<内容>
妻を亡くし、酒浸りになった演劇プロデューサーのピーター・ダルースは治療のため精神科の療養所に入院していた。そこでダルースは「殺人が起こる」という幻聴を聞く。頭がおかしくなったのかと思いきや、その幻聴を聞いたのは彼だけではなかった。そして療養所で本当に殺人事件が起こることに。いったい誰が何のために? ダルースは医者の目を盗み、精神科の患者たちの間をぬって、真相を探ろうとするのだが・・・・・・
<感想>
パズル・シリーズと銘打たれているものの最初の作品。かつて「別冊宝石」の誌上にて「癲狂院殺人事件」のタイトルで紹介されたことがある。
精神科の療養所で起こる事件ということで、非常に不可思議な状況の中での捜査となる。主人公はアルコールの治療ということで重症患者ではないものの、他の者達はそれぞれ重い病を抱えた状態。ゆえに、それぞれの証言が重要視されるはずもなく、頼みとなる診療所の医師や介護士に訴えかけたところで、どこまで信じてもらえるかが微妙という状況。
物語が進む中で、何者かが何らかの目的で療養所内をかき乱しているということは理解できる。また、とある人物の遺産を巡って、事件が動いているのだろうということもなんとなくわかる。ただし、それ以外は五里霧中。
巡り巡って真相が明らかにされるものの、推理によって“これだ!”というような決定的なものは指摘されなかったような気がする。よって、犯人に意外性はあるものの、それだけという感じもしなくはない。ただし、療養所を舞台とした不可思議な状況下のなかで起こる犯罪の様子がうまく描かれており、雰囲気としては実に味のあるミステリ作品となっている。
今後もこのパズル・シリーズが訳されていくようなので(既に扶桑社や論創社などから訳されている作品もある)、その最初の作品として読んでおく価値はあるのではなかろうか。以降の作品でも、本書で主人公を務めるピーター・ダルースが登場しているようなので、この作品から読み始めるのが最適であろう。
<内容>
神経を患っていたピーター・ダルースであったが、そこで出会った女優のアイリスと共に治療を終え病院から退院する。そして、ダルースは演劇プロデューサーとしての手腕を発揮し、新たな舞台「洪水」という劇を公開しようとする。そこで古びた劇場に集められた俳優、女優、舞台関係者たち。しかし、そのうちのひとりがこの劇場には不吉なものが潜んでいると言いだす。そして実際に死者が出たことにより、劇団は混乱していく。なんとか劇団をまとめあげ舞台を成功させようとするダルースであったが、次々と起こるさまざまな事件。ダルースはレンツ博士やアイリスとともに、この困難を乗り越えることができるのか!?
<感想>
本格ミステリ作品というよりは、ドタバタ・サスペンス・ミステリという感じがした。ただし、単なるドタバタ劇に終始しているわけではなく、“演劇”という世界に力を入れて書き上げられており、その舞台の設定自体がきっちりとしているので、締まった内容と捉えられる。
本書では舞台劇の公演練習を通しつつ、そこで起こるさまざまな事件が扱われている。人が死亡するという事件のみならず、愛憎のもつれや、脅迫者とその被害者の関係、さらには過去に起きた事件がもたらす悲劇と。こういったさまざまな要素が取り扱われ、実は全体的な事件が一貫した犯人の手の者だけではなく、複数の手がはいることによりややこしいものとなっている。
と言いつつも、じゃあ事件が全て適当な感じで終わってしまうのかというと、そんなことはなく、最終的にきっちりと収められているのである。この作品の凄さを感じられるところは、このようなドタバタ・ミステリになっていながらも、きちんとした犯人に対する回答が与えられ、かつ全体的に綺麗にまとめられているところである。決して、本格ミステリらしいまとめかたではなく、ドタバタの連続でカーテンコールへと突き進んでいのだが、振り返ってみれば実はそれぞれの伏線がきちんと回収されているのである。これは確かにパズル・シリーズの最高傑作と言われるに恥じない作品である。
<内容>
戦争により海軍に従事していたピーター・ダルースであったが、休暇により一時帰国することに。妻のアイリスとゆっくりと休暇を過ごすつもりであったが、宿屋の手配をしたときに、とある人物に宿をゆずってもらったことにより、事件の渦中へと巻き込まれることとなる。ダルースは軍服を盗まれ、さらにアイリスの従姉妹であるユーラリアに会おうとすると、殺害された彼女を発見する。この状況では、ダルースが容疑者として警察につかまり、せっかくの休暇が台無しとなってしまう。ダルースとアイリスは私立探偵ハッチの力を借り、事件を解決しようとするのであったが・・・・・・
<感想>
人形パズルというよりは“操り人形パズル”というほうがふさわしい。まぁ、原題はそのようになっているのだが。
今作では、ダルース夫妻が不可解な連続殺人に巻き込まれてゆく。なんとなく、その様相を見ていると、クレイグ・ライスのマローン弁護士シリーズを思い浮かべる。ただ、そのマローン弁護士役のものがでてこないなと思っていたら、とある酔っ払いが意外な役を務めることとなる。
本格ミステリというよりは、ユーモア・サスペンスという感じ。ただし、単なるユーモア作品にとどまらず、犯人側がダルースに仕掛ける狡猾な罠が際立っている。と言いつつも、登場人物が少ないことにより、結末がある程度読めてしまうところが物足りない。
本書は、戦争中の争乱の時期が舞台となっている。あとがきを読むと、この作品が戦時中小説としてのさまざまな痕跡を残していることを知ることができる。そうした時代に書かれた作品ということを知ると、本書に対してもまた違った味わいが生まれることとなる。実は、色々な意味で貴重な小説といえるのかもしれない。
<内容>
海軍大尉のダルースとその妻で有名女優のアイリス。二人は世間の喧騒をさけようと大富豪ロレーヌからの誘いにより邸宅へと行ったものの、そこで思いもかけないトラブルに巻き込まれるはめになる。ロレーヌは屋敷に客として来ていた三人の女性が離婚の危機にあることを知り、その三人の夫を屋敷に招いてしまったのである。当然のごとく、険悪な雰囲気が立ちこむ中、その中の一人が突如死亡する。これは事件なのか、事故なのか? 決め手がつかめぬまま、次々に起こる事件事故。ダルース夫妻は事件の裏に潜む謎を解こうとするのであるが・・・・・・
<感想>
事故か殺人か判断がつかないような事件が起こり続けるという作品。もちろん単なる事故とみなされないのは被害を受けたものに対して、恨みをもった者が存在するからに他ならない。そんなあいまいな状況の中、話が進んで行くものの、主人公夫婦だけは最初からこれを殺人事件とみなして、密かに捜査を進めていく。
これがもっと閉鎖された中で起きる連続事故であるならばともかく、場面が次々と変わったり、かなりオープンな場所で事件が起こったりするので、本格推理小説というよりは、サスペンス・ミステリーという趣が強い作品と感じられる。
しかし、最終的な結末としてはかなりきれいにまとめられているので、本格の香りが漂う作品という見方も充分できるものとなっている。
一応、作中にさまざまな伏線が張られていて、犯人特定の決め手として処理はされているものの、実際に読者が犯人を特定するような内容の小説というようには感じられなかった。というのも、犯人の動機や、そこにいたる事実は後半に明かされるものとなっているので、初めから犯人を予想するというのは難しいのではないかと思われる。
ただし、犯人が特定されてからは、物語の整合性といい、それぞれの事件に対する関わりあい方といい、一貫性を持った内容としてうまくまとめられているころがわかり、思わず感心させられてしまう。
本書は昨年、そこそこ話題になった作品なのであるが、確かに噂にたがわぬ内容であった。これは是非とも、このシリーズ作品の復刊と未訳作品の出版を引き続き期待したいところである。
<内容>
目が覚めたとき、男は見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。男は自分が誰で、ここがどこであるか思い出すことができなかった。そんな彼を献身的に介護する女から、あなたは私の息子で名前はゴーディであると告げられる。さらに彼は、美人の妻と少しひねくれた妹らと会うことになるのだが、一行に彼らのことを思い出すことができなかった。次第に彼は、自分が何らかの陰謀に巻き込まれていると疑い始めるのだが・・・・・・
<感想>
記憶喪失の主人公と、明らかにその状態を利用しようとする者たちとの悪意あるゲームの模様が描かれた作品。内容としてはありがちな気がしなくもないのだが、心理サスペンスとしてそれなりに楽しむことができた。
なんとなく都合のよい状況がそろいすぎている気もするのだが、先の展開が読めず、これからどうなるのかと気になってしょうがなかった。物語は1対1のゲームではなく、記憶喪失の主人公と資産家のフレンド家の面々との対決が描かれている。資産家といっても亡くなった当主の残した遺産に頼る者たちゆえに、それぞれがどこか危うい。しかもフレンド家の人々が決して一筋縄ではなく、互いに反目し合っているというところが話を複雑にしている。
結局のところ主人公は騙されているようでありながらも、どこまでが嘘でどこまでが本当なのかが全くわからないという状況。何しろ自身の身の上がわからないというのが一番危ういところなので、周囲に反目しつつも、ある程度は周囲の言うことを聞かなければ自身が成り立たないというもどかしさ。こういった状況の中で物語は佳境を迎えることとなる。
期待以上の大きな何かが待ち受けているということはないものの、どのような終わり方をするのかは全く予想だにすることはできないであろう。個人的にはプロローグの話をもう少し広げてもよかったような気がしたのだが。
<内容>
従軍により精神を病んだダルースは、妻アイリスと諍いが絶えなくなり、別居することにした。ダルースの調子自体はよくなったものの、アイリスには新しい恋人ができ、その恋人と結婚したいということで離婚を迫られることとなる。ただ、アイリスの恋人のマーティンも既婚者であり、彼の妻サリーは離婚する気がまったくなかった。ダルースは彼らと会い、話をするうちにマーティンの妹のマリエッタに惹かれていく。そうしたなか、事故か? 殺人か? サリーが死亡してしまうこととなり・・・・・・
<感想>
シンプルなミステリとなっているが、なかなか面白かった。うまくできたサスペンス・ミステリと言えよう。ただ、序盤の100ページくらいまでは、読み進めるのがつらかったかなと。
人間関係相関図は非常にややこしくなっているものの、登場する人物が少ないので十分に整理はできる。そうしたややこしい人間関係のなかで事件が起こることにより、誰が犯人であってもおかしくないという状況。そして悪漢私立探偵がさらに物語をかき回していく。
このような事件であれば、納得のいく解釈が難しいのではと思われたが、最後に回答が示されると、それが実にうまくはまるものとなっている。単純そうな事件ゆえに、解決を付けるのが難しそうなものをうまくまとめたなと。円熟した大人のサスペンス・ミステリという感じ。
<内容>
様々な事件を通して、妻アイリスとの仲が危ぶまれたが、なんとか離婚の危機を逃れることができたピーター・ダルース。妻と離れてメキシコの観光地で過ごす中、ダルースはデボラ・ブランドという女学生と出会う。彼女は何かを隠しているようでありつつ、何者かに追われているようでもあった。ダルースに対する態度もよそよそしく感じられる中、デボラは事故にあい、死亡してしまう。ただ、そのデボラの死を事故ではないと疑うダルースに対し、執拗に何者かの手が、今度はダルースを狙い始める。ダルースを狙う者は、デボラが彼に何かを渡したのではないかと考えているようなのだが。そうしたなか、ダルースはメキシコシティで、ヴェラ・ガルシアという美女と遭遇することとなり・・・・・・
<感想>
今作はサスペンス・ミステリというか、スパイ小説のようにさえ感じさせられるような内容。ピーター・ダルースと周囲の者たちとの探り合いと騙し合いが繰り広げられる。
出会った女学生の死により、わけのわからない陰謀に巻き込まれるピーター・ダルース。そのとき一緒に居た、スヌード夫人、アメリカ人観光客のハリディ、そして新婚カップル。その後も、ダルースは、偶然(?)にも、彼らと出会うこととなり、徐々にその再開した彼らのことを疑うようになってゆく。度々、何者かに襲われ、付け狙われるダルースは疑心暗鬼にかられるなか、事件の真相を探り出そうと奔走する。
離婚の危機を逃れつつといいながらも、いたるところで美女に気を惹かれることとなるピーター・ダルース。しかも、勝手に気を惹かれながらも、その美女らに対して、疑心暗鬼になるというどうにもならない状況。とはいえ、それはそれでダルースらしいというか、これこそピーター・ダルース・シリーズの醍醐味だという事なのであろう。
論理的にどうこうとか、伏線がどうだとかいうような内容ではなく、最後までノンストップで進み続けるサスペンス小説。最後の最後までダルースと共に、息のつく暇がなく、誰が敵か味方かわからないという状況のなか、思いもよらぬどんでん返しからの終幕が待ち受ける。
今までのパズル・シリーズとは、だいぶ趣が異なるものの、これはこれで楽しめる作風であり、作品である。むしろ、ダルースがもっとだらしがないダメ男でもよかったのではないかと思ってしまった。
<内容>
演劇プロデューサーのピーター・ダルースは、妻のアイリスが母親の静養に付き添うため留守にしているなか、ひとり寂しさを感じていた。そんななか、知り合った作家志望の娘、ナニー・オードウェイ。自信なさげな彼女を見て、ダルースは支援の手を差し伸べようとする。自分が留守の時、自由に家を使って執筆活動に利用してくれと、家の鍵まで渡してしまう。それが思いもよらぬ災厄を迎えることとなるとも知らずに・・・・・・
<感想>
クェンティンによるパズルシリーズ以後の作品。ただし、本書の主人公は引き続きピーター・ダルースが務める。最初から中盤くらいまでは、不倫めいた事象から起きた災難を描いたのみの内容。気の毒に思いつつも、ある種時効自得のようにも感じられるので、決して同情はできない。単なる痴情のもつれを描いた作品のように感じられ、前半は全く内容を楽しむことができなかった。
ただ、中盤くらいからは異なる様相を見せることに。突如、ダルースが使命感に燃え、自身を取り戻し、身の潔白を証明しようと奔走することとなる。ここからは、探偵小説的な展開が始まることに。ダルースが事件の真相を見出そうと行動するようになってからは、一気に作品に対する見方も変わり、面白く読むことができた。ただ、探偵小説的な展開となると、登場人物が少ないためにだいたい先が見通せてしまうのが、欠点と言えば欠点(これは「人形パズル」のときも同様であった)。
とはいえ、最後まで読み通せば、十分に惹き込まれてしまったと言えるので、本書はよくできた作品と言えよう。この作品から登場した癖のあるトラント警部補というのも魅力的。今後の作品ではこのトラントが活躍するようなので、他の作品も復刊されることを願いたい。
<内容>
若き経営者アンドリュー・ジョーダンは美しい妻モリーンを熱愛していた。しかし、そのモリーンを中傷する匿名の手紙が届いたことにより、アンドリューは妻のさまざまな言動に疑いを持ち始める。アンドリューには手のかかる弟・ネッドがおり、始終彼はネッドの尻拭いをしていた。そうしたなか、アンドリューがネッドとモリーンの仲を疑い始めたとき、モリーンが何者かに殺害されることとなり・・・・・・
<感想>
クェンティンによるサスペンス・ミステリ小説。読み始めた時は、ありがちな内容だと思われたのだが・・・・・・
最初は、単なるまぬけな兄弟の話だと感じてしまった。妻の行動に疑いを持ち始めるアンドリュー。自由奔放でアンドリューを振り回す弟のネッド。いつしか、アンドリューは妻がネッドと不倫をしているのではないかと疑い始める。アンドリューが妻にさまざまな疑惑を持ち始めたとき、家に帰ってくると、そこには射殺体となった妻が・・・・・・。そして警察はアンドリューを重要容疑者として疑い始めることに。
なんとなく行き着く先が読めるような展開。そうしてアンドリューとネッドの仲が微妙になってくるのかと思いきや、そこから徐々に思いもよらぬ展開が続いていくことに。実はネッド以外にも容疑者となるべき人間がいて、次から次へと疑うべき人間が浮上し始める。しかもそれが当の死体となった妻の生前の行動によるものであり、徐々にタイトルの“悪女”という言葉が重みを持ち始める。
後半はどんでん返しというか、急展開の連続が続き、飽きさせない内容となっている。しかも結末は全く予想だにしなかったようなものが待ち受けている。決して“本格”というわけではないのだが、ミステリとしていい味を出している作品に仕上がっていると読了後に気づかされる。単なるサスペンス・ミステリというには収まりきらない内容の作品。
<内容>
グリンドル盆地にて奇怪な事件が次々と発生した。最初は家畜やペットが消えたり、惨殺されたりという事件が起き、やがては少女の失踪事件へと発展していった。そしてさらに事件は連続殺人事件へと・・・・・・グリンドルを襲った猟奇事件、真相はいったい??
<感想>
パトリック・クェンティンがQ・パトリック名義で出版した12作品のうちのひとつ。本書はミステリ作品でありながらも、サイコホラーとしても楽しめるような内容となっている。
村の中で奇怪な事件が次々と起こる。動物が殺害されたり、少女が失踪したり、そしてやがては殺人事件へと発展してゆく。本書が恐ろしく感じられるのは、犯人の動機が全く見えてこないところ。犯行の目的というものが見えてこず、犯人による無差別な殺人が繰り返されているようにさえ感じられる。その犯人像はいったいどのような人物であるのか、ということこそ本書の大きな目玉といえよう。
また、もうひとつの注目点としては登場人物らが疑心暗鬼となり、それぞれが互いを疑い始めることとなるのである。そのとき彼らが何を持って、互いを疑い始めたこととなったのかというのも、隠れた焦点といってよいかもしれない。
本書において批判的に感じられたのは、解決における部分でやたらと病理的な解釈が多かった点。これは時代性があるので仕方のないことかもしれないが、現代においては少々受け入れがたい考え方のように思える。ただし、現代であっても“社会”病理的というような解釈でとらえられてお終いという気がするので、よくよく考えれば今も昔もそう変わらないのかもしれない。なかなか表現というものは難しいものである(特に時代を超えた場合には)と痛切に感じられた。
<内容>
狩猟クラブの仲間たちと狩猟を行っている祭、禁猟区に入ってしまったものの、そのまま猟を続ける面々。すると彼らは、狐の巣穴から頭部のない女性の死体を発見する。その死体の主は、猟を禁じていた土地の持ち主で地元の鼻つまみ者でもあるイライアス・グリムショーの娘アンであると特定される。アンは生前悩み事を抱えていたようであるが、誰が彼女を殺害する必要があったというのか? さらに事件は続き、狩猟クラブの一員の大事な馬が殺され、さらなる犠牲者までもが・・・・・・。いったいこの事件の裏には何が潜んでいるというのか? 医師であるヒュー・ウェストレイクはコブ警視を助け、共に事件の謎を解こうとするのであるが・・・・・・
<感想>
パトリック・クェンティンによるジョナサン・スタッグ名義の作品。スタッグ名義の作品は全てドクター・ウェストレイクが主人公となるシリーズのようで、本書がシリーズ初訳となるようである。よって、この「犬はまだ吠えている」がシリーズ第1作である。
この作品を見る限りでは、本格ミステリというよりも、サスペンス・ミステリという作調のよう。医師と娘の家族を描いた作品でもありながら、ホラー・サスペンスに近いような暗くおどろおどろしい雰囲気も感じ取れる。
本書では、狩猟クラブの面々が頭部がない死体を発見するというショッキングな場面から幕をあける。その前兆として、猟犬が夜にやたらと吠えつづけていたというところがタイトルの所以でもある。その後、事件が立て続けに起き、前半はスピーディーな展開で進み、読むものを飽きさせない。後半に入っても、登場人物らがそれぞれ不穏な動きを見せつけ、最後の最後まで予断を許さない内容となっている。
最終的には、トリックとか、謎解きとかそういうものではなく、動機の意外さが目をひくものとなっている。ただ、それらが推理で連想されるものではなく、最後に明らかにされる事実によって真相にたどりつけるというもの。とはいえ、それでも意外性と整合性は、それなりのものであったと感じ入ることができた。
この作品を読んだ限りではシリーズものという感じがしなかったのだが(何せ、村の面々が1作目にして色々な目にあっているので)、それでも9作も出ているというのだから大したもの。詳しい解説があとがきにそれぞれ書かれていて、面白そうなものもあれば、期待外れというものもあるよう。それでも今後何作かは訳されることになるであろうから、当分クェンティンの作品に困ることはなさそうである。