小林泰三  作品別 内容・感想2

クララ殺し   6点

2016年06月 東京創元社 創元クライム・クラブ

<内容>
 不思議の国の住人、蜥蜴のビルは見知らぬ世界に入り込んでしまった。その世界でビルは車椅子の美少女“クララ”と“お爺さん”と呼ばれる人物に出会う。彼らから、“クララ”たちが住んでいる世界とは別に、彼らのアヴァタールがいる世界があり、そこで会おうと告げられる。その世界で蜥蜴のビルは、大学院生の井森という人間の男として存在していた。そして井森は“くらら”と再会する。“くらら”は何者かに狙われており、井森は彼女を助けようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 車いすで登場するクララといえば、絶対アルプスの少女だと思うじゃないか! ハイジはいつ出てくるのかと思いきや、実は背景となる物語はアルプスの少女ではなかった。その辺については、あとがきにて資料が付随されているのであるが、一部ネタバレにもなるようなので、読み終えてから参照してもらいたいとのこと。ただ、個人的にはそちらを読んでおいたほうが、内容に素直に溶け込めるかのような。

 本書は二つの世界で起きる事件を解いていくというもの。主たる世界は“ホフマン宇宙”と呼ばれる場所で、そこに住む人々のアヴァタール(別人格)が地球と呼ばれる別の世界に存在する。ホフマン宇宙の人々は夢のなかで、その地球の世界を感じ取り、情報を得ることができるようになっている。

 と、複雑な世界背景のなかで起きた殺人事件を、なんとか解き明かしていこうとする趣向のミステリ・・・・・・というか、ここまでくればSFミステリとってもよさそうな内容。ただ、厳密に何が可能で、何が不可能か、ということがわからない故にミステリとしては微妙なような。それでも真相が語られてゆくと、どのようなミステリを構築しようとしたのか、ということは十分伝わってくる。

 ミステリ的なフェア・アンフェアというものよりも、背景となるホフマンという作家の世界をどこまで取り入れることができるかが大きな目的となっていたように思える。背景となる物語を知ると、本書が面白い作品というよりも、興味深い作品と感じられるようになる。


因業探偵  新藤礼都の事件簿   6点

2017年06月 光文社 光文社文庫

<内容>
 「プロローグ」
 「保育補助」
 「剪 定」
 「散歩代行」
 「家庭教師」
 「パチプロ」
 「後 妻」

<感想>
 小林氏のいつものホラー系の作品のなかに“探偵”を当て込んだ作品という感じ。この一見やる気のなさそうな新藤礼都という探偵が小林氏の作調に見事にマッチしたものとなっている。

 ただ、探偵が活躍する話と言っても、かなり変化球気味。焦点となるのは、探偵がどのように登場するのか、とか、いったい何が事件として語られるべきことなのか、といったことなどが次第に明らかになっていくというもの。特に最初の「保育補助」に関しては、このシリーズ探偵の活躍ぶりに驚かされるというか、あっけにとられることとなる。

 そんな具合に、それぞれ独自の作調を楽しむことができる作品集となっているのだが、最後の「後妻」に関しては、探偵の当てはめ方が無理やりすぎではなかったかと。また「散歩代行」に関しては、まさかの真相というか、嫌な予感が的中してしまった・・・・・・


わざわざゾンビを殺す人間なんていない。   6点

2017年07月 一迅社 単行本

<内容>
 全人類がゾンビウイルスに侵され、死ぬと誰もがゾンビ化するという世界。そうしたなか、とあるゾンビウイルス研究社が重大発表をパーティーの席上で行うと宣言する。そしてパーティーの当日、突然部屋に引きこもった研究者。彼を心配した人々が部屋へと行くと、そこは中から閉ざされており、むりやりドアをこじ開けると、なんとゾンビ化した研究者が現れる! 閉ざされた部屋で、彼はどのようにして殺害されたというのか!? 突如現場に現れた探偵と名乗る八つ頭瑠璃。彼女は自分がこの謎を解き明かすと豪語するのであったが・・・・・・

<感想>
 もう長らく読んでいないので、詳細は忘れてしまったのだが、山口雅也氏の「生ける屍の死」に通ずるところがあるかもしれない。死亡した人々がゾンビ化するという世界で起きた事件。

 物語のポイントは、密室で研究者がどのようにして殺害され、ゾンビ化したかということ。さらには、物語の探偵役である瑠璃の過去。彼女は沙羅という姉がいたようなのであるが、その後二人の関係はどのようになったのかというもの。

 ゾンビ化というプロセスの設定があるなかで、語られてゆくこととなる事件。SFミステリといってよい内容であろう。物凄く驚かされるというほどではないが、それなりにうまく出来ていたと思われる。ややグロテスクであるのは小林氏のいつもながらの作風なので気にはならないが、この著者の作品を始めて読むという人は驚くかもしれない。とはいえ、タイトルにゾンビとついたものを読むのだから、それくらいの描写の覚悟は誰でも出来ているか。

 研究者が殺害された事件の捜査と並行して瑠璃と沙羅の姉妹の物語が語られてゆくこととなるのだが、やがてその二つの話が収束されていくこととなる。実はこの物語は八つ頭瑠璃自身の事件であったのだということか。ただ、最後に(途中でもだけど)、変なラブコメ調になってしまっているのは、極端すぎるような気もするが。


ドロシイ殺し   6点

2018年04月 東京創元社 単行本

<内容>
 今度はオズの魔法の国に迷い込んだ蜥蜴のビル。ビルは当然のごとくドロシイ、案山子、ブリキの木こり、ライオンの一行と出会う。ビルは元居た不思議の国に帰りたいとドロシイに相談を持ち掛け、一行はオズの国の支配者であるオズマ女王が住むエメラルドの都にある城へと向かう。すると、さっそく城で殺人事件に遭遇することとなり・・・・・・

<感想>
 シリーズ3作目となる作品なのであるが、個人的にこのシリーズとは相性が悪い。実のない会話を延々と続けられるのにイライラしてしまう時点で合わないのかもしれない。また、このシリーズ、ある程度元となっている作品に詳しいほうが、より楽しめるという事もあり、読み手が気兼ねなく楽しむにはややハードルの高い作品と言えるのかもしれない。

 内容自体は、アバターという設定と、オズの国の魔法使いシリーズに即したものをうまく利用して、それなりに読みどころのあるミステリが作り上げられている。しっかりと読者を騙すためのポイントをついた作品と言えよう。

 まぁ、ミステリとしてはそれなりに読みどころがあるのだが、個人的な相性の悪さから次のシリーズ作品が出たとしても敬遠してしまうかもしれない。


パラレルワールド   6点

2018年07月 角川春樹事務所 単行本

<内容>
 突如、町を襲った大災害。それにより五歳の息子を持つ若い夫婦の人生が引き裂かれる。この災害時にパラレルワールドが派生し、夫が生き残り妻が死亡する世界と、妻が生き残り夫が死亡する世界に分かれてしまったのだ。ただ、息子はそのどちらにも存在しており、彼のみは両親が共に生きていることを感じ取れるのであった。なんとか、二つに分かれた世界の中で息子を仲介し、生きていこうとする夫婦。そうしたなか、息子と同じ世界観を持つ殺人鬼の存在があらわとなり・・・・・・

<感想>
 最初、災害の場面から始まるのだが、その災害の様子がもはやフィクションという感じではなく、近年あちらこちらで起こっている現実の事象であることが恐ろしい。本編の内容とは関係ないかもしれないが、その災害の様子が決して他人ごとではないと感じながら物語を読み進めていた。

 そして物語は本題へと入ることとなり、災害により二つのパラレルワールドができることとなる。ただし、それだけにとどまらず災害を生き延びた5歳の子供は両方の世界で生きており、しかもひとりの人間が両方の世界を感じながら生きることとなるという展開。それにより、父親と母親との仲介役となり、二人を精神的に結びつける存在となるのである。

 物語はそれだけにとどまらず、その子供と同じ世界観を持って災害から生き延びた男が存在し、やがてその男はヒットマンを生業とすることとなる。そんな男が、同じ世界観を持つ子供の存在を感知し、彼らを付け狙うこととなるという展開。

 アイディアがなかなかのもの。読んでいくと、単にパラレルワールドが二つあるといいうだけではなく、そこにさらなるややこしい設定を付け加えている。そうしたなかで、よくぞ物語を成立させたなと感嘆。しかも単なるいい話風に持っていくのではなく、そこに殺人鬼を登場させるあたりが小林氏の作品らしいと感じてしまう。そしてラストのパラレルワールドの幕引きに関しては、子供から大人への成長を感じさせるものとなっている。




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