<内容>
オフィス街にある塚原ゴム研究所。そこで働く所員は日々、夜遅くまでの仕事を強いられていた。そうしたなか、ひとりの研究員が椅子が壊れたことにより、ちょっとした怪我を負ってしまう。その後、そのときの怪我が労災に認定されることとなり、労働基準監督署による臨検が入ることとなった。あわてて、その臨検を迎えようと対処する所員たち。そんななか、倉庫でひとりの研究員の死体を発見することとなってしまい・・・・・・
<感想>
サービス残業、労災、労働基準監督署による立ち入りと、サラリーマンであれば気になるワードがたくさん出てくる内容。そうしたなか、石持氏の作品であれば当然のごとく死体までもが現れる。
正直なところ、ミステリとしてどうなのかと思えてならない。むしろ、死体の存在が邪魔なくらいで、労災小説のみでも話が成立するのではと。もしくは、この設定の中で死体を出さないミステリを描いたほうが面白かったのではないかと感じられてならない。
その死体の処遇を巡って、後半に研究所の所員たちと労働基準監督署の署員との話し合いがもたれるのであるが、これがどうにも不自然。ここは、労働基準監督署がしゃしゃり出てきても不自然にならないような案件で勝負すべきであったのではなかろうか。設定は面白かったゆえに、なんとなく残念に思えてしまった作品。
<内容>
「赤信号」
「夏休み」
「彼女の朝」
「握られた手」
「夢に向かって」
「災い転じて」
「優佳と、わたしの未来」
<感想>
シリーズ探偵・・・・・・という気はまるでしないのだが、石持氏の(ノン・ノベル)作品に何度か登場している碓氷優佳という女性。彼女の高校生時代を描いた連作短編集。
“学園モノ”という感じで、気楽に読めるスタンスと、あっさり目の内容が良い。特に殺人事件などが起こるわけでもないので、石持作品としては、精神的にもかなりライトな感触。
最初の「赤信号」などは、都市伝説めいた学校の噂話の真相を解くという内容で、なかなかおもしろかった。他の作品も、学校内で起こるちょっとした謎や疑問に碓氷優佳が解決をつけてゆく。
ラストの後味の悪さは、如何ほどのものかと思いつつも、その後の碓氷優佳の生き方を示唆しているようで、これはこれでありなのかなと。
<内容>
「宙の鳥籠」
「転 校」
「壁の穴」
「院長室」
「ご自由にお使いください」
「心中少女」
「黒い方程式」
「三階に止まる」
<感想>
帯に著者初の短編集と書いてあるのだが、そうだっけ? 確かに連作短編集が多いので、純然たる短編集というものが少ない気がする。PHPから出ていた「賢者の贈り物」あたりは、短編集という位置づけであったような気がするのだが・・・・・・。ただ、今回のラインナップを見ると、著者がデビューしてすぐの2003年から最近までの色々な短編が集められていて、今まで単行本化されていない作品が盛り沢山。
石持氏の刊行作品が多すぎて、そろそろ買うのをどうするかとも思ったのだが、既読である表題作品「三階に止まる」がお気に入りの作品であるので、つい購入してしまった。エレベータが何故か三階に必ず止まるというホラー系の作品なのだが、謎の提示といい、まとめかたといい、実にうまくできている。後をひく、ラストの一言も見事。
その他にも石持氏らしい独特の道徳観や感情を入り混じらせた作品が満載。
初期の作品である「宙の鳥籠」なんかは、特に“らしさ”が感じられる。観覧車のなかで男女二人が過去の事件について言及する。
「壁の穴」は、学校で殺人事件が起きたのだが、被害者は覗きの最中に殺害されたと考えられる。その被害者の名誉を守ろうとする話であるが、石持作品としてはライト系。普通の学園ミステリという感じ。
「院長室」は、「EDS 緊急推理解決院」という企画の中の一作。中編といってもよい長さであるが、これが感情的に一番理解できない作品。でも、そういった感想があがるのも、これはこれで著者らしいと言える。何も脅迫などしなくても、普通に会話すれば済むのでは? と思わずにはいられなかった。
また、「黒い方程式」などは困惑してしまうぐらい突飛な作品。普通の主婦がゴキブリを退治しようとしただけで、とんでもない展開が待ち受ける。ラストまで息を抜けない物語。
<内容>
「一歩ずつ進む」
「二歩前を歩く」
「四方八方」
「五ヵ月前から」
「ナナカマド」
「九尾の狐」
<感想>
昨年出版した短編集の中の一編、「三階に止まる」のようなホラーテイストにより味付けした作品を集めた短編集。謎を解く人物は全て一緒で、研究所で働く小泉青年。
「一歩ずつ進む」は、家のなかのスリッパが少しずつ進む怪。
「二歩前を歩く」は、人に避けられる男の謎に迫る。
「四方八方」は、恋人を亡くした男の奇行を描く。
「五ヵ月前から」は、家に帰ると何故か照明が点灯しているという怪異。
「ナナカマド」は、車のガソリンが勝手に増えているという謎。
「九尾の狐」は、同僚の動くポニーテールの謎に迫る。
最初の「一歩ずつ進む」は、なかなかホラーテイストが濃い作品で、怪談と言ってもよいものであるが、当事者であればその理由に当然のごとく気づくのではないかと。「四方八方」あたりが、捻りが効いていて面白かった。また、「五ヵ月前から」と「ナナカマド」は、結末に至るまでの物語が良く出来ていると思わされた。
なかなか面白い趣向の作品群であったなと。ひょっとすると、石持氏は今後こういった作風のものが増えるのではないかと感じさせられた。こういったネタで書かれる長編なんかは出るのかな? と、期待してみたい。
<内容>
かつて星川安弘という男がおり、精密機器会社の営業部長であったが、不思議なカリスマ性があり、彼に関わった者はその性格に魅入られた。そして、星川を中心とした小さなコミュニティができ、彼を師と仰ぐ者たちは自ら門下生と名乗り、互いに交流を深めていった。しかし、その星川は病により亡くなってしまう。その後、門下生たちは互いに星川の遺児を囲おうと謀略を巡らせる。それでも星川の意志を継ぐという元に結束をはかっていたのだが、とうとうそれを乱す事件が起こることとなり・・・・・・
<感想>
上記のように内容を書いたのだが、それだけ見ると新興宗教の話のように感じられてしまうかもしれないが、ここで語られているのはあくまでも町内での寄合レベルの話なのである。もう一歩足を踏み出せば、新興宗教的な色合いになってしまうのを、それを踏みとどまって、地域コミュニティレベルでの話として語っているのがこの作品の特徴。
どちらかというと謀略小説というよりは、ママ友同士の覇権争いレベルのほうが近いかもしれない。厳密にいえばママ友レベルともまた違うのだが、そのような一般人の寄合のなかで派生していった事件を描いている。ただし、そこに非現実的な設定(SF的ともいえる)を用いているのもまた特徴。
現実めいた町内会の寄合のなかで、謀略が繰り広げられるという内容が新鮮で面白と感じられた。主婦層のみならず、男たちも加わっての謀略故に、単なる井戸端会議レベルに落ちるかないところも魅力的。そこに突出した才能を持った人物が登場し、場を収めてしまうのはやや興ざめのようにも思えるのだが、その後の展開を予想させるという余韻もうまく残している。
ミステリとして云々というよりは、変わった設定を用いつつ、うまく作品を作り上げたなと感心させられた。そのような設定を作り上げた故に、ごく普通の住宅街で謀略や推理が違和感なく繰り広げられている。石持氏の最近の長編のなかでは久々に強く印象に残った作品であった。
<内容>
「待っている間に」
「相互確証破壊」
「三百メートル先から」
「見下ろす部屋」
「カントリー・ロード」
「男の子みたいに」
<感想>
基本的にはいつもの石持氏の短編集と変わらないのだが、今作はそこにエロスを加えた内容の作品集。分量的には、通常の短編と同じくらいなのだが、そこにセックス描写が挿入されることにより、ミステリとしての全体的な分量は少なくなったような気がする。ただ、それでもミステリ作品として薄まったという気にはならなかったのが不思議なところ。
「待っている間に」は、のっけから強烈な作品を出してきたなと感心させられたが、本書のなかでもこれが一番の出来であったかなと。とある理由から集まることとなった6人の男女(男3、女3)。それが密室に近いような状況で男が次々と殺されていくというもの。残酷なロジックというか、残酷な女のロジックが光る作品。そして、確かにこの不可能犯罪を成しえるには、このような結末しかないなと痛感させられる。
これ以降の作品からは、徐々にミステリというよりも、ホラー色の方が強まっていったと感じられた。
「相互確証破壊」は、セックス行為をビデオに撮り続ける男の真意に迫る。
「三百メートル先から」は、引きこもりの一般人が家でライフルにより狙撃されるというショッキングな事件を扱う。
「見下ろす部屋」は、不倫の成れの果てを描いた作品。
「カントリー・ロード」は、カップルによる謎のドライブの様子を描く。
「男の子みたいに」は、女を男装させて行為にふける男の性癖と真意を暴く。
一般人が狙撃される謎を描いた「三百メートル先から」は、題材が石持氏らしくて、なかなかのもの。ただ、ロジックというよりは、謀略的なストーリー性のほうが強い話となってしまっている。
その他も色々とあるのだが、いつもの石持氏の短編集同様に、後半になるとややネタに尽きてきたような感じになってしまっている。最初面白くて段々と尻つぼみというところがもったいないのだが、短いスパンでこれだけの作品を書いていればしょうがないことなのか。
<内容>
大ヒットアニメーションの舞台となった本郷島。そこにアニメーションの愛好家である5人が島へとやってきた。彼らは島の人たちと協力し、イベントを開催しようと企画していた。しかし、島にはイベントに反対する者もいて、今後具体的にどのように活動するかを決めようとしていたのであった。その矢先、アニメの主人公のフィギアが壊されているのが発見され、さらに翌日は愛好家のうちのひとりが死亡するという事件が起きてしまう。“身代わり島”という伝説を持つ島で、いったい何が起きたというのか?
<感想>
文庫書下ろしの作品。アニメーション映画の愛好家たちが集まった島にて、殺人事件が起こるというもの。一種の見立て的な犯罪がなされるのだが、それに反論する推理が光る内容。
と、感想が以上で簡単に終わってしまった。石持氏の作品でよく出てくるタイプの探偵が、いつもの作品のように冷静に犯罪を解き明かすというもの。登場人物であるアニメーション映画の愛好家たちは物語上、盛り上がっていたのだが、ミステリ小説としてはさほど盛り上がりを見せず、スピーディーにあっさりと終幕してしまったなという感じ。
<内容>
コーヒー専門店「ペーパー・ムーン」の看板娘である百代は、ゲリラ豪雨により命を落とした恋人の復讐の為にとある行動にでることにした。その行動の準備を手伝った常連客たち5人は、自らを“五人委員会”と名乗る。百代は行動に出るべく、皆に別れを告げ、店を出る。その後、五人委員会の一人が欠けていることに不審を抱き、欠席者のもとへと残り4人が訪ねると、死体を発見することとなる。不穏なものを感じた4人は百代の計画を中止させようと、現場へとおもむくのであったが・・・・・・
<感想>
今年一番、インパクトが強かった本と言ってもよいかもしれない。無差別テロを描いた作品であるのだが、それを主に実行犯側の視点から書き上げたテロ・シミュレーション小説ともいえるべきものとなっている。
序盤はミステリ的な展開で始まるものの、途中からは一切何も受け付けないと言わんばかりのテロ行為が繰り広げられる。主に主犯側の視点から描かれているものの、その他の人々の様子も描かれており、ある種の群像小説と言っても良い構成となっている。大規模ショッピングセンターにおける警備員、客として訪れたさまざまな人、事件後テロ行為を止めようと奔走する人たち。テロ小説、シミュレーション小説のみならず、パニック・ホラーともいえる側面も持ち合わせている。
テロ実行犯は、何故にショッピングセンターでテロ行為を犯さなければならなかったのか? とか、テロを起こしたのちにどのように終止符を打つつもりなのか? とか、ミステリ的な部分とか、謎とか、さまざまな要素が加えられているものの、ただただ、そこで起こる行為に目をくぎ付けにされるのみ。“凪の司祭”などとおとなしめなタイトルが付けられているものの、実際には“殺戮の邪神”とでもいうべき姿が描かれている。
本書に書かれていることがそのまま現実世界に当てはまるという事はないであろうが、たった一つの狂気により、このような大惨事が繰り広げられることになってもおかしくないということを示唆しているよう。さらには、予想外のテロ行為による警備体制・防犯体制の間隙を示した作品という見方もできるのかもしれない。現状ではさほど話題になっていないかもしれないが、何かで取り上げられれば問題作として提起されそうな作品。
<内容>
「友人と、その恋人」
「はじめての一人旅」
「徘徊と彷徨」
「懐かしい友だち」
「待ち人来たらず」
「今度こそ、さよなら」
<感想>
連作短編のようでもあるが、あくまでも舞台となる館とそこに住む人が同じというだけで、それぞれの話は独立している。業を負った者が訪れる館での出来事を描いた作品。
札幌にある、とある館に色々な人が集まってくるのだが、それぞれが何かを抱えた者達。その彼らの秘密をそこに住む北良という青年が暴き出す。ただこれが、あくまでも暴き出すだけで何かをするというものではない。最初の話では酔いつぶれた友人を介抱していた婚約者ともうひとりの男の3人がその館で厄介になることとなる。そこでとある真実が暴き出されたとき、その後この館に彼らが住むことになることとなるのかなと思いきや、そういう流れではなかった。
この館には、主人とその妻、中学生の娘、居候の青年、執事と家政婦と6人のレギュラーキャラクターが住んでいる。彼らも業を負って集まっているのかと思われるのだが、彼らの人生に対する言及はいっさいない。それならば、こんなにレギュラーキャラクターを出さなくてもいいのではないかと思われた。
徘徊の末この家にたどり着いた中年男性の行く末を描く「徘徊と彷徨」が後味が悪すぎて印象的。婚約者から待ちぼうけをくらった青年の話を描く「待ち人来たらず」は飛躍する論理と意外性のある結末を楽しめる。
非常に読みやすい作品であったのだが、ある種の“人生相談”のような感じであり、それのみで終わってしまうというのが未消化と感じられた。彼らのその後に関しても、もう少し描いてくれてもよかったのではなかろうか。
<内容>
「女性警官の嗅覚」
「少女のために」
「パレードの明暗」
「アトリエのある家」
「お見合い大作戦」
「キルト地のバッグ」
「F1に乗ったレミング」
<感想>
機動隊に所属する新人女性警察官・南谷結月巡査。上司は彼女の行く末を心配し、ある人に相談する。その相談主とは、警視庁No.3の大迫警視長であり、南谷は大迫警視長と、その友人で一般人ながらハイジャック事件で活躍した座間味くんと呼ばれる男性との3人で度々食事をすることとなる。その際に、必ず最近起きた事件のことが取り上げられ・・・・・・
このようなパターンで7つの話が繰り広げられる。どの作品も30ページ前後であり、内容は薄い。ただ、その食事の席で取り上げられる事件が、実際に解決したものについて話し合われるものの、その裏に潜む真相を座間くんが推理するものとなっている。
“推理”といいつつも、実際には推測に過ぎないような。そこで話題になったものが後に検証されるわけではないので、推測というか、場合によっては言わなくてもよいような蛇足と感じられるものもある。ただ、ここで取り上げられる事件を通して、広い視野で事件を見通してほしいという南谷巡査に対する二人の男性の思いが込められているように思われる。また、ここで取り上げられている事件では、常に女性が優れた機転によってその場の状況をかえるものが取り上げられており、“女の怖さ”が表されているようでもある。いやいや、本当は女性の活躍を取り上げて南谷巡査にもがんばってもらいたいということなのだろうが。
「女性警官の嗅覚」 スーパーでの異常事態に気づいた女性警官がとった行動。
「少女のために」 子供を虐待している家に押し込んだ女性警官がとった行動。
「パレードの明暗」 パレードでのテロを防止した二人の行動はどちらが正しかったのか?
「アトリエのある家」 趣味で絵を描いていた夫が殺害され、犯人が逃げようとした矢先、妻が放った一言の意味は!?
「お見合い大作戦」 お見合いで行われた、とある駆け引き。
「キルト地のバッグ」 未然に防がれた、爆弾テロの真相とは?
「F1に乗ったレミング」 ゲリラ豪雨で水没した車を助けようとした女性警官の真意とは?
<内容>
「黒い水筒の女」
「紙おむつを買う男」
「同伴者」
「優柔不断な依頼人」
「吸血鬼が狙っている」
「標的はどっち?」
「狙われた殺し屋」
<感想>
“殺し”を650万円で引き受ける男の話。仲介役を介して、前金として300万、成功報酬として350万で仕事をこなす。仕事っぷりはプロらしいのだが、殺伐とした雰囲気の内容ではなく、どこにでもいそうなごく普通の男が殺し屋をやっているという感じ。
本書では、殺しの場面については、さほど強調せず、その前段においての殺し屋と仲介役との会話が主体となっている。よって、ローレンス・ブロックの殺し屋ケラーのシリーズを思い起こす。会話が基調の殺し屋連作集であり、なおかつ、いつもの石持氏の作品らしく推理が入ってくるという内容。
序盤は、殺しの標的となる者たちが、何故奇妙な行動をとるのかが論点となる。夜な夜な、深夜の公園で水筒の水を捨てる女。何故か、おむつを買う独身男。彼らが何故、そのような行動をとるのかを殺し屋は仕事をやり遂げる前に、推理をし、彼らの行動についてそれぞれ結論をつける。この推理は少々飛躍が過ぎていると考えられるものの、ただ、その推理を正しいと考えると、標的となった者たちが何故殺しを依頼されたのかが納得いくものとなっている。
最初の2編以降は、それぞれ趣向を変えて、読み手を飽きさせないよう工夫をしている。母親連れで殺しの相談に訪れる男。依頼を2度もキャンセルするもの。同姓同名の者がいることにより標的を迷う件。そしてとうとう、殺し屋自身が標的に!
と、色々な趣向で楽しませてくれる、殺し屋の日常(非日常?)が描かれた作品集。一風変わった殺し屋の矜持が現代風の作品という感じで面白い。
<内容>
赤垣真穂は学生時代のサークルの仲間の結婚式の二次会に呼ばれた。その二次会にサプライズゲストとして呼ばれたのは、かつての仲間であり疎遠になっていた熊木夏蓮であった。彼女は学生時代、サークル仲間のひとりと無理心中事件を起こし、その事件以降、皆の前から姿を消していたのだ。そうして久しぶりに再会し、翌日仲間内でまた会おうということになったのだが・・・・・・次の日、夏蓮が死体で発見されることに。過去の心中事件の真相とは? そして誰が彼女を殺害したのか!? 復讐の連鎖を防ぐべく、赤垣真穂の弁護士である叔父が“鎮憎師”と称される男を紹介し・・・・・・
<感想>
いつもどおりの石持氏による短編集かと思っていたら、今作は長編。ただ、いつも短編の分量でやっていることを無理やり長編にしたという風に感じられてしまった。過去に曰くのある事件を起こしている、かつての学生サークルの仲間が再開を果たした後、殺害されるという事件を扱っている。
途中で事件の推理というか推測がなされてゆくものの、捜査というパートがないゆえに、ずっと根拠の薄い推測が続けられてゆく。あと、元学生サークルの面々がそこそこの人数出てきているのだが、個性に乏しく、誰が誰だか判別を付けずらかったというのも困った点。
本書のポイントとしては憎しみの連鎖を断ち切る“鎮憎師”と呼ばれる人物を登場させているところ。ただ、この“鎮憎師”が効果的に使われているかというとそんな風にも思えず、単なる傍観者としか思えなかった。しかし、最後の最後になって、ようやくこの“鎮憎師”が存在感を見せることとなり、最終的には納得のいく結末を迎えるようになっている。ちょっと中盤の内容が薄かったような感じがしたものの、終わり良ければ総て良しということで。
<内容>
武田小春は15年ぶりにかつての親友・碓氷優佳と再会した。彼女らは予備校時代の仲良しグループの一員で、武田小春を含めた数人は恩師の真鍋を含めた交流を今でも続けていた。彼女らの仲間のうちの湯村勝治がロボット開発事業で成功したことを祝して、皆が集まることとなり、そこに久しぶりに碓氷優佳も参加することとなったのだ。ホテルの小会議室で、祝賀会は和やかに行われていたのだが、とある言葉をきっかけに参加者のひとりが突如ワインボトルで恩師の頭を殴りつけ・・・・・・
<感想>
うーん、ミステリというよりも、ディベートが行われているかのような小説。厳密にはディベートとも異なるのだけれども。
祝賀会の席で、出席者のひとりが突如、恩師をワインボトルで殴りつけるという凶行が起きる。その事態が片付いたのち、残された者たちは、何が行われたのかを話し合ってゆくこととなる。
ただ、事細かく何が行われたのかを話すというわけではなく、なんとなく昔の話を語りつつ、現状の話も踏まえつつと行ったり来たりの繰り返し。ただ、その会話の進行を二人の人物が握っていて、何かを隠していると思われる人物と、もうひとりの秘められたものを暴こうとする碓氷優佳との、遠回しな対決という風に捉えられるようになっている。
そんな形で、ディベートっぽくない進行でありながら、その背後に見え隠れするものは二人の対決という構図。とはいえ、基本的には同窓会的な会話が語られ続ける小説という感じでしかないようにも思われる。何が謎なのかということがあまり強調されていなく、結局は本書の変わったタイトルに秘められた意味を見出すのみという感じの作品。同窓会小説としては面白いかもしれないが、ミステリ的なものを期待すると微妙であるかなと。