<内容>
「眩 暈」 (別冊文芸春秋二二九号)
妻の妹に妄想を抱き、落ちていく男・・・・・・
「人 形」 (オール読物1999年2月号)
近所の年上の男に恋心を抱きつづけていた女が、男を追ううちに売春婦となる。そしていろいろな男に抱かれ、幼なじみだった男(恋を抱いている男の息子)に抱かれ、自分の親と彼の親たちの意外な真実を聞かされる。そしてやがて女は恋心を抱くその男と・・・・・・
「声」 (オール読物1999年5月号)
夫と子供がいる妻が刺激をもとめるために始めたテレクラによってやくざに利用され落ちていく・・・・・・
「M」 (オール読物1997年12月号)
出張SM倶楽部の女におぼれた男はそれから・・・・・・
<内容>
喧嘩、踊り、酒。”金狼”を組み、渋谷で暴れていたころのすべて。そして、ヤクザを刺し、少年院へ。今はチンピラの舎弟、覚醒剤の売人。毎日が澱んでいる。新田隆弘は兄貴分の紫原の命令で、高校生が作った売春の組織を探っていた。組織を仕切っているのは渡辺栄司、学業優秀の優男。だが、仲間、女、誰もが彼を怖れ、平伏している。隆弘の拳よりも、何よりも。何故それほどに怖れるのか?「隆弘も栄司を知ったらわかるよ」苛立つ隆弘の前に栄司が現れたとき、破滅への疾走が始る。
<感想>
人は誰もが栄司のように生きたいと思う。欲望に正直に。しかし人には感情、傷み、悲しみ、恐怖があり、そして明日のことを考えれば常に常識の中に生きざるを得ない。隆弘はその社会の中であがきつづけるが、結局は上下関係などのしがらみに押さえつけられて生きてゆくことになる。そして欲望のまま赴く栄司に会ったとき、彼は壊れていく。壊されていく。そしてごく平凡な女教師であった潤子もまた同様に。人は本能のままに赴くもの(虚)と関わると、狂気し、落ちていく。
エルロイのホワイトジャズのような調べと共に虚に関わった者達が落ちて行く様を描いている。ただこの著者の本というのは基本的に皆、破滅へ向かう人々ばかり書いているので目新しさは感じなかった。ただ今までの作品は中国系、東南アジア系、南米系と外国を味あわせるような雰囲気があったが、今回は純日本系である。そのせいか読みやすくは感じた。
暗黒小説を書くとして公言している馳氏ではあるがどうせなら、隆弘よりも栄司のような人物を主人公にして書いてみたらどうだろうか。たしかに虚そのものよりもそれを取り巻く人間を書いていったほうがより現実的な恐怖が味わえると思うのだが、虚ろそのものを書いたものを読んでみたい。
<内容>
「鼬」 (問題小説:1997年1月号)
「古惑仔」 (問題小説:1997年8月号)
「長い夜」 (問題小説:1999年9月号)
「聖誕節的童話」 (問題小説:1999年12月号)
「笑窪」 (「孤狼の絆」角川春樹事務所刊:収録)
「死神」 (問題小説:2000年5月号)
<感想>
副題に新宿無国籍タウン・ストーリーズと銘うってある馳氏のノワール短編集。
馳氏の短編集と聞けばどのような作品が集まっているかは誰もが想像することができるであろう。本書ではその期待をはずすことなく、まさに救いようのない内容の短編が集められている。
そのなかで特徴を挙げるとするならば、日本に出稼ぎに来た他のアジア人がなんらかの形でかならず作品にかかわってきている。それは主人公であるときもあれば、その主人公に関わる形のときとさまざまである。なにとはなしに、“日本への出稼ぎ=ノワール”という図式を思い描いてしまう。
これらの短編のなかで特に印象深かったのが「聖誕節的童話」。馳氏によるクリスマス・イヴというものがいかんなく発揮され描かれている。
また、「鼬」の“貧乏な人大嫌い、日本人はもっと嫌い”というセリフは痛烈である。
あと、一番救いのない話かと思えるのは「長い夜」あたりであろうか。
日本に来たアジア人が主のようでありながら日本自体が痛烈に語られているようでもある本書。ノワールと表現されるだけにはもはや留まらない。
<内容>
幸司は根室の町でロシア人相手に商売をする電気店を営んでいた。そんなある日、東京へ出てヤクザになったはずの裕司が幸司のもとに現われる。裕司が言うには彼ら二人の共通の知人である敬二がヤクザの金を持ち逃げしたというのだ。その金額は2億円!
多額の金を巡り、幸司と裕司は旧友からヤクザ、政治家までを巻き込み根室の街の中、狂気の争奪戦を繰り広げる。
<感想>
馳氏の長編作品を読むのは久しぶりである。相変らず圧倒的な内容で一気に読ませてくれる。ただし正直なところをいえば、相変らず内容に変わりはない。読み始めてしまえば、登場人物らの行く末と言うものはだいたい占うことができる。とはいうものの、今回のメインは大金の争奪戦。誰が勝者と成りうるのかという行方を中心に物語に釘付けにされた。
また、変な話であるのだが本書を読んでいて微妙に癒された部分もある。もちろん暴力や殺人が満載でそういったものに対しては眉をひそめてしまう。しかし根室にひとり住み、ロシア人相手に商売を行っている幸司の孤独に対しては何かくるものがある。地元を飛び出しながらも、結局は憎むべき地元に戻ってしまい鬱々と暮らす日々。夢に見るのは、ここから出てそして誰も知らないところで匿名の人間として暮らしたいという感情に何か心をうたれてしまった。
いや、本書はなかなかよかったと思う。ただし、馳氏の長編はたまに読むくらいで丁度いいのかもしれない。
<内容>
カナダ西海岸ヴァンクーヴァー。市警の警官である呉達龍は、ヴァンクーヴァー中華社会の大物のために働いていた。そうしたなか、巷ではヘロインの強奪事件が度々起きていた。普通であれば、裏社会ではすぐに情報が出回るはずなのだが、一向に誰が行っているのかわからない。呉は、その上前をはねることができないかと動き出す。日系カナダ人のハロルド加藤は、会社社長の父親を持ち、キャリア志向の高い警察官。彼は政治家の娘と婚約して、高い地位を目指そうとするが、その婚約者の父親のために選挙の相手である中華系の大物の弱みを探ろうとする。元警官の日本人、富永は、現在香港マフィアの下で仕事をしており、そのマフィアのボスに頼まれてヴァンクーヴァーへボスの娘を連れ戻すためにやってきた。三者の思惑が交錯し、やがてヴァンクーヴァーに血の雨が降り注ぐこととなり・・・・・・
<感想>
当時、文庫で購入して以来の積読本。購入してから10年近くが経つ。馳氏の作品では初期に書かれた部類に入るもの。
読み始めて感じたのは、いつもながらのエルロイ節が相変わらず炸裂しているなと。しかもこの作品では、話の構成・展開までがエルロイ調。もはや完全に和製エルロイ作品。和製と言っても、舞台はカナダなのであるが、その地における日系や中華系の抗争を描いた内容となっている。もともと積読となっていたのは、上下巻に分かれているうえ、それぞれが500ページを超え、全部で1000ページを超す大作とあって、やや敬遠気味になり、読むのを先送りしていた。読み終えるまでに2週間くらいかかるかなと思っていたのだが、実際に読んでみると4日間で読み終えてしまった。長大な作品にもかかわらず、圧倒的なスピード感を誇る大作となっている。
馳氏の作品を読んだことのある人は、だいたいどのような内容かはわかると思うのだが、その期待を全く裏切らず予想通りの作品。ただ、その予想通りの範疇の中で、濃い内容の暗黒小説を見事に描き切っている。自分の欲望のままに行動し、やがて歯止めがかからなくなる中華系の悪徳警官。己の性癖におびえ続けながらも、自分の父親の秘密と事の真相を捜査し続ける日系人の警官。マフィアのボスの娘を連れ戻すという任務を受けながらも、人の弱みを探り出そうという欲望にかられ続ける元警官の日本人。この3人を中心に物語が回り続け、やがて大きなカタストロフィを迎えることとなる。
どの登場人物も中途半端なところでは満足せず、ひたすら執拗に余計な事に手を出し、どんどんと厄介事による深みにはまっていくこととなる。そんな彼らだからこそ、行き着く先はだいたい想像ができてしまう。しかし、彼らがどのような過程を経て、どこへ堕ちてゆくのかということについては、興味は尽きず、ひたすら本のページをめくり続けることとなる。登場人物らの複雑な相関関係から、舞台裏で起きている麻薬強奪事件、さらには過去に起きた事件の秘密などといった全てをからめて大きな物語を構成している。もはや単なるクライムノベルとは言い表すことのできない、暗黒大河小説とでも言いたくなるような作品。
<内容>
タイ生まれの日本人、十河将人。将人は一時期日本で暮らしていたこともあったが、今はタイに戻ってきており、風俗に女を斡旋する仕事をしていた。あるとき、将人はタイでの幼馴染、富生から仕事を頼まれる事に。とある中国人の女をシンガポールに連れ出して欲しいというのである。胡散臭い仕事ながら高額の報酬に目がくらみ引き受ける事に。しかし、それが思わぬ厄介ごとを背負い込む羽目になろうとは・・・・・・。将人は中国人の女・メイと二人で、何者かの襲撃から逃げ回ることに。
<感想>
いつもながらの馳氏の本である。ようするに曰くつきの男女が出てきて、互いに憎み合い、信用せず、ひたすら己の欲望に突き進むというものである。それを本書ではタイという舞台において行っているというものである。
といっても、そういった内容であろうという事をわかってて読むのが馳氏の本のリピーターである。そのようなものが好きでなければ最初から読まなければいいだけのことなのである。
二人の男女が色々な筋のものから追われながらも、その場しのぎの手段で逃げ回ってゆくのだが、あぁ、だいたいこういった結末になるのだろうなぁ、などと想像しながら読んでいた。そして実際、結末はその通りになる。
本書を読んでいて、ひとつ感じたのは“旧日本軍のお宝”というネタ。こういったネタが本などで書かれる際は、だいたいが眉唾ものであるという事は相場が決まっている。このへんについては、もう少し一ひねりできないものかなと思わずにはいられなかった。なんだったら、ものすごい財宝がでてきたっていいじゃないかと思うのだが、なかなかそういったものにはお目にかかれない。かえって、莫大な財宝が発見されるようなネタを書いたほうが注目されるのではと思ってみたりして・・・・・・
<内容>
李基は生粋の中国人であったが違法に入手した国籍により日本人として暮らしていた。基は同胞の中国人の中で日本人国籍を持つものとして重宝されながらも、その正体を麻薬取締官に握られたため情報を流しながら身を潜めて生きていた。
そんななか基の親分格である韓豪が基の見ている前で何者かに殺される。韓豪が誰に殺されたのかを突き止めろと基は麻取りとやくざからせっつかれる羽目に。のっぴきならない状態になった基は一人の情報屋の名前を聞きつける。基はわらをもつかむ思いでその情報屋を訪ねてみることに・・・・・・その情報屋は劉健一という名前であった。
<感想>
とうとう“不夜城”もこれで完結を迎えてしまった。十年前にデビュー作でありながら、その年の話題を独占した伝説の本“不夜城”。そして2作目の“鎮魂歌”に続いての最終章。ここで劉健一と楊偉民の争いも終止符が打たれることとなった。
ただ本書についていえば、“やはりこういう終わり方をするしかないのだろうなぁ”という感想になってしまう。センセーショナルなデビュー作の登場のときと比べれば、馳氏自身が類似した作品を何冊も描いていたり、ノワールといわれる作品群が数多く書かれたりという事でマンネリ気味な内容と感じられてしまうのは致し方ないこと。しかし、そう思われるのもしょうがないなか、本シリーズは幕が引かれなければならない物語である。
とはいえ、切実に願っていたのは劉健一なり、楊偉民なりが主役としての物語を描いてもらいたかったということ。それが全く今までの話と関係のない主人公を登場させ、劉健一と同じ道をたどらせてしまうというのは芸がないようにも感じられる。特に本書の主人公が女のために身を落としていくというストーリーはあまりにもマンネリ化しすぎではないかと感じられた。
結局のところ“虚”の高みに上ってしまった人間は主役として描かれるものではないというのが今のところの馳氏の作風という事なのであろう。とりあえず、これで“不夜城”からの一つの呪縛(といっては失礼かもしれない)から解き放たれることになると思うので、新しい作品をどんどん描いていってもらえればと思う。