<内容>
連邦機関の警護官、コルティが今回請け負う仕事は、ワシントンDCの刑事ケスラーとその家族。彼らがプロの“調べ屋”ヘンリー・ラヴィングから狙われているという情報が入ったのだ。ヘンリー・ラヴィングは、拷問によりターゲットから情報を引き出すのが得意で、コルティの師匠である警護官が彼の手にかかり殺害されていた。ケスラー刑事とその家族を護ろうとするコルティのもとに、何度もラヴィングによる罠が仕掛けられる。コルティはラヴィングの目的を突き止め、彼を捕らえることができるのか!?
<感想>
ジェフリー・ディーヴァーは、かなりのお気に入りの作家であるのだが、この作品に対しては乗ることができなかった。5月中旬ぐらいから読み始めたのだが、なかなか読み進められず、読み終わるのに時間がだいぶかかってしまった。
一応、凄腕のボディーガードと、“調べ屋”と言われる凄腕の殺し屋との対決を描いたものであるのだが、ノン・シリーズであるということもあってか、どちらも“凄腕”と評されるところがピンと来なかった。両者とも万能でなんでもできそうな割には、何故に名前が割れている殺し屋の正体を追えないのかとか、読んでいるうちに色々な矛盾が生じてくる。双方、どこからどこまでは可能で、何が可能でないのかがわからなく、ルールがよくわからないなかでの戦いと感じられてしまい、それが理由で序盤から話にのることができなかった。
最終的にはディーヴァーの小説らしく、うまいと感じられる着地点に到達しているものの、その過程がいまいちであったかなと。できれば両方凄腕というよりも、どちらか一方にパワーバランスを傾けてもらえたほうが話としては分かりやすかったのではなかろうか。どちらか、キャラクターが栄えたうえでの頭脳戦を見せてくれれば、もっと内容に納得できたのではなかろうか。
<内容>
イギリス政府本部は大規模な攻撃計画が進行されているというメールを傍受した。その攻撃が行われるのは今から六日後の金曜日。それまでに、どこで、誰が実際に何を行おうとしているのかを探り、計画を阻止しなければならない。この任務を命令されたのは暗号名007、ジェームス・ボンド。彼にミッション達成のためにはいかなる手段も容認する“白紙委任状”が渡された。果たしてボンドはこの難易度の高いミッションを無事に成功させることができるのか!?
<感想>
デーヴァーによる007シリーズ。いくらディーヴァーとはいえ、ジェームス・ボンドを書くと言ってもピンとこないなぁ、と思いながら気乗りせず読み始めたものの、読み進めていくと思いのほかディーヴァー流007にはまってしまった。いや、これは素直に面白かったとしか言いようのない出来である。
序盤はなんとなく読み進めにくい気がしたものの、徐々に気にならなくなってくる。時代設定は現代となっており、オリジナルの007が活躍した時代ではなく、現代にて007が活躍するというスタンスで描かれている。ゆえに、007の新兵器も全て今風のもの。大活躍するのはスマートフォンにインストールされている最新アプリの数々。スパイのアイテムもこんな風に変わってしまったかとため息をついてしまう。
今回は007シリーズということで物語が組み立てられているのだが、これがまた007という立場だからこそ挑戦できるミッションとなっており、設定と物語が見事にマッチしている。ジェームス・ボンドが犯人の行方を追って世界を股にかけるわけであるが、これは決して地域警察にはできない仕事。ありとあらゆるコネと政府お抱えの諜報部という立場を利用して、007が縦横無尽に駆け回る様を見ることができる。
さらには、後半はディーヴァー作品らしくドンデン返しの数々も健在である。いつものように最後の最後まで予断を許さない内容となっている。最初は気乗りしなかった007シリーズであったが、この作品を読みおえると続編は書かれないのかなぁと期待してしまう始末。読めば誰もがきっと現代に甦る007に魅入られること必至!
<内容>
キャサリン・ダンスは休暇をとり、友人のケイリー・タウンに会いに行くことに。ケイリーは有名な人気歌手であるのだが、現在執拗ともいえるやっかいなストーカーの存在に悩まされていた。そのストーカー騒動は、やがてケイリーの音楽スタッフのひとりが殺害されるという事件へと発展していく。ケイリーの窮地を救いたいとキャサリン・ダンスは現地の警察に手助けを申し出るのであったが・・・・・・
<感想>
キャサリン・ダンスが活躍する3作品目。今回は休暇で訪れたカリフォルニア州フレズノで、友人の人気歌手をストーカー被害から守るというもの。
いつもながらのディーヴァーらしい作品ではあるのだが、嫌気のさすストーカーを終始相手にするということで、内容に関しては楽しむことができず、やや読むスピードも遅めとなった。また、ディーヴァーらしい作品といいつつも、物語の展開が定型どおりという感じがし、そこは人気作家ならではの悩ましいところであろう。毎年、作品を書き続けてくれているというのは望むところであるのだが、それ故にマンネリ化を感じずにはいられない。
今回の作品であるが、一番納得がいかなかったのが、なんで優秀な警察官と、それよりも優秀なキャサリン・ダンスらが、単なるストーカーに悩まされ続けなければならないのかということ。最後の最後まで、このストーカーが何故有能な人物かということに関して、なんの説明もなかったような・・・・・・
本書でのちょっとした目玉はリンカーン・ライムとアメリア・サックスが登場してくれているところ。この二人の登場のおかげで、少しは物語が締まったかなという印象。著者は気に入っているのかもしれないが、いまいちキャサリン・ダンスという人物は主人公としては物足りないような。
<内容>
アメリカ政府を批判していた活動家がバハマで何者かに暗殺された。その事件に対して地方検事補ナンス・ローレルが、暗殺を主導したと思われるアメリカ諜報機関を訴えたいというのである。暗殺された活動家は、口では過激な事をいっていたものの、実際にはさほど危険な人物ではなく、諜報機関の行き過ぎた行動を指摘するというもの。ローレルはリンカーン・ライムとアメリア・サックスの力を借りて、諜報機関の罪を暴こうとする。しかし、何者かが残された証拠を隠滅しようと次々と証人を暗殺してゆく。ライムは事件の証拠を分析しようとするが、政治的な問題により証拠を入手することができず焦ることとなり・・・・・・
<感想>
強力になり過ぎて、ちょっとやそっとの犯罪者では太刀打ちできないリンカーン・ライム・チームであるが、今回は予想だにしない困難が待ち受けることとなる。他国で起きた事件により、政治的なからみから証拠が入手できないという状況。肝心の証拠がなければさすがのライムも手も足もでない。
また、今作はものすごく近代的な事件を扱っていたと感じ入ってしまった。SFでしかお目にかけることができないよなものが登場し、実際の事件に関与してくることに。これに関しては、今作の目玉となるので是非とも読んで確認してもらいたい。原題の“The Kill Room”というのは、このことに関連する言葉。
今回も、犯罪者に騙されまいとするよりも、著者のディーヴァーに騙されまいとあれやこれやと考えさせられてしまう。諜報機関を訴えようとする真意は? 暗殺事件には何か裏があるのか? 証拠を隠滅を繰り返す者の正体は? 徐々に提示されつつある証拠が語る真相とは何なのか? そうした思いに応えるかのように、ディーヴァーもしっかりと、最後の最後まで予想だにできない真相をしっかりと盛り込んできている。
また、シリーズ作品としてもリンカーン・ライムに対して、新たな感情が芽生えるものとなっている。この辺の話の流れはなかなかうまいなと感心させられてしまった。まだまだ、ライムとアメリアのコンビは健在のようである。そして、チームとしても活躍してくれそう。ちなみに、今作がライム・シリーズの10作目!
<内容>
かつてリンカーン・ライムのライヴァルともいえた“ウォッチ・メイカー”が刑務所で死んだとの報がもたらされる。感慨にふけっていたライムの元に新たな事件が。それは、毒によって刺青を施された犠牲者の死体。しかもかつての“ボーン・コレクター”を思い起こさせるものがあり、犯人はそれを意識しているのではないかと。ライムはいつしか、犯人を“スキン・コレクター”と呼び始め、アメリア・サックス、ロン・セリットー、ロナルド・プラスキーら仲間と犯人を追い詰めようと試みるのだが・・・・・・
<感想>
面白かった。分厚いページ数であったが、すらすらと読むことができた。いつもながらさすがリンカーン・ライム・シリーズは面白い。
今作は、死体に刺青を施すことにより“スキン・コレクター”と呼ばれる犯人とリンカーン・ライム・チームが激突する。このシリーズにおける懸念は、ライムのチームがすごすぎて、太刀打ちできる犯罪者がいなくなっているということ。しかし、今回の犯罪者はたいしたバックボーンがなさそうな者にもかかわらず、ライムらの上手を行く犯罪者ぶりを見せつけ、彼らを煙に巻き続ける。
また、今回の犯人の犯行についても、不明というか不穏なものを感じてしまった。殺人を犯すのかと思いきや、殺さずに済ますときがあったり、さらには全体的に犯行の動機がいまいち不透明。通常、このような猟奇殺人を犯す者は、本人の趣向という意味合いが強いのだが、それを今回の犯罪者からは感じられないのである。
そうこうしているうちに後半へと入ると、ディーヴァーお得意のどんでん返しに彩られることとなる。前述に書いたさまざまな疑問の数々がそれぞれクリアされることとなり、さらには読み手の想像を上回る着地点へと到達することとなる。しかも、単にどんでん返しをしているというわけではなく、きっちりと張り巡らされた伏線を回収しているところが素晴らしい。
色々と語りたい部分はあるのだが、そうするとほとんどネタバレになってしまうので、その辺は収めておくこととする。個人的にはボーン・コレクターで登場していたパム・ウィロビーというものが、今まで登場していなかったにも関わらずアメリアと深い絆で結ばれているとか、“あの人”をまだひっぱり続けるのかとか、微妙と思えたこともあるのだが、全体的には存分に楽しめた作品である。今後どのようなネタでシリーズを引っ張っていくのか気になるところだが、まだまだ読者の要望にディーヴァーは応えてくれそうである。
<内容>
尋問の名人と言われるキャサリン・ダンスは、とある容疑者を尋問したのち、事件には無関係の人物だと判断をくだしたのだが、実は麻薬組織の殺し屋であることが判明した。殺し屋に逃げられたことにより、ダンスは捜査から外されることとなってしまう。代わりに民間のトラブルを解決する部署で働くこととなったのだが、そこで抱えていた事件は、コンサート会場にて観客がパニックを起こし、死傷者が出たという事件。ダンスが事件を調べてみると、何者かが意図的にパニックを引き起こしたのではないかという疑いが持ち上がり・・・・・・
<感想>
実はキャサリン・ダンス・シリーズには偏見を持っていて、今作も大して面白くないのではないかと・・・・・・。いや、これが実際に読んでみたら面白かった。まさに、やられたという気分。これは騙されたと思って、しっかりと最後まで読んでもらいたい作品。
キャサリン・ダンスって、尋問の達人といわれている割には、あまりそういう場面がシリーズ通して出ていないのでは? と思っていたら、物語ののっけから尋問に失敗してしまっている。それにより、捜査から外され、コンサート会場にて死傷者が出たという事件の調査を行うこととなるキャサリン・ダンス。
この“パニックを引き起こす”という件に関しては、素直に怖いなと感じてしまう。群衆が引き起こすパニックと、建物のちょっとした不備により、いかに被害が大きくなるかということがよくわかる。実際、現実に各地でテロが起きたり、日本でも災害が起きたりしているのを見ると、このようなパニックによって引き起こされる事件が決して架空の話ではないと感じられてしまう。ただ、この作品のように人為的にそれを起こすような輩がいないことを望んでいる。
基本的なパートとしては、キャサリン・ダンス対パニック犯となるのだが、他にもダンスが調査から外された案件や、ダンスの子供たちが引き起こす事件などと、注目点はいたるところにある。特にシリーズとしては、キャサリン・ダンスの家庭問題が今後どのようになるかが気になるところ。
この作品、読んでいるうちはキャサリン・ダンスって本当に有能なの? という疑問符ばかりが浮かんできていたのだが、最後の最後に読み手の足元がすくわれることとなる。「なるほど、やられた!」と。これはダンス捜査官を見直さずにはいられなくなる一作である。
<内容>
リンカーン・ライムは犯罪捜査から手をひくと言い出し、現在は大学で講義をしていた。そうしたなかアメリア・サックスは単独で殺人犯を追跡することとなる。そしてアメリアが犯人を捕まえようとしていたところで、エスカレーター事故が起こり、そちらの被害者を救出している間に犯人に逃げられてしまう。また、エスカレーターの被害者は必死の救出もむなしく死亡してしまう。その死亡した被害者の民事訴訟を受け持つこととなったリンカーン・ライム。ライムは講座の受講者であった車椅子の元疫学研究者ジュリエット・アーチャーと共に調査に乗り出す。
<感想>
既に無双という感があるリンカーン・ライム率いるチームであったが、今回はなんとライムが犯罪捜査から一線を退くと言い出し、アメリア・サックスがほぼ単独で犯人捜査に乗り出している。それがゆえか、さほど大したことのない犯人でありそうにも関わらず、捜査線上からすり抜け、アメリアはなかなか容疑者を逮捕することができないという状況。
また、今回はさまざまな人々が主観として登場し、群像小説のような感触となっている。ライムは車いすに乗るジュリエット・アーチャーと共に民事訴訟に乗り出し、アメリアは謎の“未詳40号”を追う。さらにアメリアをサポートしなければならないはずのロナルド・プラスキーは単独で怪しげな行動をとり、単独捜査で右往左往するアメリアの前に出所してきた元彼までが現れる。そこに“未詳40号”の視点も加わりながら、さまざまな道筋がくっついたり、離れたりしつつ、後半へとなだれ込んでゆく。
今回の作品では、IT技術が備わった家電や各種機械に対して、さまざまな問題点を提起している。この辺は常に新しい犯罪分野に取り組むシリーズらしさが現れている。その家電等の脆弱性を利用しての“未詳40号”による犯罪は、決してフィクションにとどまらず、これからの社会的な問題を予言しているようでもある。
各登場人物が右往左往するものの、最終的にはうまいところに収まったかなという感じ。シリーズの分岐的な位置づけのような作品とも言えるのだが、なんとなく外伝的な作品と言った方がしっくりくるかもしれない。