<内容>
奇術師の帽子からウサギやハトが飛び出すように、完全密室の中から摩訶不思議な殺人事件が飛び出した! 真っ暗な部屋の中、各頂点にローソクが妖しくゆらめく五芒星形の模様の真ん中に、神秘学者サバット博士が恐ろしい形相で横たわっていたのだ。そしてその模様のまわりは、不思議な呪文が縁どられていた。奇術師グレイト・マーリニが鮮やかに解き明かす密室殺人。
<感想>
トリックとしては面白い。ただし密室の提示もなかなか興味深いのだが、その間の捜査がなかだれを誘うのが難点。次々とあらわれる登場人物と、いちいち彼らに対するアリバイの確認は話をかえってややこしくさせる。それなりのトリックを用意しているのだから、もう少し見せ方を工夫してもらいたいところ。とは言いつつも、ロースンの作品の中ではすっきりしているほうか。
<内容>
交霊会の調査のためにスケルトン島へと出向いたグレイト・マーリニとその友人のロス・ハート。ロスは、マーリニと合流する前にすでに金貨の詰め込まれたトランクを見つけるという不可解な事件に遭遇していた。彼らが島で発見したものは、スケルトン家当主リンダ・スケルトンの毒殺された死体。しかも彼女は広場恐怖症をわずらっているとうことで、ひとりでこの場所に来るのは不可能だという。そして、発見される天井に付けられた足跡。さらに謎の放火、交霊術、沈没船の宝捜しと、状況が混迷極める中、マーリニは真相を見出すことができるのか!?
<感想>
ロースンは、短編向きの作家なのかな。本格ミステリの書き手として有名なはずのクレイトン・ロースンであるが、長編小説を読むと、どれもパッとしないという印象。こちらの「天井の足跡」も以前読んだのだが、感想をかいていなかったので再読。再び読んでみたものの、あまりにもごちゃごちゃし過ぎて、何が何だかわかりにくいというのが本書に対する感想。
物語の最初から、ミステリの要素となる謎や事件が多すぎる。何の脈絡もなく、語り手のロスが金貨が詰め込まれた鞄を手にしたり、どたばた騒ぎのさなかに死体が発見されたり、かと思えば宝捜しの話になったり、交霊術の話になったり。色々と話が飛び過ぎて、これらひとつひとつの印象が薄いまま。タイトルになっている“天井の足跡”でさえ、さらりと流されてしまう始末。
冷静に物語を見渡してみれば、終盤における解決もそれなりにきちんとしており、ミステリとしては悪くないはず。にも関わらず、評価が低いというのは書き方に問題があるからだろう。ラストの解決も、もっと見せ方を良くすれば印象も変わると思うし、さらに付け加えれば、探偵役のグレイト・マーリニの存在感が薄すぎる。まぁ、著者もそういった点で限界を感じて、4冊しか長編を書かなかったようなのであるが。
<内容>
ウルフ化成会社社長、ダドリ・ウルフはある男から恐喝をされる。ウルフははずみで恐喝者を殴ってしまい、それが元で恐喝者は死んでしまう。事件を隠そうとウルフとウルフ夫人、執事のフィリップス、ハガード博士らは協力して死体を埋めて隠してしまう。
それ以後、ウルフの周りには気味の悪いことがおき始める。そんな中、ウルフの娘ケイと婚約を認めてもらおうとする新聞記者ハートと奇術の講演を援助してもらおうとするマーリニがウルフを訪ねて行ったときに、ウルフらが埋めたはずの死体が皆の前に姿をあらわす。全員が混乱する中銃声が響き渡り、混乱が収まったときにはハートは殴り倒された後、海に投げ捨てられる。そのときウルフは殺害されていた・・・・・・。殺人の嫌疑はハートにかかる。
犯人は蘇った亡霊なのか? 脱出不能の現場からどうやって逃げ出したのか? 難攻不落の謎をマーリニが解く。
<感想>
少々ドタバタが過ぎて混乱してしまう。確かに納得のいく解決は与えられるのであるが、ラストはもっと落ち着いて謎を解いてもらいたかった。どうしても虚偽と真の解決がいりみだれてしまい、混乱してしまう。また、紐解いてみると前半出てきた登場人物が全く重要な役割や伏線としていかされておらず、それも結局は混乱の元となってしまったような気がする。
そして、探偵であるはずのマーリニは位置付けがハートあまり変わりないような気がしてしまい、探偵らしい振る舞いが感じられなかった。グレート・マーリニともあろう者がこれではあまりに・・・・・・。蘇る死体や犯人などもなかなかしっかりした事件となっているので、かえってその周りがしっくりいっていないのは残念だ(ひょっとして翻訳者のせい? それとも年代のせい??)。
<内容>
「過去からよみがえった死」
霊媒師の力により、過去からジル・ド・レイの亡霊がよみがえったという。その亡霊は人間の姿をしながら蝙蝠のような顔を持ち、空を飛び、高いビルの上階の部屋でも自由自在に忍び込むことができる。奇術師ドン・ディアボロに会いにきた女性が「コウモリの鳥小屋」という謎の言葉を残し、息絶える。犯人はいったいどこから侵入し、出て行ったというのか? 警察から疑いの目を向けられることとなったディアボロは警察の前から姿を消し、犯人の正体を暴こうとするのだが・・・・・・
「みえない死」
警察署内にで一人の警察官が誰もいない部屋で銃で撃たれて死亡した。その直後、部屋に入ってきた警部が目には見えない何者かに声をかけられたという。その事件を発端とし、次々と起こる“見えない男”による事件。ドン・ディアボロはその正体を暴くことができるのか!?
<感想>
本格推理小説を読んだというよりは冒険小説を読んだというのに近い雰囲気の内容であった。これはまるでアルセーヌ・ルパンや江戸川乱歩の怪人二十面相ものという感じがした。
話の内容はずばり“奇術師対コウモリ男”と“奇術師対見えない男”という探偵対犯人というよりはむしろ怪人対怪人を描いた作品のよう。思わぬ行動を取る犯人に対して、こちらも周囲を惑わす奇術師がそれに対抗するという形式で描かれている。
また、もうひとつこの作品の特徴となっているのが警察によりドン・ディアボロという人物が胡散臭く思われており、常に犯人の対象となっているところ。普通は警察の協力者として扱われるべき探偵役がこれほど警察からないがしろにされるというミステリ小説もあまりないのではないだろうか。
ミステリに関するトリックというものはそれほどでもないと思われる。というよりは、真相がわかればトリックというよりは、むしろ本当に手品のタネあかしというような感じのする作品となっている。ゆえに、本格ミステリ風であるにもかかわらず、純粋にそのようにとらえにくい雰囲気も抱えている。
まぁ、ジャンルで細かいことをあれこれ言うよりも、ここは素直に“怪人対怪人”の妙技が繰り広げられる冒険譚を楽しんでもらいたい作品である。不可解な技を操る怪人たちをドン・ディアボロがどのように料理していくのか是非とも堪能してもらいたい。