東野圭吾  作品別 内容・感想1

放課後

第31回江戸川乱歩賞受賞作
1985年09月 講談社 単行本
1988年07月 講談社 講談社文庫
2003年09月 講談社 講談社文庫(江戸川乱歩賞全集15)

<内容>
 女子高で数学を教えている前島は自分の命が校内の何者かに狙われているのではないかと疑いを持ち始める。駅のホームで体を押されたり、プールで感電しそうになったり、そして今日も頭上から植木鉢が・・・・・・。そんなある日のこと、校内で殺人事件が発生する。生徒指導の教師が女子更衣室の中で殺害されていたのである。しかも、屋内から心張り棒がされた密室の状態で! 犯人はどういう意図でこのようなことをしたのか・・・・・そしてさらに事件は続き・・・・・・

<感想>
 だいぶ前に講談社文庫で読み、「江戸川乱歩賞全集15巻」にて再読。

 読んでいて感じたのは、なんといっても読みやすいということ。もともと「江戸川乱歩賞」を受賞した作品なのであるから一定のレベル以上であるというのはあたりまえのこと。それに「江戸川乱歩賞」の受賞作というのは抜群のリーダビリティーを誇るものが多い。ただ、「江戸川乱歩賞」受賞作に見られる傾向としては、ミステリーの要素を含んでいて、読みやすい文章で書かれていて、何か特殊な背景を題材にしているというものが多い。よって、文章は読みやすくても、その物語の背景がとっつきにくいものであれば、作品によってリーダビリティーは薄れてしまう可能性がある。しかし、この「放課後」という作品は“高校”(厳密にいえば女子高)を舞台としたものなので、誰でも抵抗無く物語の中へと入り込むことができるようになっている。それゆえに、“乱歩賞受賞作”のなかで、読みやすさは随一といってよい作品となっている。

 そして内容も凝った創りとなっている。読み始めたときは、普通のミステリーにすぎないように感じられるがラストにて謎の全てが明らかになったとき、いかに全編を通して練られた作品であるかということに気づかされる。本書では密室トリックも扱われているのだが、そのトリックの使い方もなかなかのもので、物語の背景をもうまくいかしていることには感心させられた。また、本書で注目すべき点はなんといっても“犯人の動機”にあると思う。これは前に読んだときの記憶がしっかりと残っていた。ある意味衝撃的ともいえるかもしれない(よく書いたなとも思えるのだが)。

 ミステリーの入門書として、誰にでも安心して(そうでもないかな?)薦められる本。


ウインクで乾杯

1988年10月 祥伝社 ノン・ノベル(「香子の夢」)
1992年06月 祥伝社 祥伝社文庫(改題:「ウインクで乾杯」)

<内容>
 パーティー・コンパニオンとして働く小田香子は、仕事先のホテルで同僚の牧村絵里と別れた。その後、絵里は何故かホテルに戻ってきており、そこで死体として発見されることとなる。彼女は、鍵とチェーンで閉ざされた部屋のなかで毒入りのビールを飲んで死んでいた。絵里の死に不審なものを感じた香子は密かに事件について情報を集め始める。そんなとき、香子の隣の部屋に事件の捜査に当たっていた芝田刑事が偶然越してきた。二人は協力しつつ、事件の捜査を行うのであったが・・・・・・

<感想>
 東野氏の過去の作品で唯一未読であったのがこの作品。もう、26年前に書かれた作品となるのかと思うと感慨深い。

 内容はいかにも、その当時に描かれたサスペンス小説という感じ。警察の捜査や体制もゆるく、登場人物たちもやや余裕のあるゆったりとした感じ。とはいえ、意外にも密室殺人を扱っていたり、毒殺トリックを思わせるようなものなど、内容は十分に濃いものとなっている。また、捜査の過程においても、玉の輿を狙うコンパニオンの香子と、ただひとり単なる自殺事件ではないと捜査を続ける芝田刑事とが共同して事件を調べていく様相を楽しむことができる。

 当時、ドラマ化までを意識して書かれたとは思えないが、映像化するにはちょうどよい内容・分量の作品とも思える(ひょっとしてすでにドラマ化されているか?)。パンチ力は足りないものの、なかなかの佳作・・・・・・といっても、東野氏の作品は大概がこれ以上の水準に達しているので、著者の作品のなかでは埋もれてしまうのも無理はないか。




作品一覧に戻る

著者一覧に戻る

Top へ戻る