<内容>
探偵沢崎は銀行銃撃事件に出頭した男・伊吹哲哉の娘から、父の無実をはらしてほしいと依頼を受ける。とりあえず、沢崎が警察へと出向いてみるとその伊吹が護送されるところであり、伊吹が銃撃されようとする場面に出くわしてしまう。沢崎は銃撃犯の車へ自分の車を衝突させることにより伊吹の命を救うことに。しかし、それた銃弾が伊吹を護送していた警官にあたり、その警官は殉職してしまう。そうした事から沢崎は事件に巻き込まれ、沢崎自身も事件の渦中に飛び込んでいく。そしてさらにその事件はさる権力者の老人の誘拐事件へとつながって行き複雑な様相を見せ始める。
<感想>
今年のうちに読むことができるなど誰が想像できたであろうか。私立探偵・沢崎が帰ってきた。いやもう帰ってきただけで満足である。
前作、「さらば長き眠り」はシリーズの一まとめの作品という事で、何か本来の沢崎シリーズとは様相が違っていたような感じがした。しかし、ようやく新シリーズと銘打っての新刊が登場し、ここで一つの落ち着きを取り戻したという気がする。
今回の事件はなかなか複雑な様相を見せている。容疑者銃撃事件から始まり、誘拐事件、身代金事件、はたまた沢崎自身が狙われたりと読んでいる途中ではどこがポイントとなっているかがわかりづらいものがあった。それが後半になってようやく複雑に思えた事件も、実は二つの流れの事件が別々にあり、それがどのように絡み合っていたのかという構図が見えてくるようになっている。
今作では事件の取っ掛かりが微妙に思えたような気もするが、それは読んでいるうちに徐々に気にならなくなってきた。要するに沢崎という探偵は依頼された事件よりも、とにかく自分が気になった事件を選んで行動するのだなという事が改めて確認できる内容となっている。とはいえ、もう少しお金はもらっておいてもいいのでは、と思ったりもする。
いや、久しぶりに沢崎シリーズを読めて満足であった。やはりこの作品は独特の語り口(独特といってもチャンドラー調なのだけれども)と雰囲気を楽しむ小説なのであろう。でもこのくらいの内容であるならば、2年に1作ぐらいのペースで読みたいなと思わずにはいられない。
なんでも次回作はもっと早いペースで出すそうなのでこれからは期待してもいいかもしれない。あぁ、なんかこれを読んだらもう一回最初から沢崎シリーズを読み直したくなってしまった。
<内容>
「ミステリオーソ」を元に、その後発表されたエッセイ・短編・対談を追加し、再編集して「ミステリオーソ」と「ハードボイルド」の2冊の文庫に分冊したもの。「ミステリオーソ」は1995年以降に書かれたエッセイ・対談・短編を加えて再編集した増補版。
「飛ばない紙ヒコーキ」
「見た 聴いた 読んだ」
「視 点」
「トレンチ・コートの男たち」
「ジャズについての六つの断章」
「ジャズを愉しむ」
「同級生おじさん対談(中村哲)」
<内容>
「ミステリオーソ」を元に、その後発表されたエッセイ・短編・対談を追加し、再編集して「ミステリオーソ」と「ハードボイルド」の2冊の文庫に分冊したもの。「ハードボイルド」は小説に関するエッセイと文庫未収録短編等を収めたもの。
<エッセイ>
「作家たちについて」
「レイモンド・チャンドラー頌」
「小説を書くということ」
<ハードボイルド対談(船戸与一)>
<小説意外の沢崎シリーズ>
<文庫・単行本未収録短篇>
<感想>
原氏が語る「作家たちについて」のエッセイを読んでいると、かつて読んだことのある作家たちの本を再読したくなった。特にチャンドラー、マクドナルド、ハメットといったハードボイルド作家。これらの作家たちの主要な本は読んでいるのだが、このHPを立ち上げる前に読んでいるので、感想とかは書いていない。それらをまとめる上でも、またいつか再読したいと思っている。特にチャンドラーの作品あたりはぜひともまとめ上げたいところ。
他にもトニイ・ヒラーマンやロス・トーマスの作品などは再収集したい気持ちが湧き上がってきた。まぁ、集めたとしても読むのはだいぶ後になるのであろうが。
また、この作品の目玉はなんといっても沢崎の短編集にあると言ってよいだろう。この文庫を買った多くの人もこれが目当てというひとは結構いたのではないだろうか。
まぁ、短編といいつつもショートストーリーというほどのものでしかないのだが、「愚か者死すべし」を読んで、次の作品を待つ間の場つなぎくらいにはなるものだと言ってもよいだろう。一応、沢崎の物語の空白を埋めるという役割をしている重要な作品もあるのでファンは必見。
でもこれを読んだ事により、原氏のまとまった作品集や長編が読みたいという気持ちが沸々と湧き上がってくるのもまた事実である。
<内容>
沢崎のもとに紳士としか形容することのできない男が訪ねてきた。男は望月皓一と名乗り、消費者金融の支店長と努めているという。彼の依頼は赤坂の料亭の女将の身辺調査であった。依頼を引き受けた沢崎であったが、調査の結果を報告しようとしても望月と連絡がとれず、望月の務める消費者金融を訪ねてみることに。するとその消費者金融で、強盗事件に遭遇することとなる。そこで沢崎は海津一樹という青年に出会うこととなり・・・・・・
<感想>
久々というか、前作から間が空きすぎ。その間、主人公の探偵・沢崎も年をとっているようで、時代に取り残された最後の私立探偵といわんばかりの活躍を見せてくれる。
のっけから色々な展開がなされ、読者の気持ちを十分に惹きつけるものとなっている。紳士然とした依頼者、その依頼者を訪ねようと金融会社に訪れた沢崎は強盗事件に巻き込まれる。人質をとっての強盗事件が長引くかと思えば、意外とあっさり解決し、その後依頼者は行方不明(?)。そこで出会った海津という青年と邂逅しつつ、沢崎がさらなる調査を進めてゆくと、新たな死体が・・・・・・
といった感じで、事件が立て続け手に起こってゆく。目まぐるしい展開に翻弄されつつも、沢崎は独自の調査を進めつつ、さまざまなコネクションを利用しながら着実に事件の真相へと迫ってゆく。
この事件調査の過程で感じられたのは、意外と沢崎って面倒見がいいのではと。警察とも何気にある程度良好な関係を築いているように思えるし、過去に世話になった人たちとのつながりもしっかりと保っている。孤独な探偵という設定ではあるものの、これだけ面倒見がよければ、もっと彼の周囲に人が集まっていてもよいように思えてしまう。これは、沢崎が年を取って性格がやや丸くなったということを示しているのであろうか。
事件の解決については、全てがひとつに結び付くというようなものではなく、バラバラのものが混在していたという感じ。まぁ、それでも私立探偵が捜査する事件としては悪くはないものであったように思える。とにかく面白く読めたことは事実であるので、何だかんだといいつつも、読み続けたいシリーズであることには変わりない。