<内容>
ジンクスは、ある日、病院で意識を取り戻す。ほとんどの事は覚えているものの“事故”の前後の記憶が欠けてしまっている。教えられたところによると、彼女は婚約者のレオに捨てられ、しかも、そのレオが親友のメグと駈け落ちしたショックで大酒を飲み車で激突死を試み、奇跡的に助かったという。しかし彼女は自分が自殺を図ったことが信じられない。
そしてある日、レオとメグの死体が発見されたことにより彼女の身の回りがあわただしくなる。ジンクスは十年前にも自分の夫が殺されていたのである。しかも今度の事件の殺害方法が昔の事件と同じ方法であったという。
また、彼女の父親は金融界の黒幕的な存在で日ごろから黒い噂が絶えない人物であった。警察は昔の未解決の事件も含めて、今回の事件の容疑者としてジンクスと彼女の父親を徹底的に調べ上げようとする。
ジンクスの父・アダム、ジンクスの継母・ベティ、だらしのない義理の弟マイルズとファーガス、病院での主治医・プロザロウ、メグの弟で司祭のサイモン、病院の患者でジンクスに気をつかう・マシュー。
背後に見え隠れする、売春婦暴行事件もからみ事件は予想外の展開へと進み、さらなる追求の手がジンクスに伸びて行くが・・・・・・
<感想>
前半はスピィーディーな展開で読ましてくれるのだが、後半からだらけてしまう。場面の移り変わりの多さとタ視点による構成がさらに混乱を招き、読みづらさを増して行く。中盤からやけにアリバイ崩しめいた展開になってゆくが、それが結末に結びついていたようには思えない。これなら思い切って、ページを少なくしたほうが評価がたかくなったのではないかと感じる。
多分、もう一回読むことによって、作者が意図的に作中にちりばめた伏線等に気づくのではないかと思うし、それによって評価もまた変わるのかもしれないが、再読する気にはなれない。
また帯には主人公のヒロインを強調するような言葉が書かれているが、物語の構成上、その主人公こそが最重要容疑者であるために、ヒロインとして読み進めることはできないと思うのだが・・・・・・
<内容>
記者のマイケル・ディーコンはとある事件に興味を持ち、その事件を追っていくことに。その事件とは浮浪者が一般住宅のガレージに入り込み、そのなかで餓死していたというものである。いったい、その裕福な家で何が起こったというのか。ディーコンは浮浪者が餓死した家を訪ね、そこでアマンダ・パウエルという強烈な印象を持つ女性と出会うことになる。調べていくうちに徐々に明らかになる二つの失踪事件。これらの事件はいったい何を意味するのか・・・・・・
<感想>
長らくの積読本をようやく手を付ける事ができた。この作品が出た当時は、それほど注目されなかったので、読むのを後回しにしてしまっていたのだが、読んでみると思いのほか面白い作品であった。
序盤は新聞記事の掲載から始まり、そして一匹狼の記者が調査を開始するという無機質な展開がなされてゆく。後半に入り驚かされたのが、序盤の孤独な印象から打って変わり、アットホームとさえ言えるような人間関係のつながりのなかで調査がなされてゆくこととなる。
本書は核となる事件の調査のみならず、主人公や彼をとりまく人々の人生の転換ともいえるようなものも扱われており、人と人とのつながりや生き方について触れるような内容となっている。
扱われる事件もなかなか興味深く、ひとりの浮浪者の死から浮き彫りにされる二つの失踪者の事件がうまく絡み合っていくように描かれている。そして昔の事件を通すことによって、現在起きた事件の中での関係者達の不可解な行動の数々に理由付けがされてゆくこととなる。
ウォルターズの作品は日本で紹介された直後はかなり大々的に取り上げられたが、そういった状況も徐々に尻すぼみとなってゆき、本書は日本では初の文庫版での登場となっている。しかし本書を含め、その後に翻訳された「蛇の形」といい、粒ぞろいの作品がそろっていることは間違いない。一般受けはしないかもしれないが、玄人向けの渋い作品を描く作家と言ってよいのかもしれない。今後も読み続けてゆきたい作家のひとりと言えよう。
<内容>
海で発見された女性の死体。死体はレイプされており、指の骨が折られていたが、死因は泳いだ末に力尽きたうえの溺死。また、被害者が溺愛していた3歳の娘は町でひとり歩いているところを無事保護される。いったい被害者に何が起きたというのか? 警察は容疑者として、被害者の夫と発見者である俳優の二人に絞る。事件を調べていくうちに、被害者と容疑者たちの奇妙な実態が明らかとなり・・・・・・
<感想>
ミネット・ウォルターズの作品は翻訳されているものは全て読んでいるのだが、なかなかこういう作家だというイメージが残りにくい。色々な作風というわけでもないはずなのだが、何故だろう? また、毎年とはいわないまでも、そこそこ作品を発表している割には、日本では数年置きの紹介となっている。この作品も1998年に書かれたもの。
読んだ感想は、まぁまぁというところ。ひとつの死体に対して、誰がどのように犯行を犯したかということを暴くために、被害者・容疑者の背景を深く掘り下げていく。それぞれの容疑者の矛盾する発言と事実を細かく暴きだし、やがて真相へと到達していくという展開。
最初は群像小説的な流れを想像していたのだが、思いのほか登場人物や容疑者の数が絞られており、その分内容が濃くなっている。決して陰惨で悪いだけの内容ではなく、心温まるような描写も取り入れられている。
個人的には最近読んだキャロル・オコンネルの「愛おしい骨」に似たような印象を抱いてしまい、「愛おしい骨」のほうがより良い作品であったためか、この作品に対する印象が弱まってしまったというところ。全体的な印象はやや薄めであるが、それでもうまく書けている作品だとは感じられた。なかなか、ミネット・ウォルターズという作家に関しては評価がしづらいのだが、それでもまた未訳作品が邦訳されたら購入してしまいそうである。
<内容>
ある雨の晩、ミセス・ラニラは道端で近所に住む黒人女性が死にかけているのに出くわしてしまう。その黒人女性アニー・バッツは奇妙な言動から隣人達からはうとまれており、彼女の死は周囲になんの影響ももたらさず、事故死という事で済まされてしまう。しかし、前々からアニーの事が気になっていたミセス・ラニラは彼女の死は事故死でないと訴えるものの、誰にも聞き入れてもらえず、逆に彼女自身が白い目で見られ疎まれるようになってしまう。あやうく、ミセス・ラニラの家庭が崩壊しそうになったあげく、逃げるようにラニラ夫妻はロンドンから引っ越すことに・・・・・・
そして20年後、ミセス・ラニラは再びロンドンの地に戻ってくることに。彼女は20年前の事件を解こうと固い決意を胸に秘めていたのであった。
<感想>
本当は今年読むつもりはなく積読にしておくつもりだったのだが、各ランキングでの評判を聞きつけ、これは今年中に読んだほうがよいだろうと思い手をつけてみた。そして感想はというと、これは面白いがなかなかの奇作だなという感じであった。
本書は20年前に死んだ黒人女性が何者かによって殺害されたことを証明しようという1人の女性の物語である。とはいえ、最初に読み始めたときは、話はそれだけではなく、先に進むにつれ話がもっと広がっていくのかと思っていた。しかし、物語は終始その事件の事のみで進行していく。
また、本書において謎となるものは、黒人女性の死因にまつわる謎だけでなく、何故主人公が周囲の冷たい視線を受けながらも20年前の事件を掘り起こさねばならないのかというのも重要なところである。こういった謎を抱えながら話が進められ、そしてそれらが徐々に明らかになっていくように書かれている。
このように書いてしまうと退屈な話のような印象をうえつけてしまうかもしれないが、実際には各章の間に主人公がさまざまな人とかわした手紙や検察報告等が挿入されていたりと、読み手を飽きさせないような工夫がなされている。
また、本書はラストにて話が一気にというよりは、全編を通してじわじわと湧き上がってくるといった感触のミステリーとなっている。そして最終的には謎の全てが明らかになるのだが、その謎がどうこうというよりは、主人公が20年かけてたどり着いたという事に感嘆してしまうような物語であった。
今、巷では似たような名前のウォーターズという作家の名が世間をにぎわせているが、本家(?)のウォルターズのほうもまだまだといわんばかりの力を見せ付けてくれている。まだ、訳されていない作品が多々あるようなのでこれからもいろんな形のミステリーを見せてくれることであろう。
<内容>
バシンデール団地、通称アシッド・ロウ。そこはまるでスラム地区であるかのように、住人の教養が低く、ドラッグが蔓延している地域であった。ナイチンゲール医療センターでは、そんなバシンデール団地に対しても巡回保健師たちが小まめに各家を訪問し、看護体制を築いていた。そうしたなか、ある保健師がこの地域に小児性愛者が引っ越してきたと口をすべらせてしまう。それが噂となって広がり、住民たちの怒りや不安をあおりはじめる。そして、10歳の少女が行方不明になるという事件が起きたことにより、バシンデール団地では暴動が発生してしまう。小児性愛者を追い出そうと、多くの人々が暴徒と化し、その家につめかけることとなり・・・・・・
<感想>
ウォルラーズらしからぬ、社会派サスペンス小説。こうした作品も書いていたのかと関心してしまった。ウォルターズの作家人生の分岐点となる一冊といってもよいくらいの新境地。
作品の内容は実際の事件をモデルにしているよう。スラム地区での暴動を主として描いた作品。スラム地区に小児性愛者が引っ越してきたという噂を皮切りに、暴動が発生する。そんななか、たまたま小児性愛者の家に居合わせることになった看護師、恋人を救いに行こうとする前科持ちの黒人、誘拐された10歳の少女の行方を追いかける刑事達。こうした人々の様子や行動を描いた群像サスペンス絵巻が展開されてゆく。
事件は暴動と少女誘拐事件を取り上げている。特にひねった謎というほどのものはなく、これら事件のなかで右往左往する人々や事件を打開していこうする者達の行動をひたすら追っていく内容。最初はただ単に嫌な事件を描いたものという風に感じたのだが、話が進むにつれて徐々に登場人物たちが存在感を増していくこととなる。特に、いつのまにやら英雄的な行動を取り始める前科持ちの黒人男性と、小児性愛者の元にとらえられながらも必死に抵抗する看護師。この看護師がおとなしくしていればいいものの、ひたすら相手に対して挑発をくりかえし状況を悪くしていくのである。この描写がこの人物に対する人間性をしっかりと描いているように感じられ、非常に興味深く読むことができた。
というわけで、ミステリ小説というよりも、キャラクター小説として面白くなっていった作品。最後の結末もひねりというか、皮肉というか、妙なかたちで終結をつげるところもなんともいえない。ウォルターのイメージを一転させる作品であった。これ以後の作品もどのようなものを書いているのか、実に読むのが楽しみである。
<内容>
ドーセットの寒村は移動生活者による不法占拠や狐狩りを行う狩猟会と保護団体との対立など、深刻な問題を抱えていた。そのような状況なか、村に住むジェームズ・ロキャー=フォックスは別の問題を抱えていた。彼の妻の不審死が実はジェームズの仕業であるという中傷の電話が鳴り響いていたのである。ジェームズは妻に先立たれ、残されたのは、別居している奔放な息子と娘のみ。ただ、昔にジェームズの娘が学生時代に出産し、養子に出した孫がひとり存在している。ジェームズの弁護士であり、現在唯一の友人であるマーク・アンカートンはその娘のもとを訪ねてみたのであったが・・・・・・
<感想>
ウォルターズって、こんな多視点の作品を書く作家だったけ? と首を傾げたくなるような構成の作品。とにかく、さまざまな人物がこれでもかといわんばかりに登場してくる。その中で、かなり魅力的な人物も多々存在するにもかかわらず、その個性を消すようにどうでもよさそうな人物が次から次へと出てくることとなる。
もう少し、登場人物を絞ってもらえれば、作品としてもシンプルになったはずであるし、登場人物の個性が際立つ作品になったのではないかと思われ、少々惜しまれる作品になってしまっている。
ただ、複雑に人々の思惑がからんでゆくなかで、その瑣末な人々にもきちんと役割を与え、一つの物語を構成していくという手腕はさすがというしかない。読み終えてみれば、物語はきちんと不可解な謎をほとんど残すことなく、解決がなされていると思われる。
とはいえ、解決事態はやけに小さいところに収束してしまったなと思われた。これだけ大風呂敷を広げておきながら、たたんでみればほとんどたいしたものが残らないという結末はかなり肩透かし気味であった。
とういことで、ウォルターズの作品にしては色々な意味で残念な内容であったといえよう。どこかちょっと、通るべき道が変わればかなり良い作品になったという可能性があるので、惜しいというしか他にない。
<内容>
「養鶏場の殺人」
恋人を持つこととなった純朴な青年が殺人犯として起訴されることとなった顛末とは!? 英国で実際に起きた事件をものに書かれた物語。
「火口箱」
殺人犯として起訴された男は、前科持ちのいかにも罪を犯しそうな男であった。しかし、その容疑を疑うものが真相を突き止めようと・・・・・・。コミュニティにおける偏見を表現した物語。
<感想>
読書を推進するためという目的で、別々の時期に書かれた2本の中編を一冊にまとめたもの。
「養鶏場の殺人」は、実際に起きた事件を描いた作品。当事者たちの心情を中心に、物語が進行していく。それにより、どのような形で事件が起きたのかが明らかとなるのだが、一概に加害者のみに非があるともいえないところに、何とも言えない余韻が残る。また、実際の事件の判決が正しいものであったのかという疑問を持ち掛けるところも心憎い。読了後に色々と考えさせられる良作と言えよう。
「火口箱」は、コミュニティでの偏見と事件を描いた内容。こちらは、ウォルターズのその後の作家活動に影響を与えることとなったのではないかという題材。実際、「遮断地区」という作品は、この「火口箱」を広げた内容である。単に社会派小説としてだけではなく、サスペンス・ミステリとしても楽しめる内容である。
「養鶏場の殺人」と「火口箱」の両社とも社会派ミステリとして表された内容であるが、それぞれ異なる語り口で描かれている。読書を推進する目的で書かれただけあって、それぞれが非常に読みやすい。ただし、最初の「養鶏場」のほうは、痴情のもつれを描いているので、好き嫌いは分かれそう。本書はミネット・ウォルターズ未読の人にとって、著者を知ってもらうための格好の作品である。
<内容>
アフリカにて生まれ育った女性記者、コニー・バーンズは、ある男を追っていた。その男とは傭兵であるキース・マッケンジー。コニーは、マッケンジーが複数の女性に対して惨殺を行ったという疑いを抱いていた。たまたまバグダッドでマッケンジーらしき人物を見かけ、コニーが探りを入れようとしたところ、逆に拉致監禁されてしまう。3日後に解放されたものの、コニーはその間、何があったのかを語らずに、逃げるようにイギリスへとわたり、隠遁してしまう。コニーは、そこで女性の農場経営者ジェスと出会い、邂逅を遂げるのであったが・・・・・・
<感想>
最後まで読むと、もやもやしたまま話が終わってしまったかなという感じ。こういった感情で終わる作品が、ウォルターズの別の作品でもあったような気が。
話は、女性記者コニー・バーンズと容疑者キース・マッケンジーとの物語と、コニーがイギリスの田舎町で出会うジェス・ダービシャーの土地と人間関係にまつわる物語のふたつが中心となる。
記者コニーは、複数の女性に対する惨殺事件の犯人ではないかとキース・マッケンジーを疑う。しかし、コニーがキースを追い詰めようとしたことにより、反撃にあい、三日間監禁される。そこからコニーが解放された後、その監禁についてはいっさい語らず、コニーはイギリスの田舎町へと逃げていく。本書の問題は、結局その三日間のことがぼかされ、きちんと語られていないことであると思われる。ただ、あえてその描写を書かないことにより、想像力を掻き立てるという趣旨なのかもしれないが、どうにもあいまいなまま話が進んでいくというような。
一方、イギリスに逃げ込んだコニーは、そこで孤独に生きる女性ジェスと出会う。その村に置かれるジェスの環境と人間関係のなかに、しだいにコニーが巻き込まれてゆくこととなる。このジェスを取り巻く問題については、きちんとした結末が与えられることとなるのだが、ジェス自身についてがよくわからずじまいであったかなという感じ。
本書を読んで煮え切らないと思ったのは、基本的にコニーの感情のみが取り上げられていて、キース・マッケンジーやジェス・ダービシャーについての説明というものが少なすぎたように感じられる。起こったことについては、読者の想像に任せるという趣旨なのかもしれないが、長い話のわりには、全体的に説明不足というか、煮え切らないところが多かったなぁという印象。