<内容>
札幌の歓楽街ススキノで便利屋をなりわいとする“俺”。いつものようにバーへ行くと、そこで待っていたのは大学の後輩と名乗る男。彼は、行方が分からなくなった彼女を捜してほしいというのである。しぶしぶ引き受けた俺であったが、調査を進めてゆくと、怪しげなデートクラブにまつわる殺人事件と恐喝事件に巻き込まれることとなり・・・・・・
<感想>
再読は20年ぶりくらいになるのだろうか。HP上に感想を挙げていなかったので、再び読んでみた。すると、この作品に以後に登場するキャラクターが多数、すでに登場していたという事を知ることができた。
本書の内容は、ススキノを舞台に、名前が明らかにされない“俺”という便利屋(賭けの他、色々な仕事を引き受け生計を立てている)が、大学の後輩から依頼され、失踪した彼女の行方を捜すというもの。探偵は、ススキノで生きる住人ゆえに、色々な伝手を持っている。そのさまざまな伝手や、今までススキノで培った経験を利用して、失踪事件に挑んでゆく。探偵と言いつつも、生業はあくまでも便利屋で、決して探偵と名乗るような者ではないので、ややいい加減なところもあるのだが、何故か一度引き受けた事件については信念を持って解決しようとする。いい加減な生き方をしているように見えながらも、周囲の人々には信頼されており、それなりの矜持を持って日々生活しているのだろうという事はわかる。
失踪事件については、捜査を進めれば進めるほど、余計な騒動を巻き起こし、事態がややこしくなってゆく。実は、“失踪した”ということのみ取り上げれば大したものではないのだが、そこに付随している事件の方がややこしく、探偵はその背景を調べることと、それにより降りかかる火の粉を払うのに奔走することとなる。
このシリーズ最初の作品を読んで、後々にも登場するキャラクターだと気づけたのは、ヤクザの桐原、居酒屋で働くおやじさんと店員のヒロ、デートクラブで働く女モンロー、これらは他の作品で重要な位置をしめるキャラクターとなっていたような気がする。特にモンローは、ここに既に登場していたのかと驚かされた。あと、新聞記者の松尾、空手の師匠でもある友人の高田、ケラーのマスターなどはシリーズキャラクターとして当然の登場。
私がこれを再読したのは、2016年12月であるのだが、ススキノ・シリーズの最新作「猫は忘れない」が5年以上が経っている。東氏の最新作が出てからも4年以上が経過しているのだが、現状はどうなっているのだろうか? 著者はまだ60歳くらいで、作家としては十分現役と思える年代であるのだが、重病を患ったりしていないかが心配である。
<内容>
バーで酒を飲んでいた“俺”は“コンドウキョウコ”と名乗る、覚えのない女から奇妙な依頼をされる。サッポロ音興という会社の社長に会って、“去年の8月21日の晩、カリタがどこにいたかを聞け”と。とりあえず、その依頼に従った“俺”であったが、その帰り道、何者かから命を狙われる羽目に。そうしてコンドウキョウコに関わった“俺”は過去に起きた、地上げにかかわる殺人事件に巻き込まれてゆくことに。そして事件を調べていくうちに、“コンドウキョウコ”という女は既に亡くなっているということを知り・・・・・・
<感想>
ススキノ探偵シリーズの2冊目を再読。これらシリーズの初期作品は、最初に読んだのはずいぶんと前の事なのですっかり忘れてしまっているのだが、この作品のラストについては、うっすらと覚えていた。それほどのインパクトのある作品。
探偵の“俺”が“コンドウキョウコ”と名乗る見知らぬ女性からの依頼を引き受けていくことにより、さまざまなトラブルに巻き込まれる。しかも、その依頼の関係者たちを調べてゆくと、地上げに関わる事件を発端に、いくつかの殺人事件の存在が浮き彫りになってくる。
探偵が事件に巻き込まれつつも、なんで自分が命を狙われる羽目になるのか? いったい裏には、どのような背景があるのかということを、半ば強制的に調べてゆかなければならないこととなる。謎の女性“コンドウキョウコ”の正体と目的に悩まされつつ。
そうして、探偵が巻き込まれた件を含めての目的が最後の最後で明らかとなる。こうした展開のミステリというのもちょっと異色というか、なかなかないものゆえに、かなり印象的な内容と言えよう。ひとりの女が心に秘め続けた想いと行動には、思わず言葉を失ってしまう。
<内容>
日本が二つの独立国家に分断され、北海道が日本民主主義人民共和国それ以外の部分が日本共和国となり、かつ北日本の首都である札幌の一部分だけが、南日本の飛び地になっているというパラレルワールドにおける物語。
日本共和国の情報機関所属の諜報工作員・岡田隆は、東日本で捕捉された潜伏工作員の救出のために東西に分断された札幌に向かった。一方、日本民主主義人民共和国の国境警備局次官の平良忠孝は、仲間の救出のため、越境潜入した南日本の工作員に、自身の亡命を賭けようとしていた。
運命の時は、国境の橋を越えて迫りつつあった。
<内容>
いつものようにケラーで呑んでいた<俺>は、偶然知り合った女性から助けを求められる。彼女は、安西春子という中学生教師であり、生徒がススキノの盛り場から連れ戻すのに付き合ってもらいたいというのである。<俺>は春子と一緒にいき、無事に中島翔一という生徒を連れ出す。その生徒は、元々は真面目であったが家庭の事情でグレ始めてしまったという。<俺>はその後、中島翔一と話をし、意気投合する。そうしたなか、また春子から連絡が入ることに。翔一の友人が惨殺され、そして翔一は行方不明になったというのである。<俺>は、使えるだけの伝手を使って、なんとか彼の行方を探し出そうとするのだが・・・・・・
<感想>
ススキノ・シリーズ、3作目を再読。行方不明になった高校生の少年を救い出そうとススキノ探偵が奔走する。
前作「バーにかかってきた電話」と比べると、やや荒めの内容という気がするのだが、これはこれでシリーズらしい作品とも言える。何気に、高校生の男子ひとりの行方を捜すだけであるのに、惨殺死体から、やくざっぽい一団に襲われたりと、なんでそこまで大事になる? と、トンデモない展開。
行方不明になった少年は、探偵自身には大した関係のない人物であるにも関わらず、その少年を気に入ったというだけの理由で全てを投げうって少年を助けようとする探偵の行動に心打たれる。そこにちょっとした女教師へのスケベ心を入れるところは、照れ隠しのようでもあり、これこそシリーズらしさのようなものを感じ取ることができる。
最終的には、地域開発の裏側に迫り、そこからとんでもないものが浮き彫りになり、さらにはとんでもない化け物までが出てくるところは、もう絶句。最後の最後にはアクション巨編のようになってしまっているところがなんとも。ただ、これはこれでやり切った感があって良いと思われる。
<内容>
過去を隠し、人目を避けて山奥で暮らす榊原健三の許に、かつての暴力団仲間が現れた。その男が見せた数枚の写真には、髪型をかえて容貌が変わったが、健三が決して見間違うはずのない多恵子の姿が写っていた。多恵子が狙われていると知ったその瞬間から、健三の闘いがはじまった・・・・・・。札幌に進出を企む関西暴力団との抗争に巻き込まれたかつての恋人を、男は守りぬけるのか!?
<感想>
むちゃくちゃです。むちゃくちゃ強い、日本人ランボーが暴れまわります。しかも無茶苦茶な考え方で、殺す殺す。警察もこんな男ほっといていいのか? ヤクザより危険ですぜ!!
まぁ主人公はスーパーマンとしておいて、無茶苦茶さに目をつぶって読めば、なかなか面白い。これだけやってくれれば、かえって壮快である。
余談ではあるが、舞台は北海道なのだが、作中では北海道のヤクザが関西のヤクザのことを“関西弁”と連呼していた。この作品を読むと北海道人にとっては、関西人というのは異邦人なのだろうか?などとつい考えてしまった。
<内容>
「向こう端にすわった男」 (ミステリマガジン1992年7月号)
「調子のいい奴」 (イエローページ1994年1月〜7月号 「ススキノ・ララバイ」を改題)
「秋の終り」 (ミステリマガジン1994年12月号)
「自慢の息子」 (ミステリマガジン1995年11月臨時増刊号)
「消える男」 (書き下ろし)
<感想>
ススキノ探偵が活躍する短編集。探偵の“俺”がさまざまな事件に巻き込まれる・・・・・・というか、積極的に関わっていく部分も多々あるのだが。全編にわたってオフビートというか、結構肩透かしな内容の作品ばかり。それはそれでこのシリーズらしいなと思いつつ読むことができる。
特に「調子のいい奴」では、やけに調子のよい会社社長の調査をするのだが、これが度を超えていい加減というか、ここまでくるとホラーと言いたくなるような人物。でも業界ではこういう人物いそうだなと思いきや、あとがきにて書かれているのだが、著者のもとに「あの作品のモデル、うちの〇〇でしょう?」という問い合わせが多く来たというから笑えない。
今回は全体的に探偵が調査に乗り出すも、ただ単に精神をすり減らしただけというものが多かったような。それでも探偵自身、暇なのか、お節介好きなのか、好き好んで事件に巻き込まれてゆくのであるから、結末がどうであれ本人は幸せなのであろう。
「向う端にすわった男」 “俺”はバーの端っこにすわって、ひとりで飲んでいる男のことが気になり・・・・・・
「調子のいい奴」 調子のいい、業界崩れのような男の身辺調査をすることとなったのであったが・・・・・・
「秋の終り」 頼まれて風俗に売られた女を助けようとしたものの・・・・・・
「自慢の息子」 夏になるとススキノにやってくるホームレスの頼みを聞くこととなったのだが・・・・・・
「消える男」 自ら飲食店舗企画グループに関わる騒動に関わっていった“俺”は・・・・・・
<内容>
「待っていた女」
八年前、卑劣な罠で新聞記者を追われた畝原は、依頼探偵として一人娘の冴香を養ってきた。ある日、畝原は娘の通う学童保育所で美貌のデザイナー・姉川明美と出会った。悪意に満ちた脅迫状を送りつけられて怯える彼女の依頼を受けた畝原は、その真相を探り始めたが・・・・・・
「渇き」
佐藤と名乗る謎の人物からの依頼で端野という短大教授の後をつけSMクラブに踏み込んだところ、あられもない彼の姿を見ることに・・・・・・。その依頼人とは実は端野本人で自分の姿を誰かに見られたかったとか。そしてこの出来事から事件が始まってゆく。
畝原の元に村中静恵という女性から依頼がある。その内容というのは、求職先の一つであったタウン誌「札幌ナビゲーター」で面接をしたところそこの社長に言い寄られ、しかも複数の女性が、その彼女達が共同でその社長をやり込めてやりたいというものであった。畝原はついその依頼に乗ってしまう。計画は、村中静恵の仲間の宮野貞子が囮役を演じて社長を誘いホテルに入り、タイミングを見計らい畝原が踏み込んで証拠写真を撮る、というものである。
そして実行してみたところ貞子からの連絡は途絶え、心配してホテルの部屋へ行くと、貞子は惨殺死体となってそこに!!そして部屋から消えたと思われた社長はホテルの屋上から身投げしたと思われる状況で発見される。この事件をきっかけに畝原は根の深い犯罪の中に巻き込まれて行く。
死んだ社長の会社、「札幌ナビゲーター」の不快な噂。畝原を拉致しようとするものたち。特殊なアダルトビデオの世界。北海道の財界を牛耳るものからの突然の依頼。畝原は事件に巻き込まれた自分と娘を守るために戦い抜く!!
<内容>
北海道来内別市は、原始林の中に突如出現したピンク街。安心して遊べる街だが事件も起きる。そんなとき警察が頼る名探偵が、人気風俗嬢・岸本くるみだ。明晰な頭脳と魅力的な身体で、今日も彼女が謎を解く!
<感想>
ユーモラスなハートフルコメディである。探偵とは銘うってはいるものの、さほど犯人指摘に根拠というほどのものはなく、あくまでのユーモラスな雰囲気を楽しむものだろう。楽しいのは、いやな奴は必ず殺されて良い人はめでたしめでたしという感じになる。勧善懲悪を貫いているのはわかり易くていいかもしれない。サスペンスドラマにぴったりの趣であるが、背景が背景なだけにそれも難しいだろうか。
<内容>
みんなに愛されていたオカマのマサコちゃんが、めった打ちにされて殺された。若い頃に彼と愛人同士だったという北海道選出の大物代議士が、スキャンダルを恐れて消したのではないかという噂が流れ始める。マサコちゃんの友人だった<俺>は、周囲が口を閉ざすなか調査に乗り出した。やがて身辺に怪しげな男たちが現われ、奇怪な事件が・・・・・・
<感想>
探偵、社会派事件に巻き込まれる! といったような様相の内容。友人の無念をはらすつもりの捜査が、個人では預かり知れないようなレベルにまで発展していて、その背景の大きさと内容のくだらなさにまきこまれつつも探偵はひとり真相を暴こうとする。
事件によって都市や国を取り巻くいろいろな背景が明るみにさらされる。その矛盾に強いられながらも、その現場で働く者達は自分達の基準に沿って活動している。はたから見るとその基準というのはどうにも間違っているようにしか見えない。しかし、それを間違っているとはいってはいけない(いえないのではなく)のが世の中であると。本書を読み、そんな世の中を主人公はひとりあがらっているように感じられた。
そして探偵は自分自身の社会通念に従ってその世の中の流れとは違う方向に歩き出す。当然彼と同じ方向を歩いているものはいなく、彼は孤立するのだが、その世の中の矛盾を感じ取っている者達からなんらかの手が彼に差し伸べられる。時として強引に自分の流れに引き込むこともあるのだが。
別に社会を立て直そうとか、そんな大きなことを主張したいわけではないのだろう。ただ、それでも時には間違っていることは間違っているのではないか? と疑問を口にすべきではないかという思いが伝わってくる。それの良い悪いは別として、少なくともそれがこの主人公の生き方なのであろう。
<内容>
昔、凄腕の始末屋として恐れられた榊原健三は、今は山奥で木彫り職人として暮らしていた。作った商品を卸しに町へと出かけたとき、榊原はテレビで保育園での人質事件のニュースを目にする。そしてそのテレビの画面に昔の恋人であった多恵子の姿が写ったのを見て、何かを感じた榊原は札幌へと向かう。
その事件で人質となっていたのは多恵子の息子ともうひとりの児童、そして保母の3人。事件は犯人が保母を射殺したときに、捜査員が犯人を射殺という形で終わった。しかし、その現場を一部始終目撃することとなった多恵子の息子・恵太は命を狙われることに・・・・・・そしてその恵太の命を守るべく健三が!
「探偵はバーにいる」のあの探偵も加わり、事件はますます複雑な様相へと・・・・・・
<感想>
「フリージア」の続編という位置付けの本。とはいうものの、前作に比べればだいぶ趣の違った本になっていると感じられた。
序盤は健三が中心に話が進められてゆくのだが、途中で持谷(仮名)(「探偵はバーにいる」の主人公)が出てきたことにより主導権が代わってしまったかのような印象を受けた。健三自身は多くを語るキャラクターではないので、物語のナビゲーターとしては扱いにくいところがあるのかもしれない。よって以降、扱いやすそうな持谷(仮)が前面に押し出されて物語が進められてゆくことになる。
そして物語は最終的には人情者となってしまったようである。これは前作「フリージア」の持つダークな雰囲気を払拭させたかったのかもしれない。健三のキャラクターというのはあくまでも“陰”というもの。これをそのまま用いると前作のようなダークな雰囲気がただようものとなってしまう。そこで本書では、健三を小学生の子供らと共に行動させることによって、その暴走ぶりを抑圧させたのではないだろうか。その分、本書はそれなりの落ち着きのあるハードボイルド作品として抑えられたかなと良い意味で感じられた。ただ、視点を健三と持谷、そして適役のみに絞らず、多視点すぎたのではないだろうか。視点を絞ったほうがもう少しスマートにできたのではと思うのだが。健三の暴走振りを薄めたのは正解だと思うのだが、薄まりすぎたのではないかとも感じられた。
<内容>
ちんぴらに袋叩きにされて入院した俺は、そこで偶然昔の彼女に出会う。彼女は俺よりも15歳年上で、付き合っていたのは20年以上も前のことであった。当時、彼女は突然姿を消してしまい、俺はもう死んでしまったのだと思い込んでいた。
その彼女から、田舎町に住むとある男に封筒を届けてくれと依頼される。ちんぴらとのいざこざから逃げ出したかった俺はその仕事を快く引き受ける。そして行ってみたところ、その町は少し前に高校生が金属バットで殺人事件を犯し、今だ逃亡中という事で注目されている町であった。町に入った途端、俺は自分自身に向けられる不穏なものを感じ取り・・・・・・
<感想>
そこそこ厚い本ではあるのだが、内容は少々薄かったかなという気がしないでもない。物語の全般にわったって、どうでもよい会話で埋められている部分が多く、これは文庫で読んでちょうど良かったかなと感じさせられた。とはいえ、いつものシリーズとしての安定度は十分にあるので、シリーズのファンであれば楽しんで読むことができるだろう。
本書の物語を要約すると、何も知らされずに持っていた雪球が勝手に転がり、それがどんどん加速して大きくなってゆき、いつのまにやら知らないうちにその雪球に自分も巻き込まれて一緒になって転がって行くというような話である。本当に今回の話は、ただ単に巻き込まれるだけというものだったように感じられた。
また本書を読んで強く感じられたことをもうひとつ。日本の田舎町をふと訪ねると、こうまでコミュニケーションをとれないものなのだろうかと不思議に思わされる。これを読んだ人は北海道の田舎町には、(ある意味)恐ろしくて行く気をなくしてしまうのではないだろうか。それとも田舎町というのは、こんなものが相場なのだろうか??
そして本書の物語で一番印象に残るのはラストの場面。そこで探偵をある出来事が待っているのだが、それに対しての探偵の受け答えが非常に印象的であった。探偵の過去をうかがうことができる、ちょっぴりほろ苦さも感じさせてくれた一冊である。
<内容>
高校3年生で受験を目前にひかえる松井省吾は、まじめに勉強しながらも日々ススキノへと通い、常連さんたちから酒をおごってもらい、ススキノで働く彼女の家に泊まるという毎日を繰り返していた。そんなある日、同じクラスの女子が覚せい剤不法所持により逮捕されたという。おせっかいな女子達から頼み込まれ事件を調べる事になった省吾であったが・・・・・・
<感想>
うーん、この本は不親切設計だなぁ、というのが一番の感想。何が不親切かといえば、この作品のなかで語られている物語がこの作品だけではきちんと語りつくされてないからである。というのも実はこの作品、他の出版社から出ている「駆けてきた少女」と「熾火」の3冊から成り立っているのである。
私は「駆けてきた少女」から先に読み、そのあとがきを読んで以上の事に気がついてこの作品を手に取る事にしたのである。ただ「駆けてきた少女」のほうは、まだ一冊の本としてきちんと成り立っているといえるのだが、本書についてはこの作品だけではなんとも中途半端なのである。しかも、本書(私が読んだのは文庫版)にはあとがきがついていないので上記のことが記されておらず、さらに不親切設計と感じられたのだ。
また、内容においても本書の主人公は高校生であり、巻き込まれ型のミステリとなっているため、主人公自身も全体の背景がわからぬままに、知らぬうちに大きな事件の中に巻き込まれていってしまうというものなのである。そして自分自身で事件の背景を調べることもできず、知り合いとなった探偵らしき怪しい人物から事の顛末を知らされることとなるしだい。
そういった物語上の背景もあり、この作品だけ読むとなんとも中途半端でわけのわからない物語を読まされた気分になるであろう。ただ「駆けてきた少女」のほうも読むと、わけのわからない部分が全て補完されているので続けて一緒に読んでもらいたい。
そして「熾火」という作品でこれらの2冊の顛末が完結されているとのことなので引き続きそちらも読んで行きたいと思っているところである。
<内容>
ちょっとした行き違いでガキに腹を刺されて入院することになった俺。脂肪のおかげで怪我はたいしたことなく、すぐに退院することができたが、見舞いに来てくれた付き合いのある自称・霊能力者のおばちゃんの依頼を引き受けることに。また、別の知り合いからは北海道の汚職を暴く“月刊テンポ”の執筆依頼が・・・・・・。軽く引き受けた事件が俺の腹を刺したガキの正体を暴き出し、さらにはとんでもない厄介ごとが降りかかってくる羽目に・・・・・・
<感想>
今作を読んで思ったのは、なんかエルロイ風だなと。エルロイが描くゴシップ誌“ハッシュ・ハッシュ”の代わりに、本書では“月刊テンポ”というものが用いられ、道警の汚職に迫っていくという内容。
ただし、本書はエルロイの作品ほど殺伐とはしていなく、終始ユーモア調を崩さずに物語が進行していく。ただ、そんなかけ離れた作風であるにもかかわらず、どこかエルロイ調を感じてしまうのである。
本書では大掛かりな汚職や、犯罪に食い入っていくものの、最終的には社会に変わりはなく、主人公自身も変わらず、そのまま世間は動き続けるという流れでしかなかったように思える。結局のところ“大山鳴動して鼠一匹”というか、あれだけ騒いでも何も変わらないのかと不満に感じられるところもあるが、世間なんていうものは結局そんなもんとも思えなくはない。結局はたいした主義主張をもたない探偵があれやこれやと騒いだところで何も変わらないのだと言われているような気はするけれども、それでも主人公の“俺”自身は行動したということ自体に満足を感じられたのではないだろうか。
なんとなく、そのような虚無的なものが感じられながらも、なぜか面白い小説を読んだような気にさせられるのだから不思議なものである。
あと、本書を読んでいるときに説明不足ではないかと感じられるところがいくつかあった。それもそのはず、実は本書で語られる事件は双葉社出版の「ススキノ・ハーフボイルド」と角川春樹事務所出版の「熾火」の2冊にリンクしているのだという。実はあとがきでそれを知ってすぐに、この2冊を買ってきてしまった。なるべく、これら2冊も早めに読んで、さらなる東ワールドを堪能し尽くしたいと思っている。
<内容>
私立探偵の畝原がとある仕事の依頼をこなしていたとき、突然、彼の足に誰かがしがみついてきた。足元を見ると、それは血まみれの子供・・・女の子であった。至急、救急車を呼び、病院へと運ぶことに。その際、救急隊員から彼女は体が傷だらけで、臓器の一部が抜き取られていると告げられる。翌日、詳細を知るために病院を訪ねてみた畝原。すると駐車場で何者かが昨日の女の子を拉致しようとする現場に出くわすことに。女の子はなんとか守ったものの、畝原の友人でカウンセラーの姉川が代わりに連れ去られてしまう。そして彼女をさらったと思われる者から畝原の下に電話がくるのであったが・・・・・・
<感想>
本書を手に取ったのは、先に「ススキノ、ハーフボイルド」と「駆けてきた少女」の2作品を読んでおり、この「熾火」と三冊でひとつの物語を形成しているということを「駆けてきた少女」のあとがきに書いてあるのを見つけたからである。実際に先の2作品を読んでみて、それらが密接に関わり合いがあるということがよくわかった。そして、続けて本書を読んでみたのだが・・・今作はそれらとは独立した作品だと言ってもそん色はないと思われる。
今回、この作品を読み始めたときは先の2作の補完的なものだと考えており、今までの事件のまとめのような内容になるのだと思い込んでいた。しかし、実際に中身を見てみると、そんな思いは吹っ飛んでしまうほど、別個の恐怖と陰惨さに満ちた事件が待ち構えていた。
いきなり組織的に虐待された少女がみつかり、主人公・畝原のプラトニックな恋人ともいえる姉川がさらわれ、サイコパスのような犯人から電話がかかってくる。何がなんだか主人公さえ状況がわからぬなかで物語は展開されてゆくことに。また、全体的な背景としては道警の汚職というものを扱っており、ひたすら重い闇のなかで主人公は孤軍奮闘することとなる。
ただ、物語上で不満を感じられたのは、事件の背景があまりに大きいのと、起こった事件があまりに突発的なもののためか、主人公の畝原が探偵として機能していなかったように思われたところ。基本的に事件は、畝原があちらこちらへと移動しているうちに勝手に収束へと向かって行ったようにさえ思えた。
というような内容で、ひたすら思いサイコサスペンスを読まされたという印象が残る作品となっている。これだけ述べると、「ススキノ、ハーフボイルド」や「駆けてきた少女」と全く関係がないように思えるかもしれないが、実際にはそれら2作のキーパースンであった柏木という人物のてん末が本書で描かれているのである。その柏木という人物の闇が三作通して描かれており、本書ではその闇たるものが最悪の形で展開して行き、最悪の形で終わるように描かれている。
本書を読んで後に思ったのは、3作品を通しての流れよりも、畝原シリーズの4作品目として流れのほうが気になり、これは畝原シリーズも再読もしくは未読のものを読んだほうがいいのかもという気にさせられている。これはいいように東氏の術中にはまってしまっているような気が・・・・・・
<内容>
ススキノで何でも屋をしている“俺”のもとに、引退した警察官である種谷からとある依頼が舞い込んだ。それは未解決になっている女子高生行方不明事件に関係する。その少女は未だ発見されていないものの、容疑者とみなされる男がいて、その男の家をどうしても調べたいのだが証拠がないため往生している状況だというのである。そこで“俺”はその男と仲良くなって、事件の真相を容疑者から聞きだそうとするのだが・・・・・・
<感想>
いつものススキノ・シリーズであるが今回はまた変わった内容。話の核としては、行方不明になった女子高生の行方を捜すというもの。そして、それを成すために行われるのは主人公がひたすら嫌な男に付き合って酒を飲み交わさなければならないということ。しかも何ヶ月も・・・・・・
という、奇妙な状況にも関わらず、安定したシリーズ作品であるためか、リーダビリティを失う事はなく最後まで読めてしまう。とはいえ、ターゲットになっている男の変な人間っぷりというか、嫌な人間っぷりがまた度をこしている。ひょっとすると、ここに出てくる人物は著者の体験談を語ったものではないかとかんぐりたくなってしまう。
最後は大団円を準備しつつ、からぶりに終わったかのようで、実は大団円となりつつという何とも珍妙な終わり方ではあるが、色々な意味でもの悲しい内容であるということもまた間違いない。
シリーズを通して読んでいると、主人公が何度もつぶやくように、“俺”という人物が年をとったなぁと痛感される一冊でもある。
<内容>
ススキノで探偵をしている“俺”は電車の中で携帯を使用していた若者にからむ男を目撃する。その男は札幌では有名人で、テレビでコメンテータとして活躍する本業イラストレーターの近藤雅章。酔っ払った近藤は若者を注意したものの、その行き過ぎた行為により、もめることとなったのである。近藤をとりなした俺は、連れだって電車から降りる。するとそこでホームに飛び降りた老婦人を近藤が身をていして助けるのを目撃することに。老夫人も近藤も無事であり、意気投合した近藤とは飲み友達となっていった。しかし、その近藤がある日、何者かに刺殺されてしまうことに。行く先々でトラブルを起こしていた近藤であったが、それでも俺は真相が知りたく、近藤を殺した犯人を見つけようと・・・・・・
<感想>
どうしようもなさそうな酔っぱらいを助け、その人物と友達になり、やがて事件に巻き込まれていく。という展開の話を読むと、どうしても「長いお別れ」を意識してしまう。本書はさすがに東直己版「長いお別れ」というようにはもっていかず、中盤以降は従来のススキノ・シリーズらしい展開となっている。
今作でふと思ったのは、やけに社会派小説といいたくなるような展開が目立ったこと。ひとつの殺人事件を通すことによって、振り込め詐欺や闇金融などといった極めて現代的な事件が浮き彫りにされることとなる。探偵の“俺”は友人を殺害した犯人を見つけたいという一心のみで、危険な世界へと入り込んで行くこととなる。
ただし結末に至って、探偵が満足のいくべき答えを見つけられたのかは微妙。そこで見出した真実はあくまでも個人的なものではなく、集団的というか社会的な闇をほじくり返しただけというもの。とはいえ、友のかたき討ちはできなかったものの、その探偵の行為によってひとりの老女を救うことはできたのかもしれない。このことを知れば、彼の友もあの世できっと満足していることであろう。と、考えながら探偵は今夜もケラーへ飲みに行くのではないだろうか。
<内容>
探偵の“俺”はモンローから手紙が届いているのを発見する。さっそくメールで連絡をとると、現在夕張にいて助けてほしいというのだ。モンローはかつて札幌では有名なデート嬢であったが、彼女と別れたのは20年以上も前。その後、モンローは沖縄で暮らしていたはずなのだが、何故こちらに帰ってきているのか。“俺”は夕張へ行き、モンローの周囲をうかがっているヤクザたちから身をかわし、彼女を道外へ脱出させようとするのだが・・・・・・
<感想>
主人公である探偵の人の良さがうかがえる、このシリーズらしい内容の作品と言えよう。助けを求めてきたのは20年以上連絡のなかったデート嬢。そのデート嬢と探偵の“俺”は決して友好的な関係だったといえるものではない。にも関わらず、探偵の“俺”は昔を懐かしみつつ、モンローという通り名の元デート嬢を救おうと奔走するのである。
そしてそのデート嬢を救うために探偵のあらゆるコネを利用することにより、さまざまなシリーズキャラクター達が登場し、物語をシリーズらしく彩ることとなる。このへんはお馴染みの展開で楽しませてくれるものである。
そうして最終的に事件が解決した後には、後味の良いものから悪いものまでさまざまな感情がひしめくものとなるのだが、そうしたもの悲しさもまたこのシリーズの特徴。シリーズらしさと、シリーズならではの時の経過をうまく表した力作である。こういう内容を味わうことができるからこそ、本書はシリーズの最初から読んでいく価値があるといえよう。
<内容>
“俺”がまだ探偵となる前、大学に通っていた頃、賭博や家庭教師のバイトをして金を稼ぎ、夜は町へ繰り出し記憶無くなるまで酒を飲むという毎日を繰り返していた。漠然と将来に対する不安を抱えながらも、そんな生活がやめられなかった。そんなあるとき、出会ったフィリピン人の女性に恋をしつつ、住んでいるボロアパートからは立ち退きを命ぜられた。そうした事柄にかかわっているうちに、さまざまな事件に遭遇することとなり・・・・・・
<感想>
ススキノ探偵シリーズの若き頃の日々を描いた作品。まさに“半端者”というタイトルにふさわしい青春の物語。
いつものシリーズ作品のように、全編通してというような謎や事件はない。何しろ主人公が探偵を始める前の単なる学生という身分にすぎないゆえに、トラブルを解決するための術もコネも未だない状態。しかし、そんな状態でもいくつかの事件が降りかかり、騒動に巻き込まれる羽目となる。
そういった騒動に対しても、何か具体的な策があるわけでもなく、ただ単に周囲の流れにのみ込まれながら、青年が大人へとなっていく様子が描かれている。若かりし頃から事件を快刀乱麻に解決していくというよりは、こんな物語の方がススキノ探偵らしいと言えよう。この作品単体としては、そんなにお薦めできるものでもないのだが、ススキノ探偵シリーズを読み続けているものにとっては、見逃せない一冊である。
<内容>
ススキノで探偵をしている“俺”は、知り合いのスナックのママであるミーナから頼まれ、彼女の旅行中、飼い猫の世話をすることとなった。そして猫に餌をやりにきたとき、部屋でミーナが殺害されているのを発見する。一時的に猫をひきとった“俺”は、ミーナがなぜ殺害されることとなり、誰が犯行を行ったのかを行き掛かりじょう調べることとなり・・・・・・
<感想>
今回は猫が登場するのだが・・・・・・なんとなく、あざといかなと。事件自体が地味というか、さほど大きくないものなので、スパイスとして猫を付け加えたのかなと。
内容はスナックのママが殺害された事件を探偵が追っていくというもの。そのスナックのママであるミーナの過去を追っていくと、暗い部分がわんさかと出てくることとなる。思いのほか陰鬱というか、暗い話になってしまったなという印象。
事件自体は地味と最初に書いたが、最終的にたどり着いた真相は決して地味とは言えないもの。驚愕の展開と嫌な後味を残す、ある意味見事なサスペンスチックなミステリとして仕立てられている。この内容を考えると猫はスパイスではなく、後味をいやすものとして挿入したのかなと考えてしまう。