<内容>
「眠りの海」 (1994年8月号:小説推理)
高校の教師が自殺をはかったところ、一人の少年に助けられる。なぜか男は少年に自分が自殺をはかった理由、生徒との恋についての話を語り始める。
「祈 灯」 (1995年4月号:小説推理)
ある日、妹は妙な友達を家につれてくる。妹はその子を幽霊ちゃんと呼ぶ。その幽霊ちゃんはなぜか自分を呼ぶとき、死んだはずの妹の名で名乗る。
「蝉の証」 (1996年1月号:小説推理)
暇なときによく祖母のいる老人ホームへ遊びに行く。するとある日、祖母からある老人がやっかいごとを抱えていそうだからと、調べてみてくれと依頼される。
「瑠 璃」 (1997年9月号:小説推理)
従妹のルコは破天荒でいつもこちらを戸惑わせる行動をする。二人は互いに成長しながら、少しずつすれ違ってゆく。
「彼の棲む場所」 (1998年4月号:小説推理)
久しぶりに高校時代の友達と会い、過去に起きた野球部の自殺の事件について語りあう。彼は「自分のせいで彼は死んだ」という。
<内容>
医学部を中退し、今はバイトとして登校拒否の少年たちが通う特殊な塾の講師をしている柳瀬。彼は医学部在学中、わずか6回の講義しか受けたことのない笠井教授から呼び出される。そこで柳瀬は笠井教授に彼が勤める大学病院で死亡した女性の娘を守ることを依頼される。しかも笠井はその女性を安楽死させたという疑いでもうすぐ逮捕されるのだという。
柳瀬は断ることができずに、その14歳の娘、立花サクラに会ってみるのだが・・・・・・
<感想>
癒し系の話しなのかと思いきや、現実はあまくないということなのか。
主人公は人の心に触れることができるという特殊能力をもつのだが、それが必ずしも役立っているとはいえない。その能力によって、人々が抱えている悩み、心の奥にある本当の気持ちをさらけださせることができ、実は何に苦しんでいるかということが明確にされる。しかしそれがわかったからといって、悩みが解決するわけではなく、己の心中が明らかにされることで自我が崩壊してしまうような人もいる。かえって知らなかったほうがよかったのではないかというように・・・・・・。だからこそ主人公はそれを“呪い”と呼ぶのだろう。
さて、この話しなのであるがミステリーとしてくくることができるのかが難しい。話しの流れからすると一人の少女を捜し、彼女を守って行く・・・・・・というところからはハードボイルド調ともいえる。現代的な若年者が主人公のハードボイルドといったところか。ただ、彼が事件を解決するという単純な構図ではなく、彼が事件をあつかおうとするならば、彼自身がその事件の渦中に深く関わりこみ傷つかなくてはならない。また事件を追うことによって自分の“呪い”と向き合っていく様は、「ゲド戦記」という幻想小説をふと思い浮かべさせた。
<内容>
「あの病院にはね、以前から語り継がれている一つの噂話があったんだ・・・・・・」
最後に一つだけ、必ず願い事を叶えてくれる人物がいる。そんな不思議な噂が、患者達の間で囁かれていた。アルバイト清掃員の僕は、死を前にした人たちの願いを一つずつ叶えていく。彼が人々との出会いで垣間見るそれぞれの肖像と風景、そしてそのなかで・・・・・・
「FACE」 (2002年1月号:小説すばる)
「WISH」 (2002年2月号:小説すばる)
「FIREFLY」 (2002年3月号:小説すばる)
「MOMENT」 (2002年4月号:小説すばる)
<感想>
面白いとか楽しいとかではなく、ひどく切ない小説となっている。四編で終わっているのが惜しい気もする反面、主人公の立場にしてみてもこれ以上死と向かい合うというのも限界なのかもしれない。悲しいとか切ないとかだけではなく、ある種の爽快さもあるのだが、それでもやはりその根底には人の死というものが常にこの小説にはあるためにやはり悲しくなってしまう。それでもこの小説がすばらしいことには変わりはない。出逢って良かったと思う小説のうちの一冊であることは間違いない。
<内容>
「FINE DAYS」 (小説現代:2002年3月号)
「イエスタデイズ」 (小説NON:2000年5月号)
「眠りのための暖かな場所」 (小説NON:2001年4月号)
「シェード」 (書下ろし)
<感想>
「MOMENT」(本多孝好)→「対話篇」(金城一紀)→「FINE DAYS」と去年から読んでいるのだが、これらには共通項があるように感じられる。「さみしさの周波数」(乙一)の中の作品にも該当するものがあったような気がする。
その共通項とは何かというと、日常的な風景を描きつつも、そのすぐ近いところに“死”が介在しているという部分である。さらに付け加えると、その“死”というのは決して暴力的なものではなく、どこか無機質的に表現されているかのような“死”が描かれている。“無機質”めいたという表現自体がわかりづらいかもしれない。これは、これら作品群のなかにおいての“死”というものが不自然(もしくは超自然)めいたものであるにもかかわらず、それがあたかも日常の中で受け入れられているかのごとく描かれているところに、“無機質”という感触を抱いたのである。
このような雰囲気の中で上記に挙げた作品の短編がそれぞれの異なる物語を展開してゆく。物語自体はそれぞれ全く違うものであるにもかかわらず、まとう雰囲気に近しいものが感じられることによって、同様の印象というのを受けたのかもしれない。
本書の「FINE DAYS」の短編もそれぞれがときには哀しく、ときにはおかしく、物語として紡がれていく。それらはただ単に、ラヴ・ストーリーという言葉だけではとても表現しきれない。
<内容>
広告代理店に勤める僕は会社と上役らの板ばさみにあいながらもそつなく仕事をこなしている。そんな僕だが、昔事故で亡くなってしまった恋人の習慣だった「五分遅れの目覚まし時計」を今もひきずっている。
僕が最近まで付き合っていた恋人と別れた後、通っていたプールで一人の女性と出会う。彼女は“かすみ”という名前で一卵性双生児の“ゆかり”という妹がいるという。いつしか僕は“かすみ”度々会うようになり付き合っていくことになるのだが・・・・・・
<感想>
本書はside-A、side-Bと分かれた本となっている。これはそれほど大きな意味はなく上巻、下巻と意味でとらえるのがよいのだろう。最初は今年読んだ乾くるみ氏の「イニシェーション・ラブ」を思いだし、なんらかの仕掛けがあるのかと邪推したのだが、そういうものではなかった。本書はミステリーではなく、恋愛小説といってよいものであろう。
というわけで、ここにあまり書けるような事はないのだが普段恋愛小説などとは縁がない私でも内容にのめり込み、あっという間に読んでしまったという事だけは伝えておきたい。大きく、ドンとはじけるようなものはないのだが、じわじわと聞いてくるような効果を持った本と表現すればよいだろうか。号泣まではしなかったものの、じわっとくる一冊であった。
大人向けの恋愛小説・・・・・・と言いたいところなのだが、男の立場からこれを読むと良い本と思ったのだが、女性の立場から読んでみるとどうなのだろうな? とも考えたくなってしまう。どうせなら、男女で読んでみて意見を交わしてみてはいかがかと薦めてみたりする。
<内容>
昔からいじめられ続けていた蓮見亮太は一念発起し、新たな生活を送ろうと猛勉強をして三流大学へと入学する。そこで新たな大学生活が始まるはずであったが、なぜか高校時代にいじめられ続けていた男と出会ってしまう。結局、昔と同じ生活が続くのかと思いきや、亮太はトモイチと名乗る男に助けられる。トモイチによって亮太は“正義の味方研究部”に入ることに・・・・・・
<感想>
複雑な世の中においては、正義の味方をするのも難しい。
昔、よく特撮のヒーローものの番組を見ていた。内容はいたって簡単で、悪の組織を正義の味方がやっつけるというもの。毎週、その繰り返しである。そういった特撮もののヒーロー番組というのは長い間受け継がれ、今に至ってもそのような番組が続けられている。
最近では、そのような特撮ものの番組は見なくなったのだが、人づてに聞くと、どうやら昔とは異なるものになっているらしい。単なる勧善懲悪という内容ではなく、結構複雑で一口ではいえないような内容になっているとのことである。
それで、本書「正義のミカタ」であるが、これを読み終わったときに、ふと、上記に書いたような現代における正義の味方像のようなものについて考えてしまった。私個人の考え方では“正義の味方”なんて、いたって単純なものでよいのではと思うのだが、現実の世界においても本書においても、なかなかそうはいかないようである。
個人的には、この作品も正義の味方研究部の活躍によって、大学生活の安全は守られました、続く・・・・・・くらいでいいと思うのだが、主人公はそういう終わり方をよしとせずに、“正義の味方”とは反する道を進むこととなる。ただし、正義の味方ではないからといって、イコール悪というわけではない。主人公は正義の味方の手によって守られないものたちはどうなるのかとか、正面からは見えない部分について考え始め、そして別の考えをもつこととなる。
ふと、この考え方を見ていて、最近の特撮ものの内容が複雑になってきたというのは、こうした考え方が原因となっているのではないかと思ったのである。また、まだ見てはいないのだが、松本人志監督描く「大日本人」というのも、これに通じるところがあるのかななどと想像してみたりしてしまう。
そんなわけで、本書の内容自体は大学において、最近新聞なのでよく目にする事件などを題材として扱ったものを正義の味方研究会というものを通して描いた、単純な作品とも言えるのだが、実際のところ色々なことを考えさせられる内容になっている。
いやー、何度も言うように、もっと単純な内容でいいと思うんだけどねぇ。そうも言えないところが現代風なのであろうか。まぁ、面白いことは確かなので一読してもらいたい作品である。
<内容>
30代のOLである“私”は生きる意味を失いかけ、仕事も嫌になり、「もう死にたい」とつぶやいた。それを耳にした謎の人物から「一年待ちませんか。その代わり、一年頑張ったご褒美を私が差し上げます」と言われた。“私”はとりあえず残り一年を自分の好きに生きることし、仕事を辞め、それからの生活をおくろうとしたのだが・・・・・・
<感想>
意外な面白さを味わうことができた作品であった。読み始めたときは、まさかこんな展開になる話だとは想像もつかなかった。
この作品は、残り一年だけ生きてみようとする元OLと、謎の服毒自殺を追う記者の行動とが交互に描かれものとなっている。元OLのほうは残り一年だけ生きるとはいってもどのように過ごせばよいかを悩み、ボランティア活動を始める。そして、その活動によってとある出会いが待ち受けている。雑誌記者は服毒自殺を追っているうちに一人の元OLが仕事を辞めた後、1年経ってから自殺しているということに着目しつつ事件を追って行く。
この二つのパートが交互に描かれつつ、次第に二つのパートに関連性が芽生えつつ、そうして最後にはどのような結末が待っているのかということが気になりつつ、ページをめくる手が止まらなくなってゆく。
この作品に関しては、後半の展開を言ってしまうと興味がそがれるとおもうので、ただ単に読んでみて欲しいとしか言いようがない。あくまでもミステリとしての面白さではなく、小説としての面白さというものになってしまうのだが、前半での作品の印象とはがらりと異なる展開が待ち受けている。
ラッキーで幸福な人生が待ち受けているのか、それとも現実的な厳しい現実に追い込まれるのか、はたまた異なる結果となるのか、読んで確かめていただけたら幸いである。
<内容>
森野は両親から引き継いだ葬儀屋を先代の頃から残った社員の竹井と二人で切り盛りしていた。死と隣り合わせの商売のためか、葬儀に関わった者達からときおり奇妙な話を聞くこととなる。甥っ子が死んだはずの父親の霊を見る、葬儀をもう一度やり直したい、亡くなった夫の生まれ代わりが少年の姿をして現れたなど。森野は葬儀社としての責任感から、自分達の葬儀に関わった者たちに対してアフターサービスと称し、それらの不思議な話の真相を調べてみようとする。
<感想>
日常の謎を扱ったハートウォーミング系の連作短編集。他の作品と違うところは、主人公が葬儀屋を営んでいるところと、やけにぶっきらぼうな口調であること。主人公の口調が乱暴なわりには、町内とのコミュニケーションがしっかりととられており、なんとなく江戸っ子風情のような暖かさを感じ取る事ができる。
本書は7年前に出版された「MOMENT」という作品と多少リンクしているところがある。こちらは文庫化されているので、あわせて読んでも面白いかもしれない。
基本的にはミステリを楽しむというよりは、ちょっと良い話を感じるための小説というところか。主人公が葬儀屋を営み、守り続けながら、自身と向き合う話でもある。また、恋愛の行方についても読むものを気にさせたりと、意外と盛りだくさんな小説と言えるかもしれない。最後に明かされるタイトルの意味には、単純ながらも結構感動させられてしまった。
<内容>
「at Home」
「日曜日のヤドカリ」
「リバイバル」
「共犯者たち」
<感想>
「at Home」他人同士が偽りの家族として暮らし、詐欺行為を繰り返しながら生活を続けていく。
「日曜日のヤドカリ」連れ子の女と結婚した俺は、うまく生活していたはずであったが、ある日突然、妻の行方を捜す羽目になり・・・・・・
「リバイバル」借金を背負っていた男は、貸主から言われるまま外国人の女と籍を入れ、暮らすことになる。
「共犯者たち」昔家を出た後、突然目の前に現れた父親。夫とうまくいっていない妹。二人のはざまに立たされる男は・・・・・・
と、上に書いたように4編の話は別々の物語であるが、テーマとしては共通して“家族”が描かれている。ただし、どの家族も普通ではなく、なんらかのトラブルやいわく付きの過去を抱えている。しかし、そうした疑似家族や問題のある家族であるにもかかわらず、普通の家族以上の絆が感じられるのである。
これは小説を読むから感じることなのであろう。通常であれば、普通に暮らす家族というものが幸せなのであろう。しかし、それを小説で表すとなれば難しい。かえって、このように問題のある家族が、その問題を解決しながら生活を続けていく様子を描いた方が、より幸せに見えるということなのであろうか。
また、ここで書かれている家族であるが、それぞれ普通ではないにしても、現代社会であれば実際にあっても珍しくないようにも思えてしまう。よって、まさに“今”が描かれた社会派家族小説と言えるかもしれない。読みやすい小説になっているので、興味のある方はぜひ。
<内容>
常人とはかけ離れた能力を持つ、昴、沙耶、隆二、良介の4人。彼らは同じ施設で育ち、強いきずなで結ばれていた。そんな彼らは現在、政治家である渡瀬浩一郎から依頼される裏稼業の仕事をしながら生活をしていた。彼らが今回受けた命令は、大物政治家の娘が極秘資料をかかえたまま家出をしており、その行方を追えというもの。そうしたなか、4人は謎の殺人集団“アゲハ”と出会うこととなり・・・・・・
<感想>
本多氏による新機軸の作品とのこと。確かに今までは作風が違うというか、現代ものから離れて伝奇風アクション作品となっている。
主人公の4人それぞれが常人とはかけ離れたスピードで動いたり、ものすごい記憶力を有していたりと、特殊な能力を有している。そんな彼らが、政治家から依頼された裏稼業の仕事をしつつ、やがて同じような能力を持った集団と出会うこととなる。
今作では一つの仕事を達成しつつも、物語全体からみると導入というところで、これから話が大きく動いて行きそうな感触。ゆえに、まだ明らかにされていない部分もあり、これから徐々に様々な謎が解明されてゆくことになるのであろう。
内容的に言えば、著者にとっては新機軸かもしれないが、どうもありがちな内容という気がし、特に目新しさは感じられなかった。古くから言えば、山田風太郎忍法帖から始まり、数々の伝奇物や漫画などで語りつくされているバトルものといったところ。今後の展開によって、そいった既存のものからどれだけ逸脱できるのかが注目すべきところであろう。
今作で心に残ったのは、団塊の世代の大人が、若者たちとの相違について考えている場面があるのだが、“今の若者たちは将来の夢については考えず、現在を生き抜くことのみで精一杯”という考え方。その一言が現代社会を表しているようでもあり、非常に印象深かった。
<内容>
謎の殺人集団“アゲハ”と名乗る者達は、ホテルにて国際技術会議が開催される際、そこに招かれた遺伝子工学博士リム・シェンヤンの殺害を計画する。それに対し、昴ら4人は渡瀬浩一郎から、その隙を狙ってアゲハのなかの一人を捕まえてこいという指令を受ける。
そうしたなか、セキュリティ会社社長の神谷は、カラスと名乗る男らと共に自らがセキュリティを任されているホテルの襲撃計画を図っていた。その計画はアゲハの殺害計画と重なることとなり・・・・・・
<感想>
伝奇アクション巨編、第2弾。2作品目といいつつも、何作目まで続く予定なのだろうか。ちなみに3作目は2013年4月刊行予定。どうやら半年ごとに1冊のペースで進んでいくようである。
今回もまだ、プロローグ的な印象が強い。あくまでも、顔合わせという感じであった。その顔合わせの犠牲者として、8人の愚連隊が選ばれたようであるが、彼らにはもう少し健闘してもらいたかったところである。そんなわけで、アゲハと昴の仲間たちの人員構成に変わりはなし。
それでも、話が進むことによって具体的に背景がわかってきたり、アゲハの人員構成や能力がわかってきたりと、徐々に対決への準備は整っている模様。次回あたりから派手に動き出して行きそうである。とはいえ、別に能力者同士の対決を描くだけの作品ではないと思えるので、どこを着地点とするのかということも注目すべき点であろう。とにかく、どんどんと先を読み進めたくなる作品であることは間違いない。
<内容>
昴たちを狙う謎の暗殺者の影。政治家・渡瀬浩一郎の思惑。殺人集団“アゲハ”が抱える秘密と、渡瀬浩一郎暗殺計画。それぞれが事情や思惑をかかえるなか、渡瀬が秘密裏に建設を続けているシェルターにて、最後の戦いの火ぶたが切って落とされる。
<感想>
ACT-2を読みながら、徐々に盛り上がり始めてきたなと思っていたのだが、なんと3冊目となるこの巻で完結。早すぎやしないか? 最初から3冊という予定であったのか、それとも売り上げが振るわなかったことによる打ち切りなのか??
と、思いつつも読んでみると、最後はうまく締めていたと感じられた。それなりに、登場人物それぞれの思いを包括していたかなと思えなくもない。
ただ、3冊では書ききれていないと思える部分もしばしば。特に人物造形についてはそう感じてしまう。2巻3巻と“アゲハ”の構成員については、だいぶ書き込むことができたと思えるのだが、肝心の主人公の周辺については描き切れていない。それどころか、主人公陣営って4人も必要だったの? としか感じられなかった。こういう内容の作品であればキャラクター小説という色合いも強くあるべきだと思えるので、そこはどうにかしてもらいたかった。
本多氏のイメージチェンジを図る作品ということで書かれたものであるが、面白くは感じたものの、いろいろな意味で薄っぺらかったかなと。出版社側も力を入れていた企画のように思われたので、もうちょっと付加要素が欲しかったところ。
<内容>
「言えない言葉」
「君といた」
「サークル」
「風の名残」
「時をつなぐ」
<感想>
2009年に出版された「WILL」の続編といってよいような内容。ゆえに、先に「WILL」のほうから読むことをお薦めしておきたい(文庫化されているし)。
この物語のスタンスとしては「WILL」で主人公を務めた人たちが活躍するのではなく、その周辺にいる人達が彼らを意識しつつ、それぞれ個々の物語を形成していくというもの。最初の「言えない言葉」は、小学生が“死神事件”に巻き込まるという、小学生視点ならではの話。それが、思いもよらぬ探偵役の存在により解決される。
他の物語の内容は、小学生時代の男女のいじめられっこの話(「君といた」)、高校ソフトボール部の人間関係(「サークル」)、突然アメリカが舞台となる作家の話(「風の名残」)、病院でのちょっとした一コマ(「時をつなぐ」)。「風の名残」は、ミステリ小説風であったが、他の作品は会話をかわしているうちに、心のもつれがほどけていくというようなものとなっている。
全体的に、ちょっと良い話的なものが集められた作品集というところ。ただ、前述した「WILL」を読んでいれば、その物語が本当に完結したという達成感も得られるので、やはり「WILL」の続編として楽しんでもらいたい作品である。
<内容>
楠瀬薫は、かつて政治家のスキャンダルを暴いたことにより、雑誌社を追われることとなった。雑誌社を辞めた後は、ビデオジャーナリストとして生計を立てていたのだが、自身でこれといった追うべき目的もないまま、日々淡々と仕事をこなしていた。そんなとき、スキャンダルを暴いた政治家が大臣として登用されることが決まった。さらに、昔“超能力少女”として世間を騒がせていた少女が、薫の前に姿を現すことに。その少女の正体を薫が暴いたことにより、彼女の人生は変わってしまったのであった。その少女が、ストーカーに追われているからかくまってほしいと薫を頼ってやってきた。そうして、彼女の身柄を預かり、その身辺関係を調べていると、かつての政治家スキャンダルと関連する事象が出てき始め・・・・・・
<感想>
内容はフリージャーナリストの女性が巻き込まれる陰謀を描いたもの。ただし、“陰謀”といっても、実際には何が起きているのかわからず、主人公がいろいろと調査しながら、起こる事象を確認し、それがさらなる事件につながってゆくというもの。
主人公の楠瀬薫の元に、かつて超能力少女ともてはやされた諏訪礼がやってくる。彼女は、ストーカーに追われているというのであるが、その真偽はさだかではない。薫は礼の身辺の調査を始めることに。また、薫が以前スキャンダルを暴いた政治家が大臣になるというニュースがもたらされる。もはや、関係のない存在と思いきや、礼の件を調べているうちに、その政治家の過去のスキャンダルとつながりを見せることとなる。
物語が複雑という事はないのだが、調査を進めていく先に何がまっているのかがわからず、不安定な状況。礼の件を調べていると思いきや、政治家の過去のスキャンダルに関係したり、今起きている事件が関連してきたかと思うと、また礼の件に辿りついたりと、振り子のように行ったり来たり緒を繰り返しながら話が進展していく様相。
結果として、サスペンス作品としてよくできていると感じられた。話を広げ過ぎずに、物語全体にちりばめられた要素をうまく回収しきったという形であり、なかなかの佳作ではなかろうか。ただ、惜しいと思われるのは、ジャンルとしての要素がありすぎて、サスペンスとか、伝奇風小説とか、企業小説とか、さまざまなものが入り混じり過ぎたという気がしてならない。ゆえに、強調部分がなくて、端正にできているがゆえに、全体的な印象が薄まってしまったという感じである。うまく出来ている作品であることは間違いないのであるが。
<内容>
「ファースト・ハグ」
「シークレット・ガーデン」
「ストーカー・ブルーズ」
「ドールズ・ドリーム」
「ロスト・メモリーズ」
<感想>
昨年出版された作品の文庫版。やけに文庫化されるのが早いなと思いきや、どうやらTVドラマ化される影響によるものらしい。しかも、これにより続編の「dele 2」が文庫オリジナル作品として出版されている。
内容は死者のその後を扱う話であり、以前本多氏が書いた「WILL」を思い起こす。ただし、こちらは一風変わった設定となっており、なんと依頼者の死後、その依頼者のデジタルデータを消去するという仕事を請け負っている。
その仕事を請け負うのは、会社社長で車いすで過ごす圭司と、唯一の社員で下働き兼雑用の祐太郎。この二人がさまざまな依頼をこなしていく。社長の圭司のほうは、依頼を淡々とこなしていこうとするものの、祐太郎のほうは人情家であり、“何故”にこだわり、時に圭司をいらだたせる。ただ、祐太郎がその“何故”にこだわることにより依頼者の生前の人物像がはっきりと見出せることとなる。
と、そんな人情物語風の内容が各作品で描かれているのだが、気になるのは主人公出る二人の過去。それぞれが過去になんらかの出来事があったようなのだが、この作品ではそれらを匂わせるだけで具体的には書かれていない。たぶんそれが続編で書かれていることであろう。前述したとおり、すでに続編が出ているので、実際にそちらを読んで確認することとしよう。
<内容>
「アンチェインド・メロディ」
「ファントム・ガールズ」
「チェイシング・シャドウズ」
<感想>
「dele」に続く第2弾。こちらは単行本化はされず、即文庫での出版。たぶんTVドラマ化されたことにより、前作と合わせての文庫出版という流れなのであろう。
依頼者の死後、依頼者のディジタルデータを消去するという仕事をしている圭司と、その圭司のもとで下働きをしている祐太郎の二人が主人公。今作では、音楽の作成をしていたと思われる男の死後にまつわる話、SNSで豪華な生活の様子を披露していた女の死後の話、そして病院の理事を務めていた男の死後にまつわる話の3本。
何気にそれぞれの話が、単にストレートに終わる内容ではなく、一捻り効かせた話となっていて読みがいがある。音楽の話では兄と弟にまつわる本当の想いが語られ、SNSの女の話では当事者の女の正体ともうひとりの女性との間の秘められた絆が明らかにされる。
そして、最後の話は今まで通りの通常の依頼かと思いきや、話が進むにつれて主人公二人にまつわる話へと展開していくこととなる。前作では主人公二人の過去について謎めいたままで終わっていたが、それがこの作品でようやく明らかとなる。ただ、それについては、ちょっともやもやした感じで終わってしまったかなと。個人的には、祐太郎は祐太郎の過去、圭司は圭司の過去で別々の話かと思っていたのだが、そこで2人の過去が交錯することになるとは思ってもいなかった。
本当なら、二人の過去のわだかまりが消えて、それによりフレッシュな気持ちで新たる仕事へ、という流れになるかと思っていたのだが、どうやらそんな感じではなくなったような。今後の続編も期待していたのだが、この作品を最後まで読むと、もうシリーズとしてはこれで終わりなのかなと。