<内容>
コンピュータ販売会社ナショナル・キャルキュレイティング社は重大な危機に瀕していた。株主から依頼されたという立場を盾にして、ベテラン会計士のフォーティンブラスが乗り込んできたのである。彼が乗り込んできてからは会社は右往左往するばかり。そしてフォーティンブラスが社に対してなんらかの証拠を握ったと思われたとき、彼は何者かに殺害されてしまう。この件にいつの間にか巻き込まれる事になったスローン銀行の副頭取ジョン・パトナム・サッチャーが事件に挑む、本格企業ミステリー。
<感想>
前書きによると、このエマ・レイサンという著者は二人の女性によるペンネームであるとのこと。そして本書の探偵役であるサッチャーが活躍する小説を20編以上も書き上げていると言うのだから、かなり期待して読む事となった。で、その結果はどうかと言えば・・・・・・・
本書の内容は少々とっつきにくいものと感じられた。なぜかといえば、ミステリーはミステリーでも企業の会計などといった内幕を絡めた企業系ミステリーというものだからである。話は会社の経営の話から始められる。そして、そこの企業の会計に関する話が始まり、その末にようやく殺人事件が起こる。しかし、殺人事件が起こるものの、その事件自体の捜査ではなく、あくまでも企業の裏側というものをあぶりだしていくスタイルをとっており、その上で犯人の姿が浮き彫りにされると言うものであった。
ようするにミステリーというよりは、スパイものの方が近いかと思えるのだが、そのスパイものであると言ってもアクションシーンのないスパイものというように感じられた。
本書の位置付けとしては、女性二人による共同執筆によってエマ・レイサン名義で物語が描かれ、しかも内容は企業ミステリーという他にはないようなミステリーが描かれていた、というようなところであろう。なにはともあれ、ミステリー史の中における貴重な一冊と言う事で。
<内容>
スローン・ギャランティー信託銀行の副頭取ジョン・サッチャーの元に突如、シュナイダーという男が乗り込んでくる。その男はシュナイダー信託基金というもののことで相談に来たというのだ。シュナイダー家の当主が死に掛けていて、その死後にシュナイダー家の相続人にそれぞれ遺産が分配されるのだが、何年も音沙汰が不明のものがいるのだという。その人物をサッチャーの銀行に見つけてもらいたいというのである。顧客からの依頼をサッチャーは引き受けることとなるのだが、行方不明の相続人を調べてみると、最近事件によって死亡したということがわかり・・・・・・
<感想>
面白さと、つまらなさ、半々を兼ねそろえた作品という気がした。
事件が起こってから、普通のミステリ作品であれば、誰が容疑者であるかとか、その容疑者のアリバイはとかを捜査していくことになるのであるが、この作品ではその捜査の部分において金融関係の話があれこれと語られることとなる。まぁ、それこそが作風であるので仕方がないといえば仕方がないと思われるのであるが、その部分が事件にさほど直結しているとは思えないので退屈にしか感じられないのである。確かに、動機という面においては密接に関係してくるのかもしれないが、犯人の特定に関してはあまり関係がないように思えた。
この金融関係の部分を面白く読むことができるか、できないかで本書に対する感想というのはだいぶ変わってくるのではないだろうか。
ただ、最後の犯人を確定する部分と、犯人が確定された後の物語の展開についてはよくできていたと思われた。犯人確定後に物語り全体について考えてみると、なるほどと思えることもあり、また、最後のシーンに関してはなかなかうまく話を締めたなと感心させられる。
というわけで、ラストでは本書に対してそれなりに感心させられたので、最後まで読むことによってこの作品に対する印象はがらりと変わることとなった。良い部分、悪い部分があると思えるのだが、金融関係の話をもっとわかりやすく書いてくれればもっと一般受けすると思えるのだが。
<内容>
俳優のガイ・ウッドハウスと新妻のローズマリーはかねてから住みたいと願っていたアパートへと引っ越すこととなった。二人の友人であるハッチからは、その建物は曰く付きなので止めた方がいいと言われたのだったが、二人は新居を気に入っていた。しかし、その建物に住んでから奇妙な出来事が起きたり、妙に親しげな隣人たちが出入りするようになったりと不穏な雰囲気が漂い始める。やがて二人は子供を授かることとなり、ローズマリーは身ごもるのであったが・・・・・・
<感想>
不気味なものがひたひたと、徐々にローズマリーに忍び寄ってくる雰囲気がたまらない。さらには、いつのまにか不穏な者達がローズマリーを取り囲み、身動きがとれない状況に陥ってしまうという絶望感がものすごい。
直接的な陰惨さはさほどではないのだが、迫りくる絶望感が見事に表されている。ストーリーとしては単純とさえいえるのだが、日常から絶望へと変わりゆく世界への吸引力が強く読み手を捕えて離さない小説。さすがはホラー小説の金字塔。
<内容>
ロンドンの西洋学研究学部の建物には、とある言い伝えがあった。ミスター・ディアボロという謎の怪人があらわれたとき、何らかの事件が起こると。
そして、そこで学会が開催されたとき、参加者達はミスター・ディアボロらしき怪しい人物を目撃する。彼らは怪人物の正体を暴こうと、その後を追うのであるが、どこへも逃げることのできない場所からミスター・ディアボロは忽然と姿を消してしまう。その後、ひとりの研究員の死体が見つかり、具体的な事件へと発展することに!
<感想>
かなり期待をして読んだのだが、思ったよりも普通のミステリ作品であったなと。
面白くないことは決してなく、著者のミステリ作品に対する凝りようを十分に垣間見ることができる。ただ、その凝りかたが少々わかりづらいというのが欠点か。真相が明らかになったときに、物語のなかにさまざまな伏線を張っていたことがわかるのだが、その伏線がわかりにくい。後からもう一度読み返したときに、ようやくそれらがわかるというもの。
また、真犯人が明らかになったときも、それほどのサプライズはなかった。というのも、主人公などの主要人物はきっちりと描かれていたと思えるのだが、その他の登場人物については、さほど印象が残らないような描き方であるので、容疑者とか真犯人とかいった者を頭に浮かべにくい内容であった。
とはいえ、過去にミステリに愛情を持って作品描いたアントニー・レジューンという作者がいたことを知ることができただけでも収穫と言えよう。文庫で入手しやすい作品であるので、海外本格ミステリファンは読み逃しのないように。