<内容>
国際ジグソーパズル連盟日本支部長を務める興津華子の死の床は、肩書きに相応しくジグソーパズルのピースで彩られていた。三興グループの実質的なオーナーでもある彼女の死から数日、夫栄太郎が同じ部屋で殺され、現場には夫人のときと同様パズルのピースが多数散らばっていた。捜査に伴って多額の遺産や系列会社のデータ捏造に絡む背後関係が浮かび容疑者が絞られつつある中、ほどなく第三の事件が。
弱冠二十一歳の法務省特別調査官が捜査官と協働し、動機に囚われない独自の探偵法で真相を探る。高木彬光が<坂口安吾氏以来の傑作>と賛辞を呈した、名探偵更科ニッキ初登場作品。
<感想>
発表年が20年前であるということを考えると、驚くべき作風であろう。今では珍しくはないものの、当時は探偵小説というのはさほど認められていない時期であったはず。このような作品がうもれていたのいうのも、もったいない。
しかしながら、それが埋もれていた理由の一つは探偵小説であるはずなのだが捜査が非常に地味なのである。さらにはせっかくの探偵小説であるのにその探偵が本当に必要な場面はラストだけではないだろうか。せっかく探偵が序盤から登場しているのにその存在感がまったくないのだ。それならばかえって、ラストだけに登場したほうがインパクトが強かったのではないのだろうか。
ラストの解決を読むと、物語がよくできていることがわかる。鏤められたジグソーパズルの意味。密室の理由(これは少々わかり辛い)。そして最後で明らかにされる犯行の背景。これらが物語として非常にうまく成り立っている。もしこれに中盤における展開がスピーディーに語られたのであればもっと有名になっていた作品ではなかろうか。
<内容>
1990年5月。たたき上げの会社社長が首だけの死体となって発見された。凄惨な現場の壁にはビアズレーのサロメの絵が・・・・・・。会社経営をめぐる陰謀が囁かれ、人気画家でもある社長一家の和彦、帆奈美兄妹が疑惑を集める中、次には帆奈美が悲運のオフィリアとなって軽井沢の川に。世紀末の日本を震撼させる連続殺人事件に、美貌の車椅子弁護士・山崎千鶴が挑む。好奇心、熱狂、そして挫折の後に彼女が見出した真相とは?
<感想>
2002年05月に1984年に出版された「笑ってジグソー、殺してパズル」が文庫で出版されたので、そちらを読んでからの本書の読了となった。「笑って〜」を読んでの本書の感想は、雰囲気的や書きかたは「笑って〜」とあまり変わっていない。本書のひとつの売りとしては、『内的独白法』という手法ではあるのだが、それでも「笑って〜」との作品と変わり映えがあまりないというのが第一印象。
『内的独白法』であるが、序文からではよく意味がわからなかったのだが、読んでみればそれがどういったものであるのかはすぐにわかる。これが、斬新な手法であるかは他の本において意識しなかった部分なのでわからないのだが、確かに面白いとは思う。無駄な情景描写などは省かれ、事件に直結した登場人物の話のみで進められるのでスピーディーな展開で物語が進んでいく。ではそれが読みやすいかというと、そこに疑問が生じる。それは、警察関係者の余分な独白までが語られてしまうと物語り事態に混乱が生じるということである。この話では登場人物が結構多い。それに加えて明らかに犯人ではないと思われる警察関係者までの独白が語られると内容を整理しづらくなるのだ。どちらかといえば、警察関係者にはもっと事件を整理するという役割を担ってもらいたかった。本書が「笑って〜」と同様の印象を受けたというのは、まさにこの事件全体が乱雑に描かれていると感じた部分にある。
本書における全体的な感想はどうかというと、結構普通のミステリーに収まってしまったなと思える。犯人と動機の面からいえば非常にきれいに収まっているのはよくわかるのだが、案外地味な展開であった。そして結末における『内的独白法』の効果はどうかというと、これは「矢の家」(メースン著)という作品を私に思い起こさせた。それが何かといえば、二度読み返さなければその効果はわからないということである。「矢の家」は犯人と探偵の心理的な駆け引きが書かれているのだが、犯人がわからない途中の場面ではそれに気づくことなく読み進めることになる。そして犯人がわかった後に読んでみると、あぁなるほどと感嘆できるのである。本書も結末まで読んだ後にまた、該当部分を読み直してみると、なるほどと思える記述があることに気づく。ただ、それがもう少し決定的なものであるとか、容疑者の数を絞り込むとかすればより効果的であったのではないかと考えてしまう。
<内容>
札幌でひとりの少女が誘拐されるという事件が起きた。しかし、その誘拐は事件が大事になる前に解決されてしまう。騒ぎがあったと警察に通報があり、駆けつけた警察官が男の死体を見つけ、クローゼット中から縛られた少女を発見したのである。なんと誘拐犯は何者かに殺害されていたのだ! その後に次々と起こる連続殺人事件。それらの事件は誘拐事件に何らかの関わりがあるのだろうか? 中学の暴力教師を巡る事件、あやしげな教団を巡る事件、等々・・・・・・。複雑に絡み合った事件と関係者達のなかで、どのようにこれらの事件は結び付けられているのだろうか??
<感想>
書き方が登場人物たちの手記という形で断片的に書かれているためか、どうも話の内容全体を把握しづらくなっている。もう少し違った書き方でとも思えたのだが、最後まで読むと、この書き方はそれなりに効果を狙ったものであるということがわかる。
ということで、本書は最後まで読むと色々な驚きと、その工夫とかが見えてくるのだが、途中まではそういった効果が見えずに、ただ単にわかりにくいだけの作品のように見えてしまうというのがこの作品の一番の欠点なのかもしれない。
物語の導入からラスト直前までの手記による一連の流れでは、なんとなく軽く書かれた作品と言う風に受け止められる。しかし、ラストの場面ではそれが一転してシリアスとなり、ミステリとしての濃度も一気に濃いものとなる。
そこまでの語られる展開としては、一見複雑なようで、実はどれも絡み合ってなさそうなというようなあいまいな感じにしか捉えられない。しかし、それが探偵の手によって全てが整理されて語られると、一つなぎの連続殺人事件という道筋が見出される。この話のつなぎ方には思わずうならされてしまった。まさに“腑に落ちる”という感じであり、このラストによってあっという間に完成されたミステリが読者の前に提示されるのである。
ただ、中には“腑に落ちない”部分もある。全体的な一つなぎの内容としてはうまくできているものの、ただ、その解答は警察捜査がきちんとなされていれば簡単に明らかになるように思われるのである。ようするに本書では犯人が警察の捜査を煙に巻いて、最後に探偵役が明らかにするまでは誰にもわからないという形がとられているのだが、そんなにうまく行く犯行のようには思われないのである。そういったところが、ちょっと腑に落ちなかったかなと。
<内容>
目黒にあるマンションの一室でOLが刃物により殺害されるという事件が起きた。被害者は品行方正で、誰かから命を狙われるという理由など無かったはず。被害者の身辺を調べてみると、彼女は大学時代にアメリカンフットボール倶楽部に所属しており、今でも仲間内の付き合いが続いていたという。そのメンバーが過去5年間のうちに、ふたりほど死亡するという事件が起きていたのだ。今回の事件は過去の事件に関わり合いがあるのか? 松谷警部は新人の白石巡査とともに捜査にあたるのであったが・・・・・・
<感想>
現在起きた事件から、過去に起きた事件にさかのぼって捜査を進めていくという内容。この事件に、今まで過去の平石作品に登場してきた松谷警部と、今回新たな探偵役となる白石以愛(イアイ)巡査とがコンビを組んで捜査活動を行ってゆく。
何となく一時代昔を思い起こさせるような物語(実際、1998年が舞台)。ひとりの女性を数人の男が取り巻き、大学時代を経て数年経った現在でもその状況が変わらないというものが、なんとなく昔のトレンディドラマを匂わせる。
その大学時代のアメフト倶楽部に所属していたグループ内で起きた事件を描いたものであるが、なぜか現在起きた事件を放っておいて、過去の事件ばかり調べるというスタンスは警察捜査にしては微妙と思われた。過去の出来事がカギとなっているということはわかるのだが、事件捜査をするにあたっては、現在起きた事件を捜査するほうがずっと楽だと思えるのだが。
そのような違和感を除けば、非常にうまく仕立て上げられたミステリ小説であると思われる。一見、ライト風な作調にも思えるが、実は本格ミステリ風の濃い内容となっている。ゆえに、気軽に手にとるというよりは、じっくりと読むべきミステリ小説と言えるかもしれない。
<内容>
フリーランスの記者が自宅で刃物によって殺害されるという事件。被害者に関連のある人物を調べようとする矢先、別の場所で遺書を残した遺体が発見されることに。発見された遺体の女性は、フリーランスの記者と付き合っていたものの、記者のほうが心変わりをし、別の者と婚約をしたことにより無理心中を図ったとみられる。実際に、記者を殺害した刃物が遺書に添えられていた。事件は解決かと思われたのだが、少々不審な点もあげられることに。松谷警部と白石巡査が事件を調べていくと、過去に被害者たちが関連した殺人事件が起きていたことを知り・・・・・・
<感想>
松谷警部と白石巡査が活躍するシリーズ作品第2弾。著者の平石氏は、今まで出版した作品は少なめであったのだが、今作は前作からわずか1年での刊行となった。どうやら、教授職を退官されたらしく、ようやくミステリ作品を書く余裕ができたということなのだろう。次の作品も早めのスパンで出してくれるかもしれない。
前作ではアメリカンフットボール倶楽部に所属していた人たちによる事件を描いていたが、今作ではカーリングがとりあげられている。こうしたなんらかのスポーツ要素を取り入れるところもシリーズの特徴となるのかもしれない。今作ではさらにカーリングで使われるストーンが凶器の一つとして用いられていたりする。
基本的な内容としては警察もの。刑事たちがさまざまな人たちに事情聴取をし、過去の事件を掘り起こし、さらなる足による捜査で事実関係を積み上げていく。事実関係が積み上がることによって、事件が益々混迷していくかに思われるところを、白石巡査の直観が見事に謎を解きほぐすこととなる。
本来ならば、刑事ものならではの生々しさや、人間関係のドロドロとした生臭さが出るはずなのだが、女性刑事である白石巡査が中心の聞き込み調査によってか、全体的にスッキリとした印象に仕上げられている。セクハラ行為も意に介さず、さっそうと捜査に取り組む白石巡査の姿勢はなかなかのもの。紳士的な松谷警部とのコンビも相まって、従来の刑事ものとは異なる後味の作品となっている。
事件の解決もなかなかのもので、複雑な人間関係を見事に紐解く真相が用意されている。動機についても意外というか、ある意味それでいいのか? と突っ込みたくなるところがなくもないのだが、うまくできていると感じられた。文庫本で手軽に読むことができながらも、なかなか濃いミステリを堪能することができる作品。色々な意味でお得の一冊といえよう。
<内容>
元プロゴルファーが自宅で殺害されるという事件が起きる。発見者は、被害者の元妻。この事件の前日に、彼に関わり合いのあるものが練炭による自殺を遂げており、さらにはゴルファーが死亡したのと同じくらいの時刻に近所で、その被害者の元ゴルファーのスクープを狙っていた記者が殺害されていた。複数の事件が起きたのだが、姿をくらました石井という経理部長が最重要容疑者としてあげられる。会社の経理に穴をあけた上に、ゴルフ場の開発に関わった人を殺害し、逃亡したと推測される。警察が石井の行方を調べる中、若手の巡査と組まされて四苦八苦する白石イアイは、被害者宅にて、とある引っかかっていた点から事件の真相を見抜き・・・・・・
<感想>
松谷警部シリーズ第三弾! ということなのだが、今作では白石イアイが松谷警部と組まずに行動していることから、松谷警部の存在感が薄く、白石イアイ・シリーズと化してしまったように思える。
内容としては今までの三作のなかでは一番よくできていると言えるかもしれない。容疑者と思われる人物はほぼ決まっていて、状況証拠の穴埋め捜査が行われるという感じではあるのだが、最後の最後になってその流れはひっくり返されることとなる。
では、もし最重要容疑者である石井が犯行を行っていなかったとすれば、誰がどのようにして犯行を成しえたというのかが問題となる。そこに様々な思惑が重なり、一連の事件を構成しえたということが探偵役である白石イアイによって明かされる。金魚がひとつの重要証拠となっている点が、なかなかうまく出来ていたかなと思わせられた。
全体的には地味な内容と言えるが、うまく描かれた警察小説・推理小説であるとも言える。個人的には上原巡査の言動にイライラさせられながら読んでいたが、その上原巡査が善い行いをする場面がしっかりとはさまれていたりする。今後のシリーズの展開としては、白石イアイと上原巡査のコンビが続いてゆくことになるのかなと。
<内容>
退職間近となった松谷警部、そうしたなか、力士が殺害されるという事件が置き、松谷はこれが最後の仕事かと気を引き締める。殺された力士の周辺を捜査し、動機や関係者のアリバイを調べていく中、さらに同じ部屋の別の力士が殺害されるという事件が起きる。犯行現場には、力士が道を踏み外したことにより処罰を下したというような内容のメッセージが残されているものの、殺された力士たちがそこまで不真面目であったというような噂は出てこなかった。いったい誰がどのようにして犯行を行ったのか!? 白石巡査部長は松谷警部の定年の日に間に合わせようと奔走し・・・・・・
<感想>
このシリーズは、いつも何らかのスポーツを事件に関連付けさせているのだが、今作では相撲を取り上げたものとなっている。副題に“力士連続殺人事件”と付けたくなるところ。また、シリーズ第4弾であるのだが、タイトルに出てくる松谷警部が今作で定年を迎えるので、ひょっとしたらシリーズ完結になるかも!?
被害者として力士を取り上げたものなのであるが、何故力士なんぞを狙うのか? という疑問をもちながら読みつつも、なかなか事件の全体像が見えてこない。連続殺人事件となりつつも、何故“連続”で事件を犯さなければならないのか? そしてそこまで被害者である力士たちに恨みをもつ者がいるのかと、五里霧中のまま物語は終盤へと突入する。どうもこのへん、事件自体に展望が見出せないせいか、中盤は中だるみ気味。
全体的にまったりしたままの作品なのかと思いきや、事件解決はきちんと、しっかりやってくれている。白石巡査部長がとある着目点から事件の活路を見出し、そこから芋づる式に手掛りを得ていくところは見事と言えよう。五里霧中の状況から、一気に霧が晴れ、見事な事件解決へと至っている。最後まで読み通せば、これはなかなかのミステリ作品だと感心させられる。
読んでいる途中は、人物相関図やそれぞれのエピソードの関連などがごちゃごちゃし過ぎていてややこしいと感じてしまったのだが、事件が解決されると一気に片が付くこととなる。このへんは再読すれば、この作品に対する評価ももっと上がるかもしれない。何はともあれ、たとえ松谷警部が引退しても、肝心の白石巡査部長はまだまだ現役であるのだから、なんらかの形で彼女が活躍する作品が読めればと願っている。