<内容>
<感想>
2002年度、国内ランキングで絶賛されたボストン・テラン処女作。
内容は今風のアメリカ小説。カルト教団、ドラッグとジャンキー、そしてそれを取り戻そうとする父親。といってしまうと、なんの変哲もない現代風小説に感じてしまうが登場人物の魅力が他の小説との間に一線を引いている。娘を取り戻そうとする警官の父親とそのカルト教団から出て一人暮らしていた女。この二人が共に行動し、カルト教団へと迫ってく。そしてその二人を待ち受けるものと二人の間にある厳しい現実。さらには娘を取り戻したとしても前の生活には戻ることの出来ない現実。そういったものから、真正面から向かい合うように描かれていて厳しい現実に触れながら辿り着いてく結末は圧巻である。
<内容>
犯罪を隠蔽するために、母親は娘を連れて警察官を殺害する。しかし、殺したはずの警官は生きていた。警官は生還したものの、その背景となった事件の容疑をかけられ全てを失うことに。数年後、男は自身の再生のために事件を再び調べ始める。
<感想>
ジャンルのうちの一つに“ノワール”といわれるものがある。代表的なものは、日本では馳星周氏の作品、海外ではジェイムズ・エルロイの作品などが挙げられる。その他にも最近ではあえてノワールと銘打った作品が数多く登場している。それらのいくつかを読んでいるうちに、ノワール作品はある程度パターン化されてしまう傾向があり、目新しいものはこれからあまりでないだろうと思っていた。しかし、そんな思いをぶち破る作品が登場した。それが本作品である。
謀略を練り、破壊を繰り返す母親。その母親の影におびえながらも、歪んだ絆により決して離れることのできない娘。そして生死の瀬戸際から蘇りながらも、社会から抹殺された男。決して明るい先行きなどは待ち受けていないであろう主人公達。とはいうものの、彼らがどのような道を辿り、どこへ到達するのかは全く予想はつなかい。そんな登場人物らの暗い怨念に引かれながら物語りは進められていく。
はっきりいって、細かい内容などはあまり気にする必要はない。本書はストーリーではなく、登場人物たちのキャラクターによるパワーによって導かれていく本である。その中でも母親ディーの存在感は圧倒的である。身体的には普通の人と変わらないはずであるのだが、それがまるで獲物を狙うハンターであるかのごとくのように行動する。このディーの行動により、物語は様々な展開へと動かされていくといってもよいであろう。決して理屈ではない、その暴力的なパワーに惹かれること必至の一冊。
<内容>
実業家ネイサン・グリーンの息子、テイラーが不慮の死を迎える。殺人かと思われたのだが、事件は自殺と言う事で治められた。事件から一年後、デイン・ラッドという青年がテイラーの追悼集会に招かれてきた。その青年は自分の死後、臓器移植を望んでいたテイラーの角膜を移植されていたのだった。そしてデインは何かに憑かれたかのようにテイラーの死の真相を暴こうとする・・・・・・
<感想>
久々にテランの新作が読めるということで期待していたのだが・・・・・・期待していたようなものとはかけ離れた内容であった。まず、話もキャラクターも平凡である。主人公が謎の死を遂げた青年から角膜を移植されたという、ちょっと変った設定が付いてはいたものの、あまりその事が生かされていたようには思えなかった。そして話も二転三転とするわけでもなく、一つの事実の前で多くの登場人物たちが右へ行ったり左へ行ったりと繰り返しているようにしかとることができなかった。要するに平凡なミステリーを長々と読まされたというのが本書の感想である。
本書では、主人公を見守る二人の男との間の別々の“父と子”という関係が描かれているなどと、色々と深読みできそうなところもあるのだが、そういうのは今までの作品と比べればいささかテランらしからぬように感じられた。
もっとぶっ飛んだ、もっとものすごい小説を期待していたのだが、テランはこのまま落ち着いたかのような作風に収まってしまうのだろうか。ぜひとも次作で憂さを晴らしてくれればと思っているのだが。
<内容>
クラリッサが生んだ娘イヴは耳が聞こえなかった。クラリッサの夫のロメインは娘が健常者ではないことにいらだち、日々妻に暴力をふるう。母と娘のみの孤独な日々が続いていたが、彼女たちにフランという女性が助けの手を差し伸べてきた。クラリッサとイヴはもはや孤独ではなくなり強く生きていこうと思い始めたものの、そこには相変わらずロメインの暴力の影が。そんな状況を打開しようとクラリッサはある行動をとるのだが・・・・・・
<感想>
久々に紹介されることとなったボストン・テランの作品。今作はミステリというよりも“物語”という趣が強い。しかし決して単なる物語ではなく、強烈な“生き様”が描かれた圧倒的な物語となっている。
内容は耳が聞こえない状況で生まれてきたイヴという娘を巡るもの。彼女がひとりで生きていくことができるようになるまでの人生に起こった出来事が描かれている。イヴが生きていく中でさまざまな障害が待ち受けることとなる。当然のことながら耳が聞こえないという他の人とは異なる状況。暴力をふるうろくでなしの父親の存在。さらには治安の悪い地域のなかで女の力のみで生きてゆかなければならないという過酷さ。
そういったなかで、イヴには母親の存在、フランという母親代わりでなおかつ友人でもある存在、そして恋人などと彼女を助けてくれる人々に巡り合うこととなる。しかし、彼女の人生を積極的に妨害しようとする者たちも現れ、決してのぞむような平穏な生活は得られないのである。
ストーリーは普通と言えば普通なのかもしれない。結末も決して意外性があるというわけではない。しかし、物語全体に力強さとやりきれなさがあふれており、大いに存在感を示すものとなっているのである。女性の強さと生き様を描いた小説として、今後も語り継がれてゆくであろう作品。
<内容>
1910年、メキシコとアメリカの州境。メキシコでは今、革命が起きようとしていた。30年以上続いた独裁政権を打破しようと農民たちが武装蜂起したのだ。そうしたなか、合衆国捜査官ジョン・ルルドは、メキシコ国内に詳しいという犯罪者ローボーンと共にメキシコ国内の情勢を探る内偵の任務を受ける。彼らは内戦の真っただ中へと乗り込むこととなり・・・・・・
<感想>
久々のボストン・テランの新作であったのだが、今回はやや期待外れであった。今までの作品のなかでも微妙な内容のものもあったのだが、それでもどこか印象に残る部分があったり、ぶっ飛んでいたりというインパクトがあったのだが、今作はそういったものを感じ取ることができなかった。
序盤に大きなインパクトがあるものの、それだけ。あとは、二人の男のロード・ノベルズというような感じ。メキシコ革命の真っただ中へ入り込んでいくという内容なのであるが、主人公らがそうした革命のどこへたどり着き、何を成したのかということが、さっぱりわからなかった。ただ単にメキシコへ行ってきただけというような・・・・・・
<内容>
子犬のギヴは親犬の名前をもらい、飼い主に愛されながら育てられていた。そこへ立ち寄ったミュージシャン崩れの兄弟ジェムとイアン。イアンがギヴと邂逅するのを見て、ジェムはギヴを盗み出し、イアンと共に町から逃げ出す。そこからギヴの壮絶な旅が始まることとなり・・・・・・
<感想>
ミステリではなくロードノベルといった感じの小説。犬の視点というわけではないのだが、ポジションとしては犬のギヴを中心として、ギヴの関わる人々の様子が描かれてゆく。ロードノベルと言いつつも地道な旅が続けられるようなものではなく、意外な展開が繰り広げられ、決して犬のギヴにとって過ごしやすい日々が続くというものではない。それどころか困難な日々の連続と言ってもよいほどである。
なんとなくではあるのだが、この作品は犬のギヴを通してアメリカそのものを表しているというように捉えられた。戦争や9・11といった事件を経験し傷ついてゆくアメリカ。その傷ついてゆく一面を犬の物語として表しているかのような作品。動物好きに限らず、誰が読んでも何か感じ取れるものがあるのではないかという印象。