<内容>
特定の名前を持たないプロの犯罪者である“私”は、犯罪組織の大物マーカスから仕事の依頼をされる。その仕事とは、マーカスの命令により強盗を企てた者たちが失敗し、“いわくつき”の金を持ったまま行方をくらましているというのだ。“私”はそのいわくつきの金を時間制限内に取り戻さなければならないこととなった。かつて“私”はマーカスの依頼により仕事を引き受け、“私”のミスにより失敗させてしまったという負い目があった。“私”は金を取り戻すべく、現地へと旅立ち・・・・・・
<感想>
数年前、単行本で出版されたとき、ランキングでも話題となっていたので、文庫化されたら買おうと狙っていた作品。これが読んでみたら実に面白かった。
ざっくり言えば、近代的な犯罪者もしくは銀行強盗の話。主人公は犯罪者たちがチームで行動する際の符丁である“ゴーストマン”という役割を担う人物。“ゴーストマン”とは何? というものについては、ぼやっとしていて説明しにくいのだが、銀行強盗たちが姿を消すのを手伝う役割。“ゴーストマン”は身分を偽り、常に己の痕跡を残さないようにしている。何にでも化けることができ、詐欺師・スパイのような役割もする。そんな主人公が事件を依頼される。
主人公は過去に計画された現金強奪事件においてミスをしたことにより、その負い目からか今回の事件を引き受ける。その現代の事件と、過去の事件が並行して語られてゆくこととなる。過去においてはプロの手による現金強奪計画、現代の事件においては現金強奪後に消えた金の行方を追うというもの。また、今回引き受けた事件に関しては単に金の行方を追うだけではなく、裏に隠された陰謀の正体を暴きつつ、己の身を守りつつ、時間制限内に依頼をこなさなければならない。
近代的な強盗のありさまや、“ゴーストマン”といった符丁、また様々な陰謀・策謀、楽しめる要素満載のエンターテイメント・クライム小説。設定だけを見ると、最近ありがちな犯罪小説のように捉えられるが、そいった普通の小説とは一線を画した小説として完成されている。それは何といっても主人公の人物造形にあるといってよいであろう。
本書の欠点を上げるとすれば、主人公がやや完璧すぎるところ。犯罪チームにおける“ゴーストマン”という役割を担っているにも関わらず、基本的に彼ひとりですべての事ができてしまうように思えてならない。また、主人公があまりにも強すぎて、ひとりで敵をバッタバッタとなぎ倒していくところは爽快でありつつも、ちょっとやり過ぎのようなとも感じてしまう。
と、たいした欠点もない面白い小説を堪能できたことは確かであり、これはまた期待の作家が出てきたなと感じさせられたのだが・・・・・・なんと著者のロジャー・ホッブズは2016年に28歳の若さで亡くなっている。この作品が処女作であり、2作目までは発表しているらしい。この作家の作品があと一冊しか読めないというのはなんとも・・・・・・
<内容>
船上におけるサファイヤの強奪計画を立案したアンジェラであったが、それがどうやら失敗に終わり、彼女が何者から狙われることとなった。しかも相手は、彼女が知らない何かを持っているものと思い込み、直ちにそれを返還しろと要求してくる。窮地に陥ったアンジェラは、事態を打開するために、かつての弟子で恋人でもあった“ゴーストマン”に連絡をとることを決意する。
<感想>
前作「ゴーストマン 時限紙幣」を文庫で買って読んだのだが、それが面白かったので、こちらはハードカバーで購入。2作目にして遺作となったロジャー・ホッブズの作品。
今作では前作で触れていた“ゴーストマン”の師匠であるアンジェラが計画した強奪事件により幕を開ける。しかし、その計画が失敗し、アンジェラは命を狙われることに。事態を打開するために、久々に“ゴーストマン”に連絡をとり、そしてゴーストマンがやってきて、二人で共闘して正体不明の相手に立ち向かう。
アクションサスペンスとして十分に面白いものの、どこか物足りなさを感じてしまう。というのは、そもそも“ゴーストマン”というのは役割で会って、本来であれば事件の後始末をする者のことを指している。にもかかわらず、この作品でやっていることは、実戦部隊の仕事に他ならない。しかもそれが全て強引な力技ですんでしまうのであれば、“ゴーストマン”という役割自体が必要のないものになってしまうのでは?
本来ならばチームプレイを主体とするべき人物造形のはずが、単独行動を行うことにより、その設定があだとなっている感じ。また、あまりにも主人公らがスーパーマンすぎて、計画とか、駆け引きとかほぼ関係ないように思えてしまう。そんなわけで、アクションサスペンスして普通に楽しめる作品であることには間違いないが、細かい点をつつくと、あれやこれやとつい言いたくなってしまうという内容。また、個人的には前作のほうが出来が良かったように思える。
<内容>
画家のスコットが、誘いにより乗せてもらうこととなった資産家のプライベートジェット。その飛行機が墜落し、スコットは海に投げ出される。スコットは泳いで陸へとたどり着こうとする途中、同じ飛行機に乗り合わせていた少年を救助し、二人で無事に生還を遂げる。マスメディアにより英雄として注目されることとなったスコットは、人々の目から逃れるために身を隠す。一方、連邦の調査チームは飛行機の事故の原因を調べ始め・・・・・・
<感想>
ここまで引っ張っておいて、期待させておいて、結末はこれかよ!! と、読み終えた時に叫びだしたくなる本。
プライベートジェットの墜落に遭いつつ、無事生還を遂げた画家のスコット。その事故を生き延びたのは、スコットと途中でスコットが救出した少年の二人だけ。何故、このような事故が起きたのか? 徐々に真相へと迫ることとなる。
飛行機に乗っていた者たちの、ひとりひとりの背景がそれぞれ描写されてゆく。資産家のデイヴィッドは、彼が雇っている番組コメンテータが犯した盗聴行為により窮地に立たされる。銀行家のベンは法律により、追い込まれる羽目に。また、デイヴィッドの娘が過去に誘拐された事件についてと、その事件以来雇わるようになったボディーガード。飛行機を操縦する操縦士、副操縦士、客室乗務員ら、それぞれの背景。そして、生還した画家・スコットの作品にまつわる謎。
こういったものが語られる中で、背後に何か大きな陰謀が働き、やがてとてつもない真相が顔を出すことになるのでは・・・・・・と、散々期待させておきながら、まさかの結末。ただ、読んでいる時に、登場人物ひとりひとりの過去が語られるパートの進み方がやけに遅いと、微妙な感触を抱きつつ読んでいたのは確か。どうもスピード感に欠ける作品だなと思っていたのだが・・・・・・。
なんか、ミステリとか、サスペンスとかではなく、文学的な内容の作品だと捉えたほうが良いのかなと思えてしまう。意外な展開を期待する作品ではなく、登場人物それぞれの人間模様について感じ入るべき作品なのかと。
<内容>
イギリス、シェトランド諸島。産科医のトーラは夫の故郷であるこの地に引っ越してきた。ある日、トーラは愛馬が死んでしまったため、自分でブルドーザーを操作して墓穴を掘ろうとしたところ、女性の死体を発見してしまう。その死体は心臓がえぐられ、背中に三つのルーン文字が刻まれていた。警察の捜査により被害者の身元が判明したものの、亡くなったと思われる女性の死亡日の記録と遺体から推定される死亡日が一致しないのである。彼女は死んだ後もまだ生きていたということに!? この死体発見を機に、トーラはシェトランド諸島をめぐる大きな事件に巻き込まれてゆく。
<感想>
今年の話題作(というほどでもない?)の一つとして駆け足で読んだ作品。てっきり本格ミステリかと思って読んだのだが、どちらかといえばホラー系のサスペンス作品であった。思っていたものとは違ったものの、良い意味で裏切られたという感じ。ここ最近読んだ本のなかで、一番恐ろしく、最も寒気を感じた作品。
序盤は謎の死体が発見されるところから始まり、その身元を捜査するというふうに物語が展開していく。主人公はトーラという産科医であり、この人物の視点で話が語られてゆくこととなる。ただ、この人物がやたらと不安定な人物であり、過剰なまでに周辺に対して恐怖感を抱いており、こんな人が産科医をやっていて大丈夫なのかと感じてしまう始末。
そういったことにより、不安定というか、なんかグラグラしたような感じで話が始まっていくのだが、主人公の恐怖が徐々に現実のものとなり始める。彼女の周囲にいる人が誰一人信用できない。夫、義理の両親、病院の上司、さらには警官までもが。日常の背後で密かに進行していた犯罪のあまりの大きさに主人公は孤立していくこととなる。
という具合に、過剰な恐怖感が実際にものとなり、誰を信じたらよいのかわからない状況のなかで、隠されていた真相が徐々に明るみに出てゆくという展開。主人公が産科医という設定は、この主人公自身にはそぐわないと思えたものの、物語上は大きな意味を持つこととなる。序盤はうまく描かれた作品とは決して思えなかったものの、途中からホラー系の作品であるという見方に変えてゆくと、実に効果のある描写であったことがわかる。
本書は、たぶん一般には目立っていない作品であると思えるが、これは隠れざる佳作と言ってよいであろう。サスペンス・ミステリが好みの人にお薦め。
<内容>
「プロローグ」
「足跡のない連続殺人」
「四階から消えた狙撃者」
「不吉なカリブ海クルーズ」
「聖餐式の予告殺人」
「血の気の多い密室」
「ガレージ密室の謎」
<感想>
読む前に期待しすぎてしまったかなという感じ。ミステリマニアの新進の作家によるミステリ作品ということで、かなり期待が高まったのだが、思っていたより普通の推理小説に収まってしまった。レベル的にいえば、後期の「サム・ホーソーン医師」のシリーズと同程度といったところか。
作品のどれもが不可能犯罪を用いているというところは良いのだが、犯人の正体があまりにも分かりやすいというのが欠点。怪しげな行動をしている者がそのまま犯人ということでだいたい予想がついてしまう。また、不可能犯罪のトリックについても良くできているという反面、独創的なものは少なかったと感じられた。
そういった中で「ガレージ密室の謎」については、意外というか変わったトリックを用いており、かなり目を惹いた内容であった。
本書の主人公は引退した牧師であり、彼と登場する人々との間で、宗教的なやりとりがなされる場面がちらほら見受けられる。このやりとりに関して、私自身あまりピンとこなかったというところも、やや作品にのめり込むことができなかった要因のひとつかもしれない。読む人によっては、また別の意味合いを感じ取ることができるのかもしれない。