<内容>
「村の奇想派」 かつての神童が帰郷してきて・・・・・・
「無上庵崩壊」 つゆは水という蕎麦屋が誕生!?
「恐怖の二重弁当」 甲子園を巡り対立する村の派閥。
「郷土作家」 村の同人作家が全国デビューしたというのだが・・・・・・
「銀杏散る」 村から初の東大合格者が出た!?
「亀旗山無敵」 とうとう村から力士が出ることとなったのだが・・・・・・
「頭の中の鐘」 村の喉自慢男は全国デビューを謀るのだが・・・・・・
「涙の太陽」 村の熱心な若手政治家の行く末は・・・・・・
「赤 魔」 校正の鬼といわれた男が郷土へ帰り・・・・・・
「源天狗退散」 店の経営に失敗した男はコンビニを襲おうと・・・・・・
「神州天誅会」 二人だけの天誅会が巻き起こす騒動
「文麗堂盛衰記」 古本を集めつくした男は村へ帰り・・・・・・
「梅の小枝が」 スランプになった村の歌人は・・・・・・
<感想>
これは短編小説であるのだが・・・・・・これは面白い。これほど田舎を事件性によって書き表した本があるのだろうか。ネタとしては、そこここにあるものなのかもしれない。しかし、それを13の短編集にもってきて怒涛のごとく浴びせ掛けられたからにはもうたまらない。特にど田舎と呼ばれる地域に住んでいる人や出身の人は、「あぁ、あるある。そんなやつがいたなぁ」などと感慨にふけること間違いなし。
田舎の秀才、田舎の歌上手、田舎での地域の対抗意識、田舎の星、田舎に帰ってくるもの、田舎の普通の人。ここに田舎のすべてが凝縮されている。
<内容>
文庫オリジナル ホラー小説短編集
「鳩が来る家」
「骸列車」
「片靴」
「裏面」
「布」
「爪」
「少年」
「古着」
「蔵煮」
「黒い手」
「天使の指」
「緑陰亭往来」
「アクアリウム」
<感想>
たまにホラー小説といわれるジャンルのものを読むこともあるのだが、その多くは怖いと思えるようなものではなかった。しかしこの本は正直に“怖い”とか“恐ろしい”といえる内容に仕上がっている。この怒涛のように積み重ねられる短篇の数々を読んだ後にには、何かどろどろとした後味の悪さという奇妙な感情が鬱積しているのに気づかされることであろう。
本書の何が怖いかといえば、“言葉”が怖い。
「あれは鳥ではないんだよ」 「お帰り」 「また同じ夢を見た」 「おーい早く」
本書の何が怖いかといえば、“文字”が怖い。
“布” “蔵煮” “礼拝堂”
特にこの“蔵煮”。タイトルを見て、これだけ恐ろしく感じたというのは初めてである。この文字だけを見ても誰も何も感じないかもしれないが、本書を読んでいる途中でページをめくったとき、突如このタイトルに遭遇したときには必ず恐ろしさを感じることになると思う。
何か読んでいてねばりついてくるような、この悪食感。一言で感想をいうならば“逃れられない”といったところであろうか。
<内容>
エーデル貴金属に所属する無名の31歳のマラソンランナー田村健一。幼稚園に通う田村の息子が誘拐され、犯人からの要求が届く。「東京グローバル・マラソンで2時間12分を切れ」と。田村は犯人の要求をのみ、自己ベストタイムよりも4分も早い記録に挑むことを決意する。
警察でさえも頭を抱える不可解な要求。犯人はいったい何を目的としているのか? そして事件はさらに困惑の様相へと・・・・・・
<感想>
読んでいる最中はその予期せぬ展開の連続ゆえに、ページをめくる手を休める間もなく一気に読み通してしまった。そして読んだ感想はどうかというと・・・ちょっとどうかな、という感じにさせられる。
見所、仕掛け、そういったものはいくつもちりばめられている。しかし、それでも伏線というような本格推理の要素としてはどこか欠けているように思えてしまう。本書において決定的に欠けている部分は、“誘拐”というものに対するスタンスではないだろうか。なんといっても本書の目玉となるべきなのは“誘拐事件”をいかに犯人側が成功させるかということだと思うのだ。しかし最終的にその“誘拐事件”に対するスタンスがずれてしまったように感じられた。作者が本書でやりたかった事というものは十分理解できるのだが、ここはストレートな展開にて最後まで貫き通してもらいたかったというところである。まぁ、倉阪氏らしい作品であるというべきなのかもしれないが。
<内容>
尖塔をいただく館、庭に埋められた死体、十三楽章。
カルテット、館に誘われる女、次々と殺されてゆく女達。
過去の事件、真相を追い求める元刑事、明らかにされるその真相とはいったい!?
<感想>
なんとなく騙されるミステリーとでもいえばいいのだろうか。過去に事件が起きたという事はわかるものの、それらがはっきりと提示されるわけではない。散文的な文章を追っていきながら、自分の中で過去に起きた事件、現在起きている事象を整理していくしかない。そして最後に真相が明かされたとき、全ての事象がはっきりとするようになっている。
本書は普通に書いてしまえば、ごく普通のサスペンス小説にしかならないであろう。そこを、時系列をあいまいにしたり、犯罪を行っているものの存在をあいまいにして、それなりのミステリーへと昇華させている。でも“昇華”とまで言ってしまうのはいいすぎであるかもしれない。なんといっても、読んだ後には物足りなさが残ってしまう。倉阪氏らしいといえばらしいのであるのが、もう一工夫欲しかったというところである。とにもかくにも雰囲気だけは楽しめること請け合いのミステリー。
<内容>
学内の朗読サークル“アルゴークラブ”は赤田留美と羽根木透の2名の死者を出したことにより、その活動に幕を下ろすこととなった。その最後として羽根木の遺稿「紅玉の祈り」を朗読しようと、ある部員がもちかける。この遺稿であるが、その中身には事件の真相が秘められているのだと・・・・・・
<感想>
これまた、いかにも倉阪氏らしい作品としかいいようが・・・・・・
物語の最初に既に2名の人物が死んでしまい、その名前までもが知らされる。このような状況でどのようなミステリが展開されるのかと思いきや、朗読会を催すことによって、真相が明らかになるという趣向。
そして話が進められてゆくのだが・・・・・・いや、しかし、これもトリックというよりは、“ネタ”と言い切ってしまってよいのだろう。倉阪氏の作品を読み続けている人であれば、気づきそうなネタではある。ただし、こと細かいところにまで手が加えられているので、色々な見方をすれば、さまざまな部分を楽しめるといってもよいのかもしれない。
本書においてすばらしいと思えるのは、なんといっても、そのネタを披露するために「紅玉の祈り」という別個の作品を作ってしまうところであろう。これだけ力を入れて、この作品を仕上げたのだろうから、作家にとっては達成感を充分に得られた作品となったのではないだろうか。
<内容>
上小野田警部は犯人と喫茶店で待ち合わせをしていた。その犯人と目される者は、詩や作家などといった多方面で活躍中の西木氏を殺害したはずなのである。犯人はコンサートホールにて、クラシックのコンサートを聞いていたというアリバイがあるのだが、上小野田警部はそのアリバイトリックを見事に破ったのである。犯人の登場を待つ間、上小野田警部はジャック・ホーント・アニイという作家が書いた「紙の碑に泪を」という作品を読んでいたのだが・・・・・・
<感想>
珍しく倉阪氏がアリバイものを書いたのか! などと思っていたのだが・・・・・・いや、確かにアリバイものと言えないことはないのだが、それよりも本書もやはり倉阪氏らしさが炸裂!! というような内容であった。
複数の容疑者の中から消去法で犯人を割り出していくという作業を行いながらも、そこにちょっとしたサプライズを挿入している。さらには、作中に挿入された外国人作家によって書かれた「紙の碑に泪を」という作品が本編にどのように関わってくるのかということも、本書の大きな特徴のひとつといえよう。
いや、読み始めたときには新機軸とまでは言わないまでも、どこか今までの倉阪作品とは違うと思っていたのだが、結末まで読んでみれば期待をたがわぬ倉阪氏らしさでいっぱいの内容であった。
あまりミステリ初心者に進められるような作品ではないと思われるが、まぁ、倉阪氏のファンであれば読んでおいて損はないだろうという作品。それなりに楽しめること請け合い。
<内容>
双子の館、黒鳥館と白鳥館。そこに東亜学芸大のファインアート研究会に所属する者達がひとりひとり、別々に館へと招待される。彼らを待ち受けていたのは、凄惨な復讐劇。次々と不可解な館の中で学生たちが殺害されてゆく。その舞台となる館の奇怪な秘密とは・・・・・・
<感想>
これは読まなければ後悔することになる奇作であり、読めば読んだでさらに後悔してしまう珍作でもある。
同作家の「四神金赤館銀青館不可能殺人」を読んだときは、まだトリックが馬鹿馬鹿しさを上回っていたと思われた。しかし、この作品は完璧に馬鹿馬鹿しさがトリックを上回っている。
にも関わらず、単なる愚作で済まされないのが、余計な部分に力を入れている無駄な凝りよう。報われないにもかかわらず、苦労して作り上げたその無駄な部分にこそ拍手を送りたくなるのである。
そんなわけで、変な本を読みたいという人は読んでみてはいかがか。海のように広い心で捉えてもらいたい、かん違いな方向を極めてしまった脱力系バカミステリ。
<内容>
とある組織に属する美女たち。彼女たちは世界を股にかけ、ニューヨーク、ロンドンと拠点を移動しながら職務に励む。そうして、ニューヨークの密室でとある人物を殺害したかと思えば、一瞬でロンドンへと移動するという離れ業をやってのける。謎の組織の女たちの正体とはいったい? とほうもないこの事件に自ら飛び込むことにより謎に挑んだ上小野田警部であったが・・・・・・
<感想>
これは1年前に出た「三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人」を読んでおくと、さらに面白く読めるかもしれない。特に2冊につながりというのはないのだが、今回の作品は前作の「三崎〜密室殺人」に非常に構造が似通ったものとなっている。よって、前者と比べて、今回はどのようなことを行い、前回とは異なるどのようなトリックが隠されているのかというのを想像してゆくことで楽しむことができる。
ただ、今作の方はある種、想像通り過ぎるように思えなくもなかった。これはひょっとしたら2重のどんでん返しを読者に仕掛けていたのかなとも想像した。Aだと見せつけておきながら、一方で真相はBのように思わせつつ、実はストレートにAだったというトリックだったのではなかろうか。と、勝手に考えてしまったのだが、実際に著者の考えはどうだったのであろう。
例によって今作も、さまざまなバカミス的というか、やたら労力を使うような仕掛けがなされているのはいつもの倉阪作品らしいところ。今回はバカミストリックとしては、やや小ぶりに感じられたので、倉阪ファンにのみお薦めできる作品と言えそう。
<内容>
五色沼付近に建てられた一つの館。その館に4人の男が集められ、彼らをもてなす館主をはじめとする4人。大雪によって館の中に彼らが閉じ込められたとき惨劇の幕が開ける。一人、また一人と次々と不可解な死を遂げる者達。彼らはいったいどのようにして殺害されたのか? また、この館はいったい何のために・・・・・・
<感想>
相変わらずの予定調和のバカミスを炸裂させてくれている。今作ではメイントリックとなる館については、やや脱力系。まぁ、過剰な期待は元々していないので、このくらいの内容でも十分。とはいえ、常人では考えられない発想であることは確か。
また、いつもながらのテキスト配列の凝りようは見事としか言いようがない。よくぞここまで書くことができるなと感心させられるのみ。倉阪氏の講談社ノベルスで出版された作品って、文庫化されないなとふと思ったのだが、このテキスト配列を考えれば文庫化されない(というかできない)のも致し方のないことか。
<内容>
往年の名女優・美里織絵が死去し、葬祭式場<蒼色館>で告別式が営まれることとなった。その式の最中に、美里家の本家に何者かが侵入し、使用人を殺害したうえ、美里の妹である波江の孫をさらっていった。誘拐犯から連絡があり、それに対応する上小野田警部。なんとか誘拐犯を捕まえようとするのだが、上小野田警部はこの事件自体に何とも言えぬ違和感を感じ続け・・・・・・
<感想>
さすがにこれら一連のバカミス・シリーズのアイディアも煮詰まってきたか。今回はアイディアそのものが、いささか小ぶり(とはいえ、誰にも予想できるようなものではないだろうが)。バカミスというよりは、脱力系と言ってもよいかもしれない。相変わらず、テキストに配される暗号についてはさすがとしか言いようがないが、今回はそれだけという感じもした。
また、作中でも言及されている、とある有名なミステリ作品のモチーフを今作ではやりたかったようである。それがうまく決まっているかどうかは別として、一応はこのシリーズらしい幕引きができたのではないだろうか。と言いつつも、このシリーズが今後復活したとしても全く違和感はないであろう。
<内容>
八王子の町中の一角にて、異彩を放つ建築物“七色面妖館”。その建物に住む館主と女王。二人は殺人の計画を練り、そして実行し続けていた。館にあるそれぞれの部屋で、異なる不可能トリックを用いて。また一人、犠牲者となる者が館を訪れてくるのであるが・・・・・・
<感想>
昨年出版された<蒼色館>に続いてのバカミス系館シリーズ。さすがに上小野田警部の復活はならなかったが、館シリーズとしては、今後も続いていきそう。
今回の作品であるが、ミステリとして、なかなか良くできていたのではなかろうか。相変わらず、バカミス系のネタであり、不可能犯罪といいつつも、そうとは感じさせないものであり、事件が進行しているときは微妙な感触であった。しかし、館の背景と真相が明らかになった時は、その殺害方法がやたらと凝っているなと感心させられた。これならば、もう少しミステリ色を濃くしても面白かったのではないかと思われる。いつもながらの、半分事件、半分解答という構成ではもったいないくらい。
また、倉阪氏ならではのテキストにちりばめられた例のアレについてであるが、今作も脱帽。しかし、よくこれだけの縛りを用いて小説が書けるなと感嘆させられるのみ。いつもながらも倉阪テイストは衰えることなし。
<内容>
海の上の孤島にそびえ立つ波上館。船の出入りは制限され、容易に近づくことのできない難攻不落の館。その館のあるじ、波丘駿一郎が命を落としたことにより、ドミノ倒しのように悲劇が始まる。波上館にて次々と起こる殺人事件。不可能犯罪を成し遂げた犯人の方法とは? そして、真犯人はいったい!?
<感想>
毎年恒例の倉阪氏によるバカミス系館シリーズ・・・・・・と思いきや、今回はやや趣向が違う。いつもの館シリーズのノリは影をひそめ、真面目なミステリ作品を目指したかのような内容。よって、いつもの派手さを期待していると、思いのほか地道な内容により、肩透かしをくらってしまうかもしれない。
どうやら、今回著者がやりたかったのは、ひとりの人間が犯人であり、探偵であり、被害者であり、記述者でもある、ということのよう。これが一番のポイントらしい。まぁ、それなりにうまくできてはいると思うので、きちんとしたミステリを読むというスタンスで臨めば期待外れにならないかもしれない。意外と、初めて倉阪作品に触れるという人のほうが違和感はないかも。
まぁ、それでもいつもどおりのお約束事項はきっちりと仕掛けてくれているので、見どころがないというわけではない。ただ、いつもの作風から比べると、やや見どころが少なかったか。
<内容>
富士と桜を愛でるために“日本桜富士館”に集まる面々たち。ただ、彼らのなかから不定期に“旅人”が選出され、しかもその“旅人”は必ず不可解な死を迎えることに。“富士と桜を愛でる会”に秘められた謎とは? そして、“しんがり”をつとめるものの正体とは!?
<感想>
ある種、楽しみにしている作品なのであるが、近年だんだんと作風が荒くなってきているような・・・・・・
今作でも、なんとなく全体的な骨格が透けて見えてしまう。もちろんのこと、詳細な秘密や、隠された文字列などについては、決して読み取れないのだが、それらの謎についても昔と比べると、やや大雑把かなと。
今回は、ミステリ的な謎について披露するというよりも、個人的な主張を込めた作品という印象が強かった。講談社ノベルスで引き続き、続けてもらいたいシリーズ(という言い方もおかしいか)ではあるのだが、もう少し内容を練ってくれればとお願いしたいところ。
<内容>
「東京駅で消えた男」
「まぼろしの踊り子号」
「盲腸線の果てに」
「消えた二号車」
「終着駅の忘れ物」
<感想>
東京・新橋にある“テツ”という喫茶店。そこには“鉄道探偵”を名乗るライターの伊賀和志をはじめとして、さまざまな鉄道ファンたちが集っている。彼らが鉄道にまつわる事件を次々と解決してゆく鉄道事件簿。
倉阪氏の作品であるが、今作ではいつもの倉坂作品に見られるような仕掛けはなく、普通の鉄道ミステリがなされている。ただ、ミステリといっても、それらしい事件は最初の「東京駅で消えた男」くらいであり、他は事件というほどのものでもない。なんとなく鉄道ファン達による、鉄道系の日常の謎と、鉄道薀蓄の本という感じであった。
「東京駅で消えた男」は、同じホームへと上がる別の階段を大急ぎで上り下りする男にまつわる謎。
「まぼろしの踊り子号」は、“踊り子号”ではない列車のなかで、まるで踊り子号に乗っているかのような会話を聞いたといいう話。
「盲腸線の果てに」は、自転車を大急ぎで漕いでいた男の様子を見て、事件性とアリバイトリックを考えるというもの。
「消えた二号車」は、2両列車の1両分を切り離した車掌と運転手の行為の謎。
「終着駅の忘れ物」は、鉄道探偵団の掲示板にて、Mr.Rからの挑戦がなされるというもの。
どれも、事件性に乏しく、通常の探偵行為というよりは、まさに“鉄道探偵”の名にふさわしい、鉄道にからむ話のみの事件というような感じ。「消えた二号車」など、結構ミステリ性が高いと思えるのだが、それをあえてミステリ性を消した物語としてしまうところが、本書のらしさか。
残念ながらミステリファンが読むという作品ではなく、鉄道ファンのみが楽しめる作品というような感じ。まぁ、鉄道ミステリファンであれば、特に問題はないのであろう。