<内容>
孤独に死んだ画家、東条寺桂。初老の学芸員矢部は彼の作品を追ううちに、不可解な「二重密室殺人事件」を掘り起こすことに・・・・・・
<内容>
小さな島に連続する死、そして死。現場に必ず現れるバベルの塔の絵。謎の言葉を口にする少女。連続する事件につながりはあるのか? 公務員・田村はその関連性に気づくが・・・・・・
<内容>
駆け出しのホラー作家が、ふとしたことから謎の少女とSL旅行をするはめになる。過去と向かい合いながら旅を続ける彼の前に出現したのは、「本格推理の幽霊」であった。
<内容>
西洋風の荒れ果てた古い洋館の地下室には、首なし死体が転がっていた。そして今また、少女の首が・・・・・・。奥本美奈はアルバイトをしていた喫茶店で、謎めいた女流画家・明石尚子に、モデルにならないかと強引に誘われる。明石の家に隣接する幽霊屋敷のような洋館“ヘル・ハウス”では、かつて美奈の同級生が惨殺される事件が起こっていた。明石と美奈は事件の深化と真相の究明に、いつしか巻き込まれていく。
<感想>
これから本格推理小説を書こうとする上での途上の作品、という感じがする。作品を読むと「ミステリであるし、本格のようでもある」というあいまいな感想を持ってしまう。本格推理小説であるかのような論理的展開が繰りひろげられるのだが、もしこれを本格だというと納得のいかない部分も残ってしまう。作品を評価するうえではミステリと見たほうが高い評価が得られると思う。
また、作者を特徴づけている巻頭の絵画の出展だが、作品の世界観を語る上では必要かもしれないが、内容や論理的な推理とはあまり関係がないので省いてもいいように思えるのだが。
<内容>
看板屋の仕事をしている楯経介は団城美和から招待され、美和の屋敷へと赴くことに。そこで楯は美和の婚約者の亜久直人が失踪していた事を告げられ、その行方をしらないかと尋ねられる。楯は亜久の行方については自分が関わっているのではないかと話し始める。それは絵を見る事によって特定の夢に入り込む事ができるという楯が見た夢の中での奇妙な話しであった。
<感想>
メタ・ミステリーだ、ものすごくメタ・ミステリーしている小説である。いや、メタというよりは“夢だ!”と言ってしまえばそれまでだが。
一応は本格ミステリーらしきものが語られてはいるものの、メタ的な展開の中で進められてゆくので、どこまで何を信じてよいのかわからない内容となっている。しかも途中途中に探偵役を担おうとする人々が推理を展開していくものの、これでもかとばかりに次々と推理が打ちのめされてゆく。結局何が言いたいんだろうと思っていたら、最終的にはあまりにも収まりの良い解答が用意されていて、驚かされてしまう事に。
本書の狙いは、徹底的に読者の推理的な思考を奪い去りながら話を進めて行き、最後の最後にて実はちゃんと推理小説してましたよと言わんばかりに解答を持ってきて驚かせるという、そういう趣向だったのであろうか? 何はともあれ、こんなミステリーがあっても良いのではないかと、読み終わってからつくづくそう感じさせられた。
<内容>
大物画家の私設美術館の開館日。展示室のドアを開けると、そこは死体の山だった。オープンを祝う(呪う)かのごとく、聖者殉教の絵そのままに、老人や少女が、腸を引き出され、乳房を抉られ、歯を抜かれ、針鼠になり・・・・・・。「聖エラスヌスは腸を引き出されて殺されるであろう。聖セバスティアヌスは矢を突き刺されて」招待客の新聞記者・持田の許に届いた不気味な手紙は、殺人予告だったのだ。血まみれの悪夢、狂気の大事件の幕が開く!
<感想>
著者の独特の持ち味とされているのは作中に絵画を用いることにより、ミステリの効果をあげる“図像学ミステリ”といわれるもの。今作も作中に絵画が挿入されているのだが、それがどれほどまでの効果をあげているものなのか・・・・・・
内容はいきなり凄惨でグロテスクなシーンから始まる。そしてその人数が限定された中での大量殺戮が“誰”によって“何故に”起こされたのかを解き明かしていくものとなっている。一見とっつきにくく感じられるミステリに感じられるものの読み始めるとなかなかリーダビリティがあり、その陰鬱なる世界へと引き込まれていく。また、サイコホラー的な惨殺シーンや奇妙な言動を起こすばかりの登場人物らにより、通俗的なサスペンスで話が終わってしまうのかと思いきや解決が論理的に示されるのには驚かされる。最後まで読み通すと、意識して本格ミステリーを書き上げようとしている意気が十分に伝わってくる一冊だというのがわかる。
ただし、なかなかの佳作だと思うのだが振り返ってみてみると結局は通俗ミステリーというような評価に落着いてしまう。それを逸脱するキーワードこそが“図像学ミステリ”だと思う。今現在の作品も作中に絵画が扱われているとはいえ、それはあくまでもそこに挿入されているだけであり、けっしてそれが物語と融合しているとはいえない。その美術的な要素がうまく生かしきれなければ、全体的に漂うレトロな雰囲気や登場人物のけだるさがただ泥臭いだけに感じられてしまう。これが“図像学”としてうまく生かしきれたときに著者の代表作たるものができあがるのではないのだろうか。少なくとも早く「殉教カテリナ車輪」を越えるべき一冊を我々のもとへと届けてもらいたいものである。
<内容>
探偵事務所を経営する杉崎は事務所の窓の下にしゃがみこんでいる女性を見つける。その女は美夜と名乗り、家から逃げてきたのだという。そして杉崎は彼女のペースに乗せられて、美夜とともに彼女の家に行くことになってしまう。また杉崎自身、偶然にも彼女の父親と過去に因縁があるということも絡んでのことなのだが・・・・・・。杉崎らが美夜の家に着いた途端、家族の一人が自殺を遂げ騒然となる。さらに外界から閉ざされた家の中でひとりまたひとりと何者かの手にかかり次々と殺されていくことに。
<感想>
出だしがいきなり伝奇的に始まったがゆえに、ミステリーではないのかなと思ったら実はミステリーであった! と思ったらそうでもないのか!? 妙なバランスの狭間に位置しながら奇怪なミステリー絵巻が繰り広げられる、今年最強の珍作!!
いやぁー、脈絡も無く人獣。著者いわく、「書きたくて書いた本」というだけのことはある。そしてギリギリ土俵際でミステリーのポジションにうまく留まるという展開は絶妙。そしてラストに犯人正体と動機を明かされたときには、妙な皮肉のような解決に変な納得をさせられてしまう。
変わった本がお好きというあなたにお薦めの一冊。
<内容>
ある屋敷にて行われた降霊会の際、霊媒師の波紋京介はテレパシーにより遠くに離れた人物を殺して見せると宣言した。そして実際に霊媒師が指名した人間はその時間に死亡していた。それは首吊り自殺を図ったとしか考えられない状況であり、しかも現場である家の中の家具の全てが家の外に置かれているという不思議な様相をていしていた。さらに死体が踏み台にしたと考えられるのはレオナルド・ダヴィンチの本であり・・・・・・
<感想>
なんと本書は“読者への挑戦”までもが付いた意欲的なミステリーとなっている。降霊会、遠隔殺人、密室、現場における不可解な状況などなどと、本格推理ファンの心を掴んで離さんとするような魅力的な要素に包まれた作品である。今年はミステリー界にとっては当たり年といえる年だと思うのだが、ここまでどうどうと直球勝負できた作品はなかったような気がする。
そして最後まで読んでみての感想はどうかというと、いや、これはなかなかのものであると感じられた。特に斬新なトリックが含まれているというわけではないのだが、最初から最後まで謎のオンパレードとなっており、最後の最後まで読者を欺かんとする姿勢がとても好ましく感じられた。トリックの一つについては、ややアクロバットすぎるように感じられるのもあったのだが、それはそれでバカミスっぽい強烈なトリックという見方もできる。いくらか無駄に思えた点もあるのだが、全体的に見て、これは文句なしの本格推理小説といってよいであろう。
どうやら本書は名探偵・妹尾悠二シリーズとしてシリーズ化されるのではないかと思う。この先も長く続けてもらいたいスタイルの小説である。
<内容>
作家と編集者はミステリーについて語り合っていた。推理小説に禁じ手などというものがあるのだろうかと。そんな二人の前にあるのが「蛭女」という作品。それは作家の知人が書いたもので、犯人当てを意識して書いたものだというのだが・・・・・・
【蛭 女】
名も知れぬ孤島に拉致されてきた女子高生とその教師。拉致してきたのは彼女達に復讐を誓うもの。そして女子高生と教師の一団は何者かに付けねらわれ、ひとりまたひとりと殺害されてゆくのだが・・・・・・
<感想>
読者をだまそうと意図して考えられた叙述ミステリー式の作品といえばいいのだろうか。読んでいて、何か怪しいなぁと思えた点はあるのだが、自分自身で完全な真相にまでたどり着けることはできなかった。また、著者が本当に意図していたことには気づくことができずに、あとがきにて補足として書いてあった事項を読んで初めてその真相に気がつくというなさけなさ。
本書では作家と編集者が話をしており、その途中に作家の知人によって書かれた「蛭女」というミステリーが挿入されている。本書はこの「蛭女」がページの大部分を占めており、最後はまた作家と編集者が出てきて話を締めくくるというものになっている。
この構成自体はうまくできていたと思え、実際に著者の意図に気づくことができずまんまとだまされてしまった。ただ、ひとつ感じたのは途中に挿入されている「蛭女」が少々長すぎたのではないかという事。この「蛭女」、確かにこれだけでも一冊のミステリーとしても通用する内容なのであろうが、本書の構成の意図からすればもう少し話を削ってあっさり目にしてもよかったのではなかったのではないだろうか。そのほうが、もっとすっきりと著者の意図が強く伝わったのではないかと感じられた。
それとメイントリックではないにしても、日本間に仕掛けられたからくりには笑ってしまった。ただ、これだけで終わらせてしまってはバカミスになってしまうなと思いつつも、短編か何かのネタとしては使えたのではないだろうかとも感じられた。
本書の読了後のカタストロフィはとある作品の読了後と似ているように思えたのだが、その作品についてはここで語らないほうがよいであろう(何しろ二重のネタばれになってしまうだろうから)。
<内容>
麻田葉子は会社からの帰宅途中、浮浪者風の男に襲われた。必死で抵抗した葉子は、勢いで浮浪者を殺してしまう事に。慌てた葉子は事件自体を無かった事にしようと、死体を車で運び、海に棄ててしまう。しかし、その日のことが原因で恋人との仲がぎくしゃくし、さらには、葉子が死体を棄てたところを見たという男から脅迫される羽目に。そして葉子はその男から不思議な鏡の話を聞く事に・・・・・・それが悪夢の始まりだとも知らずに。
<感想>
飛鳥部氏の新作ゆえに、どのような本格ミステリーが展開されるのかと期待していたのだが、読んでみると「なんだこれは!」と思わず口に出したくなるような作品であった。一言で言えば、とにかく“グロい”。これは生理的に受け付けない人も結構いるのではないだろうか(後からカバーの帯をよく見てみると、ちゃんとモダンホラーと書いてあったりもする)。
ということで、本格ミステリーが読みたくて本書を手にとったという人は注意が必要。飛鳥部氏の作品の中でいえば「ラミア虐殺」のような作風である。
ただ、本書が単なるモダンホラーなのかといえばそんなこともなく、ミステリー側にも片足を残したような部分もあり、良い意味であざとさが感じられるようになっている。そんなわけで、ミステリーと全くいえないわけでもなく、それなりに楽しめるエンターテイメント作品と言ったところであろうか。
とはいえ、何度も言うようにその描写は強烈なものがあるので、グロい描写が苦手だという人は要注意。
<内容>
両親を事故で亡くした中学1年生の如月タクマは母方の実家に引き取られることとなった。しかし、その母方の実家があるところは閉鎖的で数々の奇妙な因習が残る場所であった。タクマの祖父にあたる人物は魔術に傾倒していたと噂され、奇怪な状況の中で死亡していた。また、叔母は“ツキモノハギ”の巫女であるとか・・・・・・。タクマが住む実家に奇妙ないわれがまといつくせいか、彼は陰湿ないじめを受ける事になる。そんな中、タクマはオカルト研の部長をする根津京香と、何故か村で孤立する少女・江留美麗と出会うことに・・・・・・
<感想>
一言でいえば、詰め込みすぎ。さまざまなジャンル、さまざまな要素を一冊の本に詰め込みすぎている。これは、飛鳥部氏が久々に書く作品であったせいか、力が入りすぎてしまったということであろうか? この本の内容を二つに分けて、別々の本として出版すればちょうどよい分量ではなかったかと思われる。
本書は、一応というか、基本的には本格ミステリ作品であることは間違いない。しかし、その他にも“モダン・ホラー”というものも主題に食い込ませようとしたがために、話全体がややこしくなってしまったように思われる。これらを両立する作品というのも、できなくはないと思えるのだが、この作品では両者がうまく融合しているとは思えなかった。
また、本来の主題たる(と、読んでいるほうが勝手に思っているだけだが)ミステリのパートに関しても、ややトリックに拍子抜けのようなところがあったり、きっちりとはまっている作品とは思えなかった。
さらには、今はやりのボーイ・ミーツ・ガールというものまでもを盛り込んではいるようだが、こちらはさらにうまくいっていなかったように思える。話の内容レベルからすると主人公は高校生くらいでよいと思えるのだが、何故中学1年生なのかがよくわからない。
というわけで、見るべきところのあるミステリではあるのだが、それ以外のところが多すぎた作品という印象であった。ただ、本書の一番の見るべきところは作中に挿入された“オススメモダンホラー”という古今東西のホラー作品が紹介されている部分であると思うので、これだけは見逃してもらいたくないところである。
<内容>
友人に頼まれて、“奇傾城”へのオカルト系番組のロケに同行することとなった亜久直人。そのロケに同伴する霊能力者代理の示門黒という不思議な少女。彼ら一行は“奇傾城”で一晩過ごすこととなったが、そこで密室殺人事件が起こる。ディレクターの蒲生が部屋の中で首を切られて死んでいるのが発見されたのだ。犯人は一体誰? そして“奇傾城”の謎とは??
<感想>
探偵らしき人物と謎めいたヒロイン、そして謎めいた館で起こる密室殺人事件。ここまでならば、普通のミステリ小説といえるのだろうが、それに加えて少年少女たちの怪しげな儀式、少女に惹かれる危なげな大人、さらには闇にうごめくフリーク達と、怪しげなコード満載のまさに飛鳥部ワールド全開の内容になっている。
本書がミステリとして優れているとは思えないけれども、単純にミステリ作品を構築するよりも、こういった癖のあるものを作り上げてくれた方が“らしさ”があって良いと思われる。
一応、ミステリ的な部分も最終的にはきっちりと解決がなされているので(少々バカミスっぽいが)ご安心。それだけでなく、事細かに色々なトリックも満載となっているので、それなりに読む価値はあると思える作品。
少々蛇足に感じたのが、過去の飛鳥部作品に関連していると思われる人物がちらほらと出ているところ。さすがにそれはよほどの飛鳥部氏のフリークぐらいしかわからないであろう。基本的にシリーズものを書いている作家ではないはずなので、この作品のみで収束するように書きあげてもらいたかったところである。