<内容>
シアトルを震撼させた連続レイプ殺人鬼の死刑執行まであと6日。その日、レイプ魔から逃れることができ唯一の証人となった女性がとある新聞社を訪ねてきた。ここの新聞記者であるフランク・コーソに会って、話したいことがあると。彼女は実はレイプの被害にあっていなく、証言は強要されたものだというのだ。ある事件が元で現在は新聞記者の仕事にほとんど関わっていなかったコーソは、恩のある新聞社社長にさとされ取材を試みることにした。タイムリミットまでに、被告人の無罪、もしくは真犯人を突き止めることができるのか!
<感想>
本書は去年(2004年版)の「このミス」にベスト10入りした話題作である。新潮文庫の海外作品まではチェックしていなかったので、まったくノーマークの本であった。それで、読んでみた感想はというと・・・・・・いや、これは面白いじゃないかと素直に口に出したくなる本であった。
これは“あとがき”に書かれていることなのだが、本書は「処刑6日前」という作品のパロディー的な意味合いを持つ本とのことである。そのなかで、本書が独自の味を出している部分はどこにあるかというと、罪をきせられている男、これがなんともろくでもない奴なのである。こんな男を助けるのかと思いながらも、主人公の新聞記者は女性カメラマンと共に真相へと迫っていく。冤罪問題を取り上ながら、現代風刺を取り入れつつ強烈な皮肉をかましている作品のように感じられた。
本書の主人公は本文中でも言及されるようにスティーブン・セガール似の新聞記者とのこと。セガールの映画の印象というと、私的にはそれほどたいした敵に遭遇せず、たいした苦難や傷も負わず、バッタバッタと敵をなぎ倒といくというような安心して見ていられる映画というように感じている。本書もそれを象徴するかのように、バッタバッタとまではいかないまでも、大した困難にぶつかるまでも無く、スピーディーにあっという間に真相へとたどり着くという印象。さらに本の読みやすさも、そのスピーディーさを後押しするものとなっている。
今年、すでに「憤怒」の続編「黒い河」が出ているので、こちらも早めに読んでおきたいと思っている。また、本書の前に私立探偵(「憤怒」にも少し顔を出す)が活躍するシリーズを書いているようなのであるが、そちらにも興味津々である。
これでまた、注目すべき作家がひとり増えたことになる。
<内容>
病院の崩壊事故によって、建設を請け負った会社の社長であるニコラス・バラギュラの公判が開始された。ノンフィクション作家のフランク・コーソはかねてから黒い噂のたえないバラギュラの事を本にしようと彼を追い、公判にも姿を見せていた。そんなある日、前回の事件を一緒に担当した女カメラマンが仕事中に何者かに襲われて重症を負ったと知らされる。コーソが事件を調べてみると、どうやらこの事件にもバラギュラの一味が関係しているらしいことがわかる。コーソはさらに捜査を進めてゆくのだが・・・・・・
<感想>
面白かった。巷で噂されているように“失禁”するほどではなかったものの、なかなか面白く読むことができた。ただ、本書は面白い本というよりは、面白いシリーズであるといったほうがいいのかもしれない。本書は前作「憤怒」に続いてフランク・コーソが主人公の第2作目にあたるが、その前作と比べれば少々落ちるかなという気がした。
全体的に見てみると、やや事件相互の関連が都合がよすぎるように思える。またサスペンスチックに話が展開されてゆくのも、いかにもテレビ化、映画化を狙ったようなストーリーと感じさせられてしまう。
ある意味、王道たるサスペンス路線をたどりすぎていると思えるものの、それでもよくできているともいわざるを得ないであろう。事件を混乱させたサブ・ストーリー的な部分の結末や、本筋の事件の締めなどは心憎いほどうまくできている。この事件の締め方には非凡なものを感じさせられてしまう。
というような感じで、本書はこれ単体で評価するよりはシリーズ作品の2作目として十分評価できる作品になっていると思う。まだ「憤怒」を読んでいない方は、そちらからお早めに。
<内容>
裁判所の召喚命令から逃げ回る、ノンフィクション作家のコーソ。あと9日間逃げ切れば出頭命令は失効されるものの、大雪により頼みの飛行機が飛ばなくなってしまう。コーソはカメラマンのドアティと二人でレンタカーを借りて逃げようとするが、当然のごとく大雪のため立ち往生。凍死寸前のところ目に入った民家に逃げ込んでみれば、誰も住んでいないうえに白骨化死体を発見してしまい・・・・・・。いつの間にか、連鎖する殺人事件の捜査に巻き込まれ事件を調べ始めることになるコーソ。そして事件の裏には驚くべき事実が!?
<感想>
フランク・コーソものの第3弾。今回は偶然にも見つけてしまった白骨死体の謎を解くというもの。事件といえばそれだけのはずなのだが、他に裁判所の召喚命令のためにコーソを捕まえに来た警官から逃げ回ったり、地方の保安官選挙の駆け引きに巻き込まれたりと、とにかくトラブルが後から後からやってくる始末。コーソはなんとかそれらを解決しつつ本題の白骨死体の事件に挑んでいく。そして、その本題の事件こそが、他のコミカルな事件とは裏腹に陰惨な様相を秘めたものとなっている。
感想としては、話自体はよくできていると思うのだが意外な展開を狙うあまりに、話し全体が無駄にコミカルな感じになってしまったように思われた。どちらかといえば、主題の事件に色を添えるのであれば、もっとホラー小説のように陰惨な雰囲気を前面に押し出しても良かったのではないかと思える。
サスペンス小説としては良くできていると思えるが、良くできているがゆえに何かもう一押し欲しかったところ。
<内容>
フランク・コーソは仕事の相棒であり、元の恋人でもあるカメラマン、メグ・ドアティの写真展に来ていた。しかし、その写真展が行われている最中、警察から避難勧告を受ける事に。その避難勧告は一部の建物だけではなく、広域にわたってのものだった。どうやらバスターミナルで劇物が散布されたようなのである。コーソは警察の目をかいくぐり、現場の様子を見ようと単独で潜入を試みる。コーソとわかれたドアティは、彼女に刺青をほどこした後に逃亡したかつての恋人の姿を見つけ、男の跡を追いかけるのだが・・・・・・
<感想>
物語としては、映画のなかで起こるだけの世界というような気もするが、“9・11”以後の世界としてはこういったことが実際にあっても全くおかしくないできごとなのであろう。それによくよく考えれば、ここで描かれている出来事は日本で起きた地下鉄サリン事件にも通じているわけであるから、決してフィクションというだけでは済まされないのかもしれない。
というわけで、今回のフランク・コーソ・シリーズでは“バイオ・ハザード”が描かれている。ここで描かれているのは、単に毒ガスが散布された場合というものだけではなく、潜伏期間のあるウィルスが撒かれた場合のシミュレーション小説といっても過言ではない。
特に、ラストでの事件がゆっくりと収束されゆく場面の妙なリアリティさは、現実にこのような事件が起これば体現せざるを得ない場面であるのかもしれないと思わせられた。
と、“バイオ・ハザード”のシミュレーション小説としては、なかなか興味深いものではあったが、今回のコーソの行動についてはあまり賛同できないものといえよう。警察が封鎖している地域に、危険をかえりみず乗り込んでいくというのはちょっとどうかとも思われる。これもマスコミゆえの行動と言えないことはないのだが、現場で働いている警官にしてみれば迷惑極まりないことであろう。でも、こういう事件が起きたら、このようなことをしそうな人が必ず現われるのだろうなぁ、と考えるとこれも一種のシミュレーションかとも思ってしまう。もっとも、この主人公のように実際にうまく事が運ぶとはかぎらないであろうが。
また、本書ではもうひとりのメインの登場人物メグ・ドアティにも大きな転機が訪れる事となる。それは、彼女の全身に刺青を彫った人物がこの作品に登場してくるのである。ただ、シリーズ作品としては、このパートの扱いがやけに軽すぎると思われる。まるまるこのエピソードだけで一冊使ってもおかしくはないと思っていたのだが・・・・・・
シリーズものとしてはこれでドアティという登場人物に関してはけりをつけて、次回作からまた新たなコーソの物語が始まっていくという分岐点という意味なのかもしれない。今後の展開にもぜひ注目していきたいところである。