<内容>
カウンター席だけの地下一階の店に客が三人。三谷敦彦教授と助手の早乙女静香、そしえ在野の研究家らしき宮田六郎。初顔合わせとなったその日、「ブッダは悟りなんか開いてない」という宮田の爆弾発言を契機に歴史談義が始まった。
回を追うごとに話は熱を帯び、バーデンダーの松永も教科書を読んで予備知識を蓄えつつ、彼らの論戦を心待ちにする。ブッダの悟り、邪馬台国の比定地、聖徳太子の正体、光秀謀判の動機、明治維新の黒幕、イエスの復活・・・・・・を俎上に載せ、歴史の常識にコペルニクス的回転を迫る。
<内容>
宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」には、幻の第五次稿が現存していた。しかも、その原稿には賢治が発見したダイヤモンドの隠し場所が記されていた。
妻と子供が誘拐された! 童話作家修行中の中瀬研二は残された手がかりをもとに、誘拐犯の思惑を探る。妻・稔美は、宮沢賢治研究家だった父親からダイヤモンドの在処を知らされていたようだ。誘拐犯たちに先回りして家族を救出するため、研二は賢治童話を読み始める。深淵で謎めいた作品世界の、奥底に隠された暗号とは!?
<内容>
応永十五年(1408年)、初夏。賢才の誉れ高い建仁寺の小坊主一休に、奇妙な依頼が舞い込んだ。「足利義満様の死の謎を解いてくだされ」将軍職を退いた後も権勢を誇り、ついに帝位までも狙った義満が、数日前、金閣寺最上層の究竟頂で、首吊り死体で発見されたという。現場は完全なる密室。しかし、義満に自殺の動機はなし。一休は能樂者の世阿弥、検使官の新右衛門らの協力を得て推理を開始。そして辿り着いた仰天の結論とは・・・・・・
<感想>
昔、テレビアニメで見た一休さんのシリーズを彷彿させるとんちのエピソードが一つ一つと語られ、懐かしさを感じた。また、テレビアニメでは素直な性格の一休さんであったが、本書では小憎らしい小坊主となっており、それが逆に京都弁(?)に妙にしっくりと合っていた。
さて内容であるが、「邪馬台国はどこですか」で見せたような面白さを感じさせる作りになっている。密室殺人といってしまうには弱いかもしれない。しかし物語としては、結末までに持っていく一つ一つの過程により、なんとなく納得させられてしまう。特に一休さんのとんちエピソードを一つにつなげる推理として用いたのは多少強引ではあるが感心させられる。
こんな史実でもいいじゃないか、というよりは一休さんの話がこういう話でもいいじゃないか、という気にはなってしまう。
<内容>
日本最古の歴史書であり、物語も謎もふんだんの「古事記」。天武天皇に命を受け、巫女として類い稀な能力を有する稗田阿礼が感知した真の日本の歴史は実に驚愕的なものだった。古事記に隠された日本人の重大な秘密とは?
<感想>
古事記自体がどんな内容かを知らないのでなんともいいがたい。ただ古事記の内容を知らなくてもこの話し自体を楽しめることは確かだ。中には「ヤマタノオロチ」や「イナバの白兎」といった多少聞いたことのある物も雑じっている。
あまり細部については一般的ではないので、これならば古事記そのものの現代語訳として、話を変えないで出版してもらったほうがいいのではなどと考えてしまう。鯨統一郎版、現代訳語シリーズとしていろいろと出版してみれば・・・・・・
まぁそうせずに、自分なりに解釈したものを書にするのが作者のこだわりなのだろうけど。
<内容>
港区六本木にあるメンタル・クリニック「なみだ研究所」。新米臨床心理士の松本清は、そこへ大学の恩師に薦められ見習として赴くことになった。研究所の所長・波田煌子は数々の臨床実績を持つ伝説のセラピスト。が、松本はほどなく愕然とすることになる。波田の幼い容姿と同じく幼い知識と、トボけた会話。果たしてこんなことで患者は治せるのか?不安になる松本をよそに、波田先生の不思議な診療が始まった・・・・・・
「アニマル色の涙」 (1999年2月号 「小説NON」)
「ニンフォマニアの涙」 (1999年7月号 「小説NON」)
「憑依する男の涙」 (2000年5月号 「小説NON」)
「時計恐怖症の涙」 (1999年10月号 「小説NON」)
「夢うつつの涙」 (2000年7月号 「小説NON」)
「ざぶとん恐怖症の涙」 (2000年10月号 「小説NON」)
「拍手する教師の涙」 (2000年1月号 「小説NON」)
「捜す男の涙」 (2001年1月号 「小説NON」)
<感想>
「邪馬台国はどこですか」以来の飛びっぷりを見せてくれる一冊。ばかばかしいと思いながら妙に納得してしまったり、そんなバカなと思いながらも思わず笑ってしまったりと、ページをめくる手を止めさせないライトタッチな作品。
まじめな(?)新米臨床心理士の松本がミスディグレッションとなって、現実っぽい方向へと話を導きながら、最後には波田煌子が唐突に違った視点から、患者の悩みを看破する!といったパターンでおくられる短編集。伏線というよりも、もはや連想ともいうべき解決法で少々あやふやというか、こじつけ臭いところがありながら、展開のスピーディーさでどんどん踏破していく。おしいのは、後半になってきて、内容がしりつぼみになってきたというか、ネタ切れになったのか・・・・・・というのが感じられたところか。
それでも、これは「邪馬台国・・・・・・」以来の鯨氏の快挙ではないのだろうか。「邪馬台国」で氏のファンになった人はこういう作品を待ち望んでいたはずだ。
<内容>
彼女がグラスの日本酒を呷ると、確実なはずのアリバイが崩れだす。グリム童話の新解釈になぞらえて、解き明かされる事件の真相とは!?
渋谷区にある日本酒バー<森へ抜ける道>を舞台に、店の常連の工藤と山内、マスターの“厄年トリオ”と、日本酒好きの女子大生・桜川東子が推理する、九つの難事件。
「ヘンゼルとグレーテル」 | 1999年初夏特別号 | 別冊小説宝石 |
「赤ずきん」 | 1999年8月号 | 小説宝石 |
「ブレーメンの音楽隊」 | 1999年11月号 | 小説宝石 |
「シンデレラ」 | 2000年2月号 | 小説宝石 |
「白雪姫」 | 2000年8月号 | 小説宝石 |
「長靴をはいた猫」 | 2000年11月号 | 小説宝石 |
「いばら姫」 | 2001年2月号 | 小説宝石 |
「狼と七匹の子ヤギ」 | 2000年5月号 | 小説宝石 |
「小人の靴屋」 | 2001年5月号 | 小説宝石 |
<感想>
「なみだ研究所」に続きこれも著者らしい懲り方の短編集。ただし、少々軽すぎるきらいがあるような気もするが。
マスターと常連客(一人は刑事)二人らが話す事件の話を聞き、もう一人の女性の客の桜川が事件を解決するという“安楽椅子探偵”もの。事件はすべてアリバイトリックであり、桜川はそれらをそれぞれ童話の一編をたとえに持ち出し事件を解く。
全体としてみると、これでもかとばかりに繰り出されるアリバイトリックらは多くがどこかで見かけたようなもの。ただし、たんなるこじつけにしか思えない解決を童話を持ち出すことにより信憑性をたかめうまく納得させる方向に導こうとはしている。短編群のなかでは「ブレーメンの音楽隊」のトリックなんかが、斬新に見え面白いと思った(ひょっとしてこれって前例あるのかな?)。
一つのシリーズ物として構成していこうというのはよく分かるのであるが、もう一つ何か味付けが欲しかった。
<内容>
大正11年(1922)、何者かの手によって80年後の渋谷道玄坂に突然タイムスリップさせられた森鴎外こと、森林太郎(モリリン)。元の世界に帰る方法を探る鴎外は、超ミニスカートの女子高生・麓うらら達と共に、芥川龍之介、太宰治ら昭和初期の作家達に共通する奇妙な現象を発見する。予想もつかない意外な犯人に、文壇騒然間違いなしの野心作!
<感想>
とんでも本として非常に楽しめる。タイムスリップものという題材は数多くあるのだろうが、細かい制約や整合性に囚われずに書ききったことがエンターテイメントとして成功している。現代にやって来たのが森鴎外で、彼が現代になじんでいくのが非常に面白かった。また、著者の書きたかった事であろうもうひとつの文壇ミステリーのようなものもあるのだが、あまり些細なことに囚われずに読んでもらいたい。バカミスというより、バカSFという気がする。これは誉め言葉。
<内容>
わたしはこの事件の証人です。同時に、犯人です。それどころか、探偵役でもあります。加えて、ワトソン役も努めます。もちろん記録者でもあります。さらに、濡れ衣を着せられる容疑者でもあります。最後に共犯者でもあるのです。
今まで言ったことに、嘘偽りはありません。もちろん、わたしは複数の人間などではなく、たった一人の人間です。いったいどうしたらこのような事が可能になるのでしょう?
<感想>
ご存知名作「シンデレラの罠」に挑戦した意欲作。
まぁ、こういった謳い文句の“一人何役”という小説は過去にも何冊か出回っており、正直言ってあまり期待しないで読んだのだが・・・・・・いや、なかなかうまくできているではないか!
劇団というものを通して全編うまいこと物語が描かれていて、事件自体はよく見るようなパターンではあるもののラストがうまくまとまっていると思う。謳い文句からして、結構ギリギリの路線でくるのかと思いきやそんなこともなく、なかなか納得のできる結末になっている。この試みは褒め称えるべきものであろう。十分佳作!
<内容>
「神田川」見立て殺人
「手 紙」見立て殺人
「別れても好きな人」見立て殺人
「四つのお願い」見立て殺人
「空に太陽があるかぎり」見立て殺人
「勝手にしやがれ」見立て殺人
「ざんげの値打ちもない」見立て殺人
「UFO」見立て殺人
「さよならをするために」見立て殺人
<感想>
や、やばい。この本はやばい。絶対やられる。これは今年の裏ベスト・・・・・・じゃなくて裏ワーストって、ワーストに裏も表もない。これは本当にやばい。ページを開けば電波が襲い掛かってくるって感じだ。まずい、絶対逃げたほうがいい。なにしろ、
「これは見立て殺人です」(by 間暮警部)
って、全然“見立て”じゃないよっ! 誰か声に出して突っ込んでやれよ!
なのにその“見立て”って言う言葉が表題にまでなってるし!
これは絶対まずい。まじでやられる。早く逃げなきゃやばい。あぁ、そうこうしているうちに間暮警部の歌声が聞こえてきた。やばい、逃げろ! もしかして、これってまだ続くのか!? 歌謡曲なんてまだまだたくさんあることだし。絶対やばい! あぁ、歌声が近づいてきた・・・・・・あぁ、もう・・・・・・
<内容>
ミステリアス学園ミステリ研究会、略して「ミスミス研」。ミステリは松本清張の「砂の器」しか読んだことのないという新入部員の湾田乱人が巻き込まれる、怪事件の数々。仲間からのミステリ講義で知識を得た湾田が辿り着く、前代未聞の結末とは!?
<感想>
なかなか面白い本になっている。何が面白いのかというと、本格推理小説の手引書として扱えるところが面白い。いきなり初心者が読んでも、という感じはするのだが、推理小説に興味があるという人にとっては面白く読めるであろう。また、さまざまな薀蓄も分かりやすく書かれているのでコアなミステリファンにとっても必見である。
内容はというとミステリ短編集であるのだが、結局のところは推理小説というよりは推理小説手引書という域を脱していないといえるだろう。扱われているトリック等もその手引書の章題のためのミステリとなっている。先に出ている「九つの殺人メルヘン」に似たような試みだと捕らえてもらうとわかりやすいと思える。要するにあとからとって付けた様な“殺人事件”、“殺人トリック”等々という程度のものなのである。なおかつ全体においていえば、作中でもいっているようにメタミステリという構造をとっている。最後まで読むと著者はこういうメタミステリを試みたかったんだなという意気は強く伝わってくる。
ただ、やはり本書はミステリに重きをおいてるのではなく、ミステリというものの紹介に重きをおいていると考えるべきであろう。であるからして、そのような心積もりで読んでもらえれば実に楽しい世界が展開されているので、ある意味お薦めの本といえる。興味のある方はぜひともご一読あれ。
<内容>
警視庁から神奈川県警に出向してきた半任(はんにん)刑事とショートヘアーとミニスカートがトレードマークの快速刑事・南登野洋子(みなとのようこ)が遭遇する怪事件の数々。
そしてその事件を解くのは史上最長の探偵、中華飯店・酩淡亭の主人、論語研究家・明丹廷(めいたんてい)。
<感想>
鯨氏による設定のみを変えての、いつものパターンを周到する作品。といったところか。
本書は本庁から地方警察に派遣された刑事と女性刑事がコンビで事件に挑む作品。とはいうものの事件を解決するのはこの二人ではなく、“めいたんてい”なる中華料理屋を営む117歳の史上最年長の探偵。
起こる事件はというと、ダイイングメッセージと密室。これらに焦点を絞った事件。それらが次々と起こり、そしてそれぞれ同じパターンにて解決していくというもの。ただ、正直いってミステリーとしてはさほど見るべきところはない。というようなことはわざわざここでいわなくても鯨氏の作品を読み続けている者であればよくわかるだろう。たとえアイディアがいろいろあっても、量産作家であればネタがどんどん薄くなるというのは明らかであろう。
ミステリー以外として着目するところは、タイトルにもあるように“みなとみらい”横浜の今のスポットをいろいろと紹介しているところか。旅情ミステリーではないのだが、タイアップ作品であるかのように事細かに説明してくれている。そして、事件の解決に用いられる論語。役に立つ立たないは別として、事件の解決のたびにそれぞれの論語を示してくれる。それが事件に本当に結びついているのかとか、“みなとみらい”と何の関係があるのかということは言いっこなしだ。
とにもかくにも知っていたのか調べたのかはわからないがよくも本を書くたびにあれこれと異なるテーマを持ち出して書き続けることができるものだということには少なからず感心させられる。
<内容>
行方不明の両親を捜そうと建仁寺に寄宿する茜は、建仁寺の坊主一休と一休の弟子を名乗る問注所検使官の新右衛門と共に旅に出た。
難波、大和、伊勢、尾張、駿河、伊豆、相模、武蔵と続く道中のそこここで一行を待ち受ける不思議な事件の数々。それらの事件をものともせずに一休はとんちにて数々の謎を解決していく。
<感想>
前作に引き続いての“とんち探偵”シリーズであるが、本作も相変わらずその軽快なテンポで楽しませてくれる。正直言ってひとつひとつのミステリーに対して細かく言及するようなものではない。それよりも全編のパターン化された軽快なノリを楽しむべき本であろう。鯨氏の著書の中ではこういった連作短編シリーズが多く書かれているのだが、それが成功するか否かはキャラクター性にかかっているといってよいのではないだろうか。本書では京都訛りの一休さんと堅物の新右衛門と突っ込み役の茜といった固定されたキャラクターの造形とそれぞれの掛け合いがうまく雰囲気を出しているといえるであろう。
気軽に手に取り、楽しんで読むことのできる一冊である。
<内容>
未来から来た森鴎外を無事に送り出した麓麗(ふもと・うらら)とその仲間たち。またいつもの生活へと戻り行く中、今度は唐突にうららがタイムスリップに巻き込まれる!
そしてうららが辿り着いた時代とは、1860年明治維新が起きようという激動の時代であった!!
<感想>
前作の「タイムスリップ森鴎外」はかなり楽しく読むことができた。というわけで期待の本書であったのだが果たして・・・・・・
本書では女子高生が時代を遡ることになるのだが、タイムスリップへと至る過程は極めていい加減。とはいうものの、タイムスリップなどというものはあくまでも仮定のものに過ぎないのだから、そこは軽く流して読む。
そしてうららが明治時代にて行わなければならないことは、“未来人によって妨害されるおそれのある明治維新を史実どおりに行わせること”というものである。この設定はなかなか面白い。果たして歴史を知る現代人が教科書や小説で見たことのある有名人達をいかに動かしていくのかというのは見物である。
とはいうものの・・・・・・この設定は面白いといえるが、ものすごく難しいものでもあるといえる。よって物語が進んでいく中でこの設定が生かしきれたとは言いがたい。結局のところ、基本的には物語が史実どおりに流れて行き、その中でうららが如何に過ごしたか、というだけで終わってしまっているような気がする。明治維新を妨害するといっても単にその時代に生きていた外人を連れてくるだけだったし・・・・・・
小説上であっても史実を動かすということはなかなか難しいようである。
<内容>
「アトランティス大陸の不思議」
「ストーンヘンジの不思議」
「ピラミッドの不思議」
「ノアの方舟の不思議」
「始皇帝の不思議」
「ナスカの地上絵の不思議」
「モアイ像の不思議」
<感想>
鯨氏のデビュー作といえば、「邪馬台国はどこですか?」であるのだが、この奇想天外な内容に驚かされ、しかも内容が面白く、あっという間に読まされてしまったのを今でもよく憶えている。そういうことであるのだから、その姉妹版が出たというのであれば、これは読まずにはいられないであろう。
いや、今回も思わず読まされてしまった。これもなかなかの傑作品であるといいきれる。歴史に対するトンデモ解釈振りは相変わらずで、実に楽しく読むことができた。
ただ、前回と比べて、いくら有名な話とは言っても、海外の謎をとりあげているので、いささか説明調なってしまうのはいたしかたないところか。前作の日本編に比べれば、そういった意味で少々とっつきにくく感じられた部分もあった。
しかし、全体的には全く申し分なく、鯨氏のトンデモ解釈ぶりを大いに楽しむことができた。前作を読んで、面白いと思った人は迷わず買いであろう。前作を読んでない人は「邪馬台国はどこですか?」から続けてどうぞ。
<内容>
オレンジ色に髪の毛を染めている麓麗(ふもと うらら)は不良生徒を更生させる施設<吉野ダイビングスクール>に入れられてしまう。そのダイビングスクールの校長・吉野は元々中国哲学などに興味を持っており、釈迦の教えについて詳しく勉強しているという人物。その吉野と麗が授業の一環として海に潜っている最中、命に関わる事故に巻き込まれる・・・・・・その後、意識を取り戻した吉野と麗は自分たちが釈迦が生きていた時代にタイムスリップしたことを知る!
<感想>
「タイムスリップ森鴎外」では、鴎外が現代に来たということによる面白さを味わうことができた。しかし「タイムスリップ明治維新」と本書では設定としては普通のタイムスリップものといえるので、その分目新しさは感じられなかった。なおかつ、「明治維新」と「釈迦如来」はトンデモ歴史が描かれている作品であるため、鯨氏の他の作品と内容がだぶってしまっているので、シリーズとしての意義が問われるところでもあると思う。
とはいえ本書はある意味“突き抜けている”と言えないこともない。なぜかといえば、「釈迦如来」では単なるタイムスリップものを超えて、もはやRPGといってもよいような世界へと突入してしまっているからである。さらにラストの展開においては、開いた口がふさがらないとしか言いようがない。
考えることはすごいと思うのだが、シリーズとして巻を追うごとにだんだんと低俗になっているというようにも感じられる。このシリーズを追うのも、そろそろこの辺が止めごろなのかもしれない。
<内容>
人類は宇宙へと進出し、宇宙ステーションを創り、そこでさまざまな研究が進められるようになった。あるとき、その宇宙ステーションに住む科学者が人類の睡眠時間が極端に短くなりつつある事に気がつく。このまま人々は眠らなくなってしまうのだろうか? 人類の眠りのしくみについて調べていくうちに、驚くべき事が明らかになる!!
<感想>
「邪馬台国はどこですか?」では“トンデモ歴史”を披露していたが、本書では“トンデモ未来史”が展開されるという内容になっている。「邪馬台国」のようなノリで(もっとまじめな雰囲気ではあるが)宇宙を舞台にして、長編化したものが本書であると言えるだろう。
ただ、あくまでもなんとか長編化したというような印象で、ネタとしては短編程度のものかもしれない。登場人物も多々出てくるものの、それらがうまく生かされていたようには思えなかった。というわけで、本書のような内容のものを書くのならば、思い切って、いつくかのネタを用いた短編集として「邪馬台国」の内容の未来版という形にしてしまったほうが良かったかもしれない。
まぁ、純粋にSF作品と言い切れないこともないのだが、そう呼ぶにはどうしても小粒な印象でしかなかったというところ。
<内容>
ミステリアス学園でミステリ研究会に入り、一人前のミステリマニアに成長した湾田乱人であったが、気づくと彼はパラドックス学園というパラレルワールドにたどり着いていた。そのパラドックス学園で乱人は成り行きでパラレル研究会に入ることとなる。そこはミステリ小説が存在しない世界であるにもかかわらず、パラレル研のメンバーはポー、ドイル、ルブラン、クリスティー、カーと名だたるミステリ作家と同じ名前を持つものばかり。
そんな世界のなか、閉ざされたシェルターの中で密室殺人事件が起こる。事件の真相はいったい!?
<感想>
久々に鯨氏の作品に手を付けてみた。昔読んだ「ミステリ学園」というのが結構面白かったので、その続編であるこの「パラドックス学園」も読んでみようと思ったのである。そして読んだ感想はと言えば・・・・・・見事に地雷を踏んだなと。
まぁ、まじめにミステリ小説を読むというスタンスでこの本を読んでしまうと頭にくるかもしれない。ただ、ある程度、鯨氏の作品に触れていればこのような作風でもびっくりすることはないだろう。確かに文庫版の帯に書いてある通り“この本には、空前絶後の仕掛けがあります!”という言葉に間違いはないのだが、あくまでも脱力系の仕掛けである。
あんまり人にお薦めできる本ではないが、まぁ、こんな本もあるということで。読んでみようと思う人は、広い心を持って取り組んでいただきたい。
<内容>
「原日本人の不思議」
「邪馬台国の不思議」
「万葉集の不思議」
「空海の不思議」
「本能寺の変の不思議」
「写楽の不思議」
「真珠湾攻撃の不思議」
<感想>
あのときのパワーとインパクトはどこへ行ってしまったのやら。
最初の「原日本人の不思議」では、これといった強烈なやりとりもなく、だらだらと話が続くだけ。途中、「万葉集」や「空海」あたりで盛り返してきたと思いつつも、その後はトーンダウン。特に最後の「真珠湾攻撃」の終わり方はには目を疑ってしまった。
残念ながら、あのときの(「邪馬台国はどこですか?」)感動はもう戻ってはこないようだ。シリーズ続編がこれ以上出たとしても、手を出さない方が良いかもしれない。
<内容>
会社経営者である高村謙二の娘・美羽が誘拐された。犯人は、五千万円を要求してきた。しかし、高村の会社は経営が傾いており、とても五千万円など用意できない。なんとか先妻などからお金を借りて、五千万円を準備する高村。その高村に対し、誘拐犯は奇妙な現金の受け渡し方法を指示してくる。また、高村のもうひとりの娘で女子高生のかすみはネット上で見つけた探偵社に誘拐事件を解決してもらおうと依頼する。驚愕の誘拐事件の行方は如何に!?
<感想>
久々のミステリー・リーグ。久々の鯨統一郎。その鯨氏が今回ミステリー・リーグにて挑戦するのは、なんと“誘拐”。
一見、分厚いように見える作品なのだが(実際は300ページ強)、会話文が多いせいか、あっという間に読める分量。内容にも結構引き込まれるものなので、1日、2日で読んでしまえること請け合い。
中味は誘拐事件を扱ったものなのだが、何が目玉なのかというと・・・・・・意外なところに落とし穴が!! という形態の作品。“驚愕”なのは確かなのだが、個人的には、あまりしっくりとはまっていなかったなという印象。どうにも、穴も多いと感じられてしまうし。
まぁ、それでも、これがどう驚愕なのかは、読んでもらわなければ分からない。ミステリファンであれば、是非とも一読して確かめてもらいたい作品。今年一番の・・・・・・とは言わないまでも、上半期のちょっとした目玉的ミステリ作品。