<内容>
ビーコン街の富豪、サットンの屋敷のパーティに招待された弁護士のアンダーウッド。サットンの家族や、ボストンの名士であるミセス・アーンセニイら少人数が集まったパーティーであったが、サットンの人柄のせいか、どこか不愉快な印象のパーティーであった。なんとか、パーティーから抜け出る事ができたアンダーウッドであったが、お気に入りのステッキを忘れ、あわてて取りに戻ることに。すると悲鳴が聞こえ、サットンの部屋へと駆けつけると、そこには死体になったサットンとその側に立つミセス・アーンセニイの姿が・・・・・・
<感想>
地味な印象の事件が、地味な展開のまま続けられてゆく。とはいえ、事件そのものは一見不可能犯罪のようであり、見せ方によってはもっと興味深いものとなったように思える。しかし、著者はそこに主題を置かず、不可能犯罪のような状況については、あっさりと解決させてしまっている。どうやら著者は動機の面や、犯人の心理的な状況に主観を起きたかったらしいと考えられる。
一応、犯人がわかったうえで事件を再構築してみれば、実は水面下で犯人と警察側との駆け引きが行われていた事がわかる。しかし、そうした部分もわかりやすいものであるとは決していえない。もう少し全体的に著者の意図がわかりやすく感じられる構成であったら、作品に対する印象も変わっていたのではないかと思われる。
本書は探偵小説というよりはサスペンス的な内容のように感じられた。にもかかわらず、物語の主点が常に警察側にあり、形式としては探偵小説として語られているというところがぎくしゃくしているようにとらえられるのである。別の人物を主人公に添えて、サスペンスタッチで物語を進行してくれたほうがわかりやすいミステリに仕上げられたのではないだろうか。
<内容>
クインシー夫妻の屋敷には多くの間借人がおり、そのうちのひとりアーサー・ブレンダーガストが取り乱し、警察沙汰になった。その後、ブレンダーガストは自らが予言したかのように何者かに殺害されることに。ボストン警察のノートン・ケイン警視は、屋敷に住む者の中に犯人はいるとみなし、捜査を進めるがさらなる殺人事件が起こることとなり・・・・・・
<感想>
不思議な雰囲気の本格推理小説。屋敷に住む限られた間借人のなかから真犯人をあぶりだすというもの。物語の途中で、犯人らしき人物が指摘されるのだが、当然のことながらそこですぐに解決には至らず、そこからさらなる捜査が行われてゆく。
本書の特徴は、動機なき殺人に見えるところ。最初に殺人が起きた後、さらなる殺人が起こるのだが、後から起きた殺人は真犯人の鍵を握ったとみなされたがため。ただ、最初に殺害された人物に対しては、誰が何故殺人を犯さなければならなかったのかが不明。それは真犯人指摘後に明らかとなるのだが、これがなかなか印象的なもの。
読み終えると、サスペンス系の推理小説のような印象が残るものの、実はきちんと伏線をたて、解決の根拠も筋立てた本格推理小説となっている。本書に対する評価としては佳作というくらいではあるが、本格コードをふんだんに備えた、しっかりと作られた推理小説である。
<内容>
隠遁した大富豪マーティン・グリーノウには、五人の甥と姪がいた。五人は、財産を持つマーティンに縛られつつ、その気まぐれな動向に振り回されていた。そして、今回もマーティンによって呼び出されることとなった甥と姪たち。さらには、その甥と姪たちもそれぞれ厄介な事情を抱え、マーティンと相対することとなる。そうしたなか、殺人事件が起こることとなり・・・・・・
<感想>
ロジャー・スカーレットが描く、ケイン警部が活躍するシリーズ作品(といっても全5冊)。この新樹社から出ていた作品を見逃していたので、入手して読んでみることとした。
雰囲気としては非常にミステリ作品らしい物語。金持ちの叔父と5人の甥と姪。姪は叔父と仲が悪く顔もださない。甥のひとりは、妻の万引き癖に悩んでいる。甥のひとりは、叔父が気に入らない女と婚約し、しかもその女は以前別の甥と婚約していた。さらに甥のひとりはギャンブル好き。こうした背景の中で、叔父がある発表をしたことを境に、殺人事件へと発展することに。
その殺人事件が起こるまでの人間関係の描写が重要ではあるのだが、その部分が長く、やや退屈。ただし事件が起きてからは、だいぶ読みやすくなる。しかも、その前半の人間関係の真実が後半になって明らかになってくるように描かれているので、益々前半の重要性が増してくることとなる。
最終的に真犯人が明かされればなるほどとなるのだが、あまりフェアではなかったような。重要な証拠が最後の最後で明らかになったりするので。ただし、論理的な部分を除き、登場人物の心理的な部分を描くミステリという面では優れていると感心させられた。全体的に見ればやや退屈なミステリともいえるかもしれないが、埋もれつつある本格ミステリの一冊という事でミステリマニアは必見。
<内容>
エンジェル家の館は“Lの字”を逆転させた形をしており、その館を二分して双子の兄弟が当主としてそれぞれの家庭を気づき上げていた。双子の父親の遺言により、どちらか生き残ったほうに全ての遺産は分配され、先に当主が死んだ方の家族には何も残されないこととなっていた。そうしたなか、自分の死が近いことを感じたダライアス・エンジェルは、弁護士に相続の変更を行うことを相談する。もちろん双子の弟のキャロラスもそれに同意しなければ意味がないのだが、キャロラスの方は渋ってその変更に従おうとはしなかった。そうした諍いが起こるなか、キャロラスが何者かに殺害されるという事件が起きることに! さらには、別の殺人事件も起き・・・・・・
<感想>
ロジャー・スカーレットが何故日本である程度名を知られているかといえば、この「エンジェル家の殺人」が江戸川乱歩によって「三角館の殺人」として日本で書き改められたことによるであろう。この「三角館の殺人」、乱歩の作品のなかでも結構好きな作品であったので、乱歩オリジナルの作品ではないという事を知った時はびっくりしたものだ。
そしてようやく本家の「エンジェル家の殺人」を読むこととなったのであるが、全体を通して細々としたところがわかりにくいと感じられた。「三角館〜」を知っているゆえに、大筋についてはわかっているので、私自身はおおむね理解できたのだが、これを始めて読む人にとってはわかりづらいミステリとなってしまうのではなかろうか。
ただ、それが駄作かというとそんなことはなく、エレベーター内の密室殺人や、意外性のある動機など見どころは多数。ひょっとすると乱歩もそのわかりづらさを惜しいと思い、自ら読みやすい作品として書き改めたのではないかと考えてしまう。
ロジャー・スカーレットという人(二人の女流作家による合作)は、本国ではさほど有名ではないらしいが、それが今日本では5冊の長編全てが翻訳されているということも面白い。ただ、そういったところから考えても、やはりマニアックな作家であるということは確かなのであろうなぁと。
<内容>
療養していたケイン警視の元にひとりの男がやってきた。ジョン・ファラデーと名乗る男はケインに助けを求めてきたのであった。なんでも彼の友人のアーロン・ローリングという邸の主人が家族達に命を狙われているというのである。しかし、その証言に特に根拠がないと思えたケインは男を追い返すことに。するとケインの元に届いた小包の中から当のローリング邸の主人から助けを求めるメモが入っていたのである。ケインはそのローリング邸へと単身乗り込むことになったのだが・・・・・・
<感想>
論創海外ミステリでようやく“これだ”という作品が登場した。それこそがこの本、「ローリング邸の殺人」である。
ひとつの邸の中で起こる殺人劇。そこに住む人々の様相は複雑であり、主人公のケイン警視が調べていっても、彼らの互いの言葉にはどうもつじつまが合わない。そして、起こった殺人事件に対する見えてこない動機。こういった状況で、読んでいる最中は混迷極まりないという感じなのだが、それが最後の最後で真相が明かされると、もやもやしていたものが一気に取り払われる。そして、今までの登場人物らの不可解な言動に全て説明が付き、納得させられる事となるのである。
いや、これは論創海外ミステリの中では初めて真の本格推理小説を読ませてもらったと言っても過言ではないだろう。これは年末のベスト10に載ってもおかしくないほどのできである。これを読んでしまうと是非ともロジャー・スカーレットの作品を全て復刊してもらいたいと思わずにはいられなくなる。