<内容>
「被告は良心の呵責もなく、情け容赦なく、いともたやすく人の命を奪った」
ビル・ホルトは冷酷な殺人犯として投獄された。不倫相手の女性を殺害し、さらにその二週間後、事件の手がかりをつかんだと思しき私立探偵をも、計画的に殺害したとして。状況証拠は完璧としか言いようがなかったが、彼は無実だった。
16年後、仮釈放を認められたホルトは、復讐を誓い、真犯人を捜し始める。自分を陥れたのは誰だったのか?
<感想>
非常に面白い。切れ味のするどい本格推理小説として完成している。ラストに容疑者達が集まる元へと出向き、論理的な展開を繰りひろげるところなどはまさに王道。かなりうまくできていると思う。
一つ思うのは、これは読者によって賛否両論あると思うのだがジャンの存在について。彼女は事件の情報収集という役割をもっているので重要人物であるのだが、ホルトを精神的にささえるという役割については、これはどうかな? と思ってしまう。確かにある意味ホルトの暴走を止める役割はしているものの、ラストのほうではかえってその存在がわずらしく思えたのだ。ラストではホルトが精神的に落ち着いている分、鋭さがそげてしまったように感じた。ここはもう少し暴走気味のほうがより、スピーディーだったのではないだろうか?
<内容>
牧師の館で牧師夫妻の義理の息子が殺害されているのが発見された。その義理の息子グラハムは妻である牧師夫妻の娘ジョアンナを虐待しており、ジョアンナは一時両親の家に逃げ延びていたのであった。グラハムはジョアンナを連れ戻すために牧師夫妻の家を訪れていたのである。事件は牧師夫妻とジョアンナが家を離れているときに起き、彼ら家族は互いをかばいあうような証言をしていた。真相を探るべく、ロイド首席警部とジュディ・ヒル部長刑事は捜査を進めてゆくのだが・・・・・・
<感想>
以前、このジル・マゴーンの作品が立て続けに出版され、「踊り子の死」「騙し絵の檻」が高い評価を受けた。それらの前に出版された作品として本書「牧師館の死」も購入していたのだが、手付かずのまま今までに至り、ようやく今回読了することができた。しかし、その後マゴーンの作品が訳されていないのだが、高い評価を得た割には日本では売れなかったのかな?
この作品はアガサ・クリスティーの「牧師館の殺人」をちょっぴり意識したものとなっている(あくまでもちょっぴり)。まぁ、タイトルはともかくとして本書では実際に牧師館に住む牧師夫妻のもとに訪ねてきた義理の息子が死亡するという事件が取り扱われている。
事件は限定された地域、少ない登場人物といったなかでのものではあるが、犯行当時のアリバイが小出しに提示され、容疑者達もなかなか本心を明かさないために、真相へといたる道標はなかなか示されない。そんな中、シリーズ主人公である刑事たちがお互いで交わしていた言葉をヒントにして真相へと到達していく展開はなかなか面白かった。読んでいて、読者が真相を当てるといったミステリではないと思えるのだが、真相に到達した後には本書が心理的なサスペンス・ミステリともいえる作品であったと気づかされる。
また、本書は、牧師夫妻を取り巻く人間関係や、シリーズを通してのロイド警部とジュディ刑事との関係などといった人間描写も注目すべき点となっている。結構どろどろとした内容と感じられたのだが、このへんはいかにも女流作家が描くミステリらしいとも思えるところ。
<内容>
寄宿学校での舞踏会の夜、副校長の妻が殺された。暴行された形跡があったと聞いた教師たちは、一様に驚きを見せた。それも、校内で凶悪犯罪が起きたことにではなく、彼女がレイプされたことに。男と見れば見境のない彼女の色情ぶりは、いわば公然の秘密であり、学校の悩みの種だったのだ。加えて、外部の人間の仕業とは考えにくいとなれば、レイプ目的の犯行ではありえないのか? では、動機は? すべてが見せかけにすぎないのなら、その夜、本当は何があったのだろうか?
<感想>
読んでいる最中は結局のところ誰が犯人でもおかしくはないような状況ではないかと考えていた。そして解決に至る前にいろいろな状況が想定され混乱しかかったのであるが、犯人が指摘されるとこれが見事にぴったりとあてはまる。なるほど、確かにこれこそが最善の解決だと納得させられてしまう。
本格ミステリの内容については問題はないのだが、話としては若干人間関係のごたごたが多すぎるかなと感じる。マゴーンの作品を読むのは二作目で、読了し終えてから本作がシリーズものの第3作であることに気がついた。なるほど、シリーズであれば多少の人間関係の描写の多さも頷ける。とはいえ、本作の登場人物の人間関係とシリーズ登場人物の人間関係がこれだけごたごたしているのは少々食傷気味になってしまう。まぁ、人好き好きなのではあろうけど。