ラ行−ラ  作家作品別 内容・感想

深夜プラス1   Midnight Plus One (Gavin Lyall)   7.5点

1965年 出版
2016年04月 早川書房 ハヤカワ文庫(新訳)

<内容>
 元特殊作戦部隊で活躍していたケインは、今ではそのコネを生かし、危険な仕事を請け負っていた。今回は、ひとりの実業家をフランスからリヒテンシュタインまで送り届けるという仕事。ケインは、アル中のガンマン、ハーヴィー・ラヴェルと組み、実業家マガンハルトと、その秘書ヘレンを送り届けることとなったのだが、行く先々に敵が立ちはだかることとなり・・・・・・

<感想>
 ずいぶん昔に読んだはずなのだが、そのときの印象がパッとしなく、これは改めて再読したいと思っていた作品。なにしろ冒険小説のなかでは金字塔と呼ばれているほどのもの。そして丁度昨年に新訳版が刊行されたのでこれを機に購入し、ようやく手を付けることとなった。

 読んでみると、いやこれは面白なと感心させられた。確かに冒険小説として不動の地位を築いた作品という事を納得させられる。とにかく登場人物が魅力的。主人公のケインは各地の地理や情勢に詳しく、いたるところで協力を取り付け、仕事をこなしていく。元SPのガンマンは、腕がいいものの実はアル中という弱点をかかえている。実業家のみを送り届けるはずが、そこに秘書もついてきて、この人物が敵か味方かわからないという状況。この4人組が追っ手を振り切りながら、車でリヒテンシュタインへと向かうこととなる。

 それぞれの地域で出会う人々も魅力的ながら、道中で待ち構える敵たちにも目を惹かれる。それら敵に関しては、彼らの心情が語られることはなく、登場のみであるのだが、それでもしっかりと味を出している。最後の最後で強敵を迎えることとなる要塞での戦闘の様子は、まさに“冒険小説の白眉”という印象を強く与えている。

 いや、これは読んでおいてよかったなと。まさに歴史に残る一冊を味わえたという気分。たぶん、今後も何度か読み返すことになりそうな作品である。


ジェニー・ブライス事件   The Case of Jennie Brice (M.R.Rinehart)

1913年 出版
2005年04月 論創社 論創海外ミステリ16

<内容>
 ピッツバーグのアレゲーニー川付近にて宿を営むミセス・ピットマン。毎年起こる川の氾濫による洪水の中、ピットマン夫人の宿屋で事件が起こる。女優のジェニー・ブライスがいつの間にか行方不明になってしまったのだ。残された夫の挙動が怪しく、彼が妻を殺害したのではないかと疑われるのだが・・・・・・

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<感想>
 これはうまく描かれ、きれいにまとめ上げられている作品であると関心。今、この時代に読んでしまえば、ミステリーとしては簡潔にまとめすぎと思われるだろうが、当時としてはこのくらいの分量がちょうど良かったのではないだろうか。

 本書はある女優の失踪を描いたミステリー。町中が洪水による浸水の被害にあっている中、その女優は殺害されたのだろうと皆が疑っているのだが、死体が現れないために容疑者を起訴できないというもの。しかし、そういった状況の中、検察側は裁判へと踏み切ってゆく。

 このミステリーのパートも良くできていると思うのだが、本書はそれだけでなく、主人公となっている初老の女性がうまく描かれている。今は下宿屋のおかみとなっているが、若いころ裕福な家から駆け落ちしており、その家が今の下宿の近くにあるものの訪ねていく事はできない、という設定で事件を通して姪と出遭ったり(相手は叔母だとはわからないのだが)などと実に感情豊かに描かれている。

 この著者ラインハートは米国のクリスティーと呼ばれ、愛されてきた作家だそうだが、日本でもクリスティーと同じようなスタンスで売れば、日本でも結構受け入れられるのではないかなと、本書を読んだ限りではそう思えた。


レティシア・カーベリーの事件簿   The Amazing Adventures of Letitia Carberry (M.R.Rinehart)

1911年 出版
2014年01月 論創社 論創海外ミステリ114

<内容>
 「シャンデリアに吊るされた遺体」
 「ペンザンス湖の三人の海賊」
 「恐怖の一夜」

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<感想>
 論創海外ミステリの16冊目、「ジェニー・ブライス事件」以来、約10年ぶりのお目見え。今回の作品は、ラインハートが生み出したレティシア・カーベリーというキャラクターが活躍するシリーズものの第1作目。このレティシア・カーベリーは、50歳くらいの好奇心旺盛な淑女。彼女が友人の2人と共に、常に3人組で行動し、騒動を巻き起こしていくというもの。

 最初の「シャンデリアに吊るされた遺体」は、ミステリ色が濃い内容で、病院で死んだはずの霊媒術師の死体が消え失せ、シャンデリアに吊るされていたという事件が起こる。それを、同じ病院に入院していたレティシア・カーベリーがその謎に挑むというもの。読み終わってみれば、ミステリとしてなかなかのできとわかるのだが、読んでいる最中は、現段階で何が起きているのかが非常にわかりにくかった。最後の最後で謎を解く段になって、ようやく時系列が整理され、内容が理解できたしだい。かなり変わった毛色のミステリ作品となっているので、解決前までにきちんと内容が整理されていなかったのが惜しいところ。

「ペンザンス湖の三人の盗賊」と「恐怖の一夜」は、主人公3人組が巻き起こす騒動を描いたもので、ミステリというよりも冒険譚。車をうまく操れなくて、騒動を巻き起こしたりとか、きちんとボートを操れないにもかかわらず、平気で湖へ乗り出したりとか、とにかくとんでもないばか騒ぎを起こしてしまう3人。そこに、さらなるとんでもない騒ぎが起こり、事態はますます混迷を極めることとなるという内容。

 全体的にどちらもユーモアにあふれていて面白いと思えるものの、何が起きているかが分かりづらいといったところが難点。もうちょっと話が分かりやすくないと世間一般では受け入れられないような気がしてならない。


赤き死の香り   Red Gardenias (Jonathan Latimer)

1939年 出版
2008年06月 論創社 論創海外ミステリ78

<内容>
 富豪であるマーチ家にて、一酸化炭素中毒による謎の変死事件が連続して起こった。事件性はなく自殺ということで片づけられているのだが、何やら不穏なものが感じられる。そこで私立探偵ビル・クラインが雇われ、事件の謎を解くことに。ビルは同僚のアン・フォーチュンと共に捜査に乗り出すのだが、彼らを待ち受けていたのは、さらなる変死事件。そして現場にはクチナシの香りが残され・・・・・・

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<感想>
 ここで出てくるビル・クラインという探偵であるが、過去に翻訳された「処刑6日前」や「モルグの女」という有名な作品(らしい)に登場する人物。この探偵の作品は5作しかないそうなのだが、日本では今まで前述にあげた2作しか訳されていなかったそうである。そうしたなか、ビル・クラインが登場する最後の作品として訳されたのが本書である。

 というわけで、それなりの背景を持つ一作であるのだが、この作品だけ読んでみても何ら感じ入ることはなかった。むしろハードボイルド系の探偵のわりにはほとんど動きがなく、ただ事件の渦中にいるだけのような気がしてならなかった。そしてなんとなくで事件を解決してしまうという内容。

 本文中でとある登場人物が放った一言、「あんたは単なる馬鹿かと思ってたわ」

 いや、実際本当にそんな感じであった。


新幹線大爆破   Bullet Train (Joseph Rance & Arei Kato)

1980年 出版
2010年07月 論創社 論創海外ミステリ93

<内容>
 国鉄に脅迫電話がかかってきた。乗客1500人を乗せた東京発博多行きの新幹線に自足が80キロ以下になると爆発する爆弾を仕掛けたという。犯人は爆弾のはずし方を教える代わりに500万ドルを要求してきた。国鉄、警察と犯人との攻防が続くなか、新幹線内では乗客がパニックに陥る。タイムリミット内に爆弾を取り外すことができるのか!?
 邦画「新幹線大爆破」の英国版ノベライズを逆輸入した作品。

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<感想>
 思っていたよりも楽しめた作品。映画のノヴェライズ化、しかも海外の作家が描いたものの逆輸入とのことであるが、日本人作家が書いたと言ってもおかしくないほど違和感なく書かれている。何故か、お金の単位だけ500万ドルとドル単位になっているところが不思議なところ。

 多視点による群像小説となっているためか、事件が動くまでは描写がやや退屈め。しかし、事件が動き始めてからは内容もヒートアップし、一気に読み干すことができる。とはいえ、ミステリ作品としては特に意外性がないため、普通の作品と言えよう。

 本書の面白さは何と言っても人間ドラマ。登場人物が多すぎるきらいがあるものの、主要人物についてはそれなりに背景が濃密に描かれており読みごたえはある。映画版ではあえてこうした人間ドラマの部分を省いてスピーディに描かれているそうであるが、小説としてはこのくらいのボリュームがあってもよいであろう。

 海外ミステリというよりも、本格ミステリ以前の国内ミステリ小説として楽しめる作品。ミステリ映画ファンであればなおさら必見と言えるかもしれない。


日時計   The Shadow of Time (Christopher Landon)

1957年 出版
1971年11月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 ロンドンにて私立探偵を営むハリー・ケントの元にひとりの美容師がやってきた。彼は三歳の娘が誘拐されたといい、誘拐犯から写真が届けられたという。わけがあって、警察に話すことができず、詳細を話すこともできないが、娘を助け出してほしいと。依頼を受けたケントは、並外れた才能を持った友人ジョッシュに相談し、写真から子どもの居場所を特定してもらい、奪還を目指すことに・・・・・・

<感想>
 2014年の復刊フェアで購入した作品。なんと珍しい、スパイものではない冒険もの。私立探偵が友人と妻の助けを借りて、誘拐された子どもを捜し、奪還するというもの。

 本書で一番のポイントは、誘拐された子どもが映った数枚の写真から、その情景と影の位置を読み取って、子どもが監禁されている場所を特定するところであろう。その影の位置によるものがタイトルの“日時計”となっているわけである。

 その後は、ドタバタしながらなんとか子どもの奪還を図る主人公三人組の様子が描かれる。なんとなく素人っぽくて微妙にも感じられるのだが、ひょっとするとその素人らしさがうけた作品という可能性もある。ただ、犯人側の行動までも素人っぽすぎるような・・・・・・

 個人が活躍する冒険譚として取り上げられた作品なのかなと思われる。発表されたのが60年前ということもあり、今読んでも正当な評価はしづらいが、変わり種のこういう作品もあったという事で。


怪奇な屋敷   Murder Mansion (Herman Landon)

1928年 出版
2014年08月 論創社 論創海外ミステリ129

<内容>
 10年ぶりに故郷に戻ってきたドナルド・チャドマー。彼は10年近くの間、刑務所に収監されており、ようやく出ることができたのだ。ドナルドの家は資産家であり、その資産は全てドナルドのものになる予定。ただ、彼の屋敷は“怪奇な屋敷”と呼ばれており、過去の亡霊が巣くうと噂されていた。故郷に戻ってきたばかりのドナルドは、早々に奇妙な陰謀に巻き込まれ、さらにはドナルドの家である怪奇な屋敷で起きた“密室殺人事件”に関わることとなり・・・・・・

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<感想>
 最初、読み始めときはモダンホラーのような印象を受けたのだが、途中で密室殺人事件が起きた時には、一気にディクスン・カーの作品のような雰囲気に変わっていった。しかし、その雰囲気は持続しなく、後半へと進むと、どこかちぐはぐな印象を受け続けることとなる。

 この作品、実は本格推理小説としてよい味を出しており、かなり光るところがある小説といってよい。ただ、その見せ方がかんばしくなく、とにかく惜しいという言葉を連呼しなくなる作品でもあるのだ。ここに描かれている要素をうまく組み合わせ、エピソードの並びを代えて提示すれば名作になったのではないかと思えるほど。

 今回は、ここで惜しいと思われたことの一覧を書き出したいと思う。
 ・探偵役は最初に出てきた探偵のままで良かったと思われる。何故、途中で切り替わる?
 ・真相が明かされる直前に語られる屋敷のエピソードは、物語の序盤で提示されるべき。
 ・真相のひとつに替え玉のようなものが語られるものの、全くといってよいほど物語に活かされていない。
 ・最後の最後で宝探しネタが出てくるものの、これも序盤に持ってくるべき。
 ・伏線がいまいち徹底していない・・・・・・というか、いい加減。

 ざっと思いついたくらいで、このくらい。とにかく突っ込みどころ満載の作品。是非ともこれは、手に取っていただいて、もっとこうすればよいのでないかという意見を挙げてもらいたいところ。歴史的な古典本格推理小説の一冊として取り上げられなかったことに納得してしまう残念な作品。


灰色の魔法   Gray Magic (Herman Landon)

1925年 出版
2015年08月 論創社 論創海外ミステリ154

<内容>
 怪盗グレイ・ファントムことアリソン・ウィンダムが、ふと目を覚ますと、そこは見知らぬ場所であった。傷ついた体のまま、彼は幽閉されており、そこには召使いと名乗るものがいるのみ。その召使いは、ウィンダムのことをアラン・ホイトという囚人であり、脱走してきたのだと言うのである。いったい、この召使いと名乗る者は何者なのか? 何故、幽閉されているのか? ウィンダムは状況を打開すべく、脱走を図ろうとするのであったが・・・・・・

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<感想>
 本書は怪盗グレイ・ファントムが活躍するシリーズ作品のなかのひとつという位置づけ。論創社は探偵によるミステリのみではなく、こういった怪盗が活躍する作品の紹介も多いような。今までも、マッカレー「仮面の佳人」、ウォーレス「淑女怪盗ジェーンの冒険」、ハンシュー「四十面相クリークの事件簿」などなど。怪盗が活躍する冒険ものということで、通常のミステリとは違った趣向を味わえる。

 そういうわけで、本書はシリーズ作品のひとつということもあり、グレイ・ファントムありきで描いているので、このグレイ・ファントム自身については、あまり詳しく描かれていない。それなのに、当の主人公が記憶があいまいな状態で幽閉されているところから始まっているので、あまり取っ付きやすい作品とはいいがたい。とはいえ、当然のことながら、読んでいるうちに大体の背景はわかってくることとなる。

 それで肝心の内容であるが、前半と後半の話のつながりがちぐはぐで、いまいちであったという気がしてならなかった。最初は幽閉されたところで始まり、奇妙な現象などにも遭遇するのだが、中盤にかけては宿敵マーカス・ルードとの闘いへと移ってゆく。ただ、この前半の幽閉の部分に関してはマーカス・ルードは関与していなく、そこが一番微妙なところだと感じられた。

 なんとなく、一連の事件というよりは、いくつかの短編のネタをつなげた内容のように思えてしまった。また、シリーズの途中の作品ゆえに、あまりグレイ・ファントム自身についての印象も希薄なままで終わってしまったというような・・・・・・


騙し絵   Trompe-L'ceil (Marcel F. Lanteaume)

1946年 出版
2009年10月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 アリーヌ・プヤンジュが祖父から送られた大粒のダイヤモンド。彼女の結婚披露パーティーの際に、厳重な警備の元で展示されることとなった。ダイヤを覆うケースには鍵がかけられ、そのケースの周りには6人の警備員が配置されていた。ところがこれだけ厳重な警備にもかかわらず、ダイヤは盗まれてしまったのだ! いったい誰が、どうやって? アマチュア探偵ボブ・スローマンが解く事件の真相とは!?

<感想>
 これは面白い。まさか、こんなことをやってのけるなんて。

 本書のメインはもちろんダイヤモンドの盗難方法について。どのような方法で盗んだのかと色々と考えたものの、前代未聞の方法が企てられている。ここまでやってのければ、天晴れだ!

 また、この作品に関しては、ダイヤモンドの盗難のみの作品だと思っていたのだが、最後の探偵による真相解明の様子をみて、ずいぶんときちんと探偵小説していることに驚かされた。思いの他、きちんとできているミステリ作品として完成されている。

 これはなかなかの発掘本といえるであろう。読み逃すには惜しい作品。ただ、10月に出版された作品ということで、ランキングなどにはかすらないような気がする。埋もれてしまうには、惜しいなぁと感じてしまう逸品。




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