<内容>
スコットランドの長閑な田舎町で嫌われ者の画家の死体が発見された。画業に夢中になって崖から転落したとおぼしき状況だったが、ピーター卿はこれが巧妙な偽装殺人であることを看破する。怪しげな六人の容疑者から貴族探偵が目指すのは誰?
<感想>
現場にないあるものの所在や容疑者達の振る舞い、性格から犯人のめどをつけるとことはなかなかのもの。しかしアリバイ崩しの部分についてはあまり好きになれない。もともと電車などを使用したアリバイ崩しは好きではない。今回も容疑者六人のアリバイを検証するのは複雑で混乱してしまった。それに結局アリバイ崩しというのはどうもつじつま合わせに見えてしまう。なんとなく無理やりひねり出せば他の五人についてもつじつまをあわせることができるのではないだろうかと思ってしまう。であるからアリバイ崩しをメインとして容疑者の行動を追っていくという内容で500ページ近くある長さというのは読了するのが自分にとってたいへんであった。
しかし外国の田舎町の六人の画家という設定であるが最後まで六人の人物像が判別しきれず、六人全員が同じような容姿(実際にはまったく異なるよう記述されているのだが)という印象のままであった。
<内容>
探偵作家ハリエット・ヴェインは徒歩旅行の道中、波打ち際にそびえる岩の上で、喉を掻ききられた男の死体を発見した。そばにはひと振りの剃刀、しかも見渡す限り、砂浜には当人のものらしき足跡しか印されていない。やがて死体は満潮に乗って海に消え、罪体を欠いた捜査陣は難儀を強いられることになる。
被害者と思われる自称、ロシア皇族の血を継ぐという青年アレクシス。その婚約者でアレクシスとはかなり年の離れた老女、フローラ。その息子で財産を取られまいとするヘンリー。近隣を放浪する、渡り床屋ブライト。ハリエットが事件を知らせに警察に行く途中に出会った旅行者。ハリエットが死体を発見したときに海に出ていた漁師。近隣から脱走した馬の存在。さまざまな思惑がアレクシス青年を取り巻いていた中で、不可能犯罪はどのように行われたのか?
ピーター・ウィムジイ卿を悩ます、怪事件の真相とはいったい!?
<感想>
やけに地道な捜査をしている。まるで警察小説かのように。明るみに出たひとつひとつをしらみつぶしに捜査し、そしてじわじわと犯行の方法を明らかにしていくという内容。探偵が出ているのならば、もう少し推理して絞り込んだらどうだろうか?といいたくなってしまう。それもこれもバンターの活躍が少なかったから、捜査が立ち行かなかったのでは?やはりバンターはウィムジイ卿の側にいるべきなのだろう。
この物語はさる登場人物の一言に集約されていると思う。「初めから関わり合ってなかったなかったら、何というか、到底信じる気になれんような話しで」と。
確かに、細かす捜査をしている分、それなりに納得のいく結末となっている。巧妙に計算されてプロットが練りこまれているのは見事なものである。
<内容>
火曜日のピム広報社は賑わしい。広告主が週会議に訪れ、数々の爆弾を落としていくからだ。ことに厄介なのが金曜掲載の二段抜き半ページ広告。このときばかりは強者揃いの文案部も鼻面を引き回される。変わり者の新人文案家が入社してきたのは、その火曜日のことだった。前任者の不審な死について捜査を始めた彼は社内を混乱の巷に陥れるが・・・・・・
<感想>
この作品は通常のピーター・ウィムジイ卿ものというよりは、外伝的な作品として読んだほうが良いだろう。内容は確かにミステリーなのだが、決して探偵小説とはいえないと思う。どちらかというとまだスパイ的な要素があり、“ピーター・ウィムジイ卿の冒険”とでも銘うったほうが良いような仕上がりである。ピーター卿のファンであれば、まぁそれなりに面白く読めるのであるが、そうでなければ単なるサスペンス小説と変わりないように感じられるに違いない。
<内容>
冬将軍の去った東アングリアの小村に、弔いの鐘が響き渡った。九告鐘(ナイン・テイラーズ)、病気がちな赤屋敷の当主が逝ったのだ。故人の希望は亡き妻と同じ墓に葬られること。だがいざ掘り返してみると、奇怪なことに土中からもう一体、見知らぬ死骸が発見される。死因は不明。遺憾な事態のさなかにあって、教会を守る老牧師の脳裏に甦ったのは、去る年の瀬、偶然から交歓を持った貴族探偵ピーター卿の姿だった!
<感想>
まず先この本の訳者にごくろうさまと思わず言いたくなってしまう。もともとセイヤーズの著書というのは他の本などからの引用を用いた文章が多く、それらの注釈をみているだけでも訳が困難であろうということがうかがえる。そしてさらに本書では教会の鐘という日本では全くといっていいほど知られていない事柄がメインとして描かれているために(しかも鐘の名前が人のようであったり、娘とか呼ばれたり)それを調べるだけでも大変であっただろう。まさしくお疲れ様としかいいようがない。
そして物語はというと、事件自体はそれほど複雑ではないものを逆にピーター卿や村の人々によってややこしくさせられているような気がしないでもない。
概要を簡単に述べてしまえば、村の墓の中から現れた身元不明の死体はいったい誰なのか? ということと、その身元不明の主を殺したのは誰か? ということになる。ただし、それが昔に村で起きた首飾りの盗難事件とからんできて話は少々複雑になる。当時の盗難事件の犯人は一人は死亡、一人は逮捕されている。しかし首飾りの行方はいまだわかっていない。よって、身元不明の死体の事件はその首飾りの行方を追って、ということにより生じたのではないかという考え方により捜査が進められていく。
正直いって、話の進められ方は非常に地味である。結局のところ事件自体も地味といえよう。多くの人々が出てくるゆえに少々事件の概要を捉えにくい部分もあるのだが、よくよく考えてみるとさほど複雑なものではない。
ではこれ単なるは凡作なのかというとそんなことはない。ラストで明かされるトリックに遭遇したときには、「あぁ、なるほど!」としか言いようのない感嘆にうたれること間違いない。なるほど、この作品はこれが書きたかったのかということを誰しもが必ず納得させられることであろう。本書も推理小説において名作の名にふさわしい一冊であるということに間違いない。
<内容>
作家のハリエット・ヴェインは母校であるオクスフォード大学の学寮祭に出席した。その夜に彼女は学内で奇妙な絵柄の紙切れを見つけるのだが、そのときはそれが事件の始まりであるとは気がつかなかった。
その後ハリエットは母校の旧友から学内で奇妙な事件が立て続けに起きているのでその事件を捜査してもらいたいと依頼されることに。ハリエットは事件に乗り出すことになるのだが・・・・・・
<感想>
セイヤーズ女史のピーター・ウィムジイ卿のシリーズは巻を追うごとに分厚くなってゆくのだがこれはその最たるものといえよう。しかしながら、その分厚さに反してミステリーとしての内容は薄く、ある意味長大なラブロマンスが描かれていると言っても過言ではあるまい。
本書のミステリーとしてのテーマは女子大校内において誰が悪質ないたずらを行い続けているのか、その犯人を当てるというもの。しかし、長いページの作品の中で最後の最後まで犯人の特定どころか検討をつけることもできないことからもミステリーの出来としてはどうかと思う。それほど引き伸ばして書かれるようなネタでもないと感じるのだが。
そして本書のメインテーマというべきものは、ハリエットとピーター卿の二人の関係についての行方であろう。本書ではハリエットが主人公となって事件が語られているので、ハリエットの心情が全編にわたって描かれている。よって二人の恋愛模様が描かれている作品というしかもはや言いようがない。
結局のところ、この作品はハリエットとピーター卿をくっつけるための作品であると言い切ってよいであろう。まぁ、シリーズの話の流れの中での重要な位置をしめる一作ということで。
<内容>
5年越しの恋が実り、ピーター・ウィムジー卿は、ついにハリエット・ヴェインと結婚することとなった。二人は、かつてハリエット住んでいた村の屋敷を買い取り、そこでハネムーンを過ごすこととしていた。執事のバンターと共に屋敷へ行くと、ウィムジーに屋敷を売った、前の主人ウィリアム・ノークスの姿は見られず、屋敷は手つかずで荒れたまま。地元の人を雇い、屋敷を掃除しているさなか、地下室から行方不明となっていたウィリアム・ノークスの死体が発見されることに! ハネムーンにも関わらず、事件に関わることとなったウィムジー卿とハリエットであったが・・・・・・
<感想>
ピーター・ウィムジー卿のシリーズの最終巻であり、セイヤーズが書いた最後の長編でもある作品。ようやくウィムジー卿とハリエットが結婚することとなるのだが、せっかくのハネムーンなのに死体に遭遇することとなり、新婚早々事件捜査に関わることとなる。
セイヤーズの後半の作品はどれも長大な作品となり、冗長で読むのも一苦労。本書もそれに負けず劣らずといったところであり、事件に遭遇するまでが長い。長さを問題外とするのであれば、意外と普通に本格ミステリ風の展開となっているなと思われる内容。ゆったりとかまえて読んでゆけば、それなりに楽しめるミステリ作品と言えよう。
また本書での注目点は、ウィムジー卿の探偵としての矜持が描かれているところ。探偵活動をするうえで、それをハリエットと話し合いながら行ってゆくところは読み応えがある。ただ単に事件を解決するだけではなく、その後の加害者に対する思いやりと、ウィムジー卿の苦悩までもが描かれている。
事件解決後、“祝婚歌”という章題で長めのエピローグが描かれている。そこにはウィムジー卿とバンターとの出会いと馴れ初めが描かれており、シリーズを通して読んできたものは読み逃せないものとなっている。最後の最後のエピローグによってウィムジー卿に関する色々なことが明らかにされたという感じであった。
この作品に関しては、実は読む前はハネムーンの様子が描かれているばかりで大した内容ではないのだろうと高をくくっていた。しかし、読んでみたらミステリとしてもシリーズ作品としても、様々な読みどころがあり、これはもっと早く読んでおいてもよかったなと反省している。シリーズを通して読んできたものとしては、ただただ、ウィムジー夫妻とバンターの3人に幸あれと願うばかり。
<内容>
ピーター・ウィムジー卿が登場する短編全二十一編の中から、秀作七編を選んで収録したもの。
「鏡の映像」
「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」
「盗まれた胃袋」
「完全アリバイ」
「銅の指を持つ男の悲惨な話」
「幽霊に憑かれた巡査」
「不和の種、小さな村のメロドラマ」
<感想>
ピーター卿が登場する短編であるが、事件簿というよりは珍事件とでもいうべき変わった様相の事件ばかりが集められているような気がする。
「鏡の映像」
では自分の記憶が定かではない男の心臓の位置が逆になるという事件なのだが・・・・・・このネタはどうだろう。こういうトリックは他にも用いられたことはあると思うのだが、今現在では使えないトリックだろうな。
「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」
これは田舎に移り住んできた病気の妻とそれを献身的に看病する夫の話であるはずが・・・・・・というものであり、ピーター卿の活躍にて物語りはある結末を迎える。これはもう、トリックとかいうよりは科学的ホラー綺譚とでもいったところか。最終的にはラブロマンス路線に落ち着いている。
「盗まれた胃袋」
これは謎というよりは、奇妙な、いや変な話といったところか。読んでいるほうが何でと訪ねたくなる死者の行動がおもしろいといえばおもしろいのかも。
「完全アリバイ」
これはアリバイトリックである。一言でも語ってしまうと犯人がわかってしまいそうなのでいえない。
「銅の指を持つ男の悲惨な話」
これは怪奇色の強い話といっていいだろう。男たちは魅入られたゆえにといったところか。
「幽霊に憑かれた巡査」
これも綺譚である。巡査がかわいそうの一言。
「不和の種、小さな村のメロドラマ」
これが一番ミステリー仕立てになっている作品である。頭のない馬に乗る、頭のない御者。その死の馬車を見たとき村に何かが起こる。兄弟を巡る遺産相続の話であるが、その兄弟たちの争う様子がなかなかいい味をだしている。
全編を通してみると、副題ともなっている“シャーロック・ホームズのライヴァルたち”というものにふさわしい内容となっている。ただし、本書での作品はシャーロック・ホームズの作品における怪奇的な作品よりのものが集められているという印象である。論理的な解決手法はとっていないものの、それでもなかなか楽しませてくれる短編集であった。
余談ではあるが、なぜか表紙の挿絵は本編に載っていない短編の1シーンであったりする。
<内容>
「顔のない男」
「因業じじいの遺言」
「ジョーカーの使い道」
「趣味の問題」
「白のクイーン」
「証拠に歯向かって」
「歩く塔」
「ジュリア・ウォレス殺し」
「探偵小説論」
<感想>
すでに出版されている「ピーター卿の事件簿」のほうが精選された作品集なので、“その他”という印象が残ってしまう作品集。一応、もう一冊の短編集を出して全集という予定だそうだが、未だ第三集は出ていない。といっても、2冊目の短編集が出るまで20年以上かかっているので、10年以上第三集が出ていないからと言って不思議ではないのかもしれない。
「顔のない男」は、文字通り海岸で顔を切り刻まれた男の死体が発見されるという事件。ピーター卿によるシャーロック・ホームズばりの活躍が見られるのかと思いきや、ストレートに終わらないのが、この短編の特徴。なんとなく探偵に対する皮肉が込められているかのような内容にもとらえることができる。
「因業じじいの遺言」は、大がかりなクロスワードパズルを解いて、財産のありかを見つけ出すというもの。このような性格の親類を持ちたいとは思わないが、こうした大がかりな謎を作ってくれる親類がいたら人生が楽しそうである。
「ジョーカーの使い道」は、詐欺師っぽい作品。しかも当のピーター卿がカードによるいかさまを働くというもの。探偵小説としては異色作。
「趣味の問題」では、二人のピーター卿を名乗る者が現れて、どちらが本物かを当てるという内容。ワインの利き酒によるというところが、ピーター卿にふさわしい。
「白のクイーン」は、ある種のアリバイトリックもの。図面入りで事件の様相があらわされている。真相は単純ではあるけれども、うまく出来ている作品と言えよう。タイトルも大いに意味を持っている。
「証拠に歯向かって」は、焼けた死体の謎をピーター卿が歯医者と共に立ち向かう。普通のストレートなミステリ。推理というよりは、科学的捜査による解決がなされている。
「歩く塔」は、心理的なミステリのようであるが、偶然性のほうが強いと感じられた。塔の夢に関するくだりがいまいち消化しきれなかった。
「ジュリア・ウォレス殺し」は、過去に起きた実際の事件の記録をまとめたもの。
「探偵小説論」は、探偵・怪奇小説の傑作集の序文として書かれたものを掲載。当時の探偵小説について簡潔にまとめられている。