加賀美雅之  作品別 内容・感想

双月城の惨劇   7点

2002年04月 光文社 カッパ・ノベルス(KAPPA-ONE 登竜門)

<内容>
 パリ警察が誇る名予審判事、シャルル・ベルトラン。悪魔的推理力を誇る彼に、ライン川流域の古城「双月城」で起きたある事件の捜査依頼が。不気味な伝説を持つこの城はカレンとマリア、双子の姉妹が城主をつとめていた。ベルトランが城を訪ねる直前、密室であった城内の「満月の部屋」で、首と両手首を切り取られた無惨な死体が発見された! 死体はカレンかマリア、どちらかのもの・・・・・・。ベルトランの好敵手、ベルリン警察のストロハイム男爵も登場し、熾烈な推理合戦のなか、新たな惨劇が!!

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<感想>
 見事な本格コード満載の小説である。私を含めた多くの人がこのような本格推理小説を読みたいと思っているのではないだろうか。

 舞台は外国であり、いわくつきの古城、双子の姉妹、跳梁跋扈する過去の亡霊、密室殺人、切り取られた遺体、対決する二人の探偵、等々。と、これだけ一冊に満載されれば言うことはない。また、雰囲気がディクスン・カー初期の作品を思わせるもので、(あとがきにも書かれいるが)まさにバンコランそのものが現われたかのような探偵。見事怪奇的な作風をかもしだしている。

 内容も連続殺人を見事にまとめあげており、完成度はかなり高い。細部において伏線やつじつまが合わされていてよく考えられていると感心するほかない。ただ、できが良すぎるせいか犯人がわかり易くなってしまったというのは皮肉な点であろう。

 長編処女作であるからしてこれで十分であろうが、不満をいうならばインパクトに欠ける点であろう。解決を読んでも、なるほどとは思うのだが驚愕まではしなかった。これは同じような舞台を描いた小説で二階堂黎人氏の「人狼城」が先に存在するせいもあるかもしれない。細部はもちろん似ていないものの、背景においてここまで類似する部分があるならばやはり前に出版されているものを超えなければ読者としては驚きが少なくなるのは当然であろう。

 しかし、こういった作品を私は常に熱望しているので、加賀美氏には時間がかかってもかまわないのでこれを超える作品を描いてもらいたいものである。


監獄島   7.5点

2004年08月 光文社 カッパ・ノベルス(上下)

<内容>
 パリ警察の予審判事シャルル・ベルトランは警視庁総監のイーグルロッシュ伯爵から孤島にそびえるタントワーヌ刑務所にて大掛かりな陰謀が進行していると告げられる。その刑務所には、かつてベルトランと死闘をくりひろげた大怪盗アレクセイ・ボールドウィンが収監されているのであった。不穏なものを感じ取ったベルトランはイーグルロッシュ伯爵らとタントワーヌ刑務所へと向かうことに。そして彼等が島に到着し、捜査を始めた途端に奇怪な殺人事件が次々と起き始めた。
 繰り返される不可能殺人! 見え隠れする謎の怪人物の正体は? そしてこの惨劇の裏に隠されたものとはいったい!?

<感想>
 いや、久々に本格ミステリらしいといえるミステリを夢中になって読んだという気がする。やはり自分が読みたいものはこのような本格推理小説であり、決して本格推理小説が21世紀においてついえたわけでも色あせたわけでもないという事を再認識させてくれた本であった。

 なんといっても、孤島に限られた人々が集まり、その中で次々と不可能犯罪が起きていくという設定が良い。また、うまく書いているなと感心したのは登場人物を悪戯に増やさなかったこと。本書は刑務所という多くの人々が介在する設定にも関わらず、主要登場人物を絞って展開されたという点が、読んでいるほうにとってはわかりやすくてよかったと感じられた。そして次々と起こる犯罪の裏にいったいどのような謎が隠されているのかと、ドキドキさせながら読者を引き込む展開はなんともいえないものを味あわせてくれるようになっている。こんな長い小説にも関わらず、あっという間に上巻を読み終わり、待ちきれずに下巻へと突入していってしまった。そしてまた、読んでいるうちにわかるようになってくる、“序章に代わる七つの断章”というオープニングはなかなか効果的だったということも付け加えておきたい。

 と、褒めちぎりっぱなしになってしまったがでは読み終わってどう感じたかといえば、少しわかり易すぎたかなという感じであった。丁寧に張られた伏線や、いかにもといわんばかりの罠、なんとなく予想がついてしまうトリックと、物語の中のいくつかの謎はなんとなく予想がついてしまった。また、いくつかの犯罪において偶然性による出来事が介在しているという点に納得いかないと感じられた部分もあった。

 とはいっても全体像まで予想がついたわけでなく、解答編を読んだときにはこんな細かいところまでが伏線になっていたのかと感心させられたということも事実である。

 作中で語り手が言っていたように、本書では大掛かりなトリックが用いられるようなものではなかった。しかし、その裏にひそむ犯人の計画性、またはいくつかの思惑が重なり合うことによって出来上がった一つの大きな犯罪劇とうものに感心し瞠目することができる内容となっている。

 何はともあれ、読んだ後は満足感にひたることのできる本格ミステリであった。ミステリファン必見の1冊と自身をもって語ることのできる本である。


風果つる館の殺人   6.5点

2006年08月 光文社 カッパ・ノベルス

<内容>
「監獄島」の事件による傷も癒えたばかりのパトリック・スミス青年であったが、婚約者のメアリー・ケリイに請われて、彼女の実家へと一緒に出向く事になる。メアリーは幼い頃、富豪である鉱山主のケリイ家に養女として迎えられた。そのケリイ家の実権を握る祖母のイングリット・ケリイが亡くなったというのである。メアリーの実家となるケリイ家は“風果つる館”といわれ、敷地内に迷路がつくられている広大な屋敷であった。そして、その屋敷では過去に謎の殺人事件が起こったという曰くつきの屋敷。イングリットが亡くなったことにより、財産はケリイ家3人の娘に譲られることになるだろうと誰もが考えていた。しかし、イングリットは娘3人に対して、とてつもない遺言を残していたのである。そして、その遺言が明らかにされた事によって、惨劇の幕が開かれる事に・・・・・・

<感想>
「監獄島」に続く三作目であるが、今回も600ページの大作となっており、購入するとき、そのページの厚さに驚かされた。

 今作では、謎のひしめく館の中で、遺産相続を巡る連続殺人事件が繰り広げられるという内容になっている。

 本書の感想はといえば、物語がよくできているということが一番であろう。特に前半で、当主の遺産相続の内容が明らかになったところが一番の盛り上がりを見せる場面であると言って良いかもしれない。それほど異様な相続内容と、浮き彫りにされる館に住む人々の異様な関係。この物語を盛り上げんばかりの舞台設定には本格スピリットがあふれており、その後の展開を期待せずにはいられなくなるものとなっている。

 ただ、ミステリーとしてのできは今ひとつであったように思われる。数多くの不可解な事件が起こるものの、それが暴かれてみれば、意外と平凡な方法が使われており、特に目新しいと感じられたものはなかった。また、最初に起きる首吊り事件では、その方法が明かされても、なんでそのような結果になるのかが分かりづらく感じられた。

 ただ、2番目の迷路の中の殺人では、手段はともかくとして、心理的なトリックによって犯行をややこしくさせるという試みは当たっていたのではないかと思われる。

 また、犯人の特定にしても推測の域を超えていなかったように感じられた。様々な動機があるからこそ、誰が犯人でもおかしくない状況であり、他の者が犯人であるとしてもそれ相応の理由をつければ犯人として違和感はないかもしれない。

 ただし、本書の解決だけをのっとって考えてみれば、うまくできていると感じられ、見事に一連の事件を解き明かしているということは間違いない。

 以上のことがらから感想をまとめてみれば、遺産相続を巡る中での登場人物たちのそれぞれの感情を描きり、見事なひとつの物語が作り上げられた作品、という見方が一番良いのではなかろうか。


縛り首の塔の館   シャルル・ベルトランの事件簿   7.5点

2011年03月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「縛り首の塔の館」
 「人狼の影」
 「白魔の囁き」
 「吸血鬼の塔」
 「妖女の島」

<感想>
 今年のNo.1本格ミステリ作品は、これに決まり!! と、言いたくなるほどの出来栄え。正面から本格ミステリしていて実に良い。近年、あまり書かれなくなった純正の本格ミステリを味わえる作品集となっている。

「縛り首の塔の館」
 幽体離脱をして、離れたところにいる相手に傷を負わせると明言した心霊術者。そして結果は、衆人環視のなかで心霊術者がいつの間に銃殺されており(しかも鎧の内側で)、離れたところにいた相手もまるで心霊術者の手にかかって殺害されたかのような奇怪な状況。
 こうした不可解な謎が理論的に説かれてゆく。確かに説かれてみれば、なるほどと思えるのだが、解答が与えられる前は全く見当がつかない不可思議なもの。よくぞ、こんな状況とトリックの複合を考えついたなと感心しきり。本書のなかのベストとなる作品であった。

「人狼の影」
 連続殺人鬼“人狼”の手によって、また惨劇が起きた。公爵の妻が、首なしの死体となって発見されたのだ。しかし、ベルトランはこの状況を見て、人狼の正体と真相を暴く。
 これは、背景となる事件が有名なものであることから、なんとなく全容を想像することができた。とはいえ、切り裂きジャック風の事件をうまく活用しており、怪奇色が出ていて読み応えのある内容。

「白魔の囁き」
 カナダに伝わる謎の怪物ウェンディゴにまつわる怪事件。足跡がない状況での不可解な殺人事件が次々と起こる。
 屋敷の見取り図があるのだが、ややその図がわかりにくかった。とはいえ、この図が分かりやす過ぎると真相に到達し易くなってしまうからいたしかたないか。面白いトリックを使って、不可能犯罪を見事に成功させている。

「吸血鬼の塔」
 吸血鬼と噂される女と、塔からの不可解な飛び降り事件。両者には何らかの関係があるのか。奇怪な背景のなかで起きた事件の真相をベルトランが暴く。
 既出のトリックばかりなのであるが、それをうまく組み合わせて一つの作品に仕立てている。ただ、そのうちの一つは、ちょっと無茶なのではとも感じられた。著者いわく、カーの「囁く影」に挑戦した作品とのこと。

「妖女の島」
 部屋の中で起きた殺人事件。犯行が起こっているときに謎の人物がいたはずなのだが、扉をこじ開けてみると、そこには被害者の死体があるだけであった。誰も入ることのできない部屋でどのようにして事件が起こったのか。
 うまくできていると思える反面、事件が起きる前に、被害者が部屋の様子に気づかなかったことが疑問。その点を除けば、うまくできているトリックであると思われる。こちらもまた、カーの「火刑法廷」に挑戦した作品とのこと。




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