<内容>
犯罪組織を裏で操る男レッド・ドックは警官夫婦の赤子を誘拐する。しかし、その後レッド・ドックはその件で特に利益を得ようとせずにその後の行動を閉ざしてしまう。
そしてその事件から十数年後、レッド・ドックによる誰も予想だにしなかった究極の犯罪計画がついに幕を開けることに・・・・・その犯罪計画の裏に秘められたものとは??
<感想>
「Mr.クイン」で好評を得た著者の二冊目。本書を読み始めると前作とは主人公は異なるものの、同じ犯罪プランナーによる小説であることがわかる。そして主人公のレッドが奇妙というか不可思議な行動をとりながら、物語は早い時間の流れと共に進んでいく。結局はなにか大きな犯罪を企んでいるのだなと思いながら最後まで読み進めていくと、そこには最初に感じたものとは異なる作品へと変化していく様を見取ることになる。
この作品は前作「Mr.クイン」とは全く関係ないのだが、ぜひとも前作を読んでから本書を読んでもらいたい。本書は前作の二番煎じだな、と思わせておきながらそれを異なるところへ着地するという効果も少なからず狙っていたのではないかと思う。それがどういう形で描かれているかといえばネタばれになるので書かないが、軽口で語りながら淡々と犯罪行為を行っていくレッドに対して、最後まで読み通したときに読んだときとは違う感情を抱くことになるものである。
「羊たちの沈黙」を思わせるようなサイコ野郎が出てくるのはご愛嬌として、この復讐へといたる変わった犯罪物語をぜひとも読み通してもらいたい。
<内容>
マイケル・ヒルは英軍によりアイルランドのテロリストと決め付けられ、見に憶えのない罪により収容所に入れられてしまう。そして収容所に入れられている面々を見ると、そこには知った顔ばかりが並んでいた。収容所の中での執拗な拷問や暴行に耐えながらもヒルらは大脱走を計画する。はたして彼らはこの地獄から自由へと逃れ出ることができるのか!?
<感想>
これは著者の自伝的小説であるらしいのだが、それだけになんともリアリティにあふれた薄ら寒く感じさせるような小説となっている。獄中小説というと最近ではありきたりかもしれないが、収容所の中を描いたものというのはあまりないだろう。しかもそれが戦時中というわけではないところがまたなんともいえないところである。そういったところからイギリスとアイルランドの溝というものを感じ取ることもできるようにもなっている作品である。
本書は自伝的小説という事もあって物語性においては乏しく感じられる。とはいえ、一般に暮らしている人間に普通物語性などはついてまわることはない。しかし、この物語の登場している人物たちは厳しい現実の中に生きており、生きるか死ぬかという命題が常に付きまとうことにより、波乱万丈な生き方を強制されているのである。もっとも当人達にとっては物語のある人生なんていう言われ方は気に入らないかもしれないが。
本書から特に現実的な厳しさを感じ取ることができるのは“大脱走”を企てるところにあるだろう。当然のことながら同名の映画のように華々しく行かないということは、計画の段階から明らかである。その結末は読んで確かめてもらいたいのだが、人々は自分の意思ではなく国家の動向に翻弄されるだけでしかないという事が痛々しく感じ取れるようになっているとだけ述べておきたい。
解説にてシェイマス・スミスについての考察が簡単に書かれているのだが、こういった経験が今までの作品の中に込められているということは確かなようである。