Donald E. Westlake  作品別 内容・感想

361   6点

1962年 出版
1967年03月 早川書房 ハヤカワミステリ977

<内容>
 レイ・ウィラードは三年の軍隊生活の後、除隊し、ニューヨークに戻ってきた。父と再会し、父の車で故郷へと帰る途中、何者かに襲撃される。父親は射殺され、レイは重傷を負うことに。いったい父は何故殺されなければならなかったのか? レイは復讐を誓い、兄ビルの力を借りて、殺人者を捜し始める。

<感想>
 ウェストレイクの初期作品。いまや古本屋でしか入手できないであろう。

 本書のあとがきを読むと、ハードボイルド業界でチャンドラーやマクドナルドに告ぐ作家がいないことが懸念されていた時代があり、その時に新人として出てきた一人がこのウェストレイクであるという。今でいうとウェストレイクといえば、多彩な作家という風に捉えられるが、本書はウェストレイク名義の3作品目であり、同時にスターク名義で悪党パーカー・シリーズを書いていたという事を考えるとハードボイルドの新たな旗手だと考えられてもおかしくなかったのかもしれない。

 この作品を読むと、ハードボイルドでありつつも、クライムノベルの走りというようにもとれる内容。軍隊を除隊した男が、目の前で父親を殺され、その復讐を誓うというもの。主人公が知らなかった父親の過去を掘り下げることにより、新たな世界へと関わり合うこととなり、主人公を取り巻く世界が一変する。そこから主人公が復讐を遂げてゆく過程と行動は圧巻なもの。さらには、事件を単純に終わらせずに一捻り付け加えてあるところも見事と言えよう。

 スピーディーでなかなか読み応えのある作品であった。まだ、初期の作品ゆえにあまりウェストレイクの色というか特徴が出ているという感じではなく、主人公の人間性自体も薄い。今の時代に読むと普通のクラムノベルというぐらいにしか感じられないかもしれないが、その時代に読めば新生が表れたと感じ取れたのではないかと思えてならない。ちなみにタイトルと“361”というのは、作品の内容とは関係なく、百科事典の361ページが生命の破壊・変死・横死の項、つまり殺しのページだということから付けられたそうである。


忙しい死体   6点

1966年 出版
2009年08月 論創社 論創海外ミステリ87

<内容>
 ギャングの一味であるエンジェルは、ボスに命令されて墓に埋葬された死体を掘り出すこととなる。その死体はなんと、25万ドル相当のヘロインが入ったスーツを身につけたまま埋葬されたらしいのである。エンジェルは墓から棺を掘り出してみたのだが、なんとその中に死体は入っておらず・・・・・・

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<感想>
 ウェストレイク初期の作品。この作品はウェストレイクらしい、ドタバタ劇が描かれたミステリ作品となっている。ただし、初期の作品であるためか、ドタバタぶりも少々控えめであったように思える。

 とはいえ、主人公エンジェルが、警察に追われたり、美女にだまされたり、命を狙われる破目になりながらも死体の行方を捜そうと奔走する様はなかなか見ものである。簡潔に読むことができるサスペンス・ミステリとしてはもってこいであろう。

 ただ、ボリュームは少ないので、万人向けのミステリというよりはウェストレイクのファンのための一冊という感じはする。これが文庫であれば、広くお薦めしたいところではあるが。


さらば、シェヘラザード   5点

1970年 出版
2018年06月 国書刊行会 <ドーキー・アーカイヴ>第5回配本

<内容>
 ポルノ小説のゴーストライター、エド・トップリスは突然スランプに陥り、作品を書けなくなっていた。締め切りが迫る中、自分のことや家族のことをあれこれ書きながら、なんとか作品を書き上げようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 ウェストレイクの伝説的な・・・・・・変な本。ポルノ小説家が作品を書けなくなって、ひたすら悩むという内容。ただし、ただ単に悩むというだけでなく、自分の悩みながらの実生活と、書いている文章が交錯してゆくこととなる。現実から、虚実へ至り、するとそこから最初に戻り、また書き直し。そこから別の現実へと、という感じのメタ・フィクションのような構造。

 といった感じの変わった作品でありつつも、そこに何らかの仕掛けが施されているというわけではなく、あくまでも変わった小説という感じのもの。そんなわけで、とにかく変わった小説が読みたいとか、ウェストレイクをコンプリートしたいとか、そういった人以外にはあまりお薦めできない作品。


天から降ってきた泥棒

1985年 出版
1997年06月 早川書房 ミステリアス・プレス113

<内容>
 超高層ビルの最上階に軟禁された娘を救い出せ! 天才的な泥棒ドートマンダーは、ひょんなことから厄介な仕事を引き受けるはめになった。ついでに貴重品を盗んでひと儲けしようと考えた彼は、それを餌に仲間を集め、厳重な警備を誇るビルに侵入する。が、ハプニングの連続で窮地に陥るはめに・・・・・・


アルカード城の殺人   6点

1987年 出版
2012年07月 扶桑社 扶桑社文庫

<内容>
 ドナルド・E・ウェストレイクが主催したミステリーイベントを小説化した作品。妻のアビー・ウェストレイクと共著。

 トランシルヴァニアの森に建つアルカード伯爵が住む古城。そこに蔵書整理を行うために雇われたジョセフ・ゴーカーが到着する。その城に住むのは奇妙な人々ばかり。吸血鬼を連想させるようなアルカード伯爵とその娘。アルカード伯爵が保護している体の弱い娘。彼らの病気の管理をしている博士とその婚約者。さらには城の雑役婦や謎の毛深い男などなど。こうした人々を紹介された矢先、ジョセフ・ゴーカーは次の日死体として発見される。彼を殺害したのは誰なのか? そしてこの城の謎とはいったい!?

<感想>
 1980年代に行われたミステリーイベントでの題材を小説化したもの。ゲストとして容疑者の役をやっている人たちは現役の作家が多く、この作品ではスティーブン・キングやピーター・ストラウブが出演している。事件が提示された後、イベントの参加者たちはそれぞれの容疑者を尋問し、最終的により詳細な解答を提示するという趣向である。

 このミステリーイベントでの重要なところは、容疑者にどのように質問し、どれだけの真相を引き出せるかというところにある。ただ、小説としては自由に尋問できるはずもないので、その詳細があらかじめ提示してあるがゆえに、残念ながらイベントの醍醐味を味わうことはできない。また、容疑者の証言がきちんと提示されていることから、だいたい真相がわかるようになっているので、犯人当てを楽しむことができる作品というわけでもない。

 とはいえ、その証言を読むだけでも、十分物語として楽しむことができ、怪奇風のミステリを味わえた気がする。写真が多数掲載されているせいか、ページ数のわりには若干本の値段が高めのような気はするが、ひとつの推理イベントの資料として残しておくのにはよいかもしれない。それなりにイベントの雰囲気と一風変わったミステリを堪能することができる作品。


聖なる怪物   6点

1989年 出版
2005年01月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 インタヴュワーを名乗る男が老俳優ジャック・パインの元をおとずれる。そして語られるジャック・パインのその生涯。そのインタヴューが終わるとき、到達する真相とはいったい!?

<感想>
 ひとりのハリウッドのベテラン俳優の人生がインタヴュワーの前で語られてゆくという話。ただ、そのインタビューの中で不可解に思えることがいくつも感じられる。この俳優の語ることは現実なのか虚構なのか、彼の人生に終始つきまとうバディーという男の謎、そしてインタヴュワーの目的とは何なのか? そういう事を考えさせられながら最後まで物語に引き込まれてゆくという作品に仕上がっている。

 そして最終的な真相はというと・・・・・・結構普通な終わり方のような・・・・・・。とはいえ、こういう終わり方をするとは、多くの人は予想しえないのではないだろうか。といっても、それがあまりにもトリッキーとかそういった形ではなく、常識的な範囲の中に留ってしまったという印象。ゆえに、この辺はミステリーを読みなれている人であれば、さほど意外だとは感じないであろう。こういったところは10年以上も前の作品であるのだから仕方がないと考えるべきか。

 手軽にサイコ・ミステリーを楽しみたいという方にお薦め。文庫で300ページを少し超えるという程度の厚さであるのだが、ページの中で空白の部分が多いので200ページくらいの本を読んだという感覚であった。お手軽に本を読みたいという方はどうぞ。


骨まで盗んで

1993年 出版
2002年06月 早川書房 ハヤカワミステリ文庫

<内容>
 大腿骨はトラブルのもと? 何の因果か天才的泥棒ドートマンダーは、ある国から隣の国が所有している聖少女の骨を奪ってくれと頼まれた。それはどうも国にとって重要な物だと知り、ドートマンダーは泥棒仲間と共にいざ出陣。だけども失敗、これはまずいと逃げ出したが・・・・・・哀れ投獄された不運なドートマンダーと骨の運命は?


最高の悪運

1996年 出版
2000年04月 早川書房 ミステリアス・プレス147

<内容>
 天才的な泥棒ドートマンダーは盗みに入った大邸宅で、不運にも邸の主人に捕まってしまった。しかも、同居人のメイからもらった大切な指輪まで奪われるはめに。プロの意地を賭け、彼は仲間たちとともに指輪奪還に向かう。が、仲間達は指輪のついでに大金を盗み出すことを計画し、事態は大混乱に・・・・・・



1997年 出版
2001年03月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 わたしは今、人を殺そうとしている。再就職のライバルとなる元同業者6人を皆殺しにする。この苦境を脱する手は他にないのだ。リストラで失職したビジネスマンが打った乾坤一躍の大博打は、やがて彼の中の“殺人者”を目覚めさせてゆく。

<感想>
 ある種一つの就職活動。リストラになった男は就職口を探そうと奔走する。しかし結果が出ないために男は自らの手で打って出ることに。理由や方法はどうあれ(肯定する気はないが)これは就職活動であり、またこの自らが活動しているという事実により男自身の心の中に平穏が生まれるのであろう。これによって男が就職できるかできないかは問題ではない。就職できなければ男はまた異なる方法を考え出し、自らの平穏を得ようとするのだろう。さらには平穏を手に入れたからといってそれまでに行ったことが消えうせるわけでもなく、さらに何かも求めようとするかもしれないのだが。結局は破滅に至るまで。

 しかし、それにしてもこんな内容であるにしろウェストレイクが書くことにより話が陳腐にならないのは見事である。リストラという同情もあるにしろ、なぜか主人公の行為がある種正当であるかのようにさえ思えてくる。読み手の心情を惹きつけて、一般的な正当性の境界があやふやにされてしまう。見事に引き込まれてしまった。


鉤   6点

2000年 出版
2003年05月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 ベストセラー作家ブライス・プロクターは悩んでいた。家庭の事情からスランプに陥っていて全く本が書けなかったのだ。そんなときに昔知り合いだった作家のウェインと出会う。ウェインはここ数年自分の名義で出しても出版料が少ないので別のペンネームで作家活動を続けていることをブライスに話す。ブライスはそこでウェインに私の名義で本を出さないかと持ちかける。収入は山分けという条件で。そしてさらにプライスはもう一つの条件を持ちかける。自分の妻を殺してくれないかと・・・・・・

<感想>
 ある種の交換殺人ものといってもよいであろう。ちょっと変わった交換条件と事件に関わる二人の職業が作家であるということが話を面白くさせていく。

 特に面白いのはアメリカでの出版事情によるウェインの悩み。出版料が安いので別のペンネームで書くというのには思わず納得してしまう。日本での出版事情というものにはあまり詳しくないのだが、売れない作家の中にはこういうことをやっている人がいてもおかしくはないだろう。当のウェストレイクもいろいろな名義で本を出版しているのだが実際にこのような出来事に遭遇した時期もあったのだろうか?

 その交換殺人が持ち掛けれた後は速いスピードで物語が展開していく。そしてそれから二人の作家がどうなっていくのかは予想をつけることが全くできない。とはいうものの中盤から後半にかけては妙に物語が落ち着いて、作家が普通に悩む小説になっていくというのもまた奇妙なものである。全体的に興味が尽きることのない仕上がりになっているのだが、もうひとやま欲しかったというところか。


バッド・ニュース   6点

2001年 出版
2006年08月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ドートマンダーは最近行った仕事が失敗したために、ケルプが持ってきた気の乗らない仕事を引き受けてしまうはめに。その仕事とはなんと、墓を掘って死体を入れ替えるというもの。いやいやながらも、ドートマンダーはケルプと共に仕事を行う事となったのだが、実はその墓掘りの依頼には、裏に潜む別の犯罪が隠されていたのだった! 結局、自らそれらの犯罪へと足を踏み入れることとなるドートマンダー。彼らは念願の大金を手中にすることができるのか!?

<感想>
 今回、本書を読んでいて感じたのはやけに小難しい内容になっているなということ。ドートマンダー・シリーズといえば、もう少し気楽な作風であると思えたのだが、今作では訴訟や弁護などと小難しい内容がいたるところにちりばめられている。結論としては、さほど難しいものではないのだが、それらの挿話が障害となり、少々読みづらさを感じられた。

 そしてドートマンダー自身も悩んでいた事なのだが、本書では彼の仕事がないのである。そのことに、なぜ自分がここにいるのだろうと悩み、存在意義を確認しながら黙々とどうでもいい仕事にせいを出すドートマンダーの姿は哀愁さえもただよってくる。

 しかし、後半に入り、ようやく本来のシリーズらしき話の流れとなってくる。そしてドートマンダーも彼自身が活躍すべき仕事ができて、見事に息を吹き返すこととなるのだ。

 最後まで読み通せば面白かったと思えるものの、やや冗長であったかなとも感じられた。もう少し単純な内容でもいいのでは? とも言いたいのだが、シリーズもこれだけ続けば、単純な内容ではマンネリ化してしまうのだろう。こういった内容になってしまうのも、人気シリーズゆえの悩みといったところなのか。


泥棒が1ダース   6点

2004年 出版
2009年08月 早川書房 ハヤカワ文庫(現代短篇の名手たち3)

<内容>
 序文「ドートマンダーとわたし」
 「愚かな質問には」
 「馬鹿笑い」
 「悪党どもが多すぎる」
 「真夏の日の夢」
 「ドートマンダーのワークアウト」
 「パーティー族」
 「泥棒はカモである」
 「雑貨特売市」
 「今度は何だ?」
 「芸術的な窃盗」
 「悪党どものフーガ」

<感想>
 ウェストレイク描く、泥棒ドートマンダーの短編作品集。これは傑作ともいえる、実にドートマンダー・シリーズらしい短編集に仕上がっている。味のある作品が実に多かった。

「愚かな質問には」はやけに重量のある美術品を妙な経緯で盗むこととなるのだが、ラストがグダグダになりそうなところを、予想外のオチが待ち受けている。

「悪党どもが多すぎる」は銀行強盗に出向いたはずのドートマンダーが何故か銀行強盗の人質になってしまう。絶対絶命の状況のなか、ドートマンダーがどのようにして切り抜けるのかが見もの。さらにそのとき、相棒のアンディ・ケルプがとった行動とは!?

「真夏の日の夢」はドートマンダーがやってもいない泥棒の疑いをかけられるというもの。ドートマンダーの泥棒の矜持たるものが垣間見える作品。ドートマンダーが実に男らしい、というか泥棒らしい。

「泥棒はカモである」はタイトルが実に見事。間一髪捉えられそうになるドートマンダーが如何にして危機から脱出することができるのかが、笑える形で描かれている。

「雑貨特売市」「今度は何だ?」内容のみならず、両方の短編に登場する故買屋アーニー・オルブライトという人物がいい味を出している。

「芸術的な窃盗」はかつての知り合いからドートマンダーは美術品の窃盗を頼まれるのだが、何やらよくないものを感じ取る。隠された真相を見抜き、ドートマンダーらがとる行動が秀逸。




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