<内容>
放課後の体育館でいつものように卓球部が練習しているとき、演劇部の面々がやってきて、普段は下りていないはずのステージの幕を上げると、そこで死体が発見される。刑事の兄を持つ卓球部員の早苗は、部の先輩が疑われていることに気づき、ひとりの男に助けを求める。その男は学園一の天才で学校に住んでいると噂される裏染天馬。アニメオタクの天馬は報酬に目がくらみ、学校内で起きた密室殺人の捜査を始める。
<感想>
「体育館の殺人」って、えらく平凡なタイトルだと思っていたら、綾辻行人氏の「○○館の殺人」にかけていたと、後から気付く。さすがに謎の建築家までは出てこないものの、論理色の強いガチガチのミステリ作品に仕上げられている。ただし、決して読みづらいような硬い作品ではなく、今どきの若者が描いたということがよくわかる、ライトな作調となっている。
衆人環視の状況によって密室と化した体育館の舞台裏。その状況で、誰がどのようにして殺人を犯し、密室を創り上げたのかが焦点となる。被害者の遺留品や現場に残されていた物品、そして現場にいた関係者たちからの証言により、徐々に犯人と思しきものがあぶりだされてゆく。
読者への挑戦まではついていないものの、最終章の前までに、全ての証拠が挙げられたことが明示されている。正直、最終章を読む前は、解決編のページ数が長過ぎるような気もしたのだが、読んでみると細部にわたって論理的な検証がなされており、納得のいく解決方法により犯人が示されている。
ここ何年かの鮎川賞受賞作のなかで、実に本格ミステリらしい作品であると思われる。語り口や会話の軽さについては好き嫌いあるかもしれないが、論理的な推理については、全てのミステリファンを納得させるのではなかろうか。今年の新人作品のなかで一番の収穫と言ってよいであろう。
<内容>
夏休み、風ヶ丘高校新聞部の部員は“風ヶ丘タイムズ”の取材のため、市内にある横浜丸美水族館を訪れた。そこで紹介される飼育員や事務員たち。そうして館長による水族館の案内が行われ始めたとき、サメが泳いでいる水槽の中に突然飼育員が落ちてきて、それにサメが喰らいつくという事態が・・・・・・。どうやら被害者は殺害されたのちに、水槽の中へと落とされたらしい。しかし、被害者が水槽へと落ちてきた時間、水族館ないの飼育員や事務員たちには全てアリバイがあった。出入り口に監視カメラがあるため、外から誰かが侵入してきたということはなく、犯人は水族館内の関係者に限られる。事態を打開すべく、警察は“体育館”での事件で活躍した裏染天馬を呼び出すこととなったのだが・・・・・・
<感想>
鮎川哲也賞作家が送る、新“館”シリーズ第2弾の登場! まぁ、そんな呼び方をする人は誰もおらず、裏染天馬シリーズとか、風ヶ丘高校シリーズとか、そんな感じになるのかな? 前作に続いて、今作でも論理的な推理を展開してくれている。こういったミステリを書いてくれる作家も、そうそういないので非常に貴重。
論理的な道筋により、徐々に容疑者を絞り込み、最終的に犯人を当てるという内容。今作では主人公の裏染天馬も、「証拠が少ない」と悩むように、なかなかこれといった証拠が出てこない。そうしたなかで、非常に細い真犯人のもとへと辿ることができる道筋をなんとか見つけ出し、真相へとたどり着く。伏線の提示が多岐にわたりつつ、かなり細かいため、真相が明らかになったときに、爽快感を得るというほどのものではない。ただ、論理的に容疑者を絞り込み、徐々に容疑者の数が少なくなっていく場面には手に汗握る緊張感があった。
と、なかなか見応えがある内容であったが、今回は2作目ということもあり、シリーズ化という意味もあってか、主たる道筋と関係のない描写が多かった。事件とは関係ない風ヶ丘高校での卓球の描写や、今回の事件に関係ない人々の紹介等。ただ、これらの人々が今後の作品に深く関わってくるのであろうということは想像できる。別に裏染天馬の過去などに興味がない、などと言わずに、温かい目で見守るべきシリーズであろう。これからも、このような作風のまま良質のミステリを描いてもらいたいものである。
<内容>
「もう一色選べる丼」
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
「針宮理恵子のサードインパクト」
「天使たちの残暑見舞い」
「その花瓶にご注意を」
おまけ 「世界一居心地の悪いサウナ」
<感想>
「体育館の殺人」「水族館の殺人」に続く、裏染天馬が活躍する作品集。タイトルからして「五十円玉二十枚の謎」に関連あるのかと思ったのだが、全くの別物であった。本作は学園ミステリを堪能できるものとなっている。
「もう一色選べる丼」は、学食の外に放置されていた二色丼を見て、裏染天馬が犯人を推理するというもの。丼の状況から事細かに推理するさまが見事。シリーズらしい作品と言えよう。
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は、祭りで出されるおつりが50円玉ばかりという謎の秘密に迫ろうとするもの。解決を聞いてみると、なるほどと思いつつも、ありそうな、なさそうな話。そもそも屋台の人たちが、そこまで協力してくれるかな?
「針宮理恵子のサードインパクト」は、針宮理恵子がいじめられている(ように見える)恋人を助けようと奮闘する話。まさに、青春全開! いろいろな意味で恥ずかしい話であるのだが、いまどきの学生らしくなくてむしろ好感が持てる。
「天使たちの残暑見舞い」は、過去に起きた幽霊事件の謎を調べるというもの。消えた二人の少女の行方は? これまた学園ミステリらしい内容。実はしっかりと細やかな数々の伏線が張られている。単純ともいえる事件ながらも、うまい具合に事件を表現していると感じられた。
「その花瓶にご注意を」は、裏染天馬の妹が活躍する作品。舞台は別の学校となり、そこで誰が花瓶を壊したかを調査する。花瓶を壊した人を探すというよりは、その証拠をどのようにして表すのかということに比重が置かれているように感じられた。これまたしっかりと描かれたミステリ作品。
最後の作品は“おまけ”と書かれている通り、裏染天馬のとある一幕が描かれたもの。今後の展開への伏線みたいなものか。
<内容>
怪物事件専門の探偵・輪堂鴉夜(りんどう あや)と、その助手・真打津軽、メイド・馳井静句が、吸血鬼殺害事件と人造人間の密室事件に挑む!
序 章 「鬼殺し」
第一章 「吸血鬼」
第二章 「人造人間」
<感想>
「体育館の殺人」により、鮎川賞を受賞した青崎氏による新シリーズ。内容はきっちりとミステリしているが、どちらかというと若年者向け。そのお気楽なノリについて行きづらく感じられるところもあるのだが、そのほうが取っ付きやすいと思える人の方が多いかも。
怪物が実在する世界のなかで、探偵を営む3人の旅を描いた作品。今作では二つの事件に挑んでいる。最初は“吸血鬼殺害事件”。これは吸血鬼が何故殺されたのか? さらには、如何にして殺害されたのか? という謎に迫る。もう一つの事件は「人造人間の密室事件」。人造人間を造った博士が首なし死体として、閉ざされた部屋で発見された。その部屋には、出来立ての人造人間のみが残されていたという謎。
こうした、謎に探偵を名乗る輪堂鴉夜が挑むのであるが、キワモノと侮るなかれ、しっかりと論理的な推理を披露しながら真犯人を指摘していくのである。これはなかなかミステリとして、しっかりしているのではなかろうか。設定は突飛とはいえ、きっちりとした、しかも分かりやすいミステリとして完成されている。
本書はライトノベルズ風で、ミステリのみならず、キワモノ系の設定あり、アクションあり、笑いありといったエンターテイメント小説となっている。シリーズとしても、きっちりとした流れを考えているようで、今後の展開も期待できそう。
<内容>
期末試験中、風ヶ丘高校の図書委員・城峰有紗は、行きつけの風ヶ丘図書館に寄る。そこで、仲の良い親戚の城峰恭介と出会うのだが、翌日、その恭介が図書館で死体となって発見される。図書館は夜間パスワードというものがあり、それを知るのは図書館司書の5人のみ。果たして、彼らの中に犯人はいるのか? 被害者が残したダイイング・メッセージの謎とは? 今回もまた、警察のアドバイザーとして風ヶ丘高校2年、裏染天馬が事件の謎に挑む!
<感想>
図書館で起きた事件をいつものシリーズキャラクターがいつものノリで捜査と推理を行っていく。事件はひとつだけで、そのひとつの殺人事件を詳細に検証していくという内容。
探偵役となる裏染天馬により詳細な推理と論理的な考証が進められていくものの、細かな論証は最後に明らかにされるので、途中途中では裏染が何を行っているのかはわからない状況。しかし、真相が明らかになると、その場面場面で裏染が何を考えていて、そのような行動をとったのかということが明らかになる。最後まで読めば、ひとつひとつの行動に意味があったのだなと感嘆させられる。
犯人を特定するための“五つの条件”というものが詳細に突き詰められており、秀逸と感じられた。警察よりも事細かい裏染による検証については脱帽。カッターの刃や、その他もろもろの証拠から“一つ目の条件”を導き出すところこそが本書のキモと言えるのではないだろうか。
ただ、ひとつだけ理解しにくかったところは新犯人について。論理的には理解できるものの、どうも心情的には納得いかないというか・・・・・・。本書を読んで、ひとつ思いついたのはシャーロック・ホームズのとある言葉。ちょっと今回の件とニュアンスは異なるかもしれないのだが、
「まったくありえないことをすべて取り除いてしまえば、残ったものがいかにありそうにないことでも、真実に違いないということです」
ということで、収まりを付ければよいのだろうか。
<内容>
探偵事務所“ノッキンオン・ロックドドア”に持ち込まれる様々な事件に、不可能専門の探偵・御殿場倒理と、不可解専門の探偵・片無氷雨の両探偵が挑む!
「ノッキンオン・ロックドドア」
「髪の短くなった死体」
「ダイヤルWを廻せ!」
「チープ・トリック」
「いわゆる一つの雪密室」
「十円玉が少なすぎる」
「限りなく確実な毒殺」
<感想>
昨年ごろから快調に新刊を出し続ける青崎氏による新シリーズ作品。“ノッキンオン・ロックドドア”という私立探偵事務所にもたらされる事件を二人の探偵が挑むというもの。二人はジャンルがわかれており、“不可能専門”と“不可解専門”にわけられているよう。このへんは、キャラクターわけの創造の副産物のように思えなくもないのだが。
全体的にそれぞれ不可能犯罪を取り上げているのだが、それぞれの短編が少ないページ数ということもあり軽めの内容。それでも中には、ハッとさせられるような目を惹く内容のものも見受けられた。
「ノッキンオン・ロックドドア」 閉ざされたアトリエにて殺害された画家の謎。
「髪の短くなった死体」 犯人が死体の髪の毛を持ち去った理由は?
「ダイヤルWを廻せ!」 金庫を開けるための暗号の謎。
「チープ・トリック」 暗殺を警戒する男を外部から狙撃するための方法とは?
「いわゆる一つの雪密室」 足跡なき殺人事件の真相とは?
「十円玉が少なすぎる」“十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ”という言葉に隠された意味とは?
「限りなく確実な毒殺」 特定の者を毒殺するための方法とは?
一番うまいと思えたのは、「髪の短くなった死体」。事件現場に残された死体の髪をわざわざ切って、持ち去った理由について言及するもの。“どうやって?”ということより、“どうしてこのような状況が生まれたのか?”ということを推理していく様はなかなかのもの。
他には、「九マイルは遠すぎる」を思わせるような「十円玉が少なすぎる」あたりも発想が面白かった。「チープ・トリック」についても、これも光る発想が見受けられる作品と言ってよいであろう。
その他は、ちょっと無茶な内容ではないかと思われたり、真相がつまらなかったりと微妙なものが多々。全体的にキャラクター小説というイメージが強まってしまい、ややミステリらしさを打ち消してしまっているかなと。
<内容>
資産家であるフィリアス・フォッグが持つダイヤを奪うと、怪盗アルセーヌ・ルパンから予告状が届けられた。フォッグは名探偵シャーロック・ホームズと怪物専門の探偵・輪堂鴉夜に依頼し、警察も加えた厳重な体制で宝石を奪われまいとする。さらには保険会社であるロイズからも諮問警備部が派遣されてくる。そして怪盗と名探偵たちの死闘が繰り広げられることとなるのであるが・・・・・・さらなる別の者達までもが闘争に加わることとなり・・・・・・
<感想>
1年ぶりのアンデッドガール・マーダーファルスの2作目。前作はそれなりにミステリっぽい内容となっていたものの、今作では冒険譚、もしくは伝奇物に完全にシフトチェンジした様子。ひょっとしたら、ただ単に、今回の主役のひとりであるアルセーヌ・ルパンに作風を寄せたという見方もあるのだが。
今回の内容は、ひとつの宝石を巡り、主人公・輪堂鴉夜らと、ホームズ&ワトソン・コンビ、ルパン&オペラ座の怪人・コンビ、ロイズの諮問官、そして謎の一団と、これらが入り乱れての闘争が繰り広げられることとなる。今作はあくまでも、今後登場する人物ほぼ全員を出し、ここで登場した者たちが入り乱れて物語を作っていきますよというプロローグ的な意味合いのように思えた。そして主人公らが倒すべき相手もはっきりとし、最終目標が定まったようにも感じられた。
今作では内容がミステリから外れてしまったがゆえに、今後の作品を追っていくのはどうしようかなと考えてしまう。ただ、物語としての興味は十分にわいてきたので、最後まで読んでみようかなとも思っている。何しろ、古今東西の物語の主人公や、各種怪物たちが入り乱れて登場しているので、それだけでも楽しめる。全く関係ない話であるが、個人的には「屍者の帝国」という作品もこのくらいぶっとんでいてくれても良かったのではないかと思うのだが・・・・・・