光原百合  作品別 内容・感想

遠い約束

2001年03月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
「遠い約束」
 浪速大学文学部に合格し、憧れのミステリ研究会へも温かく迎えられた吉野桜子は、ある日の例会で三人の先輩たちに協力を仰ぐ。年季の入ったミステリマニアだった大叔父がこの春亡くなった。おそらく暗号の形で遺言のありかを示しているはず。門外漢には見つけられないであろうその遺言を一緒に捜してほしいと・・・・・・

「消えた指環」
 ミス研の合宿に来たとき、女子浴場の脱衣所で他の合宿に来ていた者たちの指環の消失騒動に巻き込まれた桜子。

「「無理」な事件 関ミス連始末記」
 関ミスの合同行事で、女性作家を招きインタビューを行うことに。その席上で、ある仕掛けをして観客に問題を出すという趣向をするはずだったのだが、そこで予想外の展開に・・・・・・

「忘レナイデ・・・」
 とある女性の元に九年前、小学四年生とときに書かれたと思われる手紙が届く。その送り主は小学四年のときの引っ越す前の同級生で、現在、彼がどうしているかを知人に尋ねたら、彼は最近交通事故で死んだと・・・・・・

<感想>
 どうもすなおにミステリーとはいえない内容。どちらかといえば、物語が先にあって、それにちょっとした謎が付随してくるというものに思える。「遠い約束」「「無理」な事件」「忘レナイデ・・・」らは結末までが見えてしまい、ひねりもなく、いかにもちょっといい話めいていて、あまり良い感触は受けなかった。

 唯一、光文社の「本格推理」に掲載されたことのある「消えた指環」ぐらいが、まぁミステリーめいていたかなぁと思う。それにしても、この文庫の表紙はどうも・・・・・・


十八の夏   6点

2002年08月 双葉社 単行本

<内容>
 浪人中の三浦信也はジョギング中に絵を描く年上の女性とである。彼女に惹かれ始めた信也はしだいに彼女と親しくなる。しだいに近づきつつある二人であるが、信也は彼女が不倫をしていると・・・・・・。表題作「十八の夏」。朝顔、金木犀、ヘリオトロープ、夾竹桃。四つの花が彩る連作ミステリー。

 「十八の夏」 (2001年12月号:小説推理)
 「ささやかな奇跡」 (2000年08月号:小説推理)
 「兄貴の純情」 (2001年03月号:小説推理)
 「イノセント・デイズ」 (2002年08月号:小説推理)

<感想>
 ミステリーというより物語としての小説として楽しめる短編集になっている。とはいえ、表題作の「十八の夏」はミステリーしても十分に成功している。少年と年上の女性の物語。破天荒な女性に振り回されながらも、彼女に惹かれていく少年の感情がまざまざと描かれ、そして二人の間の現実がかくも哀しく表されている。ラストへいといたる展開といい実にうまく書かれた逸品である。

 一編目の「十八の夏」の出来に驚き、期待しながら他のものも読んだのだが、残念ながらその水準にならぶものはなかった。こういっては実もふたも無いかもしれないが、皆どこかで聞いたことのあるような話にしか思えない。それらがうまく描かれていることは間違いなく、全部一気に読んでしまったのも事実であるが、「十八の夏」の出来が良すぎたことにより、他のものへの期待が大きくなりすぎたのかもしれない。


最後の願い   6点

2005年02月 光文社 単行本
2007年10月 光文社 光文社文庫

<内容>
 劇団立ち上げに奔走する、度会(わたらい)恭平らが鋭い心理洞察で謎を解く、連作短編集

 「花をちぎれない程・・・」
 「彼女の求めるものは・・・」
 「最後の言葉は・・・」
 「風船が割れたとき・・・」
 「写真に写ったものは・・・」
 「彼が求めたものは・・・」
 「・・・そして、開幕」

<感想>
 連作ミステリというよりは、まるでロールプレイングゲームのような話である。各章で新たな仲間を手に入れて、ひとつの劇団をつくっていくという話。その各章で仲間を獲得する際に、謎解きが挿入されているという構成になっている。

 ミステリの内容については、そこそこといったところ。やけに結末がわかり易すぎる話もあれば、あまりにも突飛と感じてしまう話もあった。

 ただその分、人に対しての心理描写がよくできているという印象強かった。その心理的な洞察によって、謎が解かれるという話が多かったのだが、それが劇団員だからこそ気がつくことができると言われてしまうと、なんとなく納得してしまうのである。この作品を読むと意外なところに名探偵が隠されているのではと考えてしまった・・・・・・そういえばドルリー・レーンという有名な俳優の探偵もいたっけ。

 本書ではミステリ的な部分よりも、劇団を創るというところに興味が惹かれてしまう。その劇団を創るという部分に関してはあまりにも魅力的に描かれているのである。そうして、仲間がひとりまたひとりと増えてきて、劇団がようやく走り始めるところでこの物語は閉幕してしまうのだが、その先をもっと読みたいという衝動に誰でも駆られるのではないだろうか。

 心地よい余韻を残してくれる作品、その一言につきると言えよう。




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