早坂吝  作品別 内容・感想

○○○○○○○○殺人事件   6点

第50回メフィスト賞受賞作
2014年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 アウトドアが趣味の公務員・沖健太郎はネットで知り合った同好の仲間らと共に、毎年夏、小笠原諸島にある島でオフ会をしていた。今回もいつもの仲間が集まったのだが、そこで殺人事件に遭遇する羽目に! いったい島で何が起きたというのか? 犯人は仲間のうちの誰かと思われるのだが!?

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<感想>
 記念すべき50回目となるメフィスト賞作品は、タイトル当てという趣向が凝らされた作品。8文字の○のところに“ことわざ”が入るようになっている。

 読んだ感じでは、同じメフィスト賞作家の石崎氏に似ているかなと。それに蘇部健一氏の「六枚のとんかつ」のようなテイストがスパイスとして加えられているような感じ。まぁ、はっきりといってしまえば、思いのほか“下品”であったと。よくこれを50作品目という記念作に持ってきたなと、違う意味で感心する。むしろ、これこそがメフィスト賞ということか。

 ミステリとしてうまく出来ている部分もあるのだが、フェアとはいいがたいところもあったり、事件が起こるまで長かったりと、粗が目立つのも確か。ただ、それでも普通に楽しむことはできたかなと。思いもよらぬ方向から思わぬ真実が告げられて、カタストロフィを迎える(あまりにも大げさか)ところもなかなか。タイトルについては、結局当てることができなかったのだが、最後の行でそれを知らされたときには納得。


虹の歯ブラシ   上木らいち発散   6点

2015年02月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 「紫は移ろいゆくものの色」
 「藍は世界中のジーンズを染めている色」
 「青は海とマニキュアの色」
 「緑は推理小説御用達の色」
 「黄はお金の匂いの色」
 「橙は???の色」
 「赤は上木らいち自身の色」

<感想>
 メフィスト賞作家による2冊目の作品。デビュー作「○○○○○○○○殺人事件」でも探偵役として活躍した上木らいちが主人公となる連作短編集。ページ数は薄めで、かつ短編集ゆえに、あっさりとした内容のようにも感じられるが、ミステリとしてのコードはしっかりとおさえているという感触を得られた。

「紫は〜」は、コピー機を使用したアリバイトリック。犯人の動機がこの作品らしさを表している。
「藍は〜」は、指紋トリック・・・・・・というほどでもないのだが、これもこの作品らしい。
「青は〜」は、一見、不可能殺人のようなのだが・・・・・・脱力系というか、この作品群のなかであれば許せてしまえるのが不思議なところ。
「緑は〜」は、簡単なストーカーものともいえるのだが、ミステリ的な要素を詳細な点までしっかりとおさえており、意外と本作の中のベストであったような。
「黄は〜」は、ちょっとした学園ものみたいな感じから、意外な結末を垣間見ることができる。
「橙は〜」は、打って変わって不思議なファンタジー。
「赤は〜」は、上木らいちの正体がわかったような、わからないような? あいまいな終わりかたのようでありつつも、面白いエンディング手法を用いている。

 意外と、これはファンタジー系ミステリなのかと感じられるような内容であったが、各短編ごとに“色”をうまく取り扱っているところには感心させられた。軽めの内容でありながら、ミステリとしてのツボはしっかりとおさえているので、本格ミステリファンも十分に楽しめる作品。


RPGスクール   6点

2015年08月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 過去に幼馴染を守れなかったことがトラウマとなり剣道を辞めてしまった剣先。そんな彼の高校に今話題の超能力者が来ると知らされる。絶対的な超能力を持つ超能力探偵・時野イマワは、全国の学校を対象に超能力教育を展開していた。その一環で、剣先の高校にも来ることとなったのだ。全校生徒の目の前で、強力な超能力を披露するイマワ。そんなイマワが何者かに殺害され、学校が外部から遮断されるという謎の事態に陥る。そして、“魔王”と名乗るもののが、学校から脱出したければ私を倒せと・・・・・・。突如、学校に現れたモンスター達を倒しながら、高校生たちは魔王の手から逃れることができるのか!?

<感想>
 なんとなくライトノベルでやればよさそうな物語。もっと設定をいじって、キャラクター設定をしっかりすれば、さらに面白くなるのではないかと。ひよっとしたら、既にそのような作品がライトノベルで書かれているのかもしれない。

 本書が単にゲーム小説で終わってしまっているかというとそんなことはなく、最後の最後でしっかりとしたミステリを行ってくれている。それこそが本書の特徴と言えるであろう。非現実的な中で起きた殺人事件。その事件の真相はいったい? ということを論理的に解き明かす趣向が待ち受けている。ただし、その趣向がピッタリはまっているかというと、そうでもなかった。どうも、“メガネ”のみにこだわった、面白くない推理展開が長々とされているという印象のみ。真犯人探しという趣向は面白かったので、もっと明快にきちっと終えてもらいたかったところ。このへんは、本格ミステリへのこだわりが悪いほうに出てしまったという感じか。


誰も僕を裁けない   7点

2016年03月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 高校生の戸田公平は、とあることで悩んでいた。そんなとき、偶然知り合いとなった埼(みさき)に惹かれ、恋心を抱くように。そして、埼の家に秘密裏に招かれることとなるのだが、思いもよらない事態に陥り・・・・・・
 一方、“援交探偵”上木らいちの元に不可解な手紙が。それは、大企業の社長から「メイドとして雇いたい」という内容のもの。らいちは、不審に思ったものの、高額の報酬に惹かれ資産家のもとへと行くことに。そこで目にするのは、不思議な形をした館。その館で連続殺人事件が起きることとなり・・・・・・

<感想>
 これは面白かったというか、感心させられた。“援交探偵”という設定を元に、本格ミステリと社会派ミステリをうまく融合させた内容となっている。このシリーズに対しては“援交探偵”という位置づけが微妙と感じられるのだが、このような作品を書かれると、その意味合いを十分見いだせることとなる。

 探偵役の上木らいちが訪れることとなったのは、9枚の羽根が生えたような形をした奇妙な建物。この建物を見れば、“回るのかな”と誰もが思うはず。作中でもそれに言及している。作中では伏字にしているものの、これは誰もが“回る”だろうと考えるのではなかろうか? 実際に回ったかどうかは、読んで確かめてもらいたい。

 本書のキモは、連続殺人事件におけるトリックではなく、高校生のパートと上木らいちのパートがどのように結びつくのかということ。実際にそこに力が入れられており、読者が気が付くものもあれば、気づきようもない細かい仕掛けまでも用意されている。そうしたなかで、プロローグからエピローグへとつながり、さらには意味深なタイトルまでも包括されることとなる。

 単に本格ミステリと社会派ミステリが融合したというだけでなく、非現実的なものと現実的なものの融合という感触も味わうことができる。これは、今年度上半期一番の注目本といっても過言ではなかろう。


双蛇密室   6.5点

2017年04月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 援交探偵・上木らいちと関係を続ける藍川刑事は、昔から蛇に襲われるという奇妙な夢を見続けていた。実際、藍川が赤ん坊の頃自宅で蛇にかまれるという事件が起きたらしいことは親から聞いていた。らいちから詳しい話をせがまれた藍川は、実家を訪れ、当時の事を詳しく聞くことに。すると、藍川の両親が蛇がからむ二つの密室事件を経験していたことを知り・・・・・・

<感想>
 援交探偵・上木らいちシリーズ新作。シリーズとしては一応、4作品目ということになる。今回らいちが挑むのは援交相手のひとりである藍川刑事の生い立ちに関わる事件。彼の両親が体験した二つの密室の謎の真相に迫る。

 一つは、閉ざされた建物のなかで蛇の毒により男が死亡するという事件。しかし肝心の蛇はどこにも見当たらない。もう一つは高層マンションの27階で毒蛇に襲われるという事件。その蛇自体がどのようにして高層階に現れたのかが謎となる。

 このような謎に取り組むこととなるものの、今回はあまり援交探偵という設定は関係なさそうと思いきや、そのラストは驚愕というか、思わず唖然とさせられてしまうもの。通常のミステリであれば、なんだこれ!? となってしまうものの、何故かこのシリーズであればそういったバカミスめいたものも許せてしまうのが不思議なところ。なんでもありの“援交探偵”という設定、実は物凄い可能性を秘めていた??


ドローン探偵と世界の終りの館   6点

2017年07月 文藝春秋 単行本

<内容>
 テレビの刑事ドラマに触発されてヒーローを目指そうとした飛鷹六騎であったが、成長が止まる病気にかかり19歳になっても身長は130センチのまま。高校卒業後大学へ進学することを考えず、警官を目指したものの身長制限で断られてしまう。そんな六騎は北神大学の探検部と名乗る面々との出会いにより、ドローンを操るドローン探偵と名乗ることに。北神大学には属していない六騎であったが、探検部の一員として迎えられ、新たな日々を過ごすこととなる。そんな探検部6名と共に、六騎は“ヴァルハラ”と名付けられた地下シェルターを探検することとなる。北欧神話になぞらえて建てられた建物。その中を探索していくうちに部員がひとりずつ殺害されることとなり・・・・・・

<感想>
 ドローンを操る探偵が主人公となる物語。探検部の面々と廃墟となった地下シェルターの探索に行くのだが、肝心の探偵は怪我のため一緒に中には入れず、外からドローンを操って、シェルターの中の様子をうかがうこととなる。また、シェルターを探検することとなった探検部の面々はそれぞれが秘密や恨みを抱えており、シェルターに入る前から事件が起きそうな予感。そうして、実際にシェルターのなかで殺人事件が連続して起きてゆくこととなる。

 この作品はちょっと変化球気味のミステリである。事件進行中は普通の話のように思えたのだが、解決編に入ると驚愕の事実が明らかとなる・・・・・・のだが、進行中違和感なさすぎて、あまり驚けなかったというか、なんというか。まぁ、この辺はネタバレになってしまう恐れがあるので、未読の方はなるべく先入観なしの状態で早めに読んでいただくことをお薦めしておく。

 ちょっと大技というか、荒業というか、もうちょっと効果的に決まっていたら良かったのにと、残念な気持ちが強い。ただ、こういった大味なミステリは好きなので、今後もこういったことにどんどんとチャレンジしてもらいたい。あと、個人的には最初の読者への挑戦と、その“解”に関しては、あえて語らないほうがスタイリッシュだったのではないかと。


探偵AIのリアル・ディープラーニング   6.5点

2018年06月 新潮社 新潮文庫nex

<内容>
 高校生・合尾輔(あいお たすく)の父親が火災で死亡し、輔のもとにSDカードに保存されたAIが遺された。そのAIは相似(あい)と名乗り、輔の父親が生前、刑事役AIの相似と犯人役AIの以相(いあ)を作っていたという。そして犯人役AIの以相がテロリスト集団に盗まれた可能性があると・・・・・・。輔と相似は、AI探偵を名乗り、父親の死の真相と以相の行方を調べ始める。

 第一話 「フレーム問題 AIさんは考えすぎる」
 第二話 「シンボルグラウンディング問題 AIさんはシマウマを理解できない」
 第三話 「不気味の谷 AIさんは人間に限りなく近づく瞬間、不気味になる」
 第四話 「不気味の谷2 AIさん、谷を越える」
 第五話 「中国語の部屋 AIさんは本当に人の心を理解しているのか」

<感想>
 時代はロボット・ミステリからAI・ミステリへと移り変わる。ここで語られていることは、昔ロボット関連のミステリなどでよく目にしたような気がするのだが、それが本書ではAI主体として語られており、時代の移り変わりを感じ取ることができる。

 父親が遺したAI探偵・相似と共に、高校生の合尾輔がテロ組織に挑むというもの。構成は連作短編形式で次から次へと迫りくる謎を探偵コンビが解決してゆく。そのAI探偵であるが、解決に至るまでのディテールがあっという間であり、その分あっさり目のミステリという印象が強い。ただ、よくよく検討してみれば、結構しっかりしたミステリ模様を見せてくれていることに気付かされる。

 特に合尾輔の母親の死に関する密室での事件に関しては(第四話)、うまくできていたと感心させられた。伏線もしっかりと張り巡らされている。

 また、ロボット工学やAIの知識に関する事柄(フレーム問題やシンボルグラウンティングなど)について作中で簡潔に説明してくれていて、工学系の読み物としても楽しむことができた。さらには、そういった事柄をうまくミステリに掛け合わせているところもさすがといえよう。なかなかうまくできた、最新テクノロジー・ミステリとして出来上がっていると感じられた。


メーラーデーモンの戦慄   6点

2018年09月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
「一週間後、お前は死ぬ」というメールが届いたのち、本当に殺されてしまうという無差別連続殺人事件が幕を開ける。その被害者のなかの一人が上木らいちの顧客であったため、らいちは、事件捜査に乗り出すことに。また、刑事の藍川は前回の事件により精神的なダメージを受け、休職せざるを得なくなる。そんな藍川が訪れることとなったのは、全く流行っていない旅館「青の館」。そこで藍川は、一風変わった人々と巡り合い、いつしかメーラーデーモン事件について推理をすることとなり・・・・・・

<感想>
 相変わらず、変わった構成で楽しませてくれているなと。初っ端から、殺人予告メールによりOLが殺害されるのだが、間をおかずにあっという間にそのOL殺人事件の謎が解かれてしまう。そこからさらなる殺人予告メールにより事態は連続殺人事件へと発展してゆく。

 そして上木らいちが事件の謎を解いてゆくのかと思いきや、なんと今回さまざまな推理を繰り広げるのはドロップアウトしたはずの藍川(元?)刑事。彼がたどり着いた「青の館」。そこには、かつての上木らいちシリーズで登場した人々が集い、藍川と共に事件の謎を推理してゆくこととなる。

 何故か後半における推理の場面は、とある劇場での一場面のみにスポットが当てられ、そこから真犯人の正体を推理によってあぶりだすという趣向になっている。その推理の場面に関しても一筋縄ではいかず、さまざまなトリックを読者に仕掛けている。

 読みどころ満載と言いつつも、なんとなく最後の推理では場面を限定し過ぎて、小さくまとまってしまったように思えなくもない。それでも、真相の動機となる携帯業界に関するとある話については、苦笑せざるを得ない。




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