霞流一  作品別 内容・感想

ミステリークラブ   6点

1998年05月 角川書店 カドカワエンタテイメント

<内容>
 中野・淡輪町の骨ガラ通りにて、懐かしのグッズを売るアンティークショップ。そこに群がるコレクターたちのなかに、コレクション収集のみのためにアパートを借りている8人もの強者が! そして、中野の町に巨大蟹が表れるという都市伝説のようなものが跋扈するなか、コレクターたちを巻き込む猟奇連続殺人事件が起こる。密室に死体の一部が置かれていたバラバラ殺人、死後さらに棚によって押しつぶされた死体、クリーナーの泡まみれにされた死体、首が切断され持ち去られた死体。いったい、これらの連続殺人の目的は!? コレクターたちに巻き込まれ事件に関わることとなった紅門福助が事件の謎を解き明かす!!

<感想>
 感想を書いていなかった作品の再読。霞流一氏の初期作品。その初期の作品だけあって、バカミスっぷりが物凄い!

 事件だけを取り上げると、かなりエグめの連続猟奇殺人事件であるのだが、そこはコメディー風の作調により緩和されている。不可能殺人と奇怪な殺人現場のオンパレードであり、いかにこれらの事件が解決されのか、否が応でも盛り上がる。しかも、それらの解として締めくくるのがバカミス・トリックのオンパレードであり、現実的にどうだこうだということより、その潔さっぷりにむしろ感嘆させられる。

 物語全体を彩る“蟹”の都市伝説についても、思わぬ形で真相が表され、それもなかなかのもの。島田荘司氏が描く奇想ミステリのバカミス・バージョンみたいなもので、大がかりなトンデモ設定を楽しむことができる。

 話全体としては、ミステリ重視というよりも、さまざまなコレクターアイテムの薀蓄あり、きわどいジョークありと、霞氏の従来の作風を楽しめる人ならばOKであるが、そうでなければ結構NGな作品なのかもしれない。毒々しい霞氏流バカミスのみならず、その作風までも楽しめるという人には、他の作品では経験できない味わいを堪能できることであろう。


赤き死の炎馬  奇跡鑑定ファイル1

1998年06月 角川春樹事務所 ハルキ・ノベルス
1999年10月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
“奇跡鑑定人”である魚間岳士のもとに来た依頼。それは、岡山県にあるとある旅館で、テレポーテーションしたという奇妙なもの。早速その旅館に行ってみると、そこは“平家と首のない馬”という奇妙な伝説が残されていた地であった。魚間が調べていくうちに、数々の不思議な事件に遭遇する。足跡のない全裸死体、密室でのポルターガイスト殺人事件、行き止まりの場所での不可能殺人等々。馬首観音が示す村の謎とはいったい!? 魚間と共に謎を解くべく村に来ていた天倉真喜郎が、神秘の謎に挑む!

<感想>
 相当昔に読んだのだが、感想を書いていなかったので再読。バカミス創世記を堪能できる本格ミステリ。奇跡鑑定人シリーズ第1作。

 奇跡鑑定人、魚間と天倉が活躍するシリーズ作品。ちなみに魚間がワトソン役の語り手で、奇異な行動をとる大男・天倉が探偵役となる。彼らが挑む謎は、旅館でのテレポーテーション(というほど大げさでもない)、現場までの足跡が残されていないなかでの全裸死体、密室での殺人事件、屋外で起きた殺人事件においての犯人消失の謎、といったもの。これら事件が、罵頭観音がまつられる不思議な伝説の残る村にて繰り広げられる。

 謎の真相については、奇想というよりも、まさにバカミスのオンパレード。真面目にとらえると、いやそんなトリック無理だろと思えるのだが、そこはご愛嬌。むしろそういったトリックを思いつき、それらを本当にミステリ仕立てにしてしまうところこそが見事と言えよう。また、犯人を指摘する部分が、思いの他論理的に示されているところもポイントであり、霞氏らしい作調ともいえる。まっとうな本格ミステリと言ってよいのかどうかは微妙なところだが、放っておくにはもったいないミステリ作品。それこそがまさにバカミスたるゆえんか。


オクトパスキラー8号      5.5点

1998年11月 アスペクト ノベルス

<内容>
 浅草に程近い下町・藻呂黒町にて、売れないイロモノ芸人の死体が発見される。その後、奇妙なタコの見立てが行われる怪事件と共に、さらなる殺人事件が勃発する。床山刑事は大物タレント議員で名探偵の駄柄善吾に引きずり回されながら事件に関わってゆくこととなり・・・・・・

<感想>
 感想を書いていなかった古い本を再読。霞氏、5作目の作品。アクの強い大物タレント議員が探偵となって謎を解く作品であるが、この探偵、他の作品で出て来ていたっけ? もしかしてこの作品のみなのかな?

 霞氏の初期の作品については、読みにくいというイメージがある。作調としてはユーモア主体のミステリなので、読みやすそうなはずなのだが、何故か読みにくい。その理由のひとつとしては、本書などが特にそうなのだが、全体的な流れが希薄ということ。この作品、次から次へと殺人事件や、奇妙な小さな事件などが起こってゆくのだが、そのどれもが“ぶつ切り”という感じで全体的な流れというものが感じられないのである。ゆえに、動機とか人間相関図とかが、よくわからないままどんどん話が進んでいってしまう。

 ただし、この作品に関しては実はそういう流れにマッチした結末が用意されている。何故このような事件が起きたのか? そして何故それが殺人事件にまで発展したのか? それらがきちんと解き明かされているのである。とはいえ、バカミスゆえに、ふざけた作風であるので内容については好みが分かれるところかもしれない。といいつつも、霞氏の作品を読む人であれば、そこのところは当然理解したうえで読んでいるだろうから問題はないだろう。漫才や芸能などの裏側というか、アクの強い部分のみを満載したミステリ作品。


屍 島  奇跡鑑定ファイル2

1999年12月 角川春樹事務所 ハルキ文庫

<内容>
 奇跡鑑定人コンビ、魚間と天倉に瀬戸内海の鹿羽島というところから依頼が来た。なんでも島にある山の中で、木から鹿の首が生えていたのだという。謎を解くために島に上陸した二人の前に現れたのはパンチパーマの案内人、癇癪もちの網元、島起しに熱心な観光課長、マッドな医者、奇妙な芸術家と称する者たち(しかも5人も)。このような妙な人々が住む島で連続殺人事件が起こる。 その死体の様子をみて、人々は幻の動物「馬鹿」のしわざだと! この謎を、島の人たちに負けじと奇妙奇天烈な振る舞いで天倉が解く!!

<感想>
 感想を書いていなかったので、15年ぶりに再読。読んでいると同じバカミスだからなのか、鳥飼否宇氏の作品とどことなくだぶってくるなと。

 薄めの作品のなかに、てんこ盛りのミステリ要素。奇妙な芸術家5人衆だけでも十分腹いっぱいなのに、さらには幻の動物“馬鹿”が起こしたと思われるかのような連続殺人事件。百舌鳥の早贄のような木の上に刺された死体、手足をもぎ取られた(噛み切られた?)死体、顔の皮膚をはがされた死体。そして裏四十七士と謎の財宝。もう、とにかくてんこ盛り。

 ただ、バカミス要素てんこ盛りにもかかわらず、謎の真相はきっちりと仕上げられていたかなと。状況からして、ごちゃごちゃしてそうでいながらも、きっちりとこれしかないというパーツがはまり込み、納得させられる内容。登場人物らの人間性以外は、それなりに納得できる作品。

 最初から最後まで、霞氏らしい作品で楽しむことができた。無茶苦茶な設定も、バカミスゆえに楽しめる。脱力系ミステリながらも、締めるところはきっちりと締めている作品。


スティームタイガーの死走   6点

2001年01月 勁文社 ケイブンシャノベルス

<内容>
 コハダトーイの小羽田伝介は、設計はされたものの幻に終わったC63型蒸気機関車を心血注ぎ再現させた。しかも彼は虎鉄と名づけたその機関車を本物の中央線で走らせようとした。その記念すべき日、出発地の東甲府駅で死体が発見された。不吉な予感を抱く伝介。果たしてその予感は走行中の虎鉄が忽然と消えるという驚愕の結果となって当たってしまう。消えた虎鉄はどこへ・・・・・・そして死体との関連は?

詳 細

<感想>
 少々余計な部分が多すぎたのではないか、というのが感想だ。機関車の謎と運転手の失踪だけで十分一つの話として持っていけたのではないだろうか。駅に落ちていた死体はアカムケさんに関しては蛇足だった気がする。アカムケさんの謎に関する、アクロバット的な解答は別にかまわないと思うが、他の事件との関連性や必然性がなにもなく、それだけ提示されても「あっ、そう」で終わってしまう。それならば、釜たきの青石に関する謎あたりを引っ張ったほうが小説としての出来は良かったのではないだろうか。せっかく面白そうな題材がつまった小説と思えたのに、この内容で終わってしまうというのも惜しい。


牙王城の殺劇 <フォート探偵団ファイル1>   5.5点

2002年01月 富士見書房 富士見ミステリー文庫

<内容>
「コビトワニのグッチ君を見つけだして欲しいんです」
 ドーベルマンからハリネズミまで、珍ペットなんでもござれの刃狩動物病院に舞い込んだ、これまた珍妙な事件。忙しい父姉に代わり、現場に乗り込むのは、高校二年生の紋太郎と仲間たち《フォート探偵団》だ。UFO、心霊現象など、超常現象(フォーティアン・フェノミナ)を調査し、真の怪奇事件との出会いを渇望するちょっとだけ夢見がちな三人組。
 彼らが挑戦する相手はワニの楽園《牙王城》。事件は財閥跡目相続問題も絡みついには殺人事件までおこる! 失踪ワニの行方、籠を運ぶ甲冑騎士二人組、空中に浮かぶあやしい光、足跡のない事件現場、甲冑をまとい切断された死体、消えた天守閣、ゾンビの群れ、次々とフォート探偵団を襲う奇怪な現象の数々。彼らはこれらの謎をすべて解き明かすことができるのか??

<感想>
 霞氏の2002年の活動は富士見ミステリーから始まる。表装からいっても、狙いからいってもライトノベルズ的であるが、内容はなかなかあなどれない。さらにいえば、このような形態は霞氏の作風をいかすのに合っているようにも思えた。奇想天外な出来事や、ありえない事象などが起こってもライトノベルズだからと重く考えず、気をゆるして読む進められる。しかし、適当な超常現象などで終わらすことなく、事件に関連する解釈をきちんとつけている。なかなかこの富士見ミステリーへの参入というのは当たっていたのではないのだろうか。

 本書は形態は異なっても中身は今までの著者の作風と同様の謎の提示がなされる。数々の奇妙な現象が起こり、人々がそれに惑わされるというもの。そして今回のキーワードはワニ。そのワニによって事件がかき回されるかのように次々と進展していくというもの。このような内容はいいのだが、どうも思うに謎と思われる事象をてんこ盛りしすぎるきらいがある。これは本書にかぎらずなのであるが。その事象ひとつひとつをきちんと説明付けることには感心するのだが、全部が全部事件に直接関わっているのかというとそうとも感じられないのである。そのいくつかは存在しなくても解決には何の支障もきたさないはずである。よって、そのデコレーションの過剰さによって肝心なものがボケてしまうかのように感じられるのだ。その主である部分と副である部分の書き分けというかトリックの提示の仕方を考慮してもらえればもう少しおもしろくなるとおもうのだが。


首断ち六地蔵   6点

2002年07月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
 悪質なカルト集団を取り締まる特殊法人・寺社捜査局に進める魚間岳士は、豪凡寺という寺の六地蔵の首が持ち去られた事件を追っていた。ところが、首が発見されるたびに奇怪な殺人事件が!!
 魚間は、豪凡寺の住職・風峰らと共に真相を推理し、一連の事件の背後に新興宗教「浄夢の和院」の教祖・日羅薙月獏がいることを突き止める。月獏の仕掛けた謎を、魚間たちは解くことができるのか!?

<感想>
 本書は連作短編の構成をとっていて、落ちた地蔵の首と共に六つのバカミス短編が楽しめる。あまりに不可解な犯罪状況であり、あまりに突飛なトリック。通常の小説であれば投げ出したくなるような行為が許されてしまうその背景とB級の乗り。まさにこれこそバカミスである。しかもそこに推理小説ならではの論理合戦がてんこ盛りとくれば、もうだまって読むほかはない。

 とはいうものの全体的に評すれば推理小説というよりは、伝奇ものといいたくなるような戦闘合戦。「浄夢の和院」対魚間と住職・風峰と霧間警部の連合軍。方や教団団員を利用しての不可能犯罪を構成し、方やそれを推理と論理とギャグによって真相を暴く。そして最後には教団のボス日羅薙月獏と相対することに・・・・・・この戦いの行方はいかに!? といったところだ。

 著者にだまされたおされないよう、リラックスしすぎない程度にこの怪作をご覧あれ。


デッド・ロブスター   6点

2002年09月 角川書店

<内容>
 探偵・紅門福助に劇団“建光新団”より依頼が来る。突然、劇団当てに恵比寿様の像が送られてきたというのだ。それも既に死亡した人間から。2週間前に劇団の看板俳優であった神島がプールで素っ裸で死亡するという奇怪な事件が起こっていたのだ。劇団は新公演を迎え、忙しい時期。そんなときに不穏なものが送られてきたということで、探偵に事件を調査してもらいたいという。早速調査を始めるや否や、殺人事件が相次ぐことに! 背骨がへし折られた死体、めった刺しにされた死体、密室での殺人。キーワードは“エビ”のようであるのだが・・・・・・

<感想>(再読 2015/9/12)
 久々の再読。感想を書いていないから読もうと思いきや、読み終えた後に、しっかりと感想が書かれていたのを自分のHPで発見。まぁ、せっかく読んだのだから、もう一度再感想を。

 読んでいる最中は、余計な描写がやけに多いようなと。“エビ”に関わるキーワードも無理やりこじつけている感じがして、やや微妙なところ。ただ、真相が明かされてみると、あえてミスリーディングを誘い(誘われているかどうかは別として)、別の事象を覆い隠そうと工夫していたということを発見することができる。

 とある人物の、とある性癖を隠すためという設定がバカミス道を貫いて、すごくよかった。泳げるはずの人間が学校のプールで溺れているという奇怪な状況に対して、どう解決するのかというのが非常に気になっていたのだが、こんなことが起こっていたとは・・・・・・

 全体的には、いつもながらも霞氏らしい作風・作調を見ることができる安定した内容。ユーモア調の作風を受け入れることができれば、お薦めできる本格ミステリ。

<感想>
 例によって例のごとく、今度は“エビ”ミステリー。ただし、今度のものはなんとなくこじつけめいているような気がしないでもない。かえって、探偵の紅門福助がかんけいないところにまで“つっこみ”を入れて話をややこしくしているように感じる。といってもこれがこのシリーズの作風なのだろうが。

 ただ、どちらかといえば今までの著者の作品群と比べてみると、探偵小説というより警察小説に近いように感じられた。それでもラストの登場人物を集めたところから犯人を指摘するところは圧巻であった。そして最後はうまくまとめたなぁといったところである。読者は事件に惑わされるよりも、探偵に惑わされないように読む必要があるこの作品。強敵は犯人よりも探偵か!?


呪い亀   6点

2003年01月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 新規オープンを間近に控えた映画館のオーナー、那須福太郎。彼の周囲に相次いで不吉なことが起きているという。この“連続不吉事件”の解決に担ぎ出された私立探偵・紅門福助だったが、それが合図になったかのように事態は連続殺人の様相を帯びてきた。カメの甲羅にまたがった死体、“亀の密室”の焼死体・・・・・・
 繰り返されるカメの見立て。さらに夜の町を疾走する老人、衆人監視の人間消失など次々に繰り出される謎また謎。そしてすべての謎がカメのごとくひっくり返されたときに・・・・・・

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<感想>
“カメ”づくしにて楽しませてくれる本格ミステリーここに登場! とうとう今度は“亀”の出番である。しかし、“亀”による見立て連続殺人が起こるのだが・・・・・・少々苦しいような気も・・・・・・でもそれもいつものことか。逆によくここまで力技でもっていったなと、関心できなくもない。

 ただ“カメ”よりも、その他の事件を構成する要素のほうが魅力的に感じられる。爆走する老人、ボディピアスの死体、入ることのできない土蔵での殺人、過去に起きた宝石強盗事件。とはいえ、こういった事件での真相を隠すためにカメの甲羅にてふたをするといったところなのか。

 そして事件の解決ではこれらの謎の要素のすべてがものの見事に解かれていく。その真相はまさに驚愕させられるものとなっている。真相が解かれるとその解決には納得させられるものの、もう少し伏線等を張っておいたほうがフェアだったのではないかと感じられた。よくよく考えれば、あまりにも突飛な推理のように思える。それでもその力技こそが、著者らしくて見事であるといういいかたもできる。

 ゾウガメをひっくり返すかのような力技の推理が楽しませくれること請け合い。


火の鶏 奇跡鑑定ファイル3   6点

2003年04月 角川春樹事務所 ハルキ・ノベルス

<内容>
 八畳の部屋を埋め尽くす無数の白い羽と、傍らに置かれた七つの卵。その部屋の真ん中に死体は横たわっていた。しかもその部屋は出入り不可能な密室状態だったのだ。そしてさらに第二、第三の不可思議な殺人が発生。犯人の殺人の動機と方法は? そして、火を吹きながら飛ぶ鶏の謎とは果たして何なのか?
 奇蹟や超常現象の謎を解明する「奇蹟鑑定人」魚間岳士と天倉真喜郎が挑む、超不可思議連続殺人事件。

<感想>
 本書の目玉は何といっても密室不可能殺人である。この不可能犯罪がどのように解かれるかと思いきや・・・・・・そう来たか!?

 これは霞氏による“見えない人”とでも表現したらよいのだろうか。いや、霞氏によるというよりは霞氏しかやりえない、もしくは霞氏だからこそ許される仰天トリックであろう。しかもそこに事細かに伏線を張ってある。しかし、誰がこのようなことを予想して伏線とみなすことができるのか。反則すれすれのこのトリックを見せられると“ミスター・バカミス”は今年も健在であるということを思い知らされる。

 ただ、一つ付け加えるならば“火の鶏”のトリックはもう少しなんとかしてもらいたかった。


おさかな棺(かん)   6点

2003年10月 角川書店 角川文庫

<内容>
「顔面神経痛のタイ」
 夫がセーラー服を着たまま車にひかれた。事件を調査しているうちに殺人事件が!
「穴があればウナギ」
 愛人、それぞれの家にお茶漬けが送られてきた。事件を調査しているうちに殺人事件が!
「夕陽で焼くサンマ」
 ふとんがふっとんだ、刀がかたなし。事件を調査しているうちに殺人事件が!
「吊るされアンコウ」
 クラブのドアに人形が吊るされていた。事件を調査しているうちに殺人事件が!

<感想>
 相変わらずの霞節が炸裂。しかも短編集なので、これでもかとばかりのオンパレード作品集。霞ファンであれば満足すること請け合い。

“くだらない”、っていえば確かにくだらない。何がくだらないかというと短編それぞれのとっかかりがくだらない。何しろ最初の一編からして、夫がセーラー服を着た姿で早朝、車にひかれたというもの。もしくはお茶漬けが送られてきたとか、等々。そしてどの短編もそのきっかけの事件により探偵・紅門が事件の依頼を受けたとたん殺人事件が起きる。結局のところ、そのとっかかりとなる珍妙な事件にはそれほどの意味が込められているとは思えない。しかし、そこで油断してしまうと命取り! メインとなる殺人事件のほうの解決に突然論理的推理が展開され、本格的ともいえる解決がなされてしまう。といっても、さほどシリアスに解決がなされるわけではないので、堅く考える必要なないのだが・・・・・・。ただ、やはりこういう見事といえる展開があってこそ、失敗作ならぬ“バカミス”という冠を抱き続けるのであろう。


ウサギの乱   7点

2004年03月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 弱小プロダクションから一人の人気アイドルが誕生した。そのアイドルのおかげで繁盛した神社、アイドルを取り巻くプロダクションの面々。その利害がからむ人間関係の中、とうとう殺人事件が発生してしまう。
(天井に?)頭を強打した死体から始まり、密室の中での串刺し死体、体中の骨が砕かれた死体等々・・・・・・。次々とウサギに見たてられたかのような死体が現れる事件に挑むのは、衆議院議員にして俳優の探偵・駄柄善悟と駄柄から僕のように扱われる警視庁警部・倉吉高史。

<感想>
 霞氏のおなじみ“動物バカミスシリーズ”。いつもながらの他の作品と同様に、事件が起き、それが動物(今回はうさぎ)と関連付けされた見立て殺人と解釈され、探偵が最後に解決するというもの。なのであるが、本書はただ単に“バカミス”という表現だけではすまされない完成度を持った作品となっている。

 起こる事件の一つ一つは、それぞれが不可能トリックとして構成されている。これらは従来の作品と変らず、いつもながらのクオリティによってそれぞれ謎が明かされるようになっている。ただし、本書では事件が単独としてではなく、相互が結ばれる関係となっている。事件は個々に成り立っているのではなく、他に起きた事件がからめられ、それを起点として不可能性が付加されるトリックとして完成されているのである。この事件全体の構成の仕方は見事といえよう。

 さらに、本書はトリックだけではなく物語りとしてのインパクトも強い。一見、あまり関係なさそうな人物までもが物語り上で重要な役割を果たし、事件にさらなる印象を積み重ねるように展開されている。ラストは霞作品にしてはシリアスすぎるといってもよいであろう。

 本格ミステリーが枯れてきているといわれながらも、一人本格ミステリーにこだわった本を出版し続け、そして名作に値する本を出してしまうのは大したものといえよう。これを読むと本格もまだまだ終わったわけではないと感じさせてくれる。


羊の秘   6点

2005年02月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
「夢視の玉」という寝ているときに見た夢を語る会のメンバーの一人が自殺したときから、一連の事件が始まった。土蔵にて、紙で体を巻かれた死体。雪の上に足跡がなく、空から降ってきたかのような死体。密室にて紐で縛られ丸められ焼かれた死体。次々と殺害される「夢視の玉」のメンバー達。そして一連の謎をさらに深めるかのように発見された一枚の“羊男”の写真。全ては“羊”に関係するのか・・・・・・

<感想>
 いつもながらの霞氏流のミステリーを見せてくれる作品であるが、レベル的には中級というか普通といったところである。どちらかと言えば、ミステリーというよりもホラーに近いような内容のように感じられた。

 当然のことながら謎は最後に解かれるのであるが、この作品では途中途中で多くの謎が一つ一つ解かれながら進められてゆく。そのために最後の最後でカタストロフィを味わうといったものではなくなってしまっている。ゆえにその分、ミステリー色が薄まってしまい、全面的に色濃く描かれている怪奇的な描写が前面に出てしまったのではないかと考えられる。

 ただ、いつもながらの事なのだが、それとなく伏線を張り、ラストで犯人の条件を挙げ消去法にて真犯人を特定する締め方は健在である。バカミスぶりはちょっと薄めな霞氏流“羊”ミステリー、得と堪能あれ。


サル知恵の輪   5点

2005年12月 アクセス・パブリッシング 単行本

<内容>
 杉並区枕倉北商店街の片隅にて探偵家業をしている紅門福助。彼の事務所に久々に依頼人が来たものの、紅門の腕の中で力尽きる・・・・・・飼い犬を残したまま。これがきっかけとなり鉄板焼きで町おこしをしている商店街の店屋の人々への連続殺人事件へと発展してゆく。殺害された人々は、皆何故か“猿”の見立てがされていて・・・・・・

<感想>
 まず最初に感じた事であるが、この本自体の紙の質が非常に安っぽい。このアクセス・パブリッシングという会社の本を買うのはひょっとしたら初めてかもしれないが、この紙の質はなんとかしてもらいたいところ。買ってから2ヶ月くらいしかたってないのに、既に本の周囲が変色してしまっている。

 で、肝心の内容なのだが久々に霞氏らしいギャグと笑いで満ち溢れた作品になっていると安心させられた。のっけからの紅門と中華の出前とのやりとりで爆笑させられる。そして、そのノリで話がずっと続いてゆくのだからこれはもう霞ファンにはたまらない作品であろう。

 ただし、ミステリーとしてはあまり印象に残らなかった。見立てに関しては、いつもの霞作品らしく相変わらず眉唾なものであるのは良しとしても、それ以外の犯行方法だとか、犯人の当て方だとか、そういった所に対しては今回あまり凝ったものが見られなかった。ゆえに、ただドタバタ劇のなかで、人が殺害されていって、自然と犯人が捕まってしまうという風にしか感じとる事ができなかった。

 つまり、霞氏のファンだったら本書は当然“買い”であろうが、ただ単に純粋なミステリーファンであるというだけであればお薦めはできない。


プラットホームに吠える   5.5点

2006年07月 光文社 カッパノベルス

<内容>
 警視庁に勤めているアキラは警察内部の広報誌を作るという仕事をしている。その広報誌のライターで元捜査一課の警部であり、アキラの祖父でもあるヒタロー爺とともに、アキラは狛犬について調べていた。すると取材の途中で奇妙な墜落事件に遭遇する。マンションの屋上から飛び降りたと思われる女性のそばにはマネキンが一緒に落とされていたのであった。また生前の被害者の女性について聞き込みを行うと、その評判の悪いこと・・・・・・。背後に狛犬の存在が見え隠れする事件、アキラとヒタロー爺が事件を追ううちに、いつしか連続殺人事件へと発展し・・・・・

<感想>
 うーん、帯に「まったく新しい鉄道ミステリーの出現」などと書かれていたので、過剰に期待してしまったのだが、結局のところは霞氏らしい普通の作品といったところであった。

 今回の作品では探偵役となるキャラクター造形(他の作品にも出ていたような・・・・・・)はよかったと思える。親子三代の警視庁お勤め家族に、針灸医院の女医師と、それぞれキャラクターが栄えていて、とても読みやすい小説であったと感じられた。

 ただ内容において、いささかページが長すぎたと思われる。旅情ミステリー風になっているというところはいいにしても、途中少々だれてしまった(続けての事件もなかなか起きなかったし)。さらに付け加えれば不必要にややこしいとも感じられた。

 そんなところで手放しで褒められるというような出来ではないにしても、いつもながらの消去法ロジックを用いた犯人の当て方や、奇抜な犯行方法には眼を見張るものがある。ただ、動機等についてはいささか無理があるかなと思われなくもない。

 ということで、及第点をあげるのにもちょっと辛いところがあるのだが、これでもう少しコンパクトにまとめてくれれば、いつもどおりの評価ができたと思えるのだが。


夕陽はかえる   6.5点

2007年10月 早川書房 ハヤカワ・ミステリワールド

<内容>
 プロの暗殺組織“影ジェンシー”。組織の中の“影ジェント”のひとり、<青い雷光のアオガエル>と呼ばれる男が何者かに殺害された。同業者同士による殺し合いによるものと思われたが、<アオガエル>が生前大きな仕事を請け負っていたがために、その仕事を巡って“影ジェント”たちの争いが始まることに! <ジョーカーの笑うオペ>と呼ばれる医師であり“影ジェント”である瀬見塚は<アオガエル>を殺害したという容疑をはらすべく、真犯人を暴こうとするのだが・・・・・・

<感想>
 霞流一氏の新境地でありながら、霞流一氏らしい作品でもある。今まで、動物ネタで私立探偵によるミステリを展開させてきたものの、主人公が違えど、途中の事件経過の流れはマンネリ化してきたといえよう。それを打破するために霞氏が用いたものは“影ジェンシー”と呼ばれる暗殺集団。

 話の展開は数々の暗殺者たちが、奇抜な武器を用いながら1対1の死闘を繰り広げるという、まるで山田風太郎忍法帳のような内容。しかし、この突飛な展開が霞氏の作風にマッチしてしまっている。

 では、この作品は単純に伝奇もののような内容かといえばそれだけではなく、きちんと探偵小説しているのである。というか、“影ジェンシー”とか、死闘が繰り広げられる描写が出てくるというだけで、物語の締め方は従来の作品となんら変わりはないといってもいいほどである。

 今作でのミステリネタはふたつ。被害者がビルのオブジェに突き刺さっているという奇抜な格好をしている理由、そして密室で行われた殺人事件の謎。最終的にはこれら二つの謎が論理的に解かれるものとなっている。ただし、部分的にはちょっと反則くさいような気がしないでもない。

 さらに、物語の全容を巡る謎も用意されており、伝奇的なパートだけでなく、ミステリ小説としても見逃せない作品となっている。

 と、このような新しい作風ができたことにより、これもこれからシリーズ化されそうな予感がする。このシリーズならば、今までの霞氏の作品を上回るバカミスが展開可能という気がする。2008年以降もますますミステリ・ファンを楽しませてくれることであろう。


死写室   6.5点

2008年02月 新潮社 単行本

<内容>
 「届けられた棺」
 「血を吸うマント」
 「霧の巨塔」
 「首切り監督」
 「モンタージュ」
 「スタント・バイ・ミー」
 「死写室」
 「ライオン奉行の正月興行」

<感想>
 探偵・紅門福助が活躍する映画をモチーフとしたミステリ短編集。

 著者の霞氏といえば、言わずと知れたバカミスの大家。本書も当然のことながら、霞氏らしい作品の数々を堪能することができるのだが、決してそれだけではなく、本格ミステリ作品としても充分濃厚なものに仕上げられている。

 個人的には、上半期のミステリ作品のなかでは、ベスト10に入れてもよいのではないかと思っている。ただし、人によって好き嫌いは大きく分かれるかもしれない。

「届けられた棺」では、密室ともいえる部屋のなかで、いつ被害者が棺に納められたのかという謎を解く。そして動機については、これぞバカミスともいえる理由が飛び出すことに!

「血を吸うマント」は短い作品ながらも、ミステリでは定番ともいえる足跡がトリック炸裂。

「霧の巨塔」は本作品で一番のお気に入りの一編。どこにも在りえないはずの巨塔が一瞬にして現れ、瞬く間に消えるというトリック。

「首切り監督」は首の挿げ替えがなされるミステリ作品。トリックと動機がうまくかみ合った作品といえよう。

「モンタージュ」は誰も倉庫に出入りした痕跡がないはずなのに、いつの間にか死体が現れるという不可能殺人を描いた作品。

「スタント・バイ・ミー」はマスクをかぶった死体が、本物かと思えば偽者だったり、しかも実際には・・・・・・という複雑怪奇な事件を描いている。

「死写室」は試写室にて映画を見ていた二人の人物のうち、ひとりがいつの間に殺されていたというもの。トリックもさることながら、動機や事件の背景がいかにもといえるような捻れた世界の中で描かれている。

「ライオン奉行の正月興行」は問題編と解答編に分けられた構成がとられている。真相を知ったとき、これこそバカミスだ! と叫びたくなるような出来の作品。


ロング・ドッグ・バイ   5.5点

2009年04月 理論社 ミステリーYA!

<内容>
 東京郊外の小さな町に記念として建てられた忠犬レノの銅像。その銅像の前に突然ゴボウが植えられていた。誰がいったい、何故このような手間のかかることを。友人(友犬?)のポンタから依頼を受けた犬のアローは事件の調査に乗り出すことに。犬が主人公となり、事件捜査に乗り出すドギー・ハードボイルド登場!

<感想>
 私自身が特に動物好きというわけでないためか、あまり感銘を受ける事はなかった。基本的には普通の霞氏が描くミステリ作品となんら変わりはないのだが、犬の視点でというフィルターがかかっているため、かえってまどろっこしいと感じられてしまった。

 事件自体は短編で済んでしまいそうな内容。そこを飼い犬が事件の捜査に取り組むために、まず主人の宅から脱走し、人目につかないように行動をし等々、事件とは直接関係のない描写に多くページ数を割かれることとなる。また途中で登場してくる犬のエキスパート達に関しても、数が多すぎる。まるでページ数を割くだけのような登場の仕方と、事件自体への関与の薄さ。もっとシンプルな描写に収めてくれたほうが読みやすかったと思われる。

 そんなわけで動物好き、犬好きの人には一読の価値があるかもしれない。動物に思い入れることができなければ、やや退屈かも。


災 転 (サイコロ)   5点

2009年04月 理論社 ミステリーYA!

<内容>
 ヤクザの墓石がありえない形に曲がっていた。弟子がその墓石を作ったということで、責を問われた碑工師の飛崎は事件の調査をすることに。すると、その墓石の主が奇怪な死に方をしていたことを知ることに。そして彼に関係ある者たちが次々と奇怪な死を遂げるのを目の当たりにすることに!

<感想>
 いつもの霞氏の作品と同様の作風なのだが、そこで起きる事件をミステリ的に解決するのではなく、ホラーとして扱うというところが唯一異なるところ。そこを別にすれば従来の作品と同様に楽しめるであろう。ただし、角川ホラー文庫という媒体を用いたこともあり、ホラー食とグロテスクさを前面にだしているので、そこで好みが分かれるかもしれない。

 霞作品のファン、もしくはグロテスク系のホラー作品が好きだというのであればお薦めできる本。


スパイダーZ   5.5点

2011年10月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 美容整形クリニックの院長が惨殺されるという事件が起きた。死体は全裸で吊るされていたうえ、全身に傷が刻まれていた。警察が捜査を進めていくと、このクリニックには怪しげな噂があるとの情報が。そういった噂があげられるにつれ、院長の息子や勤務医たちが次々と容疑者としてあげられることとなる。そうしたなか、刑事のひとり唐雲蓮斗は熱心に捜査を進めてゆくものの奇妙な行動をとりはじめる。彼は自らそれを“操査”と呼び始め・・・・・・

<感想>
 うーん、ミステリとしては読みどころはあるものの、心情的には理解しづらいなぁ。

 連続殺人を警察が捜査していくこととなるのだが、見たて殺人や密室等、色々な要素が出てきて読みどころは多々ある。特に密室殺人に関しては、正解から不正解までいつくもの解答がこれでもかというくらい並べられており一見の価値はある。

 ただ、そこで起きている背景というか、主人公の行動がどうにも納得ができないのである。別にこれは真相でも何でもなく、すぐに明らかにされることであるが、主人公である唐雲が必殺仕事人のように真犯人や悪辣な人物らを次々と殺害してゆくのである。そこに様々な仕掛けや罠をほどこし、偽の真犯人を仕立て上げてゆくのである。

 だが、どうもそのスタンスが“正義”という建前をふりかざしつつも、やっていることはサイコパスそのものというのはどうかと思われる。唐雲は数々の人物を手にかけているものの、特にそうする必要のなさそうなものまで平気で殺害してしまう。しかも異様な熱意と異様な感情、異常な振る舞いで。正直、趣味の悪いサイコパスの小説を読んだという悪い後味のみが強く残ってしまった。


落日のコンドル   6.5点

2013年04月 早川書房 ハヤカワ・ミステリワールド

<内容>
 今回、プロの暗殺組織“影ジェンシー”が受けた依頼は豪華客船のオーナーの暗殺。依頼を遂行するために集められた8名の“影ジェント”と、その動向を見守る役割のセミ長こと瀬見塚と、峰久保。暗殺対象者も、“影ジェント”が雇われていることを知って、それに対抗すべく凄腕の殺し屋“コンドル3兄弟”を雇い、対抗する。ただ、この仕事、集められた8名の数が少なくなればなるほど取り分が増える。そのためか、“影ジェント”の1人がチームの1人を殺害し、逃亡したと思わしき状況に!? 誰が敵なのか、というよりも全てが敵という状況のなかで、“影ジェンシー”は依頼を遂行できるのか??

<感想>
「夕陽にかえる」に続く、“影ジェント”シリーズ第2弾! といいつつも、前作が出てから5年。久々すぎて、前回登場していたキャラクターについてはあんまり覚えていない。ただ、そういったことを抜きにして、かなり楽しめる内容。これは今年の“怪作”と言えよう。

 奇抜な武器や、奇抜な方法による闘いが繰り広げられるバトル・ロワイヤル小説。ただし、それぞれの“影ジェント”達の様相があまりかっこいいと思えないので、レベルの低い山田風太郎忍法帳のように感じられる。ただ、そこに場違いな“推理”が繰り広げられるのが、この作品の一番の特徴。

 最終的には、依頼が成し遂げられれば、誰が殺害したのか? とかは、いいじゃないかと思われるのだが、そこに論理的な推理を試みようとするところがこの作品の強み。しかも、その推理すべき論点が、読者の想像とはかけ離れたところからなされてゆくところに、奇抜さが感じられる。

 実は、この作品ちょっとした仕掛けを企てて、読者をかく乱しようとしている。その仕掛け自体、どうでもいいといえば、どうでもいいのだが、それがこの著者ならではのこだわり。その仕掛けをうまく利用して、一風変わった論理的な推理へと展開させてゆくのである。このへんが、良い意味で“バカミス”道を貫いているなと感心させられてしまう。予想だにしない(どうでもいい設定だとは言わずに、温かい目で見守るべし)状況下を利用しての、“霞流一”流・推理絵巻、是非とも堪能してもらいたい。


奇動捜査ウルフォース   6.5点

2013年11月 祥伝社 ノン・ノベル

<内容>
 伝説の演歌歌手、月我峰貴雄をたたえる記念館のスタッフが殺害された。しかも、マンションの6階から突き落とされた挙句、死体には多くの無残な傷跡が! 動機も不明ながら、殺害方法も不明。さらに犯人は月我峰貴雄・記念館の関係者を襲い、事態は連続殺人事件へと発展する。事件を捜査するのは機動捜査隊の災厄コンビと恐れられる木羽と花倉。違法改造を施した覆面パトカーを駆使して、執拗な犯人捜査が開始される!!

<感想>
「スパイダーZ」や「夕陽にかえる」といい、最近の霞氏の作風はバイオレンスアクション系ミステリに傾き始めたのかなと。ただ、その中身はいつもながらのバカミス満載で、霞氏ファンであれば楽しめる内容。

 伝説の演歌歌手、月我峰貴雄の記念館を中心として起こる数々の事件。その月我峰自体はすでに亡くなっているので、残された者たちの利権争いが焦点となる。ただ、そうした犯人たちの思惑や陰謀など、なんのその。二人の機動捜査隊の刑事、キバとハナが改造パトカーを駆使して縦横無尽に暴れまわる。

 今作は、その内容よりも改造パトカーに搭載された武器の数々に目を惹かれる。なんとなく、秘密兵器っぽい名前を付けておきながらも、詳しく解説されるとショボイ武器のように思えてしまうのはご愛嬌。ただ、そうした武器をいくつも搭載し、犯人らしき者たちとカーチェイスを繰り広げるところが圧巻。むしろこの作品こそ映像化してくれと言いたくなってしまう。

 犯人特定に関しては、登場人物が多すぎるせいか、ごたごたした感じは否めない。とかいいつつ、そうした表向きの真相とは別に、読者が全く見向きもしないようなところに、意外というか変な真相を塗りこめている。これこそが霞氏の真骨頂。

 いつもながらの、本格ミステリらしくない作風で、本格ミステリを堪能させてくれる怪作。また、これならシリーズ化してくれても面白そうだなと思える作品でもあった。


フライプレイ!   6.5点

2014年10月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 ミステリ作家・神岡桐仁が人気絶頂時に買った別荘、元は“冠の館”と言われていたが、現在は“冠缶館(かんかんかん)”などと呼ばれている。もはや本宅も売り払い、売れない作家となった神岡は編集者・竹之内里子の見張りの元に館にカンヅメとなっていた。そんな折、神岡と婚約しているという黒井真梨亜が訪ねてくる。神岡は黒井と言い争いになる中、誤って黒井を殺害してしまう。途方にくれる神岡と竹之内であったが、二人はなんと死体に対して本格ミステリらしい装飾をするべきだと言い始め・・・・・・

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<感想>
 始まりからは予想することのできない、どんでん返しと推理の応酬が続く、トンデモ系ミステリ。戯曲作品で、ひとつの舞台のなかで内容がどんどんと移り変わり、予想だにしない展開で終盤へとなだれ込んでいくという作品があるが、それに近い内容の作品。

 限られた登場人物で、よくぞこれだけのミステリを描けるものだなと感心させられる。最初は単なる冗談の連鎖が続くような作品かと思いきや、途中からは各登場人物の推理の応酬となり、さらに最終的に明らかとなる真相から、不気味な幕引きまでと完璧に近いような作品であった。これはなかなか、他では見ることのできない類のミステリ作品であり、本格ミステリというジャンルとしても十分完成されていると言えよう。

 個人的に気になったのは、全体的な物語のノリについて。やや、ふざけすぎるというか、余計な言葉の応酬が多いように思え、それがミステリ劇というよりも、悪ふざけのような印象が強くなってしまっている。霞氏描く作品ゆえに、こういった展開、こういった作風になるのは仕方がないとは思えるものの、もうちょっと真面目な展開でもよかったのではなかろうか。そうすれば、ページ数を割くことができて、濃い舞台劇系のミステリ作品として、より完成度が高くなったように思えてならない。ただ、展開からして悪ふざけでもなければ、やってられないという風にもとることができるので、どちらが良いとは一概にはいえないところか。この辺は、個人の好みというところで。


独捜! 警視庁愉快犯対策ファイル   6点

2016年12月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 警視庁で曲者たちばかりが集められた独立捜査研究室・通称“独捜”。そのなかで第二班は愉快犯を専門とする部署。桐井明久と光弓真奈は、公園で安っぽいものがベンチやジャングルジムなどにチェーンでつながれているという異様な現場へと赴く。実はこれに似たような事件が都内各所で発生しているのである。とはいえ、たいした被害があるわけではないので“独捜”が捜査しているのだが。二人が事件を調べていくうちに、デザイン工房で起きた殺人事件にたどり着く。それは、密室で起きた殺人事件であり・・・・・・

<感想>
 最近の霞氏の作品って、シリーズ化しそうな設定のわりには、結局のその作品一本きりというものが多い。今作でもそうなのだが、せっかくこのように“独捜”というような設定を作ったならば、それを元に数作、書き上げてもよいと思われるのだが。

 ただ、今回の設定、メインとなる主人公二人のうち、光弓という女性刑事については細かい設定がなされているのだが、それに対して桐井という男性刑事が全くの無個性。これは、もうちょっと何らかの設定を加えても良かったのではなかろうか(むしろ、桐井の方が名推理を繰り広げるとか)。

 今作は、安っぽい商品がジャングルジムなどの公園内の設備にチェーンでつながれているのが発見されるという現場から始まる。この辺は、昔の霞氏の作品をほうふつさせて、懐かしさを感じてしまう。ただ、こうした愉快犯の部分はサブパートとなり、メインとして語られるのは、デザイン工房で起きた殺人事件のほうとなる。

 しかもこの殺人事件、密室で起きたものとなっており、本格ミステリファンの心をゆさぶるものとなっている。そして解決も、なかなか悪くなく、それなりにうまく密室を構成していたと感心させられるできであった。全体的に霞氏いつもの作品らしくよく出来ていたが、ページ数が薄めの作品であり、かなり軽めの作品となってしまったという印象。それでも、本格ミステリらしさを十分に堪能できる作品だと感じさせるものとなっている。


パズラクション   6.5点

2018年08月 原書房 ミステリー・リーグ

<内容>
 法では裁ききれない者たちに罪をきせ、真犯人として提供し、悪の巣窟を壊滅させる者達。殺し屋の和戸、警官の宝結、料亭を営む知恵ヒメの三人。彼らは食品会社の汚職にまつわる者達を“血裁”しようと“死ゴト”を始める。しかし、和戸がターゲットを殺害しようとした矢先、何者かに先にターゲットを殺されてしまう。その後、さらなるターゲットを和戸が手にかけてゆくものの、その先々で思いもよらないトラブルに見舞われ、とてつもない殺人現場が仕立てられてしまう。果たして、宝結はこれら事件にどのような結末をつけるのか!?

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<感想>
 趣向が面白い。普通に読んでいると、あまり通常の霞氏描く他のミステリ作品と変わらないのだが、実は今までの霞氏の作品を逆手にとったかのような、まるでアンチ・ミステリのような作品が仕立てられている。

 今までの霞氏の作品を読んでいると、それは見立てとして強引ではないかとか、死体の装飾がやり過ぎではないかとか、もしくはそんな犯行現場が成り立つのかなど、そんな感想を抱いた人は結構いると思える。まぁ、そういった普通ではありえない状況を描くこそが“バカミス”製造家の持ち味とも言え、それを楽しんで読む人も数多くいるであろう。しかし、今作ではそういった好意的な意見はをよそに、あえて妙な殺人現場を作成する必要性を訴えるかのようなものとなっているのである。

 如何に妙な殺人現場であろうと、殺し屋が普通に殺したつもりが、ハプニングでそんな風になってしまったのだから仕方がない。そして、他人に罪をきせるために、必要以上の装飾を施し、強引な見立てを仕立て上げるのも当然のこと。そして、悪人たちを追い詰め、彼らが犯人であるという証拠をでっちあげ、一網打尽にしてしまうというトンデモない作品。

 まぁ、ミステリ的な完成度云々は抜きにして、そのように仕立て上げたのだからしょうがないと、開き直ったかのような疑似ミステリともいえる内容が心憎い。これはまさしく、霞氏ゆえに完成させることができるトンデモ系ミステリと言えるであろう。




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