<内容>
金に困っていた相葉時之は、悪徳業者を脅して金を奪い取ろうともくろむ。しかし、相手を間違え、外国人テロリストがからむ事件に巻き込まれ、殺人鬼から追われる羽目となる。一方、相葉と小学校時代に友人であった井ノ原悠は、子供の病気により彼も金に困っており、コピー業者という職種を活用し、違法のスパイ活動をしてお金を稼いでいた。あるとき井ノ原は昔の特撮ヒーロー“鳴神戦隊サンダーボルト”に関する情報を集めることを依頼される。そのサンダーボルトに関する件を調べていると、偶然にも相葉時之と遭遇し・・・・・・
<感想>
伊坂氏と阿部氏、共著の作品。私は伊坂氏の作品は読み続けているものの、阿部氏の作品については未読。ゆえに、共著と言われても、どこに阿部氏の要素が入っているのかはわからなかった。この作品を読んでみると、基本的には従来の伊坂氏の作品という印象のみが強かったが。
序盤はちょっと話がバタバタしていて読みづらかったような。ただ、話が進むにつれて主要人物が絞られ、落ち着いて読むことができるようになっていった。昔あこがれた特撮ヒーローの存在を背景とし、そこに謎の沼の水の存在、風土病、かつて軍が遺した秘密、何かを探す謎のテロリスト集団、といったものを絡めて物語を構成していくところは見事。
また、主人公らが何ら特殊技能のない、普通の人々というところも大きなポイント。そういった人々が大きな謎の勢力を相手取り、活躍するというところはお約束の物語であるとはいえ、楽しめた。追いかける謎が大きい割には、日常のほのぼのとした雰囲気も楽しめるというエンターテイメント作品に仕立て上げられている。
<内容>
日本に“平和警察”というものができ、彼らは魔女狩りのごとく次々と危険人物と危ぶまれるものを捕らえてゆく。そして仙台が安全地区に指定され、平和警察によって取り締まられることとなり、仙台では次々と罪のない人が捕らえられ、公開処刑されてゆくことに。そうしたなか、バイクに乗った全身黒ずくめの人物が現れ、窮地に陥った人々を助けてゆき・・・・・・
<感想>
タイトルからして気楽な内容の作品かと思いきや、読んでみると魔女狩りが横行する体制社会が描かれた小説であることに驚かされる。
特に前半部は、その体制社会について細かく描かれ、罪のない一般の市民に対して横暴な魔女狩りのような弾圧が行われ、さらには公開処刑へまでと発展する。その前半部は読んでいて、嫌な気持ちになってしまうのだが、中盤以降になるとその体制に反抗するひとりのヒーローが現れ、徐々に読みやすくなってくる。
ただし、本書は決して単純なヒーロー物語ではない。実際に、物語の後半で男が何故ヒーローのような行為を行うことになったのかが、描かれてゆくこととなる。この作品は、そのヒーロー行為にどうこうとか、正義とはどういうものだとか、実はそういったものを訴えるものではないようなのである。
そうして物語の最後に、とある登場人物によりこの作品の本質が述べられる。それは、我々が現実に生きている世界にも当てはめられるものであり、もし今の世が生きずらい社会であると感じている人には是非とも一読してもらいたい内容となっている。
<内容>
「浜田青年ホントスカ」
「ギア」
「二月下旬から三月上旬」
「if」
「一人では無理がある」
「彗星さんたち」
「後ろの声がうるさい」
<感想>
単行本未収録作品を集めた短編集。最後の「後ろの声がうるさい」のみ書下ろし。バラバラに集められた作品ばかりのわりには、全体的に統一感を持っているように感じられた。また、最後の書下ろし作品により、全体をまとめるかのように幕を引く、強引な力技っぷりもよい。
それぞれの短編に統一テーマとして感じられたのは“カオスっぷり”。一見、普通の短編に見えても、どこか突き抜けてしまうという荒業が光っている。
「浜田青年ホントスカ」は、東京創元社の“蒲倉市”という統一背景のなかで多数の作家によって色々な作品が書かれたうちのひとつ。今回唯一の既読作品。単なるロードノベルかと思いきや、相談屋から派生するラストの急展開に驚かされる。
「ギア」は、理由も説明もなく、バスの中の乗客が追い詰められているなかでの会話を描くという、最もカオスな内容。セミンゴという架空の生き物についての言及がさらなる混沌をあおりだす。
「二月下旬から三月上旬」は、一人の男の人生を描いた作品なのであるが、これが事実と想像の狭間を行き来し、精神的にふらふらとしたところを彷徨い歩くような内容。普通に書けば、わりと良い話のようにも思えるのだが、そこをあえて不安定に描き出しているような。
「if」はバスジャックが起きる中での一コマが描かれた作品なのだが、乗客たちの葛藤や悩みにスポットが当てられた作品といってよいであろう。その、ため込まれた思いがラストに思わぬ形で吐き出される。
「一人では無理がある」は、サンタクロース株式会社の話。その設定だけで十分カオス。さらには、“鉄板”や“+ドライバー”などの謎の贈り物が意味するものが秀逸。
「彗星さんたち」は、新幹線の車内清掃をする人たちの様子を描き上げた作品。これは普通の小説だなと読んでいると、思わぬ展開が待ち受けることに。ちょっとしたSF的な展開がなされるものの、登場人物の全てがその出来事を素直に受け入れるところが感動をさそう。
「後ろの声がうるさい」は、新幹線車内の後ろの席での会話を聞きつけるというもの。偶然出会った二人の男のはずが、実はそこには隠れ潜む意味が・・・・・・という内容。さらには、前述の短編に登場した人たちがそれぞれ軽く登場。
<内容>
成瀬、久遠、雪子、郷野の四人は久々に銀行強盗を企て見事成功。その後、雪子の息子の職場であるホテルのラウンジカフェでくつろぐ四人であったが、フリーライター火尻と芸能人・宝島沙耶とのいざこざの巻き込まれることに。その出来事により、四人は火尻から付け狙われることとなり、とうとう銀行強盗の件で脅迫される羽目となり・・・・・・
<感想>
まさかのシリーズ第3弾。1冊目と2冊目の間隔も3年ほど空いていたので、まさか続編が出るとはと思っていたのだが、今度は9年ぶりの新刊。伊坂氏の作品って、単発だと思いきや、忘れたころに続編がというものが幾ばくか見られる。
今回の作品では銀行強盗自体がテーマではなく、卑劣なフリーライターからの脅迫を四人がどのようにして撥ね退けるのか、というもの。今回興味深く思えたのは、このような卑劣な記者から脅迫を受けるという可能性が誰にでも考えられるという事。では、もしそのような事態に直面したらどのようにすればいいのか、四人はどのように対処するのか? ということに注目して読み進めていった。
そして最終的には・・・・・・面白い方法でフリーライターを計略にはめるのであるが、ちょっと微妙かなと。作中に登場するヤクザのような集団がいるのだが、彼らが非常に知的に描かれていたにもかかわらず、最後の最後には、単純な集団のように成り下がってしまっている。それならば最初からステレオタイプのようなヤクザを出しておいた方が、ラストは納得しやすかったのなと。
このシリーズは内容云々のみならずキャラクター設定が面白く、それだけでも楽しめる作品。だからこそ、前作を忘れる前くらいに次の作品を出してもらえた方が読んでいる側としては助かるのだが。