<内容>
映画の脚本として書かれた作品をエラリー・クイーン自らの手によって小説化し、書き直された2編。
「消えた死体」(1941)
富豪である“健康の家”に住む主人ジョン・ブラウンが殺害された。健康を押し売りする商売をしていたゆえにブラウンは自分の健康に自信を持っていたのだが、医者から末期癌を宣告された。元々周囲の者に不信感を持つブラウンは遺言を書き替えようとしたのだが、その矢先死体として発見されることとなる。さらには、警察がその死体を検視しようとすると、死体が消え失せることとなり・・・・・・。作家探偵エラリー・クイーンと作家志望のニッキー・ポーターが活躍する事件。
「ペントハウスの謎」(1941)
新しい事務所に秘書となったニッキーと共に移ってきたエラリー・クイーンであったが、そこに新たな事件が舞い込んでくる。ニッキーの親友であるシーラ・コップの父親が失踪したというのだ。ゴードン・コップは腹話術師をしており、中国から帰って来て高価なペントハウスに居を落ち着けたとたんに、姿が見えなくなったのである。事件を調べていくと、そこには高価な宝石の密輸にかかわる犯罪が浮き彫りとなっていき・・・・・・
<感想>
エラリー・クイーンの中編集であり、本人が書いたにも関わらず、映画化された作品のノベルズ化ということからか、正典としては扱われていない作品のようだ。この「消えた死体」ではニッキー・ポーターとの出会いが描かれているものの、正典の流れとしては「靴に住む老婆」での出会いのほうがニッキー初登場という扱いとなっているようである。
「消えた死体」は殺害の謎と、何故死体が持ち去られるのか、という二つの謎を扱ったもの。内容はしっかりしているのだが、やや長過ぎという感じがした。分量的には短篇というくらいで充分であろう。“何故死体が持ち去られるのか”という謎については、単純ながらもよく考えられていると感心させられる。クイーンらしい作品。
「ペントハウスの謎」のほうは、ハヤカワ文庫の「大富豪殺人事件」にも併録されていたようである。全然覚えていなかった。それもそのはず、本格ミステリというよりも、スパイ・サスペンスというような内容。映画にふさわしい、エンターテイメント的作品ということか。
<内容>
「<生き残りクラブ>の冒険」(1940:ラジオドラマの小説化)
指定された年に生きていた者に財産が等分に分配されるという<生き残りクラブ>。その財産を巡ってか、クラブの会員を狙った殺人事件が勃発し・・・・・・
「殺された百万長者の冒険」(1941:ラジオドラマの小説化)
家族に殺害されることを恐れる富豪が実際に殺害された。現場に残されたあるものからエラリー・クイーンは犯人の正体を推理する。
「完全犯罪」(1941:映画作品の小説化)
叔父を拳銃により殺害したという容疑がジョン・マシューズにかけられた。現場の状況からジョン以外に犯行を行うことの出来た者はいないと思われる状況。彼は本当に殺人を犯したのか、それとも他の誰かが・・・・・・
<感想>
「<生き残りクラブ>の冒険」と「殺された百万長者の冒険」は、どちらもちょっとした点からエラリーが推理をし、犯人を当てるという内容。ただ、その推理がどちらもアメリカの地域的な慣習とでもいうようなもので、日本人にはわかりにくい。
「完全犯罪」のほうは映画化された作品の小説化ということもあり、視覚的に凝った内容とも言える。こちらはミステリ作品として、良くできていると言ってよいであろう。犯行方法だけでなく、真犯人が何故犯罪を起こすことになったのかという経緯も実にうまくできている。
<内容>
「大富豪殺人事件」(1942)
エラリイ・クイーンは大富豪から奇妙な依頼を受ける。それは、娘と結婚しようとしているオペラ歌手が財産を手に入れるために、彼の命を狙っているというのである。富豪はクイーンにその証拠を見つけてほしいというのだ。その事件とも取れない出来事であるが、一抹の不信感を抱いたエラリイ。一応、依頼の内容を調べてみようとするのであったが、なんと実際に富豪が殺害されてしまうことに!
「ペントハウスの謎」(1941)
エラリイは秘書のニッキー・ポーターから友人が困っているので力を貸してほしいと頼まれる。なんでも、そのニッキーの友人の父親が中国から帰ってきたはずなのに、姿を見せないのだという。さっそくエラリイが事件を調べてみると、その背後に大きな犯罪組織の存在が浮かび上がり・・・・・・
<感想>
この「大富豪殺人事件」というタイトルはエラリイ・クイーンの作品一覧には掲載されていない。どうやらここに掲載されている2作品はラジオドラマを書き下ろした作品というもののようである。さらに付け加えてしまえば、これらは本当にクイーンによる作品かと疑いたくなるような内容でもある。
「大富豪殺人事件」に関しては、あくまでもクイーン風という感じの作品に仕上がっている。探偵小説らしく、それらしいことが繰り広げられているものの、どこかいまひとつという印象しか残らない。ただ、それでもなんとなくクイーン的な雰囲気が楽しめないこともないので、一読しても損はないかもしれない。
「大富豪」よりもこちらの「ペントハウスの謎」のほうが多くのページを使って書かれている。ただ、こちらは推理小説というよりはスパイ小説というような内容。また、事件の中で語られる謎についても、一目瞭然のものであり、なんでそれを見落とすかな・・・・・・ということを平気でやっている。よって、こちらはクイーン作品のなかでも悪い意味で異色中の異色といえるかもしれない。
<内容>
舞台は1915年、アメリカの小さな町。眼鏡をかけた10歳の少年ダニーは腕っぷしは弱いが、頭のよいごく普通の男の子。待ちに待った夏休みに起こるさまざまな日常の数々。それをダニーは冒険に変え、どんな困難にも知恵を使って乗り切ってゆく。そして、ダニーはその冒険で少しずつお金をためてゆくことを喜びとし・・・・・
エラリー・クイーンの半身フレデリック・ダネイが描いた少年小説。
<感想>
アメリカの小さな町に住む、10歳の少年の夏休みを描いた作品。ということで、子どもでも楽しめる本という気がするのだが・・・・・・どちらかといえば大人が読んで楽しむ本ではないかと思える。さらに言ってしまうと、実は大人は自分の子どもには読ませたくない部類の本なのではないだろうか。
というのも、本書の主人公の少年ダニーはやたらとお金にがめつい。お金にがめついというよりは、この本の主題自体がダニー少年がどのようにトンチを利かしてお金をもうけるかということを描いた作品ともとれるのである。故に、本書は少年小説ながらも、その少年小説をお金もうけという観点を用いて描いた作品ゆえにあまり子どもには読ませたくないと感じる親もいるのではないかと思われる。
とはいえ、そういったことを関係なくして、純粋に本を楽しむと言う観点であればなかなか楽しめる本ではある。主人公ダニーが少年ならではの勇気、弱気、友情、知恵、そしてしたたかさをあわせ持ち、さまざまな難題を解決していく様は読んでいて面白い。ただ世間一般の風習が違うので日本人が読むよりも、アメリカ人が読んだほうが共感をおぼえるような内容であろうと思われる。
また、本書がフレデリック・ダネイが書いた作品と言うのも注目すべき点であろう(そうでなければ本書を手に取るということはなかったであろう)。この作品だけを読んでもその中身からエラリー・クイーンというものを感じ取るのは難しいと思えるのだが、巻末にて、この本の内容からクイーンに関する深読みをした解説が書かれている。こちらはクイーン・ファンにとっては必見と言えるだろう。
たまには子供の頃に読んだ少年小説を読みたいという人や、クイーン・ファンにとっては一読の価値のある本と言えよう。
<内容>
ギャングの大物バーニー・ストリートは元のバーニーの片腕であったスティーブにミーロ・ハーハというチェコスロバキア人を探してほしいと依頼した。ハーハという男とバーニーは戦友であり、バーニーは彼に200万ドルの遺産を遺したいというのである。スティーブは弟のアンディを連れてミーロ・ハーハの行方を追うことに。しかし、一方のバーニーは他人に遺産が渡るのをよしとしない者の手によって殺害されてしまい・・・・・・
<感想>
エラリー・クイーンの作品の中にクイーン以外の作家が書いた作品があるということは有名である。本書もそのひとつなのであるが、なぜかクイーンの作品リストの中には掲載されていないといういわく付きの本。さらには本書には解説も載っていないという微妙な扱いの本である。なんでもペーパー・バック・オリジナルということで出版されたシリーズのようなのであるが、何故クイーンの名前を借りなければならなかったのかが不思議なところである。同じシリーズ作品の中で日本で訳されたものは「青の殺人」(原書房)というエドワード・D・ホックが書いたものが存在する。
で、本書はというと人探しの小説がいつのまにやらスパイ小説になってしまっているという摩訶不思議な内容の本である。その内容も理解しがたく、どの登場人物に焦点を当てたらいいのか、誰が何をしようとしたかったのかが読み取りにくく、結局のところ何がなんだかわからないという小説であった。
パッと本書を読んだ限りでは、内容が気に入らないからクリーンの作品リストに載せなかったのかなと思えてしまうそんな本である。
<内容>
エラリー・クイーンの国際事件簿
第一話 〜 第二十話
私の好きな犯罪実話
第一話 テイラー事件
第二話 あるドン・ファンの死
事件の中の女
第一話 〜 第十九話
<感想>
エラリー・クイーンが実在の事件を元に描いた短編作品集。ほとんどの作品が10ページ前後なので、短編というよりはショートショートと言ってもよさそうな分量。
最初は、想像上の作品なのかと思ったのだが、2作品目に挙げられていたのが日本の“帝銀事件”であったので、これは実在の事件を取り上げたものなのではないかと。実在の事件や、伝聞で聞いた話を元に書き上げた作品という感じ。それを小説上の主人公であるエラリー・クイーンが調査をして記事に書いたというような構成に仕上げられている。
興味深かったのはヴァン・ダインの「ベンスン殺人事件」の元となった“テイラー事件”。「ベンスン」に元となる事件があったのかと驚かされる(ひょっとしたらどこかで読んだが、すっかり忘れている可能性あり)。これだけでも十分に興味深いともいえよう。
ただ、資料としては面白いが、ひとつの作品としてはさほど魅力はなかったかなと。内容についても、ネタが尽きてきたのか、民族的な話から神話の話まで、とんでもないところまで話が飛んでいたような。日本では2005年に出版されたものの、全然話題にならなかったなと思いきや、こういった作品集であったのかと読んでからようやく気づかされた。
<内容>
4組の近所同士で行われたホームパーティ。実はその4組の中には、過去に付き合っていたものがいたり、現在も進行中の者がいるなど複雑な様相。そんなときに、特に周囲に色気を振りまいていたライラ・コナーが殺害されるという事件が起きる。その夫は、職場で死を遂げており、妻を殺害したのちに自殺したと考えられた。しかし、彼らの友人で会ったライラ・ハウエルはその死の状況をおかしいと思い、マスターズ警部に相談する。マスターズは容疑者に目を付けるのだが、その容疑者にはアリバイがあり・・・・・・
<感想>
エラリー・クイーン外典コレクション、3冊目。1冊目は密室、2冊目はクローズドサークル、そしてこの3冊目はアリバイ崩しである。このように紹介すると、本書が一番ミステリとして薄めと思われるかもしれないが、個人的には3冊のなかでミステリ濃度としては一番高い作品であったと感じられた。何故ならば、前2冊はミステリ的に面白いと思いつつも、余分な描写が多かったと感じられたからである。それに対して、この「熱く冷たいアリバイ」は、余計な描写が少なく全編にわたってミステリが堪能できる作品となっている。
と、言いつつもアリバイ崩しゆえに、犯人らしきものは後半である程度特定されてしまうことで、人によっては好き嫌いがでてしまうかもしれない。それでも、最後はうまくまとめているので、読み終えればなかなかのものだと感心させられること間違いなし。ミステリの出来としては平凡かもしれないが、サスペンス風の作調をうまく生かしたアリバイものとしてきちんとできている作品と言えよう。
<内容>
小学校教師アン・ネルソンの元に久々に母親が訪ねてきた。別れた父親が別の女性と結婚し、その女性が死亡したために多額の遺産を手にしたという。母は父から、ある程度の金額をもらうつもりだと言い置いて去っていった。その2か月後、父親が自殺をしたという知らせが警察から報じられる。しかも母親は行方知れずで連絡がとれないと。アンは父が亡くなった時に住んでいた家に初めて訪れる。そこで亡くなったときのことを知らされるのだが、閉ざされた部屋でのできごとで、警察は自殺だと断定する。アンは父親は自殺するような人間ではないと感じ、生前の父の状況を調べようとするのであるが・・・・・・
<感想>
エラリー・クイーン外典コレクションの1冊目。これはペーパーバック・オリジナルとしてクイーン以外の作家が代筆し、クイーン名義で出版された作品。全部で29冊出ているとのこと。すでに日本で訳されているのは「二百万ドルの死者」と「青の殺人」。この後も原書房から外典コレクションとしてあと2冊出版する予定。
父親の自殺事件に隠された謎を遺産を残された娘が調べてゆくという話。密室にて銃により死亡していたことにより(拳銃は室内に残されていた)、警察は自殺と断定。娘は“父親が自殺をするはずがない”という心情的な一点のみに頼っての捜査となる。
事件がほぼそのひとつのみなので、ミステリとしての濃度がやや薄いかなと感じてしまう。さらには、密室の捜査や事件についての言及よりも父親の遺産や結婚にかかわる背景ばかりが語られてゆくこととなるので、そこも物足りないと思えた要因。
ただ、真犯人を特定するための“証拠”に関わる一点についてはミステリとして光るものがある。絨毯に残された不可解なタンスの足の跡から密室の謎を解いていくという展開は見事。そこ以外のところも、もっとミステリとして力を入れてもらえれば・・・・・・といいたいところだが、これ以上すごければもっと昔に発表されていたであろう。
<内容>
高層ビルの会計士事務所で、突如発見された銃殺死体。その死体が発見された直後、ニューヨークを大停電が襲うことに。たまたま近く位に居合わせた隻眼のティム・コリンズ警部と友人で私立探偵のチャック・ベア。コリンズは本部の要請により死体発見現場へと出向くことに。ビルのエレベーターが止まっており、階段で上った先で彼らを待っていたのは、停電でビルに残らざるを余儀なくされた同じフロアで働いている面々。コリンズは死体を調べ、これは自殺ではなく他殺であると断定する。そして、ビルに残ったものたちのなかから犯人を捜しあてようとするのであるが・・・・・・
<感想>
エラリー・クイーン外典コレクション、2冊目。こちらはリチャード・デミングによる代筆作。
それなりに良く出来た作品とも思えるのだが、エラリー・クイーン名義というもの自体が色々な意味で足を引っ張っているように感じられてならなかった。この作品、別の人が書いたというものであれば、隻眼の警部と友人の私立探偵が活躍するシリーズ作品としてすんなりと受け入れられたと感じられる。それをエラリー・クイーン名義にしたことにより、わざわざハードルを上げてしまっているように思われる。
舞台は高層ビルの21階。しかも事件が発覚したとたん、ニューヨーク全土を襲う大停電に見舞われ、フロアにいた人はそこから身動きできない状況となる(ただし、厳密には出入りできないというわけでもない)。そういった閉ざされたなかで、探偵役となるコリンズ警部による捜査が始まるというもの。
タイトルの通り、ある種のクローズドサークルものとなっており、なかなか楽しめる内容。ただ、警察の捜査に関しては、ややいい加減で、コリンズ警部はひたすらブロンドの美女に気が散ってならないよう。それでもクローズドサークルという状況については十分楽しめる。
また、途中のいい加減で場当たり的な捜査にも関わらず、最後の最後にはきちんとした謎解きと、しっかりとした真犯人が明らかになることから、ミステリ作品としてもそれなりに良く出来ていると感心せざるを得ない。ただ、この主人公であれば、もっとぶっとんだことをコンビでやってしまえばいいのにと思えたので、そこはエラリー・クイーン名義というものに遠慮したのかなと感じてしまう。
<内容>
二十数年前に自主制作された一本の映画と、その撮影後に姿を消した監督。映画の一般公開を計画したプロデューサーは何者かに殺された。フィルムには何が封印されているのか? そして失踪した監督の正体は・・・・・・
<感想>
エラリー・クイン本人ではなく、エラリー・クイーン名義でエドワード・D・ホックがリーとダネイの監修を経て出版したもの。
内容は、これまで翻訳されなかったことが理解できる“まがいもの”である。はっきりいって、何故これをエラリー・クイン名義で出さねばならないか? と聞きたくなるような内容。別に話の出来が悪いと言いたいわけではないのだが・・・・・・。内容はどうみても、ハードボイルド調。本格とはかけ離れた内容である。まぁ、確かにエラリー・クイン名義でなければ、日本で出版されることもなかったのだろうけども。しかし、クイーンにしても、ホックにしても全く別名義で出したほうが今までの見事な作品群が汚されなくて良かったのではと感じずにはいれらない。
<内容>
【ミッシング・リンク中編】
「動 機」
【クイーン検察局】
「結婚記念日」
「オーストラリアから来たおじさん」
「トナカイの手がかり」
【パズル・クラブ】
「三人の学生」
「仲間はずれ」
「正直な詐欺師」
【エラリー・クイーン最後の事件】
「間違いの悲劇」
<感想>
エラリー・クイーンの単行本未収録作品を集めた作品集。ノン・シリーズ中編の「動機」やエラリー・クイーンが登場する「間違いの悲劇」など、なかなか読みごたえのある内容となっている。
「動機」はその名の通り、ミッシング・リンクを解明し、事件の謎を解くというもの。解かれてみると、極めて明快ながらも、それが解き明かされるまでは五里霧中ともいえる事件。パニック・サスペンス的な味わいもあり、クイーンの作品としては異色とも感じられる。
クイーン検察局の3編は、普通のサスペンス・ミステリ。なんとなく、「結婚記念日」と「オーストラリアから来たおじさん」は、クリスチアナ・ブランドの短編集でも似たような趣向のものがあったような。
パズル・クラブは、その名の通りミステリというよりは、クイズ形式の内容。よって、英語圏での知識がなければ解くことはできない。とはいえ、「三人の学生」のネタなどは応用が利きそうに思える。
「間違いの悲劇」は、きちんとした長編ではなく、未完成長編の概要がダネイの手によって書かれたもの。それをリーが小説化するはずであったが、リーが亡くなってしまったことにより長編にならなかった作品。ただし、概要とはいえ、十分中編作品として読めるような構成にはなっている。大女優の死をめぐる物語であるが、次々と展開されるどんでん返しに魅了されてしまう。長編作品としても読みたかったものの、中編くらいのほうがスピーディーでかえって良かったのでは? とも思わせられる。
<内容>
「ナポレオンの剃刀の冒険」
「<暗雲>号の冒険」
「悪を呼ぶ少年の冒険」
「ショート氏とロング氏の冒険」
「呪われた洞窟の冒険」
「殺された蛾の冒険」
「ブラック・シークレットの冒険」
「三人マクリンの事件」
<感想>
エラリー・クイーンによるラジオドラマ集、ということでさらっと読もうと思っていたのだが、それぞれの作品のレベルの高さに驚かされてしまった。侮りがたしラジオドラマ・・・・・・というよりは、侮りがたしエラリー・クイーンといったところか。アメリカにてラジオで放送された際には熱狂的に迎え入れられたとのことであるが、これならば確かに聞きたくなるような内容である。
作品それぞれが謎解きの要素を踏まえていて、間にきちんと読者への挑戦が挿入されている。短めの作品のなかで一見あっさりと、ただ単に物語が流れておしまいというようにしか思えなかったものが、実はところどころに伏線があり、謎を解くためのポイントが用意されているである。読めば感嘆させられること請け合いのミステリ作品集。これは本格ミステリファンは絶対に読み逃してはならない作品である。
また、さらには本書は“聴取者への挑戦Ⅰ”となっており、続編も出るとのことなのでそちらが出るのも今から楽しみである。
「ナポレオンの剃刀の冒険」
列車の中で殺人事件が起き、宝石が消えうせるという事件。この作品のポイントは宝石の行方。トリックとしては、以外にもありそうでなさそうなものである。これはいかにもラジオドラマらしい作品といえるかもしれない。
「<暗雲>号の冒険」
船の上で殺害された者がダイイングメッセージを残すという事件。そのメッセージ自体はともかくとして、謎を解くためのポイントが心憎い仕掛けによって提示されているところが絶妙といえる作品である。
「悪を呼ぶ少年の冒険」
資産家の女性がなくなり、その甥である少年に嫌疑がかけられるという事件。いかにも粗暴な少年が怪しそうなのだが、その真相は決して単純なものでなく、練りに練られたストーリーの中に真実が隠されている。短いページのなかで濃密な物語を展開している作品。
「ショート氏とロング氏の冒険」
一見、ブラウン神父の「見えない人」のような作品であるが、そこはクイーンなりのアレンジをしたものとなっている。これもやはりラジオドラマならではの作品。
「呪われた洞窟の冒険」
残された足跡が被害者のものだけという不可能犯罪を描いた作品。その足跡の状況、人間関係、立地の面から論理的に犯人が指摘されるのは見事としかいいようがない。
「殺された蛾の冒険」
コテージの中でガスにより男が殺害された事件を、エラリーが部屋の中で死んでいた“蛾”を見つける事によって真相へと到達する作品。これもまた、真相が明かされればなるほどと、うならされてしまう内容。
「ブラック・シークレットの冒険」
作中で、誰が高価な本の贋作を作ったのか? 誰がその贋作を盗んだのか? そして誰が殺したのか? という三つの謎が提示される。一つ目と二つ目は充分推理できるものであるのだが、三つ目はうまい具合に読者を煙にまくものとなっている。
「三人マクリンの事件」
特別編のようなもので短めの作品。三人のなかから誰が殺人を犯したかを推理する作品。コートがポイントとなるものの、ややあっさり目という気がする。日本ではあまりなじみのない習慣のようにも思える。
<内容>
「<生き残りクラブ>の冒険」
「死を招くマーチの冒険」
「ダイヤを二倍にする男の冒険」
「黒衣の女の冒険」
「忘れられた男たちの冒険」
「死せる案山子の冒険」
「姿を消した少女の冒険」
<感想>
前作ラジオドラマ集Ⅰに続いての2作品目。こちらも同様に推理を楽しむことができる内容に仕上げられている。ただし、Ⅰに比べれば出来としてはやや落ちるかなと。
今回集められた作品は、ある種どれも一発ネタというか、あまりひねりはなく、ストレートなミステリ構成と感じられた。とはいえ、きちんとミスリーディングが配置されていたりと、そうかんたんに謎を解くことはできないようになっている。
ただ、そういったなかで謎を解くのにアメリカの慣習を知っていないとわからないというものもあるので、全てがフェアであるとは感じられないところもある。
気に入った作品としてはタイトルにもなっている「死せる案山子の冒険」。血を流す案山子を発見するというショッキングな場面から始まり、その後に被害者が消えうせたりと予想させぬ突飛な展開に目をくらまされるような作品。
他には「ダイヤを二倍にする男の冒険」や「黒衣の女の冒険」など、あたかも不可能犯罪を描いたようでいながら、謎が解かれてみるとこの回答しかない、というところに見事着地し、相変わらず驚かされるばかりであった。
前作に比べるとやや薄味ながらも、こちらも十分に謎解きと登場人物らのコミカルさを楽しむことができる。第1作と合わせて読んでいただきたい。
<内容>
「十二階特急の冒険」
「黄金のこま犬の冒険」
「奇妙なお茶会の冒険」
「慎重な証人の冒険」
「ミステリの女王の冒険」
<感想>
今まで紹介されたラジオ・ドラマ集とはまた違った形で、今度はテレビ・ドラマ集が紹介されることとなった。このテレビ・ドラマは1975年から76年にかけて放映されたもので全部で22本の作品となった模様。ただし、視聴率はそれほど得られず、このワンクールのみで終了となったらしい。この作品ではそれらの中から5本のシナリオが収められている。
テレビ・ドラマのシナリオがほぼそのままの形で収められているので、シーンのカットとか、視点の変更とかが事細かに挿入されているので、最初はやや読みづらかった。しかし、2編目を読むあたりではなれ始め(というか、不要そうな部分は読み飛ばし)、しだいに普通の小説のように読みすすめることができるようになった。
「十二階特急の冒険」はエレベーター内で起こる事件を描いたもの。事件の不可能性と、事件そのものの魅力については、これが一番であった。ただし、解決には“やや難”と思えるところがあったのが残念である。
「黄金のこま犬の冒険」が本書の作品の中ではベストと感じられた。宝石の付いた高価なこま犬を凶器とした理由や、被害者の手に付けられた小さな傷など、伏線やヒントがうまくちりばめられた作品となっている。
「奇妙なお茶会の冒険」はテレビ向きの作品といえるであろう。小説として読んでいる分には、やや伝わりにくかった。また、事件自体が後半まではっきりしなかったというのも難点と言えるであろう。
「慎重な証人の冒険」はクイーンによる「幻の女」とも言えるような作品。また、法廷もののミステリという雰囲気が味わえるところもよい。サスペンス・ミステリとしてうまい具合に仕上げられている。
「ミステリの女王の冒険」は、趣向が凝り過ぎていて、やや伝わりにくかったかなと。順番に複数の解決が示されてゆくという手法はよいと思えるのだが、いくつかはっきりと解決していない事項があったようにも思え、しっくりとこない部分が見られたのが残念。
全体的にはラジオ・ドラマ集と同様、楽しませてくれるミステリ作品として仕上げられている。ただ、せっかく良くできている分、シナリオという形のみではもったいないような気がしてしまい、きちんとした小説として読んでみたいという気持ちにならざるを得ない。
<内容>
「暗闇の弾丸の冒険」
「一本足の男の冒険」
「カインの一族の冒険」
「犯罪コーポレーションの冒険」
「奇妙な泥棒の冒険」
「見えない手がかりの冒険」
「見えない時計の冒険」
「ハネムーンの宿の冒険」
「放火魔の冒険」
「善きサマリア人の冒険」
「殺されることを望んだ男の冒険」
<感想>
ラジオドラマ集第3弾! となる作品であるが、ここに掲載されているのは短めの作品ばかり。前の1作目2作目と比べるとやや見劣りするかなと。
今回の作品はラジオドラマというよりは、書籍として表すことによって、単なる犯人当て作品集となってしまったような感じ。書かれている分量が短いので、どれもがあっさり目の犯人当てクイズとなっている。それでも、毎回レギュラーキャラクターとして、クイーン親子とヴェリー部長刑事、秘書のニッキーの4人が登場しているので、シリーズものとして楽しむことができる。
どの作品も真相がわかりやすいものが多いのだが、表題となっている「犯罪コーポレーションの冒険」については、飛躍した論理が展開され、驚くべき真相が明かされている。いや、むしろそんな荒業でいいのかと思えるくらい。
全体的に、手軽に読むことができるミステリ作品集という感覚で読めるので、ラジオドラマ云々除いても、普通にお薦めできる作品。