<内容>
おれの名前はヴィンセント・ルビオ。ロサンジェルスが根城のケチな探偵だ。つまらない仕事のかたわら、謎の死を遂げた相棒アーニーの死因を探っている。そんなおれを<評議会>がけむたがっているのは承知の上だ。ところでおれは、人間じゃない。人間の皮をかぶり、人間にまぎれて暮らしているヴェロキラプトル、恐竜だ。
<感想>
ハードボイルド調であるが、その設定のあまりの奇抜さによってSFであるともいいたくなる。しかしながら、それでもこの物語はハードボイルドなのである。
読む前はもう少し人間世界よりの話かと思ったのだが、話の中では実は人間の皮をかぶった恐竜達が跋扈する世界であった。そのなかで探偵が調査する仕事というものも恐竜達(人間の振りをした)の間での揉め事の調査となるわけである。そしてこの設定は背景のみならず、探偵が調査していく事件の内容にも深く関わるものになっている。
設定と内容が調和した物語の展開は絶妙。読み手側に予期させない出来事を次から次へと持ってきながらも最後には一つの結末へと到達する。さらに付け加えるならば、結末はハードボイルド調のみならず、どこかの恐竜映画の展開でもあるかのような・・・・・・
笑いと驚愕をかね揃えた恐竜によるハードボイルド! それはここでしか読むことができない。
<内容>
おれの名前はヴィンセント・ルビオ。ロサンジェルスを根城に、探偵事務所をやっている。苦楽をともにしてきた相棒のアーニーは、男も惚れる恐竜のなかの恐竜で・・・・・・おっと、実はおれたちゃ人間じゃない。恐竜だ。
長い長い間、おれたちは人間に気づかれないよう、人間にまぎれて暮らしてきた。そんな恐竜社会をおびやかすカルト集団<祖竜教会>の謎を暴くのが今回の依頼だ。やっかい極まりないが、相棒アーニーの元妻からの頼みとあってはむげにもできまい。
<感想>
シリーズ2作目であるが、これもうまく書かれている。なんといってもバランスが良い。要素としてはハードボイルドと恐竜SFというものであるのだが、この2つが実にバランスよく融合されている。その2つがうまく重ねあわされているからこそ、“恐竜ハードボイルド”というようなうたい文句がよく響く。
今作はルビオがアーニーと組んで事件に取り組むものなので、ハードボイルド色が前作よりも強くなるのかと思いきや、これはこれで“設定”をうまく取り込んだ事件を扱っている。恐竜の欲望(?)をうまくうながして、カルトネタを持ってきてしまうというのだから恐れ入るよりほかはない。
女性にメロメロになったり、事件の裏をとったりするのはハードボイルド調であり、欲望によだれを垂らしたり、乱闘騒ぎは恐竜調。もはや完全なるエリック・ガルシアの世界に他に追従するものはなしといったところか。
<内容>
二人組の詐欺師であるロイとフランキー。順調に仕事をこなす一方で、ロイは神経症と鬱病に悩まされていた。そんなロイの元に14歳の娘が飛び込んでくることに! ロイは昔、妊娠中の女性と離婚し、そのまま音沙汰なしになっていたのだった。娘に翻弄されながらも、徐々にその娘が愛しくなってくるロイ。ロイは詐欺師から足を洗うことを考え始めるのだが・・・・・・
<感想>
ハートフル・コメディとでもいいたいところだが、詐欺師の物語であるゆえにそうは問屋がおろさない。
神経症の詐欺師のロイ。詐欺師の人生に悔いはなく、ためらいもなく人を騙しては金をかせぐ。そんな彼を悩ますのが神経症や鬱病といった病気。そんな病気にかられて気が弱くなってしまったロイのもとに現れるのが娘の“アンジェラ”。
これは例え病気中でなくてもやられてしまうのではないだろうか。中年男性を捕らえて病まないものといえば、“酒”、“煙草”、“女”、“ギャンブル”といったものがあるだろうが、それにもうひとつ加えるならば、“はなればなれで暮らす娘”! これにはやられる!! しかもそれが美人であり、父親になついてきたりしたならば、もうメロメロになってしまうのだろう。これはもうその一例のような話である。
本書は「ああっ、お父さーん」と云う方に最適です(ウソ)。
<内容>
私立探偵のヴィンセント・ルビオは簡単に金を稼げると思い仕事を引き受けたのだが、それによってマフィアの全面戦争の真っ只中へと放り込まれてしまうことに。そして、ルビオが探らなければならないマフィアの組織のボスが少年時代の親友だと言う事を知り・・・・・・
<感想>
もはやお馴染み、恐竜探偵ヴィンセント・ルビオの最新作。とはいえ、今回は私立探偵ものという感じはしなかった。ルビオがマフィアの抗争の真っ只中へと放り込まれるものの、そのほとんどが右往左往しているだけで、なんら役目を果たしていたとは思えなかった(ただ、トラブルメーカーたる役割はしていたとも言えなくはないのだが)。
さらには、本書ではルビオの少年時代の友人やガールフレンドが登場しているため、その回想が描かれた作品となっている。よって、何かアメリカの青春小説を読んでいるような感じになってしまった。
といったような内容になっており、今までの恐竜シリーズとはちょっと異なる趣となっている本書。ただ、物語自体は面白く、読みやすい内容となっているので十分にお薦めできる作品ではある。
あと、ひとつ付けたしをしておくと、このシリーズは人間社会に実は恐竜が入り込んでいるというスタンスで語られているものである。しかし、段々とシリーズが進むにつれて、社会の中のほとんどの者が実は恐竜であるというようにしか感じられないのである。これでは恐竜が人の皮をかぶっている意味もなくなってしまい、また話としても面白みに欠けてくるように感じられるのだ。できれば、もう少し「全てが恐竜でした」というような内容から離れてもらいたいものなのだが。
<内容>
“おれ”は人工臓器の取り立て屋。誰もが人工臓器を買い求め、その人工臓器に頼った生活を送っている。しかし、ローンの支払いが滞って、金を払うことができなくなれば俺達“レポメン”(取り立て屋)が強制的に臓器を回収してくることになる。そんな仕事をしていた“おれ”であったが、あるときからそのレポメン達に追われる立場となってしまった。“おれ”は今までの立場と反して、逃げ回る羽目となったのだが・・・・・・
<感想>
エリック・ガルシアと言えば恐竜ハードボイルド作品で日本に紹介され、良い意味でのB級作品を書くというイメージの作家であった。しかし、その恐竜ハードボイルド以外の作品では、悪い意味でのB級作家というイメージになってしまう。
本書「レポメン」はまさに悪い意味でのB級作品。ありきたりで、いたるところで見られるような量産型ミステリという内容。アクション有り、トラウマ有り、戦争体験有り、離婚経験有りといったどこにでもありそうな設定。
読み始めた時は“バイオ・レポメン”という臓器の取り立て屋を主人公にした近未来SF作品として楽しめそうな気がしたのだが、読んでいくうちにどんどんとトーンダウンしていった。特に時系列のバラバラさ加減により、あまりにも話の流れが伝わりにくいというのが一番の難点。最終的には、主人公がどうしてこういう立場に置かれたのかということがわかるようになるのだが、もっと話の流れをすっきりさせて書いてもらいたかったところ。
時系列をバラバラに書くことで(これもありがちな手法と言えるのだが)本書の特徴を付けたかったのかもしれないが、それがかえって失敗に終わってしまったように思われる。