Rex Stout 作品別 内容・感想

腰ぬけ連盟   6.5点

1935年 出版
1978年06月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 ネロ・ウルフに新たな調査依頼が。それは、とある男たちが、ひとりの男により命を狙われているというもの。そのひとりの男とは、作家のポール・チャピン。なんでも男たちは、学生時代ポールにいたずらをし、それによりポールは一生足をひきずって歩かなければならなくなったという。反省した男たちは、“贖罪連盟”なる団体を作っていたのだが、最近その連盟の男二人が不慮の死を遂げたという。彼らはポールの手によって殺害されたのではないかと慌てふためく。そこでネロ・ウルフに頼ってきたのである。ウルフが調査を始めようとした矢先、連盟のひとりが行方不明となり・・・・・・

<感想>
 改めて読んでみると、スタウト描くネロ・ウルフものというのは面白いなと。とにかく他では描かれない独特な作風があると、読んでいて感心させられてしまう。しかも請け負う仕事が単なる事件ではなく、どこか一癖あり、他の私立探偵や警察では手に負えないようなものを扱っているというところも見どころといえよう。

 今作では、“贖罪連盟”なる者達から、作家ポール・チャピン(殺人鬼?)から身を守ってもらいたいという依頼がなされる。その作家自体が本当に事件を起こしたかどうかもわからないのだが、何気にその作家自身は自分の影に犯罪を匂わせたりしている。そうした状況のなかで、ウルフがどのようにして事件を解決に導くのか? さらには依頼者たちからどのようにして金を巻き上げるのかが焦点となっている。

 この作品でも基本的に体を動かすのはアーチー・グッドウィンであるのだが、今回はウルフのほうが存在感があったような気がする。ほとんど家から動かずに、その存在感を示すのだから探偵としてなかなかのもの。本格推理ものの名探偵とは若干色合いが異なりつつも、“安楽椅子探偵”という名がこれほどしっくりくる人物もそうはいないであろう。

 最後にひとつ気になったのが、タクシー運転手が息絶えていたように描かれていたのだが、結局彼は死んでいなかったのだろうか?


料理長が多すぎる   6点

1938年 出版
1976年10月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 世界各地から15名のシェフたちが集められた晩餐会に出席するため、ネロ・ウルフは助手のアーチー・グッドウィンを連れ、普段は決して出ることのない家から離れることに。なんとか列車の旅を乗り越え、晩餐会に出席したウルフであったが、催しのひとつであったソースの味ききが行われた最中、シェフの一人が刺殺されてしまう。いやいやながらも、ネロ・ウルフは事件の捜査に乗り出さざるを得ない羽目となり・・・・・・

<感想>
 ネロ・ウルフがなんと自宅から離れて、はるばる電車にのって晩餐会で出かけてゆくという異色作。その晩餐会で起きた料理長殺人事件の謎を解く。

 このシリーズ、あまり読み慣れていないせいか、どうも助手のアーチー・グッドウィンのほうが主役のような印象を抱いてしまう。ただ、この作品をしっかりと読んでいくと、行動にかんしてはアーチーが担い、推理に関してはウルフが担うという分担がしっかりとなされ、ネロ・ウルフありきで物語が動いていくということが確認できた。今作では特にウルフが事件についてや自分のスタンスについて演説する場面が多く、ウルフの特徴をつかみやすい作品ともいえよう。

 事件はソースの味ききを料理長たちが行っている最中に起こる。そのなかでひとり、解答の多くを間違えた料理長が容疑者としてとらわれることとなる。ウルフは今後の予定がいろいろと詰まっており、ホテルにずっといられるわけではないので、探偵役を拒むのであるが、結局は事件を引き受けざるを得なくなる。

 殺人事件はひとつだけしか起きないものの、ネロ・ウルフやその周辺を巡って、いろいろと事が起こるために、さほどだれることなく読み進めてゆくことができる。そうして、晩餐会でのウルフによる演説の場面で真犯人が指摘される。まぁ、論理的な指摘というよりも、ウルフの直観を踏まえた緻密な捜査の末の犯人逮捕という感じではある。ただ、それをしっかりと見せ場を作っての犯人逮捕にいたるところはエンターテイメント作品として成功しているのではなかろうか。


シーザーの埋葬   6点

1939年 出版
2004年03月 光文社 光文社文庫

<内容>
 ウルフとアーチーが蘭の品評会に出かけたところ、途中で車が事故にあってしまう。ウルフらは成り行きからその現場の近くに住む、レストラン経営者のプラット家にやっかいになることに。しかし、その家では騒動が持ち上がっており、全米のチャンピオンに輝いたシーザーという名の牛を食べるか食べないかでもめているのだという。その騒動のなか一人の青年の死体が発見されることになり・・・・・・

<感想>
 ネロ・ウルフの作品はこれで5冊くらい読んだのではないだろうか。それらの作品によるとウルフは通常自分の家から出ることはほとんどなく、どこかへ出かけるということは余程の例外ということになっている。しかし、訳されている本の中では結構ウルフが外に出かける率が高いような気がする。もっと多くの本を訳してもらって、どっしりと構えたウルフの様子を見たいものだが、外へ出て慌てふためくウルフの様子もなかなかコミカルでよいのかもしれない(もっとも、動きがある内容だからこそ率先して訳されるのだろうけれども)。

 タイトルは“シーザーの埋葬”と仰々しいものが付けられ、読む前は重い内容なのかと思ったのだが、当の“シーザー”は牛のこと。さすがにウルフが牛に追っかけられたりという場面まではないにしろ、そこそこユーモアにあふれ、楽しめる内容となっていた。

 また、本書は色物としてみるだけではなく、推理小説としてもなかなかの水準であると感じられた。特にウルフが物語中盤にて依頼主に推理を披露する場面では、事件が起きたときに何気に伏線がはられていて、なおかつそれをウルフが事細かに観察していたという事が見て取れるようになっている。そしてラストにおいてのウルフが真相を述べる部分においての出来栄えについてはもはや語るまでも無い事であろうと思う。

 コミカルでありながらも、しっかりと推理小説している内容となっており、全体的にバランスのとれたミステリーとなっている。なかなかの佳作ではないだろうか。


我が屍を乗り越えよ   5.5点

1940年 出版
1958年10月 早川書房 ハヤカワミステリ439

<内容>
 ネロ・ウルフのもとに現れた依頼人は、とある人物が宝石泥棒の罪をきせられて困っていると。しかもその罪をきせられた女はウルフの娘だというのである。実際、ウルフは過去にとある事情により少女を養子に迎えたことがあるという。さっそくアーチーは現場に向かい、事件を調べようとするのであるが・・・・・・事件はいつの間にか殺人事件へと発展し、さらには国家間の陰謀にまで・・・・・・

<感想>
 相変わらず、他の作品では読めないような独特の雰囲気が漂っているなと痛感させられる。安楽椅子探偵として名高いネロ・ウルフであるが、今作では特にそれを感じさせられる。一応、助手のアーチーが外へ出て活躍する場面もそれなりにあるのだが、今回はウルフの事務所で場面がほとんどというような感覚であった。

 今回はなんとウルフの娘が現れるというもの。ただし、あくまでも過去にひとりの少女を養子にしたということであり、ウルフ自身もその子と長い間会っておらず顔すらわからないという状況。そうしたなか、その娘と名乗るものがいざこざに巻き込まれ、事態を打開すべくウルフが知恵を絞ることとなる。

 今回の作品は決して面白い内容とは言えない。何しろ殺人は起こるものの、通常のミステリ的なものではなく、陰謀が張り巡らされたスパイ小説のような背景のもとで起こっている。といっても、そのスパイ的な背景がたいして語られるわけではなく、なんとなく読者はクレイマー警部と同様、おいてけぼりにされているようにも感じられてしまう。

 そんな内容でも最後にはびっくりするような大団円が待ち受けており、この作品らしい締め方がなされている。ネロ・ウルフを堪能できるシリーズ小説としてはよいのかもしれない。あと、古い作品であったので、読みにくくて苦労した。


アルファベット・ヒックス   5点

1941年 出版
2005年10月 論創社 論創海外ミステリ30

<内容>
 元は弁護士でありながら、資格を剥奪され、現在ではタクシーの運転手を生業とするアルファベット・ヒックス。しかし、その当時の事件により有名人となったせいか、人々に名前を覚えられ、今回の事件のように突然仕事を依頼されることがある。その依頼とは、夫から産業スパイの疑いをかけられた夫人が潔白を証明してもらいたいというもの。事件に乗り出したヒックスであったのだが、やがて殺人事件へと発展していくことに・・・・・・

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<感想>
 意味深なタイトルだなと思っていたのだが、何のことはない、ただ単に主人公の名前であった。本書はネロ・ウルフのシリーズで有名なレックス・スタウトのノン・シリーズ作品である。

 読みながら感じたのは、この主人公のアルファベット・ヒックスは頭脳明晰な人物という設定になっているのだが、ちっともそうは思えないということ。むしろ事件の最中にヘマをしているというか、何もしていないというか、あまり賢くないという印象しか残らなかった。

 そういう主人公の人物造形を除けば、あとは普通の産業スパイ・サスペンスというものが残るだけ。こちらの物語はただ単に平凡な内容のもの。本書では録音に関する証拠と言うのがやたらと重視されているようであるが、現代においてこの作品を読んでもあまりピンとこない。しかし、よく考えれば今から60年以上前に書かれている本ゆえに、その当時では最新テクノロジーを駆使して描いた作品という事になるのだろう。

 こうした録音という機能を用いたミステリ作品はいくつかあるが、こういったものは現代においては理解されにくい小説である気がする。


ネロ・ウルフ対FBI   6点

1965年 出版
2004年02月 光文社 光文社文庫

<内容>
 探偵ネロ・ウルフと助手アーチー・グッドウィンの元に大富豪の未亡人が訪れた。その未亡人の依頼内容とは、彼女がFBIの内幕を暴いた「だれも知らないFBI」という本を買い込み、多くの人に送ったことが発端だという。その出来事により、彼女は当のFBIから日々嫌がらせを受けているというのだ。その嫌がらせというのは、執拗に続くあからさまな尾行や盗聴などである。難解な依頼ながらも、結局ウルフは提示された莫大な額の報酬のこともあり、引き受けてしまうことに。しかし、その依頼を達成するためにFBIを夫人から遠ざける方法などがあるのだろうか!?

<感想>
 ネロ・ウルフシリーズというと、“本格ミステリー”というふうにとらえていたのだが、このようなドタバタコメディ調の作品もあるのかと本書を読んで感心してしまった。一般にネロ・ウルフシリーズを広めるためには、こういう作品を前面に出したほうがいいのかもしれない。本書はユーモア・ミステリーの書として、なかなかの傑作であろうと思われる。

 FBIとの対決というよりも、FBIが何を狙っているのか、またはFBIの弱みを握れないか、ということの調査を前提として物語が進んでゆく。話としてはうまくできすぎの感もあるのだが、全体的によくできていると感心してしまう。

 なんといっても本書で圧巻なのが、FBIや依頼人に対してのネロ・ウルフによる駆け引きであろう。FBIに関わる事件を調べ、FBIにとっても他のものにとっても決して損にはならないような解決の仕方を提示することにより、万事丸く治めてしまう(それとなくFBIに恥をかかせたりもするのだが)。その手腕は出来すぎといって良いくらいである。これはネロ・ウルフに対する興味がさらにわく一冊であった。さらなる新訳、未訳作品の刊行を希望したい。


ネロ・ウルフ最後の事件   5.5点

1975年 出版
1984年09月 早川書房 ハヤカワ文庫

<内容>
 深夜、ネロ・ウルフのもとに馴染みの給仕が訪ねてくる。命を狙われているのでネロ・ウルフに会わせてもらいたいと。対応したアーチー・グッドウィンは、とりあえず、ウルフの屋敷に泊まり、明日の朝、詳細をウルフに話してもらいたいと話をつける。そして、給仕が部屋に入り、アーチーが休もうとしたとき、大音響が! なんと給仕は、何者かにより忍ばされた爆弾により、爆死させられてしまったのだ!! 自分の屋敷で殺人が行われたことに憤りを覚えたウルフは、さっそく事件の調査に乗り出すのであったが・・・・・・

<感想>
“最後の事件”という題名ではあるものの、これでネロ・ウルフの探偵活動が終幕という内容ではない。あくまでも、この作品が出版された年に著者が病気により亡くなったという事で、図らずも遺作となってしまったということ。ちなみに原題は「A Family Affair」。

 今作での事件は、ウルフに助けを求めに来た顔見知りの給仕が、ウルフの屋敷内で爆死してしまうというショッキングなもの。ウルフとアーチー・グッドウィンは、自分たちの面前で行われた事件に対し、積極的に取り組むこととなる。

 なんとなく、ミステリ小説というよりは、スパイ小説のような様相。誰がいったい、どのような理由で犯行を行ったのかをアーチーらが明らかにしようとする。ただ、この作品で読んでいて大変だったのは、登場人物の多さ。それも重要な人物ではなく、ちょこっと登場するだけの者が多いこと。しかも、そのちょこっとだけしか出ない者であっても、読んでいる最中は重要な容疑者なのか、そうでないのかわからないので、内容を把握していくのがなかなか困難であった。

 また、今作のもうひとつの特徴たるものは、事件に対するウルフのスタンス。最初、いつになく事件に対して乗り気であったウルフが徐々にトーンダウンしていき、存在感が薄くなってゆくこととなる。その理由が、実は原題のタイトルに表れていたりする。最初にこの作品はあくまでもウルフのとっての“最後の事件”となるものではない、と言ったが、ウルフやアーチーのとって大きな分岐点となる事件ではあるのだ。できれば、この事件の次に彼らがどのような形で挑んでいくのかが気になっていたのだが、これが遺作となってしまったのでそれがかなわないのが残念である。シリーズを通して読んできた人にとっては、大きな印象を残す作品ではないだろうか。


黒い蘭   ネロ・ウルフの事件簿   6点

2014年09月 論創社 論創海外ミステリ130

<内容>
 「黒い蘭」
 「献花無用」
 「ニセモノは殺人のはじまり」

 「ネロ・ウルフはなぜ蘭が好きか(アーチー・グッドウィン)」

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<感想>
 ネロ・ウルフとその助手であるアーチー・グッドウィンの活躍を描いた中編集。

「黒い蘭」では、蘭が展示されたフラワーショーの最中に殺人事件が起こるというもの。事件の解決云々よりも、その前段階でウルフが珍しい蘭を手に入れるための交渉のほうが目を惹かれてしまう。

「献花無用」は、ウルフ行きつけのレストランのオーナーから頼まれて、殺人事件の容疑者となった男の無実を明かすというもの。企業家の一族を巡る事件に挑むという内容。

「ニセモノは殺人のはじまり」は、偽札を巡る殺人事件にウルフとアーチーが巻き込まれてゆく事件。4人の容疑者のなかからウルフが犯人を特定する。ハッティー・アニスとう老嬢が強烈な印象を残す。

「ネロ・ウルフはなぜ蘭が好きか」は、アーチー・グッドウィンを語り手としたエッセイのような内容。

 安楽椅子探偵のネロ・ウルフが活躍する3つの事件が描かれている。ただ、安楽椅子探偵といいつつも、容疑者たちがそれぞれウルフの前に姿を現し、その様子を見てウルフが犯行を確信したりするので、あまり安楽椅子探偵というような感触ではなかった。それぞれの事件が、それなりにうまく出来ていると思えるのだが、何故か全編読みにくいと感じられた。このへんは訳のせいなのか、元々の本文のせいなのかはよくわからない。また、それぞれ中編の割にはどれも登場人物が多くて、内容を把握しにくいところも微妙なところ。せめて、作品ごとに登場人物表を付けてもらいたかった。

 ネロ・ウルフの活躍を描いた作品集としてはよいのだが、中編と言っても気楽に読めるという内容ではなく、じっくりと腰を据えて取り組んだほうがよさそうな作品集。読み応えは十分にあると思えるので、登場人物をしっかりと把握しながら、時間をかけて読んでもらいたい作品。


ようこそ、死のパーティーへ   ネロ・ウルフの事件簿   6点

2015年10月 論創社 論創海外ミステリ158

<内容>
 「ようこそ、死のパーティーへ」
 「翼の生えた銃」
 「『ダズル・ダン』殺害事件」

 「ウルフの食通レシピ」

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<感想>
 ネロ・ウルフの中編作品集第2弾。ネロ・ウルフに関してであるが、安楽椅子探偵ということで有名ではあるのだが、今まで作品を読んでいても、ただ単に身動きがとれないというくらいで、いまいち安楽椅子探偵らしさが欠けていたように感じていた。しかし、この作品ではネロ・ウルフの安楽椅子探偵らしさが存分に表れており、さらには一番推理小説らしい作品集として仕立て上げられている。

「ようこそ、死のパーティーへ」は、脅迫の手紙が届けられ、そこから破傷風を用いた殺人事件へと発展していくもの。最終的に暴かれる犯人も意外であり、動機も意外。読んでいる最中は、その真相について全く読み取れないものの、明かされてみるとなるほどとうなずける。ある種、ミスリーディングをうまく張り巡らせた作品といえるのかもしれない。

「翼の生えた銃」は、エドワード・D・ホックが書きそうな不可能犯罪を描いたもの。凶器である銃が消えたり現れたりする。真相が解明されると、実はトリックというほどではないものの、これまたうまく描かれた作品だと思われる。犯人がどのようにして犯行を成しえたのか? ウルフが現場の状況を再現しながら鮮やかに解き明かす。

「『ダズル・ダン』殺害事件」は、アーチー・グッドウィンの銃が利用されて犯行が行われるというもの。絶妙なタイミングでアーチーの銃が利用され、アーチー自身が容疑者とされてしまう。危うく、ウルフの探偵免許が取り上げられそうになり、ウルフも気合を入れて真相解明に臨む。犯人や周辺の人物の心理的な面から真相を解き明かす手法が絶妙。状況証拠が整わない中で、ウルフが抜群の冴えを見せる推理と言えよう。


アーチー・グッドウィン少佐編   ネロ・ウルフの事件簿   6.5点

2016年10月 論創社 論創海外ミステリ182

<内容>
 「死にそこねた死体」
 「ブービートラップ」
 「急募、身代わり」
 「この世を去る前に」

 「ウルフとアーチーの肖像」

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<感想>
 アーチーが軍属していた時代の話。といっても、軍属から離れて、結局ウルフの世話をしなければならなくなるので、基本的な話の流れは変わらない。今作は100ページ前後の中編4本となかなかのボリューム。どの作品も読み応えがあって、よくぞ今までこうしたウルフの短編(もしくは中編)作品が世に出なかったなと不思議に思ってしまうほど。さらには、こうした作品がまだまだあるようなので、引き続き“ネロ・ウルフの事件簿”は続いてゆくこととなるであろう。

「死にそこねた死体」では、軍からの要請を断るウルフに対し、アーチーが説得に行くというもの。アーチーが久々にウルフと会うことになるが、なんと当のウルフは美食を辞めダイエット中というシリーズ屈指の大事件が起きている。何しろ、あのウルフが外でランニングまでしているのだから・・・・・・。
 ウルフを復活させるためにアーチーが無理やり関係者から事件らしきものを引っ張ってくることになる。最初はちょっとした事件のように思えたものが、予想だにしなかった殺人事件を引き起こすこととなる。これは、事件の真相もなかなか驚かされるものであるのだが、それよりも事件を無為に引き起こした者たちの責任云々のほうが重いような気がしてならない。

「ブービートラップ」は、ようやく軍のためにウルフが重い腰をあげるものの、事件の依頼者がトラップに引っかかって爆死してしまう。それに対して、ウルフは犯人に対して罠を仕掛け、その反応によって真犯人を指摘する。心理的なサスペンス小説としてウルフの犯人の追い込み方が秀逸。

「急募、身代わり」は、脅迫状を受け取ったウルフが自分の身代わりを募集し、実際に影武者を配置するというもの。しかし、その状況でも犯人の魔の手は伸びてくることとなる。意外な真相というほどではないものの、真犯人の計略がなかなかのもの。読み直してみると、真犯人に対してのそれなりの伏線がきちんと張られていたりする。

「この世を去る前に」は、遺産相続に関するギャングの抗争に巻き込まれる事件。アーチーとウルフの近辺で実際に血生臭い殺人事件が起こることとなる。ただ、消去法でいくと犯人らしき人物がひとりしか残っていないように感じられてしまうのが残念なところか。銃撃戦が繰り広げられるところから、シリーズ異色の作品という感じ。




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