタイプ的に合っていないように思えるのだが、これ如何に!?
まぁ、ドラマの話は置いといて、戦力外捜査官の第2弾となる本書。前作では、それほど強烈な印象を残さなかったものの、今作ではそれなりに“戦力外捜査官”らしさというのが出ていたような気がする。また、内容は対宗教団体という難しそうなテーマを取り上げている。
ストーリー上、捜査一課の設楽と海月が宗教団体の捜査を行うこととなるという流れは、非常にこのシリーズらしくてよいと思われる。ただ、対する宗教団体のほうについては、特に何の情報もなく単なる勧善懲悪として扱いすぎているように思え、それはちょっと微妙と思えた。勧善懲悪なら、それはそれでよいのだが、最後の最後でそれまでたいした存在感のなかったものが、重要な役割を果たしたりと、なんとなく宗教団体に対する扱いがアンバランスだと感じられた。
また、オープニングからエンディングへと続く、市民の力による解決というところもご都合主義的なところが強いような気が・・・・・・。ハッピーエンドで終わるということには問題がないものの、そういった内容の割には、取り上げるテーマが重すぎたのではないかなと思えてならない。コメディタッチで真面目なテーマをきっちりと取り扱うというのは、並々ならぬ技量がいることであろう。
<内容>
楓が丘動物園で働く桃本。彼とアイドル飼育員の七森は、職場からの帰り際、アルカパを発見し保護する。アルカパは高級な動物であるにもかかわらず、何の問い合わせもなく、しかも近隣の動物園でも特にアルカパがいなくなったという事実はないという。困惑する中、七森の友人が失踪するという事件が起きる。その友人は独断で何かを調べていたようで、今回のアルカパ事件にも関連があるのではと・・・・・・。桃本ら楓が丘動物園の面々は事件の裏を調べ始める。
<感想>
楓が丘動物園シリーズ第3弾。第2弾に引き続き、主人公・桃本、アイドル飼育員七森、猛禽担当で喧嘩っ早い鴇先生、桃本マニアで爬虫類担当の服部君の4人がシリーズキャラクターとして活躍する。
オープニングでは、怪しげな泥棒風の男二人が登場し、動物園からなにやらを盗もうとする様子が描かれる。この二人は章の途中に度々登場することに。本編ではそんな話とは別に、放置されたアルパカが発見される。それが何故か、盗まれたという形跡はなく、オープニングに反して、1匹あまっているという状態。さらには、アイドル飼育員七森の学生時代の友人の失踪事件が起きる。
失踪事件があきらかになってからは、アルパカはいったん置いといて、そちらがメインで話が進められる。その失踪事件を楓が丘動物園の4人が進めていくも、次々と怪しい事柄や、怪しい人物が増えてくるだけでなかなか解決には結びつかない。盗難事件と、余ったアルパカと、不可解な失踪事件となかなか全貌が見えない様相。それが、背後に潜む闇が暴かれたときに、ようやくすべてがつながることとなる。
動物業界に潜む闇を暴くという点で、なかなか際立った題材を扱っているなと感じられた。ただ、その題材のせいもあってか、全編通して雰囲気が暗いのがやや難点。というか、このシリーズ、意外と雰囲気が暗い。動物園というと、もっと明るいイメージがあるはずなのだが、各キャラクターの設定を通り超えて、暗い雰囲気のほうがうわまってしまう。こうしたネガティブなイメージはこの著者の特徴なのであろうか? 話はなかなか面白かったと感じられたが。
<内容>
両親を殺人事件により亡くし、その後施設で育てられた天野直人と七海の兄妹。ある日、彼らは養父になりたいという者から呼ばれ、長野山中にあるペンションへと向かう。そこで彼らは唐突に殺人事件に巻き込まれる羽目に。雪が降り積もる中、発見された絞殺死体。いつの間にか天野直人は、医者と名乗る来栖と看護婦と名乗る幸村らと共に、事件の捜査をしてゆくことに。そして、真犯人を特定した時、天野兄妹の人生を揺るがす出来事が起こり・・・・・・
<感想>
探偵の才能を持つ者を探し、そうした人員を集める世界的な組織に対抗しようとする物語。主人公は、海外の組織に人材をとられまいと奔走する日本の財団をバックに活躍する人物に協力する格好で推理を行ってゆく。といった背景であり、ずいぶんと大がかりなものであるが、ライトノベルズ的な作風ゆえにこれくらいの外連味があっても悪くはないか。
行く先々で色々な事件が起き(というか、作為的に起こされている)、それらを天野兄妹が解決をしていくというもの。アリバイトリック、石膏像破壊の謎、足跡のない殺人事件、密室にてガラスが内側から破られた事件。今作では、こうした犯罪や事件に挑むこととなっている。
この作品、連作短編という形式をとっているので、どの事件についても小ぶりであっさりしている。ゆえに、犯人当てというよりも、ちょっとしたクイズを解いているような感覚の内容であった。まぁ、どちらかといえば若年者向きの作品という事で、ミステリ小説へのとっかかりとなってくれればといった作品であるのかもしれない。ということで、あまり重箱の隅をつつくような評価をするのもおかしなことか。
<内容>
「不正指令電磁的なんとか」
「的を外れる矢のごとく」
「家庭用事件」
「お届け先には不思議を添えて」
「優しくないし健気でもない」
<感想>
久々に読む似鳥氏の作品。表紙のイメージからか、似鳥氏が描く作品と言うとライト系のイメージがあるのだが、実際その内容はというと、意外と心情的にドロドロとしたものが多い。それで、最近は作品から遠ざかっていたのだが、このシリーズであれば、学園ものゆえに読みやすいだろうと思い読んでみた。
実際、内容はライト系というか、殺人などの大きな犯罪もなく、日常の範疇を超えない内容なので安心して楽しむことができた。それぞれ取り扱う謎についても、実際に学校生活のなかであってもおかしくなさそうなものであり、学園ミステリとしてうまく出来た作品集となっている。
「不正指令電磁的なんとか」は、一夜にして内容が変わってしまった誓約書の謎に迫る。
「的を外れる矢のごとく」は、弓道部から紛失した的の行方を捜す。
「家庭用事件」は、家のブレーカーが落ちた謎を捜索する。
「お届け先には不思議を添えて」は、宅配途中にすり替わった荷物の謎に迫る。
「優しくないし健気でもない」は、バイクによるひったくり犯を探すはずであったのだが・・・・・・
高校生の葉山がさまざまな事件に関わり、先輩の伊神の力を借りて謎を解くというシリーズ。今作もそれぞれ楽しむことができたのだが、ひとつ“あれ?”と思ったのが、葉山家のとある事情について。このシリーズ、実は10年目を迎え、前の作品は3年前に出たという長いスパンで続けられている。ゆえに、細かい設定については忘れてしまっていたが、今作ではあれ? こんな設定だったっけと感じたところがあった。ひょっとすると、今まで伏線は張っていたものの、あえて明かしていなかったものが今回明らかになったということなのかもしれない。ただ、個人的にはわざわざここで重い内容のものを付けくわえなくても・・・・・・と思わずにはいられないのだが。
<内容>
「いつもと違うお散歩コース」
「密室のニャー」
「証人ただいま滑空中」
「愛玩怪物」
<感想>
久々に読んだ似鳥氏の作品。文庫書下ろしのシリーズであり、ページ数も手ごろなので、購入して読んでみた次第。
読んでみて、なかなかミステリとしてうまく出来ていると感心させられた。特に「愛玩怪物」に関しては、ページ数の少ない短編として扱うのがもったいないくらいのでき。謎の怪物が小屋から消失するという事件を描いているのだが、この真相がなかなか。今まで、このネタって使われたことがあるのかなと考えてしまった。これが初だとすると、なかなかのトリックではないかと!
今回の作品集では、確かシリーズ作品の「ダチョウは軽車両に該当します」でも同じようなテーマであったような気がするが、ペットに関わる悪質な業者にメスを入れるというもの。そうしたなか、特に著者は、動物の“愛玩化”に警鐘を鳴らしていたように思われる。確かにペットブームがもてはやされるなか、こうした裏側を語ることは必要なのであろうと感じさせられた。
「いつもと違うお散歩コース」 犬を散歩させている男性の不信な行動から浮き彫りになった事件とは・・・・・・
「密室のニャー」 閉ざされた部屋から猫を盗んだ方法とはいったい!?
「証人ただいま滑空中」 死体があった部屋で、モモンガの世話だけがしっかりとなされていた理由とは?
「愛玩怪物」 村を荒らしまわる、謎の怪物の正体とは!!
<内容>
「読者への挑戦状」
「ちゃんと流す神様」
「背中合わせの恋人」
「閉じられた三人と二人」
「なんとなく買った本の結末」
「貧乏荘の怪事件」
「ニッポンを背負うこけし」
「あとがき」
<感想>
つい最近、似鳥氏の作品を含んだアンソロジー「鍵のかかった部屋」を読んだのだが、今回の作品集もそこに掲載された作品と同質のものが感じられた。それは、トリックはトリックのみで表されており、そのトリックがミステリとしての謎と強く結びつけられていないというもの。
本書においても、それぞれの叙述トリックは面白いと思えるのだが、それが事件に深くつながっているかというと、ちょっと微妙。「ちゃんと流す神様」「背中合わせの恋人」「閉じられた三人と二人」については特に“叙述トリックのみ”というようにしか感じられたなかった。
唯一事件とうまく結び付けられていたと思えた「なんとなく買った本の結末」に関しては、起きた事件そのものに微妙な点(動機について)があり、これもまたどうかと。「ニッポンを背負うこけし」もまた、起こる事件の流れについて、微妙と思える点が気になってしょうがなかった。
そんな具合で、あまりにも“叙述トリックありき”というスタンスが、ちょっと・・・・・・という感触。叙述トリック自体はうまくできていると思えるものもあったので、もう少し事件とうまい具合にからめて納得のいくミステリ作品集と言えたのであるが、どうにもこうにも、もやもやした感じが残るばかりとなってしまった。まぁ、あまり重箱の隅をつつくような感じでこだわらなければ、楽しめるミステリ作品集と言えると思う。
「ちゃんと流す神様」 出入り不可能の状況のなか、犯人(?)はどうやってトイレを掃除したのか?
「背中合わせの恋人」 互いに想いをよせる男女と、写真部の盗難事件の顛末は?
「閉じられた三人と二人」 日本人二人が別荘で強盗に襲われるも、強盗たちは仲たがいをし・・・・・・
「なんとなく買った本の結末」 とある殺人事件をめぐるアリバイトリックの行方は・・・・・・
「貧乏荘の怪事件」 外国人留学生たちが多く住まうアパートで起きた盗難事件の顛末は?
「ニッポンを背負うこけし」 ヘッドハンターに挑戦する探偵・別紙であったが・・・・・・