<内容>
オックスフォード近郊の小村に建つダーンリー家の屋敷には、奇妙な噂があった。数年前に密室状態の屋根裏部屋で、全身を切り刻まれて死んだダーンリー夫人の幽霊が出るというのだ。その屋敷に霊能力を持つと称するラティマー夫妻が越してくると、さらに不思議な事件が続発する。隣人の作家アーサーが襲われると同時に、その息子ヘンリーが失踪。しかもヘンリーは数日後、同時刻に別々の場所で目撃される。そして、呪われた屋根裏部屋での交霊実験のさなか、またもや密室殺人が・・・・・・
<感想>
現代の作家が書いたとは思えないほど、本格推理小説している。このこだわりようは嬉しい限りである。作風がカーを思い起こさせるようでもあり、また交霊術に奇術師といえばロースンをも思い起こさせる。
事件自体は不可能殺人を取り扱ったもの。それに人物の消失劇をとりいれたり、時の経過をもたせたりと物語としてもなかなか面白い話となっている。また解決もきれいにまとまっており、一冊の推理小説としても良い出来であると感じる。
そしてさらに構成に凝っているところも面白い。読んでいる側はツイスト博士というのはいつ出てくるのか? 本当に登場するのか?? と思いながら物語を読んでいくことになる。そして本書がただの推理小説としての解決に留まらず、そこから一歩はみ出していくところにも別の面白さがある。ツイスト博士ものがシリーズとして書かれているようであるが他のものはどのような構成をとっているのかを考えると非常に楽しみである。ぜひとも2作目3作目を読んでみたいと思う。
<内容>
ブラックフィールドという村に新聞記者を名乗る男がやってきた。その男は10年前にここで起こった事件を調べることが目的だという。この村では10年前に資産家の男が娘の誕生日に大勢を集めて手品を披露しようとしたのだが、部屋を仕切ったカーテンが閉ざされている間に何者かに殺されてしまうという事件が起きていたのだ。衆人環視の元での不可能犯罪。いったいそれを行ったのは誰なのか? そして村を訪れた新聞記者の目的とは?
<感想>
またもポール・アルテの作品らしく、これまた変った構成のミステリーであった。不可解な状況の元での殺人事件の謎を解くのがメインかと思いきや、謎の新聞記者やら、その事件の背景についてと、さまざまな要素がてんこ盛りの作品となっていた。しかも、その不可能犯罪については物語の半分くらいだけでしかなく、事件が解決された後に舞台は打って変わって“切り裂きジャック”が跳梁跋扈するロンドンへと移り変わっていく。そしてそこでも十年前の事件の後を引くように、不可解な事件が続発していく。
本書はストレートなミステリーとは言いがたい作品であると思う。“不可能犯罪”という主になるべき事件も起こるのだが、それも本書においてはメインとなるべき焦点ではなかったような気がする。
では、本書において著者が一番仕掛けたかったトリックとは、
(*ネタバレ注意↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓)
「第一部では犯人かと思われる者が犯人ではなく、そのことを踏まえて、第二部では犯人ではないと思える者が実は犯人であった」
(ここまで↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑)
という事ではないかと思えた。
結局のところ、決して一筋縄でいかないのがポール・アルテであるということがさらに証明された作品といってよいだろう。いやはや、これからもアルテの作品を読むのがますます楽しみになってきた一冊であった。
<内容>
ロンドン警視庁刑事のサイモン・カニンガムは婚約者の父親でミステリ作家のハロルド・ヴィカーズから夕食会の招待を受けた。しかし、その招待のことは誰にも言わないことと念をおされていた。不安な面持ちで屋敷を訪ねるが当のハロルドは部屋から出てこない。不審に思った家族と共に扉を破り、部屋に入るとそこには並べられた料理を前にしてハロルドは顔と両手が焼けただれた死体となっていた。その状況からみて他殺と思われるのだが、一体犯人はどうやって・・・・・・
<感想>
ツイスト博士の2作目になる本書。前作はメタミステリー的な趣向もこらされた変化球のような作風であったが、本書はど真ん中ストレート勝負のミステリーとなっている。
密室に対するアプローチはなかなかのもの。閉ざされた出入りのできない部屋、用意された豪華な食卓、顔の焼けただれた死体、窓の下の水の入ったコップ等々、ミステリーコードがてんこ盛りされ、いやがうえにも興味を引きつけられずにはいられなくなる。そしてどのような解答が展開されるのかというと・・・・・・
うーん、こういう解決方法かなるほど。一言でいえばオーソドックスに落ち着いてしまったな、というところ。きれいに解決しているのは確かなのだが、かわされたという印象が強い。ど真ん中ストレート勝負のはずだったのに、高めの棒球を振らされた感触が残ってしまう。1作目からの期待と本書の事件が起きたときの謎への期待が大きすぎたことによるのかもしれないが、もう少し謎に対して正面から解決していってもらいたかった。
あともうひとつ付け加えるならば、犯人のあの行動は怪しすぎるのではとおもうのだが。
<内容>
マージョリーは偶然にも広場で殺人事件の現場に遭遇(犯人の顔は暗くてわからなかった)してしまう。あわてて下宿屋のアパートに帰ったところ、犯人らしき人物が彼女のそばを通った気が・・・・・まさか、殺人犯は同じ下宿に住む人物なのか? 犯人はピアニストか、新聞記者か、引退した医者か、盲目の元美容師か、はたまた一番怪しいとされる作家を名乗り夜な夜な外を徘徊する男なのか!? そして、さらなる事件は下宿屋の中で起こる事に! しかも不可能殺人と言う形で・・・・・・・。この謎をツイスト博士は解明できるのか?
<感想>
いや、相変わらず良い雰囲気を出している。最近では日本のミステリーであっても、こういった王道の展開がなされるものはあまり見られない。そういう意味でも読む価値のある本と言えよう。
なんといっても怪しい下宿人達が良い。容疑者満載の下宿人と、さらには過去の犯罪がまつわる下宿屋。集まるべきところに集まった人々による犯罪模様はなんとも言えず豪華絢爛。さらには、その下宿屋で過去をなぞるような不可能犯罪が起きる。これはどのように行われたのかと真剣に考えてしまった(結局、考えていたものとは違ったけれど)。そのような様相の中で最後に明かされる解答と、さらなるツイスト博士によるちょっとしたおまけ。
いや、これは本当に良い雰囲気のミステリーを味わえたと言う感じである。不可能犯罪の真相については、ちょっとと思えなくもないのだが、その辺はご愛嬌ということで。今年はまだ海外ミステリーで“これ”という作品に出会って無いせいか、かなり甘めな評価となってしまったような気がする。でも、面白いものは面白いのだと言う事で。
<内容>
ハットン荘に秘められる忌まわしい過去。その屋敷に住むものは代々予言の力を授かり、未来に起こることを当ててしまうのだという。その屋敷に住む当主ハリス・ソーンの弟ブライアンもまた、予言の力を持っていると思われる節が・・・・・・
当主のハリスが開かずの間を無理やり開けてしまったときから、ハットン荘に暗雲が立ち込め始める。ブライアンは不吉なことが起こると予期し、そしてハリスは開かずの間から落ちて死亡してしまう。さらに、その部屋は過去に事件があったときと同様に絨毯が水で湿った状況で発見される。
ブライアンが予期するように次々と起こる事件。その真相をツイスト博士は暴くことができるのか!?
<感想>
自分でランキング作るとき、アルテの作品があれば、どうしても上位に置かざるを得ない。それもマンネリ過ぎやしないかと思いつつも本書を読んでみたのだが・・・・・・これは上位の置かなければ始まらない作品である。今のところ、海外ミステリでは上半期の一位に挙げざるを得ない作品であった。
本書で感心したのが、ツイスト博士による犯行の暴き方。これは三津田氏の「首無し」を読んだことによる影響かもしれないが、この作品でもある一場面をおかしいと考えれば、その後の犯行が次々と暴かれるように描かれているのである。
しかもその犯人像は、言われてみればなるほどと思えるのだが、読んでいるときは考え付かない人物であったので(動機も言われてみればなるほどと)、さらに驚かされることに。特にアクロバットめいたものがあるというわけでもなく、淡々と犯行が積み上げられていったものであるのだが、非常にうまく描かれていると感嘆させられる。地味ながらも、丁寧に描かれたミステリ作品というところか。
さらに、物語は犯行を暴くだけで終わりではなく、最終場面からプロローグへとつづく仕掛けもなされているので、最後の最後まで驚かせてくれる作品であった。ここまでやられるともう、毎年のアルテ作品だからといってマンネリ化などといわずに、面白いものは面白いと認めざるを得ないであろう。
<内容>
巡回中の巡査が奇怪な事件に出くわした。ペストの医師の仮面をつけた男と出会い、何も入っていなかったはずのゴミ箱の中から突然死体が出現し、下宿の部屋から人間が消失するという一連の事態に立ち会うはめになったのである。
その奇怪な事件から2ヵ月後、ツイスト博士のもとに一人の青年が訪問してきた。彼は著名な劇作家ミラー卿の秘書だと名乗り、彼の主人であるミラー卿と俳優のドナルド・ランサムの間で奇怪なやりとりが行われたと説明するのである。その話は2ヶ月前の事件に結びついているようであり・・・・・・
<感想>
うーん、今回も良く出来ていると認めざるを得ない。やっぱり、アルテの作品はレベルが高い。
ただし、今作はトリックとしてのレベルは、いつもに比べれば、やや平凡といえるだろう。人間の消失や死体が突然出現されるというトリックが扱われてはいるものの、それらが話のメインではないせいか、やや淡白な形で謎が明かされることとなる。
ただ、本書のキモとなるのはトリックではなく、一連の物語の中に秘められた、とある人物による“犯罪計画”にある。この物語では始終、話のどこからどこまでが冗談で語られているのか、それとも真実なのかということがわかりにくくなっている。それもそのはず、本書では劇作家と俳優が共謀して風変わりな冗談を行っているというような部分が多々あるのである。
しかし、そこに何故か殺人事件というものが挿入され、その事件自体はどこから派生されたものなのかということが煙に巻かれて、まったく検討がつかないのである。
それが最終的には、事件の全てがとある計画を元に立てられた綿密な犯罪であるということが明かされるのである。しかも、そこらじゅうにばら撒かれた伏線もきちんと回収され、きっちりと一本でつなぎあげられた犯罪計画というものに、読者は納得させられる他ないのである。
ということで、いつもとはちょっと毛色の変わった意外な形で驚かされる作品。これはこれでまた、ポール・アルテ流のひとつということか。
<内容>
ロンドンでスーツケースから女性の切断された手足が発見されるという事件が複数起きていた。ハースト警部は休暇帰りのツイスト博士にさっそくこの難事件をもちかけようとするのだが、なんとツイスト博士のトランクからも死体が発見されることに!
そしてレドンナム村というところでは時を同じくして、不思議な事件が起こっていた。インド帰りの陸軍の元少佐が魔人が現れるという杖の話をし、その話が本当だということを実証しようと言うのである。閉ざされた室内に閉じ込められた少佐と疑り深い青年。そして数時間後、異変を察して外で見張っていた者たちが室内に入るとそこで彼らは惨劇を目の当たりにする!!
<感想>
今作は作品の構造上からか、読んだときにまるで“87分署シリーズ”を読んでいるかの印象を受けた。今回メインとなるのは、二つの密室事件。この2つの事件はそれぞれ別のものなのだが、物語的にはつながっていると言えなくもないものである。
密室のトリックに関しては、ややあっさり目とも言えよう。というよりも、実に丁寧にヒントを提示しているので、あえて読者に分かり易い作品になっているといったほうがよいのであろう。
ただ、伏線を全て回収する物語の構造については相変わらずの出来栄え。本書を読み終えた後に、物語の冒頭を読み直せば、あぁ、なるほどと感嘆せずにはいられなくなる。
今回もシンプルかつ端正なミステリが描かれた作品に仕上げられている。
<内容>
ラルフ・コンロイは親友であるフィリップから奇妙な手紙を受け取る。その内容は夜に空家へ行って、指定の時刻にランタンを灯してもらいたい。次に道へ出ると車に乗った者が道を訪ねてくるのでそれに答える。その後、とある屋敷へと向かってほしいというもの。ラルフは不審に思いつつも、フィリップの指示に従うことにする。彼が恐る恐る指定の屋敷に向かうと、そこにいた人々が「あなたがロビンソンさんですね」と勝手に解釈され、わけのわからないままパーティーに参加することとなる。しかし、その奇怪なパーティーの最中、ラルフは死体を見つけることとなり・・・・・・
<感想>
ハヤカワミステリでは初の一段組みとなる作品であるが、これはただ単に作品の分量が少ないからという理由のようである。今回のアルテ作品はノン・シリーズのやや短めの作品。
今作の雰囲気はスパイものという感じ。序盤はミステリ色が濃かったものの、徐々にコン・ゲームというような感触が強くなっていった。騙されているのは主人公なのか、それとも読者なのか、最後の最後まで予断を許さぬ内容。
ただ、中盤を過ぎたくらいに大まかな真相が明らかにされてしまい、その後の展開はややわかりやすいものであったかなと。個人的には後半に尻つぼみになってしまったという気がする。展開が早く、ページ数も短めで読みやすい作品であることは確かであるが、アルテの作品としてはやや食い足りなかったという感が残る。
<内容>
「赤髯王の呪い」
1948年ロンドン。エチエンヌは兄から届いた手紙の内容に驚愕する。そこには、16年前に死んだはずの少女が表れたのだと書いてあったのだ!“赤髯王”を巡る恐怖の謎が甦り、またもや惨劇が繰り広げられることに・・・・・・
<短編>
「死者は真夜中に踊る」
「ローレライの呼び声」
「コニャック殺人事件」
<感想>
この「赤髯王」はアルテにとっての真の処女作であり、作家デビュー後に私家出版されたという作品。その長編作に現在発表されている3作の短編を加えて一冊にしたものが本書である。
よって、この作品がツイスト博士の本当の意味での初登場作品となる。で、その出来具合はどうかというと、これがまたオーソドックスなミステリであり、なかなか良く出来ていると感じられた。トリックなどについては少々すかされたという感じのところもあるが、メインのトリックに関してはうまく出来ていると感じられた。
この作品を読んで、どことなくカーの「妖魔の森」という短編作品に似た雰囲気があると思えたのだが、カーのファンであるというアルテが書いたのだから意識していた事は間違いないのであろう。また、実際にこの作品が書かれたとき、第一稿ではツイスト博士ではなく、ギデオン・フェル博士を登場させていたというのだからさらに驚きだ。よって、カー・マニアであれば、なおさらのこと読み逃してはならない作品ともいえよう。
また、3作の短編の出来もかなりよかった。
棺を動かすトリックが秀逸な「死者は真夜中に踊る」。
意表をついたトリックでありながらも、それなりに説得力のある「ローレライの呼び声」。
実際に似たような事件が起きた事があるのではないかと思われる「コニャック殺人事件」。
アルテの短編作品はまだこの3作しかないそうなのだが、これだけではもったいないと思えるようなできであった。是非ともいつかは、アルテの短編集をまとめて読む日がくればと期待したくなるところである。
<内容>
外交官のラルフ・ティアニーは、彼に似ている逃亡犯と間違えられ、警察に追われる羽目に。ラルフは警察の手を逃れ、逃げ込んだ先は不思議な裏通りであった。そして、そこで奇妙な体験をした後、通りから出たものの、その後、その通りはどこかに消え失せたかのように、再び見つけることができなかった。その裏通りは、他にも同様の奇怪な体験をした人々がいると言われ、“クラーケン・ストリート”と呼ばれていた。さらには、ラルフが裏通りで体験した出来事が現実世界にはびこりはじめ・・・・・・。ラルフの旧友であるアマチュア探偵のオーウェン・バーンズが、謎の裏通り事件の真相に挑む!
<感想>
久しぶりに日本で刊行されたポール・アルテ作品。出版社は今まで聞いたことのなかった“行舟文化”、そして紹介される作品はツイスト博士ものではなく、オーウェン・バーンズという探偵が登場するもの。
オーウェン・バーンズに対する最初の印象は、ホームズっぽいかなと。途中からはあまり、そんな風にも思わなくなるのだが、元々ポール・アルテが“フランスのカー”などと言われていたこともあり、別の探偵が登場するシリーズでは、作風も変えたのかなと考えた。
そして、今回挑戦する謎は、なんと“消える裏通り”。これがなんとも、都市伝説っぽいネタのような感じもし、最初はちょっと探偵が扱うような事件なのかどうかと思われた。それが徐々に現実の事件と混ざり合い、ミステリとしての濃度が増してゆくこととなる。ただ、読んでいる最中は、この事件を誰が何のために起こしたのか? ということが全く想像できなかった。何故、手の込んだ“裏通りの消失”といったことを起こさなければならないのか。
そういった雰囲気で、最初は超自然的なものも感じられた内容が、徐々に現実的なところへと戻って来て、さらには計画的犯行へと収束していくこととなる。いくつかのどんでん返しを経て、明かされる真相は、驚かされるというよりは、よくストーリーが練られていると感心させられるもの。
この作品を読んで、最初は今までのポール・アルテ作品とはちょっと異なる雰囲気かなと思ったのだが、読み終えてみると、いつもながらの作調だったと改めて感じられた。しかも作品自体がよく出来ており、まったく衰えを感じさせられない内容。ここまで読み応えのある作品が残っているのならば、もっとポール・アルテの作品を日本で刊行してもらいたいものである。