<内容>
古本屋のクリフは前の仕事で稼いだ金を使って、リチャード・バートンの本を3万ドル近くの金で手に入れた。するとある日、クリフの本屋に一人の老婆が訪れる。彼女はクリフが手に入れた本の正当な所有者であるというのだ。詳しく話を聞いてみると、どうやら老婆の言うことは本当のようであり、クリフのその背景を詳しく調べてみようとする。すると、クリフの周囲で殺人事件が起き、徐々にその本を巡る陰謀の中に巻き込まれてゆくことに・・・・・・
<感想>
「幻の特装本」以来なので、クリフシリーズを読むのは久々となる。正直言って、前作までの話は全くといっていいほど憶えていなかったのだが、それとは関係なく本書は本書で独立して楽しむことができた。また、今回の作品ではダニングがちょっとばかり趣向を変えてクリフシリーズの中で歴史ミステリにも挑んでいる。
それで本書の感想はどうかと言えば、全体的にはなかなか良かったのではないかと思える。ただ、その内容の中の個々については中途半端に感じられた部分が多々あった。
ひとつは歴史ミステリに挑んでいるということであるが、この部分にはさほど謎というほどのものは感じられなかった。ミステリというほどのものでもなく、ただ単に別の物語を聞かせられたという感じである。また、今回はクリフがハードボイルド張りの活躍を見せ、ディック・フランシスの小説張りに悪漢と闘うのだが、その結末は、あれだけ引っ張っておいてそれだけ? と、拍子抜けしてしまったという部分もある。
と、そういった空かされたような箇所もあったのだが、本書のクライマックスでの締めはきちんとこなしてくれた。この締めがあったからこそ、本書は全体的に良い作品であると評価を上げることができたと思う。
次回作はもう少し早めに出してくれて、かつ、もう少し古本業界のことを多めに書いてくれたらなぁと思うのは欲張りすぎであろうか?
<内容>
古本屋を営むクリフは恋人で弁護士のエリンから、とある射殺事件の調査を頼まれる。ただ、その事件の関係者のうち、被害者はエリンの昔の恋人であり、容疑者とされているのが、エリンの昔の親友であった。複雑な背景がからむなかで、クリフが調査を始めていくと、被害者が大量のサイン本をコレクションしていたということがあきらかになり・・・・・・
<感想>
古本屋クリフのシリーズも、この作品で四作目。相変わらず軽妙で(物語の内容自体は重い話だが)、すんなりと読めるサスペンス・ミステリとなっている。そこそこ厚いページ数にも関わらず、一気読みできる内容に仕上げられているのはさすがといえよう。
ただし、内容を細かく見ていくとあまり完成度の高い作品とはいえない。ミステリ的な要素としては、良いとこ取り、という気がするようなもので、それぞれが主題となるようなものが多々集められている。
女性弁護士の昔の恋人が被害者で親友が容疑者、その容疑者の女性は話すことができない少年を養子に迎えている、被害者は数多くのサイン入りの蔵書を集めていた、牧師というあだ名の怪しい古売屋の存在、などなど。
このように、どれかひとつだけとっても小説の主題になりそうな要素が贅沢に集められている。しかし残念なのは、それぞれに密接した関係というものがあまりないということ。また、これだけ色々な要素を集めてしまったために、焦点がぼやけてしまい、どの要素に対しても中途半端で終わってしまっているということ。
本書は、設定をうまく用いれば法廷ミステリになりえたような作品である。というか、途中まではそういう話運びでいくのだろうと思っていた。にも関わらず、途中からは普通のサスペンス調の展開になってしまうというように、何かどうにも中途半端としかいいようがない。
小説を書く技量自体は充分に感じられるのだから、あとはもっと構成をうまく創作してくれればなぁと、ただただ残念に感じられた。
<内容>
ガイガーという馬主が死に、20年前に死んだ彼の妻が数多くの蔵書が残していた。古書店主のクリフはその鑑定をガイガーの生前、彼の右腕として働いていたウィリスから依頼された。また、その蔵書のうちの数多くが何者かによって盗まれているようで、それも取り戻してもらいたいという。しかし、ウィリスの高飛車な物言いにクリフは反発し、仕事を引き受けることに躊躇する。ただ、ガイガーの4人の子供のひとり、娘のシャロンとは気が合い、彼女から依頼を受けるという形でクリフはこの仕事の調査に乗り出してゆく。事件を調べていくうちに、過去にガイガーの妻が死んだ件についてクリフは人為的なものではないかと疑いを持つ。すると、クリフが調べていた男が殺害されるという事件が起き・・・・・・
<感想>
古書店主クリフのシリーズ5冊目となるのだが、主要人物が馬の調教師で競馬の世界が背景として描かれているため、ディック・フランシスの作品を読んだような気がした。当然のことながら“本”も作中で扱われているものの、どこか添え物のような気がしてならなかった。
文庫で600ページという厚さの作品なのであるが、主人公が競馬の世界に飛び込み捜査している場面はどうも冗長と感じられた。しかもその捜査の場面がほとんどなのであるが、肝心の捜査が空振りばかりで核心に迫っているようには全く思えない。最終的には序盤と後半がうまくまとめられ、意外と驚かされる結末がまっている。結末は決して悪くはないと思うので、それならばもっと中盤をまとめて物語をコンパクトにしてもらいたかったと思わずにはいられない。
というわけで、この古書店シリーズも興味深いところはあるものの、ミステリ小説としてはいつもいまいちと感じられてならない。もう購入しなくてもいいかなと思いつつも、作品が刊行される間隔があくと、前の作品の印象を忘れてつい購入してしまうのである。シリーズもので、ある程度の間隔をあけて刊行するということは実は大切なことなのだというのをふと感じてしまった。
<内容>
バンコク警察のサマイ警部は有力者であるモンコン男爵から半ば脅されるように、彼の息子が起こした事件について調べて欲しいと頼まれる。男爵の息子は理髪店で時計を盗もうとしたところ店主に発見され、時計で店主を殴り倒した後、逃走したらしいのである。しかし男爵は息子の無罪を主張する。また、同時刻には男爵の息子の共同経営者が死亡しており、また娼婦が運河で溺死死体で発見されたりと、それらの事件にも何らかの関連性があると考えられる。サマイ警部は相棒のラオーと事件の捜査に奔走する。
<感想>
アジア本格リーグの2作目ということなのだが、どうしてこのような内容の作品がとりあげられているのかが疑問。本書は警察小説であり、本格ミステリ作品とは言いがたい。しかも内容についてもよく出来ているとは決して言うことはできない。どうしてこの作品が選ばれたのかというところが一番の謎である。
本書については、言いたい事がたくさんありすぎて、どれから言えばよいのかわからなくなってしまう。まず主人公についてだが、サマイ警部とラオー主任という二人が出てくるのだが、この二人の役割分担が全くわからない。最初はサマイ警部がワトソン役でラオーが事件の謎を解く優秀な刑事なのかと思ったのだが、作品を読んでいくとそうとも言えない描写が数多くあり、途中ではこの二人の区別さえつきにくくなっている。もう少しはっきりと人物描写と役割分担をしてもらいたかったところ。
また、事件についても無駄にわかりにくい部分が多かったように思えるのだが、そもそもモンコン男爵が何故サマイ警部に事件のもみ消しを頼みに来たのだがよくわからない。それを頼むのには、この主人公は最も適さない人物であると思えるのだが。さらには、男爵が事件の依頼に来たことにより、他の事件との関連が全て明るみになったようにさえ感じられてしまうのである。
といった点を大きなポイントとして、他にもさまざまなところに疑問がわくような内容。この作品を筆頭に上げられてしまうと、タイのミステリ作品は期待がもてないのではないのだろうかと考えてしまう人も多いであろう。その評価を回復するようなタイ発のミステリ作品が出てくることを望むのみである。
<内容>
ゴールドラッシュに沸く1851年、アメリカ西海岸にて。兄のチャーリー・シスターズと弟のイーライ・シスターズは、兄弟の殺し屋であり、シスターズ・ブラザーズと恐れられていた。狡猾なチャーリーと、切れると恐ろしいイーライ。二人は雇い主の提督に命じられ、サンフランシスコへ、とある山師を消しに行くこととなる。二人が行く先々でトラブルが起こり、その都度シスターズ・ブラザーズが暴れまわり・・・・・・
<感想>
もうちょっとぶっ飛んだ内容かと期待していたのだが、思いのほか落ち着いていた感じ。なんとなく、普通のロード・ノベルというような。
殺し屋シスターズ・ブラザーズの旅路を描いた作品。弟イーライの視点により物語は進められてゆく。狡猾でキレやすい兄のチャーリーと、普段は温厚だがキレると恐ろしい弟のイーライという設定。ただ、この弟視点のせいか、イーライが非常に落ち着いた人間に思えてしまい、ぶっとんだイメージがほとんどなかった。
そのような設定の中、凄腕の殺し屋というわりには、矛盾した行動というか、ややマヌケな行動を繰り返しつつ、殺人依頼を命じられている山師の元へとたどり着く。そして、山師との一見に関しては、ゴールドラッシュという背景を生かした展開が待ち受けている。終盤になって山師の人生が冗長気味に語られるという展開は、どうにも無駄のように思えてならなかったのだが、結局最後の最後までダメな展開で話がつき進められてゆく。
展開がどうにも微妙すぎると思えるのだが、こういったロード・ノベルが今の流行りなのかもしれない。地道に語られる悪党兄弟のダメな旅路、という感じ。
<内容>
倉庫会社の事務員である黒人のデニス・リオーダンは拳銃を買い、ひとりの男を射殺した。撃たれた男はクリータス・ジョンソン。デニスの娘はジョンソンに強姦された後、殺害されたのであった。罪を犯したのはジョンソンであるということがわかっているにもかかわらず、法律の抜け穴を通り、ジョンソンは無罪となっていたのであった。デニス・リオーダンは復讐を果たした後、警察へ自首をした。彼の弁護を引き受けることとなったのは、新米弁護士であるベン・ゴードン。有罪判決が下ることが確実の裁判にどのように挑むのか!?
<感想>
1984年の週刊文春ミステリーベスト10において1位をとった作品。当時は文春文庫から出ていたが、2009年にハヤカワ文庫として復刊がなされた。復刊を機に読んでみたのだが、さすがに面白かった。法廷ミステリとして、上質に仕上げられている作品。
実際に罪を犯しているにもかかわらず、法の抜け穴をくぐり無罪になった男。その男に復讐を誓い、実際に復讐を遂げた黒人男性。その男性に対する裁判の模様を描いたのがこの作品。容疑者は、自首をし、実際に計画的に罪を犯しているのは事実であるので、有罪判決は確実である。しかし、殺害された人物が正しく法により罰せられていれば、このような事件が起きなかったということもまた事実。こうした矛盾めいた事実をどのような形で裁いていくのかが焦点となる。
この物語でスポットが強く当てられているのは、弁護士と陪審員(日本では現在の裁判員にあたる)。確実の罪にもかかわらず、容疑者への同情からなんとか罪を軽くできないかという弁護士の苦悩。そして、根本的な罪はどこに存在するのかということに悩まされる陪審員たち。そうした感情をからめつつ物語と裁判が徐々に進行していく。そして驚きの展開と結末が読者を待ち受けることとなる。
この作品の原題はなんと“Outrage”。意味は“非道”とか“蹂躙”という意味のようである。ちょうど今年日本で放映された映画と同じタイトルであるが、意味合いが全く逆であるというところが興味深い。
<内容>
新聞社から解雇を言い渡されたクリス、バイトで食いつなぐクリスの弟ヴォルフ、職業紹介所で就職先を探すもののなかなか決まらず焦るタマラ、フリーのメディア製作を行っているものの思いどおりにならないフラウケ。今の生活に不満を持っていた昔からの知り合い4人が偶然出くわしたとき、クリスの発案で“謝罪代行社”を始めることを決意する。それは依頼人に代わって謝罪を行うという内容。それが思いもよらず多くの依頼を受けることとなり、4人の生活は潤い始める。そんなあるとき、マイバッハと名乗る依頼人から仕事を持ちかけられ、クリスが現場へと言ってみるとそこで死体を発見することに! さらにマイバッハは彼ら4人を脅して死体の始末までもを求め始め・・・・・・
<感想>
昨年出版されたジョン・ハートの「ラスト・チャイルド」と同様、ポケミスと文庫の同時発売となった本書。そんなわけで、これは2011年の話題作となるのかなと期待して読んだのだが、それほどインパクトの強い作品ではなかったかなと。
第一に依頼人の代わりに謝罪をするという「謝罪代行社」というものがタイトルになり、これがメインテーマとなるかと思いきや、そうでもない。もうすこし謝罪代行業の有様について描いてくれてもよかったのではないだろうか。さらにいえば、中盤以降ほとんどこの“謝罪代行”というものが意味をなさないのも疑問。
作品の展開としては、どこへ行きつくのか想像できない波乱が待ち受けている。ただ、それにしても最初にあれだけ長々と語られた主人公であったはずの謝罪代行社4人の人生にほとんどかかわりがない形で事件が起きてしまうのはどうかと思える。中盤以降は謝罪代行社とは全く関係のない犯罪組織のようなものの話がメインとなり、そちらの人間の人生がメインとなってしまい、謝罪代行社の面々は単に慌てふためくだけ。
要約すれば、若者4人が会社を起こしたら、サイコな面々にまとわりつかれたという内容。それが延々と暗い雰囲気のなかで語られてゆく。ドイツの小説というものについては、そんなに何冊も読んでいないと思うのだが、こうした暗い雰囲気なのは国の風潮なのであろうか?
変わった雰囲気、予想だにしない展開、暗い怨念に満ちたサイコサスペンスが堪能できるのだが、部分部分に腑に落ちないと感じてしまう作品。
<内容>
この作品の著者F・X・トゥール(本名ジェリー・ボイド)はボクシング業界にてトレーナーあるいはカットマンとして知られた人物。2000年、70歳のときに本書で作家デビューをし、2002年心臓の手術を受けた後死亡。享年72歳。
ボクシングに人生の全てを賭けた男が、ボクシングの世界の全てを描いた作品集!!
<感想>
ボクシングをセコンドからの視点で書かれた短編小説集。 本書ではボクサーでなくとも、ボクサーと同様、もしくはそれ以上にボクシングに夢を見ている者たちの様子がまざまざと描かれている。
ここでのセコンドに立つ者達とは、マネージャー、トレーナー、カットマン(ボクサーの止血をする者)らのこと。ボクサーがリング上で駆け引きをするのは当然のことだろうが、セコンドに立つ者達も同様に駆け引きを行っている様子が描かれている。その彼らにとっての駆け引きはリング上でボクサーが戦っている間に行われるよりも、その前段で行われることのほうが多い。それは対戦相手側だけとの駆け引きに限らず、場合によっては自分がセコンドに付くボクサーとの駆け引きが行われる場合もある。
本書で一番傑作だった作品は「ミリオン・ダラー・ベイビィ」。トレーナーと女性ボクサーが2人3脚で栄光へと駆け上っていく様子がまざまざと描かれている。これ一本の内容で長編を書いてもらっても良かったのではないかと感じられた。
他にもボクシングの裏側へと踏み込む内容の作品が満載。著者のボクシングへの愛が感じられる作品集である。
ただ、ラストの中編「ロープ・バーン」はこの作品集の中では異色でボクシング小説というよりは、ギャング小説に近いような気もする。本書の内容にはそぐわない気もするのだが、ひょっとしたらこの作品はボクシングの世界では実力だけで必ずしもうまくいかないという警句の全てが込められているとも感じられる。無念という気持ちも含めた全てが著者のボクシング人生ということであったのかも知れない。
<内容>
上院議員のもとで働いているベンジャミン・ディルの妹で、女刑事であるフェリシティが車に爆弾を仕掛けられ何者かに殺害された。ディルは何が起こったのかを知るために久々に故郷へと足を踏み入れることになる。警察に事情を聞いてみても、まだ誰に殺害されたのかも何に巻き込まれたのかもわからないと。ただ、妹は多額の生命保険に入っており、さらには新居を買う手配までをしていたという。その莫大な大金はいったいどうやって入手したのか・・・・・・
また、ディルが故郷へ戻ってきたのは他の理由もあった。上院議員からの依頼で、かつてのディルの友人であり以前武器の密売人をしていた男から事情聴衆をしなければならなかったのだ。ディルはやがてそこで起きる複雑な駆け引きの渦中へと入り込んでいくことに。
<感想>
以前、ミステリアス・プレスから出版されたときにロス・トーマスの作品を何冊か読んだ。そのとき、読み逃していたのが「女刑事の死」。しかも、その作品の評価がなかなか高かったので、買い逃した事を残念に思っていた。それが去年、ハヤカワ文庫から復刊されたので、これを機に購入。そして、ようやく読むことがかなったのだが、これがまた噂にたがわず面白い作品であった。
物語の序盤は主人公ディルの妹(刑事)が何者かに殺害され、その事件の調査が主に語られてゆく。しかし、途中から次第にディル本来の職務であり、上院議員からの依頼でもある、武器の密売人に対する交渉へと移ってゆく。本当は、もう少し妹の事件を主においてくれても良いのではないかと最初は思ったのだが、そんな思いもふきとばすくらい、密売人たちとの交渉のパートがスリリングであり、物語の後半もどんどんと引き込まれていった。
二人の武器の密売人の間に立ち、さらには上院議員との間もうまくとりもっていかなければならないディル。さらには、妹の事件を調べていくと何故か出会った関係者達が次々と殺害されてゆく。そうした中でこれらの交渉や事件に対してディルがどのように立ち向かってゆくかが見事に描かれている。
さらには、本書の主人公であるそのディルという男が非常にもの静かであり、感情を押し殺しながら静かに行動していくさまは何ともいえないものがある。そして最後にたどり着いた真実と、ディルの置かれた立場におけるやるせなさが表されるラストはまた何とも印象深い。
というわけで、読むことができて大変満足な1冊であった。このような本を読んでしまうと、またロス・トーマスの本全巻コンプリートという病気が頭をもたげそうで怖いところである。
<内容>
事件現場を奔走する女性警官の内情と現実を描いた短編作品集。
キャサリン
「完全」
「味、感触、視覚、音、匂い」
「キャサリンへの挽歌」
リズ
「告白」
「場所」
モナ
「制圧」
「銃の掃除」
キャシー
「傷痕」
サラ
「生きている死者」
「わたしがいた場所」
<感想>
この著者にとって初めての作品集であり、これは12年間書き溜めてきたものとのこと。現在、第2作となる長編を執筆中だとか。
パッと読んだ感想としては、フィクションというよりは、ノンフィクション作品を読んだという気にさせられた。それほどリアリティと迫力に満ちた作品となっている。また、話の全てを女性警察官というものに絞ったのも良い効果をあげていると思われる。
一見、いろいろな女性警官にインタビューを行って話を聞いたもののようにも見えるのだが、実際には著者自身が元女性制服警官であり、5年間勤務した事を生かして書き上げた作品だとのこと。
本書は、ひとつひとつの短編としては作品として短く、物語という面で見るとどれも弱いように思える。しかし、リアリティのある物語を積み重ねていく事により、最後の「生きている死者」「わたしがいた場所」の2編に大きな意味をもたせている。
最後の2編は本書の中では長めの作品となっており、ひとりの女性警官がある事件をきっかけに警官をやめ、そこから逃避し、さらに忌まわしい記憶から癒されていく様子が描かれている。
という形でそれぞれの女性警官の“死”と“銃”について描かれたアメリカならではの作品集。この著者に長編を書かせたらどのように化けるのか、今から楽しみでならない。
<内容>
ヨークシャーの荒野で農場を営むキャロルのところに、謎めいた男が転がり込んできた。嵐の夜、雨宿りの場所を請う男を警戒して断る一幕を経て、不幸な経緯から、キャロルはショットガンで男に怪我を負わせる。看護の心得のある彼女は応急処置をほどこし、回復までの宿を提供することにしたが、意識を取り戻した男は、過去の記憶がないという。何もかもが見かけどおりでないかもしれない。そんな奇妙な不安のもとに始まる共同生活・・・・・・背後で繰り広げられる異様な逃避行はいったい!
幻惑的な冒頭から忘れがたい結末まで、圧倒的な筆力で紡がれる悪夢と戦慄の物語。
<感想>
女が人里はなれて一人住む農場に曰くありげな男がやってきて、奇妙な共同生活が始まる。始まりはありきたりかのようなサスペンス調で幕が開ける。しかし、だんだんと作中で現在と交互に男の逃避行の様子が語られていき、物語は複雑な様をていしていく。男の逃避行の原因が伏せられながらやがて話は徐々に現代へと交錯していき、さらに物語りは複雑な様相を見せる。
サスペンス小説のなかに、別の流れの秘められた逃避行を挿入することによって、ゴシックスリラーともいうような厚みをもった小説となっている。そして物語には直接は関連してこないものの、“飛蝗の農場”というものが怪奇的な隠し味として、さらに物語りの効果をあげている。そして結末にいたっては予想外のさらなる仕掛けが・・・・・・
なんとも不思議な“怪作”である。“飛蝗の農場”というよりも、“その男”が通るところ、すべて狂気の色で塗りつぶされていくかのような、まさに飛蝗の通った跡を思わせるような小説をぜひとも堪能いただきたい。
<内容>
リディアの葬儀に出席したかつての学友3人。ベス、オードリー、レイチェル、リディアの4人は大学時代のルームメイトであった。リディアは貴族であり、ギタリストでもあるサルバドールと大恋愛の末、結婚したのだが、やがてサルバドールが死に、リディアも後を追うように・・・・・・。葬儀が終わった後、ベスとオードリーは何故かサルバドールの母親から、その住まいである城へとまぬかれる。そこで彼女達は思いもよらぬ出来事に・・・・・・
過去と現代が錯綜するサスペンス・ミステリー。
<感想>
“過去と現代が錯綜するサスペンス・ミステリー”と内容に書いてみたものの、はたして本書は“ミステリー”と言える作品なのであろうか。物語が始まってから、現代と過去がバラバラに語られてゆく。特に法則性というほどのものもなく、ミステリーとして強調されている部分も特にないので、ただの恋愛小説のような感じで話が進められてゆく。そして、話の中の色々なところで、ちょっと驚かされるような展開も挿入されている部分はある。ただ、そういったパートもあくまでもバラバラであり、一つの物語として統一性がとられているようには思えなかった。
結局のところ退屈な小説を読まされたという感じ。もう少し、“これ”というような主題を抑えて書いてもらいたかったところである。何か普通の海外小説を読んだという感じしか残らなかった。書き様によって、もうちょっとで名作になったのではと思えなくもないのだが。