Jack Kerley  作品別 内容・感想

百番目の男  7点

2004年 出版
2005年04月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 カーソン・ライダーは連続放火殺人を解決に導いた事により、署内にて注目されている敏腕刑事であった。そんな彼の管轄で首無し死体が発見された。やがてその事件は連続殺人事件となり、サイコ・キラーによる犯罪の様相をていしてくる。ライダーは事件の解決を試みようとするものの、実は前回の事件のときは人に言えないような方法で事件の真相へと迫っていたのである。今回も再び同様の手段を使わざるを得ないのか・・・・・・
 上司による妨害、検視官との恋のてん末、そしてカーソン・ライダー自身の秘密・・・・・・すべての障害を乗り越えてライダーは事件を解くことができるのか!?

<感想>
 ひと言でいってしまえば、「羊達の沈黙」をベースにしたサイコ・サスペンスである。しかし、似たような作品が乱立しているなかでこの本が注目されたのはキャラクターの造形とそれを取り巻く魅力的な脇役たち、そして事件の真相にあるといってよいであろう。

 本書のタイトルとなっている“百番目の男”という言葉は主人公に向けられた言葉である。物語のうえではさほど意味のあるものとはならないのだが、なかなかうまい呼び名であるなと思われる。さらにありがちな設定ではあるのだが、この主人公がさまざまなトラウマを持っている。彼はある事件を解決した事により脚光をあびることになったのだが、実はとある人物の力を借りていたのであった。その人物というのがまさに“レクター博士”のような存在なのである。

 その存在に主人公は悩む事になるのだが、その悩みだけではなく、検視官に恋をしていらぬ悩みまでを背負い込む事に。しかもその検視官が人には言えない秘密を持っているのだから本当に重荷を“背負い込む”としかいいようがない。

 他にも主人公の相棒で主人公を暖かく見守るハリー刑事や典型的な悪役上司スクウィルなどといった魅力的な登場人物であふれている。

 そしてなんといっても本書で一番注目すべき点は、“事件の動機”にある。起こる事件は首無し死体が連続で発見されるというものなのであるが、なんのために首が切られているのか。また死体に奇妙な文字が書かれているのだが、それはいったい何を示すものなのか。

 これらの謎の真相がなかなか奇抜なものであり、なるほどというか、いや考えるものだなというか、ちょっとおバカなというか、とにかく面白い(楽しい結末がまっているわけではない)。

 ということで、従来あるサイコサスペンス小説ではあるのだが、その中においては頭一つ分抜け出したような出来の小説となっている。これは読み逃すには惜しい作品であろう。


デス・コレクターズ  7点

2005年 出版
2006年12月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 異常心理事件を扱うチーム、通称PSIT。PSITの班員、カーソン・ライダーとハリー・ノーチラスは難事件を解決したことにより表彰され、いよいよPSITの存在自体が警察から認められつつあることを実感する。そんな矢先、蝋燭と花で装飾された異常な死体がPSITの前に現れる。事件を担当することになったライダーとノーチラスは、この死体の様相が30年前に世間を震撼させたマーズデン・ヘクスキャンプの事件に告示していることを突き止める。事件の鍵とも思われる30年間の事件。その昔の事件に近づこうとライダーは連続殺人犯たちの“物”を扱うコレクターに探りを入れるのであったが・・・・・・

<感想>
 処女作「百番目の男」ではサイコ・サスペンス路線という今風の作風でありながらも、奇天烈な動機を用いることにより一歩抜け出た作品となり、日本でもブレイクすることとなった。そして本書が期待された2作品目となるわけだが、その期待にそぐわぬ良い作品に出来上がっていた。

 ただし、前作からの期待という面で見ると今作は落ち着いてしまったという気がしてならない。前作に比べればさほどぶっ飛んだ設定というものもなく、通常のサイコ・サスペンスが展開されていくという内容。

 とはいうものの、本書は前回とは違った面で大きくレベルアップを遂げている。本書で一番見るべき点は、練り上げられたプロットにある。事件自体は異様な死体が発見されたというだけでさほど珍しいものではない。しかし、その裏には“コレクション”というものの目的のために犯人が練りつくした操りの儀式が秘められている。その真犯人が張り巡らせる策が複雑で、これほどかという念の入れよう。しかし、その念の入れ方は良く出来ていると感嘆したくなるもので、こういう作品では珍しく最初から読み返して確認してみたい気分にさえさせられる。

 ということで、サスペンス作品という面では落ち着いてしまったという感もあるのだが、作家の技量としては大幅にレベルアップした作品といえよう。このシリーズはまだまだ続くようなので、これからの作品も楽しみにしてゆきたい。将来的には必ず、カーソン・ライダーが自分の兄と対決する事になると思っているのだが・・・・・・


毒蛇の園  6点

2006年 出版
2009年08月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 カーソン・ライダーとハリー・ノーチラスのコンビが今回扱う事件は、惨殺された女性記者をめぐる事件。事件を調べていくうちに、関連するようないくつかの事件が取り上げられることに。調査を進めてゆくと、さる名家の一族が事件の裏に関係しているのではないかと疑いがもたれることに。そうこうするうちに、ライダーは命に関わる窮地に追い込まれる破目に・・・・・・

<感想>
 だんだんと回を重ねるごとに地道な警察もののシリーズ作品になって行っているような気がする。特に今作が“地道”といえるのが、序盤の引きが弱かったと感じられるところにある。

 最初に事件が起きるものの、あまり読者の目をひくような事件ではなく、その後の事件捜査も平凡に進められていくというような展開。このへんは、もっと工夫を凝らしてもらいたかったところ。

 特に後半へ入ってからの大きな黒幕の存在が見え隠れしてくる展開は見事だと思えたので、前半の平凡さが余計に目に付くこととなった。

 今作は、主人公ライダーの不気味な兄貴は出てこないものの、恋人との関係など、シリーズらしいいくつかの展開が見られるようになっている。ゆえに、本書をシリーズ作品として見るのであれば、読み逃すべきではない作品と言えよう。ただ、本作品単体としては、見るべきところが少ないような気もするので、未読の方は「百番目の男」「デス・コレクターズ」の出版順で読んでいってもらいたい作品。


ブラッド・ブラザー  5.5点

2008年 出版
2011年09月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 アラバマ州モビール市警に務めるカーソン・ライダーニューヨークの警察から捜査依頼により強制的に呼びだされる。どのような件なのか全く知らされずに現場へと出向くと、そこには知人であるドクター・エヴァンジェリンの惨殺死体が! 彼女は死の間際ビデオに“カーソン・ライダーに連絡を”との言葉を残していたのだ。エヴァは犯罪に関わった精神異常者を収容する施設で働いており、その中にはライダーの兄で連続殺人鬼のジェレミーも収監されていた。当のジェレミーはいつの間にかその施設から脱走していた。ライダーはニューヨーク市警の捜査官たちにはジェレミーとの関係を明かさずに捜査を進めていくのだが・・・・・・

<感想>
 シリーズ四作目。このシリーズの主要人物と言えば主人公ライダーの兄で収監されているサイコパス、ジェレミー。ライダーは今までジェレミーの力を借りて難事件を解決してきたという秘められた事実がある。そしていつか、このジェレミーにスポットが当てられた作品が書かれると思っていたのだが、それが4作目にしてついに登場。

 で、本書を読んでみた感想だが、シリーズとしていまいちと言っていいのか、今後に期待できると言っていいのか、微妙な評価。個人的にはこの作品のなかでジェレミーの個性が生かし切れていかなったように思えるのである。今までのシリーズのなかでは万能に思われたジェレミーであるが、今作では卑小な印象が残されてしまった。

 警察サスペンス小説としては、兄との関係がばれないように捜査を進めていくライダーと、ライダーとは別のところで捜査を進める相棒のハリー・ノーチラスとパートを分けつつ、うまく描かれていたと思われる。また、ニューヨークの捜査陣の面々も個性が強く、それぞれ強い印象を残している。

 そんなわけで、ひとつの作品としては悪くないものの、シリーズものとしてはかなり期待をして読んでいたので少々がっかり。この作品で出てきた人々を再登場させ、続編のような作品が書かれるのであれば、シリーズとしては悪くないように思えるのだが。


イン・ザ・ブラッド  6点

2009年 出版
2013年10月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 モビール市警刑事のカーソン・ライダーが相棒のハリー・ノーチラスを連れて船で釣りをしていると、漂流している船を発見する。彼らはその船で置き去りにされた赤ん坊を見つける。なぜか、ハリーはその赤ん坊に必要以上に感情移入し、名前のない赤ん坊にノエルという名前を名づける。赤ん坊の両親の行方を捜査しつつも、二人は別の重大事件に遭遇する。それは有名なキリスト説教師のリチャード・スカラーが死亡していた事件。しかもそれが倒錯プレイの真っ最中に死んでいたというスキャンダラスなものであった。スカラーに何が起こっていたのか? その事件を捜査しているとき、発見された赤ん坊のノエルが何者かの手により病院から連れ去られようとする事件が起きることとなり・・・・・・

<感想>
 いくつかの事件が起きつつ、それら関連のなさそうな数々の事件がひとつに結び付いてゆくという内容。

 序盤は島で起きた襲撃事件から始まり、身元不明の赤ん坊の発見、著名な牧師の死亡といくつかの事件が続くこととなる。そうしたなか、主人公のライダーらもとりとめもなく、あっちの事件を捜査したり、こっちの事件を捜査したりという状況。ただ、それらの事件がさらなる事件を呼び起こし、赤ん坊が保護されている病院が襲撃されたり、死んだ牧師に関係のある人々が次々と殺害されていったりと、事件はさらに混迷を極めることとなる。

 そうして捜査が続けられる中で、徐々に事件に関連性が見出されることとなり、やがては一つの事件へと収束していく。どんでん返しというわけではないものの、後半になると次々と展開が移り変わり、予断をゆるさない状況となる。

 最終的にうまくまとめきったなと思いつつも、なんとなく綺麗にまとめすぎたのではないかとも感じられてしまった。綺麗にまとめたというか、ゆるくまとまったなというか。最後の最後にもう少し華々しい大団円が欲しかったところ。奇抜な事件の有り様ぶりが印象的であったシリーズであったが、今作は普通にまとめられたという感じ。内容は決して悪くはないと思えるのだが、期待や評判のほうが大きくなってしまったのかなと思えなくもない。


髑髏の檻  6点

2010年 出版
2015年08月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 刑事カーソン・ライダーは久々の休暇をとり、山でクライミングを楽しんでいた。そんな折、現地で連続殺人事件が起こる。しかも被害者はどれも悲惨な状況で発見されることに。この事件に巻き込まれることとなったカーソン・ライダーは、現地の刑事であるドナ・チェリーに協力して異常殺人を繰り返す者を追うこととなる。そうしたなか、カーソン・ライダーは、思いもよらぬ者と再会することとなり・・・・・・

<感想>
 昨年はシリーズ作品が訳されなかったので、2年ぶりのお目見えとなる刑事カーソン・ライダーが活躍するシリーズ。シリーズ第6弾ということなのだが、何故か訳すうえで、この前に出ている作品を飛ばしてのお目見えとのこと。そちらが、昨年出版されていれば、年に1冊というペースが続いていたと思うのだが・・・・・・

 本書も相変わらずのシリーズぶりを見せてくれている。危険な連続殺人鬼が現れ、その捜査にカーソン・ライダーが乗り出すというもの。事件のポイントは誰が犯人か、ということのみならず、被害者に共通する事項はという“ミッシングリンク”が重要となる。そうして、事件を調べていくうちに過去に起きていたとある事態が明るみとなる。

 面白いというか、普通というか。さすがに連続殺人鬼ものもマンネリ化してきたような気がする。何しろ、毎回毎回、同じような危険人物を追うというものには変わりないので。一応は、趣向をこらすために、いつもの相棒ではなく、レジャー先で出会った女性警官を配置しているところが特徴か。まぁ、普通に楽しめる、いつもながらのシリーズ作品。


キリング・ゲーム  6点

2013年 出版
2017年10月 文藝春秋 文春文庫

<内容>
 巷を騒がせていたコンビニ強盗を捕まえ、警察学校の講師の仕事を押し付けられと、忙しい日々を送るカーソン・ライダー刑事。そんなとき、彼の管轄で殺人事件が起こる。女子学生が矢で射殺されるという事件。さらに事件はそれだけにとどまらず、次から次へと動機不明の不可解な殺人事件が続くことに。やがて事件はカーソン・ライダーを狙ったものという風に捉えられ、上司や警察署、そしてマスコミからも不審な目でみられ、ライダーは追い詰められることとなり・・・・・・

<感想>
 既にジャック・カーリイの作品は13作出ているようだが、日本で訳されているのは本書を含めて7作品。訳が追いついていないどころか、どんどん離されているよう。そのせいか、シリーズ作品であるにも関わらず6作目と8作目を飛ばしてしまっている(本書はシリーズ9作目)。もし、全部翻訳する気があるならば、そこは順番に出版してもらいたいところなのだが・・・・・・

 今回はカーソン・ライダー刑事が連続殺人犯を追って、ミッシングリンクを追及していくというもの。犯人の目的やミッシングリンクについては、読者にはわかるように描かれているのだが、捜査する側にとっては、雲をつかむようなものであり、五里霧中の捜査が行われ続ける。

 また、今回はライダー刑事受難の巻。なにしろ、コンビニ強盗を捕まえて表彰されたと思いきや、その功績を取り消され、殺人犯がライダー刑事を狙っているのではないかという疑いが出た時点から、上司や同僚から冷たい目で見られる始末。今までさんざん殺人犯を捕まえたり、やりたくもない警察学校の講師を引き受けたりとしているにも関わらず、その功績によってライダー刑事が追い詰められてしまうのは、組織としてどうかと思わずにはいられない。それでも、理解を示してくれる同僚がいることは、大きな救いとなっているようであるが。

 今作は、シリーズとしては普通の作品かなと。というか、このシリーズもさすがに奇をてらうようなものは、初期で書きつくされ、最近では主人公の造形こそ特殊であれ、普通の警察小説という趣になってきたようである。一応、最後の最後には山場を持ってきているのだが、物語上盛り上がるという感じのものではなかった。とはいえ、読者にうすら寒い印象を残すということは成功していることに間違いはない。




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