Ngaio Marsh  作品別 内容・感想

アレン警部登場   

1934年 出版
2005年04月 論創社 論創海外ミステリ18

<内容>
 新聞記者のナイジェルは従弟のチャールズに誘われ、パーティーに参加することに。そのパーティーではゲームとして“殺人ゲーム”が行われる事となった。そのゲームではひとりの人物が“犯人役”となり、周囲の人々に気づかれないように、“被害者役”を指名し、それ以外の人物は誰が“犯人役”かを当てるというもの。しかし、そのゲームが始まったとき、ひとりの人物が本当に殺害されてしまった!! いったい誰が何の目的で殺人を犯したのか? 事件の謎をアレン警部が解く。
 ナイオ・マーシュの処女作品。

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<感想>
 このナイオ・マーシュはクリスティ、セイヤーズ、アリンガムと並ぶ“ミステリ小説の4女王”と呼ばれているらしい。とはいえ、うろ覚えでは、この“4女王”というのは読む小説によってころころと変わっているような気がする。クリスティ、セイヤーズの二人は不動のような気がするが、後の二人については色々な説がありそうだ。

 本書の著者であるナイオ・マーシュであるが、日本でミステリ界の女王と認められるほどはまだ本が訳されていないし、訳された作品も遠い昔のものが多い。できれば早めに、そのミステリの女王と呼ばれるに相応しい作品が訳されてくれたらと思わずにはいられない。

 出だしは良かったと思う。一癖ある人々が集まった中で催される“殺人ゲーム”。そしてゲームの中で起こる本当の殺人事件と、ここまでは良かったと思うのだが、その跡は話を収束し切れなかったと感じられた。各登場人物相互の思惑、遺産相続、ロシアの秘密結社などなどと、色々な要素を物語の中に持ってきたわりには、それぞれが絡み合っていなく別々のものになってしまっている。これらの要素をうまくひとつに絡み合わせる事ができれば、かなり面白くなったのではないかと考えると残念に思われる。とはいえ、この作品は著者の処女作であるがゆえに、このくらいの完成度でもいたしかたないのかと。


ヴィンテージ・マーダー   

1937年 出版
2005年10月 論創社 論創海外ミステリ28

<内容>
 ロンドン警視庁主任警部のロデリック・アレンは休暇でニュージランドへ来ていた。旅の途中、列車の中でアルフレッド・マイヤーを座長とする劇団の一座と同乗することに。その列車の中で、ひとつの殺人未遂事件と盗難事件が起こる。誰がやったのかわからないまま列車は目的地へとたどり着く。劇団のものたちと面識ができ、彼らの公演を見に行くことになったアレン警部。そして公演が終わった後、主演女優でマイヤーの妻のキャロリンの誕生パーティのさい、見世物として仕掛けられたビンがマイヤーの頭に直撃し、彼は死亡する。ビンに仕掛けをしたのはいったい誰なのか・・・・・・

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<感想>
 久々に海外ミステリで本格らしい作品を読んだという気がした。劇団の一座とその一座の中で起こる殺人事件、そして互いに絡み合う人間関係。さすがに劇中での犯罪とまではいかなかったが、パーティ上で仕掛けられたビンによる殺人というちょっと変わった犯罪が描かれている。

 と、事件の導入まではよかったのだが、そこからは少々退屈気味になってしまっている。ひとつ事件が起きたら、あとは延々と関係者に対する尋問が続くという展開。このへんは良くも悪くも昔のミステリ作品らしいと言えるであろう。

 また、複雑な人間関係と互いに関わる小さな事件についてはよく書き込まれていると思えるが、肝心の中心となる事件の解決については少々決め手に欠けたかなと思わざるをえない。

 とはいえ、昔懐かし本格ミステリの醍醐味を存分に味わえたという気にはさせられる作品であった。


ランプリイ家の殺人      6点

1940年 出版
1996年10月 国書刊行会 世界探偵小説全集17

<内容>
 心はいつも朗らかながら経済観念まるでなしのランプリイ家は、何度目かの深刻な財政危機に瀕していた。頼みは裕福な親戚の侯爵ゲイブリエル伯父だけ。ところがこの侯爵、一家とは正反対の吝嗇で狷介な人物、その奥方は黒魔術に夢中のこれまた一癖ある女性。援助を求めた一家の楽観的希望もむなしく、交渉は決裂、侯爵はフラットをあとにした。ところが数分後、エレベーターの中で侯爵は眼を金串でえぐられた無惨な死体となって発見された。わずかな空白の時間に犯行が可能だったのは誰か? はたしてこの愛すべき一家の中に冷酷非情な殺人者がいるのだろうか?

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<感想>
 外国のホームコメディでも見ているような、殺伐とした事件とは無縁にしか思えないような人達、それがランプリイ家の人々。まさしく“蟻とキリギリス”のキリギリスの一家のような人たちであり、こんな様子で事件なんかが本当に起きるのだろうかとさえ疑ってしまう。と思いきや、そこに財産を巡っての陰惨なる事件が突然と起こるのである。

 どちらかといえば、殺人事件が起きてしまうよりは、そのままランプリイ家の人たちの生活だけを見ていたくなる作品。そちらのほうが楽しめそうである。とはいいつつもミステリーとして成り立っていないのかというと、そんなことはなくラストにいたる事件の解決は完成度が高く納得できるものとなっている。それでも事件が起きてから中盤でのひとりひとりの聞き込みにページを割いているところは少々冗長に感じられる。もうすこしページを絞ってもよかったのかなと思える。

 時代の違いとお国柄の違いなどが当然、今現代の日本で過去の外国作品を読めばあるのだろうが、その当時にイギリスで楽しまれていた作品としてじっくり読んでみるというのもよいことなのかもしれない。


道化の死      6点

1956年 出版
2007年11月 国書刊行会 世界探偵小説全集41

<内容>
 田舎の小さな村の中のみに伝えられる民族舞踊“五人の息子衆のモリスダンス”。この祭りが今年も行われる時期となった。舞踊を行うのは村の鍛冶屋を営んでいるウィリアム・アンダースン老と五人の息子とその他の面々。しかし観衆の前でダンスが披露されている最中、道化役の者が首を切断されているのが発見される! ダンスが行われている最中に誰がどのようにして!?

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<感想>
 国書刊行会、世界探偵小説全集第Ⅳ期、最後の作品となる本書。その最後を飾るにふさわしい、これぞ昔の本格探偵小説という内容。

 村に伝わる民族舞踊の最中に行われる不可解な殺人。いかにも怪しげな妙な振る舞いをする人物。そして村の若い男女が織り成す恋愛模様などなど。いかにも牧歌的でのどかならがも古くから伝わる因習がはびこっているのだが、それでも近代化の波に飲み込まれつつある村の様子が鮮明に描かれている。こうした舞台仕立ては本格ミステリとしての雰囲気を盛り上げるものとなっている。

 そのいかにもというような舞台仕立てのなかで奇怪な殺人事件が起こるのだが・・・・・・うーん、よい雰囲気は出ているのだが、トリックがわかりやすすぎるのではないかなと。よくできている作品だとは思われつつも、あまりにもひねりがなく、ストレートすぎる結末になってしまっている。もう少し、ミスリーディングを誘う要素があってもよかったと思われる(何しろ動機を持つ人物があまりにも少なすぎる)。

 と、ネタがわかりやすいという部分を除けば、古典的探偵小説として面白い作品に仕上がっているといえよう。また、著者のナイオ・マーシュが演劇の分野に関しても力を入れていたという事を知ると、さらに興味が深まることであろう。古き良き探偵小説の一編というべき作品。




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