小島正樹  作品別 内容・感想

十三回忌   7点

2008年10月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 宇津城家にて、当主の妻の命日の度に起こる数々の不可解な殺人事件。一周忌には、高い木の真上に突き刺さった形で発見された死体。三周忌には、木に磔にされた上、首を切断された死体が発見され、七回忌には唇が切り取られた死体が発見される。誰が、いったいどのようにしてこのような不可能殺人を成し遂げる事ができたのか!? そして十三回忌に起きた事件とは・・・・・・

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<感想>
 著者の小島氏は、島田荘司氏と共著という形で「天に還る舟」でデビューした作家。本書はその島田氏の系譜を引き継いだかのように、奇想ともいえる連続殺人事件が起こる本格ミステリが描かれた作品となっている。

 たびたび起こる殺人事件とそれぞれに付きまとう不可解な状況。これらの事件をどのように解決するのかと興味津々であったが、それぞれがうまく結論付けられている。これは本当に本格ミステリらしい、良い作品に仕上げられている。

 とはいえ、トリックとしてはそれぞれうまく出来ているように思えるのだが、全体的な関連性があまりにも希薄という気がした。さらには、犯罪が行われたときの様子を頭に描いても、どうにもしっくりくるとは言いがたい。なんとなくトリック先行であるがゆえに、どこか物語自体に歪みが生じているという気がしてならないのである。

 とはいえ、これが2作目の作品ということで、まだまだこれから期待できる作家といってよいであろう。これからも作品をどんどん書き続け、奇想的なトリックと物語がマッチする重厚なミステリ作品を書き上げていってもらいたい。


武家屋敷の殺人   7点

2009年11月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 弁護士の川路弘太郎は静内瑞希という女性から、彼女の生家を探して欲しいと頼まれる。彼女は孤児院に預けられ、そのときに一冊の日記を所持していたのだという。その日記の内容は、とある男が徐々に正気を失っていく様子が描かれたものであった。日記を手掛かりに、川路は友人でフリーの調査員である那珂と共に瑞希の家を探そうとする。そして一軒の武家屋敷を見つけることとなるのだが・・・・・・

<感想>
 本の帯に“詰め込みすぎ”と書かれているのだが、その言葉にたがわないミステリ要素の詰め込みようである。思わず、ここまでやるかと言ってしまうような力作であった。

 本書における登場人物はかなり少なめ。にも関わらず、ここまで濃密なミステリを作り上げる手腕はそうとうなもの。さほど多くないページ数で、よくぞここまでのものを書き上げたなと感心させられる。

 物語は、最初はとある男の手記で始まり、その内容は正気を失ったかのような途方もないもの。しかし、その手記を読んで探偵役のものは、あっというまに真相を解明してしまう。そこからどのように話を発展させてゆくのかと思いきや、事件の一部を解決すれば次の謎が登場し、という具合に次から次へと謎が飛び出てくる展開で話が進められてゆくこととなる。

 ここで感心させられたのは、そのまま途方もないところへと話が逸れてゆく訳ではなく、きちんと最初から提示される謎がメインとなっており、基本方針は変わらずに話が進められているところ。

 そうして最終的にはどんでん返しを繰り返した挙句にようやく真相へとたどり着くものとなっている。どんでん返しの繰り返しについては賛否両論あるだろうが、最終的な解決は見事に決まったものとなっていたと感じられた。これは良く出来たミステリ作品であるといえよう。

 トリックだけに頼らずに、さまざまな要素を結びつけて、うまく一冊の作品に仕上げられていると感じられた。この作品の前に書かれた「十三回忌」では、ミステリ作家として、まだそれほど印象に残らなかったのだが、本書によって強く印象付けられる新人作家のひとりになったと言ってよいであろう。


扼殺のロンド   7点

2010年01月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 倉庫内で大破した車が発見された。その中に乗っていた男女は既に死亡していたが、死因が不可解なものであった。女性は胃や腸などの臓器が取られており、男の方も奇怪な原因で死んでいた事がわかる。家族の者達は、何故彼らが殺害されたのか検討もつかないようであったが・・・・・・その死亡した男女の身内が次々と不可解な状況下で殺害されることとなり・・・・・・

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<感想>
 いや、これは面白い。これでもかという不可解な状況下での殺人事件が続き、それぞれのトリックも凝ったものとなっている。事件が起きているときは、誰がどのような目的で犯罪を成し得たのか、ということが全く検討がつかなかったのだが、真相が明らかになればなるほどと感嘆させられてしまう。

 本書で一番驚かされたのは、3つ起こる殺人事件のうち、一番重要でなさそうなもの(そんな大掛かりなトリックではないだろうと思えたもの)が、実は非常に凝ったトリックを使用していたということが最後の最後で明らかになるところ。まさか、そんなものがトリックの伏線となっているとは・・・・・・と、驚かされてしまった。

 あと気になったのは、妙に作風が古めかしいというか、普通の警察小説っぽく思えてしまうところ。これは著者の年齢がある程度高いということなのだろうか。もう少し、物語全体を軽快に展開させてもらえればと思わずにはいられない。

 それを除けば、まだ年のはじめではあるものの、十分今年の話題作になるであろうと断言してもよい作品。


四月の橋   6点

2010年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 河口で死体が発見された。死んでいたのは65歳の男性で警察は他殺と断定し捜査を始めた。容疑者として逮捕されたのは弁護士事務所で働く川路弘太郎の知り合いである弁護士・奈々橋泉の父親。さっそく川路は事件の弁護を引き受ける。事件を調べていくうちに、接点がないと思われた被害者との間に、奈々橋泉の兄・優一が交通事故で死んでいた件が浮上してくる。優一を車でひいたものが今回の事件の被害者であったのだ。そうして次々と明るみに出る被害者と容疑者の過去。真犯人は誰なのか?

<感想>
 小島氏のイメージを一新する作品。ミステリ・リーグから出ている「十三回忌」や「扼殺のロンド」から、トリック重視の新本格系の作家というイメージで捉えていたのだが、本書を読むとそれだけではないということがわかる。

 この作品はアクロバットなトリックなどはなく、人間関係や人間の感情を重視したミステリ作品になっている。主人公の職業が弁護士であるのだが、法廷ものということはなく、警察小説に近いようなイメージの作品。複雑な人間関係と家系の図式が繰り返される捜査によって明らかになって行くというもの。そうして最終的には人と人とのつながりによって事件が解決されることとなる。

 本書が今までの小島氏の作品と比べて良いかどうかといえば微妙なところ。今までの作風を期待していた人にとっては肩透かしを食ったように感じるかもしれない。ただ、トリック重視のミステリ作品というものを今後も書き続けてゆくのは困難なこと。それならば、こうした作風のものを書くことによって作家としての幅を広げてゆくことは必要であろう。

「武家屋敷の殺人」に続く、弁護士・川路弘太郎が活躍する2作品目であり、シリーズとしても今後の別の作品を書く上でも重要な起点となることを予感させる一冊。


龍の寺の晒し首   6点

2011年03月 南雲堂 単行本

<内容>
 群馬県北部の寒村にて、結婚式の前日に神月家の長女・彩が首を切られて殺害された。彼女の首は近くにある寺、龍跪院にて発見される。その後、次々と起こる殺人事件。そして龍にまつわる不思議な出来事。こうした事件の発端はいったい何なのか!? 県警捜査一課の浜中康平と素人探偵・海老原浩一の二人が見出した真相とは。

<感想>
 ミステリ的な要素を詰め込み過ぎるというのは別にかまわないのだが、しっかりとした核となる部分が欲しかったところ。全体的にどの謎もさほど強調されず、すべてが平たんに解決されてしまい、これといった山がないまま終わってしまったという感じ。それぞれのトリックの発想やアイディアは悪くないと思えるので、もう少し見せ方を考えてもらいたかった。

 最初に詰め込み過ぎるのは別にかまわないと言ったものの、実際にはむしろもう少し要素を少なめにしてじっくりと見せるようにしたほうが、今作としては良かったのかもしれない。


綺譚の島   6.5点

2012年02月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 知多半島の南に浮かぶ“贄島”。その島には不気味な言い伝えがあった。赤く染まる海、魚の大量死、土の中から聞こえる鈴の音。それらはこの島で死んだ兵士の怨念によるものだと恐れられた。島人たちはその怨念を儀式により抑えようとした。
 贄島の役場に勤める高品信祐は島で久々にその儀式が行われると聞き、不穏なものを感じ、親友で数々の事件を解決している海老原浩一を呼んだ。しかし、儀式が行われた後、彼らの前で次々と奇怪な殺人事件が起こる。高いところから落とされたはずなのに船の下敷きになっていた死体、片手が引きちぎられた首つり死体、誰も出入りしていないはずの島で発見された死体。いったい島で何が起きているというのか!?

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<感想>
 小島氏の作品というと、ミステリ的な要素を詰め込むだけ詰め込んで、というイメージが強い。この作品もそんな感じの内容。ただし、ミステリ的要素をこれでもかといわんばかりに詰め込みながらも、最終的にきちんと消化していると感じられた。なかなか、うまくできた作品ではないだろうか。

 昔から伝わる伝承、過去に起きた奇妙な事件、そして儀式の後に起こる奇怪な事件と3つの時間軸にまたがった奇譚の謎を解くという内容。過去に伝わる伝承と、村の跡目争いなどを背景として盛り込み、不思議な事件とうまくかみ合わせながら、それぞれの謎が構築されている。単純にトリックのみではなく、島の人々の暮らしに関わる背景とトリックとを結びつけたことにより、物語全体がきちんと構成されていると感じられた。

 基本的には良くできている作品と思いつつも気になるところが1点。それは物語の運び方。陰惨な内容となっているので物語が暗くなりすぎないように、軽快な口調の探偵を配置したというのはわかるのだが、それにより物語の進行上のバランスが欠けてしまったように思えてならない。

 特にこの探偵役が最初から謎がわかった、すでに解けたと言いながらも、最後の最後まで真相に触れることなく、起こるべき事件がすべて起きてしまってから解決するというのはどうかと思われた。それならば、探偵は最後に登場してもよかったのではないだろうか。この探偵の言い分を信用するのであれば、もっと早く謎が解け、事件のいくつかは事前に防げたのではなかろうか。どうにもそれが最初から最後まで気になってならなかった。


祟り火の一族   7点

2012年10月 双葉社 単行本

<内容>
 劇団の女優である三咲明爽子は奇妙なアルバイトを引き受けることとなる。それは、大きな火傷を負い、寝込んだ患者のもとで6人の女性が怪談を語って行くという内容。それぞれが語る怪談は決められたものなのであるが、その内容は非常に変わったもの。明爽子は、この行為が何のためのものか興味がわき、知り合いで警察官である浜中と共に調査を始める。そしてたどり着いたのは、燃え尽きて廃墟となった館であった。いったいここで何があったというのか。浜中は自らを名探偵と名乗る海老原に頼み、謎を解き明かしてもらうことに・・・・・・

<感想>
 この作品も小島氏による詰め込み過ぎのミステリともいえるのだが、今作は詰め込む分量としては丁度良いのではないだろうか。うまくまとまっていると感じられた。

 さほど多いページ数ではないのだが、それでもこれでもかというばかりに謎が押し込まれている。6つの怪談、火傷を負った二人の男、廃高鉱山、3つの化け物、そして青年が語る狩野家の物語。今回は謎を解くというよりも、過去の伝承を解き明かすというような物語のように思える。よって、読んでいる最中は本格ミステリというよりも、歴史ミステリとか民俗ミステリというような感触を受けた。しかし、話が最後までたどり着くと、きちんとした本格ミステリとなっていたので驚かされた。

 ミステリのネタとしては、なんとなくアンフェアなような気もしたのだが、だからといって本書に対する印象が悪くなるといったものでは決してない。なかなかうまい具合に仕上がっている。一風変わった切り口による作品なのだが、それが見事に決まっている本格ミステリと言えよう。本年度の秀作の一つ。


硝子の探偵と消えた白バイ   6点

2013年07月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 警視庁の管理官・幸田が乗る車を白バイが先導していた。その先導していた白バイが道を曲がり、数秒後、幸田が乗った自動車も同じ所で道を曲がったのだが、先導していたはずの白バイの姿は影も形もなかった! 実はこの場所では、先日も同じような消失事件が起き、現場検証をしていたところであった。管理官の幸田は警視庁でも有名な私立探偵の朝倉にすぐさま事件の依頼をする。そうして、朝倉と共に現場へと舞い戻った幸田が見たものは、ビルの屋上で殺害されていた白バイ警官と、白バイそのものであった。警官はどのようにして殺害されたのか? そして、白バイはどのような方法で屋上まで上げられたのか?? “ガラスの探偵”と噂される朝倉は、この謎を解き明かすことができるのか!?

<感想>
 小島氏による新シリーズ? シリーズ化するのかどうかはわからないが、ガラスの探偵と呼ばれる私立探偵が活躍する作品。提示される謎が面白く、なかなか期待させられたのであるが、最終的には、「あれ? そんな感じ??」くらいで終わってしまった。そんなわけで、本格推理小説というよりは、キャラクター小説という色合いのほうが強かったような。

 作中で提示される謎は、消えた白バイと屋上の現れた白バイの謎、消えた殺人犯の謎、狙撃トリックなど。ネタが明かされる前は、結構魅力的な謎だと思えたのだが、真相が明かされてしまうと、そんな感じかと、やや尻つぼみ気味。特にバイクのトリックなど、さんざん鑑識が確かめたという割には、もっと痕跡が残ってなければむしろおかしいのではと思われるようなもの。

 本書で面白いと思われたのは探偵のキャラクターについて。どう見ても、優秀というよりは無能というほうがふさわしそうな探偵と、やたらと優秀な助手の二人。彼らが最終的にどのように謎を解くのかは必見。この部分が一番楽しめたような気がする。


永遠の殺人者  おんぶ探偵・城沢薫の手日記   6.5点

2013年08月 文藝春秋 単行本

<内容>
 人の住んでいない家から両手を切断された死体が発見される。その後、死体の両手が発見されるものの、一方は荷物のコンテナから、もう一方は新築の家の壁の中から。詳しく捜査してみると、被害者が殺害された時間と、両腕が隠されたと思われる時間が一致しないのである。犯人はいったいどのような方法で、両手をそれぞれ異なる場所へと隠したというのか。事件の謎を解くのは、かつて伝説の刑事と言われた男の妻で現在老婆となっている城沢薫。孫できこりの秋山拓の背中におぶさり、捜査現場を駆け抜けることとなり・・・・・・

<感想>
 二人の刑事が中心になって謎を解き明かすと思いきや、そこに登場するのは老婆! なんと彼女が名探偵という役割を担っている。大柄な孫の背中におぶってもらい、事件捜査をしていくこととなる。

 発見された遺体の両手が異なる場所から見つかり、しかもその状況から、どのようなタイムスケジュールで殺害され、手を切り落とし、それぞれの場所へと運んだのかが全く想像がつかなくなってしまう。このような状況から、今作での内容はトリック重視のものなのかと思いきや、後半になるとやや趣が変わってくる。

 後半では、むしろ社会派ミステリであるかのような、犯人の状況をとりまく物語が重要視される。過去のとある事件が浮き彫りとなり、犯人はその復讐を遂げようとしているのではないかと想像することとなる。最初、老婆が探偵役として出てきて、さらには孫におぶってもらって事件現場を回るという様相にはどうかと思われた。むしろこんな探偵は必要ではなく、二人の警察官が謎をとくというスタンスで十分ではないかと。ただ話が進むにつれて、今回の事件の陰惨さが徐々に伝わってくる。これが刑事のみで解く話ではあまりにも物語が暗くなってしまうということにより、それを緩和するために今回の探偵が必要であったのかと納得させられた。

 最初はトリックありきの物語と思ったが、解決が語られる頃になると、それらトリックよりも犯人の過去から今に至るまで辿ってきた道筋のほうに興味がそそられてしまった。濃い物語を読ませられたという感触が強い。ただし、良質の本格ミステリであるということは十分に保証できる作品。


硝子の探偵と銀の密室   6点

2014年06月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 一つ目の死体は木に引っ掛かっていた。何故かウエットスーツを着ている女性の死体にはナイフが刺さっており、死因はそれによる失血死。問題は、周囲が雪に覆われていて足跡がなく、死体が引っ掛かっていた木にも人が触れた後がないということ。もう一つの死体は、家の中で置物により撲殺された女性。こちらも、家の周りに雪が積もっており、その周辺に足跡がなく、しかも家の鍵はかけられた状態であり、密室を構成していた。この二つの難事件にガラスの探偵と呼ばれる朝倉透と助手の高杉小太郎が挑む!

<感想>
 木にぶら下がった状態という“奇想”を思わせる死体。さらには、鍵・防犯カメラ・降り積もった雪という三重の密室のなかで発見された死体。この奇想天外の謎に挑むという作品。

 はっきりいって、この二つの謎に対しては申し分ない。こういったミステリを書いてくれる著者を褒め称えたいくらいである。ただ、不満なのはこの二つの謎のみで一冊の本を書き上げる力量が欲しかったという事。これだけのネタがあれば、もう少し厚めの作品が十分書き上げられるのではなかろうか。

 まぁ、この著者はネタを盛り込むだけ盛り込むというやり過ぎなミステリを書き上げるのが大きな特徴。ゆえに、本書が二つの事件だけではなく、さらにそれ以上のものを盛り込んでしまうのもいつものこと。とはいえ、最後のクイズ対決はいらなかったように思えてならない。このシリーズ探偵を活躍させるうえでは必要という事もわからなくはないのだが、それでも冗長と感じられてしまう。

 しっかりと事件を描く力量と、奇想天外なトリックを思いつくアイディアがあるのだから、できればもっとコテコテの渋い本格ミステリを書いてもらいたいもの。ミステリとしてのネタを見る分には、今後も十分良いものを書いてくれる可能性が感じられるのであるが。


呪い殺しの村   6.5点

2015年02月 双葉社 単行本

<内容>
 自称探偵を名乗る海老原浩一は、両親の死の真相を探るべく、“千里眼・予知・呪殺”という三つの奇跡を行うという宮城県不亡村の糸瀬家に来ていた。そこで海老原と助手としてついてきた沙川雫美の二人は、糸瀬俊一郎が行う奇跡を目の当たりにすることとなる。
 一方、東京ではキャリア警察官の鴻上心が一つの事件を追っていた。それは、一見自殺とみられる事件であったが、いくつかの不審な点から鴻上は他殺であると断定する。そして事件の調査をしていくうちに、鴻上は奇怪な不可能犯罪に遭遇する。被害者が考えられない速さで移動し、さらに密室ともいえる家のなかで何者かによって殺害されたのである。その現場を見張っていた鴻上ですら家の中で何が起きていたのか全くわからなかった。鴻上は被害者のルーツを探るべく宮城県不亡村へと出向くことに。すると、そこで鴻上は海老原と遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
“千里眼・予知・呪殺”という奇跡を行うことができるという一族。その一族の謎に挑戦する探偵・海老原。さらには、東京で起きた不可能殺人事件を追うキャリア警察官・鴻上。この二つの件が重なり合い、やがて一つに結びつくこととなる。

 メインとなるのは、三つの奇跡の秘密と、瞬間移動したと考えられる被害者の密室死。これらの謎に迫ることとなる。この一見、関係なさそうな二つの物語がうまく結びつくこととなり、世代を超えた長い物語を経て、過去から現代に起こる事件まで一つの流れとして構成されてゆくのは見事といえよう。奇跡のトリックについては、若干微妙に思えなくもないのだが、そこにはきちんとした伏線が事細かにはられ、読むものを納得させるものとなっている。さらには、不可能殺人事件についても、凄惨な様相を想像させる凄まじい仕上がり具合となっていた。

 全体的に非常にうまくできており、納得させられた本格ミステリ作品といえよう。ただひとつ余計だなと思われたのは、エピローグについて。やり過ぎで有名な著者であるが、ここではエピローグ部分がやり過ぎで余分であったかなと。その手前までで、十分に物語が完成していたと感じられていたので、最後は蛇足としか思えなかった。ただ、そこを除けば非常に完成度が高い作品であったと素直に感心しておきたい。


浜中刑事の妄想と檄運   6点

2015年04月 南雲堂 単行本(本格ミステリー・ワールド・スペシャル)

<内容>
「浜中刑事の強運」
 一人の女性が自宅で殺害されているのが発見される。かつて働いていた職場で、不倫関係にあった骨董屋店主が容疑者とされる。しかし、彼には強固なアリバイがあり・・・・・・

「浜中刑事の悲運」
 プレハブで殺人事件があり、事件後逃げる男が目撃されていた。目撃された男は被害者に対して恨みを持っている男であり、決定的な証拠と考えられた。しかし、容疑者はホテルに宿泊し、そこから一歩も出ていないというアリバイがあり・・・・・・

<感想>
 小島氏による新シリーズ(?)。今までは他の作品で脇役として出てきた浜中刑事を主人公とした作品。ただし、この浜中刑事が快刀乱麻の活躍を見せるというものではなく、駐在所勤務を夢みる浜中刑事は実は活躍などは望んでおらず、淡々とした日々を過ごすことができればよいと考えている。しかし、この浜中刑事、とてつもない強運を持っており、その運により捜査一課の切り札とされてしまうほど。彼の理解者でもあり、ベテラン捜査官の夏木刑事と組み、不可解なアリバイ事件に挑むこととなる。

 本書は、倒叙小説であり、実は犯人の正体が最初に示されている。それを浜中・夏木両刑事がどのような証拠を見出すことにより、事件解決に結び付けるかがポイントとなっている。さらには、実は単なる倒叙小説ではなく、読者に隠された部分も用意されており、一筋縄ではいかないミステリ小説となっている。

 では、本書がよくできているかというと、ちょっと微妙な部分もある。それは、倒叙小説と言えば、何をきっかけ(もしくは証拠)として、犯人逮捕に持ち込むかが焦点となるのだが、本書ではその名の通り“檄運”によりその焦点を付くというものなので、肝心の見どころが弱いと感じられてしまう。

 とはいえ、読みやすく、取っ付きやすいミステリ作品となっていることは確か。特に浜中刑事の捜査の部分はユーモラスに描かれているので、非常に読みやすかった。読みやすさという点でいえば、小島氏の作品のなかでも随一ではないかと感じられたほど。


モノクローム・レクイエム   6点

2015年08月 徳間書店 単行本

<内容>
 警視庁に新たに創設された特捜五係。そこは奇妙な出来事の裏に潜む犯罪を暴くことを目的として作られた部署。元々は個人探偵事務所を設立していた菱崎真司が抜擢され、交通課から新たに配属された萬千尋と共に数々の難事件に挑む。その陰にはネットで奇妙な体験談を買い取る“怪譚社”というものの存在が見え隠れし・・・・・・

 「火中の亡霊」
 「踊る百の目」
 「四次元の凶器」
 「怨霊の家」
 「見えざる犯罪者」

<感想>
 特捜五係という特別な部署が活躍する話と、奇妙な体験談を買い取る“怪譚社”と名乗る謎の男が暗躍する話とが交互に語られてゆく。

「火中の亡霊」、特捜五係が向かいのビルで燃える亡霊を目撃したという話を聞き、そこに隠された事件を暴く。
「踊る百の目」、怪譚社の男が、多数の“目”が飛び跳ねるという奇怪な体験を聴き、とある者に裁きをくだす。
「四次元の凶器」、特捜五係が刀の鞘から血が噴き出るのを目撃したという話を聞き、ある殺人事件の真相を暴き出す。
「怨霊の家」、怪譚社の男が、とある女性と会ってから家のなかで怪異が起きたという話を聴き、とある者に裁きをくだす。
「見えざる犯罪者」、怪譚社と菱崎の秘密があぶりだされることとなり・・・・・・

 大人向けのミステリというよりは、学生向けのエンターテイメント小説的な感覚の本。上に記したさまざまな謎が語られるのだが、推理が神がかり過ぎていたり、トリックや真相が強引過ぎたりと、全体的に飛躍し過ぎというイメージが強い。大味なトリックというもの自体は決して嫌いではないのだが、短編という事で解決があっさりし過ぎているせいか、物語自体も大味に通り過ぎていくだけの感じであった。

 読みやすいのでそれなりに面白くは読み通せるものの、シリーズとして続きが出ても買わないかもしれない。どうも設定自体が大雑把過ぎて・・・・・・続編が出たら文庫で買うことにしようかな。


ブラッド・ブレイン   闇探偵の降臨   6点

2016年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 警視庁捜査一課刑事・百成完は、難事件が起こると、警視庁の人間でも一部の者しか知らない“闇の探偵”月澤凌士の元へと相談にいく。今回もとある母娘を悩ます“悪魔の声”という事件が起き、月澤に相談したところ、あっという間にその難題を解決してしまう。そして百成の元に新たな事件がもたらされる。それは警察官が殺害され、しかもその後に謎の血文字が残されるという一風変わった事件。犯人と思しき者が容疑者として挙げられるものの、その者には強固なアリバイが存在していた。百成から相談を受けた“闇探偵”は、事件に対してどのような結論を付けるのか!?

<感想>
 小島氏による新たなシリーズもの。続編が出るかどうかはわからないのだが、本書の終り方からして、なんとなくこれに続く作品が出そうな感じ。

 警官殺し事件に対してのアリバイトリックに挑戦するという作品。ただし、小島氏の作品ゆえに、単なるアリバイ崩しのみには終わらず、これまでもかと言わんばかりに、新たなる謎と隠された伏線の応酬がなされてゆく。しかも最初に導入として語られた“悪魔の声”事件がそれだけでは終わらず・・・・・・という展開はさすがと思えた。

 最終的な解決に至っては、この“闇探偵”という設定に、うまく見合った解決がなされていたかなと感じられた。ただ、あまりにどんでん返しを続けてゆくと、どうも作品全体が薄っぺらくなってゆくという印象があり、どこかもう一段階手前くらいでやめておいたほうがと思えなくもない。この“闇探偵”、シリーズとして続けるのはよいかもしれないが、なんか行き過ぎてしまうと、全能の悪がはびこるホラーっぽくなってしまいそうな・・・・・・


浜中刑事の迷走と幸運   6点

2017年02月 南雲堂 単行本

<内容>
 フリースクール・与古谷学園で教員が殺害されるという事件が起きた。警察が捜査をしてゆくと、そのフリースクールでは生徒たちが虐待され、特に生徒たちに執拗に乱暴を働いていた教師が殺害されたことがわかる。生徒たちから話を聞きたいが、誰もが心を閉ざし、なかなか捜査は進まない。そうしたなか、凶器と思われるものが、フリースクールから遠く離れた高い木の上部に突き刺さっていたのが発見される。いったい、どのようにすれば、このような高い木のうえに突き刺すことができるというのか!? 駐在所勤務を夢みる妄想癖のある浜中刑事とその相棒で優秀な夏木刑事のコンビが事件に挑む。

<感想>
 浜中刑事が活躍する長編作品。活躍するといっても、実際には幸運に突き当たるだけであって、肝心の推理は相棒の夏木刑事が担っている。

 今作では、最初に序盤の主人公である少年がたどってきた人生と、フリースクールに入ってからの生活が描かれている。そこは陰惨というか、“厭な”描写が多く、やや読み進めづらかった。その後、中盤に入ってからフリースクールで起きた殺人事件が発覚し、ようやく警察が介入し、浜中・夏木刑事の出番となる。

 その序盤の最初の捜査の展開を見た時は、やや拍子抜けした。というのも、ミステリ的な謎というのが、凶器が現場から離れた高い木に刺さっているという事のみ。それだけで不可能犯罪的な感じにもっていこうとしているのかと思ってしまった。また、警察の捜査も広い敷地内での死体捜しに終始するというもの。

 しかし、後半に入ってからは作品全体に対しての印象が大きく変わることとなる。事件捜査が思わぬ方向へと展開し、伏線を回収しつつ、うまい具合に物語を収束させていったと感じられた。いつもながらの著者の盛り込み過ぎたミステリではなく、少ない要素のなかでちょっと良い話に持っていくという感じの構成は良かったのではないかと思われた。全体的には殺人の動機についてとか、ある種の方法について微妙と思われた部分もあったのだが、物語としてはうまく締めることができたのではなかろうか。


誘拐の免罪符 浜中刑事の奔走   6点

2018年08月 南雲堂 単行本

<内容>
 警察に娘を誘拐されたという連絡が! 現場へ急行する浜中と夏木のコンビ。娘を誘拐された両親が言うには、犯人からの要求が郵便受けに入っていたと。そこには、警察にすぐ連絡し、警官を呼べと奇妙な要求が・・・・・・。その後、さらなる要求が郵便で届き、そこには指定した場所の地面を掘れと・・・・・・

<感想>
 とてつもない幸運を持つ浜中刑事が事件に挑むシリーズ作品。ただ、今作ではその浜中刑事の幸運ぶりがいまいち発揮されていなかったかなと。なんとなくこのシリーズ、ワトソン役が浜中刑事で、真の主人公は夏木刑事という感じになってゆきそう。

 個人的な意見としては、このシリーズ、ミステリとしては面白いが、刑事ものとしては普通というような感覚で読んでいる。ゆえに、ミステリ的な要素が多ければ面白いが、そうでなければ微妙かと。本書は、そのミステリ的な部分が少ない作品という感じであった。

 この作品では、誘拐事件を追っていくことにより、もう一つ別の事件が浮き彫りになる。それらも合わせて事件の真相は? という内容なのだが、肝心の謎となる部分が少なかった。ゆえに警察がこつこつと事実を積み重ねて、真相を究明していくという内容なのであるが、警察小説としては何故かユーモア調のノリであるので、その緊迫感のなさゆえに、ちょっといただけないかなと。なんとなく、この事件自体が浜中&夏木コンビが担当するような事件ではなかったような。

 というわけで、決して見どころがない作品ではないものの、ちょっとミステリとして物足りなさを感じる作品。やはりシリーズ主人公である浜中刑事にもっと活躍してもらいたかったところである。




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